FC2ブログ
プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

月の王子さまーあとがきー

月の王子さま

最後までお付き合いくださり
本当にありがとうございました。

このお話は執事とお坊っちゃま、という
以前から書いてみたかった設定でした。

タイトルの通り、チャンミンのモデルはあの
星の王子様です。

優しくて純粋ですが、そのために傷つきやすく
そして無邪気な王子様。

そして、ユノさんですが
実はモデルはあのカン・ムソクなのです。
えーーー!ですよね(~_~;)

元特級戦士で、誠実、護衛の能力に秀でたユノと
朝鮮一の剣士で、忠義心厚いムソク。

ムソクに「キスが上手い設定」をつけたのが
このお話のユノさんなのですが、ムソクとは全然ちがうキャラになるんですねー(~_~;)

やはりムソクはストイックなのかもしれません。

終わり方はユノさんが頑固ぶりを発揮しましたが^ ^
大ドンデン返しや、サプライズ展開はつけず。

でもユノさんは
「やっぱりアメリカ行かない!チャンミンといたい!」とワガママ言うようなキャラではないので、
みんなの力を借りて、無理やり飛行機から降ろさせました^ ^

私はこのお話のユノさんがかなり好きな感じで
書いていてとても楽しかったです。

ジホ兄も本当は複雑な生い立ちで
いろいろある人なのですが今回は悪役に徹していたただきました。

そして…

いつも拍手コメやコメントでたくさん応援してくださってほんとにありがとうございました!

毎日毎日、感想を綴ってくださる読者様。
私がお話を書き始めた頃からずっと読んでいてくださっている読者様。
最近読み始めていただいて、一気読みをしてくださる読者様。
ポチをしてくださる読者様。
本当に感謝しております。

それなのに、中盤からほとんどコメント残せず
申し訳ありません💦

すぐにお返事した方がいいコメントもあるのに
やはり順番にお返事するべき、と思ってしまい
どんどん遅くなってしまう、という有様で💦

皆様のコメントに励まされているというのに
不義理をしています。

ゆっくりめにはなりますが
お返事させてくださいね


そして、今回はデータを消す、というとんでもない事をしてしまい、特にその際はみなさんの心遣いに助けられました。

あと、書きかけのお話を2時間くらいアップしてしまう、というコトもあったりして
反省しきり、でございます💦

毎回なのですが、
非公開の拍手コメには個別のお返事ができない設定で申し訳なく思っています。

勝手な言い分ですが、コメ返しないクセにコメントを楽しみにしていた私をどうか許してください。


そして、次のお話なのですが
たぶん短編になります。

申し訳ありませんが
全ページ鍵をかける予定です(~_~;)

なぜかというと
まず、ハッピーエンドではないのです💦
そして、病んでますし、闇です。
さらに18禁色が濃厚です。

今までの私が書くお話は
最後がハッピーエンドだからと、耐えていただいた部分が多かったと思われますが、

今回は正直、皆様の癒しにはなりにくいお話ではないか?と思われます。
タブーもいろいろ出てきます。
書き方も3人称になります。

たまにはそういうのもいいな、
と思われる方。
実はそういう方が好き、という方

そんな方には是非読んでいただければ
と思います。
なので、無理はされずにスルーするも良し
覗いてみてやめるも良し、
そのままハマっていただくも良し。

皆様それぞれの感覚にお任せしたいと思います。

ですが、2人の愛は汚い世界の中で
自分のことさえ見えない闇の中で
ガラスの破片のように鋭く
そして悲しく綺麗です。

救われるのはそこだけ、です。

実は私的にはハッピーエンドなのですけれど💦
わかりにくくて、すみません💦

そのお話の後になりますが
保育士チャンミンと、やもめパパのユノさんの
お話も予定していますので、それまで待っていただいてもよろしいかと思います。

今度のお話は、コメント欄は最終回のみ
オープンとなりますので
拍手コメのみ開く予定でいます。

誹謗・中傷は凹むので
なるべくしないでくださいませ💦
メンタル弱いので💦

お話が始まるのが10月になってしまうかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

季節の変わり目、まわりで風邪をひいてしまう方が目立っています。

みなさま、どうぞご自愛ください。

いつもいつも、ありがとうございます。


百海(ももみ)



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

月の王子さま(完)

ーーユノsideーー



空港の警備と警察に散々調べられて、
それこそ全裸にされて調べられた

解放されたのは、もう夕暮れだった。

チャンミンがシム家の人間でなければ
俺は今日中に帰れなかっただろう

クタクタになって、スーツケースとともに
建物の外に出た。

そこでは先に出てこれたチャンミンが
笑顔で待っていた。

側に停まっている車には
スヒョク、テミン、そしてなぜかドンジュ様。

「ユノっ!」

ああ、チャンミン…

チャンミンは駆け寄ってきて、俺に飛びついた。

「みんな、店で待ってるんだよ
昨日のお祝いなんだから」

「あ、俺は人数入ってないから」

「追加しておきましたっ!」

「ああ、そうなのか。うん、ありがとうな」

俺はチャンミンの頭を撫でた

「おかえり、ユノ」

ドンジュ様…

「ドンジュ様もおかえりなさい」

「ああ、戻ってきた。
お前らのためだぞ。なーんてさ、よろしくな」


俺たちは車に乗った。

5人でギューギューの車内だったけど
楽しくて、幸せだった。

「僕たち映画みたいだったよねー
ユノったら、滑走路のど真ん中で
僕に激しくキスをしてくれたんだよ!
濃厚なやつ!」

「ひゅーーー!」

「やるなぁ、ユノ!」

「言うなよ、チャンミン!」

「たぶん、100人以上ギャラリーいたけどね」

ワイワイと俺たちを乗せた車はレストランに着いた。

子供達が出迎えてくれた

「ヒョーン!すごかったねー!
ニュースみてたよ!逮捕されたんでしょー」

「されてないよ!ワルモノじゃないからな?」

ふと、顔をあげると、
なんとそこには大旦那様…

俺は固まった…

ミナが察して子供たちを席につくように、予約してあった個室へと促した。

「あ、あの…」

大旦那様は完全なる無表情だった。

「チャンミンは席をはずしなさい
ドンジュもだ」

「お断りします。またお祖父様、ユノを隠すから」
チャンミンが口を尖らす。

「人聞きの悪いことを言うな」

「チャンミン、大丈夫だから、な?」

「でも…」

チャンミンは名残惜しそうな顔をしていたけれど
ドンジュ様に促されて、待合のロビーから離れた。

誰もいない小さなロビーは
俺と大旦那様の2人きり

なんとも気まずい…

でも、ここは俺から話すべきだ。

「大旦那様」

「うむ」

「一旦戻って参りました」

「一旦?」

「飛行機の座席も良い席を用意してくれて
ありがとうございました。」

「チャンミンは…あんな騒ぎを起こしやがって。
うまく収めるのに、どれだけ大変だったか」

「申し訳ございませんでした」

「そんなにユンホがいいのか、チャンミンは。
世間にみっともないとか、考えないのか。」

「私も、チャンミンがいいです」

「は?!お前が冷静な判断をせんで
どうするんだ」

「誰になんと言われようと、私はチャンミンがいいです。もう離れる気はありません。」

「なっ!!!」

「今回の空港騒ぎで、自分の気持ちがはっきりしました。」

「この騒ぎで冷静になるのが普通だろ」

「大旦那様がどんなにチャンミンが可愛いか
よくわかっているつもりです。
だからこそ。」

「だから、なんだ…」

俺は腰を90度に曲げて頭を下げた。


「私にチャンミンをください」


「は?!な、何をバカなことを言ってるんだ!」

俺は頭をあげて、大旦那様の目をまっすぐにみつめた。

「この人生をかけて守ります。
今のような贅沢はさせられないけれど、幸せにする自信はあります。」

「お前…」

「もし、許してくださるなら
チャンミンを連れてアメリカへもう一度
行かせてください」

「チャンミンも?」

「信じていただけないかもしれませんが、
大旦那様への義理を通さずに、私の幸せはないと思っています。」

「ユンホ…」

「ここまで私が成長できたのは
大旦那様のお陰です。
だから、チャンミンのことは諦めなければならないと思っていました。」

「………」

「でも、無理でした。
私はチャンミンと離れることはできません。」

大旦那様の拳が震えている
このまま、殴られるかもしれない…

「アメリカの事業は責任をもって
私が統制をとってみせます。
チャンミンが文化事業を行えるように
配慮もいたします。」

「簡単にくださいって、やるわけないだろう。
犬や猫じゃないんだ」

「でしたら…」

「だったら?」

「奪うまで、です」

「お前!」

「大旦那様への義理が果たせないのは
きっと死ぬまで後悔するとは思いますが」

「………」

「チャンミンの方が大事です」

「………」

「………」

「意外とお前は…」

「はい」

「意外と欲張りなんだな、あれもこれもと」

「いえ、チャンミンだけで結構です」

「わしへの義理はいいというのか?」

「欲張るな、とおっしゃるのなら
チャンミンだけがほしいです」

「飴かチョコかと聞いておるのでないんだ!」

「チャンミンが…いいです」

「チャンミン、チャンミンって…」

「申しわけありません」

「悪いなんて思ってないくせに」

「思っておりません」

「はーーーーっ」

大旦那様はうなだれた。

「すべては私の理解を超えている」

大旦那様は静かにため息をついた

「はい」

「それも時代なのか…」

「………」

遠くで子供たちのはしゃぐ声がして
この部屋は静寂につつまれていた。


「そんなにいいなら、連れてけ」

「大旦那様…」

「あんなやついらん。
この家にまったく役にたたない…」

「………」

「だがな。世間の風当たりが強いのは
お前じゃなくチャンミンなんだぞ」

「わかっております。」

「守りきれるのか?」

「守ります。」

「それがウソだったら殺すぞ」

「はい」

「だったら、さっさとアメリカへ連れてけ」

「ありがとうございます!」

「もう私は帰る」

俺は頭を深く下げた。


許しをもらえた…

もうチャンミンと離れなくていいんだ…

俺はその幸せに震えた

大旦那様がロビーのドアを開けると

なんとそこにはチャンミンが
涙でグシャグシャの顔で立っていた

「チャンミン!」

「お、お祖父さま…」

「な、なんだ、どうした?」

チャンミンがクシャッと泣き顔で笑おうとする

「ありがとう、お祖父さま…」

チャンミンは大旦那様に抱きついた

「お、おいおい…」

大旦那様は大きなチャンミンに
抱きつかれ倒れそうだ。

「困ったやつだな…」

それでも、大旦那様は
孫のワガママを聞いてやる、おじいちゃんの顔だった。

「チャンミン…」

「なに?…うっ…」

抱きついたまま、しゃくりあげてるチャンミン。

「ユノは頑固だぞ?」

「知ってる」

「ついていけるか?」

「うん…飛行機だってとめたんだから」

「そうか…」

大旦那様はチャンミンの背中をぽんぽんと優しくたたく。

「ユノはあんなこと言うけど
幸せにしてもらおうなんて思うな」

「ん?」

「お前も、ユノを幸せにしてやるんだぞ」

「うん!」

またチャンミンは大旦那様をギュッと抱きしめた。

「く、くるしい…」

「あ!ごめん!おじいさま!」

「帰ろうと思ったがな、私は少し子供たちと食事することにした」

ミナが来た

「大旦那様、こちらへどうぞ
みんな待ってますよ」

大旦那様を見送ったチャンミンが
振り返って俺を見つめた

「ユノ、カッコよかった…
僕を守りますって…奪うって…」

「盗み聴きは良くないな」

「録音しておけばよかった!」

「チャンミン」

「なに?」

「アメリカに俺と来るか?」

「うん!」


チャンミンは笑った

世界で1番可愛い笑顔。

俺だけの宝物だ

「さぁ、僕たちもご馳走を食べようよ」

「ああ」

連れ立って、ロビーを出ると
店の玄関にドンジュ様がいた。

これから、店を出ようとしている

「ドンジュお兄さま、もう帰るの?」

「ああ、忙しいんだ、俺」

「なんで?」

「スニを探し出して、屋敷に連れてくる」

「え?!」

「俺もスニを守るよ。今度は絶対だ。
そして、シム家の跡を継ぐから。
感謝しろよ、お前ら」

爽やかな笑顔でドンジュ様は
店をでた。

やっぱり、ドンジュ様は当主にふさわしい。

きっとスニもドンジュ様が忘れられずにいるだろう。

そして、テミンが部屋に案内に来てくれた

テミンはチャンミンの顔を笑顔でみつめた

「おじいちゃんは、きっと喜んでいると思います」

「僕もそう思ってる。きっとそうだよね?」

「はい」

部屋に入ると、様々なパスタが好きなだけ食べれるようにブッフェの形式になっていて
デザートやチキンなどもたくさんあった。

そんな中で意外に大旦那様は子供たちに人気で
たくさん皿に盛られては驚きながらも
喜んでいるようだった。

いろんなことがあった1日だった

だけど、俺たちはまだ始まったばかりだ。

そんな俺たちを祝福するように月明かりが照らしていた…


☆☆☆☆☆☆☆


「ユノー!1番前の座席だった。」

「ああ、足が伸ばせるな」

「でも、このシートは後ろの席も足が伸ばせるんだよ?」

「そっか。でもなんとなくさ」

「開放感がね?」

機長のアナウンスが聞こえる。

シアトルまでの到着時間を知らせていた。

シートに座ると、乗務員が新聞を持ってきてくれた。

あ、この間の女の子だ

彼女も気づいたようで「あ!」と小さく声をあげた。

「よ、ようこそ」

「あ、どうも」

またこの子は顔が真っ赤だ。

「あ、あのなにか必要なものがありましたら
お、お持ちしますので」

「ありがとう」

「は、はい。では、快適な旅を」

彼女はあたふたと席を離れた

あんなことがあったから
俺が乗るのいやだったかな

「ユノ…」

「ん?」

「今のCA、知ってるの?」

「ほら、この間の。
あの時、乗務してた子」

「ふーん、そんなこと、覚えてるんだ」

「うん、なんとなくね
印象に残ってて」

「………」

さっきの子が毛布を持ってきてくれた。

「もしよろしかったら…」

突然何を思ったのか、チャンミンが身を乗り出して俺に口づけた。

乗務員の子は固まってしまい
毛布を落としてしまった。

「あー、ありがと。毛布もらっておきますね」

俺の頬をその片手で包みながら
振り返って明るく答えるチャンミン。

「は…はい」

呆然と去っていく彼女

「見せつけちゃった」
意地悪そうに微笑むチャンミン。

「意地悪だなぁ。」

「けん制って言ってほしいな」

口を尖らすその顔が可愛くてたまらない

今度は俺がチャンミンの顎をすくいあげてキスをした。
「ユノ…ほんとに大好き」

「アメリカに着いたら今ほど贅沢できないぞ」

「ユノがいてくれたら、それでもうお腹いっぱい」

「なんだそれ」

浮かれる俺たちを乗せた飛行機。
今日は無事に滑走路から飛び立った




にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

「月の王子さま」最後まで読んでいただき
本当にありがとうございました。
明日はあとがき、と次回のお話について、となります。
よろしかったら、読んでみてください。

月の王子さま(41)

ーーユノsideーー



荷物を預けてしまうと、特にすることもなく
俺は免税店をフラフラと見て回った。

心にズッシリと重い石を抱えたようなこの気分を
どうにかしたかったけれど、なす術もなく…

ふと、あるブースの置物に目が止まった。

そこは陶器でできた、小さなオブジェを売る店のようで、ところ狭しと可愛らしい置物が並んでいる。

その中に童話の「星の王子様」の登場人物を集めたコーナーがあり

小さなクリスタルの台に主人公の王子様が
ちょこんと乗っていた。

昔読んだな、これ。

俺は自然と笑みがこぼれた。

たしか…ワガママなバラかなにかに翻弄されたりして、でもとても純粋で、愛情たっぷりなキャラだったような気がする。

なんだか、チャンミンに似てるな

見境なく相手に愛情を注ごうとするところとか。
純粋で、正直で。

どうしてるだろうな、チャンミン。

俺が留学をすると、大旦那様から説明を受けたんだろう。
黙って行ったことを怒ってるかな。

ごめんな…

今夜はみんなでパスタを食べて打ち上げパーティだな。

デザートの追加注文は昨日済ませたし。

忘れようとしていた悲しみが
また心に蘇ってしまいそうだった。


オブジェの横に小さなカードが差してあるのに気づいた。
これはカードスタンドになっているのか。

" 大切なことは、目には見えないんだよ "

え?

カードに書かれた言葉は
物語に出てきた言葉だ。

なぜかその言葉に心が震えた。
落ち着かせたと思った心がまた騒ぎ出しそうで

俺はその店の前から足早に去った。


飛行機は時間通りに離陸しそうだった。

ゲートに並び、読み取り機にチケットをかざして
ふと顔をあげると、係の女の子がポッと顔を赤らめた。

「ようこそ」とニッコリと微笑まれ
俺も微笑みを返すと、そのコは下を向いてしまった。

なんだろな。

座席は1番前の席だった。
前に誰もいないので足を伸ばしてゆっくりできそうだ。

大旦那様の、気遣いなのかな。

棚に収納する荷物もなく、俺の手荷物は足元で収まった。

乗務員の女の子が俺に新聞を持ってきてくれた。

あ、さっきの子だ。

「ありがとう」
そうお礼を言うと、その子はまたも赤くなり
「いえ、良い旅を」と照れたように言う。

俺の後ろの席の誰かが
「こちらにも新聞ください」と声をかけると
その乗務員があわてて新聞を渡していた。

俺はそんなに新聞を読みたそうな顔をしていたのかな?

飛行機はアナウンスと救命胴衣の説明の後、
ゆっくりと動き出した。

窓の外はまだ空港の景色だった。

今は何も考えまい。

後悔やら、寂しさを感じるなら
飛び立ってからにしよう。

今、そんな気持ちをぶり返したら
俺はさっきの子に「降ろしてくれ」と言いかねない。

大きくゆっくりと飛行機は滑走路をターンする。
これから真っ直ぐに進んでスピードをつけて
飛び立つのだろう。

俺は目を閉じた。

何やら、騒がしい

目を開けると、さっきまで姿のなかった
男の乗務員がいた。

乗務員の顔に緊張の色が走り
少し、慌ただしい動きがある。

何かあったのだろうか。

その異様さに、他の乗客も気づきだした。

やがて、飛行機が止まった。

そのうち、乗務員たちが俺の顔を見るようになり
コソコソと話し出した。

俺に何かあるのか?

やがて、さっきの子が来て
俺の隣の乗客に席を代わるよう話していた。

「あの」

とうとう俺はその子に話しかけた。

するとその子はビクッとして俺を見た。

「なんかさ、えらく感じ悪いんだけど、この飛行機」

「あっあの…」

「俺、なんかあった?」

隣の乗客が席を離れると
その子は俺に近づいてそっと囁いた。

「チョン・ユンホさん、ですよね」

「そうだよ?」

「正直申し上げて、私は信じがたいのですけれど」

「うん」

俺に話しかけるその子の後ろで
何人もの乗務員が固唾を呑んでその様子を
見つめている。

「一度飛行機を降りてもらわなければなりません」

「え?どうして?」

「お荷物に問題があるようなのです。」

「これに?」

俺は足元のバッグを指差した。

「はい。申し訳ありません。
降りるのがいやでしたら、もうしばらく
ここでお待ちください」

「ここで開けようか?」

「それは!ダメです!」

後ろの乗務員も突然あわてだした。

「降りるって、ここ滑走路のど真ん中でしょ?」

「はい、この機の下にお迎えが参りますので
お手数ですが、ご協力くださいますか?」

「いいけど」

俺、この中に何か入ってたかな。

やがて機長からのアナウンスが流れ
飛行機の出発が遅れることが知らされた。

俺はなにかとんでもない迷惑をかけているのか?
なんで?!

座席を立つと、男の乗務員が外と連絡をとっている声がした。

「いやいや、素直に降りると言っていますよ?」

なに?

「なんの話しだ?」

俺は乗務員に詰め寄った。

すると一斉に乗務員の動きが止まった。

みんな一様に怯えた顔をしている。


無線の中から「刺激するなよ!準備できたから」
そう話すのが聞こえた。

「なんの準備?」

するとさっきの子が俺の前へ出てきた。

「お調べする準備です。こちらです。」

なにやら乗客も騒ぎ出している。

飛行機のドアが開いて、俺は驚いた

タラップの下には何台もの消防車と、救急車、
そしてパトカーまで出ていた。

「どういうことなんだ?!」

すると滑走路の向こうから、
何人かの警備員に囲まれて…

え…

チャンミンじゃないか?!

チャンミンがこちらに歩いてくる。

どうして?

俺に気づいたチャンミンが満面の笑みで
駆け寄ってきた。


危ない!
ここは滑走路なんだぞ!

その時俺の頭にあったのは…
とにかくチャンミンが危ないということだけだった

消防車はまだ到着途中で走っていたし
何より他の飛行機に轢かれてしまったりしたら、と

俺はタラップを駆け下りた

「危ない!止まれ!チャンミン!」

するとタラップの下で20人くらいの警備員に押さえつけられた。

「離せっ!チャンミンを止めてくれっ!」

俺がもがけばもがくほど、
俺を取り囲む人数が増える

なんなんだよっ!!

チャンミンがそんな俺を見て、
泣き出しそうな顔になった

「やめてーーーーー!!!
ユノを離してーーーーー!!!」

駆け寄ってきたチャンミン

チャンミンは警備員を叩きまくり
大騒ぎをしている

後から何人もの警官がかけつける

「どっちがチョン・ユンホなんだ?!」

押さえつけられた俺の頭上でそんな声がしていた。

なんだか気を失いそうに頭がぼーっとしてきたかと思ったら

ふいに腕をとられて、立ち上がらされた

よろよろと立ち上がると
目の前には泣きはらしたチャンミンの顔


「チャンミン…」

「ユノっ!!!」

チャンミンは俺をしっかりと抱きしめた…

「お前…危ないよ…こんなところで走ったらさ」

「うっ…うっ…ユノ…」

あれ?

でもなんでチャンミンがここにいるんだろう

「チャンミン、どうしてここにいるんだ?」

「ユノのばかっ!!!」

俺を抱きしめていた腕を解いて
今度は俺を叩き出した

またギャラリーが慌て出す

「早くチョン・ユンホを落ち着かせるんだ!」

まわりがチャンミンを取り押さえようとする

「待って!チョン・ユンホは俺ですから!」

興奮するチャンミンに、まわりの警官たちは
困惑している

今度は俺が、チャンミンをしっかりと抱きしめた

「なんでなにも言わずに行っちゃうんだよっ!!」

泣きじゃくるチャンミン。

「ごめんな…」

「一緒にいようって言ったのユノでしょう?」

「うん…ごめん…」

「もう!なのにこんなことしたら、ダメじゃん!」

「うん…ほんとにごめん…」

俺は強くチャンミンを抱きしめた

愛おしいチャンミン

こんなに好きなのに
俺は離れようとしたなんて…

愛おしくてたまらない

抑えていた気持ちが溢れ出てとまらない

俺はチャンミンの頬を両手で包むと
顔を傾け、深くくちづけた。

警備員や警官の動きが止まった。

完全に固まってしまったギャラリーなんて
俺たちには関係なかった。


俺はバカだったね
離れて生きていけるわけないのにさ

愛してる…
ほんとにごめん…




にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

明日は最終回になります。

月の王子さま(40)

ーーチャンミンsideーー


僕は、遊園地の観覧車にきていた。

とは言っても、いつものアジョシには連絡をしていなかったから
こうやって閉園した門の前で、暗い観覧車を見上げている。

僕は何かあると、あの観覧車に乗って
いつも夜景を見おろしていたけれど

こうやって、下から見上げると
とても不思議な感じだ。

いかに、僕が人と違う生活をし、独特な人生なのか
わかるような気がする。

生まれた時から背負っているのだ

代々続くその名前。血。名誉。

僕の役割が、お祖父様の言うそれが
どういうもので、どれだけ特別なのか

こうやって、下から見上げてみると
わかるような気がする。

だけど…

どんなに立派なものでも、大切なものでも

ユノの前では、すべて色褪せ、チリと化す。

ユノを愛する僕の前ではなんの意味も持たない。

きっと僕は堪え性のない、我儘なトリョンニム。

自分の思い通りにいかなければ
気がすまないのだ。



車のエンジンを止める音が背中に聞こえた。

バタバタとドアが開き
スヒョクとお祖父様、ジホお兄さまが走り寄ってきた。

「チャンミン!」

その声に僕はゆっくりと振り向いた。

今夜は満月で…
月は僕らを明るく照らしてくれている。


「お祖父様…」

「チャンミン…バカなことを考えるな。
お前な…まだ若いんだ。これからだ。
ユンホがいいやつなのは、私も認める。
だがな…」

「お祖父様…」

「お前のユンホに対する気持ちは
ただの憧れなんだ…」

「お祖父様は僕に何を求めているの」

「え?」

「ユノがね、教えてくれたんだ
僕と本当に仲良くなりたい人は、僕に何も求めない
欲しがるのは僕の心だけって」

「チャンミン…」

「僕のまわりにはね、僕の持ってるものだけが欲しい人がたくさんいたんだ。
僕、全然気づかなくて…」

「………」

「ユノはね…何も欲しがらなかった。
逆にユノは僕といるといつも辛そうだった。
僕が笑う度、哀しそうな顔をしていた…」

「………」

「なんでだか…わかる?」

喉の奥から熱い塊がこみ上げてきた


僕はユノを思い出して泣いた…
おでこに片手をあてて、ぎゅっと目を閉じて

あふれる涙が次々とアスファルトに落ちていった

「時間がどんどん過ぎていくからなんだよ
僕と一緒にいれる時間が…なくなっちゃうから

ユノは言ったんだ…
先の事を考えるのはやめるって…

ユノはわかってた…
いつかこうやって引き離されてしまうって

追い詰められていたんだ。
お祖父様への義理と、僕を思ってくれる気持ちと」

そして、僕と一緒にいたいっていう
ユノの夢と…

「僕は…何にも応えてあげられなかった。
ユノはどんなにつらかったか」

「チャンミン…お前たち…」

「こんな悲しい思いをして守る伝統にどんな意味があるのか、僕にはわからないよ…」

「………」

「教えてよ…お祖父様…
肖像画にある僕のご先祖様たちは
何を守りたかったの…
こんなにユノを想う僕の気持ちを
捨ててまで守るものってなに?」

「誰か…教えてよ…」


僕は真夜中の遊園地で泣き崩れた


「ユノに会いたい…

ユノが大好きなんだ…

他にはなんにもいらない…」


会わせて…お願い…

ユノに会いたい…


ひとしきり泣き、みんなはただ黙っていた。

それでも…
結局僕はおとなしく屋敷にもどった。

車の中ではお祖父様もジホお兄さまも黙っていた。

僕は唇を真一文字に結び、一点を見つめていた。

屋敷に着くと誰とも口をきかず
まっすぐにドンジュお兄さまの部屋へ向かった。

もう明け方になろうというのに
部屋のドアを開けたら、お兄さまはテミンと話し込んでいた。

「チャンミン…」

「パソコン借りますね」

「あ、ああ…」

「ジホお兄さまが雑誌社への口止料とヒョナ嬢への慰謝料とかで、大金を支払ったと言ってるけど
ウソくさいです」


「だな。今それを話してたところだ。
ジホの口座を確認したいけど、何しろパスワードが」

「僕ならきっとパスワードを探せる」

「チャンミン…探せるか?!」

窓の外は白々とする頃、僕はジホお兄さまの口座を確認した。

お祖父様から大金が振り込まれたあと、
そのまま口座に残っていて、ちょこちょこと使われている。

大きくお金が動いた様子がまるでない。

僕はそのお金をすべて、教会の寄付用口座に移した。

そして朝になってヒョナ嬢に電話をした。
確認したかったからだ。

「あら、おひさしぶりです、チャンミン」

「ヒョナ嬢はお元気ですか?
お変わりなく?」

「ええ、実はね、私結婚することになって。
問題ないわよね?」

「おめでとうございます。
よかったですね。なんの問題もありませんよ」

「そうよね?チャンミンはユノさんだものね」

「知ってらしたんですか?」

「わかりますよ、あんなにデレデレしていたら」

「そうですか、お恥ずかしい」

「そんなの、今やなんの不思議もないですよ?
私のまわりにも、外国で式をあげるそういったカップルがいっぱいいますよ」

「そうですか、いつか参考にさせてもらおうかな」

「是非」

やっぱり慰謝料なんか請求した様子なんてない。


僕とドンジュお兄さまとテミンで朝食の広間に下りた。

テミンが給仕をし、僕たちとお祖父様が席に着こうとした時

ジホお兄さまがすごい勢いで広間に走り込んできた。

「ジホ!朝からなんだ!落ち着きなさい」

叱るお祖父様と
大きく肩で息をするお兄さま…

「チャンミン…俺の…金を…どうした?」

「慰謝料と口止料のことですか?」

「うっ…」

「支払われる様子がないので、寄付させていただきました。」

「なんの話だ?」

「お祖父様、ジホお兄さまはすごいんですよ
教会にたくさん寄付されたんです」

「ほほぅ」

「ね、お兄さま。これで教会の子供達も今年は楽しいクリスマスを迎えられると思います」

「………」

何も言えないジホお兄さまの顔をみて、
テミンが薄っすらと微笑んだ。

ユノを脅した罰だ。

昨日あれからテミンにいろんな裏話を聞いた。

ユノはいろんな事を1人で背負って行ってしまったんだね…

だけど…


「お祖父様。話の続きですが」

「なんの話だっただろうか?」

「それでユノはどこにいるんです?」

「お、お前はまだそんなこと…」

「僕の気持ちは昨夜、お話しました。
ユノに会いたいんです。」

「………」

「そもそも、僕の執事なのに
お祖父様が指示を出すなんて可笑しな話です。
ユノの責任は僕にあるんです」

お祖父様は、フォークをおいて、
ため息をついた

「チャンミン…」

「なんですか?」


「ユノの行き先はアメリカだ。今日の昼前には飛ぶ」

「え?!まだ国内にいるんですかっ?!」

「昨夜は空港のホテルに泊まらせた。
飛行機はシアトル行きのエアアメリカだ。」

僕は大きな音を立てて席を立った

行かなきゃ!

「後は自分で探せ。そんなに好きだと豪語するなら」

「好きですよ!探します!探してみせます!」

僕が部屋を出て行こうとすると
なぜかドンジュお兄さまとテミンも一緒に走り出てきた。

「ホテルより直接空港へ行った方が早い!」

ドンジュお兄さまが僕の腕を掴んで言った。

「間に合わないかもしれません。
あと1時間で離陸です」

テミンは調べてくれたのか…

「だって、昼前に発つって…」

「でも、今日エアアメリカでシアトル行きって
これと夜遅い便しかございません。」

「とりあえず行こう!
さあ、急ぐぞ!」

玄関を出た僕たちに、スヒョクが駆け寄ってきた
「乗ってください!空港へお連れします!」

「え?あ…でも…」

スヒョクはそんなに運転が上手くない
面と向かって言えないけど…

「全力で運転いたします!」

「スヒョク…」

「お手伝い…させてください!」

「わかった!じゃあお願いするよ」

きっとユノだったら
そう言ってスヒョクに任せただろう。

応援しようとしてくれるスヒョクの気持ちが嬉しかった…

僕たちは空港に向けて出発した。

ただ飛び出してきてしまって
何をどうしたらいいのか正直わからない。

道路は渋滞していた。

高速道路を降りて、一般道路に降りても
混雑はあまりかわらなかった。

僕はヤキモキしていた。

ドンジュお兄さまが、僕の手を握った。

「落ち着け、チャンミン
大丈夫、きっと会えるさ」

「うん…」

ようやく、滑走路の飛行機がいくつか見えてきて
空港に近づいてきた。

スヒョクは空港のゲートに1番近い場所で降ろしてくれた。

「駐車場でお帰りをお待ちしています!
さあ、急いで」

「ありがとう!スヒョク!」

僕は走った。

混雑している空港の中を
人の波をかき分け、一生懸命に走った。

ドンジュお兄さまとテミンもあとについて
走ってきてくれた。

とりあえずカウンターに行き、
受付をしている女性につかみかかるように聞いた

「あの!シアトル行きの便に乗りたいんです。
一枚お願いします!パスポートは今ありませんが
僕をご存知ではないですか?!
シム・チャンミンです!」

追いついたドンジュ様が
僕の腕をつかんだ。

「は?お前も行くのか?」

「だって、どこかで待ってたって会えるかわからないでしょう?だったら…」

「お客様、申し訳ございませんが
その便はもう、滑走路で離陸準備にはいっております…」

「ファーストクラスでもなんでもいいです。
滑走路から乗れるサービスのあるチケットをお願いします。」

「あ…そういったサービスはございません…
次は夕方の便になりますので、そちらでしたら」

「それでは意味がないんです!
シアトルについてからどこに行くのかわからない
ここでつかまえておかないと」

「そう言われましても…もう滑走路にある飛行機をお止めすることはできません」

「では、チョン・ユンホという人がその便に乗ってるかと思います!
その人を降ろしてください!」

「ですから…飛行機はもう…」

「あのですね、」

ドンジュお兄さまが受付の女性に食ってかかった

「チョン・ユンホは危険なんです。
荷物検査でひっかかりませんでしたか?」

「は?といいますと?」

僕は身を乗り出して囁く

「危険物を持ってます。
一見穏やかに見えますが、刺激すると興奮して
何をしだすかわかりません。
僕なら、彼をよく知ってるので収めることができます。」

「少々お待ちください!
もう少しお話を聞かせていただけますか?」

カウンターの中がザワザワしだした。

「あれが爆発したりしたら…」
テミンがさらに騒ぎに拍車をかける

「爆発物なんですね?!」

スタッフは電話や無線であちこちに連絡をしている

早く早く!

「確認できました!チョン・ユンホという乗客が乗っています」

「ああ!もうどうにかしないと!」


カウンターからスーツを着た男性が現れて
慌てた様子でこちらへ来た。

「シム・チャンミンさん?」

「はい、そうです!」

「あなたなら、刺激せずにチョン・ユンホを飛行機から下ろせるのですね?!」

「はい!彼は私の言うことしかききません!」

「では、こちらへ来てください!」

ドンジュお兄さまが僕の肩をぽんと叩いた

「がんばれよ!」

振り向くと
ドンジュお兄さまとテミンがニコニコしながら
手を振っていた。

ありがとう

力になってくれて
ほんとうにありがとう

僕はニヤッと笑ってそれに応えた



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

月の王子さま(39)

ーーテミンsideーー


教会で、子供達とリサイタルの映像をリアルタイムで観ていた。

僕もスヒョクもミナも
ユノヒョンがいなくなってしまうことを聞いていた。

最後のチャンミン様の「ひまわりの約束」に
ミナは泣いていた。

2人にはどんな日々があったのだろう

誰も計り知る事のできない
幸せがあったに違いない。

それを奪う権利が誰にあるのだろう

チャンミン様が穏やかにギターを弾きながら歌うのを見て、僕はそう思った。

本家の大旦那様もチャンミン様を迎えに行きたいというので、
スヒョクの運転する車に乗せて会場まで行った。

スヒョクは大旦那様を乗せている、ということで
たいそう緊張していたようだけれど

僕は黙ったまま口をきかなかった。

気のまわらない執事だと思われたかもしれないけど
このジジィと話す気に、今はなれない。

車の中で大旦那様はずっとブツクサ言っていた。

ユンホの方が運転が上手いだの
ユンホならこんなところ、30分で着くだなどと。

スヒョクは額に汗をびっしょりとかいていた。

ドンジュ様も突然戻ってきたとあって
動揺もしているのだろうけれど

とにかく煩かった。

僕は本家を出るとき
ドンジュ様につかまった。

「テミン、ユノは?」

「あ…チャンミン様のリサイタルへ」

「そのあとユノはどこへ行くんだ?」

「ど、どこへって…打ち上げじゃないですか?」

「ウソつけ。ユノと連絡つかないぞ」

「だからリサイタルに…」

「ばーか。調べたらスマホが解約されてるってさ
お前、何を知ってるんだ」

ドンジュ様には勝てないんだ…いっつも。

でもすべてを話しても
「ふーん」と大して気にも留めない様子だった。

「ま、後はチャンミン次第だなー」

なんだ、何か助け舟でもだしてくれると思ったのに。
自分の駆け落ちの時、あれだけユノヒョンに助けてもらったのに、なんだよ。


それにしてもユノヒョンは今、どこにいるんだろう。


会場に着いて、僕とスヒョクが両手を前に揃えて
チャンミン様とソンヨクを待った。

会場の中から、笑顔で出てきた2人。
音楽家の方々と笑顔で会話をかわして、
挨拶をしていた。

いろいろうまくいったのかな。

ふと、チャンミン様が笑顔のまま
顔を上げて、僕たちを見た。

僕とスヒョクを見て、その笑顔が消えた。
まるで月に雲がかかるように笑顔か消えた。

悟ったのだろう…
ユノがなぜここにいないのか…

チャンミン様は立ち止まってしまい、
呆然とした真顔で僕たちを見た。

音楽家の方達に挨拶をすることもできず
そのまま、立ちつくしていた。

ソンヨクはそんなチャンミン様を不思議そうに見上げた。

チャンミン様が意を決したように
まっすぐにこちらへ向かってきた

あーもう。すっごくイヤな役なんですけど。

「お待ちしておりました」

「ユノは?」

即座に聞かれた…

「………」

「ユノはどうしたと聞いてるんです」

「あの…」

「聞こえませんか?ユノはどうしましたか?」

「チャンミン、落ち着け」

車の中から大旦那様が声をかけた。

ゆっくりと大旦那様が車から出てきた。

「ユノはな、留学させた。
シム家のためにな。」

「は?留学?」

「そうだ。決まっておったんだがな、
リサイタル前に執事が変わるとなると
お前も集中できないのではないかと、考慮したんだ。」

「考慮ってなんの考慮ですか?」

「お前を動揺させないための考慮だ」

「留学なんかで動揺しませんよ?」

「そんなこともないだろう」

「動揺する時はユノと引き離される時です。
まさか引き離そうなんてお考えではないですよね?」

チャンミン様の目尻がつり上がっている。

「お前まで、そんな事を言うとは何事だっ!」

「お前まで??ユノもそう言ったんですか?
ユノと何を話したんです?」

「お前は憧れとか、そういったものを
ユノに逆手にとられていいようにされたんだ!」

会場の車寄せで大げんかをする2人に
行く人々が何事かと見て通る。

「は?!何か勘違いされてませんか?
いいようにされたって、
嫌がるユノにキスをせまったのは僕ですからっ!」

「なっ!!!」

すごいセリフにとうとう立ち止まる人も出てきた。

2人ともソンヨクの存在を忘れていないか。

目をまん丸にして、大旦那様とチャンミン様を見比べているソンヨク。

「あの…公衆の面前ですし、
ソンヨクもいますので…」

僕はやっと口を挟めた

「とりあえず、チャンミンは屋敷に来いっ!
お前達が端から見たらどういうことなのか
見せてやる」

「どうぞ見せてください。
楽しみですねっ!」

とりあえず興奮している2人とソンヨクを車に促して
スヒョクは大急ぎで車を出した。

ソンヨクを途中教会で降ろした。

可愛く挨拶をするソンヨクに大旦那様が話しかけた

「ソンヨク?だな。今日は立派だったそうじゃないか。ご褒美に明日はフランス料理のコースをこの私がご馳走しよう。デザートもつけてやる」

「え?」ソンヨクが驚いている

「何言ってるんですかお祖父様!
子供がコース料理なんか喜ぶわけないじゃないですか。
明日は教会のみんなでパスタを食べに行くんですよ
ユノが予約してくれたんです!」


そこまで言って、チャンミン様は唇を噛んだ。


「ユノが…みんなでお祝いしようって
予約してくれたんです…」

「そうなの、おじいさん。
バスケのヒョンが連れていってくれるって約束したんだ。」

「ふん、残念ながら、ユンホは来れないぞ」

「このおじいちゃんがユノを隠したんだからね」

「なっ!!!」

「お2人とも、子供の前ですので。
ソンヨクくん、今日はぐっすりおやすみ」

「うん、おやすみなさい」

ソンヨクがいなくなると
今度は大旦那様とチャンミン様は
まったく口をきかなくなった。

気まずいムードの中、
車は本家へ到着した。

広間を通り抜ける時、ドンジュ様がチャンミンに声をかけた。

「おー!チャンミン!」

「ドンジュお兄さま!戻ってきてくれたの?!」

「おーよろしくな?で、ユノは?」

「お祖父様が隠したの」

「何を人聞きの悪い。
留学したんだよ。シム家のためにな」

「シム家のために、ね」

ドンジュ様はイヤミたっぷりに言うと
口笛を吹きながら歩いて行った。

「まったくどいつもこいつも。
テミン、ジホに私の部屋へ写真を持ってこさせてくれ」

「ジホお兄さまが何か関係してるの?」

僕はチャンミン様の横を通り過ぎるフリをして
そっとささやいた。

「ジホ様が脅したんです。
これからお見せするお2人の写真で」

「………」

「やぁ、チャンミンじゃないか。
リサイタルの成功おめでとう」

得意げな顔で広間に降りてきたジホ様は
数十枚に及ぶ写真を大理石のテーブルの上に広げた。

そこには、ユノヒョンとチャンミン様の仲睦まじい…また仲睦まじすぎる姿もたくさんあって。

思わず頬が熱くなってしまう////////

「チャンミン、よく見なさい
お前たちはこんな恥ずかしい姿を晒してたんだ。
男同士で寒気がする」

チャンミン様はその写真を見て、無言になった。

しばらく数枚の写真を手に取り
眺めていた。

やがて、ぽつりぽつりと語り始めた

「僕はユノにキスをされる時
こんなに幸せそうな顔をしてるんだね…」

ジホ様と大旦那様がびっくりして
チャンミン様を見つめた。

チャンミン様の目にみるみる涙が溜まっていく。

ユノヒョンがチャンミン様の部屋の入り口で
その柔らかそうな髪を触っている写真。
チャンミン様はくすぐったそうに笑っている。

その写真の上にポタリと涙が落ちた。

「いつもこうやって、僕のワガママを聞いてくれて
髪を乾かしてくれて…」


ユノヒョンが庭園からチャンミン様の手を引いて
連れ出そうとしている写真を、そっと指で触れるチャンミン様。

写真の中のユノヒョンとチャンミン様が夏の太陽の下、満面の笑みを浮かべている

「この時、ユノがとってもきれいな場所に連れて行ってくれたんだ。僕はそこがどこか、死んでもお祖父様には言わないよ。」

泣きながらフフッと笑うチャンミン様が悲しい。

なんで…こんな綺麗な2人が。
そう思うと、悲しみなのか怒りなのか
よくわからない感情が湧いてきた。

「ユノヒョンもとっても幸せそうですね」

僕がそう言うと
大旦那様、ジホ様が同時に驚いて僕を見た。

「テミン!お前はなんてことを言うんだっ!」

「失礼いたしました。」

でも僕は…ほんとにそう思うんだ。


「ユノに会いたい…」

下を向く、チャンミン様の肩が震える

「ユノに…会いたいよ…」

やがて、小さな嗚咽が聞こえてきて
広げた写真の上にポロポロとチャンミン様の涙が落ちた。

大旦那様は息をしてないかのように
固まっていた。

ジホだけが大きなため息をついた

「チャンミン、その戯れで
大旦那様は大変な散財をされているんだよ」

「うっうっ…」

「雑誌社への口止め料だとか、ヒョナ嬢への慰謝料だとか、大変なんだ」

「やめんか!ジホ!
チャンミン、正直言ってユノはこういうほとぼりを冷ますために留学したんだ。
きっと立派になって帰ってくるさ
だから、チャンミンもユノに負けないように…」


そこで、チャンミン様が泣くのをやめて固まった。

そしてゆっくり顔をあげると
まるで魂の抜けた人形のような無表情のチャンミン様がぽつりと呟いた。

「いつ?」

「は?」

「ユノはいつ帰ってくるの?」

「そ、それは…」

「帰す気なんてないんでしょう?」

「………」

みんなが顔を見合わせた

なんて答えるつもりなんだ…

「これで失礼します」

そうぶっきらぼうに頭を下げると
チャンミン様はいきなり部屋を出て行った。

「追いかけろ!あの様子だと、あいつは何するかわからんぞ」

執事たちが追いかけようとドアを開けると
ドンジュ様があっけらかんとしてそこに立っていた。

「何をするか、わからんって…」

さも可笑しそうに肩を震わせて笑うドンジュ様

「そこまで追い詰めたのは誰だよって話」

「なんだと!!」

「早く追いかけないと
チャンミン、死んじゃうぜ」

スヒョクの用意した車にみんなが乗り込んだけれど
僕は屋敷に残った。

広間に戻ると
ドンジュ様がテーブルの上の2人の写真を見ていた。

「幸せそうな2人だなぁ」

「ですね」

「ユノがこんな顔になるなんて、ちょっと驚きだ。
よっぽどチャンミンが可愛いんだろうな」

「愛してるんですよ、心から」

「そうだな…」

ドンジュ様はため息をついた。



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

月の王子さま(38)

ーーユノsideーー


リサイタル当日。

とうとうチャンミンまで緊張しだしてしまった。
顔が引きつって笑顔がない。

俺は車のドアを開けてやりながら
「大丈夫だから」

そっと声をかけた。

チャンミンはこっくりと頷いたものの
俺を見つめるその目はもう泣きそうだ。

「僕がソンヨクの足を引っ張ったら
どうしよう」

「お前がしっかりしなかったら
ソンヨクはどうしていいかわからないじゃないか」

「うん…」

牧師さんが2人のためにお祈りをしてくれて
力づけてくれた。

音楽会、ということで
入場を許されない子供たちのために
ドンへに撮影を頼み、いまやドンへの彼女であるミナが、リアルタイムでその映像を観れるようにしてくれた。

みんなの可愛く元気なお見送りで
俺たちは出発した。

俺が次にここへ来る頃には
もうみんな成長して、この教会を出ていることだろう。

途中、テミンから連絡が入った。

「ヒョン、ここを出て行くってほんと?!」

「誰から聞いた?」

俺は後ろにチャンミンとソンヨクを乗せているので
多くを話せない。

「大旦那様が話してるのを聞いちゃったんだ
どういうこと?なんでヒョンが出て行かなくちゃいけないんだよ」

「今、話せない」

「ジホに脅されたの?2人のこと。
口止め料とかそんな話を聞いたけど、
そういうことなんでしょ?」

「………」

「わかった。何も言わなくていいよ、ヒョン。」

「おまえは何も動くなよ?」

「話したいこといろいろあるんだけどな。
ちょっとひとつだけ。
ドンジュ様が突然現れたんだよ」

「え?戻ったのか」

「そう。結構本家はそれで大変なことになってる」

「あ…」

「じゃあね、また」

テミンは人の気配を感じたようで電話を切ってしまった。

ドンジュ様が戻ったのか。
いい事だ。大旦那様もドンジュ様をきっと許すだろう。

俺が旅立つ時にいろんな事がうまくまとまるようで
よかったのかもしれない

会場に着いた途端、何人もの人々に迎え入れられた
俺たちの車。

車の中を覗き込む大勢の人々の視線に
ソンヨクが怯える。

まずいな。

俺はバックミラーでチャンミンを見た。
きっとチャンミンも怯えていることだろう

と、思ったのに

チャンミンはしっかりとソンヨクの肩を抱き
車の外の人々ににこやかに手を振っている。

そして笑顔を見せたまま
ソンヨクに囁く

「ソンヨク、怖がらなくて大丈夫。
みんなはあなたのピアノが聞きたくてたまらないんです。
楽しみにしていて、もう待ちきれないんですよ。
だから、思い切り応えてあげましょう。
喜ばせてあげましょう。ね?」

チャンミン…

お前は…変わったな

ソンヨクは泣きそうな顔でチャンミンを見つめていたけれど
やがてその顔に自信があふれてきた。

「楽しみにしてるなら、早く聴かせてあげなくちゃね」

「その調子!ソンヨク」

俺は車寄せに停めて
2人を降ろした。

2人は何人もの出迎えの人々に囲まれ、
そして会場へ吸い込まれていく。

俺はひとり車寄せで見送った。

ふとチャンミンが人混みの中、俺を探して振り返る

大丈夫。お前はもう大丈夫だ。
そのまま、前を見てまっすぐ歩くんだ。

俺はチャンミンに微笑みかけると
チャンミンも安心したように微笑んだ。


俺は車を駐車場に停めたあと
開演まで細かい用事をすませていた。

ホテルに予約の確認をして
そして大旦那様に電話をした。

「ユンホか」

「はい。明日出ます。
くれぐれも旦那様と奥様への説明をよろしくお願いします」

「うむ…」

「…チャンミンへの説明も…」

「そんなことは気にせんでいい。
お前を追わないように話をつける」

「お願いします…」

「身体には気をつけてな」

「ありがとうございます」

大旦那様のため息が聞こえた。

「あの…しっかりと学んで
お役に立てるように全力を尽くします。
ただ…」

「ただ?」

「アメリカの事業を整えることができたら
それでお役ごめん、とさせていただきたいと思います」

「というと?」

「ご恩返しにはまだまだ足りないとは思いますが
シム家から出たいと考えています。」

「………」

「申し訳ありません」

「ユンホなら…」

「はい」

「チャンミンが女の子だったら立場の違いなんて気にせず、
こっちから、もらってやってくれとお願いするところだ。」

「………」

「お前みたいな骨太なやつ…」

「………」

「それではこれで」

「ああ、元気でな」

電話を切り、スヒョクにチャンミンのお迎えを頼んだ。
リサイタルが終わって俺がいなかったら
動揺せず帰宅できるようにテミンにも迎えの執事としての仕事を頼んだ。


俺は入場して、チャンミンに指定された席についた。

ほどなくして、会場は暗くなり
チャンミンとソンヨク、2人のリサイタルがはじまった。

チャンミンはバイオリンを構えると
会場を一瞥し、俺の姿を見つけて薄く微笑んだ。

2人の簡単な二重奏。

その後ソンヨクのピアノが2曲続いた。

素人の俺が聴いても
ソンヨクは素晴らしかった。

子供が弾いてるとは思えなかった。

これを才能というのかな。

まわりの人々が静かに感嘆しているのが
感じられた。

そしてチャンミンのバイオリンとソンヨクのピアノによる「花は咲く」

なんとも子供らしく、清らかに
2人の音色はきれいに重なり

俺は目頭が熱くなった。

演奏が終わると大きな拍手の中
2人は挨拶をした。

そして、ソンヨクが舞台袖に戻り
チャンミンがひとりステージに残った。

思ったほど緊張の色は見えない。
達成感さえ伺える。

「本日はお越しいただいてありがとうございました。
楽しんでいただけましたでしょうか。
パク・ソンヨクの才能を皆様も感じていただけたことと思います。
ですが、私、シム・チャンミンがソンヨクの指導にあたりますのはこれが限界となります。
この先、ソンヨクを温かくご指導いただける方を探しております。
どうぞよろしくお願いいたします」

そしてまた大きな拍手の中
チャンミンは頭を下げ

そしてゆっくりと顔をあげ、
またマイクに向かった。

「最後に私のワガママを聞いていただければと思いますが。
本日、このリサイタルを行なうにあたって
たくさんの方々のお力をお借りいたしました。
お礼と言ってはあまりに情けないものになりますが
一曲だけ私の歌を皆様に捧げたいと思います。」

チャンミンはそう言って、舞台袖からギターを持ってきた。

そういえば、チャンミンは歌が上手くて
小さい頃はよく親戚の前で歌を披露していた、と聞いたことがある。

チャンミンの歌を聴くのは

これが最初で最後なんだな…

係の人が椅子を用意し、チャンミンはタキシードの上着を脱いだ。

「まだ習い始めのギターなので
なんとも拙いものになりますが、
聴いていただけますか?歌は" ひまわりの約束"です」

ひまわりの約束…

チャンミンは静かにギターを弾き始めた

俺は静かに目を閉じた。

まぶたの裏には夏の太陽に照らされたひまわり畑

#どうして君が泣くの
まだ僕が泣いてないのに…#

チャンミンの笑顔

ザリガニをつかまえてやった
子供みたいな夏


#そばにいたいよ
君のために出来ることが 僕にあるかな

いつも君に ずっと君に 笑っていてほしくて

ひまわりのような まっすぐなその優しさを
温もりを 全部…#


いろんなチャンミンを思い出していた

俺にドライヤーをお願いするその可愛い顔

金目当ての友達を知った、哀しい顔

月明かりに照らされた天使のような顔

読み聞かせをする優しい顔

俺の手に包帯をまく真剣な顔

合コンに乗り込んできた得意げな顔

距離を縮めない俺に、怒った可愛い顔

キスをしてやると、柔らかく蕩ける顔

抱いた時の別人のように妖艶な顔

ザリガニを見せた時の驚いた笑顔

ひまわりを見せた時の笑顔

コスモスを見に行こうと誘った時の笑顔


俺の心にはたくさんのチャンミンの笑顔がある。

俺はこれからも毎日ひとつずつ
その顔を思い出しては月を見上げるだろう

つらい時には観覧車にひとり乗って
遠くにいるお前を思うだろう

さようなら….

俺のチャンミン…

愛してる…心から愛してる

たぶん、どれだけ時がたってもこの思いは変わりそうにない

俺はこみ上げる嗚咽を手で抑えた。

きっと暗くて誰にもわかるまい

泣かせてくれ…今だけ泣かせて…


#どうして君が泣くの まだ僕も泣いていないのに

自分より 悲しむから つらいのがどっちか わからなくなるよ#

チャンミンの歌声が優しく響く中
俺は声を殺して、激しく泣いた

ずっと一緒にいたかった

さようなら

チャンミン…


歌が終わり、チャンミンが舞台袖に引けたところで

俺は席を立った。




にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

月の王子さま(37)

ーーユノsideーー


いよいよ明日はリサイタルの日。

大旦那様から釘を刺す電話が入った。

「くれぐれも気をつけるように。
思い余ってアメリカ行きの事など言わないようにな
チャンミンにとっても晴れ舞台なんだ。
動揺させんでくれ」

「わかっています。
でも旦那様や奥様にも黙っているのがどうにも心苦しく…」

「そんな事は気にせんでいい。
お前が巻いた種だろうが」

「………」

「みんなに申し訳ないと思うなら
こんな事、しなきゃよかったんだ」

「申し訳ないなどと、思っておりません」

「なんだと?」

「どうぞ、もうこの家から追い出してください」

「そうはいかん。
チャンミンが追うだろう。
それではドンジュの二の舞だ。
あくまでも、この家から離れない立場で
チャンミンとは関わるな」

残酷だ…

「お前がシム家のために勉強で渡米というのなら
チャンミンは納得する」

「一時的には納得するかもしれませんが…」

「そのうちに忘れるさ。
こんなの一時的な戯れだ。」

「………」

「………もう切ってもよろしいですか。」

「お前も忘れるさ。
その時はまた受け入れてやる。
次に会う時は、可愛い嫁でも見せに来い」

俺は黙って電話を切った。

もうこれ以上なにを話しても
大旦那様は理解なんてしてくれない。

でも、理解しろっていう方が無理だ。
俺だって、こんな気持ちになるなんて
想像してなかったんだから。

出てくるのはため息ばかり。

何もなくなってガランとした部屋を見渡した

あれから毎晩チャンミンは俺の部屋に来た。
だから荷造りができなかった。

チャンミンは
今夜はさすがにここへは来ないだろう。

だから、大急ぎで荷物をまとめて
いくつかの荷物をアメリカへ送った。

今日は明日のリハーサルに余念のないチャンミン

ごめんな、ウソついて黙って出て行くようなマネして。

本当はカッコよく、誰にも居場所がわからないように姿を消したかった。

どうせなら、さ。

それでお前が追ってきて、俺を探し当てて
名家の名前も何も全部捨てて、そして俺と…

そこまで考えて、突然、無性におかしくなった。

俺は誰もいない部屋で1人で笑った

何を考えてるんだ、俺は…

どうしても捨てきれない夢
チャンミンと2人で生きる、現実ばなれした夢。

いつまでもそんなのに縋って
俺はまったく前を見る事ができないでいる。

明日で会えなくなるなんて
想像すら出来ない

俺はたぶん気が狂ってしまうのではないだろうか。

バカだ、俺は。

いいかげんに目を覚ませ。

俺はアメリカへ行って、大旦那様の望むように
勉強させてもらって働く。

他の執事に聞いたら
シム家の事業はアメリカの本部が統率がとれず苦戦しているという話だった。

だったらそこを立て直して
それですべてを許してもらおう。

それで俺はお役ごめんだ。

その頃、俺はいくつになっているだろう
35歳?40歳?

すべてから解放された俺には
果たして何が残るだろう。

項垂れていた俺に
スマホがチャンミンからの連絡を知らせる。

「チャンミン?リハーサルは終わったか?」

「うん、あのね、今夜はソンヨクと教会に泊まろうと思って」

「それはダメだ。無防備すぎるだろ」

「だから、ユノもこっちで泊まって?」

「それはできない」

「どうして?」

「………」

「ソンヨクが不安そうなんだよ。だから一緒にいてあげたいなって…」

「わかった。じゃあ後で俺も行くから」

「ありがとう!待ってるね?」

結局いつも、チャンミンのワガママを聞いてやってる。
でも、それが楽しい、そんな日々だったな。

俺はもう一度、残りの荷物のチェックをして
部屋を後にした。

教会に着くと、温かい灯の下でみんなが食卓を囲んでいるのが見えた。

みんなより頭が3つ分くらい背の高いチャンミン。

でもその笑顔は他の子供たちと変わらないくらい
純粋だった。
時折起こる笑い声。
誰かが誰かをからかったり。

食べ物を交換して、チャンミンに叱られてる子供。
それでもチャンミンはソンヨクをしっかりそばに置いて、楽しんでいるかどうか気にかけていた。

また大きな笑い声が起こった。
誰かがふざけている。

ずっとこの光景をこうやって外から見守っていたくて、
だから、俺はしばらく部屋に入らないでいた。

チャンミンがたまに入り口の方を気にする。
俺を待っていてくれているのか。

だけど、俺はその温かそうな部屋に
どうしても入ることができなかった。

あの中に入ってしまったら
俺はもう明日出発することはできない

そう確信してしまった。

俺はその場から離れ、
小さな運動場でチャンミンにLINEした。

「到着してるけど、辺りを見回ってるから」

「一緒にご飯たべよう?」

「うん、もう少ししたら。」

「ほんとに仕事熱心なんだから」

「そういうの嫌い?」

「それは…」

「?」

「そういう方が、ユノらしくていいけど」

「だろ?」

「早くね?みんな待ってるよ」

「ああ」

広場にはバスケットボールが転がっていた。

手に取ると、空気が抜けているのか
少し柔らかい。

俺は倉庫から空気入れを出して、空気を入れた。
ドリブルしてみたらいい感じだ。

俺は何回かドリブルをして、
両手に持ち、バスケットのゴールに狙いを定めた。

もう闇が降りた小さな広場は
物音ひとつせず、
遠くでチャンミンたちの笑い声が聞こえるだけだった。


このゴールが決まったら
俺はチャンミンを連れて行く


願掛けをした後、
集中してボールを放った

ボールはプレートに1度バウンドし
枠の縁をくるくる回った後、ボールは外に跳ねた。

俺はため息をついて、ボールを力なく拾い
もう一度狙いを定めた。

このゴールが決まったら、
チャンミンともう一度会える。

今度は狙い過ぎたせいか、
手に力が入ってしまったのがわかった。

ボールは今度はネットに引っかかることもなく
地面に落ちた。

そういうことか。

しばらくドリブルをしながら、夜空を見上げた。

月が思いのほか大きく見えた。

明日は満月かな。


「ユノーーーー」

声がする方を振り向くと
チャンミンが手を振りながら、こちらへ歩いてくる

月明かりに照らされて、その天使のような笑顔が
輝いている。

「チャンミン」

「もう!みんな待ってるって言ったのに」

「ごめん」

俺はなんだかたまらなくなって、
チャンミンを抱きしめた。

「僕もムリ言ってごめんね」

「ごめん、チャンミン…」

「ユノ…」

「ほんとに…ごめん…」

抱きしめ合う俺たちを
月明かりが哀しく照らしていた



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

月の王子さま(36)

ーーチャンミンsideーー



ユノが観覧車に乗りたいだなんて、
僕はすごく嬉しかった。

アジョシにお願いしてから
僕たちは夜の遊園地に行った。

いつものように観覧車は綺麗に輝き
月明かりに照らされていた。

僕たちは2人して乗り込んだ。
そしてしばらく何でもない話をしていた。

「僕とソンヨクは" 花は咲く"って曲をやるんだよ。」

「チャンミンがバイオリンで
ソンヨクがピアノっていいな。」

「ソンヨクは指が大人ほどは開かないから
少しアレンジしたんだよ」

「いい曲なんだろうな」

「うん、ユノの席はもう押さえてあるからね
見に来てくれるよね。」

「もちろん、行くよ
2人の晴れ舞台じゃないか」

観覧車が少しずつあがっていくと、夜景とまではいかないけれど、町の灯りが見えてきた。

「チャンミン…」

「ん?」

今夜のユノはとても寂しそうに見える
その小さな顔がもっと小さく見えるような気がする。


「前にさ、町の人たちの今日を想像するって
言ってたよな」

「うん、この景色を見て想像するんだよ」

「この中に今日別れたカップルはどれくらいいるのかな」

「え?どうしてそんな事思うの?」

「どんな理由で別れたんだろう」

「ユノ…」

「みんな、もう一回考え直したらいいのにな。
いくらでもやり直せるのにさ」

寂しそうに微笑むユノの横顔。

思いのほか長い睫毛がそっと伏せられて
目尻には優しそうな笑い皺が浮かぶ。

どうしたの、ユノ…

ユノが遠くに行ってしまいそうな
そんな胸騒ぎがした

「ユノ…」

ユノの彫刻のような横顔を、月明かりが優しく照らす

僕はユノの手に触れた。

「僕は何にも怖くないよ」

「え?」

ユノが驚いて僕を見る

僕はユノの手を握りしめた
どこへも行かないように。

ユノは眉をハの字にしかめ、
その睫毛は震えていた

いつものユノの顔じゃなかった。

自信ありげで、何事にも動じない
冷たく見えるほど冷静沈着なユノ。

それがまるで、道に迷った仔犬のような瞳で
僕を見つめている。

ユノ…なにがあったの…

「ユノはなんにも心配しないで
なにがあっても僕が一緒にいるから」

ユノの目に涙の膜がみるみる張りはじめる

それを誤魔化すように顔をクシャクシャにして
笑うユノ。

「チャンミン、いつからそんな事言うようになったんだよ」

「ユノが、ひとりでなんでも抱え込むからだよ」

「そんなことないけどさ。
だけど…」

ユノはまたその視線を外の景色に戻した。

僕はユノの言葉を待った。
ユノが話したいモードになってる時は
何も言わないほうがいいって、僕は知ってる。

「俺たち、なんにも悪いことしてないのにな。」

「そうだよ…僕は堂々とユノが好きってみんなに言えるよ」

寂しそうなユノ…

僕は開かない観覧車の窓に口をつけんばかりにして
叫んだ

「ユノ!大好きーーーーーー!
僕はチョン・ユンホが大好きだーーーーーー!」

僕の大声は観覧車の小さなワゴンの中で耳をつんざくほどに響いた。

「ほぅら、僕はこうやって全世界に…」

そう言ってユノの方を向くと
いきなり抱きしめられた。

ワゴンは大きく揺れた

「ユノ!危ないよぉ!」

僕は怖くて抱きついてきたユノにしがみついた

「チャンミン…俺だってお前が大好きだ!
誰にも恥ずかしくなんかない!」

「ユノ…」

抱きしめたユノの肩が震えている。

まさか、泣いてる?

「ユノ?顔見せて?」

ユノは顔を見せないようにさらに僕に抱きついた。

ユノ…おかしな事を考えないでね
いつも大事なこと、言わないんだから…

僕はユノが愛おしくて
泣けてきてしまった…

僕は下りゆく観覧車の中で、
ユノを抱きしめて泣いた。

月明かりがそんな僕たちを明るく照らした。


観覧車が下に降りる頃
ユノはいつものユノになっていた。

「俺たち大声だしちゃったな」

「たまにはいいよ、ね?」

「あースッキリした」

大声だしてスッキリしたの?
それとも泣いたから?

僕はそれを聞くことができず
ユノの横顔を見つめた。


その夜、ユノは階段の下で執事として
挨拶をした。

「それでは明日、またお迎えにあがります」

「はい…」

本家から帰ってきたあと、
ユノは僕の部屋に入らなくなった。

お父様に聞いたら

「よくわからんが、本家から言われたんだよ。
もう執事が身の回りのことをするような年齢ではないってね?」

「ふぅん…」



「それでは、また明日。」

僕は他の執事の目もあって
仕方なく、自室のドアをそっと閉める

夜中近くになっても、
僕は眠れなかった。

今夜のユノがどうしても気になったし
あの切ない顔が忘れられない。

僕は意を決して
枕だけ持って部屋を出た。

スヒョクが廊下にいた。

まずい、

そう思ったけれど
よく見たら、スヒョクは立ったまま眠っているようだった。

なんか…すごいな…

でも、ありがとうスヒョク、
少しの間ごめんね

僕はそっと部屋を出て、
使用人棟へ向かった。

たしか、2階の1番奥。

そっとノックをすると

「はい?」

不審そうなユノの声がした。

ユノはドアの側まできて
「誰ですか?」

そう聞いている

「僕だよ」

そっと答えるけれどユノには聞こえないようで
ユノはそうっとドアを開けた。

僕はその隙間から顔を覗かせた

「チャンミン!」

「来ちゃったよ」

「お前…」

そう言いながらも
僕を部屋へいれてくれたユノ

でも、その顔は本当に困っていた

ユノはシャワーを浴びたところだったのか
濡れ髪で白いTシャツに短パンを履いていた。

「チャンミン、
誰かに見られたらどうするんだよ」

「だって最近、部屋に入ってもらえないからさ」

「だからって…」

「一緒に寝よう?」

「だけど…」

「帰らないよ、僕」

「………」

僕は埒があかないユノをそのままに
ユノのベッドに勝手に潜り込んだ。

ユノは仕方ない、といったように頭を掻くと
部屋の電気を消してベッドに入ってきた。

ユノは僕をその胸に抱き込んでくれた。

温かいユノ

ユノの腕や胸は弾力があって気持ちがいい
どんな枕よりも素晴らしいんだ。

「チャンミン…」

「ん…」

「リサイタル、上手くいくように祈ってる」

急にユノは体勢を変えて
僕を抱く腕を解いて、僕の腰に腕を回してきた。

僕がユノを抱き込む形になった。

ユノは子供のように僕の胸に顔を埋めて
抱きついてきた

僕はユノの髪をそっと撫でた

「どうしたの?ユノ
小さい子みたい」

「小さいんだよ、俺」

「なに言ってるの…フフ…」

「チャンミン…」

「なに?」

「なぁ…チャンミン…」

「どうしたの?」

「俺、お前が大好きだ」

僕はユノをギュッと抱きしめた

「僕も大好きだよ?」

なんだか、ユノは可愛くて
こんなユノもいいな、と思った。

ユノの苦悩なんて
その時の僕にはまったくわからなかった。



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

月の王子さま(35)

ーーユノsideーー


ソンヨクのリサイタルで着る服をオーダーしていて
それを店に受け取りに行った。

ソンヨクを教会へ迎えに行き、
車に乗せてやると

「バスケしてくれたヒョンだよね?」

無邪気な笑顔が可愛い

「ああ、そうだよ。」

「それで読み聞かせの時、いつもウットリしてる」

「は?うっとり?」

「みんなそう言ってるよ?」

「誰がうっとりしてるんだか、
言ってるヤツは今度バスケでコテンパンにしてやる」

「ユノ!真剣に受けとらないでっ!」

チャンミンこそ真剣にとるなよ

なんだろな。
うっとりって…ヤバイな。

俺、漏れてんのか


それでもいざ服が用意されると
ソンヨクは緊張した面持ちで
可愛いタキシードに身を包んだ。

「意外と似合うじゃないか」

「…………」

「どうした?」

「ソンヨク、どうしたの?」

黙ってしまったソンヨク。

俺はタキシードの生地に触れた。

「シルクか?チャンミン」

「う、うん…」

「ハリがあっていい生地だけど
子供にはどうかな。」

「大丈夫だよ。ありがとう」
ソンヨクは笑顔でチャンミンに礼を言った。

「無理すんなよ?ソンヨク。
これでピアノが思う通りに弾けるか?」

「弾いてみないと…わかんないけど
たぶん、大丈夫」

無理してないかな。

いい生地だから立ち姿が綺麗に見えるし
動きやすいのだろうけれど

子供が腕を動かすのはどうだろう

チャンミンが察して優しく微笑んだ
ほんとに聖母みたいだ。

「ソンヨク、これはご挨拶の時だけ着ることにして
ピアノを弾く時は、脱ごうね」

「いいの?」

「いいんだよ、大事なのはカッコじゃなくて
思う通りにピアノが弾けることなんだから」

「うん。。」

店を後にした俺たちは
食事をしにレストランへ入った。

「なんでも好きなモノを頼んでいいんだよ、ソンヨク」

「うん、でも…」

「どうしたの?」

「パスタとか、きっと教会のみんなも食べたいと思って。」

「あ…」

そうだよな。
ソンヨクは優しいな。

チャンミンがソンヨクの気持ちを汲んで
その頭を撫でながら言った。
「じゃあ、リサイタルが成功したら、
みんなでこの店に来ようね?
だから今日は味見ってことで、ね?」

「うん!それなら」

それこそ、普段食べられないようなモノをたくさん食べて
ソンヨクは大満足で店を出た。

「これで、リサイタルはバッチリだな?」

「うん!でも、しばらくはヒョンとバスケはできないよ?」

「練習で時間がないか?」

「違うよー!指を守るため」

「あ、そうか…しばらくつまらないな」

「ピアノのためだから。
ひとつくらい出来ないことがあってもいいさ」

「ああ…そうだな。」

すごいな…子供なのに。

本当にピアノを弾くのが好きなんだな。
こういう子供をサポートできるチャンミンが
誇らしかった。

俺がそう思うのはおかしいけれど。


教会へソンヨクを送っていき
帰路につく車の中でチャンミンがため息をついた。

「どうした?疲れたか?」

「うん…なんかさ…僕のしてる事ってどうなのかな」

「ん?ソンヨク?」

「うん…まわりの子供たちから浮いてるのかな」

「ソンヨクのピアノが上手いのは
みんなが認めてただろ?」

「うん……」

「何か頑張るとチャンスがあるんだって
いい見本じゃないか?」

「なるほど…
でも、みんなに均等にそのチャンスを与えてあげないとね」

「そうだよ…だから財閥はその基金を作るんじゃないか。
チャンミンは今、それを頑張っているんだろ?」

「今になって、どうしてユノが僕にお小遣い帳つけさせたのかわかったよ」

「やっとわかったか?」

チャンミンは薄く微笑んで
でも眠そうだった。

自分で言って…少し寂しくなった。

チャンミンは名家としての役割を肌で感じ
それを極めていこうとしている。

それを気づかせろと
俺は、そういう仕事を命じられたんだ。

だから、これでよかったんだ。

俺の心にほんの少し芽生えた夢。
チャンミンをあの屋敷から出して
一緒に暮らすなんて…

それがいかに現実離れしていて難しく
チャンミンのために良くないことか

もう明らかじゃないか。

自分の気持ちだけじゃ
どうにもならない事がある。

大旦那様に俺たちのことが知られなきゃ
もう少し一緒にいられたのかもしれない。

たしかに、このまま世間で財閥の役割を担うなら
俺たちの関係はそれに逆行している。

俺は邪魔だ。

わかっているけれど…
どうにも…

「チャンミン…」

「ん?」

「行きたいところがあるんだけど…」

「えっ?ユノが?」

「ああ…」

「いいよ!どこ?」

「観覧車」

「あ…え?乗りたいの?」

「ああ、2人で乗りたい…頼めるか?」

「ユノ…うれしいな…」

「そう…か?」

「うん!頼むから待ってて!もちろん夜だね?」

「そう…だな」

帰って、チャンミンがバイオリンの稽古をしている時、俺に大旦那様から電話がかかってきた。

電話って…今まで電話で話したことなんてないのに。

「もしもしユンホですが」

「お前の顔を見たくないから、電話で話す」

「………はい」

「チャンミンを、たぶらかしおって。
よくもチャンミンを性欲の対象にしてくれたな」

俺は握りこぶしに力が入った。

「………お言葉ですが
そんな対象にはしておりません」

「あんな写真があがっておいて
よくもそんなことが言える。
じゃあ、真剣な交際だとでも言うのか
男同士で、あんな汚らわしい」

「………本日の電話は私への罵倒でしょうか。
もう、解雇の身。このままほうっておいてはもらえないでしょうか」

俺のスマホを持つ手が震える

俺は出て行くということで、
もういいじゃないか。

「放っておくわけにはいかん」

「は?」

「お前のことは本当の孫のように思っていたのに」

「………」

それを言われると、つらい。

「放り出すわけにはいかん。
そのつもりも…ない。
お前にはいい嫁をみつけてやろうと思っていた」

「………すみません」

「その件はしばらくお預けだ。
少し頭を冷やして来い。
アメリカの大学で語学と経営を学んで
少し向こうで仕事して、帰ってこい」

「は?」

「準備は整えたから。
リサイタルが終わったら空港で泊まって
翌朝そのままアメリカへ飛べ」

「そんな…」

「私に恩義を感じるなら
このシム家にずっと仕えてくれ。
もう執事の方はいい。
縮小はするが、シム家の事業を乗っ取られないよう守ってくれ。」

シム家にいながら
チャンミンとは離れろってことだ。

「そんな勝手に…」

「チャンミンはお前がいなくなったと知ったら
探すだろう。だから、リサイタルが終わったら
きちんと話すから。
ユンホのためにアメリカへやったとなれば
チャンミンも納得する」

俺は何も言えなかった。

大旦那様は俺を捨てない。
こういう人なんだ。
俺たちによかれと思って、大旦那様なりに考えている。

俺もシム家をこれ以上裏切れない。

チャンミン…



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

月の王子さま(34)

ーーチャンミンsideーー


いきなり現れたドンジュお兄さまに
びっくりして…

「チャンミン!なんだかキレイなったな?」

ドンジュお兄さまはそう言って
僕とユノの顔を交互に見た。

「カッコイイって言ってよー」

「いやいや、チャンミンは昔から
キレイだよ?」

「ユノはなんでお兄さまがここにいるの知ってたの?」

「昨日偶然にここで」

「ああ、なるほどね」

「ユノ」

「はい?」

「チャンミンと2人で話させてくれないか?」

「は?どうしてですか?」

「そんな怒んなよ、襲わないから」

「…………」

「襲うとか、フフフ…ドンジュお兄さまって…相変わらずだなぁ」

僕は久しぶりのドンジュ様の楽しい物言いがうれしかった。

「…………わかりました」

ユノは腑に落ちない表情で、
ギイと音を立ててドアを開け

つまらなそうな顔でこちらを振り返った

「じゃあ、車にいるよ」

「悪いね!すぐ返すから」


「なあに?お兄さま。
ユノを仲間はずれにして」

「ま、ちょっとかわいそうだったかな?
でも、チャンミンに会えたら2人で話がしたいと思ってさ、
昨日ユノに会ってそう思ったんだ」

「昨日?」

僕はレジの前の小さな丸イスに座り
身を乗り出した

「そう言えば、お兄さま、駆け落ちしたんだって?!」

誰もいないのに、思わず小さな声になる

「ああ、でも終わった」

お兄さまはため息をついた。

「え?別れちゃったの?」

「ああ、捨てられたよ、俺」

「なんで?」

「身分の違いなんて、どうにでもなると思ってたんだけど…」

「ああ、うん」

僕にも、それは関係ある話かもしれない

「でも、価値観の違いっていうヤツに、勝てなかった」

「価値観の違い?」

「意外にこれが、大切だったんだよ。
俺は現実が全然わかってなかったのに
自分の価値観を押し通して」


「よくわからないけど」

「たとえばさ、俺のこの腕時計」

「うん」

「彼女はこれで車が一台買えるっていうんだ」

「…………あ」

ユノも…同じこと言ってた…

「でも俺にしてみれば、この時計で買えるようなのは車とは言えない」

「うん…なんかわかる、それ。」

「そういうのがさ、結構大事なんだよ
毎日生活してるとさ」

「ふーん…」

やっぱり僕とユノは、2人だけで暮らすなんてことになったら、難しいんだろうか。

このままずーっと主人と執事なのかな。

先のことは考えないってユノは言ってたけど
実際どうなんだろう

「俺が間違ってたんだよ」

「お兄さまが?」

「金のない普通の生活になったんだから
彼女の価値観で生活しなきゃいけなかった」

「そうだね。でもできるの?」

「今なら、わかる。
俺たちには価値観の一致より、思いやりが必要だったんだよ」

「思いやり?」

「そう、価値観が違う相手への思いやり。」

「相手の話をよく聞くとか?」

「うーん、そうだな。
自分だけが正しいと思わないとか…」

「それと…」

「?」

「チャンミン…」

「なに?」

「好きなやつの手を離したらダメだぞ」

「えっ」

「絶対にダメだ。相手がもう終わりだとかなんとか言っても…
好きなら絶対に手を離すな。」

「う、うん…」

「俺たちみたいな名家なんて、みんなが思ってるほど良くない」

「そんな…」

「伝統は大事だけれど、もっと大事なものがある」

「品格?」

「爺さんがそう言ったか?」

「うん…みんなが言う」

「伝統や格式を守るためだけの結婚とか
品格があると思うか?」

「ないの?」

「ウソで固めた世界に、品格なんかあるわけないだろ。真実なんかなんにもないんだぞ?」

「そうだね…本物にしか品格はないね?」

「そうだよ。間違えたらダメだ」

「うん…」

「…………」

僕はお兄さまの言葉を心で反芻していた。

「…え?あ、ねぇ」

「なんだ?」

「お兄さま、僕になんでそんな話するの?」

僕の頬が熱をもつのがわかる

「お前な、ユノはメチャクチャいい男だ」

「なっ…なに言うんだよっ!」

「チャンミンだってわかってるだろ?
強いし、懐は大きいし、あんないい男は滅多にいない」

「もちろん…わかってるよ…」

僕は恥ずかしくて、下を向いてしまった。

「だから、絶対に手を離すなよ?」

「う…うん」

「あいつはいいヤツだけど、
くだらない義理とかに振り回されるところがある」

「そ、そうなの?」

「それに大事なことは言わないし、本心を言うのを恥だと思ってる。カタブツなんだよ」

「カタブツなんかじゃないよ?」

「あーはいはい、そうでした」

「なっ…」

僕はからかわれたのか?
昔から何を言ってもドンジュお兄さまには勝てない

「もう、すっかり車の中でスネてるだろ。
これでも持ってってやれ。」

ドンジュお兄さまは、積まれたお菓子の山から
クッキーの包みをひとつくれた。


小さい頃、本家に行くと「チャンミナー!」
と呼んでくれて
いつも遊んでくれたドンジュお兄さま。

当主として期待されて、ハードな勉強をしていたにもかかわらず
いつも豪快で大好きだった。

僕を危険な場所に連れて行っては
よくお祖父様に怒られていた。

僕はにとっては、お兄さまと遊ぶことは
いつも冒険で、楽しみだったんだけど。

「ありがとう、お兄さま」

「元気でな?」

「うん!お兄さまもね」

なんだか勇気が湧いて外に出てみたら

車の運転席に仏頂面のユノが見える

僕は助手席のドアを開けると

「遅い!」

いきなり怒鳴られた

でも、そんなユノがなんだか愛しくて…
僕はまた狭い運転席で抱きついた

「また抱きつく!何度目だよ、今日」

嫌がっているけど、関係ないよ
大好きなんだからさ




にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
検索フォーム
ブロとも申請フォーム