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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

大好き 27


チャンミンはユノの表情に驚いた

整ってはいるけれど、元々甘い顔立ちとは言い難いユノ
怒るととても冷たい印象になる

チャンミンは思わずヘラヘラと微笑んだ

「ユノ、あのさ…大きな病院に行こうかと思うんだけど」

「………」

返事はなかった。

「でも…寝てれば…治るかな…うん」

ユノはなにも言わず車に戻った

チャンミンもフラフラと後をついて行き
助手席に乗った。

「家に帰ろ?ね?」

「………」

ユノは真っ直ぐ前を向いて
感情のない、いや、完全に怒った顔で運転をしている。

結局、車は大きな病院の急患入り口に入って行った

やっとユノが口を聞いた
けれど、それはチャンミンにではなく、窓口の人にだった。

「急患なんですけど、保険証などはないんです。
事情は誰に話せばいいですか?」

「そうですか。とりあえず受付か医師に相談してもらえますか」

「ありがとうございます」

テキパキと事をすすめ、ユノはチャンミンを抱きかかえるようにして、ロビーへと向かった。

チャンミンがよろけた時、

「大丈夫か?」

ユノがひとことだけ口をきいてくれた…

チャンミンは嬉しくて、少し微笑むと
ユノは慌てたように目を逸らした。



チャンミンはされるがままにロビーのソファに座らされ
ユノはダウンを脱ぐと、チャンミンの肩にそれをかけた。

暖かいユノのダウンにチャンミンの胸が悲しく軋む。

ユノを怒らせている

でも、チャンミンにはどうすることも出来ない。
人間になって、なぜ先にシウミン先生の所に行かなかったのか。

そんな事を今更言ったところで始まらない。

ユノはロビーを横切る看護師を呼び止めて話をしている。

小柄な看護師に、長身のユノは腰をかがめて話をしている。その後ろ姿。広い背中。

頼もしくて大好きなユノ。

あんなに怒っていても、結局はチャンミンのために
いろいろとしてくれる。

チャンミンはふと、スジンの事を思った。

出世したそれなりの男と結婚したかったスジン。
だから、ユノの保険として、ほかの男とも付き合っていたけれど、
結局はユノが良くていつも戻ってきた。

その気持ちはわかる。

だって、ユノより素晴らしい男なんて
この世にいるのだろうか

自分はユノが本当に優しい人間だってことを
この身をもって知っている。

寒い夜、捨てられていた仔猫を思わず拾い上げたユノ。
自分の損得は考えない心

僕はユノが大好きだ。

それはずっと変わらない

昔も今も、そしてこれからも…


ほどなくして、チャンミンは診察室に通された

ユノがぴったりとチャンミンにくっついている。

医師は簡単に喉や胸の音を確認すると
ま、風邪ですねと、大雑把な感じで診断をした。

「それより」

それより?

「記憶喪失だとか?」

「あ…」

「今日は当番で急患ですけれど
専門はこっちなので、よかったら聞かせてください」

そう言って医師は自分の頭をコツコツと叩いてみせた。

「えっと…」

「どこまで覚えてますか?
一番古い記憶を話していただけますか?」

「一番古い記憶は…」


気づいたら、駅にいたんだ…

身体中が痛くてたまらなかった

やっとの思いでなんとか歩いて…


チャンミンの顔が険しくなった

その前の事は思い出したくもない…
つらい記憶

猫から人間へと、心と身体がバラバラになるような日々

チャンミンはギュッと目をつむった。

「先生…」

助け舟をだしてくれたのは、ユノ。

「生活の中で何かを思い出すようなことがあれば
またご相談に来ますので、今日はどうか…」

チャンミンは悲しくてたまらなくなった。
記憶喪失だと言った日から、いろんなウソをつかなくてはいけなくなってしまった。

「そうですね。それはいいとしても、警察には言わないとね。
捜索願が出てるかもしれないから」

これからも、いろいろな嘘をついて生きていくのだろうか。

大好きなユノにも…

「いやです!」

チャンミンが突然大きな声を出した

「警察とか困ります。
僕は…このまま、ユノの側にいたいんです」

「ユノって、この方?」

「そうです。もうほっておいてください!」

「チャンミン」

ユノがたしなめた。

「もう、そういうのイヤなんです。
誰かに調べられたりするのはイヤなんです」

チャンミンは自分の両膝をつかんだ。

「君は何か調べられることに恐怖を感じてるようだけど」

「誰だってイヤでしょう?」

「チャンミン…わかった。もういいから。」

ユノがチャンミンの手を握りしめた

「だから、調べたりしないで、ね?ユノ」

「………」

「お願い、もう帰ろう、帰りたい」

「………」

「お願い…」

「……わかった」


医師はやれやれと言った顔をした。

「ま、情緒が不安定なのも、記憶障害によるものと考えられます。改めて診察に来てください」


それからチャンミンは少し点滴を打ってもらい
楽になったところで病院を出た。

トボトボとユノの後ろを歩くチャンミン

2人とも黙っていた。

車に乗って家に帰ろう。
ユノと僕が住む小さなアパートへ


僕はまだ生まれて3年くらいしかたっていないけど
人間になる1年でいろんな事を学んだつもり。

だけど、わかったのはただひとつ

誰かを大好きだと思うパワーってすごいって事。

ユノの事を思って、あれだけの苦行に耐えることができた。


車窓の外を眺めたら、遠くの空が白んでる

「ユノ、もう仕事行かなきゃだね」

「ああ」

「ごめんね、疲れたまま仕事行くことになって」

「………」

「ユノ…」

「………」

「ユノは、嘘とか隠し事が大嫌いだよね」

「ああ、大嫌いだ」

「その嘘が大嫌いな気持ちと、僕を大好きだと思う気持ち、どっちが勝ってる?」

「………」

残酷な質問だね、チャンミン…

「………」

「……大好きな気持ちが…全然勝ってる」

ユノの表情は険しい


こんな葛藤をユノにさせているなんて可哀想だ。

どうしたらいいんだろう



「チャンミンは?」

「ん?」

「俺を好きだという気持ちと、隠し事をしたいという気持ち、どっちが勝ってるの?」

「僕は!」

「………」

「僕は…その気持ちはひとつなんだ」

「意味がわかんないよ」

「ユノを大好きと思う気持ちと、隠し事をしたいという気持ちは同じことなんだ」

「………」

「違う…えっと…隠し事はしたいんじゃなくて」

「隠さなきゃならない事があるって意味?」

「そう」

「………俺のために?」

「僕の…ために…」


フッとユノが笑った

「ほんとにチャンミンは、なんていうか…」

「………」

「隠し事をしている、なんて堂々と言わないんだよ、普通はね」

「………」

「あの男たち、だれ?」

「先生と駅員さん」

「いや、そうじゃなくて…」

「………」

「チャンミンにとって、どういう男たち?」

「………言えない」

「………」

「言えないんだ、ごめん、ユノ」


ユノはため息をついた

ここで、適当な嘘をついてくれたらいいのに。

捨て猫を拾って見てもらったとか
駅で落し物をした時知り合ったとか。

そう言ってくれたら、俺は少し穏やかな気持ちになれた

俺はたしかに嘘をついたり、隠し事は嫌いだ
だけど、大人になれば相手を思いやる気持ちから
嘘をつくことだってある。

あまりに幼くて、正直なチャンミン
そこがたまらない魅力でもあるけれど

その純粋すぎる正直さは、時に氷の槍となって
相手の心を突き刺す

透明すぎる堅い槍

それさえ溶かすほどの度量が
俺にあるだろうか






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百海です。
いつも読んでいただいてありがとうございます。

みなさま年末はいかがお過ごしですか?
私は相変わらずバタバタと過ごしています。

お話ですが、本当は年末年始に向けて
明るく楽しいお話であればよかったのですが
流れ上、この時期にだんだんと切ない雰囲気になってしまいました(^_^;)

実はお話は先まで出来上がってはいるのですが
お正月には相応しくなさそうなので
明日、1月1日から1月3日までおやすみすることにしました。
1月4日から再開しますので、
よろしかったらまた遊びにきてください。
お待ちしてます!

今年は去年よりペースは落ちましたが
どのお話も大好きで、描きたくて描いたものばかりだったので、満足な1年でした。
この拙い文章で好き勝手に綴っているお話を
読んでくださって本当に感謝しています。

来年もまたどうぞよろしくお願いいたします。

大好き 26



ユノの車がクリニックに着いた。

チャンミンはよろよろと車から出て行き
クリニックのインターフォンを鳴らした

いくら鳴らしても誰も出てこない

チャンミンはドアにへばりつくようにして
もう泣きそうな顔をしている。

ユノはチャンミンを車に戻して
今度は自分がドンドンとドアを叩いた

なんとも言えない怒りの感情が湧いてくる

それはもちろん、クリニックに誰もいないからではなく
なんで自分はこんなことをしているのか、という苛立ち

その矛先がチャンミンだとは思いたくなかった

チャンミンが何か自分に隠し事をしているなんて
そんなこと認めたくないのに

言いようのない苛立ちに思い切りドアを叩いた

近所の人が怪訝な顔で出てきて
ユノはドアを叩くのをやめた

ハァハァとユノの息が荒い

近所の人が恐る恐る声をかける

「あの…先生はお住まいが別なんです…」

「そう…ですか…すみません、大きな音たてて」

ユノは下を向いたまま、謝った

「急患なのかしら…」

「あ、はい…ちょっと…はい…すみません」

「ペットはなにも言えないから、かわいそうよね」

「ええ…そう…ですね」


ユノは頭を深く下げ
そして車に戻った。

「先生…いないよ…」

「そう…どうしよう…」

「大きな病院なら今日やってるから」

「病院はダメなんだ…」

「俺がこれまでの話をしてあげるから」

「ダメだよ…」

何かがバレたら、猫に戻っちゃう
そんなのイヤだ

誰かに相談…

あ、そうだ

「ユノ…悪いけど、駅で降ろして」

「は?どこ行くの?」

「駅に…用事があるの…どこも行かない」

「………」

「お願い…」

「わかった」

今はチャンミンの言うことを聞くしかなかった

車に戻ると、エンジンをかけた
駅なんて、すぐそこだ。

「チャンミン…」

「……ん?」

かなり辛そうだ

「俺は今はなにも言わない」

「………」

「だけど…良くなったら、話がしたい」

「………」

「いい?」

「ん……」


こんなに純粋で優しくて可愛いチャンミンなんだ
きっと俺が納得できるような事情があるはずだ

俺が更に守ってやらなきゃと思えるような事情が

チャンミンが俺を裏切ったり、隠し事をしたり
嘘をついたりするはずがない…

どうか、頼む…

ユノは祈るような気持ちだった。

駅に着くと、チャンミンは転がり落ちるように駅舎に向かう。

そういえば、映画に行く時も
チャンミンは駅舎を気にしてた。

ユノは車を停めて、チャンミンの後を追うと…

ちょうどチャンミンは駅員に肩を抱かれ
駅員室に入るところだった。

背の高く若い男
見映えのいいクールな感じのカッコいい駅員だった

「チャンミン!」

ユノの声に2人が振り向く

チャンミンは弱々しく、そこで待っててと
手でユノを制した

まさか…なんで?

俺は来るなというのか。

その男は誰だ

2人で駅員室の中で何をするんだ


ユノの心に渦巻く疑問と疑念

チャンミンへの信頼が音をたてて崩れて行きそうな気がした。

あいつが、チャンミンが俺に嘘をつく訳がない。
そんなことあるわけない。

いつも「ユノ、大好き」と言いながら
抱きついてきて

黙っていればいいような事だって
何の恥ずかしげもなく口から出てしまうような
そんなチャンミンなのに。

何でも正直すぎるところが
魅力でもあり、ユノを困らせるところでもあった。

そんなのなんでもなかった。

だって、そんな正直なところが
チャンミンの透明感の源だからだ。

ウソがつけない、昔のことを何も覚えていない
ユノしか頼れない

そこが欠けたら、チャンミンを嫌いになるかというと
そうではないけれど

だけど…

この裏切られ感はなんだ?

俺が…かなりウザイのは自負しているけれど

でも…

ユノの心に湧き上がるモヤモヤとした黒い雲
それは低気圧のようにその心を荒らした

チャンミンはチラッとユノを気にしていたようだけど
結局はその男と、駅員室に入ってしまった。

そう、肩を抱かれて


ユノはその場に立ち尽くした。

いつまで待てばチャンミンが出て来るのかわからないけれど、
出て来るまでいつまでも待つつもりだった。

問いただすなんて、そんな上から物を言う資格は自分にはないかもしれない。

でも、自分の気持ちは言っていいだろう。


ユノは立ちすくむ
駅員室のドアを睨みつけながら。


駅員室に入ったチャンミンは
難しい顔をしていたユノが気にはなるものの
自分の体とこの状況ばかりが心配で、そこまで気を回すことができなかった。


駅員は呑気にお茶を淹れていた

「アンタすごいなー
やっぱり綺麗な猫は綺麗な人間になるんだね」

「は?…そんなことより…あの…僕」

「風邪ひいたの?具合悪そうだね」

「たぶん…だけど…ほら…普通の医者に行っちゃマズイんじゃないかって…」

「え?どうして?」

「だって!普通の体じゃないかもしれないじゃん!」

「緑の血がでるとか?」

「え…そんな、あ!からかうの?!」

「いやいや、シウミン先生からいろいろ言われたでしょう?」

「それがね…人間になって、そのままユノのところへ行っちゃって」

「ユノって、あの、鬼のような顔でこっち見てたイケメン?」

「そんな怖い顔してた?」

「おいおい、ヤバイくらい怖い顔してたぞ」

「どうしよう…」

「バレるなよ?猫だったこと」

「うん…」

「大変な思いをしただろ?
身体はどこもかしこも人間だよ」

「じゃあ、普通に医者行って大丈夫?」

「平気だよ、保険証みたいなのも、シウミンが作ってくれてるはずだけど」

「そんなのないよ」

「えーそれじゃダメだろ。なにか身分証明するもの
生きていくのに必要でしょう?」

「僕ね、記憶喪失ってことになってるから」

「あーそうなんだ。それは都合いいね。
ドラマだな、まるで」

「とにかく、わかった…じゃ、僕行くね」

「幸せにね」

「もう幸せだよ?」

「へぇーー!それは良かった
くれぐれも猫ってバレるなよ」

「うん」

チャンミンはフラフラしながらも笑った。

外へ出ると、ユノが仁王立ちになっている。

さっきは気づかなかったけど
本当に鬼のような形相だった…





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大好き 25



2人の吐息だけが響く
狭いユノの部屋

チャンミンは自分が宙に浮いてしまうのでは
という感覚に怯える

それをユノが組み敷いて押さえる

チャンミンが浮いてしまわないように

もうチャンミンが限界にきた頃
ユノが身体を反転させて、チャンミンを腹の上に乗せた。

違った刺激にチャンミンがユノの手を握る

その握る力がチャンミンの悦びを表す

ユノは全力でチャンミンを愛する
高みへ導き、開放してやるのだ
それがユノの悦びだった。

愛することに集中して
満たされた心と身体

「ユノ…」

「なに…」

まだ、ユノの上にいて、息も整わないのに
チャンミンが話しかける

「気持ち良くて死んじゃうかと思った」

ユノは参った、と言わんばかりに
片手で自分の目を覆い、盛大に笑った

「なんでそんなに笑うの…」

「チャンミン…正直だなぁ」

「だって、ほんとにそう思ったんだもん」

「はいはい、それは良かった。
喜んでもらえてなによりです」

ユノは口を尖らずチャンミンの頬をそっと撫でた。

優しく笑うユノをチャンミンはじっと見つめる

「ユノ、ほんとにカッコいいね」

「そう?チャンミンも綺麗だよ」

「そ?だったら他の人には目がいかないね?」

「そうだなぁ、チャンミンより綺麗だっていうやつは
なかなかいないなぁ」

「ダンス教室の生徒さんも?」

「チャンミンより綺麗な生徒はいないなぁ」

ユノは天井を眺めながら、面白がって答える

「そんなことないよ、僕より綺麗な人はたくさんいる」

そう言って、チャンミンはユノの腹から降りようとした
その手をユノが掴んで引き止める

「だけどね、チャンミン」

「?」

「こんなに可愛いやつは、どこにもいないよ」

チャンミンはニコッと嬉しそうに笑った。

「こんなにユノを好きなやつも、いないんだからね?」

「それはどうかなぁー」

「なんでだよっ!」

チャンミンがユノの首を絞めるような素振りをした。

ユノは苦しそうなフリをしながら
再び盛大に笑った


それからしばらくグダグタとしていた2人だったけれど
夕方になって、チャンミンの様子がおかしくなってきた

「顔色が悪いぞ、具合悪いんじゃないのか?」

「喉が痛いと思ってけど、声出しすぎたかなって」

「ちょっ////」

「でも、頭も痛いのと、寒くてしかたない」

「風邪ひいたんじゃないか?」

ユノがチャンミンのおでこに手を当てると
すごい熱だ。

「お前、熱あるよ。医者行ったほうがいい。
今日は休みだから、少し大きな病院に行こう」

病院?

どうしよう

僕の体って、お医者さんに見せてなにか不都合ないかな?

シウミン先生に聞かなきゃ

できたら、シウミン先生にみてもらいたいな
ダメかな

チャンミンはフラフラとしながら
玄関に出ようとした。

「チャンミン!どこに行くんだよ!」

「ちょっと、人に会いに…」

「人って?そんな身体で誰に会うんだよ!」

「お医者さんに…行く…」

「だから、今日はどこも休みだからさ…
大きな病院に今連れてってやるから。
車をここまで持ってくるから待ってて」

「いや、大丈夫だから…」

チャンミンはユノの制する手を押しのけて
靴を履こうとする

「チャンミン!」

ユノはチャンミンの両肩を掴んだ

「なんでそんな無茶言うんだよ、どうしたの?」

「これには事情があって…」

「事情?」

「うん…なんていうか…その…」

「記憶喪失の事を聞かれたりするのがいやなのか?」

「そうだね、そう、そういうことだから…」

チャンミンは適当にユノの話に乗って答えた

その言葉にユノがムッとした。

「いいから、ここに座ってて」

チャンミンは玄関からソファに引きずり戻されそうになる。

「あ、ユノ、違うんだって…行きたいところがあるから」

「行きたいところ?行きたい病院?」

「そう…」

ユノが怪訝な顔をした。

かかりつけだった病院か何かを覚えているのか?
どういうことだ。

チャンミンが自分に話してないことがある。

それはユノにとって、受け入れがたい事だ。

それでも辛そうなチャンミンの様子に
その頑なな意志に

とりあえず、楽にさせたいとユノは思い
チャンミンが行きたいところに連れて行こうとした。

それなのに…

「1人で行くから」

「は?そんなフラフラしてるのに?」

「…大丈夫…」

「なんなんだよ…いいから車に乗って、
行きたいところに連れて行ってやるから」

チャンミンはあまりに身体が辛くて
とりあえずユノに従うしかなかった


この時、そんなに心配せず
暖かくして寝ていればよかったのかもしれない

それで楽になれば、よかったのかもしれない

でも、人間になって初めての体調不良に
過度に不安になってしまったチャンミンは

この時、そうするしかなかった


ユノの車に乗ったチャンミンはグッタリとしていた。

ユノはチャンミンに対する疑念をなんとか押し殺した
今はそのことは考えまい
とりあえずチャンミンを楽にさせないと。

ユノは険しい顔をしていた

「で?どこに行きたいの?」

「シウミン先生のところ…」

「シウミン先生?どこ?」

「ペットの…」

「あ…」


そこで、ユノの記憶がひとつに繋がった…

前にチャンミンがカフェで一緒だった男

どこかで見たことがあると思ったけど
ペットクリニックの先生か。

前に一度だけ、仔猫のチャンミンを連れて行ったことがある…

料理の先生だと…チャンミンが嘘をついたのか…

「…あの先生に…会いたいの?」

「…あの先生?」

「カフェにいた料理の先生…」

「あ……」

しまった…

あの時、咄嗟に料理の先生だと言ってしまった…

ユノは仔猫だった僕とあのクリニックに行っていたから
シウミン先生を知っていたんだ…


「ごめん…ユノ…なにも聞かないで」

「………」

ユノは黙って車を出した

「チャンミン」

「…なに?」

「さっきの取り消し」

「さっきのって?」

「お前は正直だなって、話」

「ユノ…」

「………」

「ごめん…なにも聞かないで…」

「聞かないよ」

そう言うと、ユノの口元は真一文字に引き結ばれた

その冷たい横顔

その横顔を眺めながら

チャンミンの心には深い悲しみが広がっていった





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大好き 24



みんなが帰って、ユノとチャンミンは後片付けをしていた。

「チャンミン」

「ん?」

キッチンを片付けているチャンミンを
ユノが後ろから抱きしめた。

「疲れた?」

「大丈夫だよ?具合悪そう?」

「元気がないみたいに見える」

「大丈夫」

「ならいいけどさ」

ユノはチャンミンから離れて
風呂の用意をしに風呂場へ入って行った。

ユノはチビ猫だった僕に会いたいのか…

それがユノの望んでいるただひとつのこと。

考えてみればそうかもしれない。

ダンスをやることは元々ユノが持っていた夢…

だけど仔猫のチャンミンが人間になることなんて
ユノはまったく望んでなかったよね

だけど、僕はまた猫に戻るのは嫌だ
だって、もうユノと話はできないし、それに…

ユノが風呂場からキッチンに入ってきたことを
チャンミンは気づかなかった。

「チャンミン?」

いきなり耳元で聞こえたユノの声に
チャンミンはビクッとした。

「疲れてるんじゃないか?
あんなに友達呼んじゃってごめんな」

「え?何言ってるの?
すごく楽しかったよ!できたら、またたくさん人呼ぼうよ」

「いいのか?」

「いいよ、どうして?楽しいじゃん」

「………」

ユノが愛おしそうにチャンミンを見つめる

「スジンはこういうの、すごくイヤがってさ…
正直こんなに友達呼べたの初めてだったんだよ、俺」

「そうなんだ。楽しいのにね、なんでイヤだったのかな」

「やっぱり、楽しいよな?」

「うん!」

明るく返事をするチャンミンを
ユノは思わず抱きしめた

「ありがとう、チャンミン」


ありがとう

それって、僕がユノに何かいいことを
してあげたってことだよね?

だとしたら…

やっぱり僕はこのままでいようっと。
猫のままじゃ、顔を舐めてあげるくらいしかできないし鍋の用意も、人をもてなすこともできないしね。

チャンミンは少し元気になった。


次の休み、チャンミンは初めてユノに映画に連れて行ってもらった。

駅から電車に乗り、少し大きな街へ行った。
電車に乗る時、あの人間になる手ほどきをしてくれた
駅員さんを探したけれど、いないみたいだ。

キョロキョロと駅舎を見ているチャンミン

「何か気になる?」

「え?いや別に」

ユノは正直、チャンミンをあまり外に出したくなかった。

何がきっかけで昔を思い出すかわからない

そうしたら、自分の元をすぐに離れてしまうかもしれない。

そんな事は想像しただけで身震いがした。

考えられない

ユノは思わずチャンミンの手を握りしめた

そう、どこへも行かないように…




映画は宇宙戦争モノだった。
実際は長い物語の一部を切り取って映画にしたものだったけれど、人気があるだけにとても楽しめる作りになっていた。
チャンミンはいちいち驚いたり、時に泣きそうになったりして、その様子にユノはさらに愛おしく思う。

連れてきてよかった

外に出したくない俺のエゴで
こういう楽しみから隔離してかわいそうだよな。


帰りに、駅から公園を抜けて少し歩いた。

たわいないお喋りをしていたけれど、
時折、ユノが植え込みを覗き込む

「なにしてるの?ユノ」

「うん、前に仔猫のチャンミンが家から出ちゃったことがあってさ」

「……」

「その時、この公園にいたんだよ。
だから、またここにいるかなと思ってさ
たまに仕事帰りにここを探してるんだ」

「そう…」

ユノ、あなたが探しているチャンミンはここにいるんだよ?

「頭がよくてね、俺の言ってることがわかってるみたいで…自分が邪魔になったって、きっと勘違いして出て行っちゃったんだろうな」

ユノは眩しそうに公園の向こう側を眺めていた。
彫刻のように綺麗な横顔

でも、その声はとても寂しそうだ。

「ユノはその猫がとても好きだったんだね」

ユノは遠い空を仰いで微笑む

「可愛いんだよ、俺の後ばかりくっついてあるいてさ。
いっつもパーカのポケットの中に入ってんの」

「ふぅん」

「小さかったチャンミンを俺が育てたんだ」

「感謝してるよ、きっと」

「どうかな。俺、ちゃんと面倒見れないのに拾ってきちゃってさ。無責任だったと思う」

「そんな…」

「いつも家の中に1人にすることが多くて。
そんな俺が飼っちゃいけないのに。」

「そんなことないよ!だって、あんな寒い夜、
ユノが拾ってくれなかったら、きっとその仔猫は死んじゃってたよ?」

「そりゃそうだけどさ…」

「だから、絶対そのチャンミンは、ユノに感謝してると思うよ?」

「だと、いいな…」

「そうに決まってるよ」

「だけど、やっぱり会いたいな。
もう誰かに拾われて幸せに暮らしてるのかな。」

「それは…」

「だからさ、この辺で野良猫になってないかって
この公園を通りたくなっちゃうんだよ」

「ユノ…」

「俺のこと、忘れちゃったかな
それはそれで悲しいな。」


「忘れてないよ…忘れるわけないじゃん…」


ユノがチャンミンを見て驚く

「チャンミン…お前が泣くことないだろ」

「え?」

気づくとチャンミンは泣いていた。

流れる涙をユノがその綺麗な指で拭ってくれる。


「帰ろ、な?」

「うん」


??

ユノはふと思った。


寒い夜にチャンミンを拾ったと
その事をチャンミンに話したことがあっただろうか?

ドンへから聞いたのかな?


ま、いっか…






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大好き 23



「大好き」って

言葉だけで伝えなくてもいいんだね?

こんな…

こんなふうに伝えてもいいんだ…

ユノの柔らかな唇と舌が
チャンミンの全身を這いまわる


こっちの方が…よく伝わる

ユノが僕を大好きだって

すごくわかって嬉しい


僕はユノに夢中で…

ユノも僕に夢中になってくれている

その表情は、あのダンスをするときと同じで

少し苦しそうに…

でも、苦しいわけじゃないって
わかるよ

それでもやっぱり僕は…たぶん…100回くらい
大好きって言った

その度に、汗が光るユノの険しい顔が
少し緩んで微笑んでくれた

ユノはなんども「愛してる」と呻くように囁いてくれて

そばにいて…

俺のそばに…

どこへも行くな…


ユノは何度も同じことを囁いた
苦しそうに囁いた

その度に僕は身体がおかしくなってしまい
その度にユノが呻く


ユノは綺麗だった

薄暗い灯の中でも
僕に影を作るその隆起した身体

僕とユノは同じ身体をしていた

同じなのに僕の身体には足りないものがあった。

それはユノ

ユノが足りなかったんだ

だからキスを深くしていくと
その足りないものを求めて僕の身体は疼いた。



俺はチャンミンが心配だった

それでもチャンミンは微笑んでいた

痛いって?そんなこと…そう言って笑った

まるで以前にもっと痛い目にあったような
そんな口ぶりだった。

チャンミンは透き通って、向こう側が透けて見えそうなくらい儚く美しかった。

優しい瞳、優しい声

俺自身が幼い頃から求めても得られなかった
そんな包み込むような優しさがあった

同じ男同士だからこそ
なんの計算もなく、相手の気持ちは手に取るようにわかり、嘘などつけなくて、つく必要さえなかった。

ありのままの…そんな俺を
大好きと可愛く何度もつぶやいて、時に小さく叫んだ

攻め込んでしまいそうな俺を
必死で押さえ込むのが苦しかった。

チャンミンを壊したくない
大事な俺のチャンミン

どこへも行くな

側にいてくれ

どうか俺の側にずっと…




翌日は休みの日で、2人はずっとベッドで過ごした。

特にたくさん話をするわけでもなく、
なんとなく2人でくっついていた。

少しづつ変わってきた2人の関係を
2人で受け止めてようとしていた。


「ユノ…」

「ん?」

まどろみの中でチャンミンが口を開く

「スジンさん、戻ってくるのかな」

不安なのだろう
そういう事をきちんと素直に言えるチャンミンは
俺より勇気があるのかもしれない

「戻らないよ、戻って来たってもう俺にはチャンミンがいるんだから」

チャンミンが安心したように微笑んだ

「心配することない」

「ならよかった。」

チャンミンがそこまで話してくれるなら
自分も素直に話してみようか

「俺もさ…心配なことがあるんだ」

「えっ?なに?どんなこと?」

チャンミンが少し起き上がって
ユノに覆いかぶさるようにして、その顔を覗き込んだ

「チャンミンの記憶が戻ったら、どうしようかって」

「記憶…?」

「今のチャンミンの記憶の中には俺のことだけしかないだろうけれど、昔のことを思い出したら…
チャンミンには俺と出会う前に、それなりの人生があったはずなんだ。
家族や友達もいただろうし、その…恋人だって…
チャンミンなら恋人が何人いたっておかしくないしさ」

ユノは気持ちが落ち着かないのだろう
その綺麗な指が不安そうにせわしなく動く

その指をチャンミンが掴んだ

ユノは少し驚いてチャンミンを見つめた。

「離れないよ?僕はユノの側から離れない。
昨夜、何度も言ったよね?」

「………」

「僕の過去なんか大したことない。
全然思い出せないんだから、ね?」

ユノがフッと微笑んだ

「わかった」


ユノはそれから、今までにない充実した生活を手にした
家に帰ればチャンミンがいて。

休みの日にはチャンミンと出かけたり
ダンスをしたり

そして、ユノは本格的に転職を考え始めた

チャンミンもそれを望んだし、受け入れ側も是非に、
とユノを望んだ。

皮肉なことに、私生活が充実してくると
あんなに嫌だった企業の仕事が波に乗り

いよいよ辞表を出す頃には
かなりの引き留めをされて困った。

最終的にいいポストと昇給を条件に引き留められた時には、ふとスジンの事が頭に浮かんだ。

スジンが側にいた頃は、まったく冴えないユノだったのに。

本当に皮肉なものだ。

試しにチャンミンにその話をした。

チャンミンは怪訝な顔をした。

「まさか、ユノ、昇給に目が眩んだ?」

「だとしたら?」

「迷い始めたの?」

「迷い始めたかもしれない。昇給はうれしいしね」

「………」

「なに?」

「なんか…僕よりスジンさんの方が…お似合いなんじゃない?そういうの、スジンさん、望んでたでしょう?」

「そうだったかな」

「そうだよ」

チャンミンは寂しそうに目を伏せた。

ユノはチャンミンに大きな封筒をペラペラと振ってみせた

「?」

「退職届、と、それにまつわる書類だよ」

「あ」

「俺、ダンスやるよ」

「ほんと?!」

「ああ、ほんとだ」

「やったね!」

チャンミンはユノに飛びかかるように抱きついた

ユノは大げさによろけてみせながら
チャンミンを受け止めた。


ありがとう、チャンミン

お前のお陰で、俺はもういちど夢をつかむことが出来そうだ。



ある夜、ユノの狭いアパートに何人もの友達が集まって
ひしめき合うように鍋を囲み、お祝いをした。

チャンミンは皿を片付けたり
ビールの用意をしたり、まさに甲斐甲斐しく働いた。

ユノもチャンミンとの関係を隠すつもりなどなく
2人の交わす視線が甘過ぎて、周りもなんとはなしに
くすぐったい気持ちになった。

ドンへもそんな2人を受け入れていた。

「チャンミンさ、外に出て働いたりしたくないの?」

「大丈夫だよ、僕そんなにお金使わないし。
必要な分はユノがくれるよ」

他のダンス仲間も興味深げに聞いてくる

「必要な分?」

「ご飯買うお金とか、髪を切りに行くお金とか」

「ほほぅ、なるほどねぇ」

ドンへが優しく笑いながら聞いた

「チャンミン、お金の問題じゃなくてさ
つまらなくない?毎日家にいて。なにかやりたいことないの?」

「やりたいこと?いっぱいあるよ?」

その言葉に、ユノがチャンミンを見た。
なにを話すのか興味深い

チャンミンがやりたいことは
できるだけ叶えてやりたいと、ユノは思っていた。

「もっとたくさん料理のレパートリー増やしたい。
ユノ、たまにだけどお酒飲むから、おつまみとか作れるようになりたいしね。
あと、意外と甘い物も好きだから、スィーツとかも作れたらいいと思うよ」


「………」

一瞬ユノの部屋が静かになった

「?」

ユノは照れ臭くて下を向いてしまった

「なんか…変?」

「いや、ユノさんがメッチャ羨ましいですっ!」

ユノの後輩が大げさに叫ぶ


そして、また賑やかな宴となった。

チャンミンは使った皿をキッチンに持っていき
少し湯を張ったりしていた。

ドンへがユノを冷やかす声を背中で聞く

「ユノ、お前もう全てを手に入れた感あるなぁ
もう望みなんてなにもないだろ?」

「うーん、ひとつだけあるよ」

「えー可愛いチャンミンが側にいて、ダンスを仕事にできるのに?贅沢だよ、ユノ」


「猫のチャンミンに会いたい」


その言葉にチャンミンの動きが止まった


「可愛かったあのチャンミンに会いたいよ」

賑やかなユノの部屋の中で
その声は一際さみしく聞こえた

チャンミンはその長い睫毛を伏せて
ユノの言葉に手を震わせていた






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大好き 22




しん、と静まり返った部屋

チャンミンの腰に後ろから回されたユノの手に力が入る

ユノはチャンミンの肩に顎を乗せた

「あの…」

チャンミンが困惑していた


「俺、お前が他の男と一緒にいるの、イヤなんだ」

「えっと…」

「たぶん、それって、ヤキモチってやつ」

「ヤキモチ…」

「嫉妬」

「あ…」

自分の恋人が誰かと仲良くしてると、怒る…あれか。

「あ、だけどそれって恋人同士の話…」

「そうだよ、変だよな俺」

そう言いながらもユノの表情は落ち着いていた。

口元には笑みを浮かべ
その切れ長の瞳は優しく細められている

悟り、のようなものをユノは纏っていた

悟ってしまった

チャンミンが自分にとってどんな存在なのか



「好きだ…チャンミン…」

ユノは後ろからチャンミンの耳にキスをした

チャンミンはギュッと目をつむる
またあの甘い電流が全身をしびれさせる

ユノは何度もキスをした

「好きだ…俺はチャンミンが好きだ…」

ユノは自分に言い聞かせるように囁いた

はぁ、とチャンミンはリズム感のないため息をつく


なんでこんなに気持ちいいの

キスをされることが
好きだと言われることが

こんなにも幸せで気持ちいいことだなんて

ユノは反対側の耳にもキスをする。

「お前を誰にも渡したくない…」


気づいてしまった

チャンミンが他の男といるのを見たあの時

どうにもおさえられない独占欲

俺のなのに

俺だけのチャンミンなのに

「チャンミン」

ユノはチャンミンを自分の方に向かせた

戸惑う表情。
その透明感のある美しさに魅入られてしまう

なんてきれいで、なんて純粋で

ユノはチャンミンの頬を両手で包むと愛おしそうに
見つめた。

正直に言うよ?


「愛してる、チャンミン」

そう言ってユノが、正面から口づけた

あの襲うようなキスではなく

なんとも言えない甘く優しいキス
頭がクラクラして、膝から崩れてしまいそう

愛してるって

ほら、その言葉は恋人同士が使う…

チャンミンはほぼ棒立ち状態だったけれど
ユノのキスを堪能した

柔らかい唇、温かい舌
その全てが優しくうごめいてチャンミンを覆い尽くす

チャンミンの奥底から何かを引きずりだそうとうごめく

どうしよう

カラダが変だ

このまま、猫に戻ってしまうのかもしれない

でも

ずっとこのままでいたい

そんな思いが強くて
チャンミンはされるがままでいた。

少したって、ユノは唇を離して
チャンミンを解放した。

残念そうな表情のチャンミンが可愛い

「もう、終わり?」

「キス?」

「そう、終わっちゃった?」

フフとユノが笑う

あー参った、という感じで前髪をかきあげると
男らしい眉があらわになる

「もっとしたいの?」

「したいよ、気持ちいいから」

「お前ね、チャンミン、それヤバイよ」

「……」

「そんなセリフ、ヤバイって」

ユノは腕組みしながら、笑ってる

腕を組むとその筋肉が盛り上がって
ユノはなんともセクシーだった。

チャンミンはまたユノに一歩近づいた。

そして、腕組みしたその腕を人差し指で撫でる

ユノはフッと視線を逸らして
どこか遠くを見つめる

チャンミンの目の前にある、横を向いたユノの目尻が
あまりに綺麗で

今度はその目尻に触れてみた

ユノは苦しそうに目を伏せる

「触ったらダメだった?」

「………」

ダメだと言ったら、またチャンミンは手を離してしまうだろう

俺はずるい。それは嫌なくせに。

全てを、チャンミンのせいにするわけじゃない

だけど

俺がしようとしていることは、
果たしてチャンミンが望んでいることだろうか

「ユノ…」

「……」

「この間から、ずっと変な気持ちなんだ」

「………」

「どうしたらいいのかわからなくて
でも、キスしても足りなくて、どんなに触っても
物足りない…」

望んでるのか。

ユノは腕組みを解いて、チャンミンを引き寄せた
そっと抱きしめて、チャンミンのうなじに顔を埋める

「チャンミン」

「ん?」

「俺もずっと同じ気持ちなんだよ」

「ほんと?」

「ああ」

「どうしたらいいの?」

「だけど、チャンミンに痛い思いをさせたくない」

「え?」

チャンミンは驚いて身体を離した

そして大きな目をくりくりとさせて不思議そうにユノを見る。

「?」

そしてチャンミンは笑った

「痛いだなんて…」

「……痛い、はずだよ。正直なところ」

「僕はあなたに会うために
どれだけの覚悟をしてきたか…」

「?」

「痛いだなんて感情、もう失うほどの…」

「どういうこと?」

チャンミンはニッコリと笑った

「痛いだなんて、気にしなくていいってことだよ。
ボクはそれでこの気持ちが落ち着くなら、全然大丈夫!」

その笑顔が合図だった

ユノの強靭だと思われた理性の糸はいとも簡単に
切れた





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大好き 21



早く帰ってきたユノと珍しく…
いや、はじめての夕飯の買い物


チャンミンは弾んでユノの傍らを歩く
鼻歌まで歌っている

ユノだけが怪訝な顔

どうしても
どうしても気になる!


「料理の先生って言ったね?さっきの男」

「ん?あ、うん、そうだよ」

「どこかで見たことあるな、どこだったろう」

「テレビじゃない?」

「あーそうか。そうかもしれない」

「それより、ユノ今日はどうしてこんなに早く帰ってきたの?」

「………いや、別に」

お前が出て行ってたらどうしよう、って思った。
そんなこと言えないけど。


スーパーに行って夕飯の食材を買った。
まわりの主婦より、頭1つ分以上飛び出た2人が
あーでもない、こーでもないと食材を選ぶ姿は人目を引いた。


楽しかった

楽しい、と2人とも心から思った。

でも、ユノ はただ楽しいわけではなかった。
その裏には少しモヤモヤしたものを秘めていた。

今日のチャンミンとあの料理の先生との姿がフラッシュバックする。

ほかの男と親しげに。
チャンミンが頼るのは俺だけだったはずなのに。

いくら俺の食事の為とはいえ
他の男に何かを相談するなんて

面白くない

俺に…俺になんでも聞けばいいのに

「ユノ ?」

「ん?」

「どうしたの?」

「いや、別に」

「後、買うものがなければ帰ろうか」

にっこりと微笑むチャンミン

なんでこんなに可愛いのだろうか
それなのに…あんな男と…

ユノは悶々としていた。


「ユノ ?」

「え?」

「ボクの顔に何かついてる?」

「いや、ついてないよ、なんで?」

「すんごい顔でボクの顔見てるから」

「/////////////」

「?」


「もう行こうぜ」

そう言って、ユノはチャンミンの手を握って歩き出した

!!!!!

いきなり手を握られて
チャンミンはびっくりした

これは…

これは…


ユノ の硬くて温かい大きな手に
チャンミンの手が包まれる

手を…繋ぐ?

経験したことのない行為に
チャンミンの胸は鼓動が早くなって苦しいほどだった

手を繋がれたまま、チャンミンは黙って歩いた。
ユノ も黙っていた


手を繋ぐって、いい!

チャンミンはユノと指を絡めて繋がるこの行為を
とてもいいと思った。

猫では経験できない、人間ならではの行為

ずーっとこのまま、手を繋いでいられたらいいな
手を繋いでどこまでもユノ と歩いていけたらいいな


アパートに帰っても、2人はなぜか黙っていた

離された手が急に冷たくなっていくような気がする
そんな風にチャンミンは感じた。


チャンミンが夕飯の支度をして
ユノ は洗濯物を片付けたりしている


さっさと手早くタオルをしまうユノを見つめながら
ふとチャンミンは思った

スジンさんは戻ってくるのだろうか。

やっぱりユノ がいいと、戻ってくるかもしれない。

追い出してしまったことは後悔しているけれど
戻ってくるのは、やっぱりイヤだ。

それはユノを縛り付けて、夢を叶えさせてくれないからだけではなく

ボクのユノ…だから。

誰にもユノを触らせたくない
ユノが誰かに触れるのもいやだ。

ボクはあなたが大好きで辛い道を来たんだ。
それはボクが勝手にしたことだなんて
そんな事、お願いだから言わないでね。

そんな風に考えたら、また悲しくなってきた
最近のボクはなんかダメだな

チャンミンの目にブワーっと涙が溢れ出す。

チャンミンがその涙が流れ出さないように
大きく目を見開いて天井を見上げた。

涙はそれでも目尻から頬をつたって流れた


タオルを畳んでキッチンへ来たユノ が、その様子に驚く。

「チャンミン?!どうした?!」

ユノ は走り寄って来て
チャンミンの顔を下から覗き込んだ。

「何泣いてるの?どうした?」

「なんでもない…」

「なんでもなくないだろ」

「ううっ…」

あんな思いをくぐり抜け
やっとの思いで人間になれたっていうのに

ユノを傷つけるような事をしてしまうし
好きだって言えば、困った顔をされるし…

突然、チャンミンは顎をすくわれて上を向かされた。

ひっ!

チャンミンの視界が突然ひらけて
目の前には自分の顎をすくっているユノの顔が至近距離にあった。

チャンミンの綺麗な瞳に涙が澄んだ池のように溜まっている。

泣いて赤くなった目尻

への字に曲がったくちびる

チャンミンはくすんと鼻を鳴らして
ユノに顎を上げられたまま。

「ほら、やっぱり泣いてるじゃないか
どうしたの?」

「もう泣いてもしかたないから、本当のこと言うね」

「うん」

「ユノ、ソファで寝るのはさ…」

「……」

「ボクと一緒に寝るのいやなんでしょ…」

「……」

ユノの表情が固まった

「それにさ…」

「……」

「大好きって言うと、ユノ 、困った顔する」


そう言うと、チャンミンはギュッと顔をしかめた
その目尻から、つーと涙が一筋流れた。

ユノはたまらないといった感じでチャンミンを見つめる

俺はずるい

チャンミンに対して中途半端なことは言いたくない


「チャンミン…」

「ん…」

「俺も、お前が大好きだ」

「え?そうなの?」

「ああ、ほんとだ」

ぱーっとチャンミンがあの花が咲くような笑顔を見せる

「うれしいよ!ユノ !」

ユノがチャンミンの顎から手を離すと
チャンミンはユノに抱きついてきた。

もうユノは驚くこともなく、チャンミンを受け止めた。

「だから、チャンミンに好きだって言われて、
俺はうれしいよ」

「でもいっつも難しい顔するからさ」

「テレてるの、わかるでしょ」

「ふぅーん」

チャンミンは口を尖らせた

「うわっ!」

ユノとしっかり抱き合っていたはずのチャンミンは
油断している隙に、くるっとカラダを反転させられて
驚いた。

気がつけば、静かな部屋に2人きり

ユノがチャンミンを後ろから抱きしめている

「……どうしたの?ユノ 」

ユノの熱い息がチャンミンの耳にかかってくすぐったい

「……」

「?」

「チャンミン…俺…」

「ん?」

「本音をひとつ言ってもいいか?」

「いいよ?」

「あのさ…」

「……うん」

「俺…お前が他の男といるの、いやだ」

「え?」

チャンミンは一瞬、よく意味が飲み込めなかった

「いやなんだよ、お前が俺以外と楽しくいるのが」


なんか…わかる気がするよ…ユノ





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大好き 20



翌日、ユノは仕事をしていてもチャンミンの事が気になって仕方がなかった。

自分の気持ちが上手く説明できなくて
チャンミンに誤解をさせてはいないだろうか。

チャンミンがイヤでソファーで寝たわけではない。
どうか勘違いしないでほしい。

だけど、ではどうしたらいいのだ。

このまま、2人でひとつのベッドで過ごしたら
自分はいつか、チャンミンにヒドイことをしてしまいそうだ。

仕事をしていても
PCの画面の内容がまるで頭に入って来ない。

記憶がないというチャンミン
おそらく一般常識も何かが欠如しているようだ。
いやいや、一般常識が欠如しているのは俺か。


だけど、とにかく可愛い

毎日、夕飯の献立を考えて
ユノの帰りを首を長くして待っている。

事あるごとに、大好きだと言われ続けて
ユノもそれが心地よく心に染みて

チャンミンは可愛い弟のよう…とは…言い切れなかった

弟…ではない

では、一体なんだ?と問われても
ユノは答える事ができない。

まず、どうしたらいいんだろう。
夜は別々に寝てほしいことを、どうやってわかってもらおうか。

あんなに寂しい笑顔にさせてしまったのは
自分の説明不足だ。

あ…

寂しい笑顔

あの諦めたような瞳をどこかで見たことがある。

思い出せない…


俺がソファで寝ると言ったことをどう思ったのだろうか。
チャンミンは自分があの部屋にいてはいけないなんて
まさかそんな風に思ったのではないだろうか。

まるで、あの日の猫のチャンミンのように
自分が邪魔だと…


ヤバイ!!!!

ユノは立ち上がった。

まわりの同僚が驚いてユノを見る。

チャンミンはあの部屋を出て行こうとしてるのではないか。

もしや、すでに出てしまっていたとしたら…
本名もなにも知らないのに

ユノはいてもたってもいられず
上司に早退を申し出ると、昼にならないうちに
会社を飛び出した。


**********


チャンミンはひとり静かなキッチンで
朝食の片付けをしていた

いつもならテレビをつけながら家事をする。

テレビはチャンミンの先生だ。

この世に生を受けてまだ間もないチャンミンに
人間としての知識を、とりあえず与えてくれる。

でも、今日はそんな気にはなれなかった。

チャンミンは猫だった頃を思い出していた。

ユノのパーカのポケットに入れてもらい
顔を舐めまわすとユノはとても喜んでくれた。

夜はユノの胸の中で丸くなって眠り
朝は薄っすらとヒゲの生えている顎を舐めて起こした。

いつもユノの方からキスしてくれたし
ユノはボクを見る時、いつも笑顔だった。

それなのに…

好きだ、という言葉をいくら発したところで
ユノは全然喜ばない

とうとう同じベッドで寝てはダメだと言われてしまった。

人間になれてよかったと思っていたのにな。

ユノにその獰猛な瞳で飛びかかられて
正直嬉しかった。

息ができないような激しいキスも
口の中にグイグイと入ってくるユノの舌も
それはとても気持ちよくて

猫だった時には味わえない喜びだったのに

ユノはボクの事が全然好きじゃない


シウミン先生が言ってたな
駅員さんも…

猫のままの方がいいって

こういう事を言ってたのかな…

!!!!!

そうだ!

忘れてた!

チャンミンはハッとした。


シウミン先生のところに行くって約束してたんだ。

少し、胸の内も聞いてもらおうか

チャンミンはユノに借りているジャージとパーカで
外に出かけた。

シウミンのクリニックは休診の日だった。

裏からインターフォンを押すと
シウミン本人が出てきた

「あ!チャンミン!」

「わかる?」

「わかるよ、なんですぐに来なかったの」

「ごめんなさい…早くユノに会いたくて」

「ちょっと外にでよ、コーヒーでも飲もう」

シウミンはチャンミンをカフェに連れて行った。

「ここはカフェってやつだね」

「まだ来たことないの?」

「ない。ずっと家の中にいるから」

「なんでだよーせっかく人間になれたんだ
いろんなところ行ってみればいいのに」

「だって、ユノのご飯作ったり、洗濯したりしてるから」

「じゃあ、ユノさんと来ればいいのに」

「……」

「ん?早速なにかあった?」

「ユノさんは…ボクが訪ねても、全然喜ばない」

「当たり前だよ、猫だったなんて思ってないんだし」

「長く付き合った彼女とも、ボクが別れさせちゃったんだ」

「へぇー」

「なんだか、ユノの為にならないことばかりしてる」

チャンミンは俯いてしまった。

シウミンはチャンミンの顔を覗きこんだ

「猫の時の自分はもう引きずってはダメなんだよ」

「……」

「新しくユノさんとの関係を築かないと
人間としてのチャンミンがね?」

「うん…そうだね」

「これからだよ?」

「うん…まだ…間に合うかな
好きになってもらえるかな?」

「大丈夫だよ!」



ユノは、足早にアパートへ向かう途中
最近オープンしたきれいなカフェの前を通った。

なんとはなしに、その店内を見るともなく見やった。

!!!!!

2人がけのテーブルの奥の椅子に
チャンミン!!

チャンミンはどこか浮かない顔をしている

向かいの男はだれだ?!

なんであんな男につかまってるんだ!

ユノの胸の奥から言いようのない炎のような感情が湧き上がってきた。

自分の中にこんな情熱があったのかと驚くくらいの
煮えたぎりそうな感情

チャンミンがほかの男といる
そんな事が許せるか!


ユノはすごい勢いで店に入って行った

「いらっしゃ…」

バイトの女の子がその勢いにびっくりした

ユノは大股で2人が座る席に向かった

「え?ユノ??」

まずチャンミンがユノに気づいた

シウミンがその声に振り向くと
鬼の形相でユノが立ちはだかっていた。

「ひっ!」
シウミンはびっくりした。

ユノの息が荒い

だれ?どこかで会ったような…
ユノはチャンミンの向かいの男の顔を見て不思議に思った

いやいや、そんなことより、なんでチャンミンと!

「なんだお前、チャンミンに何してる」

ユノはシウミンにまさに掴みかかろうとしている

「何って…コーヒーを…」

「コーヒーを奢って、なにかしようってんだろ?」

「は?」

「ユノ!違うから!」

「チャンミンはな、事情があって気持ち的にいろいろあるんだ。カンタンについて来たかもしれないけどな、
勘違いすんなよ!」

「ユノ…」

シウミンはユノとチャンミンの顔を見比べて
ニヤリと微笑んだ。

「あーこの方が一緒にいるユノさんですね?」

「なっ、なんだよ」

「いや、チャンミンくんが料理を習いたいというのでね
相談に乗っていたんですよ。」

「りょ、料理?」

チャンミンはハッとした顔でユノを見た。

「だけど、お金もかかるし、わざわざ教室に通うこともないって、話してたんですよ。」

「で?料理学校の先生かなにか?」

「ま、そんなとこです」

「ユノ、僕から訪ねていったんだよ
ごめんなさい」

「なんで謝るの?だれに謝ってるんだよ」
ユノはまだ鼻息が荒い

「えーっと、ユノ?」

「なんで俺?」

「わからないけど、怖い顔してるから」

「……」

「だから、ごめんなさい…」

「……」

「あー、あの、なんか彼は記憶がないとか?
ユノさんが警戒するのも無理ないよ、チャンミン。
昔の知り合いだとか言って近づいてくる輩には
気をつけないとですね」

「ユノは、僕を心配してくれたの?」

「だってさ…知り合いなんていないはずなのに…」

ユノはブツブツと喋っている

シウミンは笑いを堪え切れないといった風で
下を向いている

チャンミンの顔が輝く

ユノが僕を気にかけてくれた

ユノ!

チャンミンはバッと席を立ち

「じゃあね!先生」

明るくシウミンに言うと、ユノの腕を引き店を出た

連れだつ背の高い2人をシウミンは微笑ましく見つめた


「上手くいくよ、大丈夫、チャンミン」

そう言ってレシートを握りしめて
席を立った。



チャンミンは弾むように歩いた

ニコニコと、そしてチラチラとユノを見ながらごきげんだ。

ユノと言えばさっきからバツが悪そうな表情で下を向く

部屋へ戻ってきて、チャンミンは早速コーヒーを淹れた

「チャンミンは…さっき飲んだだろ?」

「だって、ユノが飲むよね」

「……」

「ね?」

「うん…飲む」




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百海です。

みなさまメリークリスマス!
今宵はだれとお過ごしですか?

なんと私は仕事です(;_;)
みなさま素敵な夜をお過ごしくださいね

大好き19



その日から、2人の間の空気が変わった

チャンミンはユノを見てるとドキドキするし

ユノはなんだか余所余所しい


相変わらず、ユノは仕事に行き
チャンミンはご飯を作ってユノを待つ。

それでもチャンミンは夜になると
1人で寝ることはできず

やっぱりユノの背中にしがみついて眠った

当たり前のようにチャンミンは枕を抱えてベッドに入ってくる。

そこには、甘くセクシーな空気はまったくない。
ごく当たり前に、これが日常だと言わんばかりに。

あえてチャンミンには背中を向けて
壁をじっと見つめるユノ

モゾモゾとチャンミンが体勢を整えるのが背中でわかる。

枕の位置を決め、アゴをユノの肩のくぼみに乗せようと
ユノの肩を後ろから引き寄せる

ユノはチャンミンと自分を隔てるTシャツの肌触りに感謝した。

チャンミンの肌を直接感じなくて済むからだ。


「ねぇ、ユノ」

「ん?」

2人は向かい合わずに会話する。
いつもなら、今夜のおかずは美味しかったか?とか
今日観たテレビの話だったり…

でも、今夜はチャンミンが切り込んできた。

「もう…甘噛みしないの?」

「え?なに?」

ユノはギョッとした。

お互い気にしながらも、ひた隠しにしているあの2人の出来事をここで引っ張りだすのか…

「甘噛みって…お前が…俺の…指…?」

あー!言わせるのか?!

「違うよ、ユノが僕の唇を甘噛みしたでしょ、あれ。」

「は?」

「こう、ガシッと…ね?」


ユノは布団を掴む手に力が入った。

なんて…

なんて可愛いことを言うのだろう


ユノは必死でなにかを自分の中に閉じ込めているのに
ちょっとでも手を緩めたら、天まで弾けそうな
そんな何かを刺激しないで

思わず振り向いて、チャンミンを抱きしめてしまいたいそんな衝動を必死で抑えた。


「キ、キス…だよ、それ」

「あーそうそう、キス」

「………してほしいの?」

「うん、してほしい」


直球だな…ホント…

「おかしいだろー男同士なんだから」

「じゃあ、この間はどうしてキスしたの」

「それは…」

「ボクはさー、ユノが大好きだから、いつでもキスしたいけど、なんだかユノがさせてくれない雰囲気なんだもん」

ユノは汗をかきはじめた。
なんで、チャンミンはこうもズバズバと言ってしまうんだろうか…

返答に困りはてて、ユノは黙ってしまった。

「ユノはボクともうキスしたくない感じ?」

「………」

なんて言えばいいのか…

したくない、とは言いたくない!
だけど、したいなんて言えない!

チャンミンは返事を待っている

ユノはさらにじっとりと汗をかいている

やがて、ユノのうなじに押し付けられているチャンミンの口元から、はーと小さなため息が漏れた。

そんな行為のひとつひとつが
ユノの身体と心をひどく揺さぶっていることに
どうか気づいてくれ
いや、気づかないでくれ


そんなユノの葛藤とは別に


チャンミンは悲しかった…

猫だった時は、ユノを舐めたり、甘噛みするととても喜んでくれたのに。

戸惑いを見せるユノが寂しい…

もう一度、チャンミンは諦めたようなため息をついた


ユノは焦った
チャンミンが自分に甘えてくる事を
諦めたりするのはイヤだ!


ユノは思わず勢いよく振り向いてしまった

「ひっ!」

チャンミンはびっくりして、大きな瞳を丸くした
ユノはなぜか泣きそうな顔をしている

「チャンミン…」

男が2人、ひとつの布団の中で向かい合う

ユノは両手でチャンミンの頬をそっと挟んだ
そしてチャンミンを見つめる

また、あの目だ!

チャンミンは思った
あの夜のあのなんとも言えないユノの目

カラダも心も引きずり込まれてしまいそう

ユノの表情は怖いくらい真剣だ。

「キスしたいなんて、言えるわけない」

「え?」

「そんなこと言ったら、最後なんだよ」

「えっと…」

!!!!!!

言い終わらないうちに、またチャンミンは突然ユノに襲いかかられた

カラダはクルッといとも簡単に仰向けに反転させられて
キスで口を塞がれて息ができない

頭をユノの逞しい両腕でホールドされて
チャンミンはもがいた

く、苦しい…

キスにまるで慣れていないその様子に
衝動的に襲ってしまったユノは少し落ち着きを取り戻した。


ユノがそっと唇を離して少し微笑んでくれた。

解放されたチャンミンは大きく息を吐いた

あー苦しかった


「チャンミン、キスするときは鼻で息すればいいんだよ」

「あ、そうか」

「満足?」

「ん?」

「キス、良かった?」

チャンミンはニッコリと笑った

「うれしかった!」

ピーっと上がったその唇にはユノの唾液が光り、
下がった目尻に生理的に出てしまった涙が光る

あまりに…

あまりにも淫らで…

まずい!

ユノはパッと飛び起きて、ベッドから降りた

「ユノっ???」

突然掛け布団を剥がされたチャンミンが戸惑う

ユノは洗面所に入って、バシャバシャと顔を洗いはじめた。

へ?

チャンミンも起き上がって、ユノを追って洗面所へ行った。

「もう起きるの?夜なのに」

「違うよ」

「………」

ユノの行動がまったくわからない

怖い顔になったり、笑ってくれたり

ユノは冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと
チャンミンの分もグラスに注いでくれた。

「ユノひとつ聞いていい?」

「いいよ、なに?」

「キスってケンカみたいなもの?」

「は?」

「テレビで観るキスと、ユノのキスは違うから」

「………」

「相手をやっつける技みたい」

「………」

それは、俺が男としての衝動を抑えきれず
爆発してしまうから…なんだけど…

「俺、そんな甘いキスなんて、できないよ」

お前には、ね?

「スジンさんにも、いつもこうやって襲いかかってたの?」

「ちょっ…」

真面目な顔で真正面から問うてくるこの天使を
だれかどうにかしてくれ…

「そんなこと…ないよ」

スジンにこんな衝動を感じたことがあるのだろうか
付き合いはじめの頃はあった?
いや、記憶にない気がする…

ソッチは淡白だと、そういう自負があった。

じゃあ、男なら違うのか

いやいや、ドンへとひとつのベッドで寝たことも何度もあるけれど、なんの感情も湧かない

「ユノ…」

「へっ?」

難しい顔をして思考を巡らせていたユノは
突然話しかけられてハッとした

見ると、チャンミンが寂しそうに微笑んでいる

ユノは胸がぎゅーっと鷲掴みにされた気持ちになった。

「ユノ、困ってる」

「あ、いや、なんていうか」

「キスすると困らせるね」

フッと目を伏せると、まつ毛が驚くほど長いのがよくわかる

大きな瞳を縁取るそのまつ毛にキスをしたい…

はーーーもう俺は狂ってる


ユノは頭をガシガシと掻いた

「あのさ、チャンミン」

「ん?」

ベッドに戻ろうとしたチャンミンが振り向く

「俺さ、やっぱりソファーで寝るよ」

「え?どうして?」

「狭いしさ…」

「………」

チャンミンの唇がへの字に曲がる
また、勘違いさせてるな…

「あーなんていうか」

「わかった」

チャンミンはニッコリと微笑んだ

あまりに悲しそうな笑顔がいじらしくて
また飛びかかってキスしてしまいそうだ

「あのさ…勘違いしないで」

なにをだ?
俺は何言ってる?

「えっと…そうじゃなくて…」

「もう、いいよ、ユノ」

チャンミンは消え入りそうな声で答えると
布団にそっと潜った





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大好き 18



ユノは少し荒い動作で食器を片付けていた

チャンミンはテーブルの前に跪いたまま
一点を見つめていた。

スジンは本当に誰かに連絡をとって
帰って行った

「チャンミン?」

「…ん」

チャンミンが口をへの字にしたまま、小さく返事をした

「そこにある鍋持ってきて」

「あ…うん」

ユノに食器を洗わせてることに気づき、
チャンミンはハッとして顔をあげた

「ごめん、洗わせて」

ユノはニコッと微笑んでみせた

チャンミンは立ち上がり、
ユノの元へと鍋を持ってきた

「そこへ置いて」

「ん」

「テーブル拭いて」

「後はボクが洗うよ、ユノ、ビール飲んで?」

「もう、これだけだからいいよ」


片付け終わって、チャンミンは冷蔵庫からビールを出して、ユノに注いだ。

「サンキュ」

ユノはキッチンに立ったまま、小さなコップでビールを飲み、チャンミンのコップにも注いだ。

「乾杯」

ユノがチャンミンのコップに自分のコップを重ねた

「乾杯?」

チャンミンがクリクリとした瞳でユノを見つめた。

「いいんだよ、これで」

「ユノ…」

「情けないけどな…女に根回しされても出世できなくて、あげくの果てに値踏みされて他の男が迎えに来るなんてさ…」

ユノは前髪をかきあげて、フッと寂しそうに笑い
ビールの入ったグラスを見つめた

綺麗なユノ…

笑うとその綺麗な目尻がすーっと切れ込んだように
こめかみに引っ張られる

上がった口角と顎のラインがほぼ一緒で
だからこんなに綺麗なのかな…

「ユノ…あなたは情けなくなんかない」

チャンミンは真剣な瞳でユノを見つめた

「そんな風に思わせてしまって
あんな状況を作ってしまって…ボクほんとにごめんなさい」

ユノは笑った

「チャンミンはなんにも悪くない
あんな姿見られて情けないけどな」

「だから…ユノは情けなくなんかないって!」

チャンミンはユノに抱きついた
その勢いにユノはよろけて笑った

「お前、いつもそうやって急に抱きつくから」


ユノの背中を抱きしめたチャンミンがフッと顔をあげたそれと、ユノが首を動かしたのがほぼ同時で

偶然にもチャンミンの唇がユノの耳を掠めた

2人はハッとしたけれど

チャンミンはユノを抱きしめる手を緩めなかった

少しだけ…静かな時間が流れた
電球の色が温かく薄暗くて…

「あなたは…なんでも自分のせいにして…
自分ばっかり責任感じて…」

ぽつりとチャンミンが囁くように言う

目の前でユノの漆黒の瞳が
チャンミンを射抜くように見つめる

お互いの鼻先が触れ合ったまま
お互いを熱く見つめた

「ユノは…情けなくなんかない…」

そう小さく呟くと、チャンミンはそっとユノの鼻先にキスをした。

キス、というより唇を押し付けてみた、という感じの
なんてことないしぐさ。

ユノは小さく震える呼吸をした

「お前、キスなんかして…」

ユノの瞳は真剣で、掠れた声がチャンミンの耳に触れる

その唇が、ユノの唇がチャンミンの耳にそっと押し付けられる…

チャンミンは全身に甘く電流が走り
思わずギュッと目をつぶった

その様子を見つめていたユノの目に雄の色が滲む

ユノの綺麗な長い指がそっとチャンミンの頬をツーと撫でて、そのぽってりとした唇に到達する

チャンミンは唇でユノの指先を捉えた

あの頃のように
甘えてはしゃいだあの頃のように

その綺麗な指を甘噛みしていい?

チャンミンは目を閉じながら
ユノの指先を口に含み、舌でころがした

ユノの息が…少し荒い

ユノはチャンミンの額に自分の額を押し付けた。

目の前で自分の指先がチャンミンの温かい舌に転がされているのを、愛おしそうに見つめた

「猫みたい、お前…」

そうだよ、ユノ
ボクはね、あなたが拾ってくれた猫

チャンミンは唇からユノの指をゆっくりと離した

そして、視線をあげると
額がくっついたまま、もうまつげが触れ合いそうな2人

「ユノ…」

「なに?」

「大好き…」

その言葉が合図となって
ユノは飛び掛るようにチャンミンに口付けた

チャンミンはいきなり口を塞がれて
その勢いによろめいた

ユノはしっかりとチャンミンの後頭部を抱えて腰を抱き

深く深く口付けた

チャンミンは目を白黒させていたけれど

だんだんと甘い何かが体に生まれ
ユノの背中にゆっくりと腕を回してユノの唇を堪能した

しばらくたって唇が離れた

ユノの鋭い瞳がチャンミンを射止める
その視線の鋭さはそのままに、フッと微笑むユノから
壮絶な色気が溢れ出す

「俺はキスなんかして…なにやってんだろうな」

「そんなこと言わないでよ、ユノ…」

「そうか?」

「甘噛みできて、うれしい」

その言葉にユノはハッとしたように目を丸くした

「甘噛み?」

さっきまでの甘ったるい空気が風船がはじけるように
切り替わった

「甘噛みって…お前…」

ユノはプッと吹き出すと盛大に笑った

チャンミンはユノの様子にびっくりしたけれど
次第に機嫌の悪そうな顔になった。

「なんで?甘噛みでしょう」

「アーハッハッハ…お前…ほんとに猫だよ」

「そ、そうだけど…」

「あーおかしい、可愛いなぁ、甘噛みなんてして」

チャンミンはぷいと横を向いた

「怒るなよ、ごめんごめん」

あーおかしい、とユノは笑いすぎての涙をぬぐった。

「甘噛みかー」

チャンミンは様子のおかしいユノを
じっと見つめていた

なんだか、面白くない

「今のは甘噛みだね、うん」

ユノはひとりで納得して、うんうんと頷いている。

それでも…いいけど

だけど

あのユノに抱きすくめられた時の
特別は感じはなんだろう

さっき、ユノは人が変わったように
襲いかかってきた。

あの時のユノの獣のような瞳を思い出すと
チャンミンはドキドキした





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