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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

大好き〜完〜



白い猫を抱きしめながら泣くチャンミンの肩に
ユノがそっと手を置こうとした時だった

ガチャと目の前のドアが開いた


「うわっ!!」

ひょっこりと顔を出したシウミンに
ユノはびっくりして後ずさった

「ひっ!」

チャンミンもびっくりして、思わず抱いていた猫を手放してしまった。

白い猫はぴょんとチャンミンの膝から飛び降りて
シウミンの元へミャーミャーと泣きながらすり寄っていった。



「え?先生?大丈夫なの??」

チャンミンが恐る恐るたずねた

「なにが?」

シウミンは最初驚いた顔をしていたけれど
ユノの姿を見て、怪訝な顔になった。


「いや、あの…猫に戻ったのかと…」

思わずユノがそう言うと、シウミンは更に難しい顔をして呟いた

「チャンミン、まさか…」

「あ……僕……言ってしまったんです」

「ちょっと入って、2人とも」


明らかに不機嫌な声のシウミンは
さっさとクリニックの中に入っていった。


ユノとチャンミンはお互い顔を見合わせたけれど
ユノが頷いたのを合図に2人でクリニックに入っていった。

シウミンのクリニックは見事に中が空っぽだった。
どこかへ引越すのだろうか。


「もう何もなくて悪いね、そこの丸イスに座って」

ユノはそばに重ねられていたイスを2脚取って
並べて座るとチャンミンをしっかり抱き直した。

その姿を見たシウミンは苦笑した。


「何事?しっかり抱き合っちゃって」

「あの…僕…猫だったこと…話してしまって」

「だろうね」

「…俺がかなり無理に聞き出してしまって
チャンミンは…悪くないんだ」


「でも、約束を破ったのはそこの元仔猫ちゃんだね」

シウミンが怒った顔でチャンミンを睨んだ

「あ……」


「何か悪いことが起こるなら、罰せられるなら俺も一緒に!」

ユノはさらにチャンミンを抱きしめる

「なんなら、俺も一緒に猫になるってことはできませんか?!」

「なっ、何言ってるの!ユノ!」

2人を見比べたシウミンがため息をつく


「そんなに簡単に猫になったりできるなら
僕はとっくの昔に猫に戻ってるよ」


「え?」

「それって…どういうこと?」


「ほんとにもう…」

シウミンは頭を掻いている

「だって…人間になる時に…バレたら猫に戻るよって…ユノの言葉がわからない猫になっちゃうって…」

チャンミンも声がうわずる


シウミンがやれやれと言った風に自分も小さな丸イスを
持ってきて座った。

そして、ユノに微笑みながら話しかけた


「この子ね、あなたと話がしたくて人間になりたいって」

「………」


「あなたの事が大好きらしくてね、
あまりにピュアで…こんな話もちかけちゃったんだけど」

思わずチャンミンは下を向いてしまった


「だけど、この子、人間になったらまずここへ来なきゃならなかったのに、すぐあなたのところへ行っちゃって」

ユノはあの転がり込んできたチャンミンを思い出した


「人間として生きて行くために、必要な書類とか身分証明書とか用意していたのに。記憶喪失とか適当に話作り上げちゃって…大事な話もあったんだよ?」

「ごめんなさい…」


「あの…猫に戻るっていうのは…」

ユノがおずおずと聞いた


「だから!そんなに簡単に猫になったり、人間になったりできないよ。もう2度と猫には戻れません」


「えっ?!」

「え?じゃあ…」


「あんな思いして人間になったのに。
簡単に戻れるわけないでしょう?
覚悟して人間になったんじゃないの?」


「そしたら…」


「チャンミン!俺たち…」


「ぬか喜びしないで」

シウミンは2人を睨んだ


「この事が世間に知れたらどうなると思う?」


「え……猫が人間になるって話を?」


「誰も信じないと思うでしょう?
でもね、中には信じるやつもいるんだよ」

「………」

「信じるやつに限って面倒くさいやつが多くてね
学者だったり、科学者だったり」

シウミンはユノをまっすぐに見た

「そういう奴らは何をすると思う?」

思わずユノはチャンミンを抱き直した。

「調べるんだよ、この子の身体を全部。
脳から何からね。頭を割って中に電極を入れられて」

チャンミンも怖くなってユノに抱きついた


「ウソなんてすぐにバレる。身分証明もとりあえず静かに生活するためのもの。専門機関で調べられたらすぐにわかる」


「だから、猫に戻るって戒めで言った?」

もうユノは喉がカラカラになって声も掠れていた。


「そういうこと」


シウミンのその一言にユノは全身からガクガクと力が抜けて、膝から崩れてしまった

「ユノっ!」

チャンミンがユノを助け起こそうとして
その頑丈な肩をつかみ顔を覗き込んだ


「ユノ……」


ユノは泣いていた…その凛々しい顔を安堵の涙で濡らしていた。


「よかった……」


「…ユノ…」

ホロホロとユノはその場に泣き崩れた…


「よかった…ほんとに…」


ユノはうわずった声をあげて
泣き崩れる


シウミンは安心したような笑みを浮かべている

この2人なら大丈夫


「ユノ…」

チャンミンはユノのそんな姿に胸が詰まった

ユノはこんなにも自分を思ってくれてた
全力で僕を守ろうと…気を張ってたんだね…

いろいろ振り回してしまったのは僕なのに


「ユノさん」

シウミンが泣き崩れるユノの肩に手を置いた

「…はい…」


「これだけは覚えていてください
猫が人間になるなんてこと、ほんとに特別なんですよ。
途中で挫折する猫がほとんどなんです」

「挫折って…」

「死んじゃうんですよ…耐えられなくてね」


チャンミンはその時のことを思い出して、ギュッと目をつぶった。


「だけど、ユノさん、この子はあなたに大好きだと伝えたくて、それだけの想いで、信じられないような荊の道を1年もかけて歩いてきたんです。あなたの元へ」

「……はい…」

ユノは自分を支えようとしているチャンミンの手を握った。

「あなたがチャンミンを手放したら
この子はもっと酷い目に合うんですよ、
たとえこの子を嫌いになったとしても、絶対にこの秘密を漏らすことのないように」

「嫌いになんて、なるわけないじゃないですか」

「ユノ…うっ…うっ…」

「その秘密を知ってるからと、チャンミンを脅すような事も…」

「そんな事!するわけないでしょう!」

ユノは握りこぶしを握って立ち上がった

「はいはい…わかってるけど、一応ね?」


「チャンミンは、人間になってからも、俺のことばっかりで…ほんとに…俺を愛してくれて…」

「はいはい」

シウミンは笑って椅子から立ち上がった


「コーヒー淹れるから飲んで行って。
後でもう一回、人間として生活するためにいろいろとやり直しね」

シウミンがキッチンへ入って行った


「ユノ…」

「チャンミン…俺たち…変わらないって」

「そうだって!ユノ!よかった…」

「よかった…ほんとに」

「ごめんね」

「だけど、お前があのチャンミンだって
なんか信じられるから不思議だな」

「だって、本物だから」

「そうか、そうだよな」

ユノはチャンミンの頭をクシャクシャと撫でた

まるで猫をあやすように



シウミンが3人分のコーヒーを持って戻ってきた

「コーヒーのセットだけ残して置いてよかったよ」

「そういえば先生はここを閉鎖してどうするの?」

「ドイツへ行くんだよ」

「ドイツ…ですか?」

「こういうチャンミンみたいな猫が2匹ほど現れたらしくて、手伝いにね」

「そう…なんですか…」

「ま、人間になりたいって、どれほどの覚悟なのか確認してからだけど」

「チャンミンはそれほどの覚悟だったんだな」

ユノは改めてチャンミンを愛おしそうに見つめた。

「それほど愛し合ってるなら、人間でいるのもいいかもね。僕は猫に戻りたいけど。」


「先生はどうして猫から人間に…」

そう聞こうとしたユノをチャンミンが止めた

「それは…ユノ…だめ」

シウミンがコーヒーをすすって少し微笑んだ

「僕は野良猫でね、近所のお婆さんから毎日ご飯をもらって生きていたんだ…」

「……」

「お婆さん、お金がないみたいでね、どうにかしてやれないかと思って…人間になって稼いでやろうって…
だけど死ぬ思いで人間になってみたら、もう亡くなってた」

「あ……」

「気楽な猫に戻りたいよ、この事をバラして猫に戻れるならとっくにバラしてる」

「せっかく人間になったのにですか?」

「それほど人間って寂しくて大変だ。
猫の方が全然いいよ」

「そんなこと…ないです」

チャンミンが呟いた

「少なくとも…僕は…このまま人間でいたいです」

「そんなにいい?人間て」

「ユノと、たとえば今日は寒くなりそうだねとか
ご飯が美味しいねとか…そんななんでもない会話、
それがとっても幸せで」

「チャンミン…」

「それだけでもう何もいらないです」


ユノがチャンミンの手をとって微笑んだ。


シウミンも微笑む。

「それはよかった。
僕も少しはいいことしたのかな、と思えるよ。
この紙袋にこれから人間として生きていくための書類が入ってます。持って行って」


チャンミンが手渡された袋の中を一生懸命確認している。

シウミンは、そんなチャンミンを優しげに見つめるユノに声をかけた。


「ユノさん」

「はい」

「チャンミンを大事にしてやってください。」

「はい、命かけて守ります」

「この子、きっとモテるからね」

「はい?」

「いや、なんでもない
末永く幸せにね」

シウミンは笑った


そうして、ユノとチャンミンは連れ立ってシウミンのクリニックを後にした。

もうチャンミンを抱きかかえなくても大丈夫なはず。
だけど、ユノはしっかりとチャンミンの肩を抱いていた。

ふと見るとさっきの白い猫が、近所のお婆さんから
餌をもらっていた。


それがまるで、かつてのシウミンとお婆さんに見えて
チャンミンは胸が切なくなった


自分もかつて、ユノに拾われ可愛がられ
やっとの思いで人間になった。

言葉が交わすことができると
時には誤解を招いたり、喧嘩をしてしまうかもしれない。

でもやっぱり大好きだと、いつもユノに伝えたい

これからも…ずっと

毎日言おう


アパートには、ユノが切り取ったハート型の新聞紙が
無造作にばらまかれていた

"大好きと伝えたい時は
このハートの上に乗って

大好きだと鳴くんだよ"


2人はそのハートを見て笑った
なんだか照れ臭かった




それからいくつもの季節が過ぎた



ドンへのところにはまた仔猫が増え

風の頼りにスジンは政治家の卵かだれかを
捕まえて結婚したとか

あの猫だった駅員さんはいつのまにかいなくなっていた


ソンジュはオーディションでたくさんの芸能プロダクションの目にとまり、それからしばらくして華々しくデビューした。

ユノはソンジュの振り付けや、ソンジュによって人気がでたダンススタジオの経営に大忙しだった。

チャンミンはそんなユノを相変わらず美味しいご飯と
可愛い笑顔で支えている。


しかし…

ユノにしてみれば、いろいろと面白くない事が続いていた。

チャンミンがあまりに普段ヒマなので
自分の友達を通じて、ギターを習わせていたけれど
見事にこれがチャンミンのツボにハマり、その上達ぶりは凄かった。

今は個人で生徒を持ってレッスンをしているほどだ。

ユノはいつも急いで帰ってくる

なぜなら、家ではチャンミンが生徒と2人っきりなのだ。

生徒が可愛い女子だろうがキリッとした青年だろうが
すべてがユノには面白くない

生徒の誰もがチャンミンに恋心を抱いているようにしか
見えないのだ。

その上、チャンミンはピアノを習いたいと言いだし
少しはレッスンが減るからいいかと思っていたのに。

いろいろな場所でピアノがあると
ちょっといいですか?と目を輝かせるチャンミン

長身でスマート、黙っていると男前で、笑うと可愛い
そんなチャンミンが静かにピアノを弾きだすと
寄ってくる寄ってくる

うっとりとした女性たちと、よからぬ事を考えているであろう男性陣

ユノは気が気ではなかった。

少しばかりオトナになったチャンミンは
そんなヤキモチを焼くユノを可愛いと思えるまでに成長した…


考えたことをそのまま口に出していた幼さは
少しばかり影を潜めた。


僕は…


僕は、ユノに真実を伝えたあの頃を思い出すと
あまりに幼い自分が恥ずかしく思える


だけど…

今日も僕はユノにキスをして
大好きと言って送り出す


ユノは僕がギターのレッスンがある日は
いろいろと小言を言って出かける

ヤキモチをやくユノは可愛い

そんなあなたは、ますます成熟した男の色気に溢れ
ダンスの生徒さんを男女問わず虜にしてるくせに

自分はまったく気づいてないんだから


ふと、リビングを見ると

壁にはあの日、ユノが泣きながら切り取ったハートの新聞紙が額装されて飾ってある

あの日の2人の涙で印刷は滲み
少しばかり歪んだハートだけれど

これは僕の宝物


幼い僕は覚悟したんだ

猫に戻ってしまったら

あのハートの上に乗って毎日大好きだと言おうと。


ユノにウソをつきたくなかったあの時の決心を
僕は今でも誇りに思う。


そして、押しかけるように
一方的にユノの生活に入り込んだ僕を
ユノはこの人生ごと受け入れてくれた

そのことを僕は一生感謝して過ごす


凄いことなんて起こらない毎日でいい
このまま、大好きだと毎日言えたらそれでいい


僕は変わったようで変わらない



今日はシウミン先生のクリニックがあったところを通って駅に行こうかな

夕陽の差す、しずかな道

懐かしい道だった。


クリニックは跡形もなかったけれど

そこにはあの日の2人が見える


泣きながら、僕をしっかりと抱きかかえるユノと
そんなユノに抱きついている自分が
クリニックを訪れている

離れてしまう恐怖に怯え
泣いていた2人

それでも僕はユノに誠実でいたかったのだ。

それからもずっと、ユノにウソをつかないことは
僕のポリシーだ。


大好きだよ、ユノ

これからも、ずっとずっと一緒だからね



〜完〜





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「大好き」
読んでいただきまして、ありがとうございました。
そして、たくさんの拍手や楽しく心温まるコメントに
感謝の言葉もありません。

ラストは結局猫に戻らなかったチャンミンです。

特にファンタジックな事が起こりませんでしたが
期待ハズレではありませんでしたか?

このラストは最初から決めていました

2人は静かに幸せなのだと思います。
ほんとに羨ましい…


最終回がアップして、みなさまに読んでいただいてる時間、きっと私は名古屋へ向かう夜行バスに揺られてウトウトしてるかと思います。

このお話は、掲載しているツアーパンフのチャンミンの画像に惚れ込んでしまい、ぱーっと思いついたお話で
一気に10話くらいまで描いてしまいました。

まだこの世に生を受けて3年ほどしかたっていないチャンミンはとても幼くてピュアですが
最終回の最後で、聡明で知的なチャンミンに成長しています。

それでも、ユノへの愛は変わらず
真っ直ぐな気持ちもそのままに、それを誇りに思うチャンミンです。

お話自体は少しコメディの要素も入れたかったのですが
なかなか難しいですね。

自分も読んでくださった人もフフッと微笑むような
お話が描けたらいいな、と思います。
勉強いたしますwww


お話を描いている最中には
悲しい出来事がありました。

日本でデビューしてから
私のSHINeeの入り口はジョンヒョンでした。

こんな状態でライブに行っていいものかと
悩みながら行った東京ドームで
「ジョンヒョナ」と叫んだユノ、言葉に詰まってしまったユノからマイクを変わったチャンミンの心に染みる挨拶
悲しみに寄り添ってもらえたような気がして
癒されました。


このところ急に寒くなって来ましたね
私も先週寝込んでしまいました。

インフルエンザも猛威をふるっているようです。
みなさまもどうかご自愛ください

それでは、また。

百海














大好き 36



飛びついてきたチャンミンをユノはしっかりと受け止めた。

「大好きだよ、ユノ」

「愛してる、俺も大好きだよ、チャンミン」


ユノはチャンミンを抱きしめながら感じた

パーカーのポケットの中で眠り
布団に入れば首元で丸くなっていた

あのチャンミン…

ずっと、側にいてくれたんだ


ユノは部屋に転がり込んできたチャンミンを思い出した

全裸で血だらけで痣だらけ…

どんな思いで俺のところに来たんだろう

少し常識はずれなところも
向こう見ずなくらい純粋なところも

話としては頭でまったく理解ができないユノだったけれど、その心では、パズルが少しずつ組み上がっていくように、チャンミンと仔猫が一致していく


ユノはチャンミンをギュッと抱きしめた

「側にいてくれたんだ…チャンミン」

「約束したでしょう」


しばらく2人は抱き合って泣いた

ずっと一緒だったんだ
こんなにも愛おしい存在…


え?


「ちょっと待って!!」

ユノはガバッとチャンミンを離し
その肩を掴んだ

「猫に戻るってどういうこと?」

「この事がバレたら、僕は猫に戻っちゃうんだ
これからはユノの言葉がわからない普通の猫に…」

「そんな…なんでそんな話バラすんだよ!」

「だってさ…うっ…」

チャンミンは嗚咽がとまらない

「ごめん、そうだよな…俺が言えって言ったんだよな
ごめんな、お前が隠し事なんて、やっぱりそれなりの事なのに…」

「うっ…うっ…」

「結局、俺はお前を信じきれてなかったんだ
本当にごめん…」

「いいんだよ、ユノ…
僕もウソついたまま、生活していけるとは思えなくて」

ユノは今までチャンミンに言ってきたこと、してきたことすべてを後悔した。


俺が受け止める、何を聞いても驚かない…

そんなことばかり言ってたけれど

なんて浅はかな!

俺は…何も知らなかったとはいえ
こんな事態を招いてしまった

あの正直なチャンミンが言えない事なんて
俺と別れてしまうような事に決まってるのに


「じゃ…このまま…猫になっちゃうのか…」


チャンミンは涙を拭った

「仔猫のチャンミンに会いたがっていたでしょう…」

「それとこれとは違うよ、チャンミン」

「だって…うっ…うっ」


「え?いつ?どうやって戻っちゃうの?」

「わからない…」

「あの、クリニックの先生か?
手ほどきしたのはあいつか?」

「…そう」

「もしかしたら、あいつも猫だったのか??」

「それは!ユノ…」

ユノは思わず自分の口を手で抑えた


俺がそれに気づいたらあの先生も猫に戻るってわけか。
きっとあの駅員もそうなんだな

どうしたらいいんだ!!


「チャンミン、俺はお前が猫に戻るのはいやだ」

「そんな!もう遅いよ!」


チャンミンはグズグズに泣いている

「えっと…どうしたらいいんだ」


「じゃあさ、これから猫の僕が大好きっていう時は
何か合図をするから、ユノも何か合図して」

「どんな合図?」

「えーっとそれは…」

「ちょっと待ってろ。何か合図するモノをつくろう
プレートとかさ、カードみたいなもの。
紙とマジック買ってくるから、まだ猫に戻るなよ」

「行かないで!ユノが帰ってきた時に
僕は猫に戻っちゃってるかもしれないよっ!」

「そんな!」

ユノはチャンミンを搔き抱いた


「なぁ、どれくらい時間が残ってるんだろう」

「うっ…うっ…わからない」

「とりあえず、やるだけやろう!
えっと」


ユノはその辺にある新聞紙をハートの形に切った

「いいか?俺に大好きと言いたい時は
このハートの新聞紙の上で鳴くんだ」

「うん…」

「後、伝えたいことはどんなことだろうか…」


「大好きだけで十分。それだけわかったくれたらいい。」


「チャンミン…」

「僕がこのハートの上で鳴いたら、抱きしめてよ?
お腹が空いたじゃないからね?」


ユノの胸にチャンミンへの想いが込み上げてくる
いやだ…やっぱりこんなのイヤだ…


ユノは突然しゃくりあげて泣き出した

「え?!ユノ?!ちょっと…」


まるで子供のように泣くユノにチャンミンは驚いた

いつも大人で…チャンミンを包み込んでくれるユノが
こんな風に泣くなんて…


「やっぱり…俺…チャンミンと話ができなくなるなんて
耐えられない…」

「ユノ…苦しめてごめんね…」


再び、2人は抱き合って泣いた

外は闇が白み始めて
2人は泣き疲れて、それでもきつく抱き合っていた

やがて、朝日がユノのアパートの部屋を薄く照らしていく

「このまま…僕、ユノの腕の中で猫に戻りたい…」

「俺もしっかり抱いててやるから
何も心配するな…」

「猫に戻っても、好きでいてくれる?」

「当たり前だろ…ずっと一緒だ…」


それでも2人は泣いていた。


ハート型に急いで切った新聞紙は
ユノとチャンミンの涙で印刷が滲んで歪んでいた。


僕は毎日このハートの上に乗って
大好きだと鳴こう

ユノが切ってくれた、このハートの上に乗って


やがて、完全に朝日は上がり
いつもの日常の朝がやってくる。

それでも2人は抱きしめ合っていた。


「ユノ…」

「ん?何か身体が変か?」

「ううん、なにも変わらない」

「そうか…」

ユノは安堵のため息をついた。

「僕はいつ猫に戻るんだろう」

「そのことはなにも聞いてないの?」

「聞いてない…」

「もしかしたらさ、すぐじゃないんじゃないか?
48時間とか、1週間とか、もしかしたら、1年とか」

「猫から人間になるのには、1年かかってる」

「もし、1年かかるなら、俺たち2人でやってないことが
いろいろできるよな」

「たとえば?」

「旅行とかさ…後はなんだろう」

「ユノといられるなら、それでいい。
たくさん話ができたらそれで十分」

「チャンミン…」

ユノは自分の胸の中にいるチャンミンの頬を撫でた

もし、これでチャンミンが猫になったとしたって
一緒にいられることに変わりない

だけど、絶対に猫の方が早く死んじゃう
そんなこと耐えられない!

そう考えてユノは焦り出した

離れたくない…

ユノの中にまだ諦めたくないという思いが
湧き上がってきた。

何かどこかにいい方法があるかもしれない

「チャンミン、とりあえずあのシウミン先生のところに行こう」

「どうにかなるかな?」

「猫に戻ることについては話聞いてないんだろ?」

「そう…」

「いつ、どんな風に戻ってしまうのか、
そこだけ確認しよう、な?」

「そうだね。」

「今のままだと不安だしさ」

「うん、僕も猫に戻るときは覚悟したい。
ちゃんとユノにお別れが言いたいし」

「お別れなんて言うな!
お前が猫に戻ってもずっと一緒にいるんだから」

「う…ユノ…」

「もう泣くなよ…」


もうどれだけ涙を流しただろう

今のように愛し合って笑い合う生活を手放さなければならない。

ケンカするのだって、言葉を交わせるから。
そんな当たり前のことが今はとても大事だったと
思える2人だった


ユノは車を出して、チャンミンを助手席に乗せた

運転をしながらも、ユノはチャンミンの手を握って離さない

こうやって外に出てみると
自分のしていることがあまりに滑稽だと思える

猫が人間になったり、人間が猫になったり
そんなことが本当にあるのだろうか。

ふとそんな冷静な思いが湧いてくるけれど
なにしろ、このチャンミンが言うことなのだ。

きっと、本当なのだろう。

とりあえず、第三者の話を聞こう
それを聞いたら、更に悲しみが増すかもしれないけれど

ユノは車を停めて、シウミンのクリニックを訪れた

いつ猫に戻ってしまうかわからないチャンミンを
抱き込むようにしている。

「え?!」

2人はクリニックの入り口を見て絶句した

"都合により、閉鎖させていただきます。
今までありがとうございました"

「そんな…」

ふとそこへ、真っ白な猫がチャンミンの足元にやってきた

綺麗な猫はチャンミンの足元をぐるっとひとまわりすると、クリニックのエントランスにちょこんと座って2人を見つめた。

「先生!」

チャンミンは泣き叫んだ

「ごめんなさい!僕が真実を打ち明けちゃったから
だから先生…猫に戻ってしまったんだね」

チャンミンは猫を抱き上げると
その白くて小さな頭に頬ずりをした。

「そんな…」

こんな風にチャンミンも猫に戻ってしまうのか…

ユノは信じきれてなかったこの話を
猫に戻ったシウミンを見て
現実なのだと認めざるをえなかった…





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百海です。
いつもありがとうございます
明日は最終回になります

大好き 35




「あ……」

「おかえり、チャンミン」

ユノがしゃがみこんで、猫用のおやつを手にしている
散らばった大量のそれ…

「あの…それ…」

「こんなに猫用のおやつを…どうしたのチャンミン」

「えっと…」

どうしよう…なんて言えばいいんだろう…

元々、正直なチャンミンは咄嗟にウソをつくということが出来ない

困り果ててるチャンミンを見て、
ユノがため息をついた…

「チャンミン…」

「……はい」

「ちょっと、こっちで話そう」

ユノはスッと立ち上がり、チャンミンの前を通り過ぎてソファに腰掛けた。


チャンミンは買ってきたものを
とりあえずテーブルに置いて、ユノが待つソファへ行った。

ユノはソファの端に座り、自分のとなりを軽くポンポンと叩いて、チャンミンに座るよう促した。

すっかり項垂れてしまったチャンミンは
とりあえずユノの隣に座った

また、ユノを怒らせてしまったかもしれない

チャンミンは膝をつき合わせて、
手のひらをぎゅっと握った


「チャンミン、こっち向いて?」

チラと横を向くと、ユノが優しそうにチャンミンを見つめている。

意外だった

てっきり不機嫌になっているのかと
そう怯えていたチャンミンだった。

ユノは固く握り締めたチャンミンの手に自分の手を乗せた。

「チャンミン…」

「………」

「ひとつウソをつくと、そのウソをつき通すために
たくさんウソをつかなくちゃいけないね?」

「………」

ほんとにそうだ…ユノの言う通り

「わかるよね」

「………うん」

「これからも、チャンミンはたくさん俺にウソをつかなきゃならない」

「………」

「それはチャンミン自身が、耐えられないんじゃないか?」

「………」

「チャンミンが真実を話してくれないことより
その方が心配になってきたよ」

ユノは優しく笑う

「…だけど…耐えなきゃ…」

ユノは愛おしそうにチャンミンを見つめた
ほんとに、なんていうかどこまで正直に生きてるんだろうか

「チャンミンがつらそうなのが
可哀想でみてられないよ」

「ごめんね」

「今日、公園の事務所へ行ってきた」

「公園の?」

「チャンミン…ビラを見たって言うのもウソだったんだろ?」

「………」

「ビラにはチャンミンの特徴しか書いてなかった。
可愛いと言っていたけど、写真はなかったよ」

「!!!!」

「それにビラには俺の名前もなくて」

「あ……」

「最初から俺のところに来ようと思ってたんだね?」

まずい…

どうしよう…

もう、これ以上ユノにウソがつけない…


そして、こんなに優しいユノに
これからもずっとウソをつき続ける生活なんて

チャンミンは真っ直ぐにユノを見つめた。


僕が人間になろうと思った理由は2つ


ユノにダンスを諦めないでと伝えることと
そして、ユノが大好きだという気持ち


チャンミンは大きく深呼吸をした


「ユノ、ダンスができて楽しい?」

「えっ?」

唐突な質問にユノは驚いた

「あのソンジュくんをプロにするのが
ユノの夢?」

「あ…うん、そうだね、もうオーディションも近いし
ダンスについては、今はそれが夢って言えるかもしれない」

「そう、よかった」


チャンミンは思った

これからずっと、ユノのそばでウソをつき続ける自分と
それを許して我慢する優しいユノ


そんな生活を僕は望んでない


僕が猫に戻ったって、ユノの言葉がわからなくたって
きっと僕たちは一緒に暮らせる

僕は間違ってたんだ


「ユノ…」

「ん?」


「ユノ、大好きだよ」


チャンミンがふんわりと笑った


「………」


「たくさん、ユノにウソついてるけど
この事だけはウソじゃないんだ」

「チャンミン…」

「ウソじゃないのは、それだけかもしれない」

「………」

「僕、ユノにほんとうのことを言うね」

「えっ?」

「さっき、ユノが言った通り
僕はウソをつき通すのが辛いんだ」


ユノはチャンミンの手をとった

「ありがとう、チャンミン。
話してくれたら、俺、全部受け止めるよ」

「うん…だけど…信じてくれないかもしれない」

「なんでも信じる…チャンミンの言うことなら」


「僕ね…」

ユノは緊張した

あんなにチャンミンの真実を知りたかったのに
いざ聞くとなるととても緊張してきた


「僕は…いなくなった猫のチャンミンなんだ」


「?」


「人間に…なったの」


「???」


「僕は人間になれる特別な猫だったんだ」


「…………」


ユノはその瞳をまん丸に見開き
チャンミンの顔を見つめたまま固まった

「猫だったチャンミンが人間になったって言うの?」

「そう、僕は人間の言葉がわかる、特別な猫だったの」

「えっと……」

「だけど、そのことがバレたら、僕はまた猫に戻ってしまって、もう人間には戻れないんだ」

「は?!」

「だから、僕はじきに猫に戻る」

「えっ?!」

「ごめんユノ …」

「ちょっ…ちょっとさ、いくらなんでも
それをどうやって信じろって言うの…」


チャンミンの目から涙があふれた

ユノは信じてくれない…

きっと僕は猫に戻ってしまうのに…

「信じて…くれるんだよね…僕の話…」

「えっと…最初からちゃんと、話してくれないか」


ああ、僕はユノに説明しているうちに
猫に戻ってしまうかもしれないのに


「あの寒い夜、僕たちはママと離れてしまって
誰かが段ボールに入れてくれたんだ」

「僕たちって?」

「兄弟がいたんだ。気がついたら、僕はひとりぼっちで
そしたら、ユノが僕をマフラーでくるんで拾ってくれた」

「………」


「僕はミルクをもらって、ユノに育ててもらったでしょう」

「………だけど」

「僕はいつもユノに大好きって言ってたんだけど
ユノはいつもお腹がすいたとしか思ってくれなくて」

「お腹が…空いた?」

ユノは思い出していた

ミャーミャーと鳴くチャンミン
なにを必死に鳴いているのか、その姿がたまらなく可愛かった

そんな時自分は…

「はいはい、お腹空いたよな、今ご飯にしてやるから
待ってな」

俺のことが大好きだと言っていた?

「僕はスジンさんの靴を噛んじゃって…」

「それはスジンかドンへに聞いたのか?」

「違う…だって、スジンさん浮気してたから
ユノがいるのに。だから僕怒ったんだよ」

「………」

「ユノはスジンさんと寝る時、僕をいつもバスケットにいれて、申し訳なさそうにしてた」

「なっ…え?」

「そうだったでしょう?」

「そ、そうだったかな…」

いや、そうだった。
俺はスジンと寝る時、チャンミンをバスケットに入れてた。。可哀想に思いながらも


そんな思いをさせてたのか?
このチャンミンに?

でも…そんな話どうやって信じろって…


「僕はユノにダンスをしてほしかった。
ダンススタジオでみたユノは輝いてて…」

「あ……」

「ユノはいつもベッドで僕をお腹に乗せて、ダンスがしたいって、そう言ってた」


チャンミン…

ユノはチャンミンと自分しか知り得ない事実に
驚愕していた

本当にチャンミンが言うようなことが
この世に起こるのか…


「だけど…なんで…チャンミン…
そのことを伝えたくて?」


「そうだよ…」

「………」

「側にいてくれるかって、いつも言ってくれたよ」


「だから…側に…いてくれたのか…ずっと」

「うん、育ててくれてありがとう
僕はユノが拾ってくれなかったら死んじゃってたよ」

「チャンミン…」


「大好きだよ!ユノ!」


チャンミンは泣きながらユノに飛びついた






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大好き 34



チャンミンはユノの腕の中で
その温もりを全身で感じていた

仔猫だった頃に感じた温かさ、そのままに。

ゆったりとした時間の中
久しぶりにユノとベッドで会話をした

「チャンミンさ…」

「うん…」

「チャンミンって名前、迷い猫探しのビラで見たって」

「…え?…あ…うん」

「あの駅近くの公園か…」

「あ…そう…だよ」

「なんでその名前がいいって思ったの」

「うーん…なんでだろう…
可愛い顔、してたから」

「あーそうだね、メッチャ可愛かった」

「フフ…」

「生きてるといいな」

「会いたい?」

「会いたい」

即答だった。

「もし…会えたら…どうする?」

「会えたらさ…やることは決めてる」

チャンミンはムクッと半身を起こして
ユノをみつめた

「会えたら…どうするの」

チャンミンの目が真剣だ。

「パーカの中に入れてやるんだ」

「ポケットじゃなくて?」

「仔猫の時はね、入ったけど」

「……いいね、パーカの中」

「その中にいれて、もうどこへも行かないように
閉じ込めるね」

「アハハハ…いいねー」

「チャンミン?」

「なに?」

「なんで泣いてるの?」

「え?あー笑いすぎだよ」

「そんなにウケた?」

「うん、いいなーって思って」

「ヤキモチやいてくれ」

「仔猫に?」

「ああ、今のところ、お前と勝負できるのは
仔猫のチャンミンだけだぞ」

「僕が…負けることも…ある?」

「あるぞ、何しろ相手は最強チャンミンだからな」

「猫は…隠し事…しないしね」

「………」

「……まあ、そうだな」

「ごめん」

「もうその話は…やめよう」

「………」

「仔猫のチャンミンに、俺謝りたいんだ」

「……そう…なの…」

「頭のいい子でね、自分が俺の邪魔になってると
そう思ったんだろうな」

「言葉が交わせないのに、そんな事わかるの?」

「わかるよ…俺を見つめる目が寂しそうだった。」

「………」

「邪魔になんかしてないんだよって言ってやりたい」

言葉なんて交わせなくても、
ユノにはちゃんと伝わっていたんだ

チャンミンは自分の存在価値が
あまりないと思いはじめていた。

ユノに優しく抱きしめられても
その思いは消えることはなかった

自分はあのソンジュにも、仔猫だった自分にも
負けちゃってる…





ユノは翌日のレッスン中にふと思った。

仔猫のチャンミンのビラが欲しいと思った。

また探そうというわけじゃないけれど
考えてみれば手元に一枚もなかったし。

ほんとに、ただ何となく…だった。

夜のレッスンが休講になったのもあって
帰りにユノは公園の管理事務所に寄った。

チャンミンを探していたあの頃は
こういう細かいことをドンへがしてくれていた。

「1年半くらい前ですけど、ビラを貼ることを許可していただいて。猫を探すというビラなんですが」

「はい、1年半くらい前ですね?」

担当は優しそうな年配の女性だった。

「その時のビラをなんか一枚余ってないかと思って」

「見つかったんですか?猫ちゃん」

「結局、まだ見つかってないんですけどね」

「あら…そう…
どうします?見本は何枚か保存してあるので、
またビラを掲示板に貼ってもいいですよ?
今回も2週間しかスペースはお貸しできないけれど」

「2週間?」

「ええ、そう」

「あの…1年半前も?2週間でしたか?」

「そうですよ、スペースをお貸しできるのは
2週間って決まりでね。ずっと前からですよ」

「この公園で1年くらい貼っていただいてないですか?」

「それはないわね、他のところにビラを貼られたら
すぐ剥がしちゃうし」

仔猫のチャンミンがいなくなって、1年くらいして
自分のところに転がり込んできたチャンミン

あの時、ここで見たビラで俺のところへ来て
咄嗟に猫の名前だったチャンミンと名乗ったはずだ

チャンミンが来た頃は、もうとっくにビラなんてなかったんだ。

「あーこれね?チャンミンくん。」

担当の人はファイルから一枚のビラをユノに差し出した。

「え?」

「これ…じゃなかったかしら?」

「あの…写真付いてませんでした?」

「これは…そうね…付いてないわね
猫ちゃんの特徴だけ」

「あれ?」

「え?」

そのチラシにユノの名前はなく
連絡先と名前はドンへになっていた。

「これ、友達の名前ですけど…」

「ああ、来た人の名前じゃないとダメだから
この方が自分のお名前に変えたのね」

「そうなんですか………だからドンへの名前に」

それにしても
どういうことだろう

チャンミンはビラを見て俺のところに来たんじゃないのか。

猫のチャンミンが可愛かったから、と言っていた。
考えてみれば俺の住所も書いてないのにどうやって来たのだろう

はじめから俺を目指して来たのか?

「あの…」

「あ、もういいです。すみませんでした」


ユノはまたモヤモヤとした気持ちに包まれていた。
チャンミンは最初から俺を知っていて、俺のところに来たのか。

やっとチャンミンを包み込めるような心の余裕ができたのに、またひとつチャンミンのウソに気づいてしまい
ユノは流石に落ち込んだ。

ユノがアパートに帰ると、チャンミンは買い物にでかけているのか、留守だった。

ユノは冷蔵庫を開けると、いつも飲むミネラルウォーターがなく、食材が入ってるシンクの下の扉を開けた

「うわっ!」

扉を開けた途端にバラバラと崩れ落ちて来た
大量の猫のおやつ

これは、先日なぜかチャンミンがこっそりと食べていたやつだ。

何かと間違えたと言っていたけれど
なんでこんなに大量に買ってきたんだ???

ユノはそのひとつを手にとって見た

懐かしい…

これは仔猫だったチャンミンが大好きだったおやつだ。

でも、なぜこれをチャンミンが…


その時、チャンミンが帰ってきた

「あれ?ユノ、帰ってた?」

スーパーの袋を抱えてキッチンにきたチャンミンが
ユノと散らばった猫用のおやつを見て固まった





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大好き 33




「さあ、帰ろう」

「はい!」

ユノとソンジュはレッスンルームを出た

「うわっ!」

「え?なんだこれ」


ドアを開けた廊下には
辺り一面に何かがぶちまけられていた

ソンジュがかがんでそれを覗き込んだ

「先生、これサンドウィッチ…」

「ほんとだ…あ…」

ユノには見覚えのある、赤いフチのついたランチボックスの破片

「チャンミン…」

散らばるサンドウィッチの具が、それがどれほど手の込んだものだったのかを表していた

色とりどりのフルーツ
野菜
数種類のハムにチーズ
卵もいい色に茹でられている

「うわーなんか美味しそうなのにもったいないですね」

「………」

「なんでこんなことになっちゃったのかな」

「………」


砕け散ったサンドウィッチの悲惨な姿は
どれほどの力で叩きつけられたのかが伺える

チャンミンがきっと両手で頭上から叩きつけたのだろう

その怒りはどれほどのものだろうか


なぜ怒ったかって?

それは

嫉妬だ

チャンミンの嫉妬


俺とソンジュが踊っているのをみたのか
また、会話を聞いたのか


いつもふわふわと穏やかなチャンミンが
これほど怒るなんて…


それはチャンミンの本気だった


自分に対する本気が伝わってくる


チャンミン…


お前はいつも全力だね


何かを必死に隠していることも

俺を一生懸命愛してくれることも

無理に笑ったり

たまらず泣いてしまったり

こんなに手をかけてサンドウィッチを作り

差し入れに来たんだろ?

俺が…ダンスに懸命になってるって知って


そして怒ったのか?

俺がチャンミン以外の誰かと笑いあってたから?


嫉妬なんて…

そんなの無意味だよ

だって、俺はこんなにも

全力なお前が愛しくてたまらない


ソンジュと2人、散らばったサンドウィッチを片付けた

「先生…」

「なに?」

「これってさ…このサンドウィッチ…」

「ん」

「先生の…恋人なんじゃないですか?」

「………どうして?」

「ん…なんか…すごく手が込んでるし」

「ああ、美味しそうだよな」

「それに…」

「………」

「これって、叩きつけた感じですよね?」

ユノはたまらず笑った

「だよな?怒り爆発って感じだよな」

「……はい」


「こういうところが可愛いんだよ
俺の恋人」


「……なるほどね」




「…………」


チャンミンはひとり

真っ暗なキッチンに立っていた


リビングのテレビだけが
今日あった出来事を神妙な顔で伝えている

たくさん買ってきてしまったチューブの猫のおやつ

ひとつ端っこをカットして、
口に含んでみた

「げっ!不味い!」

チャンミンはペッとシンクに吐き出した

なんでこんなのが美味しいと思えたんだろう


「何やってんの?」

「!!!!!」

びっくりして振り向いたチャンミンの目には
これまた驚いて目がまん丸なユノ

「チャンミン…なに食べてるの?」

「あ!お、おかえり!」

チャンミンはドタバタと猫のおやつを隠した

大量にある分はシンク下に隠してある
でも、手に持っていたものは隠せなかった


ユノはすかさず、チャンミンの手を掴んで引き寄せた

「チャンミン、これ、人間の食べるものじゃないよ?」

「あ!うん!アハハ…だよね…間違えちゃった」

「何と間違えたの?」

「なんかね…美味しそうかなってさ」

「猫の絵が描いてあるのに」

「だよね…」


「チャンミン」

「ん?」

「気が動転してこんなの買ったの?」

「え?」


ユノはシンクの前に立つチャンミンを
後ろからギュッと抱きしめた

チャンミンはびっくりした

こんなスキンシップはほんとにひさしぶりで
ドキドキしてしまう

ユノは後ろからチャンミンの肩に顎を乗せた

「今日、俺さ…」

「うん……」

「もしかしたら、軽く告られたかもしんない」

「!!!」

「たぶんね、それは憧れを勘違いしてるんだと思う」

「……そ、そうなの?」


ユノは…正直にあの子のことを話してくれるんだ


「………」

「………」


「今日さ、チャンミン、スタジオ来たよね」

「………あ」

「サンドウィッチ、差し入れに来たよね」

「………」

「あんなにぶちまけてさ、もったいない」

「………」

「美味しそうだったのに」

「……美味しそうだった?」


ほら、ウソがつけない

ユノは思わず頬が緩む


こんなチャンミンが必死に隠すなんて
お前の秘密は、それほどのものなんだろう

この世がひっくりかえるような

言ったらみんなが不幸になってしまうような

たとえば…俺とチャンミンが離れ離れにならなければいけないような

そんな何かなのだろう

それが怖い?

怯えてる?

俺は負けないよ

だから…できれば…俺を頼って

お前を守らせて


そんなユノの思いを知ってか知らずか
チャンミンは暗いシンクの1点をじっと見つめている


ユノはチャンミンを自分の方へ向き直らせた

丸い頬を両手で挟み、その大きな瞳を覗き込んだ

「泣いた?」

「う……」

「なんでまた泣くんだよ」

「だってさ…」

チャンミンはユノに抱きついて
その泣き顔をみせないようにした。

「人間だから泣くんだよ」

「そうだな」

ユノはまたチャンミンの頬を両手で包み
優しく口づけた


僕はウソばかりついている

ユノはこんなに優しくて

こんなに正直なのに

僕はそんなユノを苦しめて、傷つけている

僕を愛して…大きく包み込もうとしているのに

僕がウソつきだって事実を
飲み込もうとして苦しんでいる


そんなあなたに、僕はもうウソをつきたくない

このままでいいわけない

いつかあなたを解放してあげなきゃ



2人は久しぶりに愛し合った

許そうと努力するユノと
誠実でいようと覚悟を決めたチャンミンは

お互いを深く愛した




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大好き 32



翌朝、普通にユノは出勤した。

昨日言い合いになったことなどなかったような朝。
また、お互いとりつくろったような日々のはじまり

ユノには毎朝の日課があった。

それは駅前の交番に立ち寄り
指名手配のポスターを見ることだった。

今日も特に更新がなく、ユノはホッとした。
更新があると、その人物の顔をマジマジとみた。

チャンミンは整形をしてるかもしれない
少しでも面影があったら…

そんな心配からだった。

そして、チラッと駅員室を見る。

あの駅員は普通に仕事をしている。

胸ぐらを掴んで、チャンミンとの関係を問いただしたい衝動をユノは抑えている。



その朝、チャンミンはあることを思いつき、
少しテンションが上がった。

ユノが生徒とオーディションに向かって頑張ってるなら
自分もその手伝いをしようと思った。

夜遅くまでレッスンをしていれば
お腹がすくはずだ。

ユノもだけれど、生徒だって高校生だ。
食べ盛りのはず。

チャンミンは一口でつまめるサンドウィッチをいくつも作って、レッスンスタジオに持って行こうと思った。

疲れた2人に食べてもらえたら

パンも厳選したけれど、その中身もよく考えた。
カロリーを抑え、それでもバランスのいいものを。
何より味だ。

チャンミンは少し大きいかなとも思えるランチボックスに、手製のサンドウィッチをきれいに詰めた。

温かい紅茶も淹れていこう


通常のレッスンが終わり
ソンジュは今日もユノの個人レッスンを心待ちにしていた。

ソンジュは大学時代のユノを知っていた。

まだ小学生だったソンジュだったけれど
施設の先生に連れて行ってもらった学祭で
初めてユノのダンスを見た。

子供心に、人生を変えるほどの衝撃を受けた。

ユノは誰より力強く
そしてうまく説明できない魅力があった。

その頃のソンジュには何が衝撃だったのかわからなかったけれど、今ならわかる。

それはユノが天性に持つ「色気」だった。

男の色気というものがどういうものなのか
何も染まっていないソンジュの心にいきなりそれが染み渡った

ドキドキしたあの気持ちが、今でも忘れられない。

ユノは当然デビューするのかと思っていたけれど
それきりその姿を見ることはなかった。

偶然に見かけたダンス教室のHP。
ユノが講師として顔写真を載せていたのを見て
ソンジュは即手続きをとった。

憧れがどこまでも膨らむ

今は毎日が天国のようなソンジュだった。

「オーディションは申し込んだから
あとは内容をもう少しつめていこう」

「はい!」

ユノが大きな鏡に向かってポーズをとる

長い首をその限りに伸ばして
指先の爪まで神経が行き届いているようなポーズ

肩の筋肉が美しく盛り上がる

「目線は指先から」

ユノの眼差しは、すでに演技に入っていた。

力強い音楽には力強く、悲しい音楽には切なく

躍動するかと思えば、しなやかに舞う
緩急をつけた動きにソンジュは必死でついていった。


チャンミンはたくさんのサンドウィッチが入ったボックスと共に、スタジオへ行った。

すでに顔見知りの受付に挨拶をする。

「ユノさんは小さい方のスタジオにいますよ」

「入っていいですか?」

「うん、毎日熱心なのはいいけど、
もう休憩するように言ってやってくださいよ」

「わかりました」

フフっと笑いながらチャンミンは地下へ降りて行った。



「さあ、今日はこの辺で終わりにするか」

「まだ、大丈夫です!」

「ソンジュ、気持ちはわかるけど
疲労はよくないんだぞ」


「……わかりました」


ユノはタオルで自分の首筋の汗を拭いた


「後は仕上げって感じだな」

「あの…」

「ん?」

「いきなりなんですけど、聞いてもらえますか」

「なにを?」

「僕の…夢…なんですけど…」

「おー!聞きたい!どんな夢だ?」

「えっと…」

「恥ずかしがることなんかないんだぞ」

「いつか……先生とステージに立ちたいんです」

「俺と?」

「はい、先生と2人で」

「どうしてだよ、俺なんかと」

「憧れなんです。先生が」

「そうなのか…あーありがとう、うん、うれしいな」

ユノが照れ臭そうに笑う
真っ白な歯がその笑顔を輝かせる

「もうひとつ聞いていいですか?」

「うん、なんだ?」

「その…先生は…その…」

「?」

「男の子と付き合ってるって…」

「………」

「………」

「……そうだけど?」

「あ、すみません…」

「それがどうかした?」

「いや…あの…どういう気持ちなのかなって」

「………」

「あ、なんか…こんなこと…聞くべきじゃなかったですよね…」

「何が知りたいの?気持ちの部分?身体のこと?」

ユノが汗で色が濃くなった自分のタンクの胸を
トントンと親指で叩く

「すみません…興味本位で聞いてしまって」

「うん、その気持ちわかるよ。どういうことなんだろうって思うよな」

「はい…あ、いや!すみません!」

「アハハハ…正直だなぁ、ソンジュ。
俺、そういう正直な反応って大好き」

「僕は正直です」

ソンジュは顔が真っ赤だ。

「そうか。」

「僕は…先生の事を思って踊ると
綺麗だと褒められます」


「…………」


空気が少し変わってきた…



その頃チャンミンは、通りを全速力で走っていた。
スタジオから飛び出して泣きながら走っていた。

涙が横に流れて、チャンミンのこめかみを濡らし
その涙は耳にまで入ってきた

向かいを歩いてくる人たちが
チャンミンのスピードに思わず道を開ける

チャンミンは口元を歪ませ
人目も気にせず走った

チャンミンは手に何も持っていなかった

ユノのために

ユノの夢を一緒に叶えてくれるその子のために

一生懸命作ったサンドウィッチ


ダンス教室の廊下に
叩きつけてきてしまった。



あの子はユノが好きだ

そしてあの子はユノの夢を叶えてあげることができる
こんな自分とちがって…

ユノが…あの子と踊るのを見たら
もう耐えられなかった

僕といる時より、ユノはうんと楽しそうだった。

僕の前ではほとんど見せてくれなくなった
あの笑顔が全開だった

一緒に夢を追うあの子

僕は何にもできない…

僕は結局何にもしてない…



チャンミンは泣きながら、公園を抜けて走った


アパートに帰るに帰れず
泣きはらした顔で夜遅いスーパーに寄った

どうしてスーパーに寄ったのか
自分でもよくわからない

その明るさに引き寄せられたのか
アパートに帰りたくなかったのか

売っているものはほとんどが安売りになっていた。

人のまばらなスーパーの中をあてもなくよろよろと歩いた

棚の突き当たりには、ペットコーナーがあり
チャンミンは大好きだった猫用のチューブのおやつを見つけた

懐かしいな

これ、大好きだったな。

ユノがいつもくれたんだ。
僕がこれを好きだから、たくさん買ってくれた

チャンミンの目にはまた涙が溢れてきた


仔猫に戻りたい…

戻って…ユノのパーカーのポケットに入りたい

あの優しい笑顔で見つめてほしい


チャンミンはその猫用のおやつを大量に買い込んだ
どうしてそんなことをしたのか、自分でもよくわからない。




「先生を思って踊ると…」

「……」

「僕は…あの…先生のことが…」

「あのね、ソンジュ」

「…はい」

「俺はね、男が好きってわけじゃないんだ」

「えっ?」

「………」

「だって、みんなが先生は…」

「俺は、ソイツだから好きなんだ」

「……今、付き合ってる…ひと?」

「一緒に住んでる」

「あ…そ、そうですか…」

「大好きになったヤツがたまたま男だっただけ」

「………」

「さ、今日はこれでおしまい。
また明日から気合いれていこうぜ」

「……」

ユノはソンジュの顔を覗き込んだ

「わかった?」

「……はい」

「ほんと?」

「はい!わかりました!明日もよろしくおねがいします!」

「はーい、その調子。それじゃ、また明日な」

2人は笑顔だった

ソンジュは諦めたような笑顔ではあったけれど
スッキリとした表情だった。





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大好き 31



ユノの帰りが遅くなった

理由はユノから軽く話があった

「ちょっと素質のある子がいてね
オーディションにだしてやろうと思って」

以前だったら、
その子が自分と同じ施設育ちで夢を持っていること
だから余計に力になりたいと思っていること
そのダンスの素晴らしさ

そんなことを熱く語ったであろうユノ

そして、その素質ある生徒について
いろいろと聞きたがり、ユノが生き生きと仕事ができることを喜んだであろうチャンミン。

いつのまにか大きくなっているその心の溝に
2人は気づきはじめた。

ユノは遅く帰ってきては、チャンミンの作った夕飯を食べ、シャワーを浴びるとすでに眠くて仕方がない、といった感じだった。

一日中ダンスをしているのだ
以前とは疲れの質が違う

それでもユノはチャンミンの話を聞こうとしてくれた。

「今日は何かあった?」

「別に…」


以前は「今日は何してたの?」だった。

チャンミンはその日見たテレビの話や
買い物に行って不思議に思ったことなどもよく話した。

何してたの?と聞くと
チャンミンが答えに困るだろうとユノは思っていた。
詮索している、と勘違いされたくなかったし、
答えに詰まるチャンミンを見たくなかった。

けれど…

何かあった?

そう聞かれても、わざわざ話すほどのことは
チャンミンの日常には何も起こらない

今日何してた?と
今日何かあった?は違う

会話もどこかちぐはぐで、想いだけが空回りをしていた。

ユノは相変わらずの一本気な性格で
これを乗り越えなければ、と考えていた。

恋愛を頭で考えてしまうユノの悪いクセがチャンミンを更に迷わせる

チャンミンは心に引っかかったことを
言葉にしてみた。

「あ…えっと…聞いていい?」

「うん、なに?」

「ユノが力を入れてる子って男の子?」

「そうだよ」

「………」

「どうして?」

「ううん、なんでもないんだけど」

「だけど…なに?」

正直に言ってみようか

「なんか…ちょっと心配だな、とか思っちゃって」

へへっとチャンミンが照れ臭そうに笑った

「なにが?」

「その…ユノがその男のコと何かあったらイヤだなと」

「はぁ?」


ピンと張り詰めていた、2人の何かが切れた


「そんな…そんなイヤらしい感情はソンジュに対してもってないよ」

イヤらしい…

「ソンジュって言うんだ。名前さえ知らなかったよ」

「チャンミン…俺、さすがにそれは不快だよ」

「不快?」

「俺とソンジュは純粋に夢に向かって頑張っているだけで、チャンミンが想像しているような不純な気持ちなんてないよ」

夢に向かう輝かしい2人
それを下衆な目でみる不純な僕…か

悔しいような悲しいような…

「どうせ僕は不純だよ」

「そんな事言ってないじゃないか」

無理して笑顔で過ごしていた歪み
2人とも一気に本音が出た


「ユノ、なにも話してくれない。
前はもっと、毎日の事話してくれたよ。
夢の話だって、前はよくしてくれた」

僕には夢の話をしても意味ない?

「俺がなにも話さないって?
堂々と隠し事しているお前がよく言えるな」

「…………」

「お前が自分のことを話してくれないのを
俺がどんな思いで耐えてるか知ってるか」

「……僕は…」

「なんだよ」

チャンミンはキッとユノを睨みつけた

ユノもチャンミンを睨みかえした



ユノと話ができることに憧れた

いつも大好きだと言ってもお腹が空いてるとしか
みてもらえなくて

好きな道を進んでもらいたくても
話が出来なくて

でも話ができる、ということは
こうやってすれ違ってしまうことにもなるんだ


人間になろうとした時、言われた

「人間になってもいいことないよ、猫のままでいた方がいい」

「仔猫でいることは、ユノさんにとって最高の癒し」


僕は僕のわがままで
人間になったんだ

チャンミンはすべてを飲み込もうと思った


「ごめん」

睨み合いから最初に口を開いたのはチャンミンだった

「………」

それは更にユノをイラつかせた。

「言いたいこと言って、結局そうやって謝る。
謝るなら、はじめから何も言うな」

「そうだよ、僕はわかってる。全部僕が悪い。
だけどねユノ、どうにもならないことが世の中にはあるんだ」

「へぇ」

「理解してとは言わない。
でも、許してほしいし、認めてほしい」

「理解しようにも、何もわからないのに無理だよ」

「結局はそこなんだね」

「そうだよ。こんな俺で申し訳ないけどな
こういう面倒くさい奴なんだよ俺。
隠し事は嫌いだ。愛し合ってるならなんでも言うべきだ。
全部預けてくれたら、俺はチャンミンの全部を受け止める。
たとえ、お前が犯罪を犯していようが
人に言えない暗い過去があろうが…」

ユノは止まらなかった

「………」

だけど…


「やめよ、堂々めぐりだ。
この話で言いたいことを言うと、後で気分が悪い」

「どうして?」

「自分の情けなさに嫌気がさすんだよ」

「……」

「とにかく、俺とソンジュをそんな風に勘ぐるのは
やめてくれ」

「感じたことを正直に言っただけだよ」

「正直に?」

「隠し事してるのは、本当に申し訳ないと思ってる。
だからこそ、ほかの事では嘘つきたくないんだ。
なんでも正直に言いたい」

「ずいぶん勝手だな」

「じゃないと、僕とユノは…」

「………終わるか?」

「ユノ…」

「もう、こんな話やめよう」

「ユノは終わりたいの?」

「そうじゃない」

「スジンさんみたいに、もう好きじゃないのに
責任とか感じてるの?」

「そうじゃないって。チャンミン、この話はおしまい。
いくら話したって平行線なんだよ。」


ユノは立ち上がった


あんなに甘い2人だったのに
あんなに幸せな毎日だったのに


どうしてこんな事になっちゃったんだろう


ユノは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと
コップになみなみと注いで飲み干した

ダンスの仕事をするようになって
ユノの後ろ姿は更に魅力的になった。

元々、バランスのいい男らしい骨格ではあったけれど
そのウエストは引き締まり、肩から腕にかけて
筋肉がめだつようになった。

太くなったわけではない、そのハリのような質感が
ユノを躍動的にセクシーに見せていた。


その夜、チャンミンはユノの腕の中に
自分から潜っていった。

ケンカをしてしまって
寂しくなったチャンミン

ユノは少し驚いたようだったけれど
そっとチャンミンを抱きしめた。


チャンミンは思った
もう何日してないだろ

抱きしめてもらいながらも
少し空いた2人の隙間がとても悲しかった。


今日の事は反省しなきゃならない。

もうユノとケンカしたくないし

がんばらなきゃ
明日からまた。

ユノが大好きだって、伝わるように






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大好き 30



しばらくは穏やかな生活に見えた。

チャンミンは毎日、ユノのために家事と料理をして
ユノも2人の生活のために働いた。

でも以前と比べると
2人の生活は変わった

それは当初の熱が落ち着いてきて
それなりの穏やかさが生まれている、というのではない。

緊張感は逆に高まっている

ユノはあたりさわりのない会話しかしなくなった。
今日は天気がいいとか、そんな話。

以前はダンスについて熱く語ったり
チャンミンの話す事をひとつも聞き漏らしたくない
そんな姿勢で会話をしていたユノ。

懐の深い男になろうとするあまり、余裕を持とうとするその気持ちがそれ以上チャンミンにハマることを拒んでいた。

チャンミンも、記憶喪失の話だとか、シウミンや駅員の話、そこには触れたくないことから
あたりさわりのない会話になってしまう。

チャンミンは以前のように「大好き」と甘えることもなくなり、
隠し事をしているという後ろめたさから
ユノに遠慮して自分の気持ちを言わなくなった。

それでも笑顔で生活する2人はどこかよそよそしく
お互い本音を言わず、まるでなにかの物語を演じているような毎日だった。

そんなピリピリとした生活は2人にとって次第にストレスになっていく。

ユノはチャンミンを抱かない日が増えていき、
気がつけば、もうほとんどそれはなくなっていた。


チャンミンはその事をとてもさみしく思っていたけれど

ユノが時にチャンミンの寝顔にキスをしながら
1人苦しんでいることは知らなかった。


「どうして、俺に何も話してくれない?」


チャンミンの寝顔に切なく話しかけるユノは
まったくもって、気持ちに折り合いなどついていなかったのだ。

チャンミンを大きく包み込もうとすればするほど
愛しさは増し、自分の情けなさにうんざりした。

より寛大な男になろうとするその努力は空回りをしていた。

チャンミンはその向こう見ずにも見える純粋さを失っていき、ユノは男としての自信を失っていった

ユノは仕事に没頭した。
せっかく大好きなダンスの仕事ができるようになったのだ。

本腰入れて一生懸命仕事をしよう
そうすれば、きっとチャンミンの事ももう少し余裕を持ってみてやれるだろう。


相手を思うあまりに生まれた歪みを
ユノは距離を置く事だと勘違いした。

刺激せず、そっとしてあげることが愛情だと
チャンミンも勘違いをした。

次第に広がる溝に
2人とも気づくことができなかった。


ユノは仕事だけに集中していくにつれて
今まで見えていなかったものが見えてきた

男子高校生のクラスの中で
1人光るものを持った生徒がいた。

イ・ソンジュ

頑張っている生徒だというのは知っていた。
レッスンが終わっても、ユノのところへ来ていろいろと質問をしてきた。

「もう少しやりたいので、小さい練習室を借りてもいいですか?」

そんなソンジュの練習をみてやったりしていた。

けれど、このごろソンジュだけが特別に光ってみえる

たぶん、成長期も手伝い、そのビジュアルが見事に変わってきた。
元々可愛い顔はしていたけれど、輪郭はシャープになり
甘い顔立ちに色気のようなものが感じられる

そのスタイルも手足が美しく伸び
見事なバランスの体躯

そしてソンジュのダンスにはストーリーがあった
その表現力は天性のものだ。

ユノはソンジュの気持ち次第では
プロになれるのではと思い始めていた

ある日、レッスンが終わったころ
ユノの方からソンジュに声をかけた。

「ちょっと話できる?」

「えっ?僕ですか?」

汗に光るソンジュの顔が輝く

ユノはロビーの自販機でドリンクを買うと
ソンジュにひとつ渡した

「ありがとうございます」

「座って、時間とらせないから」

「あ、はい」

「ソンジュは最近すごくよくなったね」

「ほんとですか?」

「うん、とてもいいよ
ダンスは将来どう考えてるの?
趣味で続けていくのか、もしくはプロになりたいとか」

「プロになりたいです!」

即答だった。

その希望に輝く瞳は
かつてユノも持っていた輝きだった

「そう、もしそうだとしたら、
今から準備をしたほうがいい。ご両親には相談してるの?」

「あー僕はその…」

「?」

「その…隣町に教会があるの、知ってますか?」

「ああ、知ってるよ」

「そこの施設で…その…」

自分と…同じなのか…

親に捨てられ、施設で育ったユノ


「そうなんだ、施設じゃソンジュはお兄さんだな。
小さい子の面倒は大変だろ」

ユノはなんてことはない、という言い方をして
ソンジュを驚かせた

みんながこの話をすると、驚いて慌てたりするのに
この人はまったく動じない

「俺も施設で育ったんだ」

「……先生」

「ここのレッスン費は、あれか?
"未来の基金"から借りている?」

「そ、そうです…先生…も?」

「俺は大学の学費をそこで借りてるよ
サークルでダンスをしていたんだ」

「だけど…先生ならプロ間違いないのに…」

「どうかな。俺は準備が遅かった」

「スカウトはあったでしょう?」

「あったけど、大学を辞めるわけにもいかなかったし
ま、そこまでの情熱がなかったと言われても仕方ない」

「そんなことない…そのあたりの事情は…僕、わかります」

「そうか。だよな、わかってくれるよな」

ソンジュとユノはそこで一気に打ち解けた

「もし、その気なら力になる。
オーディションもいくつかあるから、受けてみてもいいと思う。」

「やってみたいです!」

「なら、決まりだ。明日からレッスン後に
1時間くらい、個別でみてやる」

「あ…」

「ダメか?」

「余分にお金は…出せなくて…」

「そんなのいいよ。でも、勉強はおろそかになるなよ?」

「いいんですか?…」

「明日からな」

「ありがとうございます!」

ソンジュの輝く笑顔に
ユノは最近なかった気持ちの高揚を感じた





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大好き 29



ドンへと乾杯をした。

カジュアルだけど落ち着いた居酒屋のきちんと仕切られた小さな個室。

ひとしきり仕事の話をした後
ドンへがニヤニヤしながらチャンミンの話をはじめた

「正直言って、まさかユノが男とって言うのは驚きだったけど、あの可愛いチャンミンなら仕方ない」

「ん……」

「なんだよー気の無い返事してさ、
あんな一途な子いないぞ?
もうお前の事が大好きで、他はなんにもいらないみたいじゃないか。」

「それがさ…」


ユノはここ数日の顛末を話した。

ドンへは意外だと言わんばかりの表情


「それはたしかにユノにとっちゃ面白くないよな」

「事情をそのクリニックの先生や駅員に俺が聞くっていうのもあるかもしれないけど、俺はチャンミン自身から聞きたい」

「だけどさ、ユノ…
あの子、やっぱりウソはつけないんだよ。
本当の事が言えないって、正直に言うなんてさ。
普通だったらごまかすぜ?」

「正直なんだよな、そこはほんとに」

「そんなあの子が言えない事って、相当な理由だと思う」

「最初に家に転がり込んで来た時、警察を呼ぶなと言われてさ」

「そうか…なにか犯罪を犯してるかもしれないな。
記憶喪失を装ったり、大好きなお前に言えないってことは、お前に迷惑をかけられない、と思ってるんじゃないか。何か真実を知ったら巻き込んでしまうとか。」

「頼りないかな、俺」

「その男たちに、ユノのところにいろ、と言われてるのかも」

「うーん、考えられるな」

「きっと、あの子が言えない、と言うのは
それはそれで愛なんじゃないか?」

「愛?」

「巻き込みたくないっていう、
あの子のお前に対する愛なんだよ、きっと」

「………」

言えない、と言ったチャンミンの辛そうな顔が浮かんできた。

「そこはもう聞かないでやるっていうのも
お前の愛なんじゃないか?」

「………」

「なんでもかんでも…正直ならいいっていうわけでも
ないだろ?」

「俺はそういうところ、融通がきかない」

「チャンミンから話すまで、待ってやったら?」

「そもそもチャンミンがあの男たちを頼るっていうのが
イヤなんだよ」

「だからさ、そこは何かあるんだよ。
チャンミンはあんなにお前に一途なのに、
その気持ちを疑ったら可哀想だ」

納得したような、そうでもないような
ユノはまだ複雑な部分を残したまま、ドンへと別れた。

時計を見ると結構いい時間だった。

まだ調子の悪いチャンミンの事が気になっていたから
途中で連絡しようと思っていたのに
話し込んでしまって、それもしていない。

ユノは足早に家路に着いた

大事な事を話してもらえないのに、他の男と秘密があるのに、
こんな風にチャンミンを気遣って早く帰ろうとする自分が滑稽だ。

いつもチャンミンに大好きだと言われて、やれやれと思っていたけれど、メロメロになってるのは俺の方か。

押し切られて付き合い出した気になっていたけれど
今や、手離せないのは俺の方か。

こんなにも誰かを好きになるなんて…


アパートに帰ると、部屋は真っ暗だった。
いつもは灯がついていて、遅くなっても待っていてくれたチャンミンだけれど、やはり具合が悪いのかもしれない。

そして、なんともいい匂いが部屋に充満している。
牛肉を煮込んだシチューの匂い?

チャンミンが1人で食べたのか?

キッチンの鍋にはやはりビーフシチュー

ユノはなんとも言えない気持ちになった。
ぎゅっと胸が苦しくなる。

鍋の中身は明らかに1人分ではない
きっと、夕飯をいらないと連絡した時には
もう煮込んでいたのだろう

冷蔵庫を開けると、ポテトサラダがあり
カゴには美味しそうなバゲットも買ってある

その側にはワインのボトル。

チャンミンなりに…俺に申し訳ないと
きっとそう思って用意したご馳走

チャンミン…

ユノは泣きそうな気持ちになった。

真実を話せないチャンミンもきっと辛いのに
俺はなんて包容力のない男なんだろう

ごめんな、チャンミン…

そっと寝室を覗くと、チャンミンがスヤスヤと眠っていた。

あどけない可愛い寝顔

その柔らかい前髪をそっと上げて
ユノはその可愛いおでこにキスをした。


そして、ユノはシチューを温め直して
残らず平らげた

一緒に食べようと頑張って作ってくれたのに
本当にごめん。

シチューは涙が出そうなほど美味しかった


人間、ある程度大人になれば
きっと人に言えない事もあるだろう

全部開けっぴろげな、そんな俺の方が珍しいのだ

努力するよ、チャンミン。
俺に隠し事をするお前さえ、包み込めるように。

その行動の裏にある気持ちを俺は信じようと思う。



翌朝、先に起きたチャンミンは
キッチンに入ってシチューが残っていないことに驚いた

残り全部をユノが食べてくれたのか。

昨夜は1人さみしく、泣きながらシチューを食べたのだ。
もう、猫に戻ってしまった方がいいのかもしれないと、
そこまで考えてしまうほど、寂しかった

チャンミンは思い直して
残ったバゲットに野菜とハム、チーズを挟み朝食を作った。

ユノの事がなにより好きなのだと
毎日の行動でわかってもらおう

チャンミンは笑顔でユノを起こした

おはよう!ユノ





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大好き 28



ユノは翌朝、ほとんど眠っていない状態で起きなければならなかった。

ベッドではまだチャンミンがぐっすりと眠っている

顔色は少しよくなったようで
額に手を当てると、昨日より熱が下がっている

ユノの手の冷たさに、チャンミンの眉毛がピクリと動いたので、急いで手を離した。

ユノはそっとベッドを出ると、洗面所で身支度をした。

今は、好きなダンスの仕事をしているせいか
以前のような出勤前の重い気分はない。

それでも肉体労働の部分は多くなったので、今日みたいに寝てない状態での出勤はつらい。

ユノは顔を洗いながら考えた。

チャンミンの寝顔をみて
自分はどう感じたか

スヤスヤと眠るその姿を、相変わらず愛おしいと思えた。
ユノはそんな自分に安心した。
今日も何も変わらない。
チャンミンはチャンミンで
俺の気持ちも想いも、何も変わらない


そう思っていたのに…


カタッと音がして振り向くと
チャンミンがノソノソと起きて来た

「おはようユノ、ごめん、朝ごはん…」

「いいよ、まだ熱あるんだから寝てな」

「昨日よりね、かなり良くなったよ」

「いいから、寝てな」

「じゃ、コーヒーだけでも、ね?」

そう言ってふんわりと微笑むチャンミンを見ていたら
ユノの中にまたあの黒い雲が湧き上がって来た

「いいから、寝てろって!」

「………」

思わず大きな声が出た

「……」

チャンミンが固まって、まるで息をしていないかのようだ。

チャンミンは思った…
こんな事が、前にもあった…ユノに怒鳴られちゃったこと。
そう…あれはスジンさんのハイヒールを噛んでしまった時だ。
あの時は本当に僕が悪くて…

だけど今日はどうして?

「………」

あ…昨日のこと…か…

「ごめん…ユノ…」

「…………」

「僕……」

「謝るのは俺だ…大きな声だして…ごめん…」

ユノは怒鳴った自分に落ち込んだ…
イライラしてあたってしまった…

「………」

「また夜に高熱でも出されるとさ、俺、今は身体使う仕事だから……その…」

俺は…何を言ってるんだ

まるで、チャンミンに熱を出されたら
やっかいだ、みたいな言い方

「なんて言うか…」

チャンミンが明らかな作り笑いをした

「そうだよね、ごめんね。
また熱が出たら迷惑かけちゃうよね」

「………」


やっぱり早めにはっきりさせたい
ユノはそう思った


「チャンミン…」

「なに?」

チャンミンが縋るような視線でユノを見る
ユノの口からどんな言葉が出てくるのか不安なのだろう


「俺にどうして言えない?」

「……」

チャンミンが息を飲むのがわかった

「昨日の事だけどさ、どうして、俺に本当の事が言えないかな」

「………」


悲しそうな瞳がやっぱり愛おしくてたまらない
ユノの表情が少し和らぐ


「どんな事でも受け止めるよ。約束する。
それを理由に俺はチャンミンを嫌いになったりしない」

ユノの目が真剣だ

チャンミンをまっすぐに見つめている

一歩、ユノがチャンミンに近づいた

「俺はお前に隠し事はしない。
言わなくていいと思う事は言ってないかもしれないけど、例えば、過去の恋愛とかさ…
だけど、チャンミンが知りたいと言えば、なんでも話すよ」

チャンミンの表情が強張る

「………」

「………」

「僕は話せない」


「じゃあさ、どうして話せないか、それだけでも
言ってくれないか」

「言えない…話せない理由も…言えない」

「俺が信用ならない?」

「そうじゃないけど…でも言えない」

「じゃ、これだけ教えて。
チャンミンは本当に記憶喪失?」

「……」

「……」

「ユノは……嘘や隠し事は嫌いなんだよね?」

「ああ、大嫌いだ」

「………」

「………」

「記憶喪失は…ウソです…」

そう言って、チャンミンは下を向いてしまった

「……チャンミン」

「……」

「何かあるなら、力になるよ…」

「………」

「警察に追われてるなら、命かけて匿う。
どんな罪を犯してたって、俺が受け止める」

「………」

ユノは切ない表情でチャンミンを抱きしめた

「チャンミン…お前を愛してる…」

その言葉に、ユノの胸の中でチャンミンがギュッと目を閉じた

「だから、俺を信じて…全部話してほしい。」

「………」

ユノがチャンミンの答えを待っている
身体を離して、伺うようにチャンミンの顔を覗き込む

ユノ…言えないんだ…
僕はあなたの側にいたいから…

傷つけて本当にごめんね


「言えない…」

「………」

「………」

「そう…」

「……ごめんね」

「いいよ、しつこくて悪かったな」

「僕…」

「もういいよ、じゃあ行ってくる」

「ユノ…あ…いってらっしゃい」


ユノはリュックを背負って部屋を出た。


毎朝、この「行ってらっしゃい」でどれだけ幸せになれただろうか。

「お帰り」を行ってもらうことで、どれだけ満たされたか。

純粋で素直で可愛くて、俺だけを見つめてくれたチャンミン。

揺るがないはずのチャンミンへの想いが
少しだけ色褪せる

かつて、スジンへの想いが冷めていったのとは
まったく違う感情だった。

チャンミンに裏切られたようなこの気持ちは
スジンの浮気がわかったあの日とは
比べようがないほどショックだ。


チャンミンはひとりベッドにもぐって思い悩んでいた

どうしよう

たぶん、すっかりユノの信頼を失ってしまった。
だけど、どうしても言えないよ

だって、猫に戻ってしまったら
もうユノと…

なんとかして、ユノが大好きな気持ちは本当だって
わかってもらいたい

毎日、がんばるしかない…
気持ちを伝えよう、せっかく人間になったんだ。

多少フラつく身体を奮い立たせて
チャンミンは部屋の掃除をし、そして買い物に出かけた

今、自分がユノのために出来ること

小さい事だけど、美味しいご飯を作って
笑顔にしてあげる事だ。

チャンミンにはそれしか思いつかなかった

牛スジ肉が目に付いた。

はじめてだけど、じっくり煮込んだビーフシチューはどうかな。
今から煮込めば、ユノが帰ってくる頃には
きっと美味しいシチューが出来そうだ。

チャンミンは少しテンションが上がってきた。

野菜も買い込み、早速シチューにとりかかった。


ユノはダンスを始めると、昨夜の疲れもどこかへ行ってしまった。
やはり、ダンスが好きなのだ。

その日、いくつかのレッスンが終わるとドンへから連絡があった。

「たまには飲みに行かないか?仕事の様子も聞きたいし
チャンミンのノロケ話でも聞いてやろうかと思って」

「うーん、そうだな」

ドンへには仕事の様子は話さないとならない。
転職についてよく相談に乗ってもらっていた。

それに…チャンミンの話も聞いてもらおうか

「ああ、実は聞いてほしい話もあってさ、
居酒屋の個室とっておくよ」

ユノはドンへとの電話を切ると、すぐにチャンミンに連絡をした。

「はい!」

「あ、あのさ、今夜ドンへと呑んでくるから
夕飯はいらない」

「えっ?いらない?」

ユノは時計を見た。
まだ夕方にもならない時間だった。

「まだ作ってないだろ?」

「……うん」

「熱は?」

「もう…大丈夫…」

「あんまり大丈夫じゃないみたいだな」

「………」

「…チャンミン?」


電話の向こうで、チャンミンは鍋の中を見つめていた
この美味しそうな匂いが、ユノに伝わるといいのに。

「……ん?」

「ほんとに大丈夫?」

「うん、全然大丈夫」

「じゃあ、今夜は早く寝て」

「はい」



電話を切ると、チャンミンはため息をついた





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あけましておめでとうございます。
百海です。

楽しいお正月を迎えられたでしょうか?

今年もマイペースにはなりますが
切なく甘い2人のお話を描いていけたらと思っています。

どうぞよろしくお願いいたします。
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