FC2ブログ
プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

続・ひだまりの匂い(6)

〜〜スヒョクside〜〜



ユンホが店に帰ってきたのはわかってた

チャンミンはブリュレに夢中でわかってない

ほんのイタズラ心が湧き上がってしまった。

ユンホは傷ついただろうか…



1年以上前

学生時代の悪友ヒチョルに声をかけられた

俺は仕事や人間関係でメンタルをやられて
心のリハビリのために、
今までの金融の仕事とは別世界のパティシエの世界に足を踏み入れた。

思いの外、俺はそこにハマり

生活費を稼ぐくらいに
仕事ができるようになった。

ヒチョルがそれをカタチにしようとしてくれたのだ。

「これから、チキン屋をやるヤツがいる。
お前のスィーツと絡めればイケると思う」

俺はもう商売のことで神経を使いたくなかった

なので、ヒチョルにそのあたりを全面的にまかせた。

初めてユンホを紹介された日…

俺の心は一瞬にして囚われた

すっきりとした小さな整った顔
しっかりとしたバランスのいい長身

そして、その輝く太陽のような笑顔

「チョン・ユンホです」

そう出された右手の美しいこと

俺は恋に落ちた…


なんて美しい男なんだろう

そしてユンホはなんとも言えない空気を纏っていた
なんだろう…日向の匂いというか
ひだまりのような温かさがあった


しかし

ユンホには目の中にいれても痛くないほど
可愛がって、愛している男がいた。

シム・チャンミン

大病をして、ユンホのすべてをその心を愛情を
一身に受けて存在している男

ユンホがノーマルならば、
俺は静かにふつうに生きていくだけだったのに

男を愛しているならば
自分にもチャンスがあるのでは、と。


なかなかこっちを向かず
チャンミンにすべてを持って行かれてるユンホの
その心がほしい

一度、冗談ともとれるような形で
自分の心を話してみた

ユンホに合わせて、
俺は受け入れる方でもどっちでもいいのだ、と。

もし、あなたが俺と一度でも繋がってみたい、
と思ってくれるなら。


ユンホはどう捉えたのかわかないけれど

俺の告白を一笑に付した。


「俺は男が好きなんじゃないよ
愛したチャンミンが男だっただけ」


俺のそんな気持ちをいち早く気づいたのは…


「スヒョク、なに考えてる?」

責めるようなヒチョルの大きな目
ヒチョルにはバレていた


「なんにも…」

「ユノなら、諦めろ」

「………」

「あいつは男が好きなんじゃない
チャンミンが好きなんだ」

「たまにそういうヤツいるけどね
でも男の良さを知ってるんだから
以外に乗り換えも早いぜ」

「ムリだよ」

「そんなのわかんないさ」


でも、チャンミンが退院して
かなり大変な状況になってしまい


ユンホは声もかけられないほど
憔悴して…

俺は自分の心をしまいこんで、見守っていた。

今も…見守っている…


今日はちょっといたずら心で悪かったな。


チャンミンと初めて会ったけれど
すぐにわかった。

この男がチャンミンに違いない。


ユンホの愛を一身に受けて
光輝いているように見えた。

長身で細い身体。
韓国人離れした掘りの深い顔立ち
大きな瞳に柔らかい髪

恥ずかしそうに笑う姿がなんとも可愛い

でも、1人佇む姿は儚くて色気がある

子供のように無垢なのに、
人の心をかき乱すような色気

自分からなにもしなくても
ユンホの方がほうっておけなくて
何かと構うのだろう


何かがしたいだなんて

存在自体がユンホのためになっているっていうのに


死ぬほど望んでも
誰も代わることのできない

そんな場所に存在できているのに

チャンミンはちっともわかってない


それよりもチャンミンが気づかなくてはいけないのは

ユンホの危険信号だ。


ユンホはきっと心が疲弊している


経験した俺はわかる


ずっとチャンミンを1人で守ってきたユンホ。

チャンミンをいつ失うかわからない恐怖と
戻ってこないチャンミンを待つ不安

それと闘い続けて疲弊している


今、チャンミンがどんなにそばにいても
不安が消えないのだろう

心のバランスを崩しているのが
自分でも気づいていない


俺だったら…

チャンミンが俺だったら…よかったのに。



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

続・ひだまりの匂い(5)

〜〜ユノside〜〜


昨日は、俺の役に立ちたいというチャンミンを
店に連れていってはみたものの

どうにも手持ち無沙汰な様子で
見ているのに忍びなかった

それになぜかスヒョクに馴染みがいいようで

2人が何かと接近されるのは面白くない

チャンミンも意気揚々と働こう
という感じでもなさそうで、
さて今朝からどうするかな


「チャンミン、今朝はどうする?」

「どうするって、出勤するかどうか
僕が選べるんですか?」

「いいよ、選んで。
少しでも頭痛がするようなら、休んでほしいし」

「………そんな働き方って」

「働くって言ってもさ、手伝いなんだから」

「いなくても構わないってこと?」

「いや、そうじゃないよ、チャンミン」

「………」



今日はウェディングサロンに寄りたいから
家にいてくれるといいんだけど

「じゃあ、やめときます。
あんまり必要ないみたいだし」

なんだか、かわいそうだな

「必要ない、なんてことはないんだぞ?
昨日は慣れてなかっただけだ」

「スヒョクさんと話すとユノさん、怒るし」

「それは…」

「………」

「それは、お前がスヒョクに話して
俺には話さないことがあるからだ。」

「………」

「いい気持ちなんて、しないだろ」

「………」

「………」


「うん、ごめんなさい。
ユノさんに言わないつもりだったわけじゃなくて
ほんとたまたま。」

「なんだったの?」

「やることなくてヒマって話したら
読唇術を教えるのは?って言われて
いいな、と思って調べたんです」


「ふうん、なるほどね」

「ワガママだけど、店に行くかどうかは
もう一度考えてみます。」

「ああ、いいよ、それで」

「でもね、ユノさん、
ユノさんの役に立ちたいっていう気持ちは本当…」

大きな瞳の上目遣いが可愛い

俺の役に立ちたいって…
そんな健気な気持ちだけで俺はもうお腹一杯


「…お前は側にいてくれるだけで
十分役に立ってくれてる」


その丸い頬を両手でつつんで
その伏せた瞼にキスをした


「じゃあ、ちょっと立ち寄るところあるから
用事済ませたらそのまま店に行くから」

「はい」

少し晴れた顔になったかな



〜〜チャンミンside〜〜


ユノさんは出かけた。

今日も自分の仕事をがんばるために。

ああは言ったものの

それじゃあ、お言葉に甘えて
今日は仕事行く事やめますって…

なんか、それは自分でも納得できないな

ユノさんも言ってたみたいに
僕は昨日は慣れていなくて
自分でやる事をみつけられなかったのかもしれない


やっぱり行こう


1度決めたんだし、
通い続ければ、自分の仕事が見つかるかも

最初は邪魔にされたっていいや。


僕はユノさんと自分の弁当を作り
地下鉄を乗り継いで店に行った。


「あ、おはようございます」

ホジン君が不思議そうな顔で僕に挨拶した。

来ないと思ってたみたいだね


「おはようございます!今日もよろしくね」

僕はわざとやる気満々なところを見せた。


「あの…チャンミンさん」

「はい?」

「こんな事言ったらなんですけど
開店前の掃除は僕1人で十分ですよ」

「それなら、何か別の事します
何かないでしょうか」

「申し訳ないですけど、特にないんですよね…」

「じゃあ、探します。何か僕の仕事」

「あの…」

「はい?」

「ユノさんと…一緒に暮らしてるのに
職場でも一緒にいたいんですか?」

「はい」

「あ…」

「何か、誰かの役に立ちたいんです
誰かに必要とされたい。
それがユノさんだったら、最高なんです」


「………」

「自分勝手でほんと申し訳ないんですけどね」


「………必要とされてるじゃないですか」

「?」

「あんなに必要とされてるのに…
ユノさんからチャンミンさんを取ったら
なんにもなくなっちゃいますよ…」

少しさみしそうなホジン君。

ユノさんの事が好きなんだよね


「ユノさんには仕事があるから…」



そこへスヒョクさんが来た

「へぇ、ユンホさんからチャンミンをとったら
何も残らないの」

「あ、おはようございます」

ホジン君はプイと顔を背けるとフロアに行ってしまった

「今朝はユンホさんは?」

「どこかに寄ってから来るらしいですよ」

「そう、じゃブリュレ置いてくね」

「はい」

「今日は数が多いけど、ユンホさん大丈夫かな」

「何がですか?」

「焼き目付ける作業、ユンホさん1人でやることになるから」

「焼き目って、ブリュレのカリカリの焦げ目のことですか?」

「そうそう」

「あの…それって僕にもできますか?」


「バーナーの作業だけど、少し重いよ」

「筋力は大丈夫なんですけど
精密な作業は少しむずかしいです」

「精密じゃないよ、ラテアートじゃないんだし」

「じゃ僕にもできますか」

「やってみようか。ユンホさんの役にも立つよ」

「お願いします!」


僕は消毒をして、ブリュレに焼き目をつける作業を
スヒョクさんから教わった

「ここをしっかり持って」

スヒョクさんは僕の後ろにぴったりとくっついて立ち

バーナーを僕に持たせると、僕の手に自分の手を添えた

バックハグの状態で手を添えられてる事にドキッとした。

スヒョクさんの息が僕の首筋にかかる

ドキドキする…

でも、同時に激しい嫌悪感を感じる

僕はユノさん以外のスキンシップはまったくダメ

でも、今は仕方ない…

コツを教わり、次第に作業に没頭していった。

「チャンミン、それだと近づけすぎ
遠くからやってごらん」


あまりに没頭していて、
厨房の入り口にユノさんがいることに
まったく気付けなかった

「あ!これなんかどうですか?
少しは美味しそうに見えませんか?」

「だんだん上手になってきたよ。
後は慣れだからね」

「今度から僕がこれをできるようになれば…」


「できるようになれば、なんだ?」


低く響く乾いた声にビクッとした


悪いことはしていない
でも、この姿はユノさんに見られたくなかった

「ユノさん…」

ユノさんは腕を組み、壁にもたれかかるようにして
" 僕たち "を見ていた

「あ、おはようございます」

スヒョクさんは、僕から離れない


ユノさんの顔は怒っていなかった

むしろそれを通り越えて
呆れ果てて、冷めているように見えた

ユノさんに、こういう顔をさせたら
とてもよくないことを、僕は短い付き合いだけど
知っていた。

心臓がドキドキした。

でも、悪いことはしていないんだ

「僕がこれをできるようになればね」

ユノさんは僕の言葉を最後まで聞かずに
事務所に行ってしまった。

「あ、この体勢がまずかったかな
ユンホさん、怒ったね」

スヒョクさんは僕の手からバーナーを取って
僕から離れた。

まずい…

誤解は解かないと


「ユノさん…」

僕は事務所へ急いだ

ユノさんは事務所でPCで何かをチェックしていた。

「あ、ユノさん」

「なに」

ユノさんはPCの画面から目を離さない

「僕、ブリュレの焼き目つけるのを
手伝えれば、と思って…
少しできるようになりました。見てもらえますか」

「今日は家にいるはずじゃなかったのか?」

「………でも、仕事だから」

ユノさんはいきなり立ち上がると
ドアの鍵を閉めた

そして僕は両腕を上げさせられ、
壁に貼り付けられた

指を絡め、押さえつけられている

ユノさんの端正な顔がキスしそうな近さにある

僕に逃げ場はない

その顔は怒りに満ちていた

切れ上がった漆黒の瞳は鋭く光り、
眉間に皺をよせ、
まっすぐに僕を睨んだ

ユノさんの雄の香りに
不覚にも僕は感じてしまい、熱い吐息をもらしそうになる


「チャンミン、お前は俺のだろ」

「え…」

「俺のなのに、なんで俺の言うことがきけない?」


その言葉に僕の熱い気分は一気に冷めた


「なに…言ってるんですか?本気?」


ユノさんの唇が体温を感じそうなほど
近くにあったまま。

しばらく僕たちは動かなかった

ユノさんと僕はみつめあった


ユノさんの瞳は怒りから悲しみの色に変わった


あ…ユノさん…


ユノさんはふーっとため息をついて
その瞼をきつく閉じた

高く鼻筋の通った顔が
大人の男の色気を感じさせる

それは美しい苦悩の表情だった。

「本気じゃ…ない…」

「ユノさん…」

「俺は病んでるな…」

「え?」

「お前のことになると
すべての判断力を失う…」

ユノさんはゆっくりと瞼をあげると
泣きそうな顔で僕を見つめた

この人にこんな顔をさせたらダメだ
僕はなにか間違ってる


「お前は本音を言わないけど
俺も言ってない」

「本音?」

「ああ」

「ユノさん…僕ね、本音を言うから。
あの、手伝いたいんです、ユノさんを。
ユノさんの夢中になってる仕事に
僕も参加したいんです」

「俺が夢中になってるのは
仕事じゃなくて、お前だ」

「あの…でも…」

「仕事は…一生懸命やってるだけだ
俺たちのために。」

「それは…ないでしょう?」

「他の地方に店舗を出す話もあった」

「え?」

「断った…出張が増えて、お前を1人にするのは
いやだった」


「ユノさん…」


「俺はできるなら、一日中お前とミィとのんびりしていたいよ」


僕は目の前の悲しそうなユノさんにキスをした




にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

続・ひだまりの匂い(4)

〜〜チャンミンside〜〜


今日からユノさんの店で
ちょっとだけ仕事をする

出かける支度でユノさんとバタバタする朝が
とても楽しい


それに朝の渋滞の中、車を巧みにすり抜ける
ユノさんのハンドルさばきを見れるのもうれしい



店に着くと、ホジンくんが来ていた
「あ、チャンミンさん」


ユノさんが僕の肩を抱いて紹介する

「開店準備だけ手伝うことになったから
よろしくな、ホジン」

僕は頭を下げた
「よろしくお願いします」

「あ、よろしくお願いします!」


いい子なんだけどね、ホジンくん
でもユノの事が好きって気持ちがあふれてる

僕にとっては困った君。


そんなところへ
スヒョクさんがやってきた

「おはようございます…あ、あれ?」

「おはようございます、スヒョクさん」

「チャンミンが朝だけ手伝うことになったから」


「そうなんだ、よろしくね
そういえば教える方はどうだった?」

「調べたけど、いろいろ大変そうで
やめました」

「なんだかもったいないね」

「そんなにやりたい事じゃなかったのかも」


僕の肩を抱くユノさんの手がサッと離れた

あれ?

ユノさん?

ユノさんは厨房に入って行って
開店の準備にとりかかっている


僕はユノさんを追って厨房に入った

「僕は何をしたら…」

「チャンミン、厨房に入ってきたらダメだよ」

「え?」

「消毒しないとダメ」

「あ…どこで消毒したらいい?」

「チャンミンは掃除に来たんだろ
厨房には用がないから入ってくるな」

な…

なんて言い方…


「ホジンを見ろ、もうさっさと掃除はじめてるぞ」

「ユノさん…」

「なんだ」


「気に入らなかった?
僕がスヒョクさんと話してるの」

「どうかな?
お前はなんか調べ物してたのか」

「調べ物?」

「さっき、そう言ってたろ
なんで昨夜、俺にはそれを言わないんだ」

「そっ、それは…」


ユノさんは鶏肉の下ごしらえをする手をとめて
ため息をついた。


「ああ、もうやめよう。
ここは職場だ。俺たちの家じゃない」

「だけど…あんな言い方」

「チャンミン、俺たちの話をここに持ち込むのはやめよう」

「だって、ユノさんが…」

「ああ、悪かった。俺が悪い…
頼むから、ホジンを手伝ってやってくれ」


ユノさんの言うことは正論だった


僕は、フロアに出た
鉛のような何かが僕の心を重くしていた


僕は…邪魔だったかもしれない


その言葉が頭に浮かばないように耐えた
少なくとも今は…


ホジン君は黙々と掃除をしている

「あの…ホジン君、何を手伝ったらいいかな?」

「僕1人で大丈夫ですよ」

ホジン君は僕の目を見ない


「でも…手伝うよ
そのつもりで来たんだし」

「でも、開店準備に2人なんて、
本当に大丈夫なんです」


それ以上は言えなかった


結局僕は意味なく椅子を整えたりして
なんとはなしに時間を潰した。


あきらかに僕はここで必要とされてなかった。
もう認めざるをえない


そしてナレちゃんが出勤してきた


「あれ?チャンミンさん?」

「あ、ナレちゃん、僕、今日から
開店手伝うことになったんです」

「は?そうなの?何か忙しいの?」

「いや、そういうわけじゃなくて
僕の都合っていうか…」

「ふぅん、よくわかんないけど、よろしくね」


そして、例の賑やかなミーティングが
事務所ではじまった

僕は業務に関係ないから
ここで帰る感じかな…


何しに来たんだろ…

全然必要とされてないのに…



何も言わないで帰るのもな、と思い

チラッと事務所に顔を出した
「それじゃお疲れ様でした」

ナレちゃんとホジン君が「おつかれさまー」と
ほとんど何にもしてない僕に言ってくれた

それが余計に哀しい


「チャンミン」

ドアを開けて出て行こうとする僕を
ユノさんが引き留めた


「チャンミン、これ持って帰って昼飯にしろ、な?」

僕にギンガムチェックの布に包まれた
弁当箱を渡してくれた

「ユノさん…そういえば僕、今日お弁当作ってない」

「いいんだよ、どうせホジンたちに賄い飯作ってるから。これはその賄い飯だ。」


「………ありがとう」


「今日はきっと疲れてる
帰ったら少しミィと昼寝したらいいさ」


ユノさんは笑った…


スッキリとした輪郭に
優しく細められた黒目がちな瞳

端正な顔立ちは日に焼けてて
精悍な色気があった


事務所からユノさんを呼ぶ声がする

「じゃあな、帰りは気をつけて
薬忘れんな」

「うん…」

「ご苦労さま」


なんにもしてない僕に

ご苦労さま、なんて言ってもらう資格はない


僕は帰りの地下鉄で
ギンガムの弁当箱を抱きしめた


何か…
ユノさんの役に立ちたい…



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

続・ひだまりの匂い(3)

〜〜チャンミンside〜〜


僕は帰ると早速、ネットでいろんなことを調べた


読唇術を人に教えるには
手話から始めなければならないらしい

しかも、この近くには教えてくれる場所もなく
かなり遠いところまで通わないといけない

なかなか難しいな…

っていうか、そこまでして読唇術を
教えたいのかって言われると…



はぁーーー

できたら、ユノさんの店を手伝いたいのに。

ずっと一緒にいられて、ユノさんの役に立つ。

やっぱり無理なのかな

一度麻痺を経験した腕は、お皿を持ったり
お店の手伝いには向かないのだろうか。


ミィがお昼寝から覚めて僕の足元にすり寄ってくる
僕はミィを抱き上げた

ミィを抱っこするのは、なんの問題もないのにね


夕飯は何にしようかな。


野菜を刻んだり、
そんな作業もまったく問題ない

リハビリで筋力は問題ないし

僕はユノさんが思ってるよりなんでもできる



今夜は少し遅くユノさんは帰ってきた

今朝の事で、機嫌が悪い


それでもいつものように食卓を囲み
食事をとった。

僕ばかりがしゃべっている

この暗い雰囲気をどうにかしたくて
どうでもいい話を次から次へと話す僕

沈黙がこわい…


ユノさんが僕の話を中断するように
箸を置いた

「おかわりは?」

「いらない」

「じゃあ、お風呂…」

「チャンミン」


ユノさんは威嚇オーラにあふれている

僕は小動物のように縮こまった


「なんですか?」

「お前の悪いクセ」

「え?」

「そうやって、物事に真正面から立ち向かわない」

「は?」

「すぐ逃げる」

「逃げるって…何から?」

「俺の機嫌がわるいってことから」


「………」


「チャンミン、お前、稼ぎたいの?」

「あ、いや…そういうわけじゃ」

「俺、お前ひとりくらい、無理なく養えるよ」

「うん…」

「じゃなんだよ」

「…………」


僕は黙ってしまった

ユノさんに僕の気持ちを訴えても
きっとわからない


ユノさんはため息をついた


「スヒョクには言えて、俺には言えないの」

「あ…」

「スヒョクは大人だからな…俺と違って」

ユノさんの顔がとっても意地悪だ。


「ユノさん、写真撮りましょう!
最近あんまり撮ってないでしょ?」


僕はユノさんのこめかみにキスをした

それでも仏頂面のユノさん
機嫌はどうやら直りそうにない


「ユノさん…」

「…………」


「僕はなかなか変わりませんね」

「え?」

「こうやって、なにかと逃げるクセ
変わらないです。」

「…………」

「怒られるのわかってるのに話すとか
怒っている人になにか話すとか」

「………」

「やっぱり、そういうの怖くて避けちゃう」


僕はミィを抱き上げてキッチンへ行った

所詮、僕は僕のままで

なんにも成長していない

なんだか泣きそうになって
僕はユノさんを見ないで話した


「直そうと思ってるんですけど
気がつくとこういう事になってる」


ユノさんはダイニングから立ち上がって
僕の側へ来た

そして大きく腕を広げて
僕とミィをまるごと抱き込んだ

ミィがユノさんに甘えて、鼻をすりつける


「俺も全然ダメだ。本当はチャンミンのこと言えない」

「何がですか?」

「嫉妬…」

「え?」

「この異常なまでの嫉妬だよ」

「フフフ…」

「アタマに血が上るともうダメ」

「うれしいですよ」

「うれしいかよ、そんなワケないだろ」

ユノさんも笑った。。


「ごめんな、チャンミン」

「ユノさんは謝ることなんかないです」


だって、ユノさんにはいろいろ言えないのはほんとうだから。


「でも、金の事は気にすんな
何か身体に障らないような趣味でも見つけてさ」

「朝、一緒に店に行って、開店前の掃除をしてもいい?」

「は?」

「開店したら、忙しくなるでしょ?
だからその前に帰ります」

「ま、いいけど…」

「じゃあ、そうさせて?ね?」

「1人で帰るのがなぁ…目眩とかさ」

「様子が変なら、そのまま事務所に残ります
そうしたら、安心でしょ?」

「………」

「家に1人でいて、目眩がすることだって
ないワケじゃない」

「え?そうなのか?」

「だから…」

「わかった。そういうことなら、
側にいたほうがいいな」

ほんとうはほとんど目眩なんてしないけど

ごめんね、でも、ありがとう…



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

続・ひだまりの匂い(2)

☆今回登場する イ・スヒョクさんは
「夜を歩く士」で吸血鬼クィを演じた俳優さんです^ ^

〜〜ユノside〜〜



昨夜はチャンミンに煽られてしまった

あんまりキツイことをしたくなかったのに
かなり攻めた感が否めない


手術も成功して、元のチャンミンに戻ったけれど

術後検診で再発の可能性を言われた時には
目の前が真っ白になった


率としては高くないものの
再発の可能性がないわけではない

次は悪性だったりするかもしれない


チャンミンを失ったら俺は生きていけない

それにもう、あんなにツライ日々はイヤなんだ


俺は俺なりに勉強をして
チャンミンが再発しないように努めることにした。

この先5年間何もなければ、とりあえずは
大丈夫なのだ。

ストレスを溜めないように
疲れすぎないように

栄養のバランスに気をつけて

俺は取引先で知り合った
オーガニックの野菜を取り扱う店から
チャンミンの食べる野菜を注文していた。

できる限りのことを、してやりたい


こうやって、チャンミンが元気で
2人で生活できることの幸せを俺は噛み締めていた


そのためなら
俺は激しいセックスなんてしなくていいんだ

たまには…

したいけど…



俺は店に寄る前に
ウェディングサロンに立ち寄った

実は何回か通っていて、いろいろ相談している


「ああ、チョンさん、いらっしゃいませ」

コーディネーターの女の子に個室に通された


「どうでしたか?」

席に着くなり俺は尋ねる


「同性同士でも式をあげてくれる教会
いくつか見つけておきました」

「あ、ありがとうございます!」

「後はハネムーンをどこにするかで
決めるといいかと思いますよ」

「そうですね」

「一度お二人でいらしてください」

「あ…はい」


俺はチャンミンと2人だけの結婚式を
考えていた。

もちろんチャンミンには内緒だ。


俺たちは入籍したものの、
チャンミンは倒れてしまい、バタバタと入院、手術となってしまった。

それからとても式とかハネムーンなんて
考えられなかったけど

もうそろそろ、いいだろう


すべて準備が揃うまで
チャンミンには内緒だ。

驚かせて、泣かせたいんだ

嬉し涙にくれるチャンミンが見たい

俺は1人そんな場面を想像してニヤついた



〜〜チャンミンside〜〜


ユノさんをいつものように見送った後

ひととおりの家事を終え玄関を見ると

ユノさんはまたお弁当を忘れていた


はぁ?また忘れてったの?

大慌てで出て行くから…


ま、昨夜は久しぶりに何回も抱き合って///////
ユノさんも疲れたかな?


今朝は久しぶりに唇にキスして出かけて行った

ユノさんが、僕の顎をすくって顔を近づけると
ドキドキする


甘い雰囲気っていうか
エロスが足りてなかったのかな…最近の僕たち


僕は昨日より少しは甘いため息をついて
またお弁当を届けることにした


本当は…

昨日なんとなく凹んでしまったから

今日はしっかりと、みんなに挨拶くらいはしていこうかと。

そんなことを思いながら店に行った。


店に着くとユノさんは店にいなかった

お弁当を置いて帰ってもよかったんだけど

ホジン君に待つように言われて
なんだかやることもなく、手持ち無沙汰だった

僕も店を手伝えるといいのだけど

でもユノさんはそれをさせない

以前、僕が少し手伝った時に
お皿を割ってしまい

手元が危険だと思われてる



ふと裏口が開いて

男の人が現れた


きれい!とそう叫びそうになるくらい

美しい人だった。

長身で、鼻筋が高く憂いを含んだ瞳とウエーブのかかったヘアスタイル

とにかく綺麗な人だった。

その人は大きなトレイを持って、僕に会釈をした


「もしかして、チャンミン?」

「え?あ、はい、そうです…あの…」

「僕はイ・スヒョクといいます。
ユンホさんの店にブリュレを置いてもらってます」

「あ…はい!お話聞いてます!」

スヒョクさんはフッと微笑むと
トレイを厨房に置いた

なんだか、オトナの魅力だなー


「ユンホさんは?」

「あ、まだ来てないみたいで」


「一緒に住んでるんでしょ?」

「あ、はい…どうしたんだろ」


僕とスヒョクさんはそこで少しおしゃべりをした

「チャンミンはこれから仕事?」

「いえ、僕は仕事はしてないんです…」

「ああ、入院してたんだよね
聞いてたよ」

「はい………」

「でも、もう健康そうじゃない?」

「でも…何やっていいか、わからなくて…」


近寄りがたい美しさのスヒョクさんだけど
なぜか、とても話しやすく

いつのまにか、最近悩んでいたことまで
話し始める僕だった。

「読唇術ができるなら、それを教えるのはどう?」

「あ!それいいかも」


なんで気づかなかったんだろう

「そういう人たちの困ってることも
わかってあげられるでしょ」

「はい!そうですよね!
なんだか道が開けました!」

「大袈裟だなぁ」

スヒョクさんは綺麗に笑う。

「いや、でも僕、ほんとうに悩んでて…」

と、その時

ふと、ドアが開いて、ユノさんが入ってきた

なんの前触れもなく開いたドアに、
僕はびっくりして言葉が詰まってしまった


「おはようございます、ユンホさん」

すかさず、スヒョクさんは挨拶をした

僕の顔を怪訝な顔で見つめていたユノさんが
あわてて挨拶をする

「あ、おはようございます…」

「冷蔵庫にいれておきますね」

「あ、お願いします…」

スヒョクさんは厨房に入っていった。


「チャンミン、どうした?」

「あ、またお弁当忘れてましたよ」

「え?うそ?」

「本当です。だから持ってきたんですよ」



スヒョクさんが厨房から顔を出した。

「じゃあ、私はこれで」

「ああ、ご苦労さまです」


「チャンミン、健闘を祈るよ?」

スヒョクさんは僕にウインクをひとつして
帰って行った。

それを見たユノさんの眉間にシワが寄る。

なんだか雰囲気がよろしくない


「健闘ってなに?」

「あ、仕事みつけようかな?って話をしてて」

「………」

「じゃあ、がんばって見つけてって
そういうことですよ」

「ふぅん、仕事探してたの?
俺、聞いてない」

思いっきり面白くない顔のユノさん

「言ったでしょう?毎日ヒマでって」

「ヒマなのは聞いた。でも仕事探してるのは聞いてない」

「探してるわけじゃなくて、
探そうかなって、その程度ですよ」

「………」


僕はなぜだか少し後ろめたい気持ちになった

だって、ユノさんには相談してない
どうして?と言われたら、よくわからない




にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

続・ひだまりの匂い(1)

〜〜チャンミンside〜〜



「いってらっしゃい、ユノさん」

「おぅー行ってくる」


玄関で見送る僕。

ユノさんは出がけに僕の頬にキスをする

以前は唇だったけれど、
なぜか最近のキスは頬だ。


「具合悪くなったらさ
少しでも変だと思ったら、すぐ連絡しろよ?」

「はいはい」

僕はひらひらとユノさんに手を振った

陽に焼けたユノさんは
振り返って僕にニヤッと微笑みかけた

カッコいいなぁ

ずっと一緒にいるのに
毎朝そう思う。


リハビリがほとんど必要なくなって3ヶ月
元の僕にもどってから半年以上が過ぎようとしていた。

ユノさんは、術後検診でよく使われる
「再発」という言葉にとても怯えた。


そして回復率が100%という数字にならないことも
気にしていた。

100%という数字はこの先も
医者の口から発せられることはない

まだ投薬は続いていたけれど
それでも問題なく普通の生活を送れているのに。

心配してくれるのは嬉しいけれど
少し過保護だ



ユノさんが出かけて

僕はだれもいないこの家でひとり。

ふぅーっと大きくため息をついた。


壁の棚に置いてある犬のぬいぐるみを
なんとなく手にしてみる

これは僕が少し幼くなってしまった時、
大事にしていた患者さんだ。

お腹の様子を触診してみる

「特に問題ないね?」

ワンコはニコニコと嬉しそうだ。


僕の動物病院は看板を下ろしてしまったけれど
そのままになっている診察室に入ってみる

道具は処分して
それでも診察台や机、椅子はそのままだ。

かつての僕…

飼い主はみんな不安そうにペットを連れてきて
そして笑顔で帰っていった

僕はみんなの役にたっていたんだな

ユノさんだってそんな風にミィを連れてきたんだ
それが僕とユノさんの出会い

僕は先生なんて呼ばれてて
みんなに頼られてた


ところが今はどうなの?

僕は誰かの役に立っているのかな

幸せな毎日のはずなのに
ふと、そんなことを考えるようになってしまった。

正直、ヒマを持て余している


ユノさんはチキンの店をそれは一生懸命に
やっていて、繁盛していた。

たぶん、ユノさんのビジュアルが売り上げの半分くらいを占めているだろうに。

あの店が「オルチャン(イケメン)チキン」とネットでも言われてるのを知ってる

ユノさんもこだわって仕事してるから
そりゃ繁盛するね、うん。


僕も仕事が大好きだったんだけれど

もう、獣医はさすがにダメだろうな。


「医学的知識の記憶が完璧に戻ったかどうかは
調べようがありませんし、
右手は麻痺を経験しているので
手術などの繊細な動きがどこまでできるかどうか。
ご自分ではどうですか?」

医者にも相談してみると
そんな答えで。

確かに右手で字を書くと、昔より下手だ。

はぁー…

ため息しかでない


その夜、仕事から帰ってきたユノさんに相談してみた。

「僕…こう言ったらなんだけど
ヒマなんだよね、毎日」

「ミィと一緒にのんびりしていたらいいよ」

「のんびりしすぎなんだ」

「あんな大病をした後なんだし
ストレス溜めて、再発でもしたらどうするんだよ」


「誰かの役に立ちたいっていうかさ…」


「こんな美味い晩飯を毎晩作ってくれて
それだけでチャンミンは俺の役に立ってくれてる」

ユノさんはその切れ長のアーモンドアイを
優しく細め、微笑む

白い歯が溢れる笑顔を見ていると

それ以上、何も言えなかった


「チャンミン、俺さ、ちょっと楽しい計画をしてるから」

「え?どんな?僕も参加?」

「計画するのは俺。楽しみにしてろ、な?」


また店舗を広げるのかな?

ユノさんはどんどん邁進していく

毎日が充実しているようで

男って仕事がノッていると
色気が増すよね

ユノさんを見てるとそう思う


僕はこのまま、そういう事もなく
魅力もどんどんなくなっていくのかも

ユノさんからも興味を持たれなくなったら…

すでにユノさんにとっては
僕はたいして面白くない存在なのかもしれない

ユノさんの心には、今は仕事がかなりの位置を占めていて
僕の場所は少しずつ追いやられているのだろうか

ますます僕は焦った


診察室を出て、ふとダイニングテーブルを見ると
ユノさんに渡したはずのお弁当がある


「ユノさん、忘れてるじゃん」


少し考えて、僕はそのお弁当を
ユノさんのお店まで届けることにした。

今から出れば、開店前には届けられる


僕は地下鉄を乗り継いで、ユノさんの店に行き、
裏口から事務所に入ろうとした。


その時


事務所から、楽しそうな笑い声と話し声がした

バイトのホジン君やナレちゃんと談笑するユノさん

僕はノックをして事務所に入ろうとしたら

突然凄い爆笑が聞こえて
びくっとして手が止まった


「それ、いいなぁ!
じゃあ、ホジンが女子担当で、ナレが男子担当な。
俺たち3人いれば、怖いものなしだ!」


ユノさんの低く通る声
みんなの笑い声…


俺たち3人いれば…


なぜかその言葉が僕の心に影を落とした

3人いれば、僕は…いらない?


頭ではわかってる

ユノさんはそんな事を言ってない

きっと何かの話で
そんな言葉が出てきただけだ


そういえば、何か企画を練ってる、みたいな話をしていたユノさん。

みんなで店を大きくするとか、そんな話なんだね

そんな計画に、やっぱり僕は入ってないんだ
何もしてないから、当たり前だけどね

僕はもうノックをするつもりはなく
持ってきたお弁当を厨房に置いて
誰にも会わずに帰ってきた。

家に帰って、しばらくミィと戯れていた

「ミィ、僕はいったい何をして生きていったらいいのかな?」

ミィはニャーと可愛い声で返事をしてくれて
僕の膝で丸くなった


ふとスマホが鳴ってみてみるとユノさんからだ

「もしもし、チャンミン?」

「はい」

「弁当忘れてごめんな
届けにきてくれたの?」

「あ…はい…」

「俺、事務所にいたんだぜ?
なんで声かけてくれなかったんだよー」

「あ…うん…なんか
みんなで盛り上がってたから…」

「盛り上がってた??」

「楽しそうな感じで…」

「だったら尚更声かけてくれたら
俺、家まで送ったのにさ」

「………」


もし声をかけても
僕はそのまま送り返されたってわけか。


「とにかくありがとな
眩暈とか頭痛はないか?」

「もう大丈夫ですよ…」

「あんまりパソコンとかやりすぎるなよ
普通の人間だって頭痛がするから」

「はい…」

僕は普通じゃないのか…


ああ、ダメだな、僕は…

ユノさんの言葉や態度、その全部を
ネガティブに変換してしまう


だんだん自分にも、自分を未だに病人扱いするユノさんにもイライラしてきた


僕は夕食を作り
ユノさんと食卓を囲む。

いつもの光景だった。

ひとつだけ違うのは

今日の出来事を話してくれるユノさんの
その目を僕が一度も見ないこと

返事さえしなかった

僕が食事を終え、ひとり食器を片付けるために
席を立つと

ユノさんも席を立った


「チャンミン」

「なんですか?」

「どうした?なにかあったか?」

「なにもないです」

僕は即答した

だって、ほんとうに僕はなにもないんだ

なさすぎるってやつ…


僕はキッチンに食器を持って行った
ユノさんも食器を持ってキッチンに来る

ユノさんは自分の食器をシンクに置くと
僕の食器も奪ってシンクの中に重ねた


「俺の目を見ろ、チャンミン」


低く乾いた独特の声…

僕はチラッとユノさんを見たら
僕を射るように見つめている

僕はその視線から逃れることができず

まっすぐユノさんを見つめる


「見てますけど」

「は?なんだよ、その言い方」

「ユノさんが目を見ろっていうから
見てるんじゃないですか」


ユノさんはため息をついた…


「弁当忘れたのは悪かった
せっかく作ってくれたのに…」


僕はそんなこと、なんとも思ってない


あなたはどこまで優しいの…

僕はたまらずユノさんに抱きついた


「チャンミン、ごめんな」

そう言って、僕の背中をやさしく
トントンとしてくれる

大いなる勘違いをしているユノさん

僕はユノさんをギュッと抱きしめた


「チャンミン?」

「抱いて、ユノさん」

「は?」

「は?ってさ、よくここで抱いてくれたでしょ?」

「あ…」

「たまらなくなって、ベッドまで持たないとかなんとか言って、抱いてくれたじゃないですか」

「ちょっと…チャンミン…」

僕はユノさんのシャツのボタンを外した


露わになる、滑らかなユノさんの肌

「待って…なぁ…まず、食後の薬飲めよ」

え?

食後の薬?

こんな時に何言うの?

僕はそんな言葉を無視して
ユノさんの肌を舐めあげた

ボタンを外しながら

ユノさんの首筋から耳にかけて、
唇で食んだ

ユノさんの息は少し荒くなり

僕の肩を掴む手に力が入る


「この間みたいにさ…飲むの忘れると…マズイだろ…」

この後に及んで何をいうんだ、この人は。

僕はユノさんのシャツのボタンを全部はずすと
その逞しい肩からシャツを剥がした

そして、もういちど首筋を攻めて
ユノさんの頬を両手で挟み、その唇にキスをした

僕なりに、息もできないキス

ユノさんはきちんと興奮してる

その長い脚の間に僕の脚を割り込ませると
ユノさんが固く反応していることが
僕の太ももに感じられる

キスしていた唇をはなし
その耳たぶを軽く食むる

ユノさんの息が荒い

喘ぐのを我慢する顔が
とてもセクシーできれいだ


「チャンミン…」

「なに…」

僕の舌はユノさんの肩に移っていた


「薬…」



なんだよ!もう!!!


僕はユノさんのがっしりとしたその肩を
思い切り噛んだ

「いってぇー!!!!」

ユノさんは僕を突き飛ばす


僕はキッチンのシンクにしたたかに身体を打った

「あ!チャンミン、大丈夫か?」

僕に噛まれた肩を押さえ
ユノさんは僕を心配する


「へんなの!バカみたい!」


そう叫んで僕は寝室に駆け込んだ

そしてベッドに飛び込み布団に潜った

ユノさんのバカ!

前は…前は…
もうガマンできずに、どこでも僕を抱いてくれたのに

激情に任せて、荒々しく

ユノさんが僕をそこまで欲しているのかと
怖くなったくらいなのに…

もう一度、僕を強く求めて
僕がいないと生きていけないって抱いてよ


お願いだから…

僕は布団をかぶってじっとしていると

ユノさんが寝室に入ってきた


「チャンミン…」


相変わらず、優しい声…

その声に涙が出てきた…

ああ、ごめんね、ユノさん…


ユノさんは、何も悪くない

なんの魅力もない僕を激しく求めろなんて
ムチャぶりしてさ…

ユノさんはやさしく布団を捲ると
視界がぱぁーっと明るくなった

「チャンミン…」

「ユノさん…ごめんね」

「いいんだよ、どうした?」


僕が顔をあげると

ユノさんの肩には赤く歯型の痕が残っている


「薬を飲むのがいやなのか?」

はぁーーー?

子供じゃないんだからさ


あーでも…

この人はこういう人だ


僕の心の奥を何も言わずにわかってもらおうなんて
最初から無理なんだよね

僕は諦めて首を振った

「そんなことないです。
きちんと飲まないとね」

「ああ、水と一緒に持ってきたよ」

「ありがとうございます」



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村



籠の鳥〜あとがき〜

百海です

「籠の鳥」最後まで読んでいただき
本当にありがとうございました

ユノとチャンミンにこんな映画にでてほしいな
という私の妄想の元、描かせていただいたお話です。

でも、今描き終えてみると

現在、陸軍軍楽隊と義務警察に別れてしまっている2人への想い。
私はそれををカタチにしてみたかったのかも?
なんて思っています。


前回の「ひだまりの匂い」は
チャンミンに思い出してほしいユノさん

今回はユノに思い出してほしくないチャンミンでした。


私は韓国ノワールの世界が大好きで
元々は香港ノワールも好きだったこともあり

ワクワクしながら楽しんで描かせていただきました

いつくかの銃を使うシーンや、相手の隙をつくシーンなどは、そんな映画から拝借しています

でも、いつになく
何度も何度も描き直しをしたお話でした。

表現が気に入らなくて、というのではなく
話の筋をどんどん変えてしまいました。


最初はダークサイドなミンを描きたくて
故意にユノを陥れる設定だったのです。


でも、話が進んでいくうちに
ユノがチャンミンを許すシーンが上手く書けなくて
なんだかしっくり来ないのです

ユノは優しくて寛大だけれども
何をされても許す、というタイプではなさそう。

私のユノに対するそんなイメージがそれを邪魔したのかもしれません。

そして、最後は2人を高飛びさせる予定でした。
無事にソウルを去った後、カン刑事がやれやれと言った感じで見送る、みたいな。

お話としては
たぶん、その方が面白かったと思うのです


でもリアルなユノとチャンミンは
過去から逃げる、というよりは
過去を乗り越えて力強く生きていくイメージがあって

こんな終わり方にしてみました。

妄想といえども、やっぱりリアルなイメージが
どうしても先行してしまうものですね💦

最後の2人の24時間を3回に分けて書いてみましたが
この3回の空気感は自分でとても気に入っています

寒い夜明けと初雪と夜景。

せつなくて大好きなモチーフです。

ちなみに、ソウルタワーには
私は行ったことはないのです(笑)


それと、映画的というところで
場面のスピード感やドキドキ感が
うまく伝わっているかどうかもかなり不安でした

なにしろ、文章力が足りなくて。。💦

結構勢いで書いてしまい、もう見直ししないように
した場面もありました💦

やっぱり難しいですね💦


そして、

たくさんのコメントや拍手、ほんとうに
ありがとうございました!

いつものお話にくらべて
叫び的なコメントが多くて、とてもうれしかったです!

本当に励みになります(T ^ T)

私自身も、コメントへのお返事が
かなりくだけて書けるようになった気がします。

最初は自分の書いたお話に、誰かが感想を言ってくれるなんて
少し、信じられない気持ちもあって
かなり固い感じのお返事が多かったように思います

最近は皆様が、お話の感想だけでなく
普段の生活が垣間見えるようなコメントもあって

とても楽しくお返事させていただきました


このお話を書いている途中で
熊本で大きな地震があり、

読者様の中にも度重なる揺れを感じられた方も多くて、とても心配でした。

被害に遭われた皆様、心よりお見舞い申し上げます。

早く、日常生活が戻ってきますように
微力ながらお祈りさせていただきます。

そして、この「籠の鳥」に
拍手と非公開コメをいただいた

よん@@様、ゆの@@ま様、れ@様、@ぅ様、
R@@@☆様、e@@様、子@ゲ様、た@ご様、ne@@o様、
み@@@ン様、Mo@@@o様、きょ@@様

お返事できなくてごめんなさい
いつもありがとうございました



そして、次のお話ですが
はじめて続編を書かせていただきます

最近書いたばかりの「ひだまりの匂い」
その後の2人をそんなに長くはならないお話になりますが、今、書いています。

お話はハッピーエンドだったのですが

まだ足元ふらつく生まれたてのバンビのような
そんな2人の関係だったので、そこをもう少し。

ハピエンでめでたし、めでたしの後でも
現実はそれなりにいろいろあるよね?
というお話です。

2〜3日のうちには、アップします

もしお時間あれば、また遊びにきてくださいね!


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

籠の鳥(完)

〜〜チャンミンside〜〜



すっきりと晴れ渡った5月の青い空の下

その重い扉が開く



「シム・チャンミン、もうここに戻ってくることのないように」


「はい、今までありがとうございました」

僕は丁寧にお辞儀をした。


「身元引受人はカン・ドンジュで良いのですね」

「…はい」


「迎えがないようだけど、大丈夫ですか?」

辺りを見渡した刑務官が聞いた

「…はい」



半年ほど前からユノに会えてない…


最初は何かと面会に来てくれたのに


この半年、ユノがほとんど面会に来れなかったのと

来てくれても、僕が会うことができない時もあった。



代わりに毎週手紙が届き


その長い手紙は全部の内容がわからなかったけれどかなり忙しい、というようなことだけは読み取れた。

最初の手紙は看守に読んでもらっていた。

でも文末の「愛してるよ、チャンミン」まで
しっかり読まれるのが恥ずかしくて

後はわかる言葉だけ自分で拾い読みしていた。


どうしたんだろう。

他に好きな人でも出来たのだろうか…


ユノのことだ。

言い寄ってくる人間や誘惑はたくさんあっただろう


僕の身元引受人はカン刑事だった。

いや、もうかなり前に刑事はやめた、と聞いている。


僕は3人の刑務官から見送られ、

塀の外にでた。


もう一度、僕はお辞儀をして
振り返って辺りを見渡した


ほんとに、迎えは誰も…いない…


僕はずっと夢見ていたのに

ユノが両手を広げて僕を迎えに来てくれる夢


それを生き甲斐にまじめに生活をし、

異例の早さの仮釈放だった。


それなのに…


僕は胸に荷物を抱え、
明るい陽射しの中、トボトボと塀に沿って歩き出した


何台かの車が行き交う中
急に僕の横で一台の車が急ブレーキをかけてとまった


その音にびっくりして振り返ると


「ユノ!」

「チャンミン!なんだよ、早かったな」


白い車の窓を開けて、ユノが身を乗り出した


僕は咄嗟のことに何も言えず…

頭の中には言いたいことがたくさんありすぎて
まるで詰まって出てこない


「1時だったろ?オヤジからそう聞いてたぞ?」

「ちがうよ、12時だよ?オヤジって、カン刑事?」


なんだよーとユノは頭を掻いて、クルマから降りた


ジーンズに紺色のカットソーで
胸にはサングラスを引っ掛けている


しばらくぶりに見るユノはやっぱりカッコよくて
僕は言いたいことが言えなくなってしまい
うつむいてしまった


「もっと映画みたいな出迎えをしようと
思ったのにさ」


「12時って言ったもん」


僕も期待していたような出迎えではなくて

なんだか拗ねてしまった…


「なぁ」

「ん?」



「おかえり、チャンミン」

その声に顔を上げると、
ユノはその優しい目を弓なりに細め
にっこりと微笑み

両腕を広げてくれていた


僕は、しばらくモジモジとした後
飛び込むようにその胸に抱きついた


ユノは少しばかり後ずさりしたものの
しっかりと僕を受け止め、頭を撫でてくれた


ああ、ユノだ…


僕のユノ…


僕はユノのがっしりとした肩に
頬を乗せた


「会いたかったよ、チャンミン」

「僕も…でも、全然面会きてくれないんだもん」


「ごめんな、仕事忙しくてさ
お前の仮釈決まってからは、もうバタバタで」


「こういうのを、塀から出た時にやってほしかったの!」

僕はなんだかすごくワガママになっていて
拗ねて拗ねまくってユノを困らせた


「とりあえず、クルマに乗って、な?」


ユノはバックミラーで後ろから何も来ないことを確認すると、クルマを発進させた。


その一連の動作がカッコ良すぎて

僕はさらに照れからか、素直になれない


「車も買ったんだ」

「買ったのは車だけじゃない」

「ユノはカン刑事と住んでるの?」

「一緒に住むなんてしないさ」

「親子…でしょ?
養子になったって言ってたよね」


「言いくるめられた感じもあったけど
その方が何かと都合よくてさ。」

「車の免許もとれたり、とか?」

「ああ、そうだよ
車あったほうがいいだろ?」


「そうなんだ…
あ、刑事辞めたとか聞いたけど」


「ああ、探偵やってるよ、俺も」

「え?そうなの?」

「手紙に書いたよ」

「そこまで読めないよ」

「看守に読んでもらえるって聞いたから
細かいことまで書いたぜ?」

「だって…」

「わからなかったら読んでもらえばいいのに」

「やだよ…」

「なんで?」

「愛してるとか書いてあると恥ずかしいから
読んでもらってない」

「え、書いたよ?」

「だから!読まれたらイヤじゃん」

ユノは笑った。

「どのみち配達された手紙は読まれるぜ?」

「はぁー恥ずかしい。模範囚だったのに」

「模範囚か、いい子だったんだな」


ユノは運転してない手で僕の手を握った


「面会あんまり行かれなくてごめんな」

「うん…好きな人ができたのかと思った」

「はぁ?」

「だって…誘惑だってあったでしょう」

「そりゃあったさ」

「………」

「貞操守ってもう爆発寸前」

「は?!///////」

「今夜は覚悟しろよ?チャンミン」

爽やかな顔にニヤリとワルい笑み


あまりにカッコいいユノに

僕はたぶん顔が真っ赤だ


僕は窓を開けた

頬を撫でる風が気持ちいい

「こんな気分、久しぶり」


「そうだろうな」


「あー久しぶりじゃなくて
初めてかもしれない」


「お前が出てくるって聞いて
俺、はしゃぎ過ぎて…」

「そう?…そうなの?」

「ああ」

「お前と住む家も…用意したんだ」


「…………ほんとなの?」


「ああ、いい家だぜ?
金つぎ込みすぎて、俺はもう高飛びできないからな」

「見てみたい!」

「今からお前を連れて帰る」

「わぁー楽しみ!」


「その前に寄りたいところがある
いいか?」

「いいよ」



車は高速を降りると少し走り
小高い丘の上まで来て停まった。


「景色が良さそう。降りていい?」

「ああ、飲み物買ってくる」


ユノはジュースを買ってきてくれた。


こんな広々とした景色を見たのは
何年ぶりだろう


ユノがポツリと話し出した


「ここはな、お前が服役してた間、俺がよく来てた場所だ」

「そうなの?」


「お前に会いたくなった時…よく来たんだ」


ユノが目を細めて遠くを見た


「なんとか都合をつけてやっとお前に会いに行っても」

「………」

「なんだかんだと会わせてもらえなかったり」


「…………」


「俺がどうにも約束守れなかったり」


「………」


「気持ちがどうにもならない時、ここに来てた」

「ユノ…」


「ここからだと、小さいけれど刑務所の塀が少し見えて、そしてソウルタワーも見える」

「うん…」


「あそこにチャンミンがいるんだなぁとか、
ソウルタワーには、俺たちがかけた鍵があるんだなぁとか」


僕は喉の奥がツーンと痛くなって
思わず目を細めて遠くを見た


「そんな風に思いながら、耐えてた」


「嬉しい…そんなに会いたいって思ってくれて」


「でも、俺はもうここへは来ない
今日が最後だ」


「フフ…僕が戻ってきたから?」


「もうどこへもやらないからな」

「離さないでいてくれたらね」

ユノは僕を抱きしめた。


いっつもまわりを気にしないんだから…

僕はユノの腕の中で苦笑した。



ユノはそんな僕の顎を、その綺麗な手ですくう。


「俺の感触を忘れてないよな…」

「忘れちゃったかも…」

「じゃあ、思い出せ」


甘くて低い声

近づくその端正な顔立ち

久しぶり過ぎるキスに僕の心臓は騒ぎ出す

冷たい唇なのに、僕の心は熱い

「ユノ…会いたかった」

「俺も、会いたくて変になりそうだった」


ユノの舌が入ってきそうなその時

見計らったようにユノのスマホが鳴った


ユノは「チッ」と舌打ちをして
スマホを切ってしまった

「どうしたの?」


「カンのオヤジだよ!」

「それが?」

「チャンミンはまだかって、うるせぇ」

「え?僕?」

「今、来てるんだよ、俺たちの新居にさ」

「そうなんだ!じゃあこれから会えるね!」


「あのな、チャンミン」

「なに?」

「ひとつ言っておく」

「うん」

「オヤジな、お前の父親気分にもなってる」

「フフフ…」

「ふふふじゃねえよ、かなりウザいから。」

「そうなの?」

「あれはムスメ溺愛の典型!」

「え?ムスメ?」

「チャンミンを待たせると誰かに連れて行かれるだの、どっかの誰かが言い寄るだのウザいよ、かなり」

「ぷっ」

僕は思わず吹き出した

「嫁入り前の娘のお父さんみたい?」

「ああ、俺がいるだろって話」


「心配してくれて、嬉しいな」

「俺にもさ、チャンミンを不幸にしたら
許さないとかさ」

「いいお父さんだね」


「不幸にするわけ、ないのにさ」

ユノはそう言って、僕の頬を温かい手で包んだ

綺麗に切れ上がったその漆黒の瞳は
陽の光に煌めいて、あの夜見たソウルの夜景のようだった


「幸せにするよ、今までの人生差し引いても
お釣りがくるくらい」


僕は照れくさくて
手の甲で口を隠して笑った

「俺、真剣なのにそんなに笑わない」

ユノが顔をしかめて言う


僕はユノの首に抱きついた


「僕はね…ユノに会いたくてたまらなかった時」

「うん…」

「紙にね、ユノってたくさん書いたよ」

「…そうか」

「そしてね、壁にはソウルタワーの切り抜き写真を貼ってた」

「………」


僕を抱きしめるユノの腕に力がこもった

「同じだね、ここに鍵かけたんだからって
そう思って耐えた…」

「チャンミン…」


「あ、耐えてなかったかな、
よく泣いて、看守に声かけられてた」

「よく我慢してたな…ほんとに…」

「だから我慢してないんだよ、泣いてたんだから」


「やっと俺の元に帰ってきた…
面会したって、お前には全然触れられなくて」

「うん…」

「やっとこうやって抱きしめられる」

ユノの声は震えていた


「もう絶対離さない…」


僕は、さらにユノにきつく抱きつく

そしてユノの耳元に囁いた


「ただいま、僕のユノ
もう、絶対離さないでね」

「ああ」

と、その時、またユノのスマホが鳴った


「ああ!もう!」

「フフフ…出てあげて」

ユノはイラつきながらスマホの通話をタップした

「あ?もう引き取ってきたよ
今から帰るところ!
となりにいるから……

え?チゲ作ってるって?!

人んちの新しいキッチンで勝手なことすんなよ!

だいたいオヤジ、チゲなんか作ったことないじゃんか!」

ユノは勝手にスマホを切ると、そそくさと車に乗り込んだ

「チャンミン、俺たちの新しいキッチンが
大変なことになっていそうだ」

「それはちょっと困るね」

「かなり困る。
何張り切ってんだろうなぁ、もう。

あのキレイなキッチン
まずお前に見せたかったのに…」


僕たちは車に乗り込み、丘を後にした



もうユノはこの丘には来ないと言った



だって、僕たちはこれから寂しい思いをすることなんてないんだから


いつでも隣を見れば、ユノがいるんだ

ユノの隣には僕。


僕は、また窓を開けて空を仰いだ

真っ青な空を気持ちよさそうに飛んでいく小さな鳥が見えた

太陽をいっぱいに浴びて飛ぶその鳥は

それはまるで今の僕だね


ユノという青空の元、自由に羽ばたいている

僕はそんな幸せな鳥だった


これからもずっと


ユノの側に…




「完」

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

今まで読んでいただいて、本当にありがとうございました。 百海

籠の鳥(37)

〜〜ユノside〜〜



俺はそれから、
3回ほどチャンミンに会えた

チャンミンはいつでも会えるわけではなく

俺はいろいろあるからカン刑事が一緒じゃないと
面会に行かれない

結果、俺が都合をつけないと
チャンミンに会いに行かれない


俺は皿洗いの仕事をサボるようになり
店長から呼ばれて説教をされたりしていた

俺みたいにワケありの人間ばかりが
働くこの店で

店長は割とよくしてくれていたのに
俺はその信用もなくしそうだった。

金がないワケではない。

ただすでに死亡したことになっている俺は
もうこれ以上稼ぐことができない。

できれば、生活する金くらいは
稼ぎたかった

今のところ、唯一稼げる場所だった。


3度目の面会にもなると

チャンミンはもう泣くようなこともなくなり

面会室に入ってくると
ニッコリと笑うようになって

たった10分ほどだと言っても

こんなにしょっ中会えるなら
満足だと思うようになった。


それにチャンミンも笑顔を見せてくれるようになった


その帰り、俺はカン刑事と飯を食っていた


「お前、仕事はいいのか?」

「いいんだよ、俺1人いなくったって
どうにでもなるさ」

「店にはなんて言って出てきてるんだ?」

「腹が痛ぇって言ってる」

「サボりじゃないか」

「いいんだって」


親父気分か?

でも、それがそんなに悪い気分ではないことに
自分でも軽く驚く


「………チャンミンはどうだった?」


「字も勉強してるし
何か習い事みたいのがはじまったらしい。
なんだかんだ言って結構楽しそうだ」


「楽しそう?」


「テレビも見れるし
慰問が来たりするらしい」


「それは…チャンミンが言ったのか?」


「いや、テレビが見れるのはネットで見た。
さっき、掲示板みたいなのがあって
そこに慰問がどうとかって書いてあった」

「…………」


「楽しそうだよな。
俺なんて、朝から晩まで皿洗いでさ
こっちの方がムショみたい………」

突然


俺は前が見えなくなった


目の前のカン刑事に
水をぶっかけられたことに

すぐには気づかなかった


「なっ…」

「バカ野郎!」


まわりの客が一斉にこっちをみた。


「なんだよ!」


カン刑事は姿勢を低くして
絞り出すように声をだした


「チャンミンが楽しそうだと?」

「…………」

「チャンミンは今、独房だ」

「………」

「テレビや慰問なんて見られない」

「あ…」


「危険なんだよ、パク・ギョンスを殺ったんだから
いろんな意味でムショでは注目の的なんだ」

「そんな危険はないって言ったろ?!」

「最善を尽くしてるだろ
その為の独房だ」

「そんな…話がちがうじゃねぇか」

「じゃあお前はチャンミンを守りきれるか?このシャバで。
自首の前にあんなことがあったばかりじゃないか」


「…………」


「チャンミンは無理して笑ってんだ
そんなこともわからないのか」

「無理して?」

「寂しくて怖くて…最初の頃に言ってたのが
本音だよ。
教育がはじまったら、自分の罪と真っ向から立ち向かわなきゃなんない

精神的にもきついはずだ。

それを楽しそうだなんて、
お前の皿洗いとは比べものになんないんだよ。

お前、初めの頃の、自分もチャンミンと懲役くらうぐらいの勢いはどうした?

事態はなんにも変わっちゃいないんだ」


「…………」


「チャンミンの胸に貼ってはる札を見たか?」

「囚人番号か?」


「お前のいないところで
チャンミンは番号で呼ばれてるんだ」

「………」


「それなのに、お前はなんだ
こんなのはおかしいっていってたくせに
仕事サボりやがって」

「そうしないと、会えない…」


俺の前髪から、ぶっかけられた水が水滴になって
テーブルに落ちていく


「お前、チャンミンが出所したらどうするんだ?
チャンミンにおんぶに抱っこか?
チャンミンに生活させてもらうんでいいのか」

「そりゃ、俺だって…」


「今は仕事サボって頻繁に会いに行くことより、
やらなきゃいけないことがあるだろ?」

「………」


「お前、ちょっとこれから付き合え」


俺はカン刑事に車に乗せられた。


どこへ行くか聞かされなかったけれど
その場所へ近づくにつれて、俺はなんとも言えない気持ちになった

そこは俺の両親の墓だ

カン刑事は花を買うと、慣れた足取りで墓のある場所へ歩く。


しょっ中来てくれてるんだ


俺なんか、何回かしか来てない

とてもじゃないけど、父親に合わせる顔がなかった

警官の息子なのに、殺し屋なんて…

この今も、できれば墓前には行きたくない


「ユンホは来れないよな、とてもじゃないけど」

「ああ…」

「だけどな、これがチャンミンと同じように
お前も自分に向き合うことなんだぞ。」

「………」


カン刑事は墓前に花を手向けると

俺の父親に報告するように言った

「私は刑事を辞める」

「え?」

「そして、ユンホを私の養子にしようと思う」

「は?」

「私の…罪滅ぼしだ…」


このオヤジは…なんの罪もないっていうのに
なんでそんなに背負いこもうとするんだよ

俺は胸が熱くなった

養子にすると言われて

俺はこのオヤジが仮にも父親になることが
まったく嫌ではないことに気づく

むしろ嬉しかった

叱って小言を言ってもらえるのが
心地よかった。


「今日は署長にそれを報告にきた」

「だけど…そんなことできんのか?
俺、死んでるんだぜ?」


「ああ、刑事として最後の職権乱用だ。」

「どんな?」

「この間、違法賭博の疑いがあるやつがいて
そいつが児童院の施設長でな。
賭博では上げない代わりに、児童の書類保管不備で
起訴させてもらう。
世間の目が全然違うからな。喜んでたよ」

「その児童が俺か…」

「ああ、これでお前は身分が保証される」

「…………」


「チャンミンの為に、家も買ってやって
そして出所の時はそれなりの車で迎えに行ってやれ」

俺は胸に何か熱くて大きな塊が
詰まったような感覚になり

言葉が出てこない…


「俺は刑事をやめたら、こじんまりと
探偵事務所でもやろうと思ってる」

「探偵?」


「ああ、浮気調査とか家出人捜索とか
そんな程度だ。
今から、部下が情報たかられるんじゃないかと
ビクビクしてるよ」


カン刑事は笑った


「でな、お前も手伝え」

「え?俺?」

「皿洗いをいつまでやってんだよ
チャンミンを守っていくんだろ?」


「………」


うれしいくせに
俺は反抗期のガキみたいに、礼のひとつも言えない

そんな俺の肩をたたいて

「署長、こいつは任せてください。
俺が署長の代わりにしっかり監視してますから」

そう墓前に言って笑った


「なんだよ、ガキ扱いしやがって」

「お前もお父親さんとお袋さんに誓え」

「もうさっき誓ったよ」

「そうか?ふん」

「なぁ」

「あ?」


「ありがとな…」



「何言ってんだ…」

カン刑事は俺のアタマをクシャクシャにして
墓前から去っていった


そして、しばらくして俺がカンのオヤジの息子になって

俺はチャンミンに会いに行った


いろいろ報告もしなければ
いけなかったけれど

何しろ、10分の面会時間だ。

その日はチャンミンの話を聞くので精一杯だった。

最後に一言だけ。


「ちょっと俺、これから忙しくなるんだよ」

「え?そうなの…」

「手紙に詳しく書くよ。
実は今まで仕事サボって会いに来てた」

「そうなんだ…」


チャンミンは途端に悲しい顔になった
その頬を撫でてやりたい

いろんな話はいつか出所してから
サプライズ、ということにしよう


今の監視状態ではできる話と出来ない話があるし

それまでは面会の時は
チャンミンの話をたくさん聞いてやろう


俺はそう思って、その日の面会を終えた


しばらくしてチャンミンから手紙が来た

一生懸命に書いたであろうその手紙に
胸が熱くなった


「ユノの生活がんばって。
あんまり会えなくても、僕は自分の事を
がんばるよ」


チャンミン…

お前、頑張り屋になったな

俺もお前に負けないように、頑張らないとな





にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

「籠の鳥」いつも読んでいただいてありがとうございます。
このお話は明日が最終回となります。

籠の鳥(36)

〜〜ユノside〜〜



俺はイライラしていた

チャンミンの刑が決まらず、
全然会えない…

いったいどれだけ待たせるんだ

俺はカン刑事に八つ当たりをしていた


「なんでこんなに時間がかかるんだよ
チャンミンの様子もまったくわかりゃしない」

「普通だよ、これくらい普通に時間かかるから」

「留置所から刑務所に移る時になんで会えなかったんだよ」

「1日に何人もとは会えない」


「俺より弁護士が優先だなんて
どういうことだよ!」

「ユンホ!いい加減にしろ!」


「………」


「気持ちはわかる…」

「………」

「チャンミンだって耐えてるよ
お前も耐えろ…」


「会いたい…」


俺がそうつぶやくと
カン刑事はため息をついた


「チャンミンに会いたい…」


「わかってるから…もう少し待て。な?」

俺は頭を抱えた

まるで駄々をこねる子供だ…

でも

チャンミンに会いたくて
気が狂いそうだ


もう季節も変わってしまった…

チャンミン…


俺は中華料理の店でそのまま働いて
俺たちのアパートで暮らしていた。

アパートには
ウサギともう銃の入っていないトランク

そして壁には白いシャツで笑うチャンミンの写真が何十枚も貼ってあった

ここに来るのはカン刑事だけ。
カン刑事には店に来ないでもらっていた。


「まるでストーカーの部屋だな」

壁のチャンミンを見て苦笑していた


「なんと言われてもいい」

俺は相変わらず不貞腐れていた


「なんだよ、今日はいいニュースを持ってきたっていうのに」

「え?もしかして?」


不貞寝していた俺は飛び起きた

「そのもしかして、だよ」

「チャンミンに会えるのか⁈」


「まずはな、チャンミンの罪状は傷害致死と銃刀法違反になった。殺すつもりはなかったってやつだ。」

「早く出てこれそうか」

「予想していたより、うんとな」

「そうか!」

「で、やっと面会できる」

「いつだ?!」


「来週の木曜日」


来週の木曜日に…チャンミンに会える!


それからの俺は

仕事中も興奮して、俺は皿を何枚か割ってしまい、
弁償させられたりしていた。


バカか?俺は


でもなんでもいいさ、
とにかくチャンミンに会えるんだ


そして、待ちに待った木曜日が来た


俺はカン刑事と刑務所に行った。

差し入れは下着と本を少し。
中を調べられ、書類にサインをして待った


かなり待たされて俺は呼ばれた

「外で待ってる。行ってこい」
カン刑事がニヤリと笑った


「ああ」

ドアを開けると、壁一面が格子になっていて

話す窓口だけ透明だ。

側には受話器のようなものがある。
これで会話するのか

ずいぶん旧式なんだな

よくテレビでみる放射状に穴が空いたアクリルの
壁…
あのタイプではないのか。


俺は椅子に座って待った

もうあの初雪の日から待ちすぎて
正直気持ちが持ちこたえられず

俺の心は情けないけれどヘトヘトだった


しばらくすると、格子の向こうのドアが開いた


チャンミンが入ってきた


会いたかった…俺のチャンミン…


俺は思わず立ち上がってしまい、
壁を叩いてしまった。

「チャンミン!」

俺は叫んだ

チャンミンは俺を見るなり泣き出してしまった


「ああ、チャンミン…」

チャンミンの泣き声は聞こえない…

チャンミンは手の甲で口元を押さえ
泣きじゃくりながら椅子に座った

俺の側にいた看守が

「会話はその受話器で。10分間です」

そう事務的に話す

俺はチャンミンから目を離さず

チャンミンは口元の手をようやくはずした


お互いほぼ同時に受話器をとる

チャンミンは眉が八の字に下り
泣いてしまって赤ちゃんみたいな顔だ


「チャンミン元気か…」

「元気じゃない…毎日ユノに会いたい」

「うん…俺も会いたかった」

「うっ…うう…」

言葉にならないチャンミン

「イヤなことや、困ったことはないか
何かひどい目にあってないか?」

「ここは寒いよ」

「あったかくできないのか?」

「わかんない…」

「嫌なヤツがいたら言えよ、ん?」

「わかんない」

10分しかないのに、何を話したらいいのか
わからない

話そうと思ってたことはたくさんあるのに

「ユノ…」

「ん?なんだ?」

俺は思わず身を乗り出してしまう

チャンミンはゆっくりと受話器を持たない方の手を
あげた。

そして透明の壁に手のひらをあてる

俺もすぐにその手に重ねるように
手のひらをあてた。

それでもチャンミンの温もりは感じられない


「僕…本当はたくさん話すことあったのに…
ユノの顔見たら、全部ふっとんじゃった…」


「チャンミン、俺もだ…
顔見たら、頭の中真っ白だ」

「ユノ…寂しいし怖いよ…一緒にいたい」

「チャンミン…」


俺たちは、手のひらを合わせながら

見つめあった


少し痩せたチャンミン

白い顔に大きな瞳
唇はへの字になってしまっている。

俺はたまらない気持ちになった


「それと、僕ね…」

そうチャンミンが話し始めると
いきなり受話器から声が聞こえなくなった

チャンミンは気づかず話している

俺が「チャンミン」と声をかけると
チャンミンも話が通じてないことに気づき
狼狽えた


「面会は終わりです」


もう…終わり?

チャンミンはグッと唇をかみしめた

ああ、そんなにしたら
唇が痣になっちまう

その唇に俺の指をはさんでやりたかった

チャンミンは看守に促され席を立つ


「チャンミン…」

チャンミンは諦めたような寂しそうな顔をして

振り返って俺に手を振った

その唇が「バイバイ」と言っていた

笑顔はない…


俺は壁に手のひらをあてたまま

その姿をドアが閉じ切るまで見送った


なんてことだ

こんなのが面会なのか

これからもずっとこんななのか


俺は楽しみにしていた面会があまりにもあっけなく
愕然としてしまった

俺は長い廊下を戻り、出口から外に出ると
カン刑事が待っていた

俺の様子はおかしかったのだろうか?


「ユンホ、大丈夫か?」


「全然大丈夫じゃない」

「?」

「チャンミンは全然大丈夫じゃなかった」

「ユンホ…」


「何か…おかしくないか?これ」


「………」

「なんで…なんでチャンミンばっかり、こんな事になってんだよ…閉じ込められてさ」

「…ユンホ…」

「なんで俺だけ、普通に生活してんだ?
俺だってムショにぶち込まれて、一生出られないくらいの事してんだろ?」

「………」

「おかしいだろ!こんなの!」

俺はカン刑事の肩を掴んで揺すった

カン刑事は優しい顔で俺を見ている


「本当にこんなんで…良かったのかよ?」

その顔が涙で滲んでしまう


「おかしいだろ…」

「………」

「チャンミンばっかり…こんな…」


俺はカン刑事の肩を掴みながら
泣き崩れた…


「まだはじまったばかりだぞ、ユンホ…」



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村
検索フォーム
ブロとも申請フォーム