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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

繋がれた舟ーーあとがきーー


「繋がれた舟」
最後まで読んでいただいてありがとうございました

以前に書き溜めていたもののひとつで
今回、加筆してみたら1ページ増えてしまいました

この曲はユノさんがファンミで初披露した曲で
「ちょっと情けない男の歌です」と話していたのを聞いて
「情けないユノとチャンミン」を見てみたいと思った事がきっかけでした。

コメントにも書いていただきましたけど
2人も完璧じゃなくて
やる気をなくしたり、自暴自棄になったり
へんに突っ張ってみたり

カッコいい2人のそんな姿もまたいいな、
と思います

今回、特に大きなヤマもなく
事件も起きませんが

想いだけで綴っていくような、
本来はこんな叙情詩タイプのお話が好きだったりします。

お話を書くことをお休みしてしまい
楽しみにしていただいていた読者さまには
残念な想いをさせてしまいました。

それでも「どうしてますか?」と連絡をいただいたり、過去のお話にコメントいただいたり

本当にうれしかったです。
ありがとうございます

今回も変わらずにお話にコメントいただいているのに、なかなかすぐにお返事ができず
ごめんなさい。。。

お返事する時間がないのなら
コメ欄閉じるのが本当なのに
やっぱりコメント読みたくて開いているという
なんという「かまってちゃん」^^;

今回読み直してアップしてみると
自分には短編というのはハードルが高いな
とつくづく思いました^^;

またゆっくりと30話前後のお話を書きたいなと
思います。

お休みする前にお知らせしたお話も
アップできそうなので
どうか気長に待っていただけるとうれしいです。

いよいよ夏本番、といった季節になりました

夏バテや熱中症に気をつけて
毎日をお過ごしください



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繋がれた舟(完)

ーー繋がれていてーーチャンミンside


ユノは矢継ぎ早に喋る

「どこにいるのか教えてくれ
すぐ行くから」

「あー電話もらえるなんて
昼間は追いかけてよかったな」

「ねぇ、それで今どこ?」

「あの…あ、まだだったら、夕飯どうかなって」

「いいよ!チャンミンなにか食べたいものある?」

「あの…」

「あのフレンチの店覚えてるか?
あそこじゃダメか?」

「…………」

「違うのがいいか?」

「実は僕もそこに行こうと思って…」

「それじゃ、決まり。店の前で待ってて」


あの坂の上で、再びユノと会った。

僕のほうが近かったから、店の前で少し待った。
ユノが僕を連れてこようとしてくれたこの店。

車が停まる音がして振り返ると
タクシーからユノが降りてきた。

満面の笑みを浮かべて近づいてくるユノ

力強い上半身にスッキリと締まった脚

首にはまだあの唐草模様が施されている。

黒いVネックのセーターにジーンズ。
なんでもないスタイルがユノの美しさを際立たせていた。

僕は力なく、片手をあげて少し微笑むのが
精一杯で。

ユノはそんな僕に近づくと、
思い切り抱きしめてきた。

「ちょっ…」

「チャンミン…」

「あ、あの…」

「電話くれてよかった」

「忙しくなかった?」

「忙しくたって関係ないよ」

「僕を優先してくれたってこと?」

「当たり前だろ」

「僕なんか…そんな価値ないのに」

ユノは抱きしめた僕を引き離して
まじまじと顔を見つめる

「価値?」

「…………」

「お前、変なこと言うね」

「そう?」

「………ずっと、そんな生活だったのか?」

「?」

「価値があるとかないとか
そんなジャッジばかりされてたんだろ」

「…………」

「違うか?」

「そう!」

僕は思わずユノに抱きついた
ユノは優しく僕の背中を撫でる。

「頑張ってるのに、だれも味方してくれなかったんじゃないのか?」

「そう!」

僕は声が涙で震えてしまい
それを隠そうとわざと大声で返事をした

「お前、泣いてるんだろ、今」

僕はユノの首筋に顔を埋めて、顔を見られないようにした。

「店に入ろうか」

「このまま、こうしていたい、ダメ?」

「ダメじゃないよ、それなら…」

その時、僕のお腹が盛大に鳴った。

「アハハハ…
お前さ、口と腹が別々の事言ってるけど?」

「フフフ…」

「この口はウソついてるだろ」

そう言ってユノは僕の頬を両手で挟み、
チュッと軽く唇にキスをした。

「ユノ…」

「さあ、店にはいろう
何食ってもいいぞ?」

「食う」とかそういう店じゃないのに
ユノってば、有名な人物になっても
そんなところは変わらないんだね

僕は嬉しかった

ユノは変わっていないし
何事もなかったように優しかった

店内はテーブル席が5つほどの小さな店で
客は僕らだけだった

テーブルに着くと
優しそうな店主がやってきた

「今日はありがとうございます
実はこの店、今日が最後で」

「えっ?そうなんですか?」

「たぶん、お2人が最後のお客様です」

「そうなんですか。」

店主は明るく言っていたので
きっと前向きな閉店なのだろう

料理は美味しかった

僕たちは連絡を取り合わなかったこの5年間の話を
たくさんした。

僕の話にユノがツラそうに顔をしかめる場面もあったけれど

僕は正直に全部話した。

「チャンミン…電話くれればよかったのに」

「だって、もうするなって」

「お前が幸せだと思ったからさ
そんなことになってるなら、俺、側にいたのに」

「ありがとう」

「ひとりでさ、こんなに痩せるほど」

「僕が力不足だったんだよ
よく考えたら、僕に傾いた会社を立て直すなんて
好きでもない女とうまく結婚生活するなんて
そんなのできっこないのにさ」

「そんなことないよ
お前は頭もいいし、気持ちだってまっすぐで」

「自分を過信しすぎたね」

「だから、そんなことないって」

「ありがと、ユノ」

「もう…なんかイヤだな」

「ユノはすごいよ」

「それは、たまたま今がそうなだけで
お前と別れる時は悲惨だったよ」

「でも、復活したじゃん」

「お前が励みになってたんだよ
俺、未練がましくいろんなところで
想ってる人がいるって言い回ってた」

「うん」

「やっぱり忘れられなくて
でも、もう結婚してるし。」

「積極的に行けなかった?」

「ああ、もう、子供いると思ってたから自分でブレーキかけた」

「子供はいないよ」

「そうか。いたら変わってたかな」

「できっこないよ、子供」

「なんで?夫婦だったろ?」

「そこ、聞きたい?なんで子供ができなかったか」

「いや、いい。あ、ちょっと聞きたいかな。
やっぱりいいや」

僕たちの笑い声が小さな店内に響く

店主は会計のとき、静かに言った

「お2人が最後のお客様でよかったです」

「とても美味しいのに、閉店なんて残念です」

「ありがとうございます。
一生懸命がんばったんですけどね、5年間。
やっぱりこだわりすぎて、コストさげられなかったからかなぁ」

「頑張ったならいいじゃないですか」

僕は自分に言い聞かせるように
店主に言った

店主は少し驚いたように僕をみて
ふんわりと笑った

「そうですよね」



帰り道…

僕たちはゆっくりと夜の公園を歩いた

街灯が、やわらかく僕たちを照らす


「ユノ、僕ね」

「うん?」

「死んでしまおうと思ってた」

「チャンミン…」

ユノが歩みを止めた

「なんか、僕は生きてても誰も喜ばないと思って」

僕はユノを振り返り微笑んだ

「でも死ななくてよかった」

「当たり前だ」

「今日はね、最後の晩餐なんだって
覚悟して電話したんだ」

「ホールに来たお前をみて、
正直、これはヤバイと思ったよ」

「そう…」

「奥さんがいるのにこんな状態って
だったら俺が…って、そう思った」

「ユノ…」

「実はさっきお前から連絡もらった時
俺も電話しようと思って、スマホの画面睨んでたんだよ」

「そうなんだ…」

「毎朝、起きるとさ
お前から夜中に電話がなかったかどうか
チェックしてた」

「まさか」

「ほんとだよ、もう習慣になってた」

「…………」

「俺、お前に繋がれた舟だからさ」

「…………」

「一緒にいよう、チャンミン
死にたいなんて、絶対に思わせない」


僕は死に物狂いで仕事して
孤独と戦っていたこの5年間

ユノは毎日僕を思っていてくれたなんて

僕は孤独じゃなかったんだ
生きている意味があったね

出会ってからずっと…
そしてこれからもきっと…


「ねぇユノ」

「ん?」

「店に入る前、僕がこのままいたいって言ったら」

「お前の腹が鳴る前?」

「それならって言ったでしょ?
あれなに?どうしようと思ったの?」

「お前を俺んちに連れて帰ろうと思ったんだよ」

「ユノの家?」

「でかいベッドがあるんだぜ
俺たちが大の字で寝ても大丈夫」

ユノが僕の肩を抱いて、ニッコリと笑う
かっこいいね、ほんとに。

「そう、それはいいね。
今、僕はビジネスホテルなんだけど
ベッドが小さくてね
2人でしっかりと抱き合ってないと落ちちゃうよ」

「やっぱり今夜はお前の部屋へ行こう」

「フフフ…そうする?」

「ああ」

「夜景もキレイなんだよ」

「じゃあ尚更だ」

僕らは真っ暗な夜の公園で明るく笑った


どうか、ユノはずっと僕に繋がれていて…
僕もあなたを離さないから

約束しよう

ずっと側にいるって




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繋がれた舟(12)

最後の晩餐〜〜チャンミンside〜〜


ユノを振り切って、ホールを後にした

まだドキドキしている

「好きだ」

ユノの言葉が耳の中でこだましている


こんなうれしい言葉はないのに

僕は惨めな今の自分が恥ずかしくて…
素直になれなかった

バカな僕…

どんな僕だって
ユノは受け入れてくれるだろうに

5年もたって再会するなら
誇らしげに会いたかったと思う。

そんな僕のくだらないプライド。

僕を憐れむように見るあのユノの目が
とても辛かった…

自分はなんて情けなくて、ダメなやつなんだろうか

帰り道、僕はやるせない気持ちになった。

なんでこんなことになってしまったのだろう

あのユノの輝きを思い出すと
自分のダメさ加減に泣きたくなる

まだ行く先の決まってない僕は
今夜はハニとのマンションに戻るしかなかった。

戻ってみると、タイミング悪く
ハニの両親が来ているところだった。

僕をみて、途端に険しい顔になるハニの父

「もう、ここは君が来るところではないだろう」

「はい」

「パパ、チャンミンはまだ住むところが決まってないんだから」

ハニが珍しく僕をかばう。

愛せずに苦しめたハニに助けられるなんて

僕の情けなさは底なしだな。

とことん、地に落ちた僕。

「荷物を…取りに来ただけですから」

僕は寝室から最低限の荷物を取ると
リビングに戻り、無言の責めをみせるキム一家の
視線に晒された。

「義父さん、今回は社員を全員引き取っていただき
感謝しております。」

「あんな優秀な社員ばかり揃っていたのに
こんな事態になるというのは
シム親子がどれだけ力不足だったか、ということだな。」

「そうですね、おっしゃる通りです」

「女ひとり幸せにできない男が
会社の社長なんて、そもそも無理な話だ」

「申し訳ありませんでした」

「あやまらないでよ」

ハニが涙ぐんでいる

「少しは愛してましたとか、反撃はないの?」

疎ましいだけの存在だったハニ。
夫がこんな男でかわいそうだった。

「それではこれで。
本当に無念です。申し訳ありませんでした」

僕は深々と頭をさげると、
5年住んだ豪華なタワーマンションを後にした。

ここでくつろげた記憶はなかったな

そんな風に思いながら、そびえ立つタワーをエントランスから見上げた

しばらくはどこかホテルにでも泊まろうか

安いビジネスホテルを探し、
最上階の小さな部屋に荷物を置いた。

ドアを開けるといきなりベッド、という
信じられない狭さだったけれど

窓からの夜景はとてもキレイだった。

僕はシャワーを浴びて、
窓から夜景をみていた。

ユノは…

この街のどこに今いるのだろうか

この宝石箱をひっくり返したような
ネオンの中でみんなに囲まれ笑っているのだろうか

考えるのはユノのことばかり

たくさんの人を不幸にしてしまった僕なのに
ユノのことを想う資格なんてないよね

夜景の中を車のヘッドホンライトが規則正しく動いていく。

僕が生きていることで、
誰か幸せになれるのだろうか。

みんなが不幸になっているじゃないか。

ユノももう僕を必要とはしていない。

僕は生きている価値があるのだろうか。

だんだんと心は荒んでいき
僕はこの世に必要なし、という結論に達した。

だからと言って、じゃあ死のうかとか
そんな具体的には何も考えられなかった

今は何も考えたくない


僕はスマホのアドレス帳からなんとはなしにユノの電話番号を表示させてみた。

あの頃、酒を飲んではユノに電話をしていた。

深夜だれもが寝静まる頃

その声が聞きたくて

ユノはいつも優しかった

「何かあったのか?」

「今、どこにいる?」

そして…

「チャンミン…戻ってこないか?」

ユノ…

夜景が涙で滲んでいく

真っ暗な部屋のガラス窓に
スマホの画面が明るく照らし

窓には僕の泣き顔が映し出されている

スマホを変えても消せずにいたこの番号

ユノは番号を変えてないと言ってたね

実は僕も変えてないんだ

電話しようと思えば、できる。

そんな状態でいることが
どれだけ僕の励みになったことか。

僕は自分でこれからどうしたらいいのか
何もわからないけど

もしかしたら、死にたくなってしまうのかもしれないけれど

すべて捨てていいと思えるのに
ユノだけが捨てられない。

最後に…最後にといっても何が最後なのかわからないね…

ユノとあのフレンチの店に行きたい

僕は泣きながら笑い、なぜか急にそう思った

僕は自分で認めたくなかいけれど
きっと死のうと思っているのだ

なぜ、そんなことを他人事にとらえてるのか
自分と自分の身体がもう離れてしまっているみたいだ。

僕はユノの番号をタップした


一呼吸置く前に、すぐ通話に切り替わって
思わずむせてしまいそうになった。

「チャンミン⁈」

「あ…」

「今どこにいる?」




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たくさんコメントをいただいているのに
お返事できずすみません。
お返事できないのに、コメント欄閉じずにすみません💦
コメントは実はソッコー読ませてもらっています。
ゆっくりとひとつひとつお返事させてください

繋がれた舟(11)


ーーー再会ーーードンへside


カーテンコールで再びユノが舞台へ上がる

今日も盛況だ。


一時はどうしようもないくらい
やる気をなくしてその輝きを失ったユノ

でも、1人で、たった1人で立ち上がり
その光を取り戻した。

何がヤツをそこまで押し上げたのだろう

もうあのチャンミンもいなかったのに。


劇団を離れて、
それでも芝居や舞台に未練があった俺たちを、
成功したユノは呼び寄せてくれた

芝居に関わる仕事をさせてくれて
そういうところはさすが、ユノだった

人知れず、バレエを習い、誰もいない公園で喉を開き、声を出す訓練などしていたらしい。

だから、この成功は当然なのだ

それでも今夜のユノはより輝いていた。

観客は我を忘れてユノの名前を呼び
その美しさと才能に歓喜した

いつまで続くのかと思われる拍手の中

それなのにユノは早々に舞台袖に戻ってきた
衣装を剥ぎ取りながら、急いで戻ってきた

「どした?ユノ」

「チャンミンがいた」

「は?」

ユノはすべての衣装を脱ぎ捨てると
Tシャツをバッグから取り出そうとしている

いてもたってもいられない様子だ。

「チャンミンが客席にいたっていうのか?」

「ああ、後ろの方の席に1人で座ってた」

ジーンズを履くユノ。

「お前…そんな…アハハ…
後ろの席が舞台からみえるわけないだろ」


着替え終わったユノがきっぱりと顔をあげた

その首すじにはまだタトゥーメイクがされたままだ
黒い唐草模様がその綺麗な首すじを這っている

「俺は間違わない
舞台からいつもアイツを探していたんだ」

「ユノ…」

「カーテンコールの前に出て行ったから
早く行って捕まえないと」

「捕まえるって、ユノ!」

ユノは楽屋出口からあっという間に出て行った

「お前!そっち行ったらファンに囲まれちまう」

俺と何人かのスタッフがユノを追いかけ
その腕を掴む

「頼む、ドンへ、行かせてくれ
見失いたくないんだ」

「行かせないとかじゃなくてさ」

「俺、チャンミンに謝らないと」

「だから!ユノ!」

楽屋からホールに抜ける通路では
突然現れたユノに、ファンが歓声をあげた

瞬く間に取り囲まれてしまうユノ

だから、止めたのに

ユノとファンの間に身体を入れるようにして
ロビーに出た俺の視界にまさかの

まさかの、あのチャンミンが飛び込んできた

スッと立つ細身の長身がこちらを振り返っている
驚いて目を見開き、ユノを凝視している

なんてことだ…

ユノは本当に見つけたんだ


俺は他のスタッフに声をかけて
ファンをユノから離した

「行ってこいよ、謝ってこい」

「わるいな」

ユノはゆっくりとチャンミンに近づいて行った



〜〜ユノside〜〜



俺は間違えたりしない

あの客席の隅にひっそりと座っているのは
絶対にチャンミンだ。

いつもの小さな劇場でも

大きなホールでも

俺はいつも客席を探していた

チャンミンの姿を探していた

いつか、観に来てくれる
俺の舞台を絶対に見に来てくれるはずだ

変な自信のようなものが俺にはあった。

雑誌やテレビでも
想う人がいることをいつも語った

繋がれた舟のように
俺の心がお前から離れられないことを語った

どこかで、この記事を目にするのではないか
このテレビを見ていてくれるのではないか

そんな事を期待した。


元に戻ろうなんて思ってない
もう新しい人生を歩むチャンミンの
生活を邪魔する気はない。

でも、その自由な人生と引き換えに
俺の居場所を守ってくれたのに

俺は…酷いことを言い放って別れてしまった

もう一度会って、謝りたい

そして、チャンミンを想う気持ちが
俺をここまでにしてくれたと、わかってほしかった。

今の俺があるのはチャンミンのおかげなんだ。

人生はそこまで自分の思い通りにはいかないけれど
人を想う気持ちは自由だ。

これからも俺は喜んでお前に繋がれて
この海を漂って生きていきたい


「チャンミン!」


だけど…

振り返ったチャンミンに俺は絶句した

5年前のあの可愛いチャンミンはそこにはいなかった。

あの愛らしい顔は鋭角に尖り
丸い頬は削げ落ち
元々の彫りの深さと相まって
表情のあちこちに暗い影を落としていた

大人っぽく、男っぽくなったといえば
たしかにそうだけれど

なにがあった?

俺の知らないチャンミンの5年間は想像しがたい

隣には美しいハニと可愛い赤ちゃんでもいるのだろうと、そんなふうに思っていた。


「チャンミン…観に来てくれたのか…」

「ええ、あなたが成功していると妻から聞いて
観てみようかな、と」

「妻」と聞いて俺は少しだけ安堵して微笑んだ

「そうか、ありがとう。
奥さんは一緒じゃないのか?」

一瞬の間を置いてチャンミンがぽつりと言う

「…はい」

「…………」

ふとチャンミンがニッコリと微笑んで俺を見た
笑顔にあの頃の面影があった

「良かったよ、さすがユノ」

「少し…話せないか?」

「時間がなくて」

「じゃあ、一言だけ」

「なに?」

「ごめんな、チャンミン。
お前が守ってくれてたなんて知らなくて
ひどいことを言った」

「…………」

「ずっと謝りたかったんだ」

「それ…いつのなんの話?」

スーツのポケットに手をいれたまま
天井を仰ぐチャンミン

「5年くらいたつか…」

「なんのことか、よくわからないけど
謝られるようなことはなにもないよ」

「幸せか?チャンミン、今、幸せなのか?」

「ユノ…」

「ん?」

「話はひとつだけでしょ?」

フッと寂しそうに微笑み、下を向き、
後ろ手にヒラヒラと手を振って去っていこうとするチャンミン

「なぁ、チャンミン」

歩き出すその後ろ姿に俺はついていき
食い下がった

「俺、お前があんまり幸せそうに見えないんだよ」

「…………」

「よければ俺が話聞くから」

「何にもないよ、ほんと」

「でもさ…」

「なんなの?一体」

チャンミンが歩みを止めて振り返った

顔色が真っ白であおざめている

「なんだっていうの?今更どうだっていいでしょう」

「好きなんだよ、チャンミン」

「は?」

「お前は迷惑だろうけど
俺はお前の事がずっと好きで」

「なにを言うの…」

「だから、幸せでいてくれないと困る」

「意味わかんない」

あきれ返ったチャンミンは髪をかきあげ
珍しいものを見るような目で俺を見た。

なんと言われても

次会えるかどうかさえわからないんだ

伝えたいことがたくさんあった

「電話番号変わってないから」

「…………」

「連絡待ってる」



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繋がれた舟(10)


ーーー5年の時を経てーーーチャンミンside


大理石のテーブルを
ハニの赤い爪がコツコツと苛立たしげに叩く


「計画したのは私じゃないわよ。両親だから。」

「そんなことは…もうどうでもいいよ。
サインする書類はこれで全部?」


僕の会社のすべての権利が、ハニの父親に移った。


「あのね、言っとくけど
乗っ取りじゃないから。父はこの会社を救ったの
あなたの社員を引き受けようっていうのよ」

いろいろと言い訳を並べるハニに
ため息がでる

「わかってるよ、そんなこと。
ハニのパパには感謝してるから」

「そう思ってないくせに」

「乗っ取りだとは思わないようにするよ」

「ヒドイ事言うのね。」

「前向きに言ってるつもりだけど」

僕は最後の離婚届にサインをした。

「チャンミン」

「なに?」

「離婚届はね、私が用意したのよ。
父はそこは任せるって言ってくれたけど」

「そうなの?なんで?」

「あなたは結局私を一度も愛さなかった」

「………」

「私も開放されたいの。愛されない苦しみから」

「……そう」

「放り出すみたいに思われるのもイヤだから。
なにか持っていく?父に言ってあげるわよ」

「何もいらないよ」

「じゃ、信託だけあなたの名義にしておくから」

「いらないよ、そんな必要ない。」

「だってあなた無一文じゃないの」

「いいよ、それで」

「そんな」

「今まで…そんなことに縛られてきたんだ」

僕はフフッと力なく笑った

「でも、惨めだね、男としてさ。
社員も守れず、会社も存続させられなかった」

「あなたの最大のミスは私を愛さなかったことよ」

ハニがキッと僕を見据える。

君はどこまで可哀想な人なんだ。

「ミスだなんてさ、ビジネスなの?愛することも」

「は?」

「人なんて、愛そうと思って愛せるものじゃないよ」

「なにそれ?自分の意志でしょう?」

「違うよ、ハニ。
愛しちゃいけないってわかってても
未来なんてなくても
気づくとその人のことばかり考えてる」

「………」

「そこに自分の意志はないよ
コントロールなんてできない」

「ユノさんのこと?」

「………」

「ちゃんと情報追ってる?
幸せそうよね、彼」

「………」

「ひとり芝居であんなに成功して。
あの時一緒だったスヨンさんはどうしてるのかしら」

「…結婚したんじゃないかな」

「それがね、独身なのよユノさん」

「………」

「驚いた?」

「関係ないよ…どっちだって」

「行ってきたらいいじゃないの
離婚しましたって」

「バカな…」

「今のあなたじゃ、会えないわよねぇ
こんなにやつれちゃって…
ユノさんびっくりしちゃうわ」

「………」

「あなたが…少しでも私を愛してくれたら
私、こんな風にならないように図ったわよ」

「悲しいね、ハニ」

「なにが?」

「何かと引き換えに愛されるなんて
そんな条件付きでうれしいの?
だったら僕は、ユノの劇場と引き換えに
あなたを愛したけど?」

「うそ!そんなのフリだけだったじゃない」

「何かと引き換えに愛するなんて、無理だったよ」

「ほんとサイテー」

「ああ、僕は最低だよ」

「早く私の前から消えて」

ハニの真っ赤な爪が怒りで震えている

「じゃあ、元気で…」

僕は席を立った

ハニはそれなりに辛い5年間だったのだろう

僕は甘かった

ユノを忘れて、ハニを愛せるなんて
そんな簡単にいくわけなかった。



ハニが言っていた

ユノは成功してる。。

この5年間は仕事に翻弄されて
ろくに世間の情報を知る時間も余裕もなかった。

特にユノの情報は避けた

ユノの事を気にしだしたら、

きっとまた電話してしまう
その声が聞きたくなってしまう


だからあえてユノの事を知ろうとはしなかった。

でも成功してると聞いて
ユノがどうしてるのか、気になった。

会いたいとは思わない。

今の僕を見られたくない、絶対に。

それでも消せないユノの電話番号

僕とユノを繋ぐ唯一の羅列した数字

いや、もう通じないだろう

僕は自分の情けなさに苦笑した。
まだ夢見てるのか

それでも一度気になりだすと
その思考はアタマの中をグルグルまわって
僕を悩ませた

こんな風になるのはきっと

今日この日、僕は解放されたからだろう
僕のやらなきゃならない事
上手くいかない状況
偽りの愛

それらを手放した

いや、追放されたのだから
僕の方が捨てられたのか

どっちでもいいけど。

そんなこと思ってるくせに
結局はユノのことが気になる

今日は僕の解放記念日だ。

記念にちょっとだけでいい
ユノの姿がみたい。一目でいいから。


恐る恐る劇場に行ってみた

ここに来たのは5年ぶり


劇場は以前のまま、残っていた。

マスクとメガネをつけて、変装したつもりだったけど
今日はここでは何もなさそうだ。

小さなポスターをよく見ると
今夜は大きなホールでやるとのこと。

ほんとに成功したんだね、ユノ。

それでもこの小さな劇場を今でも拠点としてるところが、とてもユノらしい。

僕はこんなに惨めになってしまったけど
ユノが夢を叶えていると思うと

僕は心が温かくなった。

この劇場は僕が守ったんだ。あなたのために。


とりあえずホールに行ってみる。

大きなポスターが何枚も貼られていた

メイクを施したユノの横顔に
漆黒の瞳の力強い視線

アイラインがその切れ上がった目尻を強調している。

1人で舞い、歌い、芝居をする

他の出演者はいない。

このスタイルでここまで成功したんだね。

僕はユノの舞台をどうしても観たくなってしまった。
いきなりで入れるだろうか。

運良く当日券を買うことができ
僕はホールに入り、後ろの席についた

たくさんの観客

大きな舞台

ああ、舞台の匂いっていいな

僕はあの頃、ユノ目当てで劇団に入ったけれど
案外、舞台や芝居自体も結構好きだったのかもしれない。

今更何を言っても遅いけど


題目は「繋がれた舟」

入り口で買ってきたパンフレットをパラパラとめくる

最後にユノのインタビューが載っていた

「恋する人の岸に心が舟のように繋がれていて
苦しむ男の姿がテーマです」

読み進めていくうちに
僕は最後の言葉に固まった

「これはユンホさんの実体験が元ですか?」

「そうです。
実は今でも苦しんでいて(笑)」

「ほほぅ、ファンの方の反応が気になります」

「毎公演この話をするのでみんな知ってますよ(笑)」
「有名なのですね。何かアクションは起こさないのですか?」

「起こしません。
でも些細なことですけどひとつだけ。
ずっと私は電話番号を変えていないのです」

「それは相手からの電話を待っているからですか?」

「そうです。今も、そしてこれからも
その電話を待ち続けることでしょう」

「まさに繋がれた舟ですね」

「そうです。まさにその通り」

「そんなにユンホさんの心を捕らえるのは
どんなに素敵な方なのか知りたいですね」

「純粋で一本気でまじめで
そしてとても可愛い人です。特にその笑顔は
今でも忘れられません」

僕はパタンとパンフレットを閉じて
胸に手を当てた


これは僕のこと?

まさかね…


そんなことないだろう

5年もたっている

あんなに綺麗なユノのことだ。
いろいろあって当然だ。

ザワザワした心とドキドキする鼓動がやっと
落ち着いた頃、

舞台の幕が開いた。



その美しさと流れるような舞に目を奪われた

哀しげな瞳がその苦しい思いを表し、
激しい舞がそのやり切れなさを表現する。

このユノの想いが僕に対するものだったら…
どんなに幸せだろうか。

あの頃のユノの優しい瞳

僕が愛おしくてたまらない、といったあの微笑み

その瞳は僕を欲する時にその色を変える

僕はその視線にとらわれると、心も身体も
動けなくなり甘い幸せに満たされる

あの狭いベッドで落ちないように
しっかりと抱き合って眠る夜

僕に朝食を作ってくれるあの広い背中を
僕は幸せな気持ちでベッドの中から見ていた

懐かしい…

涙がとめどなく僕の頬をいくつも伝い

次第にそれは嗚咽となり
僕の心と身体の奥から、忘れていた激しい感情が
押し出されてきた

どれだけ、あなたの声が聞きたかったか。

ハニとの結婚式の前夜

役員会議で激しい中傷を浴びた夜

どんどん下がる数字をつきつけられ
能力のなさをこれでもかと責められた雨の夜

そんな夜、あなたにどれほど縋りたかったか。

「どうした?チャンミン」

あの低く甘い声で僕をかまってほしくて

愛してる…僕は忘れていない

やっぱりあなたが好きだ

でも僕の記憶の最後のあなたは
怒りに満ちた固い表情

あんなに怒らせてしまった

盛大な拍手とスタンディングオベーションの中
僕は席を立ち、ホールのロビーへ出た。

激しく泣き続けたせいか
喉がカラカラだった

自販機で飲み物を買うと、フラフラとソファまで
歩き、ドサッと座り込んだ。

やたらと甘いフルーツのドリンクを飲み干して
少し落ち着いた気がした。

さてと、これから住まいを見つけて
仕事も探さないといけない

今日はユノの姿を見れてよかった。

ホッとため息をつくと、
ホールから観客が出てきて騒がしい

カーテンコールが終ったのだろう。

でも…

それにしても

入り口の方から黄色く短い悲鳴がいくつか聞こえている

なんだろう?

黒い人だかりが塊となって

ロビーを横切りこちらへやってくる

誰か有名人でも観に来てたのかな?

僕はソファから立ち上がり
ドリンクのペットボトルをゴミ箱に捨て

その黒い塊から逃れるように歩き出した

「チャンミン!」


その時、僕を呼ぶ低く乾いた声

あれほど呼んでほしかった僕の名前

僕の心臓は止まりそうになった
足が床に釘付けになったように動けない

僕はゆっくりと振り向いた



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繋がれた舟(9)


ーーー真実ーーーユノside


スヨンとはどっちつかずの関係が続いていた。

キスもなにもないけれど

ご飯を食べに行ったり、飲みに行ったり
酔った帰りは手を繋いで歩くこともあった。

俺はスヨンに癒しをもらっているのは事実だ

でも、それはやはり恋ではなかった。


こんなのは良くない

スヨンに期待させてはいけない

自分がチャンミンにそれをされて
散々ツライ目にあってるじゃないか

今、きっぱり話してやるのもかわいそうだけど
このままの状態を長引かせるのはもっと残酷だ。


意を決して、なぜかいつもより洒落たカフェに
スヨンを呼んだ

スヨンは大喜びだった。

「こんなおしゃれなカフェに来れてうれしい」

「やっぱり女のコはこういう店がいいよな。
いつも汚い居酒屋ばかりでごめんな」

スヨンは真顔になった

「そうじゃないの。
ユノさんがこの店を選んだのが、私の為だってことがうれしいの」

「…………」

俺は苦笑いだった。

そんな俺を見て下を向いてしまったスヨン

俺の気持ちに気づいているのだろう
かわいそうだ。

俺が話の口火を切ろうとした時だった


「ユノ?」

後ろから、声がした。

チャンミンの声だ。

目の前のスヨンもその声にハッと顔をあげた。

後ろを振り返ると、

スーツを着こなしたチャンミンと
その側にはいかにもセレブ、といった感じの女性が立っていた。


「チャンミン…」


チャンミンは俺とスヨンの顔を見比べていた

俺たちの関係を測りかねているのだろう


「あら、この方がユノさん?」

チャンミンの後ろから、きれいな巻毛を揺らして
女が微笑んだ。

「はじめまして。キム・ハニと申します。
チャンミンとは来年結婚する予定なんです」

「結婚?」

俺の声が上ずった

「ハニ…」

チャンミンがそのハニという女性を制した。

「あら、いけなかったかしら?
お友達なんでしょ?あの劇場の」

チャンミンがハニを睨むと、ぷいとハニは横を向いてしまった。

「あ、あの…チャンミンひさしぶり!」

スヨンがその雰囲気を和ませるように
明るい声でチャンミンに話しかけた

「ああ….スヨン、ひさしぶり…」

引きつるチャンミンの笑顔を見て
ハニが華やかな笑顔で俺たちに話しかけた

「私たちもご一緒していいかしら?」

チャンミンが何か言おうとしたのを遮るように
スヨンが答えた

「ぜひ!どうぞ座ってください」


俺の隣にはチャンミンが
スヨンの隣にはハニが座った

女同志、打ち解けて楽しそうだ。
それに対して、黙ったままの俺とチャンミン。


チャンミンは結婚するのか。


「ユノさんてカッコいいのねぇ!」

ハニが素っ頓狂な声をあげる。

「ねぇねぇ、スヨンさんとユノさんは付き合ってるの?」

「はい!いろいろ良くしてもらってます」

その言葉にチャンミンがピクリと動いた気がする


何を言うのか…スヨンの心情が汲み取れない

「あら、いいわね、こんなステキなカレシ」

「私には勿体無いと思ってます」


チャンミンは微動だにして動かず
目の前のコーヒーに手をつけない。


しばらくして、チャンミンがふと俺に問いかけた

「ユノ、劇場は?今なんの演目をやっているの?」

「あ…それは…」

「チャンミン、劇場は閉めるのよ」

スヨンがまっすぐにチャンミンを見て言った

「閉める?」

チャンミンが目を見開いて俺を見つめる

「どういうこと?ユノ」

「あ…」

歯切れの悪い俺に代わって、スヨンが答える

「まわりの商業施設が…」

「僕はユノに聞いてるんだよ」

チャンミンの大きな声に
となりの客がチラッとこちらを見た。

俺たちのテーブルが、しん、と静まり返った

「閉めるなんて、ウソだよね?
あんなに大事にしてたでしょう?」

「すっかり変わっちまってさ、あの辺り…」

「だけど、あなたの劇場は残ったでしょう」

「たぶん、劇場はあの町の雰囲気ありき、の人気だったんだよ」

「違う!あなたの情熱に惹かれてみんな来てたんだ
町の雰囲気を楽しむために、あの劇場に通っていたんじゃない!」

ハニはまっすぐにチャンミンを見つめてだまっていた。

「じゃあ! 俺の情熱が冷めたんだな。
それで誰も寄ってこなくなった。そういうことだ」

半分拗ねたように
吐き捨てるように俺も答えた。

「最低」

チャンミンの握りこぶしが震えている

「お前には関係ないだろ?
あの劇場がどうなろうと、お前の知ったことか。
ふらっと来て、見限ってさっさと出て行ったくせに。最低なのはお前だろ」

「あなたは…」

チャンミンの声が震えている
なにをそんなに興奮しているのか

「情熱をなくしたのはチャンミンの方じゃないか」

「………」

チャンミンの握りこぶしが震えている

「残念だったわね、チャンミン」

ハニがニヤリと微笑み、チャンミンを睨む

「あなたが自分の人生と引き換えに…」
「黙れ」

ハニが何を言おうとしたのか、
チャンミンが静かに、でも鋭い響きを込めて制した


なんの話だ…

スヨンも気まずい表情だ

みんな何を知っているんだ


「チャンミン、なんの話だ」

「なんでもありません。僕はもう帰ります。
あなたのことを見損ないました」

「お前、ずいぶん勝手なんだな」

「あんなに熱く語っていたから、僕は…」

「語っていたから、なんだ」

「………」

「だったらなんなんだ」

「ドンへさんが、あの劇場はあなたの命だって
言ってたけど」

「え?」


「それほど情熱を傾けられるものがあって羨ましかったし、そんな人生に憧れました」


チャンミンは立ち上がると
ポケットから何枚かの札をハニに渡した。

「僕はもう行くから。これで会計して。みんなで好きなもの頼むといい。」

そう言ってチャンミンは店を出て行こうとした。

「チャンミン、待て」

俺はチャンミンの腕を掴んだ

「ユノさん!」

スヨンが叫ぶ。

「今日は私を連れてきてくれたんでしょ?
何か話があったのよね?」

「あ…」

腕を掴む力を弱めた途端
チャンミンは身を翻して店を出て行った

「ごめん…ユノさん…」
下を向いて涙ぐむスヨン

「いや、いいよ
俺もなんか興奮してごめんな」

スヨンは悪くないんだ


ハニが席を立った

「じゃあ、あたし行くわね。
ユノさん、あなたってすごい人ね」

「俺が?」

「チャンミンが感情を昂ぶらせるところ
初めて見たわ」


そう言い残してハニも立ち去り
俺とスヨンの2人に戻った


「まだ…チャンミンが好きなのよね?」

「…ごめん、スヨン」

「謝られたら、ほんとにそうだってことになるじゃない」

「………」

「あたしじゃダメ?」

「ごめん…俺はスヨンを彼女として付き合えない」

「………」

「ほんとにゴメン」

「………いいよ、わかってた」

「………」

「ドンヘさんから聞いたんだ」

「なにを?」

「チャンミン、自分が親の言いなりになる代わりに、あの劇場を残すように計らったって。」

「………え?」

「チャンミンのご実家、不動産会社みたい。
あの劇場のところに建つショッピングモールを管理するんだって」

俺の思考が停止した


「勝てない、と思った」

「…………」

「あたし、そこまではできない」

「………」

「チャンミンには勝てない」


心臓の鼓動が激しく胸を打った

なんてことだ。

チャンミンは本当のことが言えずに。

何も気づいてやれなかった

俺はなんて酷い言葉をチャンミンに投げつけたんだ


「ごめん、スヨン。俺、行くわ」

「追いかけるの?チャンミンを」

「間に合うかはわからないけれど
とにかく俺、謝らないと」

「ありがとうも言わないとね」

「スヨン…」

「早く追いかけないとユノさん」

「ごめん」


俺は店をでて、チャンミンを探した
もう探せるわけもないだろうに。

ところが、カフェを出て裏手に回ったら
すぐにその姿を見つけた

「チャンミン…」

でも…

そこにはハニさんがいて。


何か拗ねて文句を言う彼女を
チャンミンが優しく見つめている。

チャンミンのスーツの裾を子供のように掴む彼女。

その頭を撫でて、髪を梳いてやるチャンミン。

俺は声がかけられなかった。


俺の事が嫌いになったんじゃなかった。
むしろ、俺の為に先の人生を差し出してくれた。

俺はその事実に興奮した。

だったら、そんなことする必要ないのだと言ってやろう。

俺はチャンミンがいれば
芝居なんてどこだってできる

だから、また俺のところに戻ってこい

駆け寄ってそう言いたかった

さっきまでは。



でも、そこにいる2人はとてもお似合いで。

きっとチャンミンの本来の姿、本来の生活なのだろう。


チャンミンは帰ったんだ

俺に切ない置き土産を残して。


今、幸せだ、というのは
少なくとも本当なのだろう。

そして、これからもこのまま
幸せに生活していくのだろう


2人は仲直りしたらしく
チャンミンは彼女の肩を抱いて

そばにある店に入っていった。

そこはアクセサリーを売る上品な店。

彼女にピアスのひとつも買ってやる、といったところか。


俺は微笑んだまま、2人を見送った。


さようなら、チャンミン。



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繋がれた舟(8)

ーーーそれぞれの愛ーーーチャンミンside


僕はそれから、夜中に酔ってユノに連絡する
ということはなくなった。

そもそも、やっちゃいけないことだ

わかってる

理由はどうあれ、僕の方から別れたんだ。
困惑させるようなことはしちゃいけない。


でも、忘れて欲しくない

それが僕の本音だった。

前を向いて漕ぎ出そうとしているユノを
引き留めているのは僕だ。


僕はなにをやっているんだろう


ユノのためだったと自分に言い聞かせながら
その行動はメチャクチャじゃないか。

そんな状態をリセットするために
僕はハニとの婚約を進めた

両親もハニも、ハニのご家族も大喜びだった。

これでいいんだ。
元々僕のいた世界なんだ。

いつかきっと、ユノのことは忘れられる

ユノは僕が守ったあの劇場で幸せに暮らすんだ。

僕はそんな自己満足で生きていける


最初はあまり好きではなかったハニ。

でも結婚するのだからと自分に言い聞かせて
付き合ってみると、
意外な素顔がみられて新鮮だった。

お嬢様特有のワガママや、高飛車な態度で誤解されがちだけれど、根は純粋だった。

なにしろ、こんな傾いた会社を一緒に立て直そうとしてくれてるのだ。

ハニとそのご両親には感謝しないといけない。

でも…僕の心は…やっぱりユノに繋がっている

仕事でイヤな事があった時
真っ暗な部署でひとり残業している時

思い出すのはハニではない
会いたいと思うのは、ユノだ。

思わずタップしそうになるその電話番号。

スマホの画面を見つめてはため息をついてしまう。

そんな日々だった。



〜〜ユノside〜〜


あれから夜中の電話はぱたりと止んだ

俺はあの電話を実は期待していたのか。

ふと夜中に目覚めては、着信の確認をしてしまう
そんな自分が情けなかった


俺は劇場をいよいよ持ちこたえることが難しく
金のために仕事を探すことにした

演劇への未練はたっぷりあって
そんな関係の仕事ばかり探しているから
なかなか思うような仕事が見つからない。

そんな時、劇団員だったスヨンから連絡があり
ひさしぶりに食事をしようという話になった。

スヨンは小柄で可愛いタイプの女のコで
芝居では子供から女子学生まで
若い年代の役をこなす事が多く

正直、ひとりの大人の女性としてみることは
ほとんどなかった。

でも、こうやって2人で向かい合って
酒なんて飲んでいると

スヨンの意外な色香なども感じられて新鮮だった。

たわいない世間話をひととおりすると
スヨンはふと、目を伏せて照れたように話し出した

「ユノさん…チャンミンと仲よかったですよね」

「…ああ、ウチで面倒みてたしね」

「もう…会ってないんですか?」

「…会ってないよ」

「なんだったんでしょうね?チャンミン」

「さあな」

「なんか、あの子いなくなったら
いろいろ上手くいかなくなっちゃったじゃないですか」

「関係ないよ、チャンミンは関係ない」

「そうなんでしょうか。」

「うん」

「あの…」

「ん?」

「あの…もしよかったら、私、ユノさんの側にいていいですか?」

「スヨン…」

「あ!あの…今はいいんです。なんていうか
都合のいい感じで…」

「都合がいい?」

「えっと…そういう言い方は変だなぁ
あの、都合のいい時に…誰かとご飯食べたいなぁとか、そんな時に呼んでもらったりとか」

「あ…」

「あ!カノジョとかそんな風にならなくていいんです。あの…ヒマなんです、あたし。だから…」

しどろもどろになるスヨンを可愛いと思った。

きっと俺のことを好きでいてくれるのだろう
何度かそんな風に感じることが今までもあった。

「わかった。ありがとう。
またこうやって俺の相手をしてくれ、な?」

ぱぁーっとスヨンの顔が輝いた

可愛い、と思った。


2人で繁華街を抜け、
スヨンの家まで送って行った

「またこうして会ってくださいね」

「だけど、俺さ、もうグダグダなんだぜ?」

「そんなことないです」

「劇場も持ちこたえるので必死だよ
金だって全然ないし…ほとんど無職だ」

「そんなこといいの!」

思わず強い言い方をするスヨンに驚いた。

ふとスヨンが俺の胸に抱きついてきた。

小さいスヨンの背は俺の鎖骨にも届かない

柔らかくて小さなスヨン

それはチャンミンとは違った魅力だとは思った

でも…

チャンミンを思う時の心がかき乱されるような鼓動はスヨンには感じない

俺はまだ、チャンミンに心を捕らわれてしまっているのだ。

「いいの…ユノさんが好きなんです
どんなユノさんでもいいの」

このまま、付き合っていれば
スヨンにもあんな愛おしい感情が湧くのだろうか

俺は抱きついてきたスヨンの頭をそっと撫でた

「ありがとう、スヨン」

もうチャンミンに縛られるのはやめよう
考えないようにしよう

お互い別の道で幸せになるんだ。





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繋がれた舟(7)

ーーー未練ーーーユノside



まさか、という気持ちと、
やっぱり、という気持ち。

チャンミンが俺の元から去った


狭いベッドにはいつまでもその温もりが残っているようで

キッチンを見れば、
「おはようユノ」と可愛い笑顔が見えるようで

俺はその幻影に悩まされた

舞台でも、観客席を見渡して
思わずその姿を探してしまう

心配したドンへが見かねて言った

「そもそも、
未来のある関係じゃなかったんだからさ」

そんなことわかってる


それでもチャンミンが去ってから
色々なことがあった。


俺の小さな劇場は結局そのまま買い取られることはなく、
けれどもその劇場の周りで一斉に工事が始まった

劇場の周りの風景は一変した。

夜になると、劇場以外はなにもない
ちょっと何か食べるところや、一杯飲むような店もない。

そして何より、あのノスタルジックな風情が消えた

そんな場所からは段々と観客の足は遠のきはじめた。

俺は必死になって台本を書き
面白い演目で客を呼び戻そうとした。

俺の夢だったこの劇場での芝居
俺の劇団、観客の拍手…

ずっと夢見ていた俺の…


だけどいろいろな事が空回りしていた。

客足が遠のいたのは環境だけじゃない

客寄せのためだけに書いた脚本はバレる。

残ってくれた根強いファンもそれには興醒めだったのだろう

そして、納得いかない本で演技する団員たちの活気もなくなり

やがて、劇場は閑古鳥が鳴きはじめ

客がひとりもなく
劇場を開けられない日まであった。

団員もひとり、ふたりと辞めていき
俺はそろそろこの劇場を諦めなければならないと
腹を括った。

昔からの親友ドンへは残っていてくれたけれど

ドンへと話をして、まだやり直しのきく内に
別の道を歩いてもらう事に決めた

ドンへは劇場を去る時にふとつぶやいた

「せっかく、ここは残ったのにな」

「ああ、そうだな」


「なぜここだけ残ったのか、不思議だと思わないか?」

「俺が抵抗したからだろ」

「………」

「どうした?」

「いや、なんでもない」

何やら意味ありげなドンへだった。


劇場は諦めたくない。
でも現実はとても厳しかった

劇場を保つために借金が増えていく

俺はそんな状況をチャンミンがいなくなったからだとは思わない。

でも、たまにふと考える

チャンミンがあのまま俺の側にいてくれたら
俺はなんとしてもこの劇場を立て直そうと
もう少し躍起になったんじゃないのか。

もっといい芝居が書けていたのではないだろうか。

俺はチャンミンを幸せにしたいと思っていた

繊細で世間知らずで、そしてどこまでも純粋で一本気。

でも俺は力不足だった。
いろいろと力不足だったのだ。

普通の人々の生活というものが
慎ましいけれど、どれだけ尊く美しいものか

俺は教えてやることが出来なかった。

芝居や舞台の素晴らしさも伝えきれなかった。


離れてしまったのは仕方ない


それでも俺といる喜びをその可愛い顔に湛えた…
あの笑顔が忘れられない

俺のすべての原動力になっていたチャンミン

去られてみて、その存在の大きさに今更驚いている

特に今こんな時…
側にいてくれたら。


そして、次第にかかってくるようになった真夜中の電話

傷をナイフで掘り起こされるような痛み


最初は…チャンミンが戻ってくるのかと期待した。

でも、戻ってこいと言うと、チャンミンは黙ってしまう

「戻りませんよ、あんな生活。。
屋台のおでんなんて、年に1度食べたら十分なんです」

「そうか…」

初めて屋台でおでんを食べた夜、
目を輝かせていたチャンミン。

「こんな美味しいもの、毎日だって食べられます」
そう笑ったお前なのに…


戻ってくるつもりはないのだ、と
確信した俺にとって、こんな残酷な電話はない



「ユノ?寝てた?」

「ああ、この時間ならほとんどの人は寝てるよ」

「………」

今日は喧騒が聞こえない

「飲んでるんじゃ…ないのか?」

「飲んでる…」

「ひとりか?」

「うん…」

「家?」

「違う」

「どこ?」

「劇場…」

「え?!」

「今、何も演目やってないんだね
台本書き上がらなかった?」

「お前、劇場って…
どうやって入ったんだよ」

「入ってない…入り口の石段に座って飲んでる
だって入れないんだもん」

あたりまえじゃないか…

「そこで待ってろ、今行くから」

このアパートから劇場までは歩くと20分くらい

俺は自転車を走らせた


工事現場と化した風景の中
取り残されたような劇場の前にぽつんとチャンミンが座っていた


「チャンミン!」

「あ、ユノ!」

チャンミンはニッコリと微笑んでひらひらと手を振った

「どうしたんだよ、こんな時間にこんなところで」

「なんかね…」

フニャフニャと笑いながら、チャンミンがドサッと
おれの胸に飛び込んできた


「寂しくて…」


抱きしめたチャンミンの匂いに
胸がギューっと苦しくなる

「寂しいってさ…」

「うん…」

「勝手過ぎるだろ」

「うん…わかってる」

「ほんといつも酔っ払いだな」

「フフッ」

「 俺のこと、そんなに苦しめたいのか」

「えっ?」

チャンミンは胸から頭を離し
俺の顔をじっと見つめた

「情けないけど、俺、お前のこと忘れるのに
今必死なんだよ」

「ユノ…」

「だからもう俺に構うな。
何度も同じこと言わせないでくれ」

「………」


「幸せなんだろ?今」

「幸せだよ!うん、幸せ」

「………」

「幸せ………だよ?」

「だったら良かった…
俺と別れてお前が幸せなら、俺も救われる」

「ユノも救われるの…」

「ああ…」

「僕も…ユノが幸せなら救われるよ…」


「タクシー呼んでやるから、もう帰れ
金はあるか?」

「呼んでもらわなくて大丈夫」

「でも…」

「連絡すれば誰か来るから」

俺を手で制するチャンミンに距離感を感じた。

呼べば誰かが馳せ参じる

そういう世界にチャンミンはいるんだと
思い知らされる…


「そっか…そうだよな」

「じゃあね、ユノ」

「ああ…」


俺は振り向かずに自転車に乗り、漕ぎ出した

心がチャンミンに繋がれたまま
俺は先に進めないでいた

漕いでも漕いでも…
気づくとチャンミンの元からすこしも動いていない


愛してる…
もうこんなに人を愛せないんじゃないかってほど

それくらい愛してる


風を切りながら夜道を走り抜け
叫び出したい気持ちを懸命に飲み込んだ

悪い夢だったらいいのに

明日の朝起きたら、「おはよう」と
可愛くお前が笑ったらいいのに

そうしたら俺はお前を抱きしめて言う

「悪い夢をみたよ。お前が俺の側からいなくなる夢」

お前は楽しそうに笑うだろう

「そうならないように、僕のことをしっかり繋ぎとめておかないとね」

でも、今は…

解放してほしくて、それでも動けなくて

目が覚めても、お前はやっぱり俺の側にいない…



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繋がれた舟(6)

ーーー夜空を見上げてーーーチャンミンside



「今、なんて?」

きれいなアーモンドアイが揺れている


「だから、もう終わりにしましょうと言ってるんです」

「終わり?」


僕はため息をついてみせた。

吐息が震えていることがバレやしないか…

あえて他人行儀な言葉で気持ちをごまかす。

そして、小さな居酒屋の喧騒が僕の間をとってくれていた。


ユノ…僕はこんなにもあなたを愛してる
この後に及んで、そんなことに気づいたりしている


「申し訳ないんですけど」

「…………」

「さすがにこの生活がキツくて」

「生活?」

「最初は面白かったんだけど…」

「なにが?」

「狭いベッドで一緒に寝たり
屋台でおでん買ったりとか」

「ああ…お前、楽しそうにみえた」

「だけど、元々の僕の生活スタイルではないので」

とことん、イヤな奴になって…
じゃないと僕自身が耐えられない

「金のない生活が嫌になったか」

「言いにくいけど、ま、そんなとこです」

「違うだろ」

「え?」

思わぬ返答に僕は顔をあげて
ユノを見た

その瞳には涙の膜が張り
可哀想なほど睫毛が揺れている


僕はユノにこんな表情をさせてしまっているのか。


それでもユノは微笑んでいた


「お前は俺が嫌になったんだよ」

「ちが…」

違う…違うんだユノ

僕は叫びたかったその言葉を飲み込んだ

「芝居がしたいって、あんなに必死にお前…」

「………」

「あれだけ俺に縋ってきたんだ。
芝居や舞台は続けるんだろ?」

「………」

「俺がイヤになったのは仕方ないけれど
芝居はどこかで続けるんだよな?」


「どうだろ、僕の一時の興味みたいなモノだったかも」

「………」

「………ユノ?」

「わかった」

「え…」

「わかったよ、チャンミン」

ユノはあっさりと答えた
それからは僕に縋ることはせず

その凛々しい顔に引きつった視線
そして、きっぱりと僕を手放した


「お前の芝居に対する思いがそんなんで残念だ」

「………」


「最低だな…そんな安易にこの世界へ入ってきたなんて。
真剣に舞台をやっている仲間に失礼だ」


できるだけ傷つけたくなかった…
でも芝居のことをそう捉えられてしまったのか

僕があなたの大事にしているものを
軽く扱ったように…

それは本当に不本意だった

でも…

「なんと言われても、もういいですよ」

悲しかった

唇を引き結んだ硬い表情のユノ。

「………」

僕は居酒屋の硬い椅子を転がすようにして
席を立った。


財布から何枚か札をだすと
ユノの前に置いた

「いらない」

「なに言ってるんですか
無理しないで」

「無理してないよ、ここ2人分くらいは
払えるさ」

ユノは片方だけ口角をあげて笑うと
その綺麗な指先でお札を僕の方に押し出した

「そうですか、じゃお言葉に甘えて」

これ以上、この人のプライドを傷つけたくない

僕はお札を無造作にポケットにしまうと
店を後にした


思ったより、簡単な別れだった
簡単だったことが、逆にショックだった


これで…これでよかったんだよね

僕のにぎりこぶしが、震えている


キュヒョンは言った

「正直に話せばいいじゃないか。
実家の会社が大変で、立て直すために仕方ないんだって。
わかってくれるんじゃないか?」

「そんなこと言ったら、ユノは劇場手放しちゃうよ」

「自惚れんなよ、すごい自信だな」

「ちがう。そういう人なんだよ。」

「ユンホさんが劇場手放したって
お前の問題が一発解決するわけじゃない」

「でも、あの人はそうする。
僕を支えて守ろうとする」

「はぁ?」

「困ってる僕を、放ってはおかない」

「ハニとなんて、政略結婚みたいなものだろ?
そうなったって、側にいてもらえばいいじゃないか
心の支えになってほしいって言えよ」

「そんなことできないよ
愛人みたいな、ユノにそんなことさせたくない」

「そんなにあの人が大事か…
お前、これから大変なんだぞ?」

「わかってるよ、大丈夫」


何が大丈夫なもんか…

さようなら、大好きな大好きなユノ

どうか、幸せに

あの劇場であなたはいつまでも輝いて

たくさんの人々の賞賛の中
その幸せを噛み締めてください

僕はあなたの夢を守ることができた
そう思うことで僕は少しだけ幸せになれる


夜空を仰ぐと涙が僕の耳に向かって流れ落ちてくる


がんばれ…

僕は夜空を見上げた


僕の状況を考えたら、早かれ遅かれ
別れなくてはいけなかったんだ。

ずっと一緒に…なんて所詮ムリだったじゃないか。


いい夢をありがとう

この楽しかった時間を思い出に
僕はまた頑張れる気がするよ


その時はほんとにそんな風に思ったんだ


そんな脆い決心ができるほど
僕は強くなかったし、
あなたへの思いは募るばかりだなんて

すべては僕の誤算だった



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繋がれた舟(5)

ーーー別れの足音ーーーユノside



チャンミンの元気がなかった

芝居も以前のようなやる気がみられず
突然ふさぎこんだり、落ち着きがなかったり。

心ここにあらず、という様子も見られた


どうしたのだろう…


優しく抱いたつもりでも涙ぐんだりするので
もしかして、こういう行為が嫌なのではないかと

それからチャンミンには触れないようにした。

俺が触れなくても特に気にする様子もなく
毎日淡々としているチャンミンに
俺は自分が必要とされていないのかと不安になる


チャンミンが離れていくような気がする…


そんなことはとてもじゃないけれど
耐えられないんだ

大好きだ

大好きなんだチャンミン

お前を愛してる…

俺から離れるなんて…
そんなことは考てほしくない


ある晩、チャンミンはふいとどこかに出かけたまま
帰ってこなくて

俺は心配で、今度は地下鉄の駅までチャンミンを迎えに行った

結局、終電を迎えてもチャンミンは改札から姿を見せることはなかった。

今夜は帰らないつもりなのか

だとしたら、どこで夜を過ごすのだろう…

俺の他に誰か想う人ができたのだろうか


考えれば俺はチャンミンのことを何1つ知らなかった

家族とうまくいかないのだ、という話は聞いていたけれど

どんな家族で、どんな仕事をしていたのか

いつか聞いてみたいとは思っていたけれど

今、こんな状態になっては特に
聞く勇気がなかった

それなりに裕福な家に育ったのは確かだろう

その事について少し触れた時も
チャンミンは否定しなかった。

俺は仕方なく、
そのままアパートに帰ってきた

すると、後ろから車のライトに照らされ
振り向くと


そこにはタクシーが1台止まっていて
何やら大声で楽しそうな話し声が聞こえた


「いいから、いーのいーの!」

それはチャンミンだった。

運転手がなにやら困っているようで
ボソボソと何か言っている

俺はタクシーに駆け寄った

「チャンミン!」

「あ、ユノだ!」

かなり酔っているようで、足元がフラフラとしている

俺はチャンミンを抱き抱えた

タクシーの中からもう1人出てきた


「あ、あの…私、キュヒョンといいます」

キュヒョンという男はぺこりと頭を下げた


「ユンホです。」

「あ、はい」

俺の事を知っている口ぶりだった。

「すみません。こいつこんなに酔って。
ご迷惑おかけしました」

俺は無意識にキュヒョンを牽制しようとしたのか
身内感たっぷりにチャンミンを受け止めてみせた。


「チャンミン、運転手さんに
何枚もお札渡そうとして…」

「ああ、そうだったんですか
えっといくらですか?」

「もう大丈夫です。とにかく連れて帰ってください。こいつ荒れてるんで」

「ほんとすみません」


「あの…」

「はい?」

俺は暴れるチャンミンを抱き抱えながら
キュヒョンに耳を傾けた

「あの、そうやって、チャンミンのことを」

「はい…」

「ずっと構ってやってほしいんです」

「はぁ」

「そういう風に面倒見る感じで」

「?」

「今みたいに、チャンミンの代わりに謝ったりとか」

「………」

「そういうこと、してやってください」

「………」

「こいつなりに背負ってるものあって…
負担を軽くしてやりたいんです」

「背負ってるもの?」

「お願いします…」


「…大丈夫ですよ、ずっと面倒は俺がみますから」


キュヒョンはホッとした表情でタクシーに乗り込み、街の灯りの方へと消えていった

なんだろう、悪いヤツじゃなさそうだ
牽制した自分が少し恥ずかしい

チャンミンが何を背負っているのかは
話したくなったら、チャンミンから話してくれればいい…


「さあ、帰るぞ」

「うーん」

「帰ったら水飲もうな」

「ユノ…」

「なんだ」

「なんでそんなに優しいの…」

「フッ…なに言ってんだか」

このところよそよそしかったチャンミンが
少し甘えてくれるようで、なんだか嬉しかった

それでも…

チャンミンの哀しい決心なんて、
その時の俺には知る由もなかった



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