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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

ショコラティエ(完)




チャンミンはバカラのシャンデリアの下で待った

いままですれ違ってばかりで…
本当にユノが来てくれるのか…怖かった

客はほとんど帰り、
先ほどひな壇にいた2人のパティシエもコートを
着込んで迎えの車に乗るところだった

不安になったチャンミンは思わず声をかけた

「あの!すみません」

1人が振り返った

「あの…チョン・ユンホさんは?」

「あれ?もう帰ったんじゃないかな?」

「え、そうなんですか?」

「俺たちが最後だったような…」

「あの…シャンデリアがあるのって、ここだけですよね?」

「そうですよ」

「すみません、ありがとうございます」


どうしたんだろう

また離れ離れになっちゃうのかな…

チャンミンはシャンデリアを見上げた

その煌めきは変わることなく
あの時と同じように、そして再会したさっきと同じようにチャンミンの頭上で輝く


今まで6年間、1人で行動してきたのに
急にこんなに心細い人になってしまうなんて


なんだか、泣きそう…



「チャンミン、ごめん!」


チャンミンがハッとして向き直ると
ユノが息を切らせて走ってきた

真っ白な歯を見せて爽やかに微笑むユノ

「待たせたね、悪いな」

チャンミンはたまらない気持ちになった

「来ないと思っちゃいましたよっ」

チャンミンは涙ぐんでしまう

「ごめん!ほんと、ごめん
せっかくだから、チョコ作ってやろうと思ってたら電源落とされちゃってさ…」

「そんなのいいんです!」

「あ…ごめん」

「ユノさえ来てくれたら、それで…」

「チャンミン…」

チャンミンは2、3歩ユノに近づいた

至近距離にある切れ長の瞳は相変わらず綺麗でセクシーだ。

チャンミンは思い切りユノに抱きついた

「おっと…」

そう言いながら、しっかりとチャンミンを抱きとめてくれたユノ

「なんだよ、さっきまではなんか固い感じだったのに急に甘えっ子になってさ…」

「だって、6年ぶりだったし
それに…また離れちゃうんじゃないかって」

ユノはチャンミンの俯く顔を下から覗き込んだ

「離れるのはいや?」

「せっかく会えたのに」

ユノは一瞬考え込むような顔をして、にっこりと笑った。

「ウチにおいで。チョコ作ったから
コーヒー飲んで行って」

「お母様にも会えますね」

「母さんは父さんのところに行ったよ」

「え?アメリカに?」

「ああ、あの家に俺1人」

「そうなんですか…」

「だから、遠慮することないよ」

「はい…」

泊まることに…なるのだろうか…

チャンミンはドキドキしてきた。


ユノは地下の駐車場に行って自分の車を出した

助手席に座ったチャンミンは
ユノが側にいる状況に馴染みつつ

それと同時に、身体の奥底から
忘れていた「欲」が姿を現し始めた

どうしよう…

ユノは僕を抱くつもりだろうか…


車は懐かしいユノの家に着き
チャンミンは思わず涙ぐんでしまった

「懐かしい?」

「はい…」

「6年ぶりだもんな」

「なんか…ここに住まわせてもらっていたことは
とても…いい思い出です。楽しかった」

「そう思うか」

「はい…」

ユノはチャンミンの肩を抱き、家に入る。

お手伝いさんにコートを預けて
あの頃と変わらないリビングに通された。

ユノはコーヒーを自分で淹れてくれ、
新作や、残ったプラリネで作ったチョコを並べてくれた。

ソファに2人並んで座る。
あの頃のように。

「わぁ、きれいですね!美味しそう」

「食べて?たぶんチャンミンの好きなものばかりだからさ」

「いただきます!」

ひとつずつ口にいれては、ユノを見つめて
なんとも言えない笑顔をみせるチャンミン。


そんなチャンミンの笑顔を見て、ユノは思う

どれだけ自分はチャンミンに会いたかったか

この6年間がどれだけ長かったか

切ない思いが胸に迫る

チャンミンを思い、ブリュッセルで毎日見上げた空。

チャンミンを思い、プラリネやジンジャーと格闘した夜。

寂しくて…辛くて…

他の誰かと恋愛して、チャンミンを忘れられたら。
そんな風に思ったこともあったけれど

やっぱりこの笑顔が忘れられなかった

その笑顔が今、自分の目の前にある


ユノはたまらなくなって
チャンミンの腕をいきなり引き寄せた

「あ!」

ふいを突かれて、チャンミンはユノの胸に倒れこんだ

しっかりと強く、ユノはチャンミンを抱きしめた。


「会いたかった…」

「ユノ…」

「寂しかったよ…もうチャンミンの邪魔をしたらいけないって、会ったらダメだって…思ってた」

チャンミンはそっと腕をユノの背中に回した

「僕も…寂しくてたまらなかった。
ユノは僕がいなくても幸せで、だからそれを壊しちゃいけないんだって思って…」

「バカだよな、俺たち…」

「うん…」

しばらく、2人は抱き合っていた。



そして、ユノはチャンミンが泊まっていくのは当然だと言わんばかりに、寝室へ招いた。

「今は、母さんの部屋だったところを使ってるから。ベッドもデカイから全然大丈夫」

なにが大丈夫なのか、2人で寝られると言っているのだろうけれど

チャンミンは恥ずかしくて戸惑った

「シャワー浴びてきちゃえよ」

たぶん、わざと、ごく普通にユノが言う。

「はい…」

チャンミンは言われるがままに、シャワーを浴びて
バスローブを羽織って出てきた。

ユノが続いてシャワーを浴びる準備をしていた。

「ベッドに入ってな、足が冷えるから。
でも、寝ちゃうなよ」

「え?あ…はい…」

チャンミンはそっとベッドに入る

ユノがシャワーを浴びる音を聞きながら思う。

自分はあまりにこういう事がひさしぶりで
ユノを受け入れられるか不安だった。

シャワーを終えたユノの瞳にすでに熱が孕んでいる

さっきまでの優しいユノとは少し違う

逞しい身体は以前と変わらないそのままのユノ

大人の男らしい色気に溢れ
チャンミンはその存在に魅了される

チャンミンの頬に手を添えて
ユノの顔が近づいてくる

「あ、あの…」

「?」

「僕…久しぶり過ぎて…うまくいかないかも」

ユノは一瞬、不思議そうな顔をしてチャンミンを見つめて、そして微笑んだ

「俺が抱いて以来、誰とも寝てないって事でいい?」

「はい…そういうことです」

「怖いの?」

「少し…」

綺麗な肌とその大きな瞳、透明感のある美しさは変わらず、より妖艶になったチャンミン。

ユノはチャンミンが愛おしくてたまらないといった表情で見つめる。

「可愛いよ、ホント」

「あ…」

「俺はお前しか愛せないな…」

「え?」

「俺も…お前以外を抱こうなんて気持ちに…
全然ならなくてさ…」

そうしてそっとチャンミンをベッドに寝かせ
ユノは優しくゆっくりと、コントロールが効かなくなりそうな自分をがんばって抑え、チャンミンを愛した。

この6年間の思いをわかってほしい

2人はそんな思いで相手を求めた

チャンミンはなんとかユノを迎え入れると
すぐにその快感が蘇り、そして、溺れた…

ユノも夢にまで見たチャンミンの感覚に
酔いしれて…溺れた

お互いが本当に側にいてくれるのか
確かめるように、何度もその愛しい名前を呼び合った…

大好きなユノ…
愛しいチャンミン…

ユノは途中で泣きそうになった

この腕の中にチャンミンが戻ってきてくれたなんて
まだ夢をみているようで…

その行為を一時中断して、ユノは囁いた

「愛してる…もう、離したくない」


離したくない…そんなシンプルな言葉が
6年間、別々だったこの2人にはとても意味が深い

やがて、2人とも力尽きて…

それでも頭が冴えて眠れず

眠ってしまったら、相手が消えてしまうのでは…
そんな恐怖もあった。

それはなぜなら

明日の約束が何もないからだ。


そのことに2人とも気づいていた


窓の外の空が白み始めた

眠れない2人はベッドの上で座っていた

ユノがチャンミンを後ろから抱きしめて
そのうなじにいくつも優しいキスを落としている。


「やっと、ここに戻ってきたって感じがします」

「戻っておいで」

「ユノってば…そんな簡単に…」

ユノがキスをやめた

「俺たちさ、悪い意味で大人になっちまったな」

「悪い意味で?」

「相手の事、考えすぎ」

「思いやりって、言うんですよ、それ」

「だけどさ」

ユノはチャンミンの肩を持って
自分の方へ向かせた。

2人は向き合う

ユノがじっとチャンミンの瞳を見つめる

「前はチャンミンになんでも言えたのに
俺のわがままも」

「言えないですか?」

「言えないね、なんかお前の立場とか
そんなの考えちゃって」

「ユノ…」

「ん?」

「ワガママ言わせろって、そんな顔してますよ」

「あ、わかる?」

ユノは照れ臭そうにへへっと笑った


愛しいユノ…

「じゃあさ、言わせてもらってもいいかな」

「どうぞ?」

「あのさ…承諾してくれるかどうかは、返事をゆっくり待てるからさ…」

「ユノ」

「ん?」

「ほんとに大人になっちゃって」

「え?」

「前置きが長くなりましたね。
前は単刀直入に言ってくれたのに」

「そ、そうか?そんな子供だったか?」

「ユノがそんなんじゃ、僕の方から先に
ワガママ言わせてください」

「いいけど?」


「僕をアメリカに連れて行ってください」


ユノが目を見開いて驚いた


「もう片時も離れたくないんです。
あなたの迷惑なんて、この際どうでもいいんです。
ずっと一緒にいたいから、連れて行ってください」

「………」


「これが僕のワガママです」

「チャンミン…」


「ユノのワガママは?」


ユノの瞳に光るものが見える

優しく微笑むユノ…


「俺とアメリカに来てくれ、チャンミン」


「はい!」

美味しいチョコレートを食べた時より
嬉しそうな笑顔でチャンミンは答えた。

ユノはたまらず、チャンミンを抱きしめた

「先に言われちゃったよなぁ、チャンミン」

「前置きが長いからですよ、じれったい」

「アハハハ」

「あと、もうひとつワガママ言わせてください」

「なに?なんでも聞くよ?」

チャンミンは身体を離して、
ユノの瞳を睨みつける

「アメリカなんて、チョコレートが美味しいイメージがまったくありません」

「ああ、うん、そうだよな」

「あなたが僕のショコラティエとして、美味しいチョコレートを作ること」

「命令かよ」

「そうですよ、僕は6年前に戻って、なんでも言います」

「アハハハ」

爽やかにユノが笑う

窓の外の朝焼けは眩しい朝日に変わりつつあった。


チャンミンは思った

今度「空」についてのコラムを頼まれたら
今朝のこの空について書かせてもらおう


大好きなユノと再び結ばれて
2人で布団にくるまって眺めるこの空が

どんなに眩しくて青かったか


チャンミンがユノの顔をふと見ると

ユノも同じ青空を眺めていた

これからも…2人で同じ方向を一緒に見て行こう


*もうすぐ一緒になれる2人に寄せて*

(完)



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〜あとがき〜

百海です。
「ショコラティエ」読んでいただいて、ありがとうございました。

このお話は何か大きな出来事が勃発したり、劇的な別れや再会があるわけではなく
淡々と日常の中の2人を描いてみました。

こういう感じのお話は大好きで
叙情的な韓国映画のような空気感を出したかったのですが、
そこはやっぱり文章力の足りなさで(^◇^;)
ただ文章を綴っただけになってしまったかな?と。

個人的には激萌えしながら
時に切なく涙しながら描いていたのですけれどw

そして、いつもながらたくさんの拍手をいただいて
毎日拍手コメントをいただいているにも関わらず
お返事が全然できてなくて…
本当にすみません。

途中からネタバレになりそうで、というのもあったのですが、ほんとうに不義理をしています。

それなのに、みなさんのコメントを励みにさせていただいて、ここまで書けるのも事実なのです。
ありがとうございます!ほんとうに感謝してます

次回のお話は少し間が開くかもしれません。

毎日更新するお話ではなくて、
一話完結篇を不定期に描いてみようかと思っています。

ただの思いつきなのでなんとも言えませんが。

だんだん春の匂いもしてくる季節となりました
私はこれから花粉との闘いですが、みなさんはいかがですか?

もうすぐ、まずはユノさんが帰ってきますね!
その後のチャンミンのお迎えには是非ユノさんが行って欲しいのですが、どうでしょうね。

いろんな妄想が膨らみます

それではまたいつかお会いしましょう!

ショコラティエ(29)


「………」


チャンミンは
ユノがいなくなった喫茶室でじっと座っていた。

少しだけだったけど話をして

ユノも自分と同じような6年間だったのかと
少なからず衝撃を受けた。

チャンミンは決心したように席を立って
喫茶室を出た。


コンシェルジュにコートを渡す
タキシードこそ着ていないものの、上質な生地のスーツを着て、研究者らしい落ち着きを感じさせていた。

ユノと思わず出会ってしまった動揺が
やっと治まりつつあった。

広間に入ると、懐かしさで胸がいっぱいになった


あの日、一歩も前に進めないチャンミンを
そっと背中に手を添えて人波を泳いでくれた
頼もしく美しいユノ…

思い出すのはあの日のユノの事だった

胸がキューっと苦しくなるような
切ない感情が襲って来る

そしてさっきの大人っぽくなったユノの表情が
昔のタキシードのユノとリンクする

もう、会う事もないのかと思っていたのに…


パーティは多少なりとも経験していて

あまり人と接しなくて済む振る舞い方も身につけた。

知った顔もなく、シャンパンを飲みながら
だらだらと人の間を歩き回っていた

すぐ帰るつもりだったのに、
チャンミンは帰れずにいた。

もういちど、ユノに会いたかった


広間の照明が少し落ちて
いよいよ新作発表会の時間だった。

ユノの姿がまた見れる…はず

小さなひな壇に照明があたり
そこに長いテーブルと3人のパティシェが登場した。

後ろで見ていられれば、と思っていたのに
その姿が見たくてチャンミンはいっぱいに首を伸ばした

左端のユノは一際凛々しくて美しい

チャンミンはその姿を見て、あっと声が出そうになった。


ユノの胸元には、あのスカーフマフラーが…
チャンミンが貴重な本を売って買い求めたそれが…


チャンミンの唇が震え出す

ユノ…

チャンミンの思考が止まる


ひな壇では
ユノがスマートにインタビューに答えている

「毎年、このジンジャーにこだわってますね」

「そうですね、これを完成させるためにショコラティエになったようなものです」

「毎年そうおっしゃっていますけど、まだ完成してないんですか?」

「今回は完成するかもしれません」

ユノと目が合った

ユノの目はチャンミンを捉え
しっかりと見つめている

「自信のほどはどうですか?」

「わかりません。賭けみたいなところがあるので」

ユノの視線が強くなる

「賭けですか。楽しみですね」

「はい」

そうやって爽やかに微笑むと
なぜかユノは下を向いてしまった

やがて、デザインされたチョコレートのお披露目になり、
ユノのそれは芸術作品のようだった。

みんなに褒め称えられ
その試食が配られると人々が群がった

こういう時、ほんとうにチャンミンは弱くて
前に出れない

まずはユノのチョコを味見してみたかったのに

諦めて、また壁の花になりさがっていたチャンミンにユノが小さなトレイを持って人波の中から出て来た。

まるであの時のように

試食争いに参加できないチャンミンのために
ユノがトレイにチョコを並べて持って来てくれる

微笑みながら近づいてくる

チャンミンは壁から離れてユノに近づいた

優しいユノの瞳…
チャンミンを穏やかに包むように見つめる

こんな風に…あなたに見つめられて…
くすぐったいような気持ちに身をよじらせたのは
いつの事だったのだろう

月日が流れても、忘れることのなかったその人

「ユノ…」

「召し上がれ、俺のチョコしかないけど」

「ユノのチョコだけでいいです」

「うん、他のなんか、食べなくていいよ」

「自信のほどは?と聞かれてましたね」

「チャンミン次第だ」

「僕?」

「とりあえず、一粒どうぞ」

ユノはその綺麗なチョコレートを一粒つまむと
チャンミンの口元に持ってきてくれる

チャンミンはそんなユノの行動に一瞬躊躇したけれど、そっと唇を開くと

その綺麗な人差し指で
チャンミンの唇の中にチョコレートを入れた

甘いチョコの中から、ゆずのプラリネが溶け出し
ピリッとしたしびれに似た感覚が舌に残る

誰に言われなくても、それは生姜だとわかる。


なんて美味しい!


なんて新しい味!


チャンミンはふんわりと笑った

「ユノ、すごく美味しい!」

ぱぁーっと破顔したユノの瞳にキラリと光るものがあった

「美味しいか?」

「はい、すごく美味しいです」

「よかった。
その笑顔が見れたら、これは完成なんだ」

「完璧だと思います」

「そうか…うん」

ユノは満足そうだった


チョコが美味しかったからだろうか
チャンミンもユノに対して、少しリラックスした

「ユノはお店開いてるんですか?」

「いや、このホテルでショコラティエをしてるだけ」

「もったいない」

「完成したから、いいんだよ。もういいんだ」

「そう…なんですか。
もう作らない?」

「ああ、もう作らない」

「どうして?」


ユノは寂しそうに微笑んだ

「辞めるんだ。この仕事」

「えっ?」

「父さんの会社を継がなきゃならない」

「そんな…」

「もうみんな歳でね…」

「……」

「父さんがアメリカで待ってる」

「………」


6年もたてば…いろいろと変わるものだ

でも…

また、離れてしまう…
せっかく会えたのに


「そんな悲しそうな顔をしてくれると
俺、勘違いしちゃうぜ?」

「悲しそうだなんて…」

チャンミンは気持ちを言い当てられてしまって
狼狽えた。

「ごめんごめん…
でも、俺、父さんに認められたんだよ」

「そういうことですよね」

ユノは首元からスカーフを取って小さく畳み
チャンミンに差し出した。

「ユノ?」

「これがあったから、ここまでやってこれた。
チャンミンが応援してくれてるような気になって
なんでも頑張れたんだよ」

「………」

「ありがとう、チャンミン」

チャンミンはそっとそのスカーフを見つめる

ここで受け取ってしまったら
また離れ離れになるような気がして、受け取れない

ユノが真剣な顔になる

「俺の近況を聞きたくないって…言ったけどさ」

チャンミンがハッと顔をあげる

「強引に言うよ? 悪いけど聞いて?」

「え…」

ユノはお構い無しだった


「ずっとチャンミンが好きだった。」

「……」

その言葉にチャンミンの体温が一気に上がった


「誰とも付き合ったり結婚したりしてないし
チャンミンのことだけ思って6年間過ごしてきたんだ。」

「……」

「チャンミンにどれだけ会いたかったかわからない
でも、お前の邪魔をするんじゃないかって
こんなおれでもそれくらいのことは考えて…」

「いつ?」

「え?」

「アメリカへはいつ行くの?」

「あ、えっと…来年の春くらいかな…」

「そう…」

「あのさ…」

「?」

「カッコつけて後悔したくないから言うけど」

「はい…」

「今日このまま別れたら
いつまた会えるかわからない」

「……」

「そんなのイヤだ…」

「………」

「………」

「だったら…」

「……」

「このスカーフを僕に返したりしちゃ
ダメじゃないですか」

チャンミンはユノの差し出したスカーフを手に取ると
きれいに広げてからユノに結び付けた。

「………」

ユノはスカーフを結んでもらいながら
チャンミンの瞳を見つめた

その視線に気づき
チャンミンもユノの瞳を見つめる

「僕ももう離れたくない」

ユノの瞳が優しく細められる

「もうショコラティエじゃなくなるけど…いいか?」

「僕だけのショコラティエでしょう?」

「……チャンミン」


離れたくないとは言えても、
アメリカについて来い、とは言えないユノだった。

そこまでは言えない。
チャンミンの生活を大きく変えてしまうし…

そこがもう子供ではない大人のユノで。

そしたまた、安易にアメリカについていくとは言えない大人のチャンミンだった。


それでも
6年もの歳月を経て、再び思いを確かめ合えたことに2人は胸がいっぱいだった…


ユノはもう、大勢の人たちの前で衝動的にキスをすることはなかったけれど

チャンミンの手をしっかりと握り、自分の胸に当てた。

「着替えてくるから、あのシャンデリアの下で待ってて」

「はい…」

「いなくなるなよ?」

「ユノも、必ず来てくださいね」

「ああ、必ず行くから」


固く約束をして、ユノはトレイを持ってステージに戻った

途中振り返り、微笑む

チャンミンも小さく手を振って微笑んだ





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百海です。
ずっとついて来てくださってありがとうございました。
明日は「ショコラティエ」最終回となります

ショコラティエ(28)



腕時計をして、カシミアのマフラーを巻く

僕はドイツから韓国へ戻った
数えてみたら、あの日、ユノがベルギーへ旅立ってから6年もたっていて。

この6年が早かったのかどうか、わからない。
僕は必死に生きてきただけ。


ユノの隣にいた人がユノの奥さんなら
もう子供も大きいのだろう

きっといいパパになっている

今はお父さんの仕事を継いで
いいビジネスマンにでもなっているのかもしれない


僕だけが変わらない

あの頃は子供だったとか、自分の道がどうだとか
カッコイイこと言ってみても

僕は先に進めないでもがいている。

ずっとあなたを心に思って生きている

想い出に縋って、あの頃の事を後悔しながら
一生を過ごしたって別に構わない

僕は今でもあなたが大好きだ…


韓国に戻り、世話になっている教授から頼みごとをされた。
教授の代わりにホテルで開催されるデザートの新作発表会へ行って欲しいという。

それはあの懐かしのエンパイアホテルだった

チャンミンにとって、それは酷なことだったけれど
義理を絡められて仕方なく顔だけ出すことにした。

昔を懐かしむのもまたいいかな、と
意外と余裕な自分に驚いた。

タクシーには乗らず
駅から歩いた。

寒い北風にぶるっと身震いをしてしまう

落ち葉の絨毯を踏みしめて
懐かしいそのホテルを訪れた

なだらかなスロープはそのままだ

白いジャケットの係員が恭しくお辞儀をする


エントランスに入ってまず目に入ったのは
あのバカラのシャンデリア

魂をうばわれてしまうのではないかと
そう思ったほどの煌めきと豪華さ

それはまったく失われていない

チャンミンはあの頃と同じで
その美しさに息を呑み、エントランスの真ん中に突っ立って上を見上げる

なんてきれいなんだろう

あの頃と同じように、自分がこれを美しいと思えることがうれしかった。


でも、その時気づかなかった

そんな自分の間抜け面を、
じっと見つめていた人がいたなんて

それが愛おしくてやまない…ユノだったなんて



ユノは毎年参加している新作発表会にある期待をしていた。

それはチャンミンがいつかこのホテルに来る事。

若くしてドイツに招かれるほどのチャンミン
招待される事もあるかもしれない

そんな淡い期待を抱き続けていた


毎年チャレンジしている
ジンジャーを使ったチョコレート。

実際に食べてくれることはなくても
いつもチャンミンのことを思って考えて作った。


その日はリハーサルと試食用チョコの準備に追われていた。
何百というチョコを作らなくてはならない。


ある程度の準備が整い、やっと一息ついたユノは
外の空気を吸いたくてエントランスへまわった。

エンジ色の絨毯に柿色の壁

大きなバカラのシャンデリアがエンパイアホテルの象徴としてきらめく

ここへ来るとユノはいつもその幻を思った


あの日のチャンミン

2人でタキシードを着て、緊張するチャンミンをエスコートしたあの日。

チャンミンは口を開けて、このシャンデリアに見とれていた。

可愛かった

これから、いろんなものをみせてやろうと
そう心に決めたあの日…


…………


ユノは自分の目を疑った


そのチャンミンが

目の前に現れた


人々が行き交うエントランスで邪魔になってることも気にせず。
ぽかんとシャンデリアを見上げるチャンミン…


まさか…


「………」


どうして…ここに…

いや、やっと、ここに来てくれた…

自分の願いが叶ったのか?


チャンミン…

声をかけようとしたけれど
それは声にならなかった。

自分は幻を見ているに違いない

そんな風にも思えた。


チャンミンはシャンデリアから向きなおると
そのまま、人波に紛れて広間へと流れていく

あ…

ユノはその姿を見失いそうになった


ユノは追いかけた

広間の入り口でイベントのパンフレットを手に取り眺めるチャンミンを見つけた

変わらないチャンミン…


会いたかった…


6年前に別れて、あのチャンミンの誕生日に顔を見たきり。

「チャンミン…」

できる限り近づいて声をかけてみた

ユノの声だと気付いたのか
ハッとしてチャンミンはこちらを見た。

「あ…」

チャンミンも驚いて言葉にならないようだった。

もう1歩ユノはチャンミンに近づいた

「チャンミン、久しぶり…」

「………」

「あの……」

「………」

「新作…発表会に来たの?」

「あ、はい……あの…」

「………」

「お久しぶり…です…」

「あ、なんかさ…」

「………」

「チャンミンが韓国にいるなんて…思わなくて…」

「………」

「なんだっけな…ドイツにいるって…何かで…みて」

「専門誌…ですか?」

「違う…飛行機の…なにか」

「?」

「あ、あのさ、時間あるか?
少し話せないか?」

「………」


チャンミンは戸惑った

今更、話す事など何もなくて

ユノの様子なんて怖くて聞きたくない
それが正直な気持ちだった…


「話すとか…イヤか?」


チャンミンは顔をあげた

頬が細くなったユノ。

あの頃より、責任ある大人の男の顔になった
いい歳の重ね方をしている

元々セクシーな人だけれど匂うような大人の色気。
白いコックコートが凛々しくてとても似合う


ショコラティエなんだな
あれからずっと…

チャンミンは胸がギュッと締め付けられるようだった。


「ごめん、無理強いして…パーティには来るよな?」

ユノは後ろ髪引かれながらも立ち去ろうとした。

「あ、いいです、少し話しましょう」

「ほんと?」

「はい」


2人でホテルの喫茶室のような店に入った。
カフェというほど軽い感じではない。

2人で向き合ってコーヒーを注文した。


気まずい空気が流れる


何しろ、こうやって向き合うのは
6年ぶりだった。

チャンミンは下を向いたままだった。

でも…それじゃいけない

勇気を持って顔をあげた

ユノはじっとチャンミンを見つめている
その視線とぶつかって、
チャンミンはまた下を向いてしまった


チャンミンは膝の上で両手で握りこぶしをつくる


「あの…」

「………」


「元気…ですか?」

「うん、元気…チャンミンは?」

「元気…です…とりあえず」

「そうか…今、俺さ…」

「あ、言わないで!」

「?」

怖かった…

ユノの現在を聞くのは怖かった


「あなたの…近況は、聞きたくないんです」

「え?」

「あ、なんていうか…」

ユノはフッと寂しそうに微笑んだ

「俺と…話したくなかった?」

「いえ、そうじゃなくて!」

「……」

「あなたの近況を聞いたら、
あの頃に戻れなくなりそうだから…ちょっと待ってほしいんです」

「………」

「ずっと言おうと思っていたことがあって…」

「うん…」

「謝りたかったんです。今更なんですけど」

「何を?」

「6年前、ひどい事言って…
正直何を言ったかは忘れてしまったんですけど。
あなたを傷つけた…ほんとうに…ごめんなさい」

「チャンミン」

「はい」

「俺も何を言われたか、わすれちゃったよ」

「ユノ…」

ユノは穏やかな大人の表情でチャンミンを見つめていた。

「俺も…チャンミンがいろいろ我慢して
それを言えなかったのを、ちゃんと汲み取ってやれなくて…ごめん」

「ユノが謝ることなんか…ないんです」

ユノの微笑みは優しく
そのキリッと凛々しい目がその笑顔に色気を足している

「俺、何年か前に読んだんだ、機内誌の空についてのコラム」

「え?…あ…僕の…」

「そう…」

「ああ、そうなんですか…あんなのひとの目に止まるんですか。」

「その頃でさえ、いろいろ吹っ切れて
充実しているような感じだったから…」

「いえ、そんなことは」

「今はもっと充実しているの?」

チャンミンが顔をあげると、再びユノの視線と重なった。

ユノは食い入るようにチャンミンを見つめていた。

まるでチャンミンの答えを待構えるように…

「ええ、充実しています。なんていうか、生活は確立されていて…はい、充実してます」

「変化は求めない?」

「求めません…今のこの生活が安定していて」


「………」

ユノはチャンミンから視線を外さない

「チャンミン…」

「はい?」

「結婚してるの?」

「え?」

単刀直入にユノが聞いた

「結婚とまではいかなくても、
恋人がいたりするの?」

ユノの瞳は真剣だ

「恥ずかしながら、いません」

「………」

「そんなに…綺麗なのに?」

「え?」

「モテるだろ?チャンミン。
大人っぽくなって、可愛いだけじゃなく綺麗だ」

「全然ですよ…」

お願いだから、ユノは自分の事を話さないで…

「俺の近況は嫌みたいだから、話さないけどさ。
チャンミンにパートナーがいなくて…正直うれしい」

「ユノ…」

「それに…時計をしててくれてるんだね。」

チャンミンはさっと左手首を隠した

「ベルトは違うのをしてる…前のは?使い込んでボロボロになった?」

「あ……」

もうチャンミンはしどろもどろで

ユノは攻め込むように話しかけてくる
もう前のめりになっているユノ

「ベルギーに来てくれたんだよね
どうして、会いに来なかったの?
俺がお腹の大きな女の人といたから?」

「………」

チャンミンの膝が握りこぶしとともに震える

「………」

「あの人はね、全然そんなんじゃないんだ」

「違うんです…」

「………」

「謝ろうと思って、ベルギーに行ったんですけど」

「うん」

「あなたが笑顔で…いたので」

「………」

「ひさしぶりにあなたの笑顔がみれたのが
うれしかったけれど、ショックで」

「………」

「僕は最後の方、もうあなたを笑顔にできなかったから…」

「最後の方ってなに?」

「………」

「なんの最後?」

そこへ、白いコックコートを着たスタッフが
喫茶室へ駆け込んできた。

「ユノさん!こんなとこにいた!
もう始まりますよ!みんなあなたの指示を待って動けずにいます」

「あ…」

「あ、ユノさん行ってください。すみません」

スタッフに連れ去られるようにして
立ち上がったユノ

「チャンミン、パーティには来るよな?」

「あ、はい…顔出すだけですけど」

「俺、最後とか思ってないから」

「………」

チャンミンはスタッフに急かされるユノを見送った



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ショコラティエ(27)



ユノは自室に入り、ドアを閉めた。

暗闇の中、フロアライトだけをつけて
その記事を読んだ

チャンミンが書いた…そのコラムを
ユノは真剣に読んだ


理論で戦う事は得意でも
自分の気持ちを話すことは苦手なチャンミン。

それは、そんなチャンミンの懺悔にも似た告白だった


〜〜〜〜〜〜〜〜



昔、大好きな人がいたんです。

明るくて優しくて
とても綺麗な人。

僕はその人のおかげで自分を知り、世の中を知り
そして、人を愛することの素晴らしさを知ったのです。

その人に会えたおかげで
毎日が輝いていました。

勉強ばかりだった僕の中に
その人はどんどん入り込んで来て
僕を魅了していく。

人に頼ることを良くないと思っていた僕は
甘える事を教えてもらい、その心地よさを知りました。

僕の世界は変わったのです

心から愛したその人には
弱みを見せることができたし、
そして、僕もなんでもしてあげたかったのです。


でも、僕は幼すぎて
その人を愛しぬくことができませんでした。

思うようにならないことに我慢できず
気持ちのコントロールもうまくできず

気がつけば、もう後戻りができなくなっていました

別れてしまったのは
何か大きな出来事があったわけじゃなく

ちょっとした気持ちのすれ違いが
取り返しのつかない大きな溝を生んでしまったのだと思います。

その時はわからなかったけど
今思えば、悪いのは意固地だった僕です。

とてもひどい事を言って
その人を傷つけてしまったから。

大好きだったその人から
笑顔が消えていきました

僕はそんなことにも気づかずに
ただ突っ張っていました。

素直になれないのは、生まれ持った僕の本質
克服できない僕のダメな部分

論じる事で自分を守ってきた僕の最大の欠点です。

失って初めて、その大きさがわかり
別れて初めて、どれだけ愛してたかわかりました。

僕は後悔に苛まれ、もがき苦しみ

その温もりが恋しくて寂しくて
失った笑顔を思い出しては泣いていました

辛くてどうしようもない時
そんな時は空を見上げていろんな事を考えました

この空は愛しい人の頭上にある空と続いている

もしかしたら、愛しい人も今、同じ空を見ているかもしれない

そう思うと寂しさが少し和らいで

僕は出かける時に毎朝空を見上げていました
辛い時はわざわざ外に出て、空を見上げました


今、僕の真上にある雲が愛しい人の空へと流れるなら、どうか僕の言葉を届けて欲しい


ごめんね


たったその一言でいいから、どうか届きますように

そうやって寂しい毎日を耐え抜いていたように思います。

今はもう、お互いにそれぞれの道を行き
2人で過ごした日々は良い思い出となり
僕も少しは大人になりました

あの頃に戻ってやり直そうなんて思わない
穏やかに思い返すことだって、もうできる。

きっと別れるべき2人だったのだと
そう思っています

でも…

いまでも空を見上げて僕は思うのです。

今日も愛しい人は幸せでありますように
今日も笑顔でいられますように

空は僕のいろいろな思いを受け止めて
今日もその人の元へと雲は流れていくのです。



コラムはそう結ばれていた。



そんなに愛してくれていたんだ
そんなに思ってくれていた…


ユノは寂しく微笑んだ

そして小さく掲載された
チャンミンの写真を人差し指でそっと撫でた

愛しいチャンミン…


チャンミンはわかっていたんだ

俺たちはちょっとすれ違っただけなのに
意地を張ってしまって…

こんなことになってしまった

チャンミン、俺だって
大したことじゃなかったのにお前を許さず
俺だって悪いんだよ…
俺だって後悔してるんだ

ごめんな…チャンミン…

同じように毎日空を見上げていたなんて
嬉しいのかどうなのか、よくわからない

それでもこれだけはわかった

チャンミンはすっかり立ち直り
俺の幸せを願ってくれている。

いい思い出を共有できた…
それでいいはずなのに…

置いていかれているような
そんな寂しさが溢れてくる

だって

忘れられるわけなんかない

あんなに大好きで一生懸命だったんだから。


別れるべき2人だったと思っているのか?

たとえそうだったとしても、あの時から俺の心は動かない。

チョコレートを口にしてふんわりと微笑むお前に
心を奪われてからずっと

俺はチャンミンが大好きだ
ずっと愛してる

自分をごまかして、お互いの道を、なんて
カッコつけたこともあったけど

そんなのウソだ

俺はチャンミンを忘れないよ

ずっと気持ちは変わらない

これからもずっと


ユノは泣いた…

チャンミンと別れてしまってから
たぶん初めて泣いた

誰もみていないのに
片手で両目を押さえて泣いた

次から次へと流れ出す涙で指は濡れ、
手では押さえきれずに、涙が溢れ出た

心の奥から嗚咽がこみ上げ
それは涙と繋がってせり上がってくる

誰も見ていないのに
ユノは嗚咽を我慢した

ユノは声を殺して泣いた




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ショコラティエ(26)



それから季節が2回くらい巡り

2人が離れて3年の月日が流れた


ユノはチャンミンへの想いを仕事への情熱と昇華させ、
いまや、エンパイアホテルのショコラティエにまで上り詰めた

その技巧をこらした芸術的なチョコレートは
お祝いの席や、プレゼントに喜ばれた。

ユノはコンテストに出ないことで有名で
自分の名前を上げることを嫌った。

そのために見失うものが多いことを学んだユノ。
それでも賞を否定するわけでもなく
興味がない、という感じだった。


チャンミンは住む場所がドイツに変わっても
その行動パターンは同じで。

研究に没頭し、身なりにほとんど構わないにもかかわらず、儚くて綺麗だった。

チャンミンはヨーロッパでとてもモテた。

それこそ、男女隔たりなくみんな自由に恋愛をして
チャンミンもたくさんのアプローチをされていたけれど、そのどれにも反応することはなかった。


チャンミンの心にはずっと変わらずにユノがいて

ユノの心にはずっとチャンミンがいた。


ユノはチャンミンがドイツに行ったことを知らず
それからもチョコレートの店のまわりをうろついてみたり、新作発表会があれば客席を見渡した。

チャンミンの姿が見たかった。


でも、わざわざ居場所を探すことまではしない。
探したところで、新しい世界に生きるチャンミンに
今更、邪魔扱いされるのは嫌だった。


その日ユノはひさしぶりにソンジュのところに来て
いろいろな話をしていた。

「そういえば、ユノ、あの時計はちゃんと渡したのか」

「時計?」

「特別賞でもらった金で買っただろう?
あの家庭教師に」

「ああ、あれ…ここに置いていってますよね。
いろいろあって、ちょっと手元に置きたくなくて」

「だからってさ…」

「すみません…」


「ユノのお母さんに渡したよ」

「えっ?」

「いや、ほんと」

「いつですか?」

「ユノがベルギーに行ったばっかりか
そのあたり」

「………」

「聞いてないの?」

「ええ…なんで、母さん言わなかったんだろうな」

「渡してやってって言っておいたから
本人の手に渡ってるだろう」

「そんな…」

「ダメだったか?」

「渡すつもりはなかったんです」

「はぁ?」

「いえ、なんか、すみません。
気にしないでください」





ユノの母は物思いに耽っていた

その手には、飛行機の中で読む航空会社の雑誌。
決まったページをなんども開いてしまう

開いてそのページを見てはため息をついていた

ユノが帰って来た気配がして
その雑誌をクッションの下に隠した。

「おかえりなさい、ユノ」

「ただいま。あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」

「なに?」

「ソンジュさんから時計受け取ってない?」

「………」



「母さん?」

「あ……」

「チャンミンに渡したの?」

「ええ…渡したのよ」

「どうして言わなかったの」

「なんか、あなた達、いろいろあるみたいだったから」

「 ……」

それを言われるとユノは何も言えなかった
チャンミンにウザいと思われただろうな…


「あのね、ユノ」

「うん」

ユノは、思いつめたような母の前に座った。

「あの…黙っていてくれと言われてたから…」

「だれに?」

「シム先生に」

「えっ?」

「ユノが…ベルギーに行ったでしょう」

「うん…」

「実はね…」

「……」


「シム先生、追いかけたのよ、あなたを」


「…………」

「謝るんだって…そう言って……」

「そ…」

「……」

「そんなこと…あるかよ」

「先生バイトなさってね…旅費貯めてたわ」

「………」

「あなたに会いにひとりで行ったの」

意外な話に鼓動が速くなる

まさか、チャンミンが自分を追って来ようとしてたなんて。


「来なかったよ、ベルギーには」

「会えなかったとおっしゃってたわ」

「いや、来たらなんとしても会いに来てくれたはずだろ」

「私からあなたへのお土産がベルギー国内から発送されてるって連絡もらったわね」

「早く届けたいから、旅行する友達に頼んだって…」

「あれは実はシム先生なのよ」

「え………」

「ベルギーのホテルからあなたに送ってくれたの」

「どうして…だったらどうして…」

「もしかしたらね、これはお母さんの想像だけど
あなたが女性と暮らしてるって言ったから」

「は?」

「だって…あなたがそう言うから」

「ミナ…のこと?」

「シム先生、躊躇したのかもしれないわ」

「いや、チャンミンはそういうこと、しっかり自分で確かめたいはず」


あの頃…

ベルギーに来てくれたなんて

どうして俺に会わなかったんだろう


ふと、ユノはチョコレートの店で見かけた、男性といるチャンミンを思い出した。

俺が結婚でもしてると思ったのか


どっちにしても…

今はチャンミンは幸せなんだ
よかったじゃないか。

「ユノ…あなたは…シム先生に会いに行かないの?」

「俺は行かないよ」

「そう…」

「どこにいるか、知らないし」

「………」

「母さん、知ってるの?」

「えっと……」

「え?知ってるの?チャンミンがどこにいるか」

「あのね、これ、シム先生。
ドイツにいらっしゃるみたい」

「ドイツ?」


母はクッションの下から飛行機会社の機内誌を出してユノに渡した。

「?」

渡されたその雑誌を開いてみる

飛行機の乗客だけがみる雑誌。

付箋がついてるページを見てユノは息をのんだ

タイトルは「空の向こう」

著名人とまではいかないスポーツ選手や職人とか、大学の教授など。
そんな人たちがリレーで空についてのコラムを連載している。

3ヶ月ほど前の連載

右端に小さく、顔写真がのっている。


チャミンミンだ


シム・チャンミン
ドイツの名のある大学の客員教授…


************


チャンミンが韓国を離れて2年が過ぎていた。
ユノと別れて3年…

ちょっとした論文が話題を呼び
大学の機関誌にインタビューを受けた。

その時の担当が韓国人で
望郷の思いもあって、少し話をした。

「シム先生、今日はお会いできてよかったです。」

「僕もですよ」

「あの、ちょっとお願いがあるんですけど…」

「?」

韓国の航空会社からの依頼だそうで。

機内で誰でも読める雑誌の連載

小さなコラムにちょっとした文章を、
と頼まれた。

個人的な事でお願いします、との事。

研究がひと段落ついたところだったので
チャンミンは少し考えてから引き受けた。

テーマは「空」

原文そのまま載せるということだった。

チャンミンは自分の思いを綴ってみるのもいいかな、と思った。

飛行機の中の前のポケットに入ってる雑誌なら
見る人も限られるし。

誰かが読んで共感してくれたら
なんだか自分も報われるかもしれない、と思った。

インタビュー形式で
チャンミンが話すことを編集者がまとめていく形だった。

「研究している事については
今日は触れない、という事で」

「プライベートなんて何もなくて
詩的なことって昔の思い出しかないんですけど」

「いいですねぇ、昔の思い出。
空に結びつけばなんでもいいです」

チャンミンの閉じた瞼に浮かぶのは

いつも下を向いてしまうチャンミンを
下から覗き込む、ユノの少し戯けた笑顔…

頬を包んでくれるその温かく大きな手

戻りたい…

だけど…

そんな想いをチャンミンはポツリと語り始めた



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ショコラティエ(25)



チャンミンは変わりつつあった。

大学院に戻ると、教授の助手の主要メンバーから外れたことが気にならなくなった。

あんなに屈辱だったのに…
なぜかそれは色褪せて見えた。

なにをあんなに躍起になっていたのだろうか。
馬鹿みたいだったな

それからのチャンミンはステータスやポジション、
名声などそういったものにまったく興味を示さなくなった。

毎日、やりたい研究ができればそれでいい。
チャンミンはまたこもりっきりの生活になった。

それでも研究に没頭するチャンミンには
目指さなくとも後からステータスはついてきた。

ある時、チャンミンにドイツの大学から客員教授の話がきた。

この若さで誘いがきたことは
大学院でもかなりの話題だった。

「ヨーロッパは行きたくないので」

そうチャンミンは断った

惜しむ声の中、ユノに少しも近づきたくないチャンミンに後悔はなかった。


そしてチャンミンはユノの家を出た。

ユノの母はとても寂しがり可哀想に思えたけれど、やはりユノの家に住むことは終わりにしたかった。

実家に住所を移したものの
ほとんど大学院に寝泊まりをしていたし
それを特に不自由だとは感じない。


冬のある日
その日はチャンミンの誕生日

ユノにはお祝いしてもらうことのなかった自分の誕生日。

その日が誕生日であることを
後になってユノに話したことがある。

ひどくユノは怒り
そして、悔しがった

ユノのことだから、誕生日だと知っていたら何か企画したかったのだろう

チャンミンはどこか恥ずかしくて、
自分の誕生日を言い出せなかった。

何かねだっているようで
そういう行動にでることはできなかったのだ。

そんな感情も今ではすでに懐かしく感じてしまう。

チャンミンはかつて訪れたソウルのチョコレートの店「セ・トレ・ボン」を覗いてみた。

やはり美味しい店はいつも混んでいる。

この日は、ドイツの話を持ってきてくれた助教授と一緒だった。

奥さんにチョコを買いたい、とチャンミンについてきた。

まわりの女性客より頭が飛び出ている僕たちは
ウィンドゥがよく見えた。

「ここは、何と言ってもプラリネが最高です」

「そうなの?じゃそれにしようかな。
シム・チャンミンは誕生日って言ってたよね?
一緒に買ってあげるから好きなの選んで」

「え?いいんですか?」

「アハハ、いいよ、チョコだけだけど」

「フフフ、なーんだ。
助教授ならウィンドゥごといけそうなのに」

「なに言ってんだよ。薄給なんだから
虐めないでくれよ」

「こちら新製品のプラリネです。
いかがですか?」

店員が小さく切った試食をチャンミンに手渡した。

「ありがとうございます」

チャンミンはそれをひとくち口にいれるなり
ぱぁーっと笑顔になった。

「美味しい!これおすすめですよ」

「そんなに嬉しそうな顔するなよ
子供みたいだなぁ、じゃあこれにしようかな」

助教授は小箱を2つに分けてチョコを買い
チャンミンにひとつ渡した。

「誕生日おめでとう、シム・チャンミン」

「ありがとうございます!」

チャンミンはペコリと頭をさげて
その小箱を受け取った。


その様子を同じように頭ひとつ分飛び出していた
ユノがみつめていた。

ユノはベルギーから帰ってきていた。

スンヒョンが無事に退院して
ミナが出産間近にならないうちに韓国に帰るということで、ユノはミナについてきてやった。

スンヒョンは新しい弟子もとりベルギーは安泰のようだったので、
ユノは自分の拠点を韓国に移すことにした。

短期間だけれどベルギーで店を任されたというのが
買われて、すでに韓国でショコラティエとしての就職も決まっている。


意気揚々としているはずだったユノの
その細い顔に影が差す

チャンミン…

ベルギーに渡って一時も忘れたことのないチャンミン

今日は誕生日なんだとずっと前から知っていた。

教えてくれず、前回は祝えなかったチャンミンの誕生日。

なんの約束もなかったけれど
それでも今日は韓国にいたくて、
チャンミンと同じ空の下にいたくて

本当はもう少しベルギーにいてもよかったものを
ミナに無理言って早めてもらった。

だけど

そんなチャンミンの誕生日
本人は他の誰かにチョコをもらって
とても嬉しそうだ

ひとり遠い異国で
ずっと恋い焦がれたその笑顔が今目の前にあった

自分ではない、他の誰かに向けられた笑顔。
ずっとユノが欲しがってたものなのに

「ユノ、チョコ買わないの?」

「うん、やめた」


ユノはミナと連れ立って店から離れた


誕生日、おめでとうチャンミン…

振り返り、ユノは心の中でつぶやいた


そして向かいの通りから
チャンミンが顔を上げてそんなユノの後ろ姿を見送った。

店にいる時から、ユノがいることに気づいていた
あの時一緒にいた女の人が横にいて
お腹も大きくなっているように見える

今日は僕の誕生日だなんて
そんなこと、知らないよね

旅行者に見えないところを見ると
韓国に帰ってきているのかも


「だれ?知り合い?」

「ああ、はい、知り合い」

「カッコいいね、好きだった人?」

「今も好きですけどね」
寂しそうにチャンミンは微笑んだ

「身重の奥さんがいるのか…
つらいね」

「……」

「あの…」

「なに?」

「先日のドイツの話」

「やっぱり行く?まだ間に合うよ」

「是非、お願いします」







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ショコラティエ(24)



チャンミンはユノの母に呼ばれた

「何かもっと持って行きますか?」

「あのね…先生…」

「はい」

「ベルギーに行くことがいいことなのかどうか
わからなくなってきたわ」

「どうしてですか?」

「よくわからないんだけど…ユノは…
誰か女の人と暮らしているみたいで」

「え?」

女の人と?

チャンミンの思考回路がとまった…

全身から力が抜けた…


「違ってたらいいんだけど…
なにか事情もあるみたいなの。
相手の方、ご主人がいらっしゃる方で。」

「……」

言葉が出てこない…

「ごめんなさい、先生がベルギーでショックを受けないように、先に言っておいたほうがいいかなって」

僕は…行く意味があるんだろうか…

「ユノも忙しいみたいでよくわからないの
どんなことなのか、見て来てくださらない?
でも…残酷かしら…残酷よね…」

「いえ、見て来ます。
よかったら話をしてきます」

「無理はなさならいでね」

「僕も…きちんと見て来たいと思います。
この目でちゃんと見たい」


現実を……きちんと


チャンミンは浮かれている内にに荷造りをしておいてよかった、と思った。

もう脱力してしまって
なのに変に緊張してしまって

初めての海外旅行

たったひとりで、ユノに会いに行くんだ

どんな顔で…僕を迎えてくれるの


飛行機の中で、広がる雲海を眺めながら
チャンミンはいろんな事を考えた

女の人がいたから、僕と電話をかわらなかったの?

僕はユノに会いに行く為にバイトした。

毎晩、家庭教師を終えて帰り
大学院での研究をしてから深夜に眠りにつく毎日

たまに寂しくて、ユノが恋しくて、ユノの部屋で眠ることもあった

そんな時、ユノは他の誰かと眠りについていたの?


ブリュッセルに着いたチャンミンは
ホテルに荷物を置くと
真っ先にユノのいるチョコレートの店を探した

さすがベルギー、チョコレートの店は多く、
探すのに一苦労だった

やっと見つけたのに、なんとその日は定休日

裏に回って見たけれど誰かがいる様子はない。

しばらく待ってみたけれど、誰も帰ってくる様子はない。

仕方なく、そのあたりをぶらぶらして時間を潰すことにした。

ユノの様子を確認するまでは
観光をする気にはなれない

通りを渡ると小さな公園がある。

チャンミンはその公園の様子をみて
視線が外せなくなってしまった



今日は店は定休日

ユノはミナとスンヒョンの見舞いに行った。
着替えやら持ち物が多く、ミナ1人で行かせられない。

季節は寒くなり始めているのに
ミナは暑いのだと言って薄着で出かけている

公園を横切って店に戻る2人

ミナは案の定、ブルッと震えた

「ほら、だからもう少し着てくればいいのにさ」

「妊婦は暑いのよ」

「震えてんじゃねぇか、そんなこと言ったって」

ユノは荷物を置いて、自分の巻いてたマフラーを
とり、ミナの首に巻いた

「フフフ、ありがとー
ユノの暖かさが心に染みるわ」

「頑固なのは親父譲りだな」
ユノはミナの頭をコツンとこづいた

「あら、どうしよ、この子もそうなったら」

ユノはミナのお腹に話しかける

「頑固になんなよー苦労するぞ」

「なによーなんで苦労すんのよー」

ミナはバシバシとユノの背中を叩いた

笑い合う楽しそうな2人


そんな2人の姿に
チャンミンは釘付けになった


妊娠している女の人
そのお腹に話しかけるユノ

やさしく自分のマフラーを巻いてやり
荷物を全部持ってやるユノ。

その事実は衝撃的ではあったけれど

チャンミンはそのことよりも
ユノが笑顔でいることがショックだった

自分との最後にはほとんど見られなかったユノの笑顔が、あふれんばかりに輝いている

楽しそうだった

僕と離れてどれだけ寂しそうなのかと
僕を見たら、一気に輝く笑顔になるんじゃないかって、そう思ってた

それを励みに毎日がんばった。
ユノはきっと僕を…

でも、それはうぬぼれだったようで

ユノは僕なんかいなくたって
あんなに笑顔で生きていけるんだ

僕なんか必要ないんだ

チャンミンは踵を返し走り出した
古い町並みの中、落ち葉に足を滑らしそうになりながら、どこまでも走った

綺麗なブリュッセルの街を
ユノに案内してもらおうかなんて思ってた

僕と暮らそうとしてくれてたこの町へ

会いに来たんだ

あなたが忘れられなくて


でも

さようなら

さようなら、ユノ

僕の大好きなユノ


涙が後から後から溢れ出し
それは走るチャンミンの頬から耳を濡らした

その涙を拭うこともせず
チャンミンは走った

肺の奥からもう限界だという音がする


僕はこんなにも
あなたを忘れられない


ホテルに戻って
チャンミンはすぐに帰る支度をはじめた

ユノの母から渡すように頼まれたものは
ホテルからユノの住所へ送った

ずっとチャンミンは泣いていた

大声で泣きながら、荷物を分けて
ユノ、ユノと呟きながら泣いた

失ったものの大きさって
失って見ないとわからないんだ

帰りの飛行機で、チャンミンはその大きな雲海を眺め、夜になるとたまに下の方に見える外国の町並みの夜景を見た。

世界ってこんなに広くて
たくさんの人たちが笑ったり泣いたりしながら生きているんだ

ユノも楽しそうにこの遠い外国の町で生きている。

もうそれでいいじゃないか

僕がいなくてもユノは大丈夫なんだから
もう邪魔することない


チャンミンの早い帰りに
ユノの母は驚いた

「予定は1週間ではなかったかしら」

「大学院をそんなにほうっておけなくて」

「あの…ユノには…」

「それがお母様、お店が定休日で会えなくて」

「そうなの?」

「でも、お土産はホテルから送っておきましたから」

「……先生…」

「ユノが誰かといるって…なにか事情があるのかもしれないし。
きっと、ユノが決めたことでしょうから
問題ないんじゃないでしょうか」

「でも…それでいいの?」

「実は…お母様…」

「?」

「僕たち…終わってるんです」

「え?」

「黙っててすみません」

「でも…ユノは待ってたのよ
先生を待ってたの」

「僕がそこで行かなかったことがもう…」

お母様は深くため息をついた

「そう…」

「僕がここにお世話になってることがすでに可笑しい話で。」

「それは関係ないわ。主人も了解していることなんだから。」

「あの…ひとつお願いがあるんですけれど」

「なにかしら」

「僕がベルギーに行ったこと、ユノには言わないで欲しいんです」

「先生…」

「会えなかったし…いろいろ気にするだろうし。
すみませんけれど…言わないでください」

「わかったわ」

チャンミンはぺこりと頭を下げた。

それから、ベルギーでのユノを忘れようとさらに勉強に励むしかなかった。

ユノなら、すぐに誰かに愛されるだろう
まわりがほうっておかない。

それは考えたら当たり前の事なんだ。

でも、そのことより
自分が居なくても笑顔でいられるユノを
知ってしまった

立ち直ったユノが、寂しく、そして羨ましかった





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百海です。

今夜のお話、まったく改行なくてびっくりされたかと思います💦
設定ミスです。読みにくかったですよね?
本当にすみません💦

ショコラティエ(23)



ユノはチャンミンを待っていた

正直言って屈辱的な気持ちはそのままだったし
チャンミンを許せない気持ちもあった。

それでも、チャンミンがまだ自分とやり直したいのなら…


でも

とうとうチャンミンからは連絡はなかった

ひとり伸び伸びと大学院で研究に取り組んでいるのか。

「邪魔されずに…」

「お互いの道を…」


それがチャンミンの答えなんだ

そう思うしか…ない


ソンジュに協力してもらい
ユノはベルギーでチョコの修行をしながら仕事をすることにした。

ソンジュの昔からの知り合いが
ベルギーで小さなチョコレートの店を開いていて
今、人が足りなくて困っているという話だった。
韓国人だからユノにとってもいいのではないかと。

とりあえずはそこで仕事をさせてもらうことにして
アパートを見つけるまでは安いホテル暮らしをする予定だった。


日持ちのしない生チョコレートを
最後にユノは心を込めて作った。

チャンミンが3日以内に帰って来たら
食べてもらえる


そして、ユノは持ち前の切り替えの良さで
明るい表情で家を出た

お互いの道を…
そんなチャンミンの言葉を自分は前向きに捉えよう

空港でチェックインをした

片道切符だ…

向こうで路頭に迷うようになったら
帰ってこれない

いつかチャンミンに会えることがあったら

あの時背中を押してくれたのは
結局チャンミンだったねと

そんな風に笑いあえたらいい

チャンミンが自分の道を元気に歩んでいるんだ
自分も負けずにがんばろう

精一杯の虚勢を張った
強がらなければ前に進めなかった

そしてユノは旅立った


海外への短期留学などは経験があったけれど
地に足を付けた海外の生活ははじめてだった。

訪れたソンジュの知り合いは
ブリュッセルでチョコレート店を営む
キム・スンヒョンという初老のショコラティエだった。

一人娘が嫁に行ってしまい
さみしがっているから、相手をしてやってくれ

そんな風に言われていたけれど

スンヒョンの店にはその一人娘が毎日手伝いに来ていた

しかも妊娠している、とのこと。
出産に入ると手伝いがいなくなるから、
ということでユノに声がかかったらしい

その娘はミナといい
少し気が強いけれどしっかり者の美人だった。

「毎日、その身体で手伝いに来られるのは
大変ですよね?」

「住み込みだから大丈夫よ」

「え?あれ?ご主人は?」

「主人はオンナの家」

あっさりとそう言いながら
ミナはせっせと開店準備をはじめた。

「あ、そうなんですか…」

「イタリア人だからね、仕方ないよね」

「え」

「うそよ、イタリア人だって浮気しない人の方が多いわよ」

「はぁ」

「ユンホさんは奥さんや恋人は?」

「ユノでいいですよ、
恋人は…いました…かな」

「ふぅん、別れてこっちに来た感じね?」

「まぁ、そんな感じです」

店の掃除からなにからユノは一生懸命働き、夜はスンヒョンからチョコレートを教わった。

充実した毎日ではあったけれど

古いヨーロッパの街並みがそのまま残る
美しい通りの小さな店

建物の上には屋上のテラスがあって
ユノは大の字に寝転び、空を仰いだ

高く大きな青い空に白い雲が流れて行く

思い浮かぶのはチャンミン

ユノの作ったチョコレートを口にいれてやると
子供みたいに嬉しそうな顔をする

暖かい季節になっても、空調で身体が冷えると言っていた

大学院の空調は効きすぎていないだろうか
夜寝る時はまたあのモコモコとした靴下をはいているのだろうか

今になって思えば

チャンミンはだんだんと笑わなくなっていた

コンテストにかかりっきりの俺に
卒業式まで出ずにそばにいてくれた

入ったばかりの大学院で大変だったろうに
俺は昼まで寝ていて、抱きたい時にチャンミンをベッドに連れ込んでいた

文句ひとつ言わず、俺の心情を汲み取ろうとしてくれて

招待で入る大学院なら、かなり期待されて
チャンミンはそれに応えなければならなかったはず

そんな事もチャンミンは俺に言わなかった。
俺も気づいてやれなかった

謝らなければならなかったのは
俺のほうだった

もう…遅い

母に連絡をすると、チャンミンにかわるかと
言ってくれたけど

ホームシック気味の自分にとって
チャンミンの冷たい言葉を聞いたら立ち直れないと思った

用がないから、チャンミンは連絡をしてこないのだ

もうチャンミンの邪魔はしたくない


でも…もう一度あの笑顔が見たい

ユノは大きくため息をついた…


来る日も来る日も
休憩時間にはユノは空を見上げた


チャンミンが恋しかった

チャンミンが自分に言い放った刃のような言葉は
次第に薄れつつ

その可愛い笑顔だけが
ユノの脳裏に蘇る


愛してる
やっぱり忘れられない


今、どうしてるの

可愛い顔立ちのくせに難しい顔をして
今日も勉強しているんだろうか

自分へのご褒美にチョコレートは食べている?

きっと新作が出るたびに母さんが買ってあげるんだろうね

毎日、ユノは青空を見上げながら
流れる雲に問いかけた


家に電話をしても
母さんもチャンミンと代わるか?と聞かなくなった

ユノがここで頑張れているのは
チャンミンが家にいてくれるから、というのもある。

大学院を出たら、あの家も出て行ってしまうんだろうけれど。



スンヒョンは腰痛で苦しんでいた

医者に行くように、ミナにもユノにも言われていたけれど

頑固なスンヒョンは行こうとしない

とうとうある日、スンヒョンは倒れ
病院に運ばれた。

内臓疾患が原因と言われ
投薬のために入院することになった。

急にユノは忙しくなった

ミナのお腹は少し目立つようになってきて
ユノはなるべくミナを休ませた。

スンヒョンに任され
ユノはこの店のチョコレートを作り
看板を守っていた。


そんなある日、母から連絡があった

ユノはチョコレートの温度調節で小首にスマホを器用に挟んで通話していた

「母さん?なにかあった?」

「いや、ちょっと話しておこうかと思うことがあってね。今、どんな生活?」

「うん、それがね、ミナさんと暮らしてるよ、俺」

「え?どうして?」

「どうもこうもね、いろいろあって。
母さんが心配することなにもないよ」

「ミナさんはご主人がいらっしゃるのよね」

「それもさーいろいろあってね
別れると思うよ、旦那とは」

「あ……あの…そうなの…」

「また詳しく話すよ、ね?」

「まだ帰ってはこれないの?」

「今はミナさん置いて帰れないよ」

「そう…よね」

「ごめんね、母さん、電話切る」


小さな厨房をミナが覗いた

「今のユノのお母さん?」

「ああ」

「あんな言い方したら、誤解なさるわよ」

「え?そう?」

「私と住んでるなんて」

「だって、本当じゃん」

「きちんと話さないと」

「今度話すよ。悪いけどそこのナッツの瓶とってくれる?」

ミナはナッツの瓶をユノに渡した

「ユノ」

「なに?」

「私、うれしかった」

「なにが?」

「私を置いていけないって…言ってくれて」

「だってさ…」

ミナがユノの背中に触れた

ユノがびくっとした

「甘えちゃいけないのはわかってるんだけど
このままずっと一緒にいられたらって…思うの」

「ミナさん…」

「ごめんね、こんな身重なのに
更に重いわよね」

「あ…いや…」

「ユノ、優しくて…知らない間にあたし…」

「ミナさん」

「ん?」

「置いていけないのはたしかだし
力になるつもりだけど
ごめん…俺…そういう気持ちはないんだ」

「………」

「ごめん…」

「わかった、こっちこそごめんね」

「……」

「この店にはいてくれるんでしょ?
少なくともパパが戻るまでは」

「赤ちゃんが生まれるまではいるよ」

「子供が物心つくまでには出て行ってね
ユノがパパだと思われるのいやだから」

「アハハ…わかったよ」

「おやすみ」



チャンミンはスーツケースに荷物を詰めて
手荷物のリュックの中身を確認した。

パスポートにチケット
少し考えて、ユノへのお土産はスーツケースに移し変えた。


謝ろう…

僕の気持ちを伝えよう

取り返しがつかないかもしれない
もう遅いかもしれない

でもバイトしてお金を貯め、ひとりでベルギーまで
来たことを…きっとユノならわかってくれる

そこまでの事をしてでも謝ろうとする僕の話を
聞いてほしい

待っててね、ユノ



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ショコラティエ(22)



家にはユノの気配がしなかった

まさか…

リビングにはいると、ユノの母が1人で刺繍か何かをしていた。

「シム先生…」

「あの…」

「あの…ユノなら、もうベルギーに発ったのよ
連絡…なかったかしら?」

「え?」


「お座りになって、シム先生」

チャンミンはよろよろとソファに座った。

ユノの母は紅茶を入れてくれた。

「先生達は…ケンカ?…」

「……」

「私が口を挟むことではないわね…」


やっとチャンミンが顔をあげた。

「いつ…発ったんですか?」

「昨日…よ」

「なんにも…連絡もらってなかったです」

「ユノね…シム先生のこと、待ってたわ」

「僕を?」

「信託を売ろうとしてたの。
自分名義の」

「どうしてですか?」

「あなたが一緒に来るかもしれないからって」

「一緒に?」

「一昨日に、結局間に合わないから売らないって。
だから、それまで待っていたのだと思うわ」


「そんな…」


あのケンカの後にも
そんなことを考えてくれていたのか

あんなに酷い事を言ったのに


「大学院があまり上手くいってないんですって?」

「ユノが…そう言いましたか?」

「ええ、とても心配していたわ。
大学院なんかに泊まって…寒い思いをしてるのではないかって」

「……そう…ですか」

「お辛いのよね?今、先生は」

「………」


辛いです

ユノが側にいないから


「だからシム先生を留学させられないかって。
無理に嫌なところにいる事ないって」

「僕を?」

「連れて行こうとしてたのよ。
勝手な話よね?ごめんなさいね、あの子ったら」


なんてことだ…


チャンミンは少し笑った

「甘いですね…ユノは…
僕のことなんか甘やかすことないのに…」

「そういう子なの」

お母様は寂しそうに微笑む


チャンミンはソファでうなだれた…

ユノは僕を見捨てていなかったんだ
一緒にいようとしてくれてたなんて


「もし2〜3日中に先生が帰って来たらって
ユノがこれを作ってくれたの」

ユノの母はオレンジピールとピスタチオできれいにデコレーションされたチョコレートをトレイに並べた。

ジンジャーの香りのチョコレート

ユノが僕のために
試行錯誤を繰り返して

「あと、あの子ね、実はコンテストでなにか賞をもらってたらしくてね」

「はい。聞きました」

「主人も喜んでね
バイトなんかもしてるって話したら
少し考えたみたいで…それで…」

「片道切符って?」

「ええ、そう。
それで賞金を少しいただいて、これをあなたにって。」

ユノの母は青いリボンが結ばれた箱を渡した

「ユノが?」

「これは、ソンジュさんがユノの忘れ物だって
今日持ってきてくださったの。
賞金でユノがあなたに買ったものだからっておっしゃってたわ」

リボンを解いて、小箱を開けると
そこには品のいい革ベルトの時計が収まっていた


僕の腕時計を気にしていたユノ…


チャンミンはふと立ち上がった

「お母様」

「はい?」

「ユノはベルギーのどこに行ったんですか?」

「え?」

「僕は追いかけたら迷惑でしょうか」

「シム先生…」

「僕、謝らなきゃ…」

「あの…」

「ユノに謝らなきゃ…」


「でも、あの…まだ住まいが決まらない状態でね、連絡をもらうようになってるの。そうしたらお伝えするわね!ぜひ会いに行ってやって!」


チャンミンは息を整えた

お金を貯めて、会いに行こうと心に決めた

謝りに行くんだ…

一言、ごめんと謝りに行こう。

僕はユノのことを、心のどこかで馬鹿にしていたけれど

ユノは僕より寛大で

僕より優しく

僕より強く

そして僕よりうんと大人だった



タキシードで人の波を縫いながら
僕をチョコレートのブースまで流れるように連れて行ってくれたユノ

ちょっと大学院で上手くいかなかったから
それをユノのせいにしたりして

僕のほうがどれだけ子供で心が狭かったんだろう

自分本位でしか考えられなかったのは
ユノじゃなくて、僕のほうだ

最後に会った日

ユノは僕にひとこと謝ってほしかったんだろう

僕を許そうとしてくれたのに

そのきっかけを求めていてくれたのに


苦しめて…ほんとうにごめんね


チャンミンは自分の部屋に入ると
その白いドアを背に泣き崩れた…

ごめんね、ユノ…




******



左腕に巻いた腕時計を見た


革ベルトは一度交換した


いい色がなくて、なんだかもらった時の感じとは違ってしまった。

自分は冒険なんかしないと思っていたけれど
向こう見ずに外国なんかに飛んでいくほど
ユノが好きだったんだな

今、心の奥底に閉じ込めている感情はなんだろう

踏みしめている落ち葉の絨毯の感触は
あのブリュッセルでの街中で感じたそれと同じだ。

街中をひたすら走ったあの日

枯れ果てるかと思うほど
とめどなく涙は溢れ

悲しみにうちひしがれ
後悔と絶望で僕はもう二度と立ち直れないのだと思った。

ユノ…こんなにも愛していたなんて

自分のことを何もわかってなかった僕を許して

チャンミンはギュッと目を瞑った


**********


チャンミンは家庭教師のバイトをしながら
そのままユノの家に住み大学院に通った。

なんどもユノに連絡をとろうかと思ったけれど
いきなりベルギーに行って驚かせようと思っていた

ユノからたまに母に連絡があるようで
その度に「シム先生にかわりましょうか?」

そう言ってくれたけど
ユノはそれを断っていた

寂しかったけれど、それだけユノは傷ついたのだろう

そして、数ヶ月後、なんとかベルギーへの旅費が貯まった。


やっとユノに会える…




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ショコラティエ(21)




ユノも心の奥に押し込んでいた感情があった。

それはなんという感情なのか自分でもわからなかったけれど

チャンミンに惹かれつつも
どこかで感じていた焦り

忘れかけていた「父に認められなければ」
という思いをチャンミンに呼び起こされていた。

完璧で鎧で心を固めていたようなチャンミンが
ふと見せたそのほころび

チョコレートを口にした幸せそうな笑顔。
極度の冷え性という弱み

守ってやれるのは自分だけ

それがユノをここまでやる気にさせていたのも事実


でも、チャンミンが本音を言ってしまった
ユノはそれに大して驚かなかった

きっとチャンミンはそう思っているだろうと
ユノは無意識に感じていたから

だけど、できたら知りたくなかった
あからさまに言わないでほしかった

言ったらお終いじゃないか

さらにユノは焦りを感じ
そしてチャンミンと向き合うことを避けた

チャンミンといると
自分がダメな人間に思える

小学生の頃、学級委員長の子と一緒に帰らなければならない時のような緊張感。

そんな気持ちに似ていた。

ユノは早く起きるようになり
どこで探して来たのか肉体労働のバイトに行く日もあったし
1人で自転車に乗って遠くへ出かけ
一晩くらい帰ってこない日もあった。

母は驚いて、そして心配した。

「ユンホ、一体何がしたいの?」

「……わからないんだ」

ユノはフッと寂しそうに微笑んだ。

「チャンミンは俺のことを模索中って言ってたよ」

そうやって可笑しそうに、そして寂しそうに笑った


陽に焼けて全体的に締まり、
精悍な感じになったユノ

チャンミンは寒いからと一緒に寝てくれるように頼んだりして

何事もなかったように何度か同じベッドで寝たけれど、ユノはもうチャンミンを抱くことはなかった

チャンミンはあの夜、何をユノに言ったのか
自分でも興奮していてあまり覚えてはいない

それでも段々恐怖に苛まれはじめた。

取り返しがつかないことをしてしまったのかも。
まさか自分たちは終わるのではないか

当然だ…
それくらいヒドイ言葉を、チャンミンは並べたのだから。


「ユノ…ちょっといい?」

「ああ」

ユノは着替えていた。

逞しい上半身が露わになっていた。
Tシャツの前後を確認して、おもむろに頭からかぶった。

「きちんと話がしたいんです」

「なんの?」

「この間の夜のこと…」

ユノはチャンミンに向き直った

「まだなにか言い足りないの?」

切れ長の目尻がスッとつりあがっている


「………」

「なに?」

「……」

「きちんと話をってさ、今更なにを話すの?
言いたいこと全部言っただろ?」

「僕は大学院で上手くいってなくて…それはどうしてだか説明したかったんですよ」

「俺が卒業できていれば、
希望の大学院に行けてたって話?」

「そこからの話ですか?」

「俺とこんな風にならなければよかったよな?
なんでこんな関係になったんだろ」

ユノはジャージを脱ぐと、そばにあったジーンズをとって足を入れた。

細いけれど隆起した太ももがジーンズに吸い込まれる


「怒ってる、でしょう?」

ユノはジーンズの前を閉じると、
パーカを羽織った

「チャンミン」

「はい」

「お前が本音を言ってくれたから
俺も本音を言うけど」

「……」


「今、お前と一緒にいたくない」


チャンミンは息をのんだ


「そりゃ…そうですよね…」

ユノは何かを待つように、じっとチャンミンを見つめた


あの夜言ったことは本心ではなかったと
ユノはチャンミンにそう言ってほしかった

ごめんね、ユノ

ひとことそう言われたら、このままチャンミンを抱きしめてキスをするつもりだった

つきあっていたら、いろんなことがある。

お互い言いすぎてしまったり
他の人に少し心惹かれてしまうことだってある

それでも恋しくて戻ってくる

愛し合うとはそういう事だ。

ユノはそれをよく知っていたけれど
チャンミンはそれがわからなかった

「どうして僕たちがこんな関係になったかって
ユノは後悔してるんですか?」

売り言葉に買い言葉…

「後悔してるんじゃない…
初心に戻りたいだけだ。2人でね?」

「言ってる意味がわかりません」

「わからないか?」

「はい」

「お前は本当の事だろうと、言っちゃいけない事を言ったんだ。」

「でも…僕だって…」

「あのさっ!!!!」

ユノの大きな声に
チャンミンはビクッと大きく肩を震わせた

「人を傷つけたんだから、まずは謝れよ!」

「……」

「悪いと思ったから、俺の部屋に来たんじゃないのか?」

「謝るって?」

「お前はそんなこともわからないのか!」

「ユノに…そんなこと言われ…」

「俺みたいなダメなやつに、そんなこと言われる筋合いはないか?!あ?」

「………」

チャンミンはムッとした


たったひとことの「ごめん」で変わったかもしれない2人

屈辱だったけれど
チャンミンが我慢しすぎた事をユノは理解しようとした。

「いいよ、もう…」

「いいよって…」

ユノは財布やスマホをジーンズのポケットに押し込む

「また馬鹿にされそうだけど
親父が最後の助け舟を…出してくれた…」

「は?」

「片道切符だ」

「片道?」

「俺、この間のコンテストで、大したことないけど特別賞もらってたんだ。授賞式いかなかったから後から聞かされたけど」

「そう…だったんですか」

「親父がそれ聞いて、どこか外国に行くなら
片道だけ出してやるって。」

「行くんですか?」

「生活費なんかは出してもらえないから
働かなきゃなんない」

「行くんですか?ユノ」

「帰ってくるなら、その分は自分で…」

「答えてください!僕の質問に!」


チャンミンの大きな声


ユノはチャンミンを見つめた


「行ってこようと思う」

「どこへ?」

「ベルギーかフランスかそのあたり」

チャンミンは事の重大さがうまく理解できず
口の中がカラカラになり

ごくりと喉を鳴らした

「何言ってるんですか?
国内でどうにかならない人が海外なんか出たってダメに決まってるじゃないですか!」

「なんだって?」

「金持ちがよく考えることです。
ダメなら海外でハクをつけてくるって。
まわりにもいましたよ?そういう人達」

「お前はまたそういうことを言うのか」

「僕と一緒に居たくないなら
僕が出て行くからいいですよ!」

「お前は自分の生活抱えて勉強は無理だ。」

「あなたに心配してもらわなくて大丈夫です
自分のことだけ気にしていればいいんです」

「チャンミン…」


一緒に来たいって…言うかなと

ユノは少しだけ期待していた

自分と離れたくないと言ってくれたら

大学院がうまくいっていないなら
チャンミンも留学っていうのもありなのかなと

その為に、ユノは自分の信託を売ってもいいかと思っていた。

「ここで、お互いの道を行くってことでいいんじゃないですか?
僕は一からやり直したいんです。
教授の信頼を取り戻して、またプロジェクトに戻ってみせますよ。
なんの邪魔も入らず、当初の目標通りですから」


「邪魔だったか?」

「………」

「俺は…お前にとって…邪魔だったか」

ユノは車のキーを取ると、革ジャンを羽織って
部屋を出た。



自分のプライドを守ることに必死なチャンミンは
より空高くその城壁を積み上げてユノを退けた

高い高い城壁の中でチャンミンは1人で膝を抱えてうずくまっていた

もう誰も自分の中に入れたりしない

誰かに心開いたりするからこんなことになるんだ


それからチャンミンは大学院に泊まり込んで
研究に没頭した。

こうやって、大学院で寝泊まりする学生も結構多く
チャンミンにとって好都合だった。

ユノとも連絡をとらずに10日ほど過ぎた

夜になると足が冷えるのが我慢できない
こんな時はいつもユノが温めてくれた。

チャンミンは脚をさすりながら
ふと時計を見ると、もうすぐ明け方だった

ユノは寝ているだろう
もしかしたら、隣に誰かいたりするのだろうか

結局こうやっていても
考えるのはユノのことばかり

研究に没頭しても、ふとした拍子にユノを思い出す


ある日

必要な本を取りに
チャンミンは一旦ユノの家に戻った

緊張した

どんな顔をして、ユノに会えばいいのか


でももう、そこにユノはいなかった


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