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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

ショコラティエ(7)




ユノは久しぶりにタキシードを着た。
髪もしっかり前髪をアップして整えた。

その幅があって厚みのある胸板に
真っ白なシャツと光沢のある生地がしっくりとなじむ。

足首で裾を弛ませるクラシックな形の脚元。
そのスッキリと長い脚で難なく履きこなしている。

計算されたようなバランスのボディに乗る
小さな頭と整った顔立ち

さりげなくまとめた首元とその長い首が
タキシードを大人の服にしていた。

完璧なユノ。

タキシードは気合だ。
気合で着こなすのだ。

いつもより胸を張り
まわりの雰囲気に負けない自分をイメージする

なんとなく緊張感があって、
たまにならタキシードはいいな

そういえば

チャンミンはどうしただろう。

階下に降りると、誰もいない。

母の部屋に行くと
まだ起きられない母が、気が気ではないといった様子で家政婦と話をしている。

「どうしたの?チャンミンは?」

「それがね、自分でタキシードを着ると言って…
でも出てこないのよ。」

「ああ、じゃあ俺様子見てくるよ。
車呼んでおいて」

「もう呼んでるから。悪いけどお願いね」

「おぅ」

もう一度2階にあがり、廊下を進む

ドキドキしてきた。
自分の家だけれど、チャンミンの部屋には
初めて入る。

廊下の突き当たり
白いドアをノックすると

「はい」

中から頼りない返事が返ってきた。

「俺だよ、ユノ。入っていいか」

「はい」

やけに素直だな。

そっとドアを開けると、
すっきりとシンプルな部屋の真ん中に
すらっとした、まさに「美少年」が立っていた。

誰にやってもらったのか
チャンミンもすっきりと前髪をあげて
いつもより男らしい感じのはずなのに

その情けない表情が可愛すぎて劣情をそそる

ユノを、縋るように大きな瞳で見つめる
少しばかり、ウルウルしているか?
緊張しているのだろうか。

「部屋から出てこないから母さんが心配してたぞ。
なんだ、ちゃんと着こなせてるじゃないか」

「でも…なんだか場違いな気がしてきて…」

「怖気付いたか?」

こくんと頷くチャンミン。

うつむくと、綺麗なうなじが晒される…

ユノは思わずごくりと喉が鳴ってしまった

「何言ってんだよ、そんなこと言って。
会場に行ったら、もうチョコしか目に入らないくせに」

「でも…」

ユノはチャンミンの顔を覗き込んだ

相変わらず縋るようにユノを見つめるチャンミン

「大丈夫だよ、俺がいるから」

ユノは安心させるように柔らかく言ってみたつもりだったけど、

チャンミンはひどく驚いたように目を見張った
唇が何か言いたげにふるふると動く

あーやばい

密室に2人っきりはホントやばい

「行こうぜ。それこそ遅れると目立つ。
目立ちたいなら遅れるべきだけど」

部屋を出て行こうとするユノの後ろ姿を
チャンミンはじっとみつめた。


さっき…

この部屋のドアがぱーっと開いて

まるで騎士のようにユノが現れた。

質の良いタキシードを自信たっぷりに着こなし
すっきりとあげたヘアスタイルから
整った男らしい顔が露わになっていた。

いつか読んだ古典小説の中に出てきたような…
誰よりも強く気高い男みたいだ

この人はこんなに素敵な人なんだ

育ちの良さ、とはよく言ったもので
小さい頃から良いものを目にし、口にし
肌にしてきた者だけが持つ独特の雰囲気。

一朝一夕では決して手に入らない
隠そうとしても隠しきれない

それが育ちの良さ、というものだ。

ユノにはそれがあった。
なんともいえない品格

本人もきっと気づいていないだろう

チャンミンははじめてユノにドキドキした

大丈夫だよと、俺がいるからと
その広い堂々とした胸に思わず縋りたくなってしまった…

もういちど、ドアがふいに開いて
チャンミンはハッとした

「もう行くぞ?大丈夫か?」

「はい…」

とりあえず、今夜はユノの後ろに隠れていよう
それでうまくチョコのブースにまでたどりつけば

あとは天国のはずだ。

玄関まで行くと、待っていたユノが別の廊下へ促した。

「母さんに見せてやって
チャンミンのタキシード姿」

「あ、そうですね」

そっとドアを開けると
ユノの母がベッドに起き上がっていた。

「まぁ!なんて素敵なの!
まるでヨーロッパのおとぎ話に出てくる王子さまみたい!」

「お母様は起きられて大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ、あーわたくしがご一緒したかったわ。
ほら、なんでしたっけ、ツバメと王子さまの銅像か何かのお話。」

それって…

「その挿絵がシム先生にそっくりだわ!」

あれって悲惨な話じゃなかった?
ま、いいけど…

ユノも「?」という顔をしていたけれど
とりあえず、2人で外にでた。

ふいにユノが先に歩き、
車のドアをさっと開けてチャンミンを車内に促した

「どうぞ王子さま」

ふざけているのはわかっているけれど
その姿があまりにサマになっていて
怒ることもできなければ、笑うこともできない

「どうした?チャンミン」

「あ、はい…ありがとうございます」

車内は広く、ユノとチャンミンの間には
飲み物が置ける小さなテーブルのようなものがあって、とりあえず密着せずに済んだ。

ユノは屈託無く笑い、好き勝手に喋っていた。

「母さんさ、ツバメと王子の話って、あれツバメが
王子の目を持って行くやつだよな?あんまり誉める時に使わないよなぁ、ハハハ…」

「ツバメが目をって…笑ってますけど、実際笑われるのはユノのほうですよ」

「なんでだよ」

「そんな解釈しませんよ、普通」

チャンミンは呆れてため息をついた

「そんな話だったろ?」

「違いますよ。ツバメが目を持って行ったのは
王子がそう頼んだからです。それにね…」

「あーもうその話は後でゆっくり聞かせてくれ」

さっき、とても品が良く見えたのは
錯覚だったのか?とチャンミンは思った


やがて会場のエンパイアホテルに着いた。

豪華なエントランスの車寄せに
2人の乗った車はすべるように入って行く。

ホテルの入り口から身なりの整った係員がサッと
寄ってきて車のドアを開けてくれた。

ユノが先に降りて、チャンミンに手を差し伸べた。

「お姫様じゃないんですから、やめてください」

「普通だから。気にすんなよ」

「普通じゃないでしょ?!」

「いいから!ここでモタモタしてるほうが
よっぽど変だよ」

チャンミンはユノの手を借りずに
モゾモゾとシートを移動しながら降りた。

そしてユノの後ろに隠れるようにして
係員の後について行く。

エントランスを入ると
豪華なシャンデリアが高い天井から吊り下げられていた。

眩い輝きと繊細な作り、その大きさにチャンミンは目を奪われた

あまりの素晴らしさにチャンミンは上を向いたまま
立ち止まってしまった

口をぽかんと開けている姿が子供のようだ。

ふと気づくとチャンミンが後ろについてきていない事に気づいたユノが慌てて戻った。

チャンミンの姿に、
ユノは思わず頰が緩んだ


世の中知らない事だらけで
いろんな事を知りたいと言っていたチャンミン

自分ならチャンミンにいろんな物を見せてやれるのかな、と少しだけユノは思った。

「チャンミン、後ろから人が来てるから邪魔だよ」

ユノはそっと囁いて、その肘を軽く持って
引き寄せた。

「あ、はい…ねぇユノ、すごいですね、これ」

「ああ、エンパイアホテルの名物だよ」

「そうなんですか…」

ふかふかの絨毯張りの廊下を行き
重厚な扉の前に白い上着のコンシェルジュがいる。

ユノは招待状を片手で差し出したけれど
コンシェルジュはユノの顔を見ただけで
会釈をしてそのドアを開けた


ドアの向こうはまったくチャンミンの知らない世界だった。


どこが部屋の隅なのか
わからないほどの大きな広間

高い天井

生演奏の音楽に人々の話し声
グラスや皿のカチャカチャとした音
香水やワインの香り

チャンミンはぎゅーっと心臓が縮まりそうになった

瞬間思ったのは
タキシードでよかった、という事だった。

でも、こんなにたくさんの人々の間を動き回るのは無理だ

あちこちで談笑するグループの中、
ウェイターがいくつものグラスをトレイに乗せて
その中を縫うように歩いている。

1人で…ましてやチョコなんか食べてる人はいない
みんなおしゃべりをしに来てるのだ

いわゆる「社交」ってやつだ。

一瞬にして、チャンミンはここへ来たことを
後悔した。

楽しみだったけど…
チョコがどこにあるのかもわからないし

高級ブランドの服の展示もあるようだ

チョコだけじゃないのか…

フォトブースでは誰か芸能人が来たようで
たくさんのフラッシュがたかれている

あーなんだか、とにかく無理…

「行くぞ、チャンミン」

隣でユノが囁く

「え?」

いきなり、ユノはチャンミンの腰に手を添えて
押し出すように歩き出した

え、ちょっと待って

まるで初めて自転車に乗る子供のように
チャンミンはよろよろと歩き出した

ユノはチャンミンを小脇に抱えるようにして
人々を縫って歩く

目の前に何人もの人が「ユノ!」と声をかける

ユノは軽く会釈したり
「元気?後でゆっくり」などと言葉をかわして
スイスイと泳ぐように進む

ウェイターがさっとトレイを差し出すと
ユノはグラスを器用に2つ取り
ひとつをチャンミンにくれた。

「緊張してる?大丈夫だよ」
優しい微笑み

本当に…ユノは…素敵だった

これがエスコートというものなのか。

それなのに

ユノが「ちょっとだけここで待ってて」
そう言うと、チャンミンを置いて離れてしまった

え?

ちょっと

1人にしないで…

そこへウェイターが来て
トレイからグラスをすすめる

断るのも悪い気がして
持っていたグラスにはまだ飲み物が残っていたけど
もうひとつ手にした

ウェイターは「?」という顔をする
チャンミンはなんとか笑みを作ると
ウェイターもにっこりと微笑んでどこかへ行った。

グラスを2つも持って
チャンミンは1人にされて途方にくれた

ユノ…どこへ行ったの…

するとどこからともなくユノが現れて
チャンミンに微笑んだ

「どこに行っていたんですかっ!」

「ごめんごめん」

すっごく…不安だったんだから…

「なんでグラス2つ持ってるの?」

「だって…勧められて…」

「いらなかったら、そういえばいいし
ぬるくなったら空グラスを持ってるウェイターに渡せばいいんだよ」

「そうなんですか…」

「今、聞いて来たらさ
もうすぐ有名なパティシエが勢ぞろいして
新作のチョコを目の前で作ってくれるらしいぞ」

「えっ!ほんとですか?!ってユノ、チョコを扱う方はショコラティエというんですよ」

「どっちだか知らないけど。
こっちへおいで」

ユノはチャンミンの手を引くと、
人の波をすいすいと進む

途中で何度も招待客に声をかけられ
適当にソツなく対応をするユノに
正直、見惚れてしまう。

チャンミンの手を掴む温かく大きな手と広い背中

そんなユノがチョコを見せてくれるために
チャンミンを導く…

チャンミンはドキドキしていた

それは初めて見るチョコの祭典にドキドキしているのか、それともチャンミンをスマートにリードするユノになのか…





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ショコラティエ(6)



チャンミンはホテルの新作発表会を前に
毎日ご機嫌だった。

母もとても楽しみにして
とうとうチャンミンにタキシードを作ってやるという始末。

さすがにそれには困惑している様子のチャンミンだったけど、
念願の新作発表会なら致し方ないと思っているのか、大人しく仮縫いをさせている。

ちょっと仮縫いを覗いたユノは
チャンミンのそのスタイルの良さに驚いた。

ほとんどモデルだな
ちょっと着せられてる感は否めないけれど。


そして、チャンミンのユノへの態度も心なしか緩和された感じもあり、
その笑顔が多くなるにつれて、ユノはザワザワした気持ちを抑えるのに必死だった。

チャンミンの部屋はユノの部屋と対局の位置にあり
その様子はまったく伺えない。

デカイ屋敷でよかったと、心から思う。

チャンミンの部屋にはなるべく近づかないようにしていた。
その生身の生活感を感じることのないよう努めた。

シャワーを浴びた後のチャンミンなんて目にしたら自分はもうどうなるかわからない

ユノなりに、予防線を張っている毎日だった。

そんなある日、ドンヘ達といつものように遊んでいたユノの元に、チャンミンから連絡があった

スマホの画面にチャンミンの名が表示されるのは
はじめてのことだった。

「なんだ?」

「お母様が」

「えっ?母さんがなに?」

ドンヘがその言葉に心配そうにユノを見た。

「ぎっくり腰になられて」

「は?ぎっくり腰?」

「今、お医者様に来ていただいてます」

「あ、そうなのか…」

「とりいそぎ、連絡まで。お母様は心配するなとはおっしゃっています」

「わかった。とりあえず帰るよ」

「お願いします」

言い終わるかどうかで通話は切れた

ユノは棒読みの感情のないチャンミンの言葉に
少し落ち込み、そんな落ち込む自分にもイライラした。

ま、帰ろう

心配するドンヘに事情を話して
ユノは帰宅した。

母はベッドに横になり、チャンミンと話していた。

「母さん、具合どう?」

「帰ってこなくても大丈夫だったのに
ごめんなさいね」

「父さんには?」

「お父様はアメリカだから」

「でもさ…こういう時は連絡したら?」

「いいのいいの」

ふと見ると

チャンミンが心なしか、寂しそうな様子だった。
それでも無理に笑っている、といった風だ。

そんなチャンミンを、母も気にしているようだ。

「ねぇ、ユノ。お願いがあるの」

「なに?」

ユノはベッドの側に椅子を持って来て座った。

「エンパイアホテルの新作発表会に
あなたがシム先生を連れていって差し上げて?」

「はぁ???」

「お母様!いいんですよ
そんなこと考えずに今はゆっくりされてください」

さすがのチャンミンが慌てた

「明後日なのよ
立食じゃ、私はとても無理。
せっかくタキシードも作ったのに。
もう私の気持ちを思って、お願い」

「母さんの気持ちって…」

ユノは慌てた…

「だって、タキシードってかなりのドレスコードだろ」

「あなたはタキシード持ってるじゃない?」

「いや、そういう事言ってるんじゃなくて…」

「あの!」

ユノと母の間にチャンミンが割って入った

「……」

「ユノ、お母様、僕は大丈夫ですから。
お母様が治ってまた機会かあれば是非その時に。
喜びが延びて、僕はそれまで楽しめます」

「……」

大丈夫だと言いながら
全然大丈夫じゃないオーラを纏うチャンミン

すっげぇ楽しみにしてたもんな。
かなり凹んでいるに違いない。

意外にわかりやすいヤツなんだな。

そんなチャンミンを悲しそうに見ていた母が
キッとユノを睨む。

「わかったよ、わかったから。
俺が一緒に行ってやるから」

いつもならきっと
かなりの毒舌を吐いてその必要はないと
まくしたてるであろうチャンミンが

なんと黙って俯いている。

???

俺とで…いいのか?

「ありがとうございます。
よろしくお願いします」

「えっ?いいの?俺とパーティで」

「パーティってショコラティエの新作発表会
なんですよね?」

「発表会、発表会って言ってるけど
カタチはパーティだぜ?学会じゃないよ?」

「……」

「それもタキシード着るんだから、
相当に格式高いよ」

チャンミンは想像と違っていたのか
だんだん俯いてしまう

「だから、タキシード…なんですか…」


母がもう見てられないといった風で
チャンミンの手を握る。

「大丈夫よ
シム先生だったら楽しめると思うわ。
ユノもなんでそんな脅すような事言うの」

「覚悟していったほうがいいだろ。
チャンミン、それでもいいのか?」

「……いいです。
本当に一度行ってみたかったんです」

いつもの毒舌や上からな態度はどこへ行ったのか

「ユノ、よろしくお願いします」

ぺこりとアタマを下げる姿が
可愛くてどうにかなりそうだ。


明後日が、とても楽しみになってきた…




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ショコラティエ(5)



チャンミンはユノのホールドから解放された。

自分の唇をそっと指で触れながら
ユノの熱いまなざしをみつめ返す。

キス以上を求められるかと思ったけれど
それはなかった

この間とはまったく違う優しいキスに
チャンミンは少し驚いた。

それ以上求められたら、応じてしまいそうに
それは優しく甘く…

チャンミンはハッと我に返った

いろいろとサイテーな男だけれど
キスの上手さだけは認めざるを得ないな

きっと今までキスの技術に全力を注いできたのだろう。

なにしろ、セックスにたどりつくまでの
第一歩だし。

勉強もそれくらい一生懸命なら、いいところまでいきそうなものを。

チャンミンはかぶりを振ってため息をついた。

「ねぇ」

ユノがなぜかせつなげな目をしている

「はい?」

あーこれ以上はお断りだけど

「チャンミンはさ、勉強のどこが面白いんだ?」

「は?」

「だから、これまでずっと勉強ばっかりしてきたんだろ?」

「ユノ」

「ん?」

「とってもいい兆しです」

「え?」

「世の中はわからないことばかりだと、思いませんか?」

「うーん」

「たとえば、あなたがジムへ行って身体をむやみに鍛えていますけど」

「むやみにって…」

「誰かが、どうやったら筋肉がつくのか、
不思議に思い、謎を解いたんですね」

「なぞ?」

「それが勉強です。
幸いにも、ある程度のことは昔の人たちが
謎解きをしてくれて、僕たちは苦労せずいろんなことを知っている。」

「……」

「でもまだまだ世界はわからないことだらけです」

「ん…まあね…」

「知りたくありませんか?この世のいろんなこと!」
チャンミンの目が輝いている


「どうかな…」


少しの間、沈黙が流れた

この沈黙が自分たちの溝だ

2人とも口には出さなくとも
そう思っていた


「…ま、いいですけど。
ユノは卒業のことだけ考えてください」

「ああ…」

「少しでも…なんでだろう?と思うことがあれば
それを卒論にしてみるといいと思います」

「ずいぶん、シンプルだな。
バカは単純ってことか?」

「学ぶことは元々シンプルなんですよ」




翌日、ユノは大学でいつものようにみんなでつるんでいた。

自分たちの話題は、今夜どこで遊ぶか。
今、何が流行っているか
誰と誰が別れたとかくっついたとか…

たとえば

なぜ風は吹くのか
なぜ空は青いのか

考えてみれば、なんでだろう

チャンミンはなぜあんなに可愛いのか。
なぜ、あんなにチョコレートに魅了されているんだろう
チョコレートには人を笑顔にする何かがあるのか


「ユノ、それでどうする?」

「え?」

ドンへがユノの顔を覗き込んでいる

「なにが?」

「今夜、ヘキサゴンに何時に来れるかって話」

「あ、俺、今夜は行かれないや」

シネが驚いてユノの腕を掴む
「なんで?!どうして来れないの?」

「卒論やんなきゃ」


「………」


ユノの意外な言葉にみんなが静まり返った

ドンへがやっと口を開く

「卒業…するつもりか…?」

「は?卒業しなかったら、放校処分だぜ?俺」

「それでもいいって言ってたじゃないの。
どうせお父様の会社に入るんでしょ?」

勝手な憶測をたてるシネ

「あの親父が放校処分の人間を会社に入れるわけない」


「ユノ、ウワサだけど、あのシム・チャンミンが家庭教師をしてるってほんとか?しかも住み込みで」

ドンへが少し言いにくそうにユノに言った

「そうだけど?」

「なんで黙ってたのよ」
シネが食ってかかる

「言う必要あるかよ」

「あんなカタブツ。だけどユノ、まさかあのシム・チャンミンと…」

「なんだよ、シネ」

「あたし、いやよ。
シム・チャンミンとユノを共有するなんて」

「バカか?なに言ってんだよ」


ドンへがユノに囁く
「お前とシネ、終わってたんじゃなかったのか?」

「終わるもなにも…最初から特に…」

「は?特になによ」

「あー彼女ヅラとか、めっちゃウザいんですけど」

ユノはイライラしてきた。

「あんなヤツに骨抜きにされてるんじゃないでしょうね。あたし、何人も知ってるわよ。そういうヤツ」

「へぇーすごいね、そりゃ」

面白くない話だ…


ドンへがシネに穏やかに言う
「でもあいつ、根はいい奴だぜ?」

え?

「ドンへ、お前、チャンミンのこと知ってんの?」

「ああ、高校同じだから。
飛び級してるから年下だけど」

「はっ?なんで言わないんだよ」

「前に言ったぜ?」

「あーそうなのか…興味なかったんだろうな、俺」

「シム・チャンミンってさ、高校の時
教師が生徒をバカにしたりすると、すげぇ理論責めで教師だまらせたりして」

「なんだそりゃ」

「性格悪くて付き合いづらいけど、みんな尊敬してたぜ」


「性格は悪くない」


「…………」


「…と、俺は思う…」


「そうか…」

チャンミンを庇うようなユノの態度に
どこかシラけた雰囲気になり、
みんなはなんとなく解散になった。

ユノは、相変わらず悶々とした思いで帰宅した。

自分の中に少しだけ芽生えた気持ちは
向上心というものなのだろうか。

玄関から上がると、チャンミンが下に降りてくるところだった。

ふと目が合い、

「お帰りなさい」

仏頂面でチャンミンがユノに言った。

「ただいま。なに?お前、どこか行くの?」

「デートです」

「え?」

「ユノは帰ってこないからとお母様から伺ってたので」

金曜の夜だからか…

金曜の夜に、俺が家にいたことなんてないもんな


「デートって、お前、付き合ってる奴いるの?」

「いませんよ、僕は恋愛はしません」

「じゃ、あれか?セフレとセックスか」

「……」

鋭い目つきでチャンミンがユノを睨んだ

「ま、そんなところですね。
デリカシーのなさ過ぎる質問で答えたくありませんけど、」

「3大なんとか、のひとつだな」

「3大欲求です」

「俺は、卒論のためにみんなと遊ぶのを断ってきたっていうのに、お前は遊びに行くって変だろ」

なんとしても、デートなんて行かせたくない


「………」


「確かにそうですね。わかりました。
今夜はキャンセルします」

あっさりそう言うと
チャンミンはスマホを取り出し
画面をタップした。

「あ、もしもし僕です。
すみませんが、今夜はキャンセルさせてください。
この埋め合わせはいつか必ず、はい。」

チャンミンは通話もあっさりと終え、
ユノを冷たい目で見つめた。

これでどうだ、と言わんばかりに。

「チャンミン」

「はい」

「いつか、なんて…
もうそいつと会ういつかなんて、ねえから」

「は?」

「埋め合わせをする機会なんて、一生来ない」

「………」

「なんだよ」

「ユノはたまに、子供みたいになりますね」

「知るか」

ユノがそのまま、自室へ行こうとすると
チャンミンが母に呼び止められた。

「シム先生、素敵なお話があるの」

「なんです?」

チャンミンは母に対してとても柔和な態度をとる。
自分のとの態度のギャップに腹が立つ。

「エンパイアホテルで、いろんなショコラティエの新作発表会があるの。立食パーティの形式でね?
わたくしと参加してくださらない?」

母は白い封筒にゴールドの飾りが施された招待状を出してみせた。

「僕が参加して、いいんですか?」

「もちろんよ!いいかしら?」

「ちょっと待って」

なんだか盛り上がりそうなところに、
ユノが割って入る

「母さん、こいつエスコートなんてできないよ?」

「エスコート?」

チャンミンが不思議そうな顔をする。

「大丈夫よ、ユノ。
わたくしがエスコートするから」

「はぁ?変なの」

「よく見る光景よ?若い男の子をエスコートするマダム」

「母さん、それがしたいのかよ。」

「だって、ユノはそういうの全然一緒に行ってくれないし、お父様はお仕事で帰ってこないし」

母が一瞬寂しそうな顔をした。

「エスコートはできないかと思いますが
僕でよかったら是非ご一緒させてください」

「いいの?楽しみだわ!」

チャンミンの言うところの
利害関係の一致というやつか。

ま、母さんが喜んでるからいっか。

その日の勉強は、えらくチャンミンはご機嫌だった。

「お前、そんなに新作発表会が楽しみか」

「はい。なにしろ、初めてなので。
行ってみたかったから夢のようです」

ああ、だから…

そうやって俺の至近距離で微笑むなよ

「ユノ」

「ん?」

「キスしたそうな顔してますけど
今夜はそんな暇はありません。」

「わかってるよっ!そんな顔してるか!」

ユノの夜は、今夜もため息で終わる

チャンミンの表情は夢見る乙女のようで
それがまたユノをザワつかせてやまない…



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ショコラティエ(4)



ユノは珍しく早起きだった

仲間とバーベキューに行くために
車を出さなくてはならない。

ユノが階下へ行くと
チャンミンが母と朝食をとっていた。

ユノははじめてこの家にチャンミンが暮らしていることを実感する。

チャンミンはチラリとユノを見て挨拶をした。

「おはようございます。
朝食でユノと会うのははじめてですね」

「あー」

それは、いつも俺が昼まで寝てるからだ。
そう言いたいんだろ

母が紅茶を入れてくれた。

「今朝はずいぶん早起きなのね。」

「バーベキュー行くんだよ。
車ださなきゃ」

「バーベキュー?楽しそうね。
シム先生も連れて行って差し上げたら?」

まったく空気の読めない母がとんでもないことを言う。

チャンミンも驚いたように母を見る。

「は?なんで連れて行かなきゃならないんだよ」

「だって、同じ大学の同級生じゃないの」

「母さん、同じ大学だからってさ、小学校の同級生じゃないんだから」

「でも…」

「お母様、僕たちは同級生ではないのですよ」

「あー!もうわかってるから、言うな。
とにかく、チャンミンを連れて行くとか、ないから」

チャンミンがジロッとユノを睨む。

え?

なんで睨む?…行きたいとか?

「あ、もしかして、バーベキュー行きたいか?」

「は?そんなわけないでしょ」

「だよな。いや、今連れて行かないって言ったら
不服そうだったからさ」

「卒論のテーマも決まってないのに、
遊びに行くなんて、その神経を疑ったんですよ」

ひぃーそこかよ!

もうユノはそそくさと朝食を終え、席を立った。
これ以上チャンミンの毒舌を聞きたくない。

待ち合わせ場所を確認して、
黒くて大きなバンを車庫へ取りに行く。

ふと玄関から門に向かって
いつもの千鳥格子のコートに黒いマフラーの
チャンミンが歩いて行くのが見えた。

どこか出かけるのだろうか
どうせ大学か、図書館だろう。

チャンミンはチラッとこちらを一瞥しただけで
スタスタと行ってしまった。

ユノはみんなをピックアップして現地まで2時間近く車を走らせた。
高速を降りるとバーベキューの食材を買いにスーパーへ寄った。

自然が残る田舎町。
地元の人が週末に買いだめするような大型スーパーがあり、
みんなで肉や飲み物をカートに入れて歩いた。

何台もあるレジの列のひとつに
ユノとドンへは並んだ。

ふと前を見ると

隣のレジを打っているおばさんが
スーパーの入り口に向かって手を振っているので
なんとはなしにそっちに目がいった


は?

まさかのチャンミン!!!

チャンミンがスーパーの入り口で
ウィンドウ越しに小さく手を振っている。
にっこりとやはり可愛く微笑んで。

なんで??

チョコの店といい、昨日のカフェといい、
しかもこんな遠くのスーパーで。

今まで一度も会ったことがないのに
なんでこんなに偶然に会ってばかりなんだよっ

「あれシム・チャンミンだぜ?」
ドンへがユノに囁く

「ああ、みたいだな」
ユノは無視して、レジで会計をし、荷物を袋に詰めた。

レジのおばさんはチャンミンの母親なのかな…


…その日チャンミンはユノが出かけたことによって
時間ができた。

自分の卒論も進めなくてはいけないけれど
ある程度の目処がついているので
久しぶりに母親に会いにいくことにした。

チャンミンの実家はソウルからバスにかなり乗る。

バス停を降りて少し歩いたところのスーパーで母は働いている。
チャンミンは驚かせようと連絡せずに直接スーパーに行ってみた。

入り口のウィンドウから覗くと
母はレジを打って仕事をしていた。

昼ごはんくらい一緒に食べれるかな?

しばらく気づくかどうか様子を見ていたら
ふとこちらを向きそうになった拍子に
手を振って見た

母はチャンミンに気づくととても驚いて
そして嬉しそうに笑ってくれた。

母はジェスチャーで「ちょっと待ってて」というしぐさをしたので、
チャンミンはうんうんと頷き、そのウィンドウのところで待っていた。

ワイワイガヤガヤと大学生くらいの団体が
買い込んだ荷物を持って駐車場へ歩いて行く。

その団体の中でユノがこちらを気にしてることに
まったく気づかないチャンミンだった。


このすぐ先の河原がバーベキューに絶好の場所になっている。
今は紅葉がきれいで人気だ。

そういえばユノもバーベキューに行くと言っていたな、とチャンミンは思い出した。

まったく、卒論のテーマも決まっていないのに、
何をやっているんだか。

ため息をつくと、後ろからポンと肩を叩かれ
振り向くと母が嬉しそうに微笑んでいた。

「来るなら言ってくれたらよかったのに」

「驚かせようと思ってね」

連れ立って2人は駐車場を横切った。

「チャンミナは今、教え子さんのお宅にいるんでしょ?」

「そうだよ」

「ご挨拶しないといけないわね」

「いいんだよ、そんなの。
利害関係がきちんとあるんだから」

「そうなの?でもお食事もでしょ?」

「朝食と夕食だけね。
ねぇ、それよりさ、久しぶりにケーキ作って欲しいんだけど」

「ガトーショコラ?」

「そう!」

「フフ、時間はあるの?」

「夕方には帰るよ。だから急いで作って!」

「はいはい」

チャンミンは久しぶりに会った母に甘えていた。
母もうれしそうだった。

2人で家に帰り、チャンミンがキムチ炒飯を作っている間、母はガトーショコラを作っていた。

「粉砂糖がなかったわ」

「デコレーションはいいよ。
そのままで十分美味しいから」

「よかったら、お世話になってるお家にも作ろうか?」

「あ、いい?そうしてくれる?
ドラ息子は最低だけど、奥様は結構いい方なんだ。
母さんのガトーショコラは最高だから、きっと喜ぶよ」

「そう?やっぱり粉砂糖買ってくればよかった」

その日は2人でおしゃべりをして、昼食とお茶を楽しみ、別れた。

チャンミンが帰宅すると、すでにユノも帰宅していた。

「シム先生、ちょうどよかったわ
今から夕食なの。」

「今日はデザートにガトーショコラはいかがですか?今日、母のところに行っていて、お土産に作ってもらったんです」

「え?お母様の手作りのガトーショコラ?」

「はい。結構美味しいかと」

「それは是非いただくわ!
楽しみだわ。あとで美味しいコーヒーもいれるわね」

そのやりとりを聞いていたユノは
あれはやはりチャンミンの母親なのだと思った。

チョコを目の前にした時とはまた違う
穏やかで優しいチャンミンだった。

いつも自分にはメチャ厳しいけれど
きっと他の人には優しいのかもしれない。

母ももうすっかりお気に入りで
何かと話し相手にしているようだ。


ユノとチャンミンと母、
3人で夕食をとり、食後のコーヒーに
ユノの母がガトーショコラをデザートにしてくれた。

みんなで少しづついただく。

「!」

「どうしましたか?」

「すっごく美味しいわ!」

チャンミンは嬉しそうに笑った。
「それはよかったです」

本当に美味しかった。

特に甘いものがそんなに得意ではないユノでさえ
美味しいと思えるガトーショコラだった。

「シム先生はこんな美味しいケーキを食べて育ったから、チョコレートの味がわかるのね」

「これには思い出があります」

「思い出?」

チャンミンは目を伏せた。

「父が亡くなった時、僕はまだ幼くて…
でも母は僕を置いて、仕事に行かなくてはならなかったんです。生活のために。
でも、僕は寂しくて寂しくて、仕事に行くなと
よくワガママを言って母を困らせていました」

母はすでにこの時点で涙ぐんでいる

「それをかわいそうに思った母は
なにかしらおやつを置いていってくれたんですけれど、冷蔵庫にいれておけるものじゃないとと言うことで、いつもプリンばかりで。
でも、早起きしたときはガトーショコラを作って置いてくれたんです。
今日はガトーショコラが家にあるのだと思うと
僕はもううれしくて。」

「そうなの…お母様の愛情がこもったケーキだものね。世界一のガトーショコラだわ」

「はい、ガトーショコラは母のが1番美味しいと思います。」

「そうよ!ほんとにそう!」

母はもう流れる涙をとめられない…

ユノは小さい頃のチャンミンを想像した。

たぶん、今とそんなに変わらない顔立ちで
きっと笑顔の可愛い子供だったのだろう

そんな子が寂しがって…

って、今のユノへのドSぶりを考えると
ちょっと考えにくくはあったけれど。

でも、昼間にスーパーで見た、
あの優しい笑顔…

自分にも少しはあの笑顔をみせてくれればいいのに

「そういえば」

突然チャンミンがユノに向き直った

「へっ?俺?」

「キャンプだかバーベキューに行っていたんですよね?ずいぶん帰りが早かったんですね」

「そ、そりゃ、卒論のテーマ決めがまだだからだよ」

「今日、やる気だったんですか?」

「やる気だよ。あたりまえだろうが」

チャンミンは不思議そうな顔をしながらも
「そういうことなら、今から少しやりましょう。
後でユノの部屋に行きますね」

そう言ってチャンミンは食器を片付けた

すぐさま家政婦がとんできて、
代わりに片付けようとする。

「いいんですよ。僕はあなたの雇い主ではないし
僕の後片付けはあなたの管轄外ですから」

「はぁ、いつもそう申されますが…」

「どうか気にせずに」

チャンミンは、にっこりと笑った。


ユノは部屋でチャンミンを待った。
なぜか、なんとも言えない気持ちだった。

小さい頃、寂しかったチャンミンの
あの母親への優しい顔を思い出すと
切ないような…なんというか…

チャンミンが何冊か本を持って入ってきた。

「さあ、ユノがやる気になっているうちに
少し進めないとですね?」

チャンミンはユノの隣に椅子を持ってきて
本を取り出した。

「先日これを見つけて、参考になるかと…」

「チャンミン…」

「はい?」

「キスしたい…」

「……」

「ダメ?」

「…先日みたいに、強引に奪わないんですか?」

「今日は…そういうのはイヤだ」

「僕の了承を得てから?」

「ああ」


「………」

「………」


「いいですよ…どうしたらいいですか?」

「そのままでいて…」

ユノはゆっくりとチャンミンを抱きしめた。

ユノは胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた

ああ、俺、好きなんだなぁ
チャンミンの事…

しばらくそうしていると
ユノの肩に顎を乗せていたチャンミンが囁く

「キス…しないんですか?」

「もう黙って…」

そう言ってユノは体を離すと
チャンミンの頬を両手で挟み
優しくくちづけた




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ショコラティエ(3)



ユノは引っ叩かれるのは覚悟していた。
狂暴な猫を強引に抱きすくめたようなものだ。

だからチャンミンが暴れないよう
しっかりとホールドした。

舌を噛まれないように、唇を押し付けるだけのキス。

逃げないように後頭部をしっかりと押さえた。

ちょっと我慢ができなくて
申し訳ないけどキスさせてもらう

そんなつもりのユノだったのに…

角度を変えてきたのはチャンミンの方だった

え?うそ…

そのうち、チャンミンの手はゆるりとユノの首に交差して回る。

受け入れてる??
俺のキス…

とうとうチャンミンの方から
舌を入れてきた

これで気を許したら、舌を噛まれるかと思い
躊躇していたけれど

チャンミンの喉の奥から

「ん…」

という甘い声が聞こえ

ユノの理性は決壊した


止めらんないかも

ユノはチャンミンに舌を入れた

さっきまでチョコを食べていたと思われるチャンミンの口の中は甘い…

チャンミンもその甘い舌をユノの舌に絡めてくる

お互いに息使いが荒くなり
完全にカラダは反応を見せていた

ああ、もうこれ以上ガマンできない…

ユノはキスを続けながら
チャンミンのシャツのボタンを器用に外し
その胸元から手を入れて脱がそうとした

唇を離すと
チャンミンは甘くため息をついた

潤んだ大きな瞳でユノの唇を見つめていたチャンミンは、ゆっくりと視線をあげて、ユノの目を見つめる

「ユノ…キスが上手です…」

吐息混じりの声も甘い…
たまんない…

「だろ?」

「さすが…遊び人」

「は?」

「遊びまくってるだけあって…」

「ちょっと…」

ユノは一瞬我に返り
心外だと言わんばかりに顔をしかめた。

「遊び人てさ…なんだよ、それ…」

「ん?違いましたか?」

違う!と否定出来ないユノ。

「さすがですよ?」

「そ、そうか」

褒められてんのかな?

ユノは気をとりなおして、チャンミンのシャツを脱がそうとする

するとチャンミンはシャツの襟元をギュッと掴んだ

え?

ここでストップ?


「俺、やめらんないけど」

「は?何言ってるんですか
ユノとはキスまでです」

「え?なんで?」

「あなたみたいなタイプはセックスになると自分本位でコトを進めようとするからです。」

「はぁ?俺のセックスなんて知らないだろ?」

「だいたいわかります。
セックスの時、奉仕してもらうのが当たり前だと思っているんです」

「なっ!」

「そんなの趣味ではないので」

「お前こそなんだよっ!ただの好きモノのくせに。
セフレが何人もいるんだろ?!」

「僕は人間の3大欲求に忠実なだけです」

「なんだそりゃ」

チャンミンはそんなことも知らないのかと言わんばかりに、シャツのボタンをとめながらため息をついてみせた。

「いいですか?食欲、睡眠欲、そして性欲です」

「……」

「それくらい覚えておいたほうがいいですよ」

チャンミンはそう言いながら
片手をユノの頬に触れて、そっと唇にキスをした

「またキスしましょう、ユノ」
そう囁いてにっこりと笑う

可愛い…いやいや

「は?だれがするか」

「というわけで僕は睡眠欲に忠実に、少し寝ることにします」

「この時間から?」

「言っておきますけど、僕も卒論があるんですよ
夜も勉強してるってことです。
あなたの性欲の処理をしているヒマはありません」

せ、性欲の処理…

あーーーーーーーっ!

ほんっとにムカつく!!!!

「それじゃあ、今日はこれで。
明日までに読んだ書簡の論点だけでもまとめておいてください」


どうして、こんなヤツを可愛いなんて思ったんだろう

パタンと閉まったドアに向かって、
ユノは思い切りクッションを投げつけた。

イライラの収まらないユノは
手当たり次第に連絡をし、何人か見繕って夜の街に繰り出した。

ソウルで知る人ぞ知る、クラブ「ヘキサゴン」

ドレスコードが厳しいことで有名な店だけれど
ユノはどんな服装でも一発オッケーだった。

そのスタイルの良さとセクシーな眼差しで
まわりの注目の的だった。

今夜もブラックジーンズに黒いセーターという
なんでもない格好で、それでも人目を引いている。

親友のドンへ、シネをはじめとする何人かのモデルや後輩も何人か。

楽しい夜のはずなのに、やっぱりイライラが収まらない。

「荒れてんのね、ユノ」
大音響の中、シネがユノに耳打ちする

「ああ、今夜はシたくてたまんないんだよ」
ユノは意味を持たせてシネに耳打ちする

シネの顔がパッと輝く

「じゃあ、ウチに来てよ!」

「ああ、いいよ。
もう出ようぜ。」

ドンへに断りを入れ、ユノはシネの腰を抱くと
店を出た。

「俺、今日すげぇから、なんか軽く食っていこうぜ」

「やだーユノったら」

シネが嬉しそうにユノにしなだれかかる。

2人は軽く食事もできるカフェに入った。

コーヒーとパスタを頼み
シネはケーキを注文した。

「ケーキ食べんのか?」

「ここ庶民的だけど、ケーキは自家製で美味しいのよ」

「へぇー」

ユノは話半分に聞き流し、
なんとはなしに店内を見渡した。

ふと、隅の席に目が止まる

まさか…

どうして…

ユノの斜め前の隅っこに
なんとチャンミンがひとりで座っている

テーブルに分厚い本を置き
しかめっ面で読みふけっている

こんなところに来ても勉強してんのか
変なやつ…

やがてチャンミンの席に
ケーキとコーヒーが運ばれて来た

それに気づくとチャンミンは分厚い本をさっさとしまい、テーブルを空けた。

チャンミンの目の前にコーヒーと
チョコレートでできたケーキが並べられると

また、あの笑顔だ…

この世の幸せを一身に集めたような笑顔

やっぱり可愛いなぁ

なんなんだろう、あいつ。

ひとりでいるのに
あんなにニヤニヤしたらバカだろ。

シネがユノに盛んに話しかけているけれど
全然耳に入ってこない
ユノは視線がチャンミンに釘付けだ。

チャンミンは両手を祈るように合わせて
その口元が <いただきます♫> のカタチに動く

そしてニッコリ微笑みながら
フォークでケーキを小さく切って
また微笑んでそれを見つめる

あーバカみたいだなぁ
でも、めちゃくちゃ可愛いんだよな

一口ケーキを口に入れると
チャンミンは嬉しそうにギュッと目をつぶった。

そんなに美味しいのか!

ああ、もう!

可愛いなんて、ゼッタイ思いたくないのに

うわの空のユノに
とうとうシネが怒って叫んだ

「ちょっと!ユノっ!」


シネの大声にチャンミンがこっちを見た

あ、見つかった

チャンミンはしばらく呆気にとられて
ユノを見つめていたけれど

" オンナといる遊び人 "

その目はユノをそう捉えている

やれやれといった風に頭をふって
またケーキへと興味を移したようだった。

なぜかユノの心にどんよりとしたものが
蔓延る

「悪い、俺、今日は帰るわ
送っていくからここ出よう」

「え?ちょっと?なに?怒ったの?」

「違うよ、悪いな」

「そんなー」

ひどく残念そうなシネを連れて店を出た。

ユノは気持ちが翻弄されまくって
具合が悪くなってきそうだ。

何をするにしても、自分が主導権を握ってここまで生きて来たのに、それが通らない。

そんな状況に陥ったことのないユノは
どうしていいかわからず

とりあえず、シネを送って帰宅した。

広々とした玄関に入る前に
外からチャンミンの部屋を見ると灯りがついていた。

もう、帰ってるのか…

勉強してんだろうな、俺とちがって。

ユノはため息をついて家に入った。




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ショコラティエ(2)




今日もシム・チャンミンのスパルタは続く

やる気のないユノと、生活がかかっているチャンミンの攻防は平行線だ。

「まずもって、テーマがダメだとすでに言われているのなら、そこからやり直すべきです。
教授に認めてもらえなければ意味がないじゃないですか」

ふーっとユノはため息をついた。

「最初っから言ってるけど
俺、やる気ないから。」

「やる気があるとか、ないとかではなく
やらなければならないんです」

「だから!」

「ユノ」

「なんだよ」

「たぶん、あなたみたいな金持ちのお坊ちゃんは
何も苦労もせずにここまできたのでしょうけれど、やりたくない事はやらないというのは、
これからは通用しないと思います。」

「そういうの聞き飽きた。
貧乏人のヒガミみたいなセリフ」

「苦労していないのは事実でしょう。」

「苦労したら、どんだけすごいんだよ」

「物事の有り難さがわかります」

「はぁ?」

「すみません。あなたにそんな話をしてもわかるわけがないですね。
あなたは一見恵まれてるかもしれない。
でも、実はとっても不幸なのです。
かわいそうで見てられません」

「なんだよ。神父みたいなこと言うな。」

「すでに、言われてるんですね。」

「しらねぇよ!」

「あなたみたいな薄っぺらい人間には
薄っぺらい人間しか寄ってこない」

「はぁ?」

「いつも団体でいるようですけれど
1人じゃなんにも出来ない、自立してない連中ばかりで集まっているじゃないですか」

「俺の友達を悪く言うな。
お前こそ友達なんかいないくせに」

「は?今、小学生のセリフかと思いました」

「飛び級だかなんだか知らないけどな
勉強がそんなに出来たって、まわりと釣り合いがとれなくてひとりぼっちじゃないか。」

「別に友達なんて無理して作るものでもないので」

「しかも、金もなくてチョコレートも買えやしない」


「………」


黙ってしまったチャンミンに
ユノはしまった!と思った。

言いすぎただろうか。

まさかここで黙るとは思わなかった

あのチョコをひとつでは売ってもらえないと知って
寂しそうに微笑んでいたチャンミン…

急にあの時の気持ちが蘇ってきた

たしか、母子家庭なんだよな…

「あ…俺…」

「お金がないのは…僕のせいじゃないです」

「……だよな、俺さ…」

「そんなカンタンなことも、
ユノはわからないんですね。」

「ごめん…」

「これだから金持ちの子供はキライです。
お金を持ってるのはユノじゃなくて
ユノの親でしょう?
それをひけらかしてよく恥ずかしくありませんね」

「なっ…」

「しかもいい歳をして、友達とつるむなんて
よくそんな姿を晒して平気でいられますね。
あーでも、向上心はお金では買えないですもんね。
お金を出せばなんでも手に入ると思っている。
それがあなたの最大の不幸です。」


そうだった…

こいつは、あの鬼教授を論破したほどの奴なんだ。

こんなこと言われたくらいで怯むはずがない…

ユノは頭を抱えた

ほんとにムカつく!!!


「もうお前、この部屋出てけよ!」

チャンミンはそれでは、と今日の進捗とやらを
タブレットで書き留めている。
親父に報告すんのか。

あーもう…

タブレットをしまうと、
チャンミンは黙って部屋を出て行った

親父に報告されるのはいやだ

「なぁ、悪かったよ」

チャンミンはスタスタと階下に降りていくと
ユノはそれを追いかけた。

するとリビングで寛いでいた母がチャンミンに話しかけた。

「シム先生、ちょうど良かった
コーヒーお飲みになりませんか?ユノもどう?」

ユノとチャンミンはとりあえずコーヒーを飲んで一旦休戦をすることにした。

「あ、そうだ、美味しいチョコレートがあるのよ」

そう言って母が取り出したブラウンの綺麗な箱は。

チャンミンがそれを見て思わず「あっ!」と言った

それはあのベルギーのチョコレート店の箱だった。
チャンミンの瞳がみるみる輝く

「これね、この間オープンしたベルギーのね…」

「あの、あのですね、この「セ・トレ・ボン」は
実はベルギーではなくて、フランスのチョコレートなんです!」

「あ、そ、そうなの?」

チャンミンの興奮ぶりに母も驚いている。

「ベルギーのお店のほうが有名なので
みんなそう思ってるんですけど…」

母が箱の蓋を開けた途端
甘いチョコの香りと共に、フルーツの色に彩られたカラフルなチョコレートが姿を現した

「わぁっ!」

チャンミンが感嘆して、輝くように微笑んだ

「フルーツのプラリネ!」

チャンミンは祈るように組んだ両手を口元に添える

女子かよっ!

可愛すぎるぞ!!!

…あまりにも可愛い笑顔に…
ユノは心臓を射抜かれたような衝撃を受けた

母もチャンミンの笑顔に釘付けだった

「これ、ひとつでは売ってくれなくて…
でも、ひとつがすごく高いんですよ」

チャンミンの眉がハの字になっている

ああ、これか…
ユノは思った…

あの店で切なく諦めた、チャンミン最愛のチョコ。

「あ、じゃあ召し上がって?
全種類お味見してみてくださらない?」

「いいんですか?!え?全種類いいんですか?!」

「どうぞ!」

「ありがとうございます!
夢のようです!」


ダメだ……

可愛すぎる…

チョコをひとつずつ、幸せそうに堪能する
その笑顔がヤバすぎる

決めた

毎日この店のチョコを買ってきてやろう
それでこの笑顔が見れるなら…


そうして、翌日ユノは相変わらず混雑しているその店に行った。

店のケースを覗いてみたものの、チョコの種類が多すぎて選べない。

この間と同じプラリネでは芸がなさすぎる

変なチョイスをしても、なにか言われそうだ


あ…

" お金があるのはあなたではなく…あなたの親…"

あーー絶対それ、言うだろうな…

たくさん買ってやっても、自分の金じゃないとか言いそうだ。

やめておこう


諦めて店を出ると、なんと母と出くわした

「ユノ!あなた、こんなところで何をしてるの?」

「いや、チョコを…母さんは何してるの?」

フフッと嬉しそうに笑う母。

「あのね、あまりにシム先生が可愛くて。
チョコレートを食べてる姿がたまらなくてね。
今日も喜ぶかなって、少し買っていこうと思うの」

あーおんなじこと考えてる

きっと奴はあの笑顔で、
いろんな人からチョコをご馳走になってるのかもしれない…

「じゃあ、なんか見繕って買ってやったら」

「ええ、そうするわ」



その日のスパルタは比較的スムーズにいった。

相変わらず厳しい顔つきのチャンミンだったけれど
少しユノを褒める言動もみられた。

「文章の読解力はあると思います。
それなら、いい論文も書けるはずなんです。
テーマからブレないように注意しましょう。
いくつか、取り組みやすいテーマを作っておきました」

「テーマは自分で考える」

「え?」

「自分で決めるよ」

「……」

「社会科学から攻めるか、心理学から攻めるか
どっちでもいいんだろ?」

「…どっちでもいいですよ…
興味を持てるものなら、やりやすいですし」

「興味のないものやっても卒論にならないだろ」

「ユノ…やる気になりましたか?」

「いや、全然」

「じゃあ、やらなければならない、と感じてるんですか?」

「それは、少しね」

「すごい進歩だと思います」

「バカにすんな。元々それくらいの感情はあるさ」

「そうでしたか。」

「お前、俺を猿くらいにしか思ってないだろ?」

「何を言ってるんですか
猿はとても優秀なんですよ」

「は?!」

ユノの逆鱗に触れそうなその時、
グッドタイミングで母がコーヒーに2人を呼んだ。

「ユノ、コーヒーだって」

「俺はいらない。行ってこいよ」

「それではせっかくなので」


チャンミンが階下に降りて行ったのと同時に
ユノも気持ちを切り替えようと、廊下にでた。

踊り場に取り付けてある小さな窓の外を眺めて、
猿より下に見られていたイライラを収めようとしていた。

ほんとにムカつく。

しばらくすると、階下から
「わぁっ!」とチャンミンの感嘆の声が聞こえた

母さんは調子に乗って
これから毎日せっせとチョコを買ってくるのだろう

ユノはため息をついた

チョコレートを目の前にしたチャンミンは
すっげぇ可愛いんだけどな…


チャンミンにとって至福のコーヒータイムが終わり
さぞ、ご機嫌よく帰ってくるのかと思いきや

さらなる仏頂面で、ひどく機嫌が悪い

ソファで寛いでいたユノは起き上がって
チャンミンの正面に立った。

「なんだよ、チョコレート食って満足なんじゃないのか」

「いいえ、それも打ち砕かれるような事実を知りまして」

「なんだよ」

「ユノ、あなたは卒論どうこうよりも
まず全然単位が足りてないじゃないですか」

「そうだよ」

「話が違いますから。
僕は卒論を助けるだけだったのに」

「だから、ムリなんだって
卒業なんて」

「いいえ!なんとしても卒業してもらいます!」

あーもう…

「本当なら、賃金にその分加算していただきたいところですが…」

「だけどなんだ」

チャンミンは何かを思い出したように
手の甲を口元に添えてフフッと微笑んだ


か、可愛い…

こんな間近でその笑顔をされると
ヘンな気持ちになってくる


「お母さまが、その分をチョコレートでと」

「は?そんなんで、お前は買収されてんのか」

「だって!僕には縁のなかった
チョコのブッフェにも連れて行ってくださるって」

キラッキラな笑顔でユノの顔を覗き込んだ

「有名店の新作発表会へも!」

そんなに幸せか…
新作がそんなにうれしいのか…


もう…ダメだ…


「チャンミン…」

「はい?」

「そんなに甘いものが好きなら」

「え?」

ユノはいきなりチャンミンの手を引っ張ると
自分の胸に抱き込み、後頭部を押さえて口づけた

「!」





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ショコラティエ(1)



歴史ある大学の校舎

レンガ造りの壁一面に蔦が絡まり、
色とりどりの落ち葉が地面を染めて
まるでヨーロッパにいるのでは、と思えるほど
優雅で重厚な景色だった。

そんな中、これまた景色にぴったりな風貌の
長身の学生が1人、コートのポケットに手を入れて
俯きながら歩いていた。

ウェーブのかかった長めの前髪が、
その彫りの深い顔立ちを隠す。

ぐるぐるに巻いた黒のマフラーが
その顔立ちに影を作る

大きな瞳は怒りを湛え
眉をしかめ、唇は真一文字にひき結ばれている。


頭脳明晰、眉目秀麗

小さい頃からそんな賛辞を受け続け
自己肯定力がかなり高めの男
シム・チャンミン。

自分には出来ないことは何もない

そう自負するにはそれなりの理由があった。


家は母子家庭でフツーに貧乏。
でも、その頭脳のおかげで学費免除&特待生として名門校に通い、2度の飛び級で他人より早く大学生になった。

大学はもちろん学費は免除。
優秀で努力すれば、まわりがみんな御膳立てしてくれ、貧乏だっていくらでも高学歴になれる。

自分がその証明だ。

貧困を理由に教育が受けられないというのは
努力が足りない者の戯言だ。

そうまわりにも誇示していた。

チャンミンを絶賛する者と毛嫌いする者
両極端ではあったけれど、
そんな事は全然気にしていなかった。

どうせ、嫉妬の感情から言ってるだけだ。

友達なんて、必要最低限いればいいし。
恋愛なんて面倒くさいからしないけど
ビジュアルにも恵まれて、性生活だって苦労したことはない。
数人のセフレと距離を置きつつ、いい関係だ。


すべては順調満帆

に…見えたのに…

それなのに…


「そんな優秀な僕が大学院に入れないって?」

チャンミンは足元の小石を思わず蹴った。


クセのある教授と意見を闘わせ、
思わず勝ってしまったチャンミンに、そいつはヘソを曲げた。

「というわけで、申し訳ないが大学院の学費は
シム君の自費でお願いするしかない。。」

仲のいいパク教授が言いにくそうに伝えた。

「僕としては‥‥この大学院でしか学べないことがあるので是非ともここでと思っているんです。」

「わかっているよ」

「他の大学院ならもう即、僕を特待生として迎えてくれるはずです」

「そうだと思う、うん」

「はっきり言って、僕が他へ行くということは
この大学院にとっても損失だと思いますよ?」

「私もそう言ったんだが‥」

「生徒に言い負かされたからって‥
そんな優秀な生徒を教えることができて
光栄だとか思わないんでしょうか」

「なにしろねぇ、この大学の権力者だからね。
シム君も、そこわかって手加減してほしかったなぁ」

「あの、そうしたら寮費も実費がかかるんですか?」

「ああ、そうだね。寮に住んでいるんだよね。
来月から実費だ。申し訳ないけど仕送りを増やしてもらうように親御さんに頼んでくれないか?」

「仕送りはしてもらっていません」

「そうなのか?!」

「僕は家庭教師を掛け持ちして
逆に母へ仕送りをしているんですよ」

「シム君‥‥」

「何せ、学費も寮費も今までタダだったのでね?」

「そうか‥‥それじゃあ、もう親御さんに頼るわけにもいかないね。困ったな」

「本当に困りますよ」

これから寮費も学費も両方負担するって
無理なんだけど。

「私もどうにかならないか考えてみるよ。
やっぱりシム君を他の大学院にとられるのは
こちらとしてもね。」

「ほんとにお願いしますよ」


そんな不毛と思える会話の後

シム・チャンミンはため息をつきながら
大学の構内を歩いていた。

大きなイチョウの木の下では
チャンミンに言わせると「どうしようもない連中」
が団体で騒いでいる

「ねぇ、ユノ、今夜はどこにいるの?」

「どうしようかな。まだ決めてないけどさ」

「あたしたちとヘキサゴンに行かない?」

「クラブか、いいね。」

女子達はきゃーと歓声をあげると
ユノ、と呼ばれている男の腕にからみつく。

その男は、爽やかな笑顔だった。
自分の魅力をよくわかっている笑顔。

背が高く、男らしく発達した筋肉がきれいにそのスタイルを作っていて
だからといって、その顔はゴツくなく
繊細な造りで、尚且つ綺麗に整っている。

カッコいいとか、可愛いとか
それらの形容詞はいまひとつしっくりこなくて

そういえば、同じゼミの女子達が騒いでいたのを
チャンミンは思い出した

とにかくセクシーなのだ、と喚いていたような。

「あの切れ長の目で見つめられると
もう服を脱がされてる気持ちになるわ」

ばっかみたい

あんな薄っぺらな男。

脳ミソ空っぽの男のどこがいいんだか。


団体の中の
これまた薄っぺらいオンナがチャンミンに気づいた

「あ!シム・チャンミンだわ」

その声に数人がチャンミンを見た。

そのユノ、と呼ばれる男も振り返った

チャンミンと目が合い
しばし見つめ合うカタチとなった。

そのまま歩みを止めずに歩くチャンミンを
その切れ長の目で追うユノ。

チャンミンはチラチラとユノを見ながらも
その視線をかわす。

はじめてまともにユノの顔を見た。
あれがそうか。チョン・ユンホ

へぇー

ふぅん

たしかに…

セクシーかもしれない

顔だけね

チャンミンは前に向き直って
早足でその場を立ち去った


ユノはその華奢な後ろ姿を見つめていた


「誰?知ってるの?」

ユノは側にいる女子学生に
またもや爽やかな笑顔で聞いた

「シム・チャンミンよ、
カッコいいけどカタブツで全然だめ」

「へぇ」

「もったいないわよね」

「ほんと」

そんな噂をされていることなんか御構い無しに
チャンミンはまた小石を蹴ろうとし、
狙いが外れて、バネを効かせて蹴った割には
小石は手前でポロンと落ちた。

ユノはニヤッと笑った。

シム・チャンミンか。


「でも、大学やめちゃうと思うわ」

「え?なんで?」

「貧乏なんだって。ずっと特待生でタダで授業受けてたのに、カン教授を論破して怒らせたらしいわ。
もう本人知ってるのかわからないけど」

「なんだそりゃ。論破されたら金ださないって?」

「彼のセフレたち、泣くわね」

「は?セフレがいんのか?
あんなカタブツに」

「特定のコがいないんじゃない?
男ばっかりだけどね。
結構みんな熱あげてたわよ」

「へぇー」

ますますチャンミンに興味が湧いて
ユノの目が輝く。


翌朝、チャンミンは重い足取りで大学に向かった。
昨夜は貯金の計算と、これからの資金繰りを考えていて、ほとんど眠れなかった。

講堂に着く直前のチャンミンを昨日話をしたパク教授が慌てて呼び止める。

「シムくん!ちょっとさー!ちょっと!」

「はい?」

「君さ、大学院に行けるいい方法が…」

「ほんとですかっ?!」



…………たしかに……

いい方法なのだろう……


チャンミンは今、なんとあのチョン・ユンホを前に
直立不動だ。

「あ、あの…シム先生って、とても可愛い方なのね…」

ユノの母がチャンミンを見て頬を赤らめている

「ありがとうございます」

ぶっきらぼうにチャンミンが答える

ソファに踏ん反り返るユノは
ふてくされて完全に横を向いてしまっている

「ユノくん…
ね?観念してちょうだい。
とにかく大学は卒業してもらわないと困るの。
もう何年通ってるのよ。このままだと放校処分よ?」

「いいじゃん、放校処分でさ」

「お父さんの跡ついでもらうのに
中退なんて…」

この遊び人の男の父は
誰もが知っている大きな薬品会社の社長だった。

チョン・ユンホの家柄と
屋敷の大きさにも驚いたけれど

その態度の悪さにも驚き、呆れ果てた

ユノの母がチャンミンの怒りを含んだため息に気づき、慌てた。

「あ…あの、シム先生?
この子はね、決して頭が悪いわけではないの。
ただ、やらなきゃいけないことをやらないっていう…甘やかしてしまったと言われたらそれまでなんだけど…」


そりゃ頭は悪くないだろうね?

いくらコネを使ったとしても
この大学で4年生までは進級できたんだから


「本来でしたら」

「は、はいっ」

「僕は勉学に対して尊敬の念を持たない方に
自分の知識を伝授することは一切したくないんです」

そっぽを向いていたユノがチラッとチャンミンを見た。

「ですが、そちらからのお申し出が
今の僕にはなくてはならない条件でしたので」

「あ、それはもう、はい」

ユノの母は書類を出してきた

「確認させていただきます。
とりあえず、家庭教師をしている間の寮費はだしていただけると。
僕のするべきことは卒論の手伝い。
ユンホさんが無事に卒業できたら、その春からの私の大学院の学費を援助してくださる、ということでよろしいですね?」

「あ、少し違いまして。
この寮費のところですが」

チャンミンは「ん?」ともう一度書類を見た。

「ユノが卒業するまでは、この家に住み込んでいただいて、大学院に入られた際に寮費をお出しするということです。
寮費は大学院に在学されてる間、お出しできるのでその方がよろしいかと。」

「なるほど。」



ユノがソファから起き上がった

「ちょっと、待ってよ。
一緒に住むの?こいつ」

こいつ、と呼ばれてチャンミンはキッとユノを睨んだ。

「あなたのほうがだいぶ年上なので、僕の名前を呼び捨てにするのは構いませんが、こいつ、はやめていただきたい」

「は?」

「非常に不本意ですが、
僕も差し迫っていますので、このお話はお受けいたします。
こちらに住むのも了承いたしましたけど
プライベートはしっかり守れるようにしていただきます。」

「それは、もう。」

この話を受けてくれるということで、
ユノの母はほっと胸を撫で下ろした。

「お部屋にはシャワーとトイレも付いていますし
たぶん寮のお部屋より、うんと広いかと思います。
家具も揃えておきましたけれど、気に入らなければ遠慮なくおっしゃってね」

「そうですか。では、来週には引っ越してまいります。」

ユノはやれやれといった風に、
その長い脚を投げ出して、またソファに寝そべった。

チャンミンは背を向けるユノに
話しかけた。

「明日から取り組んで行きたいと思います。
あなたの卒論に参考になりそうな書簡をいくつか
持って来ましたので、明日までに一冊は読んでおいてください。」

ユノは無視した。

俺が卒業できなきゃこいつは金が入らないってことか。

そんなこと知るか。

ユノはイライラして、外へ出かけた。

いつもの遊び仲間とショッピングをしに
人気のエリアに出向いた。

だいぶ歩いて、カフェに入ろうということになり
いい店を探していた。

瀟洒なブラウンの上品な店構えが目に入った。
人だかりができている。

「あそこ、ベルギーかなんかの店だろ?」
ユノが仲のいいドンヘに聞いた

「ああ、韓国初出店だよな
チョコレート専門店」

モデルをしているシネが色めき立った
「そうよ!今日オープンだったわ!
ちょっと覗いていい?」

みんなで人だかりに近寄って行った。

ショーウィンドウには
いろんな種類のチョコレートがたくさんディスプレイされている。

中では、小さな四角いチョコレートが整然と並べられていて、好きなものを選べるようになっている。

たまに丸い形やスティック状のもあったりして
とにかく甘いチョコの匂いで、それだけでユノはお腹がいっぱいになりそうだった。

シネはいくつか買いたいと言いだして
ユノたちはそれに付き合った。

店内は女性がほとんどだった。

そんな中、すぐ側の頭2つ分くらい飛び出している顔にユノは気づいた。

あれ?

シム・チャンミン?

いや、違うか。


その人は満面の笑顔だった。

1人で来ているようなのに
何がそんなにうれしいのか

ふんわりと笑っている

ユノはその笑顔に目が釘付けになった。

胸がザワザワする

あの千鳥格子のロングコートに黒のマフラー
あれはシム・チャンミンだ。

でも、まるで人が違う…

笑顔はこんなに可愛いのか…


チャンミンはチョコを見ながら、ひとり幸せそうに微笑んでいるのだ。

まわりの女性たちが次々とチョコを注文している中
チャンミンは順番を待っているのだろうか。

店員の1人がチャンミンに気づいて声をかけた。

「お決まりになりましたか?」

「あの…」

「はい」

「このフルーツのプラリネなんですけど
ひとつだけ買うことはできませんか?」

「申し訳ありません。そちらはセット売りになっております。4個セットからございますよ?」

「あ、そうですか。では結構です。ありがとう」

少し残念そうな、でも、やっぱりな、という顔で
あきらめて微笑むチャンミン。

チラリとチャンミンが欲しがったチョコを見ると
確かに目を疑うほど高い。

これ、1個の金額なのか…

ユノは切ないような、愛おしいような
なんだかよくわからない感情に苛まれて
自分でも少し慌てた。

と思ったけれど
そんな感情はあっさり消え去るほどの
チャンミンのスパルタがはじまった

「昨日、読んでおくようにいいましたよね?
こんな薄い本の一冊も読めなくて何してるんですか?」

「あのさ、俺、まったく卒論とかやる気ないから。
だからチャンミンも大学院の学費は諦めたほうがいいよ。
俺が卒業できなかったら、金入らないんでしょ?
そうなるだろうから、はじめに言っとく」

「ユンホさん」

「ユノ、でいい」

「じゃあ、ユノ。
僕には他に道がないんです。
卒論はある程度は僕がやるつもりです。」

「へぇ、やってくれるの?」

「僕ができない部分は多々ありますから。
僕が全部やるなんて思わないでください。」

「なーんだ」

「とにかく、従ってもらいます。
それに、逐一ユノの進捗は報告いたしますので
あなたが卒業できなくても、僕は最大限の力を注いだことはわかってもらうようにするつもりです」

「あーめんどくせ。」

「報告はお母様にではなく、
お父様にさせていただきます」

「は?親父?」

「ええ、ユノはお父様には弱いとお伺いしてます」

チャンミンは嫌味を込めて、ニヤっと笑った。

ユノはその笑顔をいたずらっぽく見つめた。

「あんたさ、チャンミン」

「?」

「そんな顔より、チョコ見てる顔のほうが
うんと可愛いぜ?」

「は?」

ユノはゆっくりとソファから起き上がり
そのまま、シャワーを、浴びに行ってしまった。

チャンミンは訝しげにその広い背中を見送った。

ユノはシャワーを浴びながら
なぜかザワつく気持ちを、整えようとした。

この間、大学で見かけたときは
なかなか可愛いな、と思い、

チョコレートの店で会った時は
可愛すぎて、正直ヤバかった

だから、こんなふうに接点があった事は面白そうだ。
そう思っていたのに…

やっぱり勉強になると、すっげぇムカつく

ユノはシャワーを頭から浴びながら
頭を激しく左右に振って水しぶきを飛ばした。




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片想い〜あとがき〜


百海です。

「片想い」ここまでお付き合いいただき
ほんとうにありがとうございました。

このお話は「声」の続編なのですが
今までで、こんなに書き直しをしたお話はない!
というくらい書き直しをしました💦

続編を描こうと考えたのは
やっぱり「声」が悲しすぎたから、というのが率直なところです。

残されたユノさんがどうにもかわいそうで。
チャンミンを見送った後、幸せになるのは
やはり難しかったのではと。
それでも1人頑張って生きたのだろうなぁと。

そう思ったら、どうにかしてあげたくなってしまったんです。

「声」の2人は想い合って、愛し合って
ほんとうに幸せだったのですけれど
なんでもない穏やかな日常を送ることは叶わなかったんですね。

普通にくだらないことで笑い合い
どうでもいい事でケンカする。

かけがえのない日常生活が
どれだけ幸せなのか

「声」の2人はよくわかっていたのだと思います。

毎日必死で愛し合って
その後のユノさんはどれだけ虚しく寂しかっただろうと、そしてそれを見守るミノも辛かったと思うのです。

そんな3人を幸せにしてあげたくて描いてみました。

エピソードも種明かしをあからさまにすることなく
各所にいくつか散りばめて、「声」と繋がるように描いてみました。

輪廻転生について何かで読んだ時に
前世での思いをこの世で解決させる、みたいな事が書かれてあり、なるほどと思った記憶があるのですが、
「声」での不幸な生い立ちのチャンミンが
心に傷を持つ子供たちのケア、という仕事につくところなど、こういうことかな、と私なりに考えてみました。

ユノさんも前世と同じ、愛する人を亡くすという経験をしますけれど、今回はそれを乗り越えることができたという意味で、やはり人生って試練あって当たり前なのかな、なんて思いました。

そして、毎回登場(笑)のテミンくん。
今回は可愛い5歳児でした。

チャンミンと5歳のテミンが
お揃いのスタイルで展開するアパレルのパンフレット。
どうかリアルでも手に入れたいところです(笑)

そして、いつもながら
この稚拙な文章で、自己満足な展開のお話を
毎日読んで応援してくださって
本当にありがとうございます。

秋から冬にかけて、ま、今もそうなのですが
なかなかうまく行かないことが多い生活を送っています。

それでも、仕事帰り
スマホを見るとたくさんの方が応援してくださっていて、

それはお話へのポチだとわかってはいるのですけど
自分自身にポチをもらったような気がして
なんだか胸熱な日々でした。

何人かの方に同人誌化のご希望もいただいて
思わずお風呂で泣いてしまいました。

ま、それは別としても
私の妄想は留まることを知らず

先日、有名な占い師の方に
「妄想癖がありますね」と言われ
「はい」と答えざるを得ませんでした(笑)


今度はユノさんをちょっぴり片想いさせたいかな
と思っています。

ドラ息子のオラオランホと、
スィーツヲタクのチャンミン。

まったく接点のない2人。

ドラ息子をカテキョーすることになった
チャンミンのお話。

またシム先生ですね。

もうその後も決まっているのですが
それはまた後日。。


毎日、今季最強の、という寒波がやってきて
ほんとうに寒い毎日です。

みなさまインフルエンザなど罹っていないでしょうか?
どうかご自愛くださいね





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片想い(完)



僕はテミン

15歳

ソウルから1時間くらいの地方都市に
アパレル会社に勤める父と
地元で保育士をしているシム先生と一緒に住んでいる。

父はいくつかの店舗を任されて大忙しで
シム先生は地元の特別な保育園で虐待などで心に傷を負った子供のケアをしている。

僕はというと

来年の春のデビューに向けて
学校が終わると毎日レッスンに明け暮れる日々。

この田舎からソウルへ通うのは厳しいけれど
夢が叶うんだ。なんてことない。

来春は1人でソウルへ引越して、高校もソウルになる予定。
もう少しの辛抱だ‥‥

僕は小さい頃からずっと父の会社のモデルをしていた。

それが芸能事務所の目にとまり、っていう流れで
僕の夢が叶うことになったんだけれど

デビューにあたり、抹消しなくてはいけない僕の汚点がある。

それは僕が小さい時、嬉しいことがあった時によくやっていたという「うれしいときのおどり」

あの変なクネクネとしたわけのわからないダンスを
父とシム先生は映像として保存し、とても大事にしているようなのだ。

将来バラエティ番組などに出ることになったら
絶対にアレを出されるに違いない。

それは本当に困る。

消してしまうしかない。
少しはマシなものはとっておいてもいいけれど
一番ヒドイやつは消してしまおう。

僕はそう思い、こっそりとその映像を確認した。

それはちょうど10年前、
僕の5歳の誕生日のやつだ。

きちんと全部見た事はないけれど、
たぶん、これが一番ひどい。

だって、父達は2人でよく見ているのがこれだ。

再生を押すと、まずホームパーティのような映像があらわれた。

あー踊ってる踊ってる

身体を変にくねらせて、やたら嬉しそうな僕。
シム先生や叔母さんがお腹を抱えて笑っている。

このパーティで父はいない。
この頃何かトラブルがあって、父は身を潜めていたはずだ。

たぶん、父に会えるということで
僕は踊っているのだろう

そして、踊る僕のそばには
今度同じグループで一緒にデビューすることになったオニュが大声で歌を歌っている。

こんな映像をプロデューサーに見られたら
僕たちのデビューはきっと白紙だ。

これを見て気づいたけれど

これは‥この家ではない。

あ、そうか。
このすぐ後にここへ引越したから。

この家に引越してきた頃の事は
なぜかよく覚えている

なぜって、僕は当時通っていた保育園が大好きで
そこを離れるのが嫌だったからだ。
仲良しのオニュと離れるのも嫌だった。

それでも、シム先生は僕と暮らしたいと言ってくれ
僕と離れたくないと言ってくれた。

僕はそんなシム先生の気持ちが嬉しくて
この家に引っ越すことにした。

よく考えたら、僕はなぜ保育園が好きだったかって
シム先生がいることが大きかったし。

それにシム先生は言った

「繋がっている相手とは、何があってもまた出会えますよ」って。

その通り、オニュとは芸能事務所でばったり会って
本当にびっくりした。

しかも同じグループだなんて!

そしてあの誕生日の翌日
僕とシム先生はこの家に来たんだ

「嫌だったら、戻れるからね」

シム先生はそう言ってくれたけど

僕はこの家に庭があることに驚き、喜び
すぐさま庭に飛び出した。


もりがおにわだなんて

さいこーだ!


たぶん、庭でまたあの「うれしいときのおどり」を
踊ったはずだ。

5歳の僕にとって、その庭はとてつもなく広く
木々の根元には松ぼっくりがたくさん落ちていて

夕暮れまで遊んでいても飽きなかった

ある一本の木の上に、鳥の巣箱があって
その横にシム先生が作ってくれたような松ぼっくりの人形が2つ、仲よさそうに並んでいた。


あのとき、リビングから
潜んでいたはずの父が現れて

僕は靴も脱がずに庭からリビングに駆け込んで
笑顔の父に飛びついた

会いたかった父‥‥

いつも強くて頼もしくて明るくて
たまに厳しい父。

僕は父が大好きだった。
父といれば何も怖くなかった。

その横で涙ぐむシム先生‥

夏休みにはオニュを泊まらせることを条件に
僕は引越しをオーケーした。

僕たちは家族のようで家族ではなく

僕はよくまわりから
「お母さんは命を顧みずあなたを産んだんだから
もっとがんばらないと」

とよく言われていた。

でも父もシム先生も「気にしなくていい」
と言ってくれた。

「お母さんはテミナが可愛くて、テミナと会いたくて自分で産むことを選んだんだよ」

だから、思うように生きていいし
休みたい時は休んでいいんだと。

2人ともそう言ってくれた。

僕たちは1年に1度、母のお墓まいりに行く。

その時は「産んでくれてありがとう」と言いなさいと言われていた。


帰る家がそんな感じでいつも温かく
僕の家族が普通と違う形だったとしても
そんなことはどうでもいいのだ。

父とシム先生がどういう関係なのか
うすうす僕もわかっている。

いつもお世話になっているテファンさんや
シウォンさんを見ていれば

恋愛にはいろんな形があるものだと
それは知っていたし。

でも、2人はいつも仲が良く

たまに父はシム先生に「ユノ!もう底なし!」
と怒られているけれど

父はニヤニヤと笑っているところを見ると
大したケンカではないのだろう

何が底なしなのかは、わからないけれど。

きっと、こういうのを幸せ、というのかもしれない。

ここに引越して間もないころ
僕は誰かに幸せそうだ、と言われたことがある。

家の門の前で父の帰りを待っていた時
1人のお爺さんが僕に微笑みかけた。

その人は優しく大きな瞳をしていて、とても背が高く、それでも笑うとお爺さんなのに可愛かった。

その人は家を楽しそうに眺めていた。

「本当によかった。君がとっても幸せそうで」

「しあわせって?」

「大好きな人と一緒にいられることだよ」

「だったらぼくはしあわせだよ?」

「そうでしょう?」

「だってパパとシムせんせいとくらしてるから」

「最高の幸せだね?」

そしてそのお爺さんも幸せそうに立ち去った。

僕は思い出した。

シム先生から、知らない人と話してはダメだと言われていたんだ。

誰から話かけられたら、すぐにシム先生のところにおいでと。

僕は、急いで家に入ったけれど

シム先生が部屋に見当たらなかった


その時、僕は不思議な体験をした。


ふと窓の外、あの森の庭を見ると

「パパ?‥‥シムせんせい?」

2人にそっくりな2人が庭にいた。


僕は窓に近づくと

庭には雪が降り始めていた


その木々の中で

父に似たその人は、先生に似たその人を抱き上げて
2人で空を見上げていた

抱かれている人は毛布に包まり、その人の肩にしっかりと掴まっていた。

そして幸せそうに微笑み空を見上げ、
細い腕を雪に向かって伸ばしていた

抱き上げるその人は
その細い手の先を見つめて微笑んでいた

雪が降ってきて楽しいのかな?
その時の僕はそんな風に思っていた。


2人とも空を見上げ、笑顔だった

さっきのお爺さんが言ってた

しあわせってやつだ。



だんだん雪が降ってきて
その2人は雪の中に消えていった


今思うと本当に不思議で

もしかしたら夢だったのかと思う。



ふと気づくと、
見ていた動画はもうこの家の景色になっていて

父と出会えたことがうれしくて
またもや「うれしいときのおどり」を踊っている僕が映っている。

しあわせってやつだ。


僕はなんとなく動画を消し去ることなく
そのまま保存した

きっと2人は僕がソウルに行ってしまっても

この家でずっと仲良く暮らしていくのだろう


僕は嫌なことがあったり、

心が疲れたら

この家に戻って羽を休めようと思う。


2人にテミナと呼ばれ
ここまで慈しんで育ててくれて

本当にありがとう


庭を見ると今年はじめての雪が降りはじめていた









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百海です。

「声」からここまで長い間読んでいただいて
本当にありがとうございました。

明日はあとがきになります。

片想い(46)



翌朝、ユノはお粥を作ってくれた。

「熱は下がったみたいだな。喉は?」

「ちょっとイガイガするけど
大丈夫みたい。」

「そっか。じゃあ少し丘の方を散歩するか。
そこまで車で行けるし」

「うん、楽しみ!」

素直に喜ぶチャンミンにユノは目を細める

「チャンミン、そうやって甘えてくれて嬉しいよ」

「え?あ、甘えてるわけじゃないけど…」

「あ!いいんだって!そのまま甘えてて」

チャンミンは恥ずかしくなって下を向いてしまった

その姿もまた可愛くて
ユノは頬が緩みっぱなしだった。

外へ出るとかなり寒い
天気もいまひとつで、余計に寒く感じる

ユノはチャンミンの首に自分のマフラーを巻きつける。

ほとんど顔はマフラーで埋まってしまい
その大きなバンビアイだけが覗いている。

「こんなに巻いたら…」

チャンミンはクスクスと笑う。

「いいんだよ。喉が痛いんだから
温めないと」

こうやって一緒にいるんだから
もう十分に温かいよ、ユノ。

こんな風に2人でいられるなんて
僕は夢をみているみたい。

風邪をひいた僕を何かと構うユノを
じっと見つめた

「チャンミン、そんな目で俺を見ない」

「?」

「車の中でナニかしちゃいそうだ」

「フフフ…いいよ、ナニかしても」

「事故っても知らないからな」



車で丘の上まで行くと
いよいよ雪が降ってきた

「ねぇ、雪!」

「あ、本当だ。降ってきたな」

「これって僕たちの初雪なんだよ!」

「あ、そうだ。いい事ありそうだな。」

「え?幸せになれるんだよ。」

「そうだっけ」


木を何本か切ったようなスペースに
車を停める

「ここだったんだよぉ、気に入ってた家」

ユノはその家を見るなり悔しそうに言った。

白くて瀟洒な一軒家だった。

古そうだけれどスッキリとした造りで
いかにもユノが好みそうな感じ。

「ああ、ここかー残念だったね、ユノ」

「仕方ない。もっと駅に近い便利な方にするかな」

「ちょっと散歩しよ?」

「ああ」

ユノはチャンミンの肩を抱いて、少し歩く

「具合悪くないか?」

「大丈夫!」

「喉は?」

「まだちょっと痛い」

「それ、咳出てくるぞ、きっと」

「そうかな…」

「頭はまだズキズキするのか?」

「………」

「?」

「……」

「チャンミン?」

「………」

「どうした?」


チャンミンは立ち止まり、
真っ直ぐにどこかを見つめていた。

ユノはその視線の先を追うと
それは一軒の家だった。

「オープンハウス SALE」

と出ていて、誰もが中を見れるようになっている。

「チャンミン?」

「あの家…中を一緒に見てもらってもいい?」

「ああ、いいよ」

2人がその家の玄関に近づくと
中から不動産会社の営業が出てきた。

「いらっしゃいませ。ご自由にどうぞ」

歳の頃、50代くらいの感じのいい穏やかな営業だった。

「中を見せてもらうだけなんですけど」

チャンミンが戸惑いながら尋ねる。

「もちろん、いいですよ。
なにか質問がある時は声をかけてくださいね」

あまりしつこそうな感じではなくて助かる。


ユノはチャンミンの後からその家に入り
玄関からリビングに続く短い廊下を歩く

そして、リビングのドアを開けると

目に飛び込んできたのはその借景だった。

庭に面した窓は天井から床までの大きな掃き出し窓となっていて

外の森の景色がまるで大きな1枚の絵のようだ

ユノは足が止まった

同時に息もとまりそうだった

なぜなら

ユノはこの景色を知っていたからだった。

でも、いつ見た景色なのか思い出せない。

チャンミンもこの景色に魅入られてるようで
同じように動けずにいる。

この白い壁も暖炉に似せたつくりの暖房も…

チャンミンは営業の男に問う。

「この家は誰が売りに出しているのですか。」

「ソウルでバーを営んでいる方が
いろいろと身辺整理をされるとかで、お店もこの別荘も売りに出されているようです。」

「古い家ですけど、元々どなたの家なのですか?」

「えっとですね。」

男は手持ちのファイルから、資料を探した。

「えー元々、中小企業を営んでいた方が別荘として新築で買われて、その後、ここを住まいとされていたようですね。」

「寝室へ行くのに、階段がスロープになっているのはどうして?」

「あーそれはですね」

突然、営業の男が気まずそうになる。

「あの…実はご病気のご家族の療養のために
ここはリフォームされているんです」

「病気?」

「えっと、実は…ホスピスのような形で
いらしたはずです」

「ホスピスって…」

「えー、はい。あ、でもですね、
ここで1人亡くなられたとか、そういうのでは、ないんです。」

チャンミンはその話を聞いて
なぜか固く目を閉じた

「なので、決して事故物件ではないのですが
気にされる方も多くて…
いい環境でいい建物なのに、なかなか買い手がつかないんです」

その話を聞いていたユノが、今度は質問した

「その後はどうされたんですか。
残されたオーナーの方」

「えーっとですね。
そのあたりはわかりませんけれど
今のオーナーの方が手に入れられたのは
33年くらい前ですね。」

「33年前…」

「間に弁護士の方が入っているようで、たぶん
身辺整理か遺品整理に今のオーナーの方が譲り受けたのではないでしょうか。」

「以前のオーナーの方は亡くなったってことですか。」

「そこまではわかりませんが。
直接取引されたわけではないようなので
それも考えられますけど」

「だけど…」

「ユノ…」

「……」

「もう、いいよ。ね?」

ユノは不安な表情でチャンミンを見る

振り返ったチャンミンは優しく包み込むように
ユノに微笑みかけた。

ユノはチャンミンに近づいて
優しく後ろから抱きしめた。

営業の男がその様子にびっくりして、少しあたふたとした後、別室へ消えていった。

チャンミンは後ろからユノに抱きすくめられ
2人は大きな窓の外、雪が降りしきる庭を眺めていた。

なんの音もしない、静かな景色

森の木々と降り積もる雪


2人が同時に感じた想いは時を超え
今そこにある現実のようにしっくりと心に染みた。


いつか、誰かが、どこかで

一緒にいられることが幸せだと感じ
満足に物語を終わらせることができたとしても

悲しい運命に抗えなかったその想いを
僕たちが繋いでいけたら

なんでもない普通の毎日を
一緒に過ごす幸せ

ユノはスヨンにそれを教わり、
チャンミンは片想いからそれを学んだ

そして出会った2人の
心の奥深くで感じた絆を

信じて大事にして行きたい

誰よりも愛するユノと
誰よりも大事なチャンミンと

ずっと一緒に…


2人とも言葉を交わしたわけではないのに
そんな想いが心に溢れる


「ねぇ、ユノ」

「わかってるよ」


ユノは優しく微笑み、後ろからチャンミンの耳にキスをして営業に話をしにいった。



チャンミンはユノが仕事に行く時に
そのまま駅から電車に乗って帰ることにした

「ほんとに大丈夫か?」

「今なら、夕方には着くから
その方が身体にいいかも。」

「そうか…」

「だって、いろいろ忙しくなりそうだしね。」

「ああ、そうだな。」

「再来週はテミンくんの誕生日だけど」

「この家でやろう」

「え?まずは、テミンくんにも話をしないと」

「何も言わずにテミンをこの家に連れてくる」

「誰かを呼ぶって言ってたし
それと、あ、これは内緒だけれど、
ユノはソンミさんのプレゼントってことになってるから」

「なるほど。うん、じゃあそんな風に考えとく。
俺はパーティには行かれないって話で終わってるから」

「?」

「俺はこの家で待ってるよ」

「わかった。そういうことだね。
でも、テミンくんがこの家嫌だって言ったら?
転園したくないとか言ったらどうするの?」

「それはその時考える。
でも、そんなこと言わないと思うんだ。
そう思わないか?」

「……」

チャンミンは暫し考える仕草で
指を唇に当てたりしていたけれど
何かふっきれたように笑顔になった。

「うん…そうかもしれないね。
あ、電車来ちゃうからもう行くね」

「気をつけろよ。」

「うん、大丈夫」

「じゃあな」

「連絡するね」


今までモヤモヤとしていたものが
なんだかストンと心に落ちて来て

2人はもう、何も考えまいと思った。





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百海です。

たくさんの方に読んでいただいて
応援してくださって本当にありがとうございます。

明日は最終回となります。
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