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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

月の王子さま(17)

ーーユノsideーー


自分の気持ちを認めてしまうと
スッキリとした気分になった。

今は煩わしいことは考えないで
チャンミンの側にいよう。

俺は自分の気持ちをチャンミンに伝えることは許されない。

でも…俺がそばにいてよかったと
チャンミンにそう思ってくれたら本望だ。

今まで通り、毎日一生懸命仕えるだけ。

ただその理由が変わった

大旦那さまへの恩からチャンミンの為に。

それはある意味、ツラい毎日の始まりかもしれない。
それを受け入れる覚悟は決めたつもりだ。

広間へ顔を出すと
チャンミンが心配そうな顔をしてこちらを見ている

微笑んでやると
少し安心したようにチャンミンも微笑んだ

それなのに俺はサッと視線を逸らしてしまった。

その笑顔を見るとたまらない気持ちになる。

目を逸らした俺を不審に思ったのだろう
不服そうな顔をして、チャンミンが人をかき分けこっちに来る。

けれどその前に、俺に急に飛びついてきた人影。
俺は一瞬身構えた。

チャンミンも足を止めた。

「ユノヒョーーン♫」

俺に飛びついてきたのは
イ・テミンだった。

俺が本家で仕えていた時から
見習いとして面倒みてやっていた可愛い弟分。

あのイ執事の孫だ。

「テミン!」

俺は飛びついてきたテミンを抱き止めた。

「ユノヒョン、元気だった?
いろいろ大変だったみたいだけど大丈夫?」

「ああ、大丈夫だよ、心配すんな」

強い視線を感じて横を見ると
チャンミンが憮然とした表情でこちらを睨んでいる

「チャンミン、爺のお孫さんのテミンです」

俺は腕の中にいるテミンをチャンミンの方に向かせた。

「え?爺の?」
チャンミンの表情が和らいだ。

「ほら、テミン。
分家のチャンミン様だよ」

「あ!お初にお目にかかります。イ・テミンです。
祖父がお世話になっております。」

「爺…イ執事はその後どうですか?」

「………」
テミンの表情が曇る

「あ…ごめんなさい…」

「悪いのか?」

「意識がないわけじゃないんです。
強い痛み止めを投与されているので、ほとんど眠っているような感じですけれど
たまに話ができるときもあります。」

「そうなんですか…」

「元々、心臓が強いし、そんな簡単には…」
テミンは歯を食いしばった。

「ごめんな、大丈夫だよ」
俺はテミンを腕の中に抱きしめて、その頭を撫でた。

「ユノ、荷ほどきがあるのでお願いします」
チャンミンがピシャリと言った。

すげぇ怖い顔…

「テミンまたな」

「うん、また僕と遊んでね」


テミンは弟分なんだけどな
でも嫉妬してくれてるのかと思うと少しうれしい。
怒った顔も可愛く見える。

俺はチャンミンに続いて2階へ上がる。
用意されたのはたぶんこの家で1番いい部屋だ。

大旦那様のチャンミン贔屓が伺える。
ただ、それは他の人間にもそれを示すことになる。
危険だな。

チャンミンは怒ったように、荷ほどきをはじめる。

「私がやっておきますから、本家の方たちに挨拶してきてください。」

「自分の荷物の荷ほどきくらい、自分でやります」

チャンミンは乱暴に服を取り出し
次々にクローゼットに放り投げる。


「ユノ」

「はい?」

「いつか僕に50センチ以上は近づかないと言っていたけれど」

「はい」

「教育係として僕の生活にこれだけ入り込んでいるのだから、それは撤廃しませんか?」

「は?」

「言葉づかいも、距離がありすぎます。
少なくとも、こうして2人でいるときくらい
くだけた物の言い方をしてもらわないと
僕は息がつまります。」

「それはできません」

「…………できない?」

眉が八の字に下がって、その大きな瞳には
涙の膜が張っている。

やめてくれ…そんな顔をしないで

「今まで何度も言いましたけれど私は使用人です。
教育係としては上から物を言うこともあるかもしれないけれど、これ以上距離を縮めることはありません。」

俺は毅然と言い放った。

ごめんな。

チャンミンは悲しそうにその長い睫毛を伏せた。

「チャンミン、勘違いはしないでください。
この間話していた給料をもらっているからとか
そういう話ではありません。」

「わかりました」

「………」

「よくわかりました」

いや、わかってないだろ。
一歩チャンミンに近づいて誠意を込めて話す

「私は、仕事抜きで貴方に尽くします。
命をかけて守ります。
そのことは忘れないで」

「………」

俺を見ないチャンミン。

全然伝わってない…
どう話したらいいのか。

俺もチャンミンが好きだから
これ以上距離を縮めたらヤバイんだと
そう言えばいいのか?

黙っていたチャンミンが顔を上げた。

「もう僕はこんなことは言いません。
でも、ひとつだけ」

「?」

「僕と目を合わせた時に、すぐ視線を逸らすのはやめて。
気分が悪いし、マナーとしてどうなのかと思います」

「っ………」

それは難しい…

「この間、あんな事を言った僕の事が気持ち悪いのかもしれないけれど」

「そんなことありません」

「………」

「信頼関係が築けたのだと、うれしく思っています」

もうこの話は終わりだ、と言うように
俺は残りの荷物を片付けはじめた。

しばらく黙っていたけれど
そのうちチャンミンはみんなへのお土産を分けはじめた。

静かで重苦しい空気が流れていた。

その空気を割くように急にドアが開いた。

俺は身構えて、思わずチャンミンの腕を掴んで引き寄せた。

「チャンミン!」

現れたのはジホだった。
満面の笑みを浮かべたジホ

貼り付けたような笑顔がウソ臭いんだよ

「あ、お兄さま!びっくりした」

「ごめんごめん、ノックもせずに。
チャンミンが来てるって聞いてうれしくてさ」

「あ…僕が来るのが…うれしかった?」

チャンミンの顔がマジで嬉しそうだ

「当たり前だよ、うれしいよ」

ジホは俺からチャンミンを奪うと
強く抱きしめた

俺の目の前で…

「お兄さま…そんなに嬉しかった?」

「当たり前だよ。どうしてそんな事聞く?」

チャンミンが揺れている
その心が揺れている

ジホはその孤独な心につけ込むつもりだ。

「この間は済まなかった。
図書館の事とか、心配に思う気持ちが変な行動に出てしまって」

「お兄さま…」

「自分でも説明がつかない…
でも、心配してる気持ちは本当なんだ」

「いいんだよ、そんなこと。
僕のほうこそ、心配してくれてたのにごめんなさい」

「ユノ」

ジホが白々しい笑顔でこっちを見る。

「はい」

「先日はひどい言い方をして済まなかった」

「いえ」

「私もチャンミンが心配でね。なぜお前が守ってやらなかったのかと、あの時はイライラしてしまって。」

「申し訳ございませんでした」

「お兄さま、ユノは守ってくれたんだから…」

「どこかへ行く時はできればスケジュールはギリギリに先方に伝えたほうがいい」

「はい。そういたします」


俺の目の前で…

チャンミンがジホとの復縁に向かっているというのか。

俺の事を好きだと切なく言ったチャンミンだったけれど、
ジホの差し伸べたその手をとって俺の前から離れてしまう。

俺は突き放したわけじゃない。
でも引き止められない。

それに手のひらを返したようなジホが何を考えているのかわからない。

どうしたらいいのか。

「チャンミン、片付けが終わったら
本家の庭園を案内するよ。少し改装したんだ」

「ほんと?!うん、わかった!さっさとやっちゃうね」
無邪気にはしゃぐチャンミン

「じゃあ、部屋で待ってる」

ジホは微笑んで部屋から出て行った。
またチャンミンは黙って静かになった。

「よかったですね、ジホ様と仲直りされて」

俺は嫌味をこめて言ってみた。

「仲直りなのかな。
僕はユノに気持ちを伝えたばかりなのに
お兄さまと散歩に出かけたりして、なんとも思わない?」

「…………」

「なんとも思うわけないよね」

「…………」

チャンミンはため息をついて、片付けの残りをはじめた。

「正直申し上げて」

「?」

「ジホ様は少し心配です。
何を考えてるか分かりかねるところがあります。
用心してください。」

「僕はお兄さまをユノよりよく知ってるよ」

「…………」

「僕は後でお兄さまと庭園に行くから
本家の護衛がつくと思う。
ユノもテミンと遊んでるといいよ。久しぶりなんでしょ?」

庭園に何しに行くんだよ
イラつく。

「私もテミンもそんな遊んでる暇なんてありません」

チャンミンが荷物を整理する手を止めて
キッと俺を睨む。

「どうせ僕は暇なトリョンニムだよ!
なんにもさせてくれないくせに!」

「チャンミン…」

「爺にも自由に会いに行けない
近づいてと言っても、誰もが距離をとりたがる」

「そうじゃない…」

「何がちがうの?ユノだって、尽くすとは言うけれど、近づいて欲しいと言ったって、拒否するじゃないか。」

「それは…」

「僕がユノを好きと言ったから、ユノも僕を好きになってなんて、そんなこと言わない。」

「………」

「でも、あのテミンはユノに抱きつけば、抱きしめてもらえるのに、僕は…」

チャンミンは何かに耐えるようにキッと口を固く結ぶ。

「ユノと親しく話すことさえ許されない」

ああ!もう!

「近くにいてくれるなら、誰でもいいのか?
うわべだけ優しくするなんて、誰でもできるんだぞ」

「…………」

しまった…
言いすぎた…

「ずいぶん…ひどい事言うね…」

「あの…」

「うわべだけ優しくしてるのはユノでしょ?」

「は?」

「僕の気持ちを受け止めるとか適当な事言ってさ
信頼関係を築く、とか。なんなの?」

「…………」

「まったく意味がわからないよ」

俺の気持ちもまったくわからないだろうな

「僕の想いが迷惑なら、はっきりそう言ってくれたらいいのに!」

「だから…」

「僕を拒否したって、お給料は払うし、ユノをクビになんかしないよ」

「なんだって?」

俺はアタマに血が上った。
数歩チャンミンに詰め寄る…

下を向いたチャンミンの前髪が揺れている

「まだそんな事言うのか。
利害関係にこだわってるのはチャンミンのほうじゃないか!」

「だって…」

「なんだよ」

チャンミンの前髪の間から、床にポタリと涙が落ちた。


「ユノが近寄らせてくれない理由が
わからないんだもん…」

あ…

「いくら考えたって、僕がイヤだとしか思えないんだもん」

「ちが…」

チャンミンが持ってたラッピングペーパーを握りしめた。

「それでも、キチンとイヤだって言ってくれないのは、クビになるの困るからかなって…」

俺は言葉を探した

そうじゃない、と
どうして俺は言ってやれないんだろう

「考えたって…わからないんだもん」

「チャンミン、きちんと話そう」

「もう、こんな話はおしまい!」

チャンミンはペーパーをグシャグシャにして
プレゼント用の木箱をパタンと閉めるとシャワー室へ入って行った。

俺はため息をついた…



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月の王子さま(16)

ーーユノsideーー


「僕はユノが好きです」

俺の思考回路がすべて停止して、
どれくらいの時間がたったのだろう

その間、不安と後悔でいっぱいになってしまったであろうチャンミンが、ぽろっと一筋涙をこぼした。

「あ…」

「こんなこと言っても困らせるだけだって
わかってるけど…でも本当なんです」

「いや、あの…」

「………困ってる…よね?」

「あ、あーなんというか…
そんなことないです、気持ちはうれしいです。
ありがたく受け止めます」

「受け止める?」

「こ、これからの事を考えても…
私を好きでいてくれるのは…良いことです。」

チャンミンはため息をついた

「そういう意味の好きではないんだけど。
キスしたりとかの、好きって意味です」

「キ、キス?」

すげぇ直球すぎて、対応に困る

「でも、いいんです。
僕は男だし、ユノを困らせるつもりはありません」

「困りはしないよ。ただ…」

「わかってる。
今夜の事は、忘れてとは言わないけど…
僕は何も期待しないから心配しないで
自分の気持ちをただ言っただけ。

それじゃ、もう帰るね
おやすみなさい」

急に引いたチャンミンに
正直少しガッカリした俺。

爆弾投げっぱなしで帰っていくその後ろ姿


俺は…警戒していたんだ。

月夜に輝くチャンミンに見惚れてから。
その綺麗で切ない笑顔に心奪われ
俺は自分の心に鍵をかけた。

だって、好きになってもいいことなんて何もない。
そもそも男を好きになったこともない。

もし逆の立場だったら。
俺が名家の主人で、チャンミンが使用人だったら。
そんなチャンミンが俺を好きと言ってくれたら

俺はその立場を利用して
チャンミンをさらって、どこかへ連れて行って
たくさん愛して幸せにする。

世間に何も言わせない。

絶対そうする。


実は俺は本家のドンジュ様の駆け落ちを幇助した。
ドンジュ様の執事だった俺は、歳も近いせいか
友達のように仲が良く、家政婦のスニとの恋愛についてはかなり助け舟をだしていた。

ドンジュ様は本気だった。
心からスニを愛していた。

立場上、何もできないスニをリードして
不安がらせないように気をつかっていた。

でも結局、地位や名誉を捨てて
スニに一番いい方法をとって駆け落ちした。

だけど俺は…

俺には、なんの力もない…

せいぜい側で危険から守ってやるくらいしかできない。

今となっては、ドンジュ様が羨ましい

たとえ俺が連れ去っても
世間知らずのチャンミンは苦労するだけだ。

だから、俺は心に鍵をかけたまま、
側で見守るしかない。

何よりも、世話になった大旦那様に顔向けができない。

がんじがらめで身動きがとれないのは
俺もチャンミンも同じだ。

ふと見ると、サイドテーブルにクラッチバッグがあった。
チャンミンのだ。

大事なものがたくさん入ってるのに
こんなところに忘れていくなんて。

俺は少し無理を言って医者と交渉し
屋敷へ戻ることにした。

殴られた頭はまだ少し痛んだけれど
さっきの告白の衝撃でそんなものはなんてことない

セキュリティに話してチャンミンの部屋に入った。

俺はクラッチバッグをそっとテーブルの上に置いて
チャンミンのベッドに近寄った。

ベッドサイドのランプがつけっぱなしだ。

スヤスヤと眠るチャンミン
伏せた長い睫毛に柔らかな前髪がかかる。

人差し指だけでその前髪にそっと触れて
目にかからないようにあげてやった。

後先考えずに…
俺を好きだなんて言って。

どうするんだよ

俺だって、もうギリギリのところで耐えてるのに。
認めないようにしているのに。

心にかけた鍵が壊れて弾け飛びそうだ。

俺はどうにもできないんだ。

お前が俺を好きでいてくれても
そんなお前を離したくないと思っても

俺たちに未来はないんだ。
いいことなんて、なんにもないんだよ。

だから、この気持ちは忘れて。
今夜はチャンミンは興奮していたんだ。
ただそれだけのこと。


そして俺は次の朝、何事もなかったようにチャンミンを起こした。

「昨夜は錯乱していましたけど
もう大丈夫ですか?」

「錯乱?最初だけね。
ユノの顔見てからは、いたって落ち着いていたよ」

チャンミンは俺の目をじっと見つめる。
あの告白は冷静だったと言いたいのか

興奮からの勘違いということで済まそうとする俺へ
まっすぐ射るような視線を向けてくる。

俺は慌ててチャンミンの視線を逸らした。


朝食をとると、支度をして
車にたくさんの荷物を積み込んだ。

夏休みと称して何人もの従兄弟たちが、今日から本家詣でをする。

俺は頭に包帯を巻いたまま、
懐かしい本家へ出向いた。

早速、大旦那様に呼ばれた

「おひさしぶりでございます」

「その頭の包帯を勲章だなんて思ってないよな、ユンホ」

「は?」

「図書館の件も、暴漢の件も聞いた。
それはご苦労だった」

「はい」

「だが、その場にチャンミンがいたのだろう?
お前が暴漢に殴られる姿にどれだけ怖い思いをしたかわかるか。」

「申し訳ございません」

「本来の護衛はいつでも俊敏に動けるようにし、
主人に怖い思いをさせないように…」

突然重厚な木の扉が大きな音をたてて開いた。

「おじいさま!」

「チャンミン…」

険しい顔つきだった大旦那様の顔が
心なしか柔らぐ。

「どうしてユノだけ呼ぶの?
ユノは僕についているのだから
呼びつけるなら、まずは僕に話してくれないと」

大旦那様がひどく驚く

「ユノは何も悪くないし、何かあれば僕の責任ですから、僕に言ってください」

「………」

意気込むチャンミンと
呆気にとられる大旦那様。

「チャンミン、大丈夫だから」

小さく声をかけたけれど
聞こえちゃいない。

大旦那様がやっと口を開いた。

「チャンミン、何も咎めてはいないから心配するな
従兄弟たちが広間に集まっているから、お前もみんなに顔を見せなさい。ユノもすぐ行かせるから」

「でも…」

「2人で私に呼ばれているというとみんなが心配するぞ」

「………じゃあ、ユノ、広間にいるから」

「はい、すぐ行きます。」

しぶしぶチャンミンは部屋を出て行った。

大旦那様がため息をついた。

「驚いたな」

「は?」

「自分でお前の責任をとろうとしたよな、チャンミンは」

「そう…ですね」

「随分変わったな。でかしたなユノヤ」

「はぁ」

「で、チャンミンの資質としたら、どう思う?」

俺は襟を正した。

「たしかに世間知らずなところは多いですし
純粋すぎて危なっかしい場面は多々あります。」

「うむ」

「ですが、心根は優しく
弱いものに対する慈悲、世話をしてくれた者への感謝、相手に精一杯の愛情を注ごうとする様は
当主としては適任だと思います」

「うーむ、それだけでは足りんがな」

「はい
しかしながら、その仕事にやりがいを見出せば
信念を持ってやり遂げる力はお持ちかと存じます」

「そうか」

「今、ご覧になったように責任感もありますし
物怖じしない分、はっきりとモノを言えるという面もお持ちです。」

「私の目もフシ穴ではなかったな」

「寂しがりやで、少し甘えん坊なところは
ありますけれど」

「?」

「いつも穏やかで、優しく…
健気で一生懸命で…寂しいくせに無理をして…
まわりが考えているより、いろんな事を我慢している」

「………」

「それでも気をつかって、笑顔でいようとする。
その純粋な笑顔は有名な絵画のようです。」

「ほほぅ、そうか」

「そして、その柔らかな寝顔は…」

「寝顔?」

何を言っているんだ、俺は。

「あ、いえ…」

「寝顔は天使か?」

「いえ…」

「ハハハ…ユノヤはチャンミンをどう見てるっていうんだ」

「………」

「チャンミンはそれなりの度量はあると見込んでいるんだ。開花させてやってくれ。
これからもよろしく頼む」

そんな頼みは聞けないかもしれない。
なぜなら俺は…


「できる限りお側で…」

俺は…

「この命をかけてお守りいたします」

知らない間に俺は固く握り拳を握っていた。

俺は…認めざるをえない

こんなにも…

チャンミンが好きだ。




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月の王子さま(15)

ーーチャンミンsideーー


僕とユノはギクシャクしていた。

それに相反するように、僕はしっかりとしてきて
まわりからの評価も高かった。

跡取りの自覚ができたわけじゃない

ユノのとの距離をとろうと
僕は自分のことは自分でやっているので
自然とまわりからもそう見られているようになったそれだけの事。

皮肉だね

ユノと距離を置くほど、僕もユノも評価が高くなる。
僕たちはこうしてるのが一番いい関係なんだ。

だって、ユノだってそう望んでるのだから。

彼女が欲しくて、合コンに行ったのだろうし。
今思えば、そこに乗り込んで行くなんて
僕はなんてバカだったんだろう。

ユノはといえば、始終イラついているような様子だった。
本家へ呼ばれるのが近いしね。

そして、いよいよ本家への招集がかかった。

ユノは執事然として、僕の様々な準備に関わり
見事に仕事をこなしていた。

執事としても、教育係としても申し分なく
そして護衛も…

僕は本家に持参するお土産を購入しにデパートへ出かけることにした。

お祖父様が好きなワインも持って行ってあげたいし、
そして、従兄弟たちにも美味しいものを食べてもらいたい。

爺のお孫さんが本家の執事として働きはじめたらしいから、その子にはなにがいいかな。

「人混みをふらつくのは危険です。
デパートの外商部に頼んでカタログで購入しませんか?」

僕はユノの提案を拒否した。

「実際にこの目で確かめてから買いたいの」

「現物を持参させましょうか」

「種類もたくさん見たいから、直接僕が店に行きます」

僕が、店に行くと言い張ってしまった…

僕はユノの運転する車でデパートへ向かい
たくさんのお土産を買い込んだ。

外商部の営業の人がついてまわってくれて
配送してくれる、と言っていたけれど
ラッピングは自分でしたい物もあって
家にすべて持ち帰ることにした。

「駐車場までお持ちします。」
デパートの方はそう言ってくれたけれど

「大丈夫ですよ、執事がすべて持っていきますから。」

その時の僕は意地悪だった。

到底1人では持てない荷物をユノに持たせようと。
できない、とは言わないユノの性格を知っていて
ワザとそう言った。

なんて子供っぽく、馬鹿だったのだろう。

「大丈夫です」

案の定、ユノは顔色ひとつ変えることなく
すべての荷物を持って地下の駐車場へ行き、
車の荷台へ積み込んだ。

いくつもの荷物を肩にかけ、
ひとつずつ積み込むその姿に少し心が痛んだ。

僕は何をしているんだろう。
ぼーっと仕事をするユノを見つめていた。

その時だった。

隣の車から1人の男が静かに近づいてきた
僕はとっさに身構えた。

ユノからは車のドアでその男が見えない

「すみませんね、頼まれたもので」

男は静かにそういうと、懐から
木の棒を取り出した

ユノはその男の声にこっちを向いた。

その男が木の棒を振りかざすのと同時に
ユノは荷物をいくつも肩にぶら下げたまま、
車を飛び超え、僕を庇った。

男はメチャメチャに棒を振りまわし
そして去っていった。

あまりに一瞬の出来事で
何が起きているのかはわからなかった。

ユノが僕の前に飛び出てきてから
怖くて僕はずっと目をつむっていた

男は棒で殴りかかってきたというのに
痛みはまったく感じていなかった。

だって、ユノが…

ユノが、僕を庇って男に殴られていたから

僕は痛みなんてなかったんだ…

走り去る男を追いかけるユノが脱力して
駐車場の真ん中で崩れ落ちる姿が
まるで一連のスローモーションとして僕の目に写った。

ユノ!!!

次に僕の目に映ったのは
頭から血を流して倒れ、呻くユノの姿。

僕は泣きながらユノの名前を叫び
そこからはどうしたのか覚えていない

気がつくと、僕は病院の椅子に座っていた

隣には、お母様が座っていた。

「チャンミン大丈夫?
あなただいぶ錯乱して…ベッドに寝れていればいいのに」

「え?」

「かなり暴れていたのよ」

「そうなんだ…あ!ユノは!」

「大丈夫よ、検査も終わって、
一応ベッドに寝てるわ」

「大丈夫なの?」

「ええ、頭を殴られていたけれど
大きな問題はなかったみたい」

よかった…

僕は泣き崩れてしまった

「チャンミン、ユノは大丈夫よ」

「僕が悪いんだ」

「お母さんたちも悪いの。
最近なにもなかったから、油断して。
あなたが本家に出向くのを阻止されるのは
わかっていたのにね」

いや、僕が悪い。

ユノは出向くのは危険だと言ったのに、反抗したのは僕だ。
ユノにあんなに荷物を持たせなければ
ユノはあんな奴くらい簡単にねじ伏せられたんだ。

それでも僕を守ろうと。

ユノはあの時、給料のことなんて
きっと考えていなかったはず。

図書館での出来事だって
ユノは仕事じゃなくても、たとえ僕じゃなかったとしても、
ああやって身を挺して、守ってくれたんだと思う。

それなのに…

ユノが彼女を欲しがってると知って
僕は嫉妬したんだ。

僕のそばにいてくれるはずのユノが
僕から離れる時間を欲しがり、彼女を欲しがり

そんなことが耐えられなかったなんて

僕はどれだけ子供で、そしてどれだけユノが好きなんだろ。

「僕は主人として全然ダメですね」

「チャンミン…」

「ユノの病室はどこですか?」


病室のドアをノックすると
「はい」とユノの声がした。

元気そうなその声にホッとした。

そっと、ドアを開けると
頭に包帯を巻いたユノがこっちを見て少し緊張した顔になった。

「どうですか?ユノ」

「大丈夫です。チャンミンは落ち着きましたか」

「ええ、少し」

「ちゃんとした椅子がなくてすみません」

そう言ってユノは丸い椅子を僕に勧めた。

ベッドに座るユノと向かいに座って
まずは謝った。

「本当にごめんなさい」

「なにが?」

「護衛に荷物を持たせるなんて、
それではいざという時、仕事ができないのに
僕はダメな主人です」

「そうかもしれないけど
ダメな主人ではないですから」

「いや、ダメです」

「救急車を呼んでくれたのもチャンミンだし。」

「え?そうなんですか?全然覚えてない」

「ああ、興奮していて、救急車ではみんなチャンミンの世話をしていました。」

なんてこと…

「すみません…」

「うれしかったから」

「え?」

「いや、なんとなく。
最近給料やら時間やら、キッチリ分けられて
正直やりにくかったし」

「ユノ…」

「給料だけで動いてると思われるのもイヤだった。
でも、あの時、チャンミンは俺の為に一生懸命動いてくれたから、うれしかった。」

「だって…」

「本家に行く前にこんなことになって
申し訳ない…また騒ぎになるな」

「僕は本家ではちゃんとして、ユノに恥をかかせないようにします。
ユノの評価があがるようにがんばるから」

「そんなこと、がんばらなくていい」
ユノが眉間にシワを寄せ、俯いてボソッと話す。

「は?」

ユノが顔をあげた。

切なそうな瞳…
ユノの手がそっと僕の髪に触れる。

「髪だって、グシャグシャ。
毎日こんな髪で人前に出て。
せっかく綺麗な顔してるのに台無しだ」

フッとユノが優しく笑う

キリリとした表情が緩み、温かいその笑み。
涙で滲んで霞んでしまう

「ユノ…」

「さあ、もう遅いから…今日は屋敷に戻ってください。明日は早いですよ」

「僕は…」

「?」


「僕はユノが好きです」


「は?」

ユノの綺麗なアーモンドアイが見開かれた。



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月の王子さま(14)

ーーユノsideーー


なんてことだ

あの合コンから数日後、俺は屋敷の廊下を
走り出さんばかりの勢いで歩いていた。

チャンミンの部屋に向かって。

俺の片手には自分の給与明細。

階段を上がり
チャンミンの部屋の前まで来た。

あの夜から、翌朝の準備とスケジュール管理
そして髪を乾かすことまで、すべて自分でやりはじめたチャンミン。

この部屋に来るのは久しぶりだ。

俺はその扉をノックした。

中からバイオリンの音色が聴こえる
チャンミンが練習しているのだろう。

「はい」

「ユンホです。いいですか?」

「ユノ?どうぞ?」

ドアを開ける腕に思わず力を込めてしまった。

バイオリンをその華奢な肩に置く姿が目に入る。
印象派の絵画のようだ。

俺の勢いは行き所を失い、思わず握りしめていた
明細をひねり潰した。

「どうしたの?ユノ」

「ちょっといいですか?」

「はい」

「給与明細を本日いただきました。」

「はい」

「なんなんですか?これ」

「はい?」

「夜間手当とか、時間外手当とか
なんなのでしょう」

「ああ、それ」

チャンミンはバイオリンを指でなぞりながら
話し始めた。

「夕食以降にお仕事を頼んだ時は夜間手当。
僕の学校とボランティア、習い事以外で一緒にいてもらった場合は時間外手当をお支払いすることにしました。」

「一緒にいてもらった場合とは?」

「たとえば、この間、合コンの後観覧車に乗った時
迎えにきてもらいましたよね。
あの時間は時間外手当になります。」

「はぁ?」

怒りなのか、悔しさなのか、悲しみなのか…
とにかく熱い怒りの感情が俺の中に渦巻く

「髪を乾かしてもらった時間は夜間手当です。
今はもう僕は自分で乾かしているので
来月からはそのあたりが少し減るかもしれないけれど」

何言ってるんだ。
俺が乾かさなくなってから、毎日クシャクシャじゃないか。

「………」

「今度からそういうお金の事はキチンとすることにしました。お父様にも相談済みです」

「ふざけんな」

思わず…低く呻いてしまった…

「は?」

チャンミンは驚いて顔をあげた。
大きな瞳がまん丸になって俺を見つめる

「以前より格段にお給料は増えたはずです。
これからは、有給休暇もしっかりとってください」

俺は怒りと悲しさでどうにも自分を抑えられない。
もう爆発しそうだ。

「俺が金だけで動くと思ってんのか?
バカにするな」

チャンミンが悲しそうに顔を歪めた

「じゃあ、何でこの仕事をしているの」

「俺はこのシム家が好きだからだ。
大旦那様は両親を失った俺を見捨てず
大学まで出させてくれた」

「恩返しですか」

「…………」

「お祖父様への恩返しに僕のそばにいるんですか」

「………」

最初はそうだった。
面倒くさい仕事を押し付けられたと。

でも大旦那様からの直々の頼みだった。
命をかけてもチャンミンを守り、導かなければならないと俺は決めたんだ…

でも、今は………

「ユノは別に僕のそばにいたくている訳じゃない」

「なっ…」

「だったら、ビジネスライクにやっていきましょう。
僕は跡取り候補としてお父様の面目を潰さないように努力します。
ユノへのボーナスもきっと格段にあがります」

俺は自分の感情を表す言葉が見つからず立ちすくんだ。

なんと言えばいいのだろう。
この怒りと悲しさをどう伝えたらいいのか。

「私は、チャンミンが無一文になっても
側にいます。他で仕事はするだろうけど」

チャンミンがキッとした瞳で俺を見る。

「爺が言ってました。ユノは忠誠を誓うって。
本当に素晴らしいですね」

「大旦那様への忠誠なんかじゃない。
自分がそうしたくてしているんです。」

「………」

「たしかに、今はチャンミンの側にいることは
仕事といえば仕事で、給料をもらってます。」

「はい…」

「この間は、自分は友達や家族じゃないと言いました」

寂しそうに目を伏せるチャンミン。

「だったらもういい。私はこの仕事をやめさせてもらいます。」

「は?!やめる?」

チャンミンは思わず立ち上がってしまった。

「そうしたら、友達として俺と一緒にいてほしい。
大旦那様への恩は別の形で返すから」

「だけど…だけどそんなことになったら
ユノとはいつ会えるの?」

可愛すぎる…
なんてこと言うんだよ

寂しいくせに、無理してこんなことするから。

俺は胸がいっぱいになって答えられなかった。
湧き上がるこの感情にできれば気づきたくなかった。

そのうち、バイオリンの先生が来てしまい、
俺は使用人棟のキッチンへ行った。

「それでは後ほど」

何か飲んで落ち着こう。

キッチンにはミナがいた。

「ちょうど良かったユノさん。
お茶飲みませんか?」

「ああ、頼む」

「チャンミン様がね、私たち家政婦にって
美味しいお菓子を取り寄せてくださったんです」

チャンミンは自分が美味しいと思ったものを
みんなにも食べてもらおうと、そういう事をよくしている。

本当にいい奴なんだ。

「そう言えばミナ、この間の合コンでさ
俺の友達がミナを気に入ったみたいで」

「ドンへさん?」

ミナの顔がポッと赤らむ

「あれ?知ってるの?」

「ええ、もう何度かご飯を食べに行ってます」

「そうなのか!なんだアイツやるなぁ」

「はい、ありがとうございます」

「ま、よかったよかった。
アイツはいい奴だよ。おすすめだ」

俺はミナの淹れてくれた紅茶を飲んだ

「ユノさん、ひとつ聞いていいですか?」

「ああ、なんでもどうぞ」

俺はドンへの事を聞かれるのかと思っていた。

「ユノさん、チャンミン様が好きなんでしょう?」

思わず紅茶を吹き出す俺。
すかさずミナがタオルを手渡してくれた。

「あーびっくりした。何言ってんだよ」

「私、実はユノさんのことが好きで
いつも見ていたんです、ユノさんの事」

うん、なんとなく気づいてた。

「だから、わかるんです」

「………」

漏れてんのか、俺。

「いいじゃないですか、性別とか関係ないですよ。
あんなに綺麗なんですもの、チャンミン様」

「………」

「好きな人に仕えることができるなんて
素晴らしいじゃないですか」

「だけど…俺はチャンミンには近づけない」

「どうしてですか?いつもそばにいられるのに」

「俺がチャンミンにしてやることには
いちいち給料が発生するんだ」

「あーそうですよねぇ。それって悲しいですね」

「そう思うか?」

「それは…私たちとチャンミン様はやっぱり住む世界と立場が違うから、永遠の溝ですね」

ミナにハッキリ言われて、少し落ち着いた。

元々…どうにもならないことなんだ。
俺がこの仕事をやめたからって、どうにもならない。

「ビジネスライクに、と言われたよ」

「そんなぁ」

「一緒にいても遠いんだ。全然手が届かない。
永遠に触れられない」

俺はため息をついた。

「ユノさんにそんな事、そんな表情で言われたら
チャンミン様も全てを捨ててしまいそうだけど」

「ハハハ…どういうこと?」

「素敵ですよ、ユノさん…フフ」

ミナが入り口を見ている。
振り返るとチャンミンがキッチンの入り口に立っていた。

ここは使用人のキッチンなのに

「レッスン終わったのですか?」

「はい、なんか気がのらなくて今日は終わりと言われました」

ミナが慌てる。
「こんなところに何かご用ですか?」

「邪魔しちゃった?」
チャンミンはキッチンを見渡しながら呟く。

俺は毅然として言った。

「休憩時間なので、用事があれば
携帯に連絡していただきたいですけれど」

驚いたように目を見開いて俺を見るチャンミン。

「ユノさん!」
ミナが俺をたしなめる。

いいんだよ、ビジネスライクにいこう。

俺は椅子から立ち上がり、襟元を正した。

「で、今日はこれからどうしますか?」

「もう…用事はないよ。後は部屋で勉強する…」

俯きながらボソボソと喋るチャンミン。

そんなチャンミンの姿は抱きしめたいほど儚くて

笑ってくれるなら、幸せになってくれるなら
なんでもしてやるのに

すぐそこにいるチャンミンのなんと遠いことか。

俺は握りこぶしを緩めることができず
爪が手のひらに食い込んで血がでそうだった。



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月の王子さま(13)

ーーチャンミンsideーー


スヒョクはなかなかユノが行った店を教えてくれず
それでも最後は根負けして僕とミナを車に乗せてくれた。

車内では、僕とミナはずっと黙っていた。

よく考えずにこんな行動にでてしまったけど、
今は考えるのはやめよう。

店に近づくにつれ、だんだん緊張してきた

やがてスヒョクが一軒の店の前に車を停めた。

「ここです。1時間後にはお迎えにあがります」

「ありがとう、スヒョク
さあミナ、行きましょう」

「はいっ!」

僕はミナと連れ立って地下へ続く店の階段を降りた。

店名が書かれたガラスの扉を開けて
まわりを見渡す。

見つけた、ユノだ。

右手の角の席に、男3人女3人で盛り上がるグループ
その真ん中にユノはいた。

僕とミナは穏やかにそのグループに近づいた。

「みなさん、こんばんは」

そう声をかけると、まず女の子たちが驚いて
「キャッ」と声をあげた。

男2人は「だれ?」と言った表情。

「チャンミン…」

ユノが目を見開いている

僕はニッコリと微笑んだ

「僕たちも仲間に入れてもらえませんか?」

「は?」

「これは合コンというのでしょう?
男女の人数が揃っていれば問題ないですよね。」

「チャンミン…なんで…」

「興味があって来てみました」

「いいわよー!一緒に飲みましょうよ
席なら、ほらここに座って。ね?」

呆気にとられている男3人をよそに
女子たちは快く迎えてくれた。

ユノを見ると1人の女の子がその隣を確保して
何かと世話を焼いていた。

僕には2人の女の子が交互に話しかけてきて
ミナは2人の男に酒を注いでもらったりしている。

僕はユノに話しかけたかったのに
それは叶わず…

ユノも隣の女の子に酒を注いだりしている。
その子は何かとユノの身体に触れ、
ユノの肩に頭を預けたりもして。

ユノはそれを拒否するでもなく、その子のしたいようにさせている。

意外なユノの姿だった
女の子に触れさせたり…そんなこと
ユノは平気なんだ…

僕はイライラした。
無性に腹がたつ…一体何に腹がたつのか、自分でもよくわからない。

それが嫉妬であることは、薄々感づいていたけれど
今、それを認めたら冷静ではいられない。

隣の女の子が僕にしなだれ掛かる

「チャンミンって言うの?王子様みたいねチャンミン」

「王子さま?」

「品が良くてステキだわ。彼女はいないの?」

「彼女がいる人は合コンには来ないのでは?」

「そうよね、うん、そうだわ。
なんて誠実なのかしら。ほんとステキ」

その時、乱暴に右腕を後ろに引き上げられ
僕はバランスを崩しそうになりながら椅子から立ち上がった

引き上げたのはユノだった。

険しい表情。鋭い目がそのサラサラした前髪の中で光っている。

「こっち来て」

僕が女の子と仲良くしていて嫉妬してくれたのかな
そんな都合のいい期待を抱きながら、引っ張られるがままついて行った。

ユノは僕の腕を引いて、店の奥、スタッフが出入りする入り口まで連れて行く。

「どういうつもりだ?」

ユノの目が完全に怒っている

「ユノが合コンというのに行ったと聞いたから
どんなものなのかなって」

「だったらなんだ。俺が合コンに行ったらどうだっていうんだ」

「合コンってどんなものか知らなかったし
ユノが彼女を…」

「これは俺のプライベートだ。
休暇を取ると許可を得たはずだろ」

「プライベート?許可?」

「いくら主人でも、使用人のプライベートまで立ち入ったらダメだろ?」

「使用人?」

「俺はシム家の使用人なんだ」

「ユノが使用人だなんて…僕は…そんな風に思ったことなんかないよ…」

「たしかにイ執事は、公私共にすべてを捧げて尽くしたかもしれない。でも俺はちがう。
俺は使用人であって、友達や家族じゃない!」

ユノは怒りでその前髪が震えている

頭から冷水を浴びせられたような、とはこういう事を言うのか。

ユノの言葉が僕の心に氷の矢のように突き刺さった。

「ユノ…」

今まで、何度となくユノから言われてきた。
自分と爺とは違うのだと。
自分を爺だとは思わないようにと。

ユノは…仕事だったのだ。

僕は悲しそうな顔をしてしまったのだろう。
ユノがハッとした表情で僕を見る。

「俺は…」

「………」

それは正論だった。
僕とユノは雇う側と雇われる側

ユノは僕の側にいる対価として
お金をもらっているんだ。

側にいてくれるのは仕事だからなんだ。

友達や家族じゃない…
はっきりとそう言われてしまった

そんな当たり前のことに
今更気づいた。

「俺は………」

ユノは申し訳なさそうに
その次の言葉を探していた

「ごめんなさい…」

「チャンミン…」

「ユノは正しいです」

「え?」

「僕にしてくれる事は、それは全部ユノにとってはあくまでも仕事で」

「いや、そんなふうに思ってない」

「そういうことでしょう?
今はユノのプライベートな時間だから
僕が立ち入ったらいけなかったんだよね?」

「………」

「爺があんな感じだったから
僕はすっかり勘違いしちゃって…」

また泣きそうだ
でも、今は泣いたらダメだ。


「僕は傷つかないから大丈夫。
だってユノの言ってる事はもっともだから」

僕は無理に笑ってみた。

ユノがまた悲しそうな顔になって何か言おうとした時

スヒョクが来た。

「そろそろお帰りにならないと」

「ありがとう。もう帰ります。
ミナにも声をかけてもらえますか」

「俺も帰る。助手席空いてるか?」

「ユノはここにいてください。」

「帰るよ。もう遅いし」

「ユノの隣の女の子が寂しそうなので
戻ってあげてください。
せっかくのプライベートな時間なんだし」

「チャンミン、誤解してるようだけど」

「あの隣の子はきっと彼女になってくれます。
ユノをかなり気に入ってるようですよ。
明日はいつも通り起こしてくれれば大丈夫なので。
今夜は楽しんでください」

僕はそう言い切ると、もうユノの顔を見ずに店を出た。

僕はミナを屋敷の使用人棟に送り届けてから
スヒョクに無理を言って丘の上に連れていってもらった。

「チャンミンさま、私がユノさんに叱られます」

「僕がワガママ言ったってことで
お父様にも伝えるから大丈夫だよ」

「はぁ」

「もう帰っていいよ」

「いや、それはできません。」

「じゃあ、巻かれたってことで、ね?」

「できません」

「じゃあ、わかった。
僕はこれから観覧車に乗るけど
係のアジョシに送ってもらうからさ」

「確かな人物なのでしょうか」

「ほら、来た、あの人だよ
いつも送ってもらってるし、ユノも知ってるよ」

アジョシは笑顔でやってきた。

「ねぇ、帰りは送ってくれるよね?」

「もちろんですよ。私が責任持ってお送りします」

「ほら」

「…そうですか。ユノさんが知ってるなら…
くれぐれも気をつけてくださいね」

「今日はありがとう、スヒョク」

実は、アジョシは車を運転できない。

でも、僕が1人になりたい時にここへ来ることをよく知っていて話を合わせてくれる。

「今日はね、
クッキーのセットを持ってきたよ
あと、これに合う紅茶もね」

「チャンミンさん、こんな事しなくてもいいんですよ」

「そんなこと言わないで。
無理させてるんだから」

「こんなことしなくても、
私はチャンミンさんが観覧車に乗りたいなら
いつでも動かしますよ。
いろいろとあるのでしょう?」

「アジョシ…ありがとう」

僕はふと、学食の一件を思い出した。
施しをしなくても何かをしてくれるのは
本当に僕を思ってくれること。

ユノがそう言ってた。

アジョシは観覧車に乗りたくなる僕を
理解してくれている。

それならユノはどうなの。

ユノは給料を支払わなければ
僕の側にはいない。

そういう事だ。

友達や家族じゃない…

ユノの言葉が耳から心から離れない

観覧車に乗りながら、いろいろと考えを整理した。

ユノが僕の髪を乾かすのも
朝、起こしてくれるのも仕事。

じゃあ、図書館で身を挺して守ってくれたのも仕事?
そういうのを仕事にしている人もいるか。

僕の涙を拭ってくれたのも、
病院で僕を抱きしめてくれたのも仕事。

お金をもらってるから、していることで
僕が貧乏になったら、きっと離れていくんだね。

学食での事だってそうだった。
ご馳走できないとなったら、みんな離れていった。

ユノはいくらお金をもらっているのだろう。

僕が爺に会いたくて連れていってくれたのも
残業届けとかだしていたのかな。

なんか、シラケちゃうな…

いろんな事を考えていたら
観覧車は一番上まであがっていた。

広がる町の夜景

この中にはきっと
利害関係なく本当に心から一緒にいたい人同士が
一緒に暮らしているんだ。

ほとんどがそういう人達ばかりなんだろうね。

僕はどうかな。

僕のことが本当に好きで一緒にいてくれる人なんて
いるのかな。

きっと教会の子供たちは僕のことを
いつも楽しみに出迎えてくれてるはず。

ミノとキュヒョンはお金を払わなくても一緒にいてくれる。

お兄さまはどうだったんだろう。

僕を本当に可愛がってくれたのは
やっぱりお兄さまだったのかもしれない。

僕はなんにもしなくても側にいてくれる人を
数え始めた。

いい方に考えよう
僕はひとりぼっちなワケじゃない。

でもユノは…

だんだんと悲しみが心に溢れてきた

ん?ユノ?

降り行く観覧車の窓から見降ろすと
アジョシではない長身の男の人が観覧車を見上げている

地面にすべり降りる観覧車

アジョシに開けてもらうと、そこにはユノ。

「ユノ、どうしたの?」

「帰ろう、チャンミン」

「は?」

「俺、酒飲んでるから運転できない
タクシー待たせてあるから、帰ろう」

「ここにいる事、誰から聞いたの?」

「誰にも聞いてないよ、たぶんここだろうって
勝手に思って寄ってみた」

「ユノ………」

「とにかく、帰ろう」

普通の話し方をするユノはとてもかっこよくて
いつもこんな風に話してくれたらな、と思った。

でも、そんな風に甘えてはもうダメだ。

ユノと僕はお金で繋がっている。
そう心に植え付けた。

そこを割り切らないと、僕は泣いてしまう

「わかりました。帰りましょう。」

タクシーの中から、町の景色を眺めた。

酒に酔って楽しそうな仲間たち
幸せそうなカップル

羨ましいな。

「チャンミン…」

隣に乗るユノが僕に話しかける

「はい」

僕は窓の外を見たまま返事をする。

「さっきは申し訳ありません
無礼な口のきき方をしました。」

「そんなこと、気にしてないよ」

「そう…ですか?」

「………」

「それに言い過ぎました」

「そんなことないよ、ユノは事実を言っただけ…」

「チャンミンは勘違いをしているようだけど…」

ユノはシートから身体を起こして僕の方へ向き直る

「どんな勘違いだっていうの?
ユノが僕の執事や護衛を仕事にしてて、
きちんとお金をもらってるってことで何も勘違いはないよ」

「俺はそんな風に割り切ってチャンミンの側にいるんじゃない」

「割り切ってるから、プライベートがあるんでしょう?」

「………」

「もうわかってるから….」


その夜は自分で髪を乾かした。

ユノは何か言いたそうに部屋に残っていたけれど
黙って部屋に戻っていった。



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月の王子さま(12)


ーーチャンミンsideーー



爺の姿を見て凹んでしまった僕を
ミノとキュヒョンが元気づけようとしてくれた。

ひさしぶりに3人で学食でランチ。
僕はこの学食が大好きだ。

お金やカードではなく、食券を買って食べ物と交換する。
このシステムが子供の遊びっぽくて、お祭りのようで楽しい。

ユノは僕たちから少し離れた席で1人で食べている。

もうキュヒョンたちとも顔見知りだから一緒に、と誘うけれど…頑なに断られる。

ユノはカッコいいから、女子学生から人気があるらしい。
密かにファンクラブが出来ているという話だ。

ダークなスーツを着こなし、
モデルみたいな長身のスタイルとキリッとした顔立ち。
さりげなく品のいい食事の仕方。
そして、全身から溢れる大人の男の色気。

そんなユノがひとり学食で食事をする、というアンバランスな感じもまたいい

ユノは僕のちょっとした自慢だ。

でもユノは近づくなオーラを発動してるから
1人で食事をしているというのに誰も近づけない。

女子たちは遠巻きにユノを見ている。

そんなユノに僕は守られ、毎晩髪を乾かしてもらい
翌日の支度を整えてもらう。

「少しずつ自分でできるようにならないと」

そう言いながら、結局は僕を甘やかしてくれるユノ

毎日、僕のお小遣い帳をチェックして
キチンと出来た時は、褒めてくれる。

その時の綺麗な笑顔といったらない。
なんともくすぐったい思いが心の中に溢れる。

実は、この間爺のお見舞いでユノに強く抱きしめられ

僕は少し気づいてしまったんだ…

ユノの事が好きかもしれない

どうしよう、と思いながらもニヤニヤしてしまう。

キュヒョンが僕の顔を覗き込む

「なんかいいことあった?」

「いや、別に」

「チャンミンは本家にいつ行くの?」

「ああーそれ」

僕はため息をつく。
思い出させないでほしかったなぁ

「夏休みだから長いこと行くの?」

ミノがデザートのプリンを食べながら聞いてくる。

「1ヶ月くらいかな。いやだなぁ
なんだかテスト合宿みたいだよ」

「でも、チャンミンは少し変わったよ」

「え?ほんと?」

「特にお小遣い帳つけだしてから、しっかりしてきたし、なにしろヘアスタイルが毎日カッコいい」

あ、これね

ユノが毎晩、翌朝大変じゃないようにドライヤーで
整えてくれてるから。

でも…本家に行くのは憂鬱…

以前はそれでもジホお兄さまに会えるのが楽しみだったのに、最近はそれも…

ま、ユノが一緒だからいいか。

爺も一緒に行けたらよかったのに。

先日の管に繋がれた爺を思い出すと、
やっぱりつらい。


「そろそろ婚約って話も出てくるだろうねぇ」

キュヒョンがニヤニヤしながら僕をつつく。

「えーまだでしょ。大学も卒業してないのに」

「良家のご子息は在学中に婚約するさ」

「ふうん、まだ興味ないな」


今日の講義はすべて終わり、家に戻る途中
本家の事をユノに聞いてみた

「来週から1ヶ月ほど本家に参ります。」

「ユノも…でしょ?」

「はい、私もです。」

「なんだか、憂鬱だな
お父様もお母様も、すごく神経質になってる」

「仕方ありません。
チャンミンの一挙手一投足で何か言われるのは
旦那様ですからね」

「プレッシャーだなぁ」

「私がついてるので大丈夫ですよ」

ユノが…ついていてくれる
そう言ってくれるだけで、ニヤニヤが止まらないんだ。

「今夜は私は休暇をいただいて外出するので
明日の支度と髪を乾かすのはご自分でしてください」

「休暇?」

「私も休暇はとりますよ?」

ユノがバックミラーをちらりと見やって微笑んだ

え?休暇って…

そうか…

ユノは仕事で僕についてくれてるんだもんね

でもなんかそれって…

仕事か…違和感だな。

家に戻ると、ユノの代わりに屈強な若い男性が挨拶に来た

「今夜の護衛をさせていただきます、カン・スヒョクです。」

「よろしくね。護衛だけだよね?」

「はい、執事の仕事は正直自信ありませんが…」

「いいよ、それで。ありがとう」

スヒョクに髪を乾かしてもらいたくはないな。

ユノが僕の髪を触るのは全然平気なのに
他の人がそれをするのは考えられない。

やっぱりユノは僕にとって特別なのかもしれない。

そんなユノは今夜どこへ行くんだろう。

夕食が終わってスヒョクと廊下を歩いていると
窓の外で話し声がしている

ふと見ると、そこには見知らぬ男がいる
でも、その声はユノの声だ。

あれ?ユノ?

ジーンズに黒いポロシャツ
革のサンダル

いつもキッチリとあげられた前髪が
サラリと顔にかかっている

髪型が違ってわからなかったけど
やっぱりユノだ。

ラフな格好だけど、長い脚にジーンズがよく似合い、シンプルなポロシャツが逞しい肩まわりにフィットして、かえってそのスタイルの良さが引き立つ。

ユノは他の執事に何か言って、門の方へ歩いて行った。

「スヒョク」

「はい?」

「ユノはどこへ行くって言ってた?」

「フフフそれが…」

「?」

「合コンだそうです」

スヒョクは何がおかしいのかニヤニヤしている。

「合コンってなに?」

「あ…えっと。男女が同じ人数で集まって…その」

「………」

「なんというか、あの…ユノは彼女が欲しいみたいで」

「は?彼女?」

僕の大声にスヒョクは驚いたように息をとめる

「どうして彼女なんて欲しいの?」

「さあ…男だからですかね…
先日から彼女を作らないと、と申しておりました」

あまりに当たり前の質問なのか戸惑うスヒョク。

面白くない…

「ふうん…じゃ今夜彼女ができるといいねっ!」

「ユノならすぐ出来ますよ。
あいつモテますし。」

面白くない…

彼女ができたら、こうやって夜は休暇をとったりするのだろうか。

なんだろうな、とにかく面白くない

僕は憮然と部屋に戻ろうと早足になった。
急な早足にスヒョクが驚いてついてきた。

ふと階段の下で、家政婦のミナに出くわす。

ミナは僕に頭を下げたけれども
僕と同じように少しムッとした顔をしている。

「ミナ」

「はい?」

「ユノは今夜、合コンだそうです」

「あ、はい」

知ってるんだね、ミナ。

「なんか男女同じ人数で集まるようです」

「は?あ、合コンですからね?はい」

「僕たちも参加させてもらいましょうか?」

「は?チャンミン様と私ですか?」

ミナがびっくりして後ずさりした。
僕はそんなミナに一歩詰め寄る

「そうです。男女同じ人数ならいいんでしょ?」

「いや、でも呼ばれてないし、席もないだろうし」

「座るところがなければ、店を変えればいいんですよ」

「チャ、チャンミンさま…」

「ユノに今夜彼女ができるかもしれないんですよ?
それでもいいのですか?」

「わたしはっ!」
狼狽えるミナ…

「いいんですか?」

「………」

「僕はイヤです」

「は?」

ミナとスヒョクが驚いている。
自分で言って、僕も驚いた。

「よくわからないけれど、ユノに彼女ができるのはイヤなのです」

「………」

僕は何を言ってるんだろう
2人とも引いてしまって言葉が出ないじゃないか

「あ、だって…これから僕はいろいろ学ばなければいけないのに…ユノが上の空では…」

「たしかに…そうですよね」

「………」

「チャンミンさま、行きましょう!合コン」

ミナが決心したように言った。




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拍手コメントもありがとうございます。
お返事できなくてごめんなさい。
でも、読ませていただいてます。
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月の王子さま(11)

ーーチャンミンsideーー



あれからジホお兄さまから連絡はなかった。

仕方ないけれど、少し寂しかった。

でもその寂しさは、お兄さまが、というよりは
そばで僕を愛してくれる人がいなくなった寂しさ
そんなものかもしれないと思った。

爺もいないし、お兄さまも離れて………

ユノは…
ユノはほら、僕に優しくないし。

そう思いながらも、観覧車の中で僕の頬を包んだあの手の温もりと、優しい瞳が蘇って少し慌てた。

あれは何だったんだろう

ふと人恋しくなって
僕は爺のお見舞いに行くことにした。

爺が入院してから、何度かお見舞いに行こうとしたのに、
お父様がなんだかんだと用事を入れたりして
行く機会がなかった。

とりあえずは元気だと聞かされてるけれど
やっぱり会いたい。

爺だって、僕に会いたいはずだ。
ずっと側にいてくれた大好きな爺だから。

こうなったら、お父様には言わずに行こう

「ユノ、今日は爺のお見舞いに行くから
大学の後、病院へお願い」

さあ、大学に出かける、という段になって
僕はユノにお願いした

「………」

「ユノ?」

「それは…出来かねます」

「どうして?」

「実は旦那様から、チャンミンを病院には連れて行かないように言われています。」

「なに?どういうこと?」

僕はその理由を聞きたいような聞きたくないような
なんとも複雑な気持ちになった。

「詳しくはわかりません。
旦那様からは、イ執事は闘病中につき
面会は避けるように、としか聞いていません」

「お見舞いっていうのは、闘病を励ますために
行くんだよ?」

「ですが、お見舞いは行っていい場合とよくない場合があるのです。
安静にしていなくてはならない患者にお見舞いは負担になります」

「僕が負担になるわけないじゃん」

「チャンミンだから負担なるって事もあります」

「なにそれ」

「会いたいだろうけれど、泣かないで…」

「え?泣いてなんか…」

ユノはそっと僕に近づき、その綺麗な手で僕の頬の涙を拭った。

僕はまた泣いてた…

「イ執事は弱ってる姿を貴方に見られたくないはず」

ユノの綺麗な瞳が僕を慰めるように哀れむように見つめる。

「そんなふうに爺が弱ってるみたいな言い方しないで。
つい最近まであんなに元気だったじゃないか」

「チャンミン…」

「もしかして、ユノは爺に会ったの?」

「………」

「どうして?
僕は入院の手伝いにも行かせてもらえず
お見舞いはもう少し待ってと言われていたから
我慢してたのに」

「チャンミン…」

「なんで僕だけダメなの?
僕が爺に一番近しい人間じゃないか」

「貴方はイ執事のご主人です」

「仕事の関係だっていうの?」

「そうです」

「僕たちはそんな関係じゃないよ!
ユノは…ユノはなんにも知らないくせに」

「………」

「ううっ…」

「………」

「ひどいよ…」

僕は悲しくて辛くて…
その場に座り込んでしまった

僕と爺の絆を…ユノはなんにも知らない

優しくて温かい爺
僕は爺がいれば怖いものなんてなんにもなかった

怖くて眠れない夜は枕を抱えて
使用人棟の爺の部屋を訪れた

優しく出迎えてくれて
その暖かい布団の中にいれてくれた爺。

ユノは…そんなことできないでしょう?


「もう大学へ行く時間です。
そんなことでは、余計にイ執事は心配で良くなるものもなりませんよ」

「爺は僕の様子なんて知らないんだから。
だったら、泣いてたって大学行かなくったって
どっちでもいいじゃん」

「完全な駄々っ子ですね」

「………」

ユノがため息をつく。

「イ執事は…いい状態とは言えません。
正直、見るに堪えない姿です」

「………そうなの?」

「それでも、その姿を見たいですか?
もし覚悟があるなら、会わせることはできませんが
ガラス越しに見せることは出来ます」

僕は一瞬躊躇した…

どんな姿なのか…

「どんな姿でも僕の爺だから」

ユノは黙って頷いた

「ではまずは大学へ行きましょう」

その日の講義は少し上の空だった。
爺との優しい穏やかな日々を思ったり
今の姿を予想して怯えたり…

そしてその日の講義が終わるとユノが迎えに来てくれて、病院へ行った。

大きな病院の入院棟に入っていく

「ICUに入ってる状態です」

「そんなに悪くなってるの…」

「もう手術ができる状態ではありませんでした。
ほら、あそこのガラスの向こうです」

廊下突き当たりにガラスが貼ってあり
その向こうに白いベッドが見えた。

僕は恐る恐る近づくと
そのベッドの上に、様々な管に繋がれた爺が確認できた。

すっかり小さくなってしまった爺。

「爺…」

僕はガラスの前まできて、その中にいる爺に
小さな声で呼びかけた。

爺は眠っているの?

意識がないなんてことはないよね

ちゃんと爺の姿を見ようと思っていたのに
涙で霞んで、その姿がよく見えない

僕は片手で自分の口を押さえ
嗚咽を耐えた

こんなに爺は具合が悪かったのに
僕は側にいて何も気付かなかったなんて。

「ううっ…」

ガラスにおでこを擦り付けて泣く僕の肩にユノがそっと手を置く。

「…僕は…なんにも気付かなくて」

「チャンミンのせいじゃない」

ユノが低い声で囁く。

「爺に我慢させちゃったね…
僕はなんにも知らずに、気づかずに
爺に髪を乾かしてもらったり、世話焼かせたり」

「チャンミン…」

「ううっ…うっ…」

「執事は、できるだけ長く貴方の側にいたかったんだと思います。貴方の世話をすることが執事の生きがいだったと思います。」

「ユノ…」

ユノは眉間にシワを寄せ苦しそうな表情で
僕を見つめる

そしてその手が伸びて僕の後頭部を抱える

僕はそのままユノにそっと抱き寄せられた

「体調が許す限り、貴方の側にいようとしたんだ」

「………」

「こんなにも純粋で壊れやすい貴方を…」

「………」

「1人になんて…させられない…
ほうっておけない…」

僕はふんわりとユノの胸に収まり
そしてギュッと抱きしめられた

「爺は僕の側にいたいかな…今もそう思ってるかな」

「思ってるはず…だから、ギリギリまで入院しなかった。貴方が20歳の誕生日まではと」

「ううっ…」

「私はとてもじゃないけれど執事の代わりにはなれない…でも…」

僕を抱きしめるユノの腕に力がこもった。

「側にいるから…
少なくとも、怖い思いは絶対させない」

僕はユノの胸でひとしきり泣いた



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月の王子さま(10)

俺はジホから奪い返したチャンミンを広間のパーティへ戻した。

さっきまでチャンミンを抱きとめていた胸が
その温もりを恋しがって呻く。

チャンミンは一度こちらを振り向くと
寂しそうにみんなの和に戻っていった。


なぜかイライラが止まらない

ジホはチャンミンを…連れ込もうとした。
さっきの事を思い出すと、身体が怒りに震える

俺は自分の立場を呪った
なんでチャンミンが部屋に連れ込まれそうになるのを黙って見ていなければならなかったんだ。

悔しかった

何に対する、どんな種類の怒りかなんて
そんなことはどうでもいい。

腹が立つことには変わりないのだから。

心の奥から抑えても抑えきれない怒りが沸き立つ

その熱のぶつけどころがなく
俺はさらにイラついていた。

自分で自分を慰めた。
それでもチャンミンは俺を呼んだのだから。

「ユノ」と小さく発したその声に
俺の身体が反応した。

俺に助けを求めてくれたんだ。
信頼してくれたのだから。

やっと呼吸が整ったところで
広間を見渡すと

チャンミンが俺のところに来るのが見えた。
どうしたんだろう

「なんですか?」

「車出して欲しいんだ」

「どこへ行くのですか?」

「丘の上に連れて行ってほしい」

「は?」

「丘の上だよ」

「丘の上は遊園地ですよ?もうこんな時間では…」

「今、連絡してもらってる」

「なにをですか?」

「観覧車を開けてもらってるんだよ」

「観覧車?」

「そう。係員のアジョシとは仲良しだから」

なんでこんな夜中に観覧車に乗るんだ
なにも見えないじゃないか

急かされて俺は着替える時間もなく、車を出した。

夜の街中をぬけて車を走らせる
流れるようなネオンがチャンミンの寂しげな瞳に映る

そんな様子を俺はミラーを通して盗み見ていた

その澄んだ綺麗な瞳で何をみているのだろう。

どうしてそんなに悲しそうなんだ。
なにか辛いことでもあるのだろうか。

可愛い唇は何か歌を小さく歌っているようだけど
車のエンジン音と外の喧騒で聞き取れない。

丘の上に着くと、真っ暗な中に
きらびやかな観覧車が浮かび上がる

だれも乗っていない夜の観覧車。
なんとも幻想的だった。

係のおじさんが、なんどもチャンミンにお辞儀をしている。
わざわざ観覧車を動かすために
呼びつけられたのだろうか。

遊園地の入り口には鍵をかけて、
誰も入ってこないようにしてもらっていた。

チャンミンはおじさんに何か包みをたくさん持たせている。
お菓子やぬいぐるみ、酒なども渡していた。

家族も含めた心付けか?
おじさんだって、そんなに持てないだろうが。

でもこういうところがチャンミンなんだよな

相手にできるだけ、たくさんの事をしてあげようとする。

可哀想な環境にある人とか
困っている人、お世話になった人

お坊ちゃんだけど
誰かに何かしてもらうことを当たり前とは思っていない。ちゃんと感謝できる。

この短い期間の勤務で
俺が意外だったことのひとつだ。

チャンミンはニコニコ顔で観覧車に乗り込む

乗り終えたところで、チャンミンは顔をだして
俺に大きく手招きをする

え?俺も乗るのか

「私は結構です」

「なに言ってるの、護衛でしょ?」

「はぁ…」

「僕が勝手に鍵を壊して落ちるとも限らないよ」

「はい…」

観覧車なんて、小さい頃乗ったきりだ。

大男2人で乗って、バランスとれるのだろうか。
いろいろと気になる

ガタンと音がして、観覧車が動きだした。

タキシードのままの俺とチャンミン

向かいに座るチャンミンは
外を見つめている

長い睫毛、白い肌、大きな輝く瞳

俺はその美しさに吸い込まれそうになり
上がる観覧車の中で
ぼーっとチャンミンを見つめていた

なぜか寂しそうなチャンミン
そんな表情もまた綺麗だ。

「僕ね、たまにここへ来るんだよ」

「どんな時に?」

「心がごちゃごちゃした時」

「そんな時があるんですか…」

「あるよ、イヤな事も僕なりにいろいろある」

「そうかもしれないけど」

「高いところからね、人びとが生活する様子を
想像するんだ。
みんなの今日はどんな日だったんだろうって。」

なんだかチャンミンは昔読んだ本の主人公に似ているな。

可愛くて純粋で
少し寂しげな主人公

なんだったっけ…

どこかの王子さまだったような…


「チャンミンの今日は?」

「気づいてしまった今日…かな」

「なにに?」

「それは内緒」

「そうですか」

「知ってたと思うけど…
僕ね、いつもジホお兄さまとキスしたりしてたんだ」

「………」

俺の胸の奥がチリッと焼けるように痛む

「大好きなの、お兄さまが」

その言葉に、俺の吐くため息が熱を持っていることに気づく。

「その事に改めて気づいたって訳ですか?」

「………」

こんなこと聞くために、俺は観覧車なんか乗って…

「わからなくなった」

「…」

「お兄さまが好きなのかどうか、わからなくなった」

「そもそも男じゃないですか、ジホ様もチャンミンも」

「そんなこと…関係ないよ。
好きになるのに、性別なんか関係ない…」

チャンミンの俺を見つめる目が特別に見えた。
それは勘違いだろうか。

「ま、関係ないかもしれませんね、憧れとかもあるし」

「憧れね…」

そう言ってまた外を眺めるチャンミンの横顔。

かなり高いところまで観覧車は上がって
夜空が近くなったように見える

星が瞬いて、もう少しで手に取れそうな錯覚を起こす。

その時、雲が晴れて
真っ暗だった夜空が月の光で明るくなった

観覧車の中にその光が差し込み
チャンミンを照らした。

月が柔らかく照らすその儚い横顔

その心にはジホがまだいるのか

キスをしたりしているだって?

あんな心根の汚いやつに
チャンミンを汚されてたまるか

そう思うと、切なくなって
チャンミンを綺麗なまま、大事にしたいという思いが湧き上がる

たまらない…

俺はふと片手を伸ばし
とうとうその頬に触れてしまった。

チャンミンはひどく驚いた様子で
狼狽えながら俺の手のひらの中でじっとしていた。

やがて観覧車はゆっくりと下がり始め
次第に街の明かりと観覧車のそれが溶け合って

いつもの街、いつもの丘の上に戻ってきた。

「…すみません
顔なんか触って…」

俺は大して謝る気もなかったのだけれど
ここは黙っているわけにもいかなかった。

チャンミンは黙っていた。

車に乗って帰宅する中でぽつりとチャンミンが呟いた。

「僕がユノの大事な誰かに似てるとか?」

「大事な誰か、ですか?」

いきなりそんな話をされて
俺はどう理解していいのかわからなかった。

「ユノはそんな顔をしてた
僕の頬を撫でた時」

「そんな人はいません」

「ミナじゃないの?」

「は?ミナとは、家政婦の?」

「そう…ユノの大事な人じゃないの?」

「その大事な人の定義がよくわかりませんが、
仲間という意味では大事な人です」

「仲間?」

「同僚、でしょうか。」

「ふうん」

そのうちチャンミンのおしゃべりはなりを潜め
代わりにスースーと安らかな寝息が聞こえてきた

チャンミンの頬を撫でてしまったのは
やはり失態というべき行いなんだろうな。

チャンミンは逃げ場のない観覧車の中で
俺に頬を撫でられても激しく抵抗できなかったはずだ。

俺はなんてことをしてるんだ

もう一度ミラーを覗くと
天使のような寝顔が映っていた

月の王子さま(9)

ーーチャンミンsideーー


ユノに髪を乾かしてもらって
僕は気持ちよくてウトウトとしていた。

「チャンミン、明後日は旦那様のお誕生日パーティです。顔のわかる方だけ入れるようにしています。」

「そうだね、うん」

「ミノやキュヒョンも呼んで大丈夫です」

「ほんと?いいの?
喜ぶだろうなぁ!ドレスコードは?」

「旦那様のお祝いなので、それなりに」

「わかった!そこはきちんと言っておくね」


そして、当日。

僕はミノとキュヒョンを玄関で待っていた。
そして次々と来るお客様のお出迎えもしていた。

「チャンミン」

優しく呼ばれて振り向くとそこにはジホお兄さま!

「あ、お兄さま…」

「ひどいなぁ、チャンミン。
私を出迎えてはくれないの?」

なんてことだ…
僕はお兄さまの事をすっかり忘れていた

招待されているかも気にしてなかったなんて。

「お兄さま、ごめんなさい…」

「いいんだよ、図書館の件は聞いてたしね。
大変だったね、チャンミン」

「あ…うん…」

お兄さまの事をこの数日間…いや、もっと長い事
考えていなかった…

その事に自分自身で戸惑っていた



パーティは和やかに始まり
僕は楽しく過ごしていた…

なのに…

僕が目で追うのは…ユノ…

タキシードを着こなし
イヤモニターをつけていなければ、護衛だとは思えないだろう。

本人は目立たぬよう振舞っているつもりなんだろうけど

あまりにカッコよすぎて、令嬢たちの視線が半端ない

将来の伴侶をそれなりのステータスで選ぼうと
粧し込んでやって来た令嬢の策略を
無意識にかき乱しているユノ。

やがてご機嫌になったお父様がお母様を連れ立って
広間の真ん中でダンスを始める

毎度の事だ。

照明は暗くなり、音楽はムーディになる。

「今日は執事たちもみんな、ほら
踊って踊って!」

お父様の悪いクセ。

促された家政婦や執事達が戸惑いながら広間に出てくる。

まさか執事が客人と踊るわけにはいかないし。

お父様ったらいきなり皆に踊れって
みんな困ってるじゃないか

するとあの家政婦のミナが少し照れたように
ユノに近づいた。

え…うそ…

背の高いユノは警備用のイヤモニを外してかがみ
ミナの話を聞いてやっている

そのうちユノは頷いてにっこりと微笑み
ミナの手をとりその小さな肩を抱え込んで
音楽に合わせて、ゆったりと身体を揺らし始めた。

ミナと踊るユノ…

僕の護衛はどうしたの?

僕の執事じゃないの?

僕をこういう集まりで教育するのではないの?

いったい、何をやっているの


「ユノが気になる?」

いきなり耳元で囁かれて
僕は驚いて振り向いた

ジホお兄さま…

「気になるって訳じゃないけど
あんな事があった後で…護衛としてどうなのって」

「ほんとだね、家政婦とダンスなんて
その間になにかあったらどうするつもりなんだろうな」

「………」

「チャンミン、2人きりになれる部屋へ行かないか」

「そうする。行きましょう、お兄さま」

僕はお兄さまの手にぶら下がるようにして
ミナと踊るユノの横をこれ見よがしにすり抜けた

ユノがすぐにそれに気付き、ミナの手を離して
僕たちについてきた。

誰もいない廊下を行く3つの靴音を絨毯が飲み込む

突き当たって2階へと続く階段で
僕は振り向いた。

「なんなの?」

「どこにいくのですか?2階?」

「そうだけど」

「危険なので広間に戻ってください」

お兄さまが、僕の肩を抱く

「ユノも私たちの事情がわからないわけではないだろう?」

ユノが冷たい目で僕らを見る

僕は…そんな目でユノに見つめられたくなかった

だって、ユノはミナと踊っていて
僕なんか見てなかったくせに

楽しそうに踊っていて…

ミナにとても優しくしていた…

「ミナといい雰囲気だったぞ?ユノ。
使用人同士、屋敷の中だったらどの部屋使っても
私が許そう」

「お兄さま、なんて事言うの」

「ここはジホ様のお屋敷ではありません」

「お前は使用人棟でミナとやってろ」

お兄さまは僕の肩を抱きかかえたまま
階段を上がった。

お兄さまはユノの前だと人が変わる

なんだか今夜のお兄さまは特にいやだ
2人きりになりたくない…

振り向くと、階段の下からユノがこちらを
睨んでいる

いつもユノは何かあったら声をだせと言っている

大学でも…屋敷内でも…

僕が声を出したら、ユノは助けにきてくれるのだろうか…

お兄さまは階段を上がったすぐの部屋のノブを回す

あ、なんか…やっぱりイヤだ

「ユノ…」

僕の小さな声に、ノブを回すお兄さまの手が止まった。

「チャンミン?」

ほんの一瞬だったのに
僕の視界はぐるりと一回転をして
気づくと、ユノに抱きかかえられていた

「チャンミン、どういう事?」

お兄さまが悲しそうな顔をしている

「どうもこうもない…トリョンニムは部屋には入りたくないということです」

ユノの低い声が僕のこめかみあたりから聞こえる

僕はユノの胸にすっぽりと収まり
しっかりと後ろから抱きかかえられていた。

「勝手にしろ」

「ジホ様お帰りです」

ユノがインカムを通して指示を出す
その横をお兄さまが憮然として通り過ぎていった。

怒らせちゃったかな…
怒ったよね…

優しかったお兄さま…
でも、なんか2人きりになりたくなかったんだ

僕はほんとにどうしちゃったんだろう

ユノは僕を腕から解き、階下に降りて行った。

背中に感じていたユノの熱が離れて
何か寒さを感じた。



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月の王子さま(8)

ーーチャンミンsideーー



今日は大学の帰りに、教会での読み聞かせが予定されていた。

僕はこの活動が大好き。

お話を真剣に聞く子供たちの顔が可愛い

小さい頃にたくさんお話を聞いた子供は
想像力が豊かになって、何かイヤなことがあった時に、その想像力が自分を助ける糧になる。

特に施設の子供たちは、これから人一倍頑張らなくてはならない事も多いだろう。

僕の読み聴かせる物語が、みんなの心に宿りますように。

それなのに…

僕は教授に呼ばれてしまった。

「どうしても直さないといけませんか?」

「この箇所だけでいい。
ここさえもう少し適切な言葉にしてくれたら
これは素晴らしいレポートになる。
雑誌に紹介してもいい」

「でも…この後、用事が…」

ユノが声をかける

「遅れるように教会にいいますか?」

「子供たちが楽しみにしてるんだよ」

教授が、口を挟む
「どこの教会?」

「あの町外れの施設が併設されている教会なのですが」

「ウチの近くだね。知ってるよ。牧師さんもいい方だ。これを直したらすぐ送って行けば間に合う?」

ユノが何か言いたそうだ。
僕が他の人の車に乗ることを警戒してるんだろうな。
教授だから問題ないけど。

「あ、じゃあ悪いけどユノ、先に教会に行って
子供たちと時間潰しててくれない?」

「は?私が読み聴かせをするのですか?」

「いや、それはムリだろうけど
なにか遊んでてもらうことはできる?」

「はぁ」

「で、教授がそのまま帰るなら
教会へ送って行ってもらえませんか?」

「ああ、いいよ、送っていく」

「それはダメです」

やっぱり護衛としてのユノのダメだしが出る

「じゃあ、行く前に必ず連絡するから
都合がよければユノが迎えに来て」

「それなら…はい。
でも、それまでは大学から出ないように」

「わかった」


思ったよりレポートの修正は手早く終わり
教授は大喜びだった。

「さあ、じゃ教会へ送っていくよ」

僕はユノとの約束をすっかり忘れ
連絡をせずに教授の車に乗って教会へ向かった。

「あ!連絡するの忘れた」

「もう教会へ着いてしまったよ。
きちんと謝っておきなさい。彼の落ち度になるといけないから」

「はい」

僕は教会の敷地内に入ると、いつもとは違う方向から子供たちの騒ぐ声が聞こえる事に気付いた。

声が聞こえるのは、敷地内のグランドとは言えないほどの遊び場。

そこを覗いてみた。

夕暮れの中の小さな広場。
バスケットボールのゴールしかない土の広場だ。

そこには10人の子供たちと
ユノが元気に遊びまわっていた

ユノはジャケットとネクタイを脱ぎ
白いシャツのボタンをはずし、袖をまくっていた。

まだバスケができない小さな子たちは
ユノの片腕にだかれ

ボールを持たせてもらったりしている。

やんちゃ盛りの男の子は
ユノの脚に絡みつくようにしてボールの取り合いをしている。

ユノは子供を抱きながら
器用に男の子たちから、ボールを奪ってドリブルしたり、わざととられたりしていた。

夕陽に輝くユノの笑顔に見惚れた

そしてしばらくその笑顔と子供たちの様子を見守っていた

子供たちもユノに夢中だ

ユノは遊びに参加できていない子がいないかどうか
きちんと、目配りしている。

ぽつんとしている子がいれば、その手をひいてやり
輪の中にいれてやる。

僕は読み聞かせはできても
こういう楽しさを子供たちに味わせることは
難しい

これがユノなんだな…

僕のソンセンニムは素晴らしいのかもしれない

ユノは僕の先生。
ユノは使用人じゃない

使用人だとなんだか僕が悲しいんだ…

ん?

僕はどうして…

それが悲しいの?

戸惑う僕にユノが気付いた

「チャンミン!」

ユノが小さな子を抱っこしたまま、
こちらへやってくる

僕はドキドキした…

なんでこんなにドキドキするんだろう

「連絡くれって言ったのに」

「ごめんなさい」

「ヒョンとバスケしたの!」

ユノに抱かれたみんなのマンネ
ジウが可愛い声で叫んだ

「ジウ、女の子はオッパでしょ?」

「ユノオッパ?」

ジウはユノの顔を覗き込む。
ユノもジウの顔を覗き込む。

「そうだよジウ。さあこれからはお話の時間だ」

ユノはそっとジウを下ろしたけれど
ジウはすぐに抱っこをせがんだ

仕方なくユノはまたジウを抱っこして
広間に入っていった。

結局ジウはそのままユノの腕の中で眠ってしまい
ユノはお話の間中、ジウを抱っこしていた。


「その時、王子さまとお姫さまはもう自分たちは食べられてしまうのだと思いました。
悲しくて悲しくて、ずっと泣いていました」

みんな真剣に話を聞いている

「さあ、ここで誰が助けにきてくれると思う?
それとも食べられちゃうのかな」

「さっきの!騎士がくる!」

「さあ、どうかな。
そのときでした。白い霧の中から、
馬の鳴き声と共に、大きな影が現れました」

「やっぱり!」

「霧が晴れて現れたのは
白い馬に乗った王様の騎士でした。

そこへ運の悪い事に、あの大カエルたちがやってきました!

騎士は王子さまとお姫さまを抱き抱えて
大カエルから守ってくれました…」

「………」


「チャンミ二ヒョン?」

抱きかかえて守る騎士…
ふと、ジウを抱っこするユノを見た。

僕の読んでいるこの本の騎士…
それが今、ユノに思えてどうしようもない…

僕を図書館で守ってくれたユノ。
ジウを守るように抱っこするユノ。
小さな王子さまたちを守る騎士

その姿が重なってしまう…

"ユノはチャンミン様に忠誠を…"
爺の言葉が蘇る…

まるでユノは僕の騎士…

バカな…
まるで少女マンガだ。

ふと気づくと、子供たちが不思議そうに
僕を見ていた

話が途切れてしまっていた

…認めたくない…
僕の心にはお兄さまがいるんだから

心をリセットして、話の続きをした。


帰り道、車に乗せられて僕は家に帰る

早く帰りたい。
シャワーを浴びたら、またユノに髪を乾かしてもらうんだ。

「ユノ、子供たちと遊んだりできるんだね」

「意外でしたか?」

「子供は苦手なのかと思ってた」

「身体を動かすのも好きですよ」

「牧師さんが喜んでた。たまに遊んでほしいって」

「そうですね、また機会があれば」

今日のユノは表情が柔らかい。


家に帰って夕食をとる。

いつものように、お父様とお母様と
ユノではない他の執事

ユノは他の使用人と一緒に別室で食事をしている。

いつものことなのに、
今日はそのことがすごく気になる

ユノがこの場にいないという事が気になる

どうしても気になる!

僕は食事中なのに、思わず椅子から立ち上がった

「チャンミン、どうなさったの?」

お母様が驚いている

「ユノに言い忘れたことがある」

「は?ユノに?」

「ちょっと行ってきます」

僕はキッチン横に併設された
小さなダイニングルームに入った。

普段は僕たち家族がはいることのないこの部屋に
僕がいきなり入ってきたものだから
使用人たちは慌てふためいた

ユノは食事をとっていて
家政婦のミナがユノに茶を入れてやるところだった。
ユノはゆっくりと振り返り僕を見ると
口元をナプキンで押さえてからこちらへ歩いてきた。

「どうしたのですか?」

用事なんて、なかった。。
ここまできて、用事がないなんて変だ。

ただ、ユノがどうしてるのか知りたかっただけ。

そんなの…知ってどうするんだ。

僕はユノや他の執事の前で立ち尽くし
自問自答していた。

「もう、部屋へ行きましょうか」

ユノは冷静だった。
僕を促し、屋敷へ戻って部屋まで来てくれた。

「ユノ、ごめんなさい。夕食の途中だったでしょ?」

「もう終わってました」

「なんか僕…」

ユノは困ってるのではないか、と思った。

ユノは俯いてしまった僕の顔を下から覗き込んだ。
優しい笑顔。

「図書館であんな事があったんですから、
しばらく気持ちが不安定なのは仕方ありません。
大丈夫ですよ、私はいつも側にいます。」

「………」

不覚にも…胸がキュンとするというのは
こういう気持ちのことだろうか。

ジホお兄さまには感じたことのない気持ち

「ありがとう」

それを言うのが精一杯な僕だった。



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