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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

蒼い月(7)



ただ警察を呼べと言われても…
何があったか知らないのになんて言えばいい?

でも、ユノにはミノの危険がわかったのだろう
とりあえず、ガンスは警察に連絡を取り、
自分も倉庫群へ向かった。

夜の倉庫群で一箇所だけに灯りが灯っているところがあった。
ガンスは急に不安になり、その場所へ向かって走り出した。

どうかユノが先に着いていますように

何が起こっているのかわからないけれど
ガンスは恐怖と不安で冷たい汗をかいていた。

灯が漏れる重い鉄のドアをガンスは思い切り叩いた

「ミノ!!チャンミン!!」

ガンガンと激しい鉄の音の中から
低い呻き声と、かすかな泣き声が聞こえた。

「大丈夫か?!」

その時、スッとその重い鉄の扉が
まるで自動ドアのように開いた

ガンスは中へ飛び込んだ。


その視界に飛び込んできたのは
なかなかに凄惨な光景だった。

灯の下で抱き合って怯えるミノとチャンミン。

その周りにはおそらく6人ほどの男が転がっていた。

それぞれが苦しそうに呻き
出血はなさそうなのに、一様に首を押さえ
喘いでいる

その側にはユノ

金色に光る瞳がガンスをとらえ
その恐ろしさにガンスは思わず後ずさった

そこにいるのは

先ほどまで柔和な笑顔で話をしていたユノではなく

恐ろしい瞳をした青白い悪魔だった。

ガンスは息をのんだ

「あなたは…やはり…」

ユノはフッと笑った

「知っていたんじゃなかったのか?」

「あ…だけど…」


まさか、まさかこんなに恐ろしいとは思わなかった


金色の瞳がガンスを捉え、
鋭角な顔立ちが更に鋭さを増す

そんな恐ろしい姿にも関わらず

ユノは…美しかった

その青白い顔をガンスに向けた。

「警察は呼んだか?」

「あ、ああ、呼んだ」

「2人を頼んでいいか」

「わかったよ…家まで送って行くから…」

ユノは頷くと、鉄の扉を開け
倉庫を出て行った。


ガンスは2人を連れて警察に行こうと思っていたけれど
倒れ苦しんでいる男たちを見渡して考えた。

もう、こんな目にあって
この2人にまた何かしようだなんて思わないだろう。

警察に行って事情を説明する方がよっぽどやっかいだ。

ガンスは怯えるミノとチャンミンを連れ出そうとした。

躊躇するチャンミンにミノが囁いた
「僕の叔父だから、大丈夫」

「チェ・ガンスです」

チャンミンは少しホッとしたように
軽く頭を下げた

表通りに出る時にパトカーとすれ違う
タクシーを拾い、まずはミノを家に返し、
チャンミンをユノの元に送った

チャンミンはまだ恐怖の中にいた。

聞けば2人で人気のない河原で話をしていたら
男たちが近づき、倉庫へ連れてこられてしまったのだという。


「チャンミンくん、もう大丈夫だよ」

こくりとチャンミンは頷いた

「何も取られたりしてない?」

「お金を…」

「取られたの?」

「ユノが…取り返してくれたから大丈夫」

「そうか」

「…」

「ケガは…ない?」

そう聞くと、チャンミンは自分の肘をさすった

「肘をケガしてるの?」

「大丈夫…」

あまりにチャンミンの声が小さく聞き取れない

「なに?」

「あの…」

「なに?痛いところがあったら気を使わず言って?」

「ユノを…見たでしょ?」

「あ、ああ、見たよ」

「……」

「知ってるから…うん、大丈夫」

「知ってる?」

「ああ、えっと、なんていうか…」

「ユノと…知り合い?」

「知り合ったばかりだけど」

「その仲間も知ってるの?」

「後は、イ・テミン」

「テミン…」

チャンミンの顔が曇った

「テミンを知ってる?」

「知らないよ、あいつは悪魔だから」

矛盾した物言い。
友達ではない…と言いたいのだろうか。

「ユノさんも、そうだろう?」

意地悪かとは思ったけれど、
チャンミンの反応が見てみたかった

「ユノは悪魔なんかじゃない」

「でも、本人は…」

「もう、長いこと誰も傷つけてないんだ!
そんなんじゃないよ!」


「……」


「…すみません。助けてもらったのに」

「助けてくれたのは、ユノさんでしょう」

「ミノも…見たかな。ユノのこと」

「見たのかもしれないけど
たぶん、そんなにショックではないと思うよ
そういう存在がいるっていうのは
知らない訳じゃないと思う。」

「そうかな…
そういう存在と一緒にいる僕のこと…」

「ミノは大丈夫。君の環境や家族のことで
離れたりする子じゃないよ」

「だと…いいな」

「大丈夫」

フッと安心したようなチャンミンの微笑みが気になった

「ひとつ聞いていいかな」

「はい」

「もし、もしね?
君がユノさんと一緒にいることで、せっかく仲良くなった友達が…」
「ユノです」

ガンスが言い終わらないうちに
チャンミンが強く答えた

「僕は一生、ユノと離れません」

「……そうか」


やがて、タクシーはユノとチャンミンが暮らすマンションに着いた。

「すごく普通の住まいなんだね」

そんなことをつい口走ってしまい
ガンスはハッとして、自分の口を押さえた

「フフ…コウモリが飛び交う古い屋敷かと思いましたか?」

ニッコリと笑うチャンミンはとても綺麗で可愛い
あのユノが…溺れるほどに愛情を注いでいるのも無理はない。

「ねぇ、チャンミンくん」

「はい?」

「蒼い月ってなんだろう」

「それって、シウォンさんたちがよく言うやつ?」

「シウォンさん?」

「あ、なんでもないです」

「仲間なんだね、ユノさんの」

「うーん、お店の人」

「ユノさんの?」

「そう」


じゃあ、仲間じゃないか

「蒼い月ってたまに聞くけど。なんのことかはわかりません。」

「そうか」


2人が暮らす部屋のドアを開けると
中からユノが飛んできた。

「チャンミン!」

「ユノ!」

ユノの顔を見たら安心したのか
チャンミンがそのがっしりとしたユノの肩に飛びついた。

ユノはしっかりとチャンミンを抱きとめ
そして自分の身体に取り込もうとするかのように
強く抱きしめた。

チャンミンの首筋に唇を押し付けるユノの顔は苦悩に満ちている。


心配だったのだ


チャンミンのその綺麗な心が傷つかなかったか
その美しい身体が汚されなかったか

ユノは恐怖に震えるチャンミンの身体を抱きしめ
その背中をさすった。

「怖かったね、もう大丈夫だ」

「ユノ、ユノ!」


甘えるチャンミンと、そんなチャンミンを
全身で受け止めるユノ


美しい光景だと、ガンスは思った


信頼しあって愛し合う2人
天使と悪魔が寄り添って生きている

そっとしておきたいような
でも、その秘密を知りたいような

ガンスはそっとドアを閉め、
何も言わずに立ち去ろうとした。

マンションの廊下を歩き出すと、
すぐ後ろにユノがいて、ガンスはひどく驚いた

「え?ユノさん?いつの間に」

「あ、すみません」

ガンスはきちんと向き直って
ユノに頭をさげた。

「あの、ありがとうございました。
ミノくんもチャンミンも特にどうという被害はなかったです」

「そうですか。
こちらこそ、ありがとうございました。
ユノさんがいなかったらどうなっていたか。」

「でも、怖い思いをして、2人とも心は疲れているかと」

「心?」

「ええ、たぶん怖かったと思うので」

「ああ、そうですよね。はい、様子を見てみます」

「では、また」



ディアブロ

ほんとうに彼は悪魔なのか


真摯に礼をいう誠実な瞳

チャンミンを抱きしめるその力

爽やかな笑顔


そんなユノの姿と
倉庫で見た恐ろしいディアブロの姿が同じだなんて

ガンスはとても切なくなった

死なないユノと
普通に死にゆく人間のチャンミンと

この2人のあまりに悲しい運命を
ガンスは憂いた


まさか


さっきのチャンミンを思い出し、ガンスは顔をあげた。

「ユノです」

力強いチャンミンの言葉

やりかねない
彼なら、自分もユノと同じ運命になろうとするのではないか。

でも、それはいけない

そしてきっと、あのユノなら
そのことを十分にわかっているはずだ。

ガンスは空を見上げた。


いつもより白く見える月が
ちっぽけな人間界を照らしていた。




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蒼い月(6)



「ミノの同級生?」

「うん」

チェ・ガンスは甥のミノに呼ばれて
2人でカフェにいた。

「あの光を見たのか。それは誰だ?」

「同級生のチャンミンのお兄さん」

「お兄さん?」

「その人がチャンミンに触れてその光をだしてたんだ」

「なにをしている人なんだ?」

「たぶん、夜の仕事。そんな感じの服を着てたから。
入学式の日に会った人だよ」

ミノはあの夜のブラックシャツのユノを思い出していた。

「チャンミン、大丈夫なのかな。
なんかお兄さんと弟って感じじゃなかった」

「下僕みたいな感じか?
脅されて一緒にいるとか?」

「そういうんでもないけど」

「本人が…洗脳されてる?」

「あ、それに近いのかも」

「ふむ」

「いいようにされてないといいけど。
あまり大学生活に積極的じゃなくて、すぐ
お兄さんのところに帰ろうとする。
なにかこう…焦ってるみたいな」

「洗脳されてるんじゃないといいけどな。
操られてるってこともあるから」

「だよね。なにかそんな力で洗脳するような
事案を叔父さん知ってる?」

「最近で?」

「うん」

「まあ、いろいろあるけど」

ミノがため息をついて、コーヒーをすする。

「ミノは、その子の様子をみてやったほうがいいかもな。
宗教とか思想とか、社会生活に支障を来すなら
個人の自由の範疇を超えてるってことだ。」


「うん」

ふと、ガンスは思い出した。


先日のインタビューしたイ・テミンが襲った女性。
彼女がテミンを不起訴にした。

しかも、テミンに会いたがり、何度も病院を訪れているという話だ。


それも洗脳か?


「その、お兄さんっていうのは
人に危害を加えそうなタイプ?」

「全然そんなことない」

「男のお前に聞くのはなんだけれど
美形か?そのお兄さん」

「すっごく美形」

ミノの目が輝く

「大人の男って感じで。
こう顔立ちも端整で整っててね、あのあと
サークルの女の子たちも話題にしてた」

「色気のあるタイプ?」

「そう!なにか知ってるの?」

「いや、ちょっと似た案件かどうかはなんとも言えないけど」

「僕はなにをしたらいいかな。」

「うん、何か変わったことがあったら
教えてくれ」

「わかった。あ、でも。
チャンミンの名前が雑誌に出るようなことは」

「大丈夫だよ、そんな雑誌じゃないから」


ガンスは再びテミンを訪れた


「これなに?お菓子?なんでこんなもの持ってくるの」

「今日は半分は見舞いだ」

「へぇ、やっぱり僕が気に入った?」
テミンはニヤリと微笑んだ。

「もっと、話を聞きたくてね」

「なんだ、やっぱり取材か」
テミンは口を尖らせた

「いや、人の体調不良を手で治すって男が身近にいてね。」

「手で?」

「ああ、やっかいなヤツなら考えないといけないと思ってさ。」

「体調悪いのを治してやるならいいじゃん。」

「それだけならいいけど、どうも洗脳もしてるらしい。」

「洗脳?」

「あの被害者のお嬢さん、君に襲われたにも関わらず会いにくるだろう?
それは洗脳だと思ってる。
その男に囚われてるのが甥っ子の友達でね。」

「囚われてるってなんでわかるの」

「社会生活が脅かされているんだ。
きれいな美男で、話を聞いただけだと普通の関係じゃないらしい。
その男の元に帰りたくて、学校や友達にあまり興味がないとか。」

テミンのお菓子を触っていたその指が止まる


「名前はなんていうの?」

「その男?いや、わからな…」
「ユノ…でしょ」


「え?」


「そして、その囲われてるのはシム・チャンミン」


テミンはお菓子の包み紙をギュッと握りつぶした

「その名前だ。知ってるのか?君と同じ種族?」

「チャンミンが?まさか。
ユノは同じ種族だよ。僕とユノは…同じなんだ。」

テミンは寂しそうに微笑んだ。

「そのチャンミンが洗脳されているんじゃないかって」

「ユノに?」


「名前は知らないけど、ユノっていうのか。」


「逆だよ、ユノが人間のチャンミンに洗脳されているんだ」

「そんなこと…」

「いいかげん、目を覚ましてほしいよ
あんな男、大したことないのにさ。」


「知っていることがあったら、教えてほしい。
取り返しのつかない事になる前に」

「ガンスさん、あなたが何を言ってるのか
よくわからないけど。取り返しがつかないってさ、あの2人の内、危ないのはユノの方だ。」

「それはなぜ?」


「愛し合うってさ…
人間にとっては普通のことだけど
僕たちにとっては危険なんだよ」

「……」

「ま、この地獄から逃れられるなら
自ら望むこともあるけどね」

「人間として死ねるから?」

「そう、その為には、愛ってやつが必要で」


そこまで言って
テミンはハッとして口をつぐんだ。

ガンスがテミンの顔を覗き込んだ

「蒼い月か?」

「何それ」

フン、とテミンはソッポを向いたけれど
明らかに動揺していた。



テミンは会話を打ち切り
ガンスが持ってきた見舞いの菓子を小さな白い手で
押しやった。

スッと椅子から立ち上がるその姿はまるで妖精のようだ。

このディアブロたちは美しいことも魔力のひとつなのか、とガンスは思った。

目的はなんだろう。
人間の傷を癒すのかと思えば、その心を操る


そのユノ、という男に会ってみたい。


テミンとの共通点がわかれば
その悪魔たちが人間と共存する意がわかるかもしれない。

ガンスの情報網とコネで、ユノの勤め先は用意に調べられた。

店員は男性だけのようなので
女性が行く店なのかと思っていたら、男も歓迎なのだとか。

いわゆる、男を接待する男もいる店、という事だろう。

ガンスは廃墟だとか、洞窟だとかそんな場所には慣れていたけれど
こういう類の店は取材対象外だったので少し緊張していた。

でも、そんなぎこちない態度が良かったようだ。
へんに警戒されなくていい

「いらっしゃいませ」

重厚な店のドアを開けてくれたのは
いかにも男性が好みそうな可愛い男の子だった。

「おひとりですか?」

にっこりと男の子は微笑む。

「あの…」

「いらっしゃいませ」

薄暗い照明の店の奥から
長身の男性が現れた。

堂々としているけれど、誠実そうな態度
品のいい整った顔立ちに綺麗な笑顔を浮かべている

これが、例の男だ

ガンスはピンときた。

全身から何とも言えない男の色気が漂う

甥っ子ミノの友達が囚われているという
ユノという男。

何しろ、あのイ・テミンがその名前を口にした途端
様子が変わったことにガンスは興味があった。

タイプはまったく違うけれど
テミンとこのユノという男に共通するのは

美しい、ということだ。

美しいのは罪だ、という言葉があるけれど
この世の美しい人間はみんな悪魔なのかもしれない

その心根や醸し出すムード、表情、態度
相手の心を鷲掴みにして離さないその魅力。

それらは悪魔の魔法なのかもしれない。

人の精気を吸い尽くして生きる美しきディアブロは
人間の中に密やかに棲息するのでなく
堂々と街を歩き、メディアに登場し、人々の心を奪う。

今まで追っていた自分の探し物は
もっと身近に存在するものだったのかもしれない。

「ご予約をいただいてる、チェ・ガンス様ですね」

ユノの漆黒の瞳が光る

「あ、はい…ひとりなんですけど」

「大丈夫ですよ、誰か付けましょう
私がお選びしてよろしいでしょうか」

「あ、はい…あ、でも」

自分はこのユノと話がしたいのだ

「わたくしがお酒のお相手をさせていただきます」

「え?」

意外なユノの申し出にガンスは戸惑った

「ご不満ですか?」

ユノの瞳が挑戦的な輝きを放つ

まずい…

ガンスは身の危険を感じた

「不満なんてそんな…」

「ではこちらへどうぞ」

優雅な動作で身体の向きを変え
その美しい手でガンスの行く方向を案内する

ガンスを従えるようにしてユノが先立ち
個室へと案内した。

個室?

ガンスは金のことが気になった

「ご心配なさらずに、
個室の方が都合がいいでしょう。
実は私もなんですよ」

心を読まれたか

やはり、ユノはディアブロに間違いない

案内された個室は品良く整えられていて
居心地がいい。

「何をお飲みになりますか」

「コーヒー」

ユノがチラとガンスを見やった。

こんな店で酒を飲まずにコーヒーを頼むなんて
それでもユノは落ち着いていた。

「かしこまりました。」

ユノはさきほどの男の子にコーヒーを持って来させた。

「失礼します」

その子が部屋を出て行った途端、ガンスは先制した

「あの子もディアブロ?」

ユノがフッと口角を片方だけあげた。

「そうですよ」

「この店の店員は全員?」

「答える必要がないのでお返事しなくていいですか?」

「それじゃ、話題をかえましょう…」
「何が知りたい?」

ユノがガンスを睨む

元々スッキリとした鋭角な顔立ちが凄むと
さらに恐ろしい

ガンスは恐怖を感じて息を飲んだ

この店に来るまでに
ディアブロについては調べ上げてきた

正直、ほとんど寝ていない

「聞きたいのは、なぜあなた達は人間の中に存在しているかってこと。なんの目的があるのか」

「目的?そんなものはないですよ」

「なぜ、人間を洗脳して操ろうとする?」

「人聞きの悪い。
誰かを洗脳した覚えはない」

「でも、操るだろう?
精気を吸い尽くすためか?」

ハーっとユノはため息をついた。

「昔と違う。
人を殺めるまで吸い尽くしたら
すぐに種族の存在が明らかになってしまう。
みんな静かに暮らしているんだ。
一緒に住む相手には、自分の生きる方法が少し違うことを説明して、理解してもらってる。
何も望まず、静かに暮らしてる
ほっておいてほしい」

「でも、まったく人間を殺さないわけではないだろう?」

「時には誤って…」
「私は…尊敬する先輩をあなたたちに殺されているんだ」

「先輩?」

「18年前、先輩は愛する奥さんをディアブロに洗脳され、その姿を知った先輩は殺された。
あれは誤ってなんかじゃない。
その上、産まれたばかりの赤ん坊まで拐われたんだ」

コーヒーカップを持つユノの手が止まった
ユノはゆっくりと目を閉じて囁いた

「その赤ん坊を探しているなら、
俺にはわからない」

「そういう訳じゃない」

「復讐を?」

「いや…そうしたいけれど
その前になぜそんなのが存在するのか、知りたい」

「あなたは根っからのジャーナリストだ」

フッと微笑むユノには男のエロスが漂う

ジャーナリストと言われて
正直誇らしい気持ちを隠せないのは確かだった。

「なぜ存在するのかなんて、こっちが聞きたいくらいだ」

「何も望まず、静かに暮らしているっていうのか」

「世界征服でも企んでいると?」

「……」

「映画の見過ぎですね」

ユノはガンスにもう一杯コーヒーをいれてやった。

「他には?聞きたいことなら、ある程度は答えますよ」

「あなたはそんな風に自分の正体をバラしてもいいんですか?
しかも私みたいなメディアの人間に。
その存在が脅かされませんか?」

ユノは優しく、そして寂しく微笑んだ

「いくら本当の事を話したところで
誰も信じないよ」

「記事になっても?」

「今まで宇宙人だ、雪男だ、ってみんなが写真を見せたって、結局誰も信じないじゃないか。
どこかの平原でおかしな模様が空からしか確認できなくても、血が一滴も残ってない遺体があっても
結局、誰もなんとも思わない。
人間は自分の目で見たことしか信じないんだよ」


たしかに…このユノの言う通りではある。


超常現象をどれだけ証拠を揃えて記事にしても
ワッと盛り上がりはするけれど、結局それ以上にはならない。


「あなた達は人間には見えないものが見えているんですか」

「見えているよ、悲しみとか、思いやりとか…」

「星の王子様のセリフみたいですね」


ユノが不思議そうな顔をしてガンスを見た
ひどく驚いているようだ

「?」

「チェ・ガンスさん」

「はい」

「あなたは悪い人ではなさそうだ。
意外にもロマンチストのようですね」

「はぁ」

「UFOとか、そんなものを信じている少年が大きくなって今でもそれらを追っている」

「まぁ、そんなとこです」

「いつまでも少年の心をってやつですね」

「はぁ」

「今後、私たちの事を金儲けの対象にしようなんて
思わないなら、面白い体験をさせてあげてもいい」

「金儲けだなんて…」


ユノがふいに顔をしかめた

「ユノさん?」

ユノはこめかみをそのきれいな手で押さえながら
天井を不安そうに仰いだ


「どうしたんですか?天井に何が見えるんです?」

「あなたの甥っ子と私の大切な人が
今一緒にいるようで」

「は?ミノですか?」

「やっかいな事になっているようだ」

「え?」

「失礼します。あ、川辺に倉庫群がありますね
あそこに警察を呼んでもらえませんか」

「ミノになにか?!」

「私は先に行きます」

ユノはそう言うと、個室の窓を大きく開き
そこに両足をヒラリとかけて、飛び降りた

「ユノさんっ!!」

ここは何階だ?5階や10階ではないはずだ
もっと高い

きっとミノとチャンミンに何かあったのだ。

まずはそれだ

ガンスは一瞬戸惑ったけれど、そのままスマホをタップした。



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蒼い月(5)



若い魂が集う

明るいインテリアの感じのいいカフェ

「シム・チャンミンです。よろしくお願いします」

チャンミンが照れてペコリと頭を下げると
上級生の女子達から感嘆のため息が聞こえた

同じ新入生の女の子たちからも
チラチラと熱い視線を受けているのに

チャンミンはまったくそれに気づかない

次々と自己紹介が終わったところで
「都市伝説研究会」のリーダーは音頭をとった

「ではこれから親睦会ということで
隣駅の飲み屋で予約とってありまーす」

ガヤガヤとみんなが席を立ち

チャンミンとミノも連れ立って店を出た

「あれ?チャンミン」

駅とは反対方向へ行こうとするチャンミンに
ミノが声をかけた。

「行かないの?親睦会」

チャンミンはひらひらと手を振って笑っている

「行かないよ、ユノが出かけちゃう前に帰らなきゃ」

「そんなぁ。今日は親睦会なんだからいいでしょう?」

「ミノは楽しんで来てね」

「ちょっと待ってよ、チャンミンが行かないなら
僕もやめとく」

「なんで?」

「なんとなく。知り合いいないし。」

「……そんな」

「少しならいいじゃん、ね?」

「でも…」

「僕も今日は早めに帰るよ
ほんと、一杯だけ飲んだら帰るから」

「一杯だけで帰れるの?」

「ひとりだけだとちょっと気まずいけど
2人ならさ」

「じゃあ、ほんとにすぐ帰るけどいい?」

「やったー!」

チャンミンはLINEでユノへ連絡をした。

[親睦会に参加してきます。すぐ帰るから]

すぐに返信が来た

[楽しんでおいで]


そんなユノの返事がチャンミンは寂しかった

僕が帰ってこないというのに、
ユノは寂しくないんだろうか。

ユノの気持ちが今ひとつわからない時がある。

チャンミンは24時間ずっとユノと一緒にいたいと思っているのに、ユノはそうではないのだろうか。

大学へ行くこともユノが勧めた

「俺はある意味、お前の保護者だからさ。
将来のこともきちんと考えてやらないと」

そう言って爽やかに笑ったユノ


僕の将来?


僕は将来なんてなくていい

変わりたくない

この時間がこのまま続くことを望んでいる

ユノと一緒にいる時間
同じ毎日をずっと続けるだけでいいんだ

未来永劫

それはちっとも難しいことじゃないのに
ユノは考えてみてもくれない

最初から完全拒否だ

もしかしたら、僕とずっと一緒にいるつもりはないのかな

ただ罪の意識から、僕を育てているつもり?

ユノは知らないだろうけど
僕は知っている

ユノが僕に対して罪の意識があることを知っている

僕の両親のこと

だけどね、ユノ。
顔も感触も覚えてない両親より

僕はユノが大切なんだ




親睦会は思ったより楽しかった。

先輩も面白い人ばかり。
ミノ以外の同級生ともたくさん話をした。

女の子たちも代わる代わる隣にやってきては
お酒をついでくれたり、食べ物を取り分けてくれたり、みんな優しかった

初めてお酒を飲んだけれど、思ったより美味しく感じて、

今度ユノのワインを少しもらうのもいいかもしれない、そんな風に思っていた矢先

その酔いは急に来た

親睦会はお開きとなり、会計も済ませ
さあ、みんなで店を出ようと言う時

チャンミンはまわりの声がだんだんと遠くなり
聞こえなくなっていることに気づいた

どうしたんだろう

目の前がかすむ

体が震え、全身の血が冷たくなった気がした。

寒いのに、冷たい汗が首筋にあふれる

「チャンミン?」

ミノの声になんでもない風に立ち上がろうとしたその時

チャンミンはうまく立ち上がれず
大きくよろけて倒れてしまった

「チャンミン!」

「シム・チャンミン!大丈夫か?」

意識はあったけれど、とにかく寒くて気持ちが悪い
立ち上がったら吐いてしまいそう

チャンミンはミノの膝を枕にさせてもらって
横になっていた。

「救急車を!」

「大丈夫です、ほんと平気。」

まわりでは先輩たちと女の子たちが心配そうに
様子を見ている。

「チャンミンのスマホから、お兄さんに連絡させてもらったよ?」

頭上からミノの声がする


ユノ…会いたい…


やがて、女の子たちがハッと息を飲む様子と
先輩達に緊張が走る様子が感じとれた。

少し良くなったチャンミンがなんとか起き上がると
目の前にユノが心配そうな表情で腰を下ろし
チャンミンの顔を覗き込んでいた。

紫がかった濃紺のスーツにブラックシャツ
黒いシルクのネクタイは少し緩められている。

ユノは仕事中だったんだね

緩くかきあげられた長い前髪が一筋その高い鼻筋にかかっている。

キリッと切れ上がる目尻
黒曜石のような瞳は怒りに満ちている

眉間にシワを寄せ、
結んだ唇が震えている

なんてあなたはカッコいいんだろうね

チャンミンはぼーっとそんな事を考えていた。

「大丈夫か?」

「うん…お酒飲んじゃって…」

ユノの右手がチャンミンの耳の下に触れる

そこから温かい何かを感じて
チャンミンは目を閉じた

その様子をミノが硬直してみていた。

ミノには見えた

ユノの手のひらから、チャンミンに何かが流れ込んでいくのを

ミノはたまに不思議なものが見えることがある。

具合の悪い人の周りに漂う気
幸せな人の周りに漂う気

雑誌記者の叔父の仕事について行ったことがある。
それは手をかざしただけで、病気を治すというお婆さんのところだった。

ミノには見えた

お婆さんの手からまばゆい何かが病人に流れ込んでいく。

「ミノ、どう思う?」

その時、叔父に聞かれてミノは答えた

「見える。このお婆さん、ウソ言ってないし
患者さんもほんとに治ってる」


その時の光が、その時と同じ光がユノの手に見える

ユノがいきなり振り返ってミノを見た。

ミノはその瞳が金色に光っているように見えて
思わず後ずさりしてしまった。

「…」


「ユノ、ごめん…」

チャンミンが苦しそうに呻いた

「もう大丈夫か?」

「うん…」

女の子がコップに入った水を持ってきてユノに渡した。

「ありがとう」

ユノはその子の目をみて礼を言うと
女の子は真っ赤になってしまった。
「いえ…」

サークルのリーダーが恐る恐るユノに近づいてきた

「あの…」

ユノは振り返ってそのリーダーを睨みつけた

リーダーはその視線に怯んだものの
勇気を持って更に近づき、真っ直ぐに立って
そして、頭を下げた。

「僕が責任者です。こんなことになって
申し訳ありません」

「…」

側にいた女の子も恐る恐る近づいてきた

「あの…私たちも…あまり考えず注いでしまって」

「すみませんでした」

ユノはゆっくりと立ち上がり
先輩たちと向き合った。

みんなより一段背が高く
固い表情で皆を見下ろすユノ。

「楽しいのはよくわかる。
君もたくさんの人数をまとめなくちゃいけなくて
大変だろう」

リーダーはゆっくりとユノを見上げた

「でも、新入生の中にはチャンミンのように酒を飲んだ事がない者もいる。一歩間違えば取り返しのつかないことになる。せっかくの楽しい集まりが台無しだろう」

「はい」

ユノはため息をついた。

「これからのチャンミンのことも考えて
これ以上話を大きくするつもりもない」

「ほんとうにすみませんでした。」

「わかってくれたら、それでいいから。
これからもチャンミンをよろしく頼む」

「はい」

リーダーはもう一度頭を下げた。

ユノがやっと表情を緩めてミノを見た。
「ミノ、連絡をありがとう。」

「あ、いえ…」

ユノはチャンミンの脇の下に自分の腕を入れると
ひょいと抱き上げて立たせた。

「ユノ…」

チャンミンの甘えた声にセクシーな匂いを感じて
ミノは驚いた

「もう、今夜は帰ろう」

「来てくれたんだね」

「ああ、家に帰ってシャワーを浴びるんだ」

「だから、僕を外に出したりしたら
ダメなんだよ、ね?」

こそこそと2人だけで会話をしている。

その甘え方は、弟が兄に対するものには見えない。

ミノは愕然とし、固まってしまった。

ユノはチャンミンを連れて
みんなへ会釈をし、タクシーに乗り込んだ。

先輩たちはユノの大人としての落ち着いた態度と
その懐の広さに感服してしまい、

いつまでもタクシーを見届けていた。

チャンミンの異常な甘え方には誰も気づかなかったのか

ミノはみんなとは別の心配をして、タクシーを見送った



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蒼い月(4)



「チャンミン!」

大学の講堂で1人座るチャンミンにミノが大きく手を振りながら駆け寄ってくる

「ミノ、おはよう」

ミノはサークル活動の勧誘チラシを何枚も手にしていた。

「なんのチラシ?」

「おはよ。サークル活動のチラシだよ。チャンミンはもう何に入るか決めたの?」

「僕がサークル?」

「うん、サークル。入らないの?」

チャンミンはクスッと笑った。

「入らないよ。ミノは入るの?」

「そりゃ入るよ。せっかく大学生になったんだし。
友達作りたいしさ、楽しみたいし。」

「ミノなら可愛い彼女もできそうだね」

サークル活動を完全に他人事としているチャンミンに違和感を抱き、ミノは戸惑った。

「チャンミンだって、彼女なんかすぐにできそう」

チャンミンは笑った。

「彼女?フフフ…全然興味ないな」

「勿体無い。まさか大学は勉強だけ?」

「勉強だって、本当はやる気なんかなくて。
今だって早く家に帰りたいくらい」

そう言って寂しそうに笑った。

「家に?」

「ユノと一緒にいられるの、昼間だけだから」

「お兄さん…と?」

「うん。ユノは夜働いてるから」

「そう…なんだ。
チャンミン、ほんとにお兄さんが好きなんだね」

「えっ?あ、うん…2人きりだから…さ」

ミノはなぜか少し意地悪な気持ちになり
チャンミンをからかってみたくなった。

「でもさ、お兄さん、あんなにカッコいいんだから
彼女の1人や2人いるでしょ?」

突然チャンミンはするどくミノを睨みつけた

「そんなはずないよ!ユノが彼女を作るなんて
そんな事はあり得ない」

ミノはチャンミンの剣幕にびっくりした。

周りの生徒がチラチラとこちらをみている。

「ユノには僕がいるからいいんだ!
僕以外、ユノの側にいていい人間なんていないんだよ」


「……」


「あ……」


チャンミンは我に返り、まわりの視線を浴びていることに気づいて、下を向いてしまった。


「ごめん、ミノ…」

「僕こそ、ごめん。」


ずっと2人で生きて来たユノとチャンミンは
自分には計り知れない絆で結ばれているんだろう

ミノはからかった自分を恥じた。

なんであんなこと言ってしまったのか。
正直、ブラコン気味なチャンミンに…
いや、そんなチャンミンの興味と愛を一身に受けているユノに少し嫉妬したのかもしれない。


「なんか、僕さ、チャンミンのことが放っておけないっていうか」

「え?」

「小さい頃、よく遊んだからかな?」

「ミノ…」

「あ、勉強は嫌いかもしれないけど
せっかく同じ大学に入ったんだし
なんか…チャンミンにも…楽しんでほしいかなって」

「……」

「おせっかいだよね、ごめん。」

「いや…」

「……」

「ミノ、ありがとう。そんな風に僕を心配してくれる人なんて、今までいなかったから嬉しいよ」

「そう?」

「うん。あ、僕もちょっと考えてみようかな、サークル活動」

「ほんと?!じゃあさ、このチラシの中から…
僕もハデな活動するつもりはなくて…」

ミノとチャンミンは何枚もあるチラシの中から
いくつか興味のあるものを探し出すことに没頭した



「都市伝説研究会?」

ユノは少し驚いたようにチャンミンの顔を見た

「うん。ミノとね…サークル活動ってやつ。
ミノがそれがいいって。」

「そう…いいね。楽しそうだ」

ユノは目を弓なりに細めて微笑んだ

ユノが自分のサークル活動を受け入れてくれて、
チャンミンは嬉しくて少し興奮した

「うん!なんかね、金塊が埋まっている場所とか
そんな所を探検したりするんだって!」

「へぇ、面白そうだね」

「でも…」

「でも?なに?」

「確かに面白そうなんだけど…
僕はユノと一緒にいるほうが…」

「チャンミン…」

「ユノとこれ以上離れる時間が長くなるのも
イヤなんだ」

ユノは微笑みながらも、自分の首のあたりを触っている

「チャンミン、一緒に…住んでいるんだから…」

「ユノ?」

少しずつユノの呼吸が短くなっていく

「俺はね、チャンミン…」

「しゃべらないで、ユノ」

「大学生活を…楽しんでもらいたいって…」

苦しいのを誤魔化そうとしているのが明らかなユノ

ハァハァと荒い息をしながら
ユノは笑っていた

「お前が楽しそうだと、俺も幸せなんだよ」

そういうと、ユノはキッチンへよろよろと入っていった。

「ユノ、ユノ!」

チャンミンは泣きそうになりながら
ユノを追いかけて、その広い背中に抱きついた

「ユノ、僕を…ね?」

「ダメダメ…」

「どうして?」

「危険だから」

「じゃあ、ベッドへ、ね?」

「チャンミン…大丈夫…」

ユノは脂汗をかきながら、それでも微笑んでいる

「こういう時、酒が結構いいことに気がついてね」

ユノはワインセラーから
小さめのシャンパンを取り出して栓を開けた

「仕事中にこんなことにならないのは
酒を飲んでいるからなんだと思ってさ」

ユノはシャンパンを瓶から直接飲み干した

ユノの長い首が波打ち、金色をしたシャンパンが
ユノへと吸い込まれていく

チャンミンは悲しそうにその姿を見つめた

「そんなの…お酒なんかで誤魔化さなくたって
僕がいるでしょう?」

「俺も…変化したいんだよ、チャンミン」

「僕がいなくてもいいように変化したいの?」

「ああ、そうだよ。」

チャンミンは悲しそうな、そして怒りを含んだ目で
ユノを見つめた

ユノもチャンミンを鋭い目つきで見返した

細い顎の先へ、口元からシャンパンが一筋溢れる

チャンミンは泣きそうな顔になり
ユノにゆっくりと近づいた

ユノの表情も悲しそうに歪む

チャンミンはユノの顎に溢れたシャンパンをそっと舐めとった。

「落ち着いたの?ユノ…」

「ああ」

ユノの呼吸は落ち着いたように見えていたけれど
浅く短い間隔はそのままだ。

チャンミンはそっとユノに口づける。

ユノも少し顔を傾けて
その口づけを受けいれた

ユノの唇はシャンパンの味がした。

やがて、それは貪るような激しいキスに変わっていき

お互いを抱きしめ、かき抱き、相手の首を掴んで
思いの丈をぶつけあった。

2人の荒い息遣いだけが、冷たいキッチンに響き渡る

「ねぇ、ベッドへ」

チャンミンがたまらず、ユノのTシャツの裾を掴む

「ああ」

ユノはヒョイとチャンミンを抱きかかえると
くちづけたまま、寝室へ向かった



金色に光るユノの瞳を
チャンミンはとても美しいと思った

自分を激しく求めてくれるユノが愛しかった

ユノが激しい律動でチャンミンを高めていくと
チャンミンは大きく仰け反って、その綺麗な首を月の光に晒した。

あまりに美しい天使のようなチャンミンに
ユノは感動を覚えた

その可愛い唇から、チャンミンの生きるエネルギーがキラキラと溢れ出ている

完全なるディアブロ(悪魔)に変化したユノは
その溢れる光に食らいついた

チャンミンの後頭部を抱え込みくちづけ、
そのエクスタシーが高まったタイミングを見計らって、ユノはチャンミンのエネルギーを大きく吸い込んだ

チャンミンは恍惚とした表情でその行為を受け入れた

一瞬チャンミンが薄く白眼を剥いたのを合図に
ユノはチャンミンを突き放した。

ベッドの上に倒れこむチャンミン

「チャンミン、チャンミン」

ユノはチャンミンを揺さぶる

「ん…」

チャンミンは気を失って、それでも満足そうに
長い睫毛を揺らす

「ユノ…愛してる…」

「チャンミン…俺も愛してるよ」


真っ白なベッドルーム
月明かりだけが差し込むその部屋で

ユノはチャンミンを抱きしめて、1人泣いた。

こんなに愛してしまって
どうしたらいいんだろう

ユノはチャンミンを抱きしめながら
月明かりを見上げた


神様…

どうか神様

自分がこれ以上、罪を犯しませんように

チャンミンを愛しませんように




ユノは憂いた


何百年も前

両班の護衛をしていた美しいユノを
永遠に自分のものにしようとした魔物

表向きは領主であった魔物は
自分を慕い、命をも捧げんばかりの忠誠心を見せるユノを愛した。

ユノを自らの毒牙にかけ
永遠の命と永遠の美しさと、地獄のような苦しみを
ユノに与えた。

それでもある時、領主はユノに別れを告げた
ユノに取り返しのつかない傷を与えた領主は
その罪滅ぼしか

救いの光を一筋与えた
その秘密をユノにそっと教えた

「終わらない命が辛くなったら、それを終わらせる
たったひとつの方法がある」

つらい人生を終わらせることのできる唯一の方法

そこに何が必要なのか

領主は涙を流すばかり

「100年に一度だけ、月が蒼くなる夜がある。
そんな夜、一斉に粛清が行われる」

ディアブロ(悪魔)にとって、
あるまじき行為


それは…人を愛すること



誰かを愛してしまったディアブロは
愛することを知ってしまったディアブロは

100年に一度の蒼い月の夜

粛清という名のもとに、終わらないはずの命を終える。


領主はその蒼い月の夜、粛清された


領主はユノを愛していたのだ
自分勝手な愛だったけれど

ユノが困らないように、いろいろと取り計らっていた。

魔物だというのに
ユノに申し訳ない、という気持ちを抱いていた。

その罪の意識に苦しむ魔物は
愛を知った罪で
粛清されたのだった。


そしてそれから何百年たったのだろう


今年は月が蒼くなる年


悪魔として種族を栄えさせる行動にでなければ
愛することを捨てなければ

今のユノは危険だった



チャンミンが焦っているように
ユノも悩んでいた

悩みつつも、2人でいることの幸せを噛み締めていることも事実で。

今だけは

このままで



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蒼い月(3)



チャンミンはキッチンに立ち
ビーフシチューを煮込んでいた。

野菜を切ったり、肉を叩いて筋をカットしたり
そのあたりまでは作業に没頭していてよかったのだけれど

煮込みの作業に入ったところで、
チャンミンは急に寂しくなった。

ユノが恋しかった

今朝からずっと一緒にいて、ユノが仕事に行くまで
ベッドでその胸に抱かれていたのに

数時間離れているだけで寂しくて仕方ない

チャンミンがユノにとっての「奇跡」なら
ユノはチャンミンにとって世界のすべてだった。

チャンミンはユノしか知らない。ユノがいる世界しか知らない。


他の世界なんか知らなくていい。

ユノがいてくれたら十分だ


物心ついた時から、ユノはチャンミンの側にいてくれた。

幼き頃は父のように甘え
少し成長すれば兄のように慕い
そして今は…


チャンミンの大事な恋人だった…


今の関係になる事に、ユノは慎重すぎるほど慎重になって

じれったくなったチャンミンが自分からユノに飛び込んで行った

頑ななユノの自制心に、半分脅しをかけるようにして鍵を開けさせた。


今はもう、なくてはならない存在。
多分ユノにとってもそうだ。


チャンミンを見る、愛情に溢れた眼差し
その逞しい腕を大きく広げて迎え入れてくれる

ユノはチャンミンの全てだった。


シチューの噴きこぼれる音でハッと気がついた。
あわてて火を止めて、少し考えると
チャンミンはたまらずスマホをタップした



落ち着いた照明と品のいい調度品
静かに笑い声が聞こえる店内。

ユノはゆっくりとテーブルの間を歩き
客に柔和な笑顔で挨拶をして回る。

外で着たら、たぶん少し派手に見えるであろう光沢のあるシルクのスーツ。
上品なその光沢が陰影を作り、ユノの隆起した筋肉をも感じさせる。

大きなストライドでゆっくりと歩く姿は
ショーモデルのようだった。

店内の程よく落とされた照明は
ユノの整った顔立ちに影を落とし、大人の男としての魅力を際立たせる。

上客に何人のホストがつけばいいか、
ユノはテーブルをまわりながら計算をしていた。

ユノは事務所でモニターを眺めるシウォンのところへ行って声をかけた。

「シウォン、ダヘ嬢についてくれないか。
スホひとりじゃ手に負えない」

「了解」

チェアをくるりと回転させて、シウォンが席を立った。

上質なスーツに身を包んだシウォンはユノに少し真剣な顔を向けた

「知ってたか?テミンが捕まった」

「らしいな」

「雑誌記者が病院のテミンを訪れたらしいぞ」

「雑誌記者?ゴシップ週刊誌か」

「違う」

「?」

「超常現象の雑誌」

「……」

ユノの表情が曇った

「何を話したのか、ユノから聞いてみたらどうだ」

「どうせ、すべてを話したところで誰も信じないさ
面白おかしく書かれるだけだ」

「そりゃそうだけどさ。」


その時、ユノのスマホがバイブ音と共に震えた

画面を見ると、この世で一番愛しい名前。
ユノの目尻が緩みスマホをタップする


「どうした?」

「うん…ごめんね」

小さな機械から愛しい声が聞こえる

「いいよ」

「あの…」

「ん?」

「今…何してるの?」

「え?」

「って、仕事に決まってるよね、ハハハ」

「そうだけど、どうした?」

「あー、えっと。
今日は綺麗な人は来てる?」

「客?」

「うん…」

「どうかな?いつもの常連ばかりだと思う。
どうしたんだ?」


「へへ…なんかユノに会いたくてさ」

「チャンミン…」

「ビーフシチュー煮込んでたら
ユノに会いたくなってきちゃった…」

「……」


「あ、ただ電話しちゃっただけで…別に…」
「今から帰るから。シチュー食べずに待ってて?」

「え?」

「もう出来てるんだろ?冷めない内に帰るからね」

「あ、そんな…」

低く優しく甘いユノの声がスマホから聞こえなくなり、チャンミンは焦った。

仕事中だったのに…
なんで電話なんかしちゃったんだろう

それは

そう

常に心の中にある焦り

父から兄へ、そして恋人へと自分たちの関係が変化してきたのは、ユノが歳をとらない事にあった。

自分はいつかユノの歳を越えて老いていく
そうなったら、もう恋人ではいられないのかな

少し前まではなんとも思わなかったのに
ここへ来て急にその事が不安で悲しかった

自分もここで年齢を止めて
このまま、ユノに甘えて時を過ごしたい

その思いがチャンミンにある決意をさせていて
それをユノに阻止されていた。


ユノが自分を噛み、この血を受け入れてくれたら
このままの自分でずっといられるのに。


ユノには種族を絶やしてはならない、という使命があるのに、自分と出会ってからその任務を放棄しているはず。

僕が嫌がったから…
ユノが他の人を魅了してその体をユノと同じに変えて行くことに嫉妬したから。

僕のために…

ユノが自分のために何かを犠牲にしてるのなら
自分だってなんでも犠牲にできるんだ

でも、この話をすると
最後は穏やかなユノを怒らせることになり
チャンミンは自制していた。


それでも今は…

チャンミンは微笑んだ

会いたいと言えば、仕事中でも飛んで来てくれる

ユノは僕の唯一絶対の人


いつのまにか、ユノが部屋に立っていた

チャンミンはびっくりして顔をあげた。

「ユノ!」

「寂しくなったの?チャンミン」

「ごめんね、お店ほったらかしでしょ」

「あんな可愛いこと言われたら
店なんかどうでもよくなるさ」

ユノは優しい微笑みでチャンミンを包む

その逞しい腕でチャンミンを抱きしめる

チャンミンはたまらなくなって、涙が溢れて来た

「ユノ…」

「泣かないで…チャンミン」

「ユノ!」

チャンミンはユノの首に腕を回し
自分からくちづけた

ユノは巧みにそのキスを受け止め、歯列を舌でつついて口を開けさせ、更に深くくちづけた


ユノは性欲とは別の飢えも感じていたけれど

今はチャンミンから精を奪うのはやめよう

こんな可愛い恋人が自分に会いたくて
衝動的に連絡してしまったなんて

たまらない


「ユノ、食べていいよ
僕を食べて」

甘えた顔でチャンミンがユノに囁く

「今日はシチューにしておくよ。
そのために帰って来たんだから」

「まさかシチュー目当て?」

「そうだけど?他に何かあるか」

「もう!お前が会いたがるからって
そう言ってよ!」

「アハハ、わかってるならいいじゃないか」

「ユノ…」

「ん?」

「大好きだよ」

「……」

「ユノがいてくれたら、なんにもいらないんだ」

「俺も同じだ。お前さえいてくれたら
なんにもいらない」

「魔王の座も?」

「そんなもの、とっくに興味がないさ」

ユノの手が優しくチャンミンの髪を梳く

「種族の…繁栄ってやつも?」

「そんなのも、どうでもいいんだ」

ユノはチャンミンを抱きしめた

魔王の資格なんて、ユノはすでに失っていた

そんなもの、この愛しい人との生活の前には
完全に色褪せて朽ち果てる

チャンミンはユノのスーツをぎゅっと掴んだ

ユノがどんなに苦悩に満ちた表情で抱きしめているか見えなかったけれど

チャンミンにはわかっていた。


ユノは…苦しんでいるのだ


ユノはその運命と自分への愛に
板挟みになっている

救ってあげるのに
僕がその苦しみから救ってあげるのに


「ユノ」

「なに?」

ユノは目を閉じて、その形のいい鼻先をチャンミンの髪にうずめ、甘い香りに浸っていた。


「僕がこんな風にユノに会いたくなるのはどうしてだと思う?」

「俺を好きでいてくれるからだろ」

「焦ってるからなんだよ」

「……」

「ユノに置いていかれそうで
焦っちゃうんだよ」

「チャンミン、それは違う」


ユノが体を離すと、チャンミンの体に冷たい風が吹き抜ける気がする


ユノはチャンミンの髪を両手でなでつけ、
愛しそうに見つめる

大きな手でチャンミンの頬を包み、
可愛いその唇にそっとキスを落とした


「焦るのは、今一瞬のこの時が大事だからだ」

「………」

「時間を大事にできるのは、
限りある生を持つ、人間ならでは、だ。」


「じゃあ、ユノは?ユノだって、終わりがないだけでこの時間は2度と戻ってこないでしょ?」

「時間の事を考えていたら、俺はとてもじゃないけど正気でいられない」

「僕もユノと同じになればいいでしょ
そんなの簡単だよ。
一緒にその運命を憂いたらいいんだ。
ツライねって、一緒に苦しもうよ、ね?」

ユノは呆れたようにため息をついた。

「チャンミンは最近この話ばかりだね?」

「……」

チャンミンは罰が悪そうにその長い睫毛を伏せて下を向いてしまった。


「今までなんでもユノの言う通りにしてきたけど」

ユノは優しい顔で少し首をかしげて
チャンミンの話を聞いた。


「そろそろ僕も自分の生き方は自分で決めたいんだ」

「決めたらいいさ、ただし人間として、ね?」

「ユノと同じ種族として生きるっていう選択肢だってあるんだ」


なぜだか、今夜のチャンミンは引かない。


「そんな選択肢は…認めない」

「僕もユノの運命を共にしたい!
その苦しみを分けてほしいんだよ!」

「チャンミン」

ユノの顔が強張る

それでもチャンミンは止まらなかった

「どうして?どうしてダメなの?
僕と一緒にいたいなんて、ウソなんじゃないの?」

「……」

「あの子が…イ・テミンがいてくれるからいいってわけ?」

「関係ないよ。テミンは関係ない」

「あの子は僕がこの世を去っても、ずっとあの姿のまま、ユノの側にいられるんだよね?」

「お前がこの世を去るなんて、そんな話をするな」

「だって、本当の事じゃないか!」

嗚咽を隠すこともせず
チャンミンは子供のように泣きはじめた。

「たとえ…お前がこの世を去ったとしても」

その言葉にチャンミンが泣くのをやめた


「俺は側に誰かを置いたりしない」

「そんなこと信じられない」


ユノは再び、チャンミンを抱きしめた。


「反抗期だね、チャンミン」

クスクスと笑うユノの吐息が
チャンミンの首筋をくすぐる

「じゃあさ、チャンミン」

「?」

「チャンミンが俺と同い年になったら
またこの話はきちんとしよう」

「ほんと?」

「ああ、その時にまた考えよう。
だからそれまではこの話はもうしない」

「わかった。約束だよ?」

チャンミンはユノの首にギュッと抱きついた。
ユノはたまらずそんなチャンミンを強く抱きしめた。


ユノは思い出していた


それは警察の鑑識と刑事が行ったり来たりする
現場の家屋。

運び出される2つの遺体は青いシートがかけられていた。

近所の人々がその様子を恐々と覗く

「自殺なのか、殺人かわからないんですって。」

「浮気していた奥さんを旦那さんが殺して
自分も自殺したって話もあるみたいよ」


その様子をユノは電信柱の上に立ち、見下ろしていた。

それはユノの失態だった。

あまりの空腹に、ユノに夢中になっていた人妻の
その精気を吸いすぎてしまった。

その命を奪うほどに吸い尽くしてしまい
女の亭主に見つかったときは、ユノは口封じをするしかなかった。

妻の浮気を見られたのならまだしも。

この世のものではない、
魔物である自分を見られてしまった。

ユノはため息をついた。

まだまだ鍛錬が足りない
その血もいただいて、己の唾液から悪魔をその体に送り込まなければならなかったのに。
その前に殺してしまうなんて

なんてことだ


その時ユノは
自分を見上げている2つの瞳に気づいた。

警察の腕に抱かれた、愛らしい赤ん坊

ぱっちりとした黒い瞳
茶色の巻き毛
ユノと目が合うとニッコリと微笑んだ

ユノは狼狽えた

ユノは視線を泳がせ、ふたたびその愛くるしい瞳を見た

ユノと目が合い、さっきより更に嬉しそうに微笑む赤ん坊

ユノはたまらなくなった

天使と悪魔

それが今の自分とその赤ん坊

なんの穢れもないその黒い瞳に
魔物はやはり勝てない

眩しすぎて、その場を立ち去ろうとしたユノを
その赤ん坊が小さな人差し指で後を追った

そして、少し悲しそうな顔をした。


行っちゃうの?

僕をひとりにして?


その黒い瞳を見つめていると

遠い昔に捨てた人間の魂が
また自分の中に蘇ってくるような気がした

この子と一緒にいたら
また自分は人間に戻れるかもしれない

そんなあり得ない夢が
その時は本当にそうなるような気がした。

自分が両親を殺めてしまったことで
この子はひとりぼっちになってしまう。

それは体のいい言い訳だった。

寸分の抜かりもない書類を揃え
ユノは赤ん坊のチャンミンを引き取った。

罪滅ぼしのつもりもあった

でも、チャンミンを側に置いておきたかった。


今はこんな気持ちをチャンミンに抱いてしまったけれど。

ユノのため息は震えていた






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蒼い月(2)




ベッドでぐったりと気を失っているチャンミン

ユノは暗闇にひとり起き上がり
穏やかな顔でその頬を撫でていた

愛しすぎる存在。
チャンミンを愛したことは自分の奇跡だ。

いつかその事をチャンミンに伝えたい。
この美しい存在のおかげで、呪われた自分の運命がどれだけ救われたことか。


ユノは目を閉じた…
考えなくてはいけないことがある


でも、今はこうしていたい。
何も考えずにこの温もりと共にここに留まっていたい…

我が儘なのはチャンミンじゃなくて俺の方だ

美しい魂が…純粋すぎるこの身体が
俺を虜にして止まない…

愛してるよ…
お前だけが…暗闇の中の一筋の光。

白み始める空に
遠くで春の雷が轟く

ユノの運命を象徴するように
低く蠢いていた。






「ガンスおじさん!」

チェ・ガンスは振り返った。

もう大学生だというのに、まだあどけなさの残る甥っ子ミノが駆け寄ってくる
妻子のいない独身男のガンスにとって
ミノは可愛い存在だった。

「ミノヤ、元気か?」

「大学生になったよ」

「そうだってなーびっくりだな。
オバケが怖いって泣いてたチビ助が」

「すぐそれ言うんだから」

ミノは拗ねた。

「仕事が終わったら、そっちに行くから」

「うん、待ってるよ」

今夜はガンスの兄の家でミノの入学祝いをする。
兄の家庭は絵に描いたような理想の家庭だった。
温かくて、愛情にあふれていた。

そんな家庭の中でミノも妹のヘジンも
真っ直ぐに明るく育った。


今日はその前に一仕事あった。

今までで一番大きな仕事かもしれない。


ガンスは超常現象の雑誌記者をしていた。

超常現象と言っても、いわゆるUFOや宇宙人、
猿人を見たとか見ないとか、湖に恐竜がいるとか、
そんな子供や一部のマニアが読むような、娯楽雑誌の記者だった。

それでもガンスはこの仕事に誇りを持っていた。

小さい頃からこういったものにとても興味があって
今だに宇宙人の存在を信じているし
この世には人間の形をした別の生き物が住んでいると信じてる。

今日これから会う人物は、そんな「別の生き物」ではないかと。
ガンスの直感ではあるけれど、そう信じて疑わない。

その人物は先日、医療少年院から出て来たばかりの
イ・テミンと言う。

罪は「性的暴行」となってはいるけれど
その行為は異様だった。

その奇行から、病院送りとなったわけだ。

幸いにも相手の女性は肩に歯型が軽くつく程度で済んだけれど

女性の話だと、イ・テミンの目が金色に光っていたと。
その話にガンスは非常に興味を持った。

イ・テミンは屋外で女性を襲っている際、
通行人の目撃によって捕まった訳だけれど

その時も女性は無抵抗だったらしい。
しかもうっとりと自分の肩を噛ませようとしていたと。
目撃者は通報したのはまずかったのかと
後で思ったというくらいに。

ガンスは使えるコネをすべて使って
なんとかイ・テミンのインタビューにこぎつけた。

医者の許可もなんとか取ることができた。

病院に着いたガンスはまず担当医師から説明を受けた。
医師はガンスが超常現象の雑誌記者ということに
あからさまな嫌悪感を見せた。

「イ・テミンはまず患者だという事をよく理解した上でインタビューをしてください」

「わかっています」

「彼は吸血鬼などではなく、レンフィールド症候群という診断を受けています」

「レンフィールド?」

「吸血行為によって自分は生きている、というような錯覚に陥っているということです」

「はぁ」

ガンスは真っ白い廊下の突き当たりのドアをそっと開けた。

目も眩むような真っ白い部屋に
天使のようなイ・テミンがベッドに腰掛けていた。

真っ白な肌。金髪の巻き毛。
女の子なような綺麗な顔立ちに似つかわしくない
ギラギラとした瞳。

テミンはジロリとガンスを見て妖艶に微笑んだ。
ガンスは名刺を差し出した

「私は…」
「自己紹介なんかいいよ」

真っ白な拘束着から伸びた白く細い足をブラブラとさせながらテミンはガンスを睨んだ

「僕に何を聞きたいの」
「君が吸血行為をしようとしたと聞いて興味を持ってね」

「僕がヴァンパイアだって?」

「そうだ」

テミンはクックッと面白そうに笑った

「おじさん、いいね。僕と寝る?」

「え?」

「うそだよ。僕はキレイな人としかしないんだ」

「私もその趣味はないからよかったよ」

「フフフ…なんでも話してあげるよ、気に入った。
どうせ何を話してもアタマがおかしいとしか思われないから」

「君は人間じゃない?」

「昔は人間だったさ。80年くらい前だけど」

目の前のテミンは15〜6歳くらいにしか見えない

「吸血行為で生き長らえているのか?」

「そんなことしたら、大量殺人でみんなつかまっちまうだろ」

「仲間がいるんだね?イギリスの研究者が15000人くらいこの地球にそういう種族が潜んでいると言っている」

「何人か知らないけど仲間はいるね。
みんな普通の生活をしているよ。
人間に馴染んで側からみてもわからない。」

「なんていうか…見た目ではわからない?」


「…僕たちは黒づくめのタキシードにマントを羽織ってると思った?
そんなゴシックスタイルでいるヤツなんていないさ
日に焼けた肌にTシャツにジーンズだよ」

「太陽は大丈夫?」

「あのさ…」

「なんだ?」

「おじさん、映画の見過ぎ」

テミンはガンスの真正面に向き直った

「僕たちの弱点は?
銀の十字架?ニンニク?太陽を浴びると砂になる?」

「映画では…そうだな」

「そんなのがウヨウヨいたら、世の中大パニックだろ」

「そこが知りたいんだ。
この世の中にはヴァンパイアがいると私は昔から信じてる。
血を吸った相手がヴァンパイアになってしまったり
十字架や太陽を嫌ったり、現代でどうやって生き長らえて、どうやって滅びるのか。
本当にいるのか、いないのか。」

ガンスは少し興奮して一気にまくしたてた。

テミンがじっとガンスを見ている。

「ごめんね、おじさん。
茶化すのはやめるよ」

テミンの表情が少し寂しげに見えた

「真剣に聞いてくれるかどうかはしらないけど…
たしかに昔はね、血を吸って生きていたらしい。
でもそれじゃ現代ではムリだ。そんなニュースはあっという間に世界を駆け巡る。
僕たちも自分たちが生きやすい様に変化してきたんだ。」

「たとえば?」
ガンスは身を乗り出した

「普通に肉や野菜で栄養もとれるようになって
血を吸わなくてもなんとかなる。
でも…それだけなら仲間だけで集落を作って生きていけばいい。
やっぱり人間がいないとダメ」

「人間の何が必要なんだ?」

俯いていたテミンは顔をあげた

「精気ってやつだよ。
人間が生きていくためのエネルギー。
血ではなくて、それを吸って生きているんだ」

「エネルギー?」

「全部吸っちゃうと殺しちゃうから、みんな気をつけてる。
たまに殺しちゃうこともあるけど。
でも、死因はだれにもわからないし」

「精気って言っても、血みたいに物質ではないよね」

「人間には見えないさ
でも、僕たちには見える。人間のエネルギーってやつが。」

「それをどうやって摂取するんだ?」

テミンの表情が少し意地悪な微笑みに変わる

「精気ってね、セックスでエクスタシーを感じた時に一気に量が増えるんだよ」

「なるほど」

「増えたところでいただくのさ。死なない程度に」

「では、相手とセックスする必要があるね」

「ああ。だから俺たちは夜の仕事についている奴が多いよ。太陽がダメなわけじゃない。
それにね」

「それに?」

「みんなセックスが上手いよ」

ニヤリとテミンが妖艶に微笑んだ

「なら、なんで君は彼女の肩を噛もうとしたの?」

「俺たちも、種族を増やさないといけないからね。
血を吸われると吸血鬼になってしまうのは、それはおじさんの想像通り」

「君は、昔からその体のまま?」

その質問に初めてテミンの顔が強張った
今まで何を聞かれても臆する事なく余裕で答えていたのに。

テミンはベッドの上に乗り上げると
横を向いて膝を抱えた

「そう…」

「最初は人間だったんだよね?
何がきっかけで今の君になったの?」

「……」

テミンは黙ってしまった

「わかった、質問を変えよう…」
ガンスが話の矛先を変えようとした時、それを遮るようにテミンがつぶやいた。

「恋をしたんだ」

「恋?」


テミンはどこか遠くをみつめている。

「その人にこのカラダにしてもらったんだ
血を吸ってもらった…
彼には種族を増やす使命もあったしね」

「彼?」

「そう…それなのにさ…
彼はある人間を大事に囲ってるんだよ」

「どうして?」

「……」


それからテミンはその彼について、もう何を質問しても答えることはなかった。

「じゃあ、最後にひとつ。
永遠の命を終えるには?」

それが弱点のはずだ

「永遠だから、終わりはないよ、でも」

「でも?」

「粛清はある。ひとつの部族だからね
掟破りは罪さ。その罪は償わなきゃならない」

「それはどんな?」

「そんなこと、あなたに話すわけないでしょ
ま、話したところで、どうにもならないと思うけどね」

「十字架とか、そういうのではないんだな」

「だから…もう…」

テミンはクックッと笑った
そして、遠くを見てつぶやいた

「蒼い月」

「え?蒼い月?」

「そう、掟破りは蒼い月が許さない」

その後はいくら誘導しても、はぐらかされた


諦めたガンスは病院を後にした

現代のヴァンパイアは、血ではなく人間の精気を吸って生きるのか。

種族を増やす時のみ血を吸う。

弱点は蒼い月?

永遠の命でも弱点があるはずだ。

ガンスはパタンとパソコンを閉じると
目を閉じて考えた

窓からは月明かりが入り込んでいた


ガンスははじめて会う「この世のものではない者」
に少し興奮して、その足でミノを祝うため兄の家に向かった。

いつもの明るい兄の家。

ミノは大学生活の話をいろいろしてくれた。

その中で出てきた友達のチャンミン

「小学校の時、一緒だったんだけどね
大学になってまた会えたんだよ」

「ねぇお兄ちゃん」

ヘジンが口を挟んだ

「あの側にいた人、チャンミンのお父さんよね?」

「そう思ったんだけどさ、年齢的に変だろ」

「うん、でも…チャンミンのお父さんって
何か印象深くて、こう幼心にもはっきり覚えてるのよね。絶対あの人よ」

「それがさ、お兄さんなんだって、あの人」

「えっ?」

「ヘジンは覚えてない?
あのお父さんが迎えに来るとき、その後ろにお兄さんがいただろ。あのコだって。」

「いないわよ、お兄さんなんて」

「ヘジンは小さかったからな」

「だって、私、チャンミンに兄弟は?って聞いたことあるのよ。そうしたら、ひとりっ子だって。
私、それでひとりっ子っていう言葉を覚えたのよ」

「そんなはずないさ」

ミノはヘジンの話をかわした。

「だって、チャンミン、兄弟がほしいっていうから
私、しばらく妹になってあげてたのよ」

「妄想だよ、ヘジン」

「ちがうわよ!」

ヘジンはムキになった。

そこへガンスが割って入った。

「そのお兄さんは、当時のお父さんにそっくりなのか?」

「うん、すごく似てるよ」

「お前、入学式で2人を見たとき、何かされたりしてないか?」

「何かって?」

ヘジンが食いついて来る
「お兄ちゃん、肩掴まれてたわよ、チャンミンのお兄さんに」

「肩を?」

「うん、なんか少し怖かったわよ
急に肩を掴んだりするから」

ガンスの顔色が変わった

ミノの中だけに、その子供の記憶が植えられたのではないだろうか。

チャンミンの兄だという記憶。

もしそうだとしたら…




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百海です。
ご無沙汰しています。

昨日から新しいお話を書かせていただいています。
今度のお話は哀しいファンタジーになります。
ご想像通り、ユノさんは人間ではありません。
そして残念ながらハッピーエンドではありませんので、すみません。
哀しいけれど愛はあります。
それでもいいよ!とおっしゃっていただける方
どうぞよろしくお願いいたします^ ^

蒼い月(1)





今日は入学式

桜の舞い散る大学の構内に
新入生達が吸い込まれていく

有名大学に我が子が合格した事がよほどうれしいのか。両親はもとより、家族総出で来ている生徒もいる。

賑やかな笑い声と、歓声。
未来ある若い魂と、それを讃える家族。
これ以上晴れやかな日があるだろうか。


家族と生徒は正門に入ったところで別々の待機場所へと別れる。

「あとでね」

「門で待ってるから」

にこやかに手を振る学生たちとその家族。


そんな中

大きな桜の樹の下で
長身の2人の男が向き合って立っている。

その姿は周りの目を引いていた。

1人はいかにも新入生といった感じの学生。
真新しいスーツにその身を包み、ピカピカのプレーントゥを履いている。

長い脚に可愛い顔立ち
バランスの良いスッキリとしたボディは
まるでモデルのようだった。

フワフワの茶色い髪と彫りの深い大きな瞳が
彼をヨーロッパの貴公子のように見せている

しかし、その表情は今ひとつ浮かない様子で
長い睫毛を伏せて、口をへの字に曲げている。

相手の男がその学生の手を取って、慰めるように左手でさすっている。

学生の兄だろうか。
鍛えられた体に上質のスーツがよく馴染む。
若いのに妙に大人びて色気がある。

広い肩に厚い胸板。
その上に乗る小さな頭。
黒く長い前髪をゆるくかきあげるように
セットされている。

スッキリと整った顔は黙っていると冷たく見える。

スッと切れ上がった鋭い視線であたりを見渡した。
明らかにまわりとは異なる雰囲気の自分たちが、
変に目立っていないか気にしているようだった。

「チャンミン」

その漆黒の瞳は目の前のきれいな貴公子に向けられた。

「ここまで来て、まだ言うのか?」

言葉とは裏腹にその声は低くとても優しい

チャンミンと呼ばれたその男が潤んだ瞳で相手の男を見上げる

甘えたような拗ねたような
そんな表情を惜しげもなく晒し
感情をぶつける

「ユノの隣に座れるっていうから」

ユノと呼ばれたその男の表情が緩む

チャンミンが可愛くて仕方ないといったように
その頬に触れる

「昔は一緒に入学式に出席できたんだよ。
きっと今は人数が多くなったんだろう」

「それ、いつの話なんだよ」

その言葉にユノの顔が硬直する

そしてその表情にハッと息を飲むチャンミン

「ごめんユノ。そういう意味じゃ…」

「わかってるよ。」

ユノは優しく微笑んだ。



ミノは猛勉強のあげく、見事にこの大学に合格して
今日はこれ以上ない晴れやかな日だった。

両親と妹、家族総出で来ていることが
恥ずかしくもあり、うれしくもあった。

ずっと応援していてくれた家族。
この家族の支えがあってこそ、自分はここに来ることができた。

そんな風に思えるようになった自分は
少し大人になったのだと自負していた。


「お母さん、ちょっとあれ見て」

妹がヒソヒソと母に話しかける。
妹の視線を追って行くと


そこに、美しい長身の男が2人。

なにやら、浮かない感じで佇んでいる。

「ねぇ、目立つね!2人ともカッコいい!」
「ほんとね、お兄ちゃんに仲良くなってもらって
紹介してもらったら?」

クスクスと母と妹は笑った。


あれ?

もしかして、チャンミン?


「ねぇ、母さん。あれチャンミンじゃないかな。
小学校の時一緒だった」

「え?」と母が目を凝らして2人を見る。


そのチャンミンの手を取っているのは
チャンミンのお父さんだ。


「あれ、チャンミンとお父さんだよね」

「何言ってるのよミノ。チャンミンのお父さんがあんなに若いわけないじゃないの」


たしかにそうなんだけど。

チャンミンはそれなりに成長してるからわからなかったけど
まずはその父親が目に入って、その学生はチャンミンだと認識したほどだ。


とても印象深くて、ミノはチャンミンの父親をはっきりと覚えている。


小学生の頃外で遊んでいて、
夕暮れになると空にコウモリが飛び交い、
そろそろ帰る時間だと寂しくなるころ。

父子家庭のチャンミンをその父が迎えに来ていた。

まさに今、ここにいるあの姿のままで。

ミノはその人に会う度に思った


なんてカッコいい男の人だろう


幼かったミノは憧れにも似た感情をチャンミンの父に抱いていた。

長身でスタイルがよく、
男らしく繊細な顔立ちに柔和な笑顔

どこか切なく哀愁を帯び
でも同時に温かさも持ち合わせていた。

その漆黒の瞳に優しく見つめられると
ミノはドキドキと心臓が高鳴ったことを覚えている。

彼には独特の香りがあった。

それが「色気」というものだなんて
幼いミノにわかるはずもなかった。


チャンミンの父は小さかったミノにしゃがんで視線を合わせてくれた。

「君はミノ君だね。チャンミンと仲良くしてくれて
ありがとう」

「いえ、そんな…」

ミノは恥ずかしくなって、でも少し大人ぶって答えた。


チャンミンはその父と、どこからかやってきて
転校生としてミノの学校に来た。

思慮深く優しいチャンミンとミノは気が合い
いつも一緒に遊んでいた。

「ねぇ、チャンミンの家って、あの丘の上のお屋敷なんでしょ?」

「そうだよ」

「一度行ってみたい!だめかな?」

「ごめんね、ミノ。それはダメなんだ」

チャンミンは申し訳なさそうに言った

「そう…」

「お父さん、昼間は具合が悪くて寝てるんだよ」

「え?そうなんだ」

体調の悪い人だなんて
とてもそんな風には見えなかった。

ミノはチャンミンとその父の暮らしぶりを覗いてみたかったのだけれど、諦めることにした。


そのうち本当に突然、チャンミンはどこかに引っ越してしまった。

あれから連絡のとりようもなく
そう考えると何年ぶりだろう

ミノは思わず2人に近寄って行った

どんどん近づくミノにまずユノが気づいた。

警戒して、一瞬チャンミンを庇うようなポーズをとる。

ミノはユノの鋭い視線が一瞬金色に光ったように見えて、立ち止まった。


「あ」


そう言ったきり、ミノは声がでなくなり
身体が痺れて動けなくなった。


なんだ

どうしたんだろう


人の気配にチャンミンが振り向いた

「ミノ!?」

その一声でミノの身体が一気に自由になった

でもまだ息がつらい
苦しかった…どうしたんだろう


チャンミンが驚いた顔でミノを見ていた。

「チャンミン?覚えてる?ミノだよ」

それでもユノの視線が警戒を解いていない

チャンミンは一瞬微笑んだように見えたのに
すぐまた俯いてしまった。

そしてポツリとつぶやき、少し上目遣いで囁いた。

「ひさしぶり…」

「なんかさ…チャンミンなんにも言わずに引っ越しちゃうから」

その言葉にユノが少し微笑んだ


「あのミノくん?」

「あ、はい」

「久しぶりだね」


柔らかく微笑むユノは気味が悪いほど変わらない。
今年18歳になるチャンミンの父だとは思えない。

「あ、あのお父様、変わりませんね」

「お父さんじゃないよ、ミノ君」

ユノが優しい笑顔で言うと
チャンミンが唇を噛みしめるようなしぐさをして
俯いた。

「お父さん…じゃ…ない?」

「チャンミンの兄でユンホだよ。忘れた?」

そんなはずはない…

チャンミンに兄弟はいなかった。

違うとかぶりを振ったミノに
ユノがゆっくりと近づいた

「ユノ、やめて」

緊張した表情のチャンミンが小さく囁いた

優しく微笑みながら近づいてくるユノに
ミノは恐怖を感じて後ずさりした。

ユノの目は微笑んでいない

その美しい造りの手がそっとミノの肩に触れる

ハッとミノは息を飲んだ
その時なぜか、ミノの脳裏に幼い日の記憶が蘇ったような気がした。


まだ小さなミノとチャンミン
そしてチャンミンを迎えにきた父。

その父の後ろに優しく微笑む男の子が見える。
自分たちより少し年上だろうか。
スッとした目尻が父親によく似ている。

その男の子に「ユノヒョン、今日は外に出ていいの?」チャンミンが心配そうに話しかける

そうだったのか?

あ、でも

そうか

チャンミンには病弱なお兄さんがいたんだ。
そんな気がしてきた…
そういえば、学校でもよく見かけた気がする
ユノヒョン…

そうか。

じゃあ、この人はあの時のお兄さんなのか?

「覚えてます。チャンミンのお兄さん」

「立派になったね、ミノ。
チャンミンとまた仲良くしてやってくれないか」

「こちらこそ!」

大学生にもなって、仲良くしてやってとは
ずいぶん過保護だとは思ったけれど
他に不思議だとは、その時は何も感じてないミノだった。

ユノはゆっくりと振り返り
愛おしそうにチャンミンを見た。

「ミノくんと一緒に行っておいで」

「ユノ…」

「これでひとりじゃないだろ?
あとで俺はこの桜の樹の下で待ってるから」

「…」

「チャンミン」

聞き分けのない子供をたしなめるように
ユノはチャンミンの頭を撫でた

「じゃあ、ここで必ず待っててよ」

「わかった。心配しないで行っておいで」

しぶしぶチャンミンはユノから離れた。
ミノとチャンミンは連れ立って新入生の待機場所に行く。

聞けば学部も一緒で専攻も一緒だった。

チャンミンは次第に打ち解けてきて
入学式が終わる頃には笑顔もたくさん見られるようになった。

「また、こんな風に会えるなんてね。
さっきも言ったけどさ、チャンミン急に引っ越しちゃって」

「うん、急だったんだよ。
僕も小さかったから事情はよくわからないんだけど」

「そっか。それにしてもお兄さんは相当チャンミンが可愛いんだね」

「フフ…2人っきりの家族だからね」

「そうなんだ…」

お父さんがなぜ今はいないのか
なんだか聞いてはいけないような気がして
ミノはそれ以上何も言わなかった。


校門にはたくさんの学生と保護者で溢れかえっていた。

ミノの妹がカッコいいチャンミンと一緒にいる自分の兄をみて興奮しているのが見える。


チャンミンが「じゃあねミノ。またガイダンスでね」

そう言って桜の樹の下へと急ぐ後ろ姿に
ミノは叫んだ

「あ、うん、そうだねガイダンスで!」


その樹の下にはユノがいた。
スーツのポケットに片手を入れ
もう片方の手でチャンミンに優しく手を振っている

チャンミンは子供のようにユノの元へ走って行った

そしてなんと
チャンミンはユノに飛びついた

え?

驚いて2人を見たのは、ミノだけではなかった
まわりの人も不思議そうに2人を見ている

しかも飛びついてきたチャンミンを
ユノはがっしりと受け止め、きつく抱きしめている

たかだか2時間離れていたくらいで
何年も会っていなかった恋人同士のような再会

微笑ましい光景と言えば言えなくもないけれど…

やがて、まわりは何事もなかったように2人から視線を逸らした。




「僕、やっぱり大学なんて行かない!」

スーツのまま、チャンミンは大きなダブルベットにダイブした。


ユノはそんなチャンミンを横目で見ながらネクタイの結び目に指をいれスルスルと解いていく。

そしてダメージのあるジーンズに黒いVネックのカットソーに着替え、ため息をついた。

「チャンミン、スーツがシワになるから着替えるんだ」

ベッドに近づき、その柔らかい髪に手を入れて撫でた


「ずっと2人で…誰とも触れ合わずに暮らして行くのがどうしてダメなの」

もう涙声になっている

「チャンミンは勉強しなきゃならない。
将来のために」

「そんな必要ないっ!」

「このことはもう何度も話しただろう」

「僕が納得していない事だって、知ってるでしょう」

その柔らかい髪を梳く手をチャンミンは払いのけて
起き上がった。

そして、ユノの肩を震える手で掴み
その漆黒の瞳を見つめた。
大きな瞳には涙がいっぱい溜まっている

ユノは愛しくてたまらない、といった風に
その頬を撫でる

「ユノ…」

「ん?」

「わがまま言ってるのは、自分でもわかってるんだ」

「いいんだよ。環境が変わったんだ
不安なんだろ?」

ユノの指がチャンミンの唇をそっと撫でる

「何も心配しなくていいんだよ、チャンミン」

「僕を手放す気じゃないよね?」

「手放す?」

「僕に勉強なんかさせて、社会に出そうって言うの?自立させようなんて、思ってないよね?」

「自立するのと手放すのは違うだろ」

「いやだよ!ずっと一緒にいるんだから!
僕はずっとユノと一緒にいるんだ」

チャンミンは泣きながらユノに抱きついた
ユノはチャンミンをその胸に抱きしめて、やさしく背中をさすった。


「僕…数年したら、ユノより年上になっちゃう。
それがすごくイヤなんだ」


背中をさすっていたユノの手が止まった


ユノの長い前髪はその小さな顔に影を作り
その奥に光る瞳には寂しさが滲む

きれいに筋の通った鼻先がチャンミンの髪を愛撫する。

「お願いユノ。このままでいたいんだ。
どうか僕も…ユノと同じにして」

その言葉を聞いたユノはいきなりチャンミンを突き飛ばすように放った

チャンミンはベッドの上に倒れこみ
そのまま黙って泣いた


「自分が何を言ってるかよく考えるんだな。
俺を見ていればわかるだろう?
こんな風になりたいなんて…心にもない事を
簡単に言うな!」

チャンミンは嗚咽をこらえて泣いた

ユノは興奮を収めるために寝室を出て
キッチンへ行った。

途端に喉が焼けるように熱くなった。

ユノは思わず自分の喉を押さえ、シンクの縁に手をついた


来た…今日は早いな
久しぶりに昼間外に出て疲れたかな

のどは砂漠のようにカラカラになり
ひび割れするのではないかと思うほど乾ききっている

カラダから力が抜けて、ガクッと膝が抜けた
側にあったグラスを掴んでしまい、
もろとも倒れ込んだ

大きな音にチャンミンはハッと起き上がり、
泣きはらした顔でキッチンへ急いだ

ユノが床に倒れている

チャンミンはユノを助け起こした
大して驚くこともせず、かなり慣れている所作。

「ダメだ、チャンミン…グラスが割れているから
こっちへ来たらダメだ…」

「わかってる。ユノ、怪我はない?立てる?」

よろよろと苦しそうにユノは自分で立ち上がった。

チャンミンはなぜか嬉しそうにユノを抱きかかえて
寝室へと誘った。


「たっぷりと僕を補充したらいいよ、ユノ」
さっきまで泣きじゃくっていたのが嘘のように
チャンミンは明るい。

ユノは苦しそうに自分の額を片手で押さえた。
そしてうめくように声を押し出した


「チャンミン…」

「こっちへ、ユノ」


「お前が欲しい…」


その言葉にチャンミンの顔が輝いた

苦しそうなユノの目が金色に輝く

今までの紳士的なユノが獰猛な魔物となる
それに切り替わるこの時が、チャンミンは大好きだった

ユノ…僕を…




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