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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

ひだまりの匂い(完)

~~ユノside~~



俺はスマホを耳に当て、呼び出し音を聞きながら
フロアに行った


「あ、もしもし?!ユンホさん?!」
「ソヨンさん、すみません、なんかずっと連絡…」



チャンミン………



俺はその姿を見て固まった

店のウインドウガラスをバンバン叩いている

それは、まさかのチャンミンだった


なんでチャンミンが…


「あのね、チャンミンがいなくなってしまって」

「………あ、あの、今、俺の店にきて…ます」

「やっぱり。明日でもいいから連れてきてくれるかしら…」

「あ、は、はい」


俺はスマホをポケットにしまうと
ウィンドウに駆け寄った


俺に気づくと、ガラスを叩くのをやめたチャンミン


なんだか、ファッション雑誌から飛び出してきたようなスタイルで…


ガラスを挟んで向かい合う俺たちは
まるではじめて出会ったあの日のようだ



ぼーっとチャンミンを見つめる俺に
ここを開けて、とジェスチャーするチャンミン


もしかしたら…

もしかしたら、お前は…



俺はロックを外して、そのガラスドアを開けた

ありったけの笑顔で、風と一緒に飛び込んできたチャンミン



「ただいま!」




そう叫んで俺の首に飛びつくように
押し倒さんばかりに抱きついてきた


まさか…


涙が出てきた…
景色がみるみる滲んでゆく


「ただいまって、おまえ…」

「ごめんね、遠回りしちゃいました」


「俺の…チャンミン?」


「そうですよ、僕のユノさん」


「…俺が誰だったか、わかるのか?」


「わかります。
今の、出会った時と同じでしたね
僕たちは逆だけど」


「飛び出してきたのか?」


「大丈夫、書き置きしてきたし。
ユノさん、あの施設に通ってくれて
ありがとう」




「あ…俺がなんで側にいたのか、わかるか?」

「離れないって約束したからでしょ?」


「俺がおまえにとって、どういう存在か…」

「恋人ですよ、僕の大好きな恋人」


「そういう関係だったんだぞ、覚えてるのか?」

「覚えてますよ。
はじめて過ごした夜のことだって覚えてます。
言う?」


「チャンミン…」


「ほんとにごめんなさい」


俺の顔は涙でぐちゃぐちゃだ…

チャンミンの表情が
俺の元に戻ってきたことを物語っていた


そんなチャンミンを見ていたら
心の奥底で抑えていた想いが一気に噴き出した


「俺…俺、待ってたんだぞ…
おまえ、全然起きないしさ…
起きたら起きたで…子供みたいになってるし」


「うん…」


「でも、生きてたんだから、
もうそれだけでいいって…俺…あきらめて」


「うん…」


チャンミンの目から大粒の涙がぽろぽろと溢れた


「だけど…俺…おまえに会いたくて…」


「ううっ…うん」


「会いたかった…ほんとに会いたかった…」


俺はチャンミンを抱き寄せた


「僕も…あなたがどんな思いで、
あの海の施設に通ってくれたのかと思うと…」


「う…ううっ…」


「いつも笑顔でいてくれて…ほんとうにありがとう…つらかったでしょう?」


「つらかったよっ!つらかったに決まってんだろ」


俺は泣きながらチャンミンをきつく抱きしめた


もうどこへも行かないように
チャンミンがどこかへ行ったりしないように


離さない…



「おかえり…」


やっと言えた…


「ユノさん…」


俺はチャンミンの耳たぶにキスをしてから
その聴こえるようになった耳元に囁いた

「おかえり、俺のチャンミン…愛してるよ」




チャンミンの嗚咽をなだめるように
その背中をさすった


「僕も…僕も…愛してます
やっと言えた…」



ばっちりキメて、爽やかに飛び込んできた
チャンミンとは反対に

汚いツナギでそれを受け止めてる俺。

きっとヘンな2人だ。


散々泣いて、お互いに顔をあげて見つめあった



どちらからともなく、俺たちはキスをした

俺はチャンミンの腰と頭を抱き込んで
何度も何度もくちづけた


それは今までの
幼いチャンミンにねだられてのキスではなくて


しっかりとお前を欲している
俺からの恋人のキス


「もう一度、よく顔見せて」


俺はチャンミンの顔を両手で挟み
その可愛い顔を見つめた



「よく思い出したな…」


俺はチャンミンの頭を撫でた


「絶対にあなたの元に戻るって、言ったでしょう?」


「うん、約束守っていい子だ」


チャンミンの顔がぱぁーっと華やぎ

俺の真正面から
ぶつかるようにキスをしてきた


ヒチョリヒョンが事務所から
戻ってきて


「あーあ、ガラス張りでギャラリーいんのになぁ」
とニヤニヤしていた。


「負けたわ、あたし。」

「は?ナレさん、何言ってんですか」

「見てよホジン、オッパの顔。あんな顔初めて見た
それに男のくせにあんなに綺麗じゃ、あたしでも勝てないわ」


「ナレさん、ユノさんとどうにかなろうとしてたんですか?ムリに決まってんじゃないですか。そんなの…ムリですよ…」


「なんであんたが寂しそうな顔すんのよ」

ナレがホジンをどつくと、
ホジンのメガネが飛んだ

「割れたらどーすんですか?!」


「お!なんだよ、ホジン
おめぇ、イケメンじゃんか!
なんでコンタクトにしねぇんだよ」

メガネを拾ってやりながら
ヒチョリヒョンが驚く


「イケメン?」

「自分でもイケメンだと思うだろうが」

「メガネとったら、鏡みても何もわかりませんから」

「あーそういうことか。おめぇ、ウチのホストになんねぇか?」

「な、何言ってんですか、ヒチョルさん」

「ナレも真っ赤になってることだしよ?」

「は?あ、あたし?あたしは何も…」

「なんでナレさんが赤くなるんですか?」

「う、うるさいわね!とにかく、あんた
コンタクトにしちゃダメだからね」

「他の女が目つけたら困るもんな?ナレ」



抱き合う俺たちの
後ろがギャーギャーとうるさい


チャンミンは俺の肩越しにその様子を見ていた


「ねぇ、ユノさん」

「なんだ?」

「あの2人のバイトは、僕的に少し問題アリですね」

「え?なんで?」

「カンっていうやつです。
次からは、バイトの面接は僕にさせてもらいます」


「は?ま、いいけど…
なんか、チャンミン少し変わったな…」

「手術して、リハビリして
アップデートされたんですよ」


「アハハハ…いいな、それ。」


「そういえば、わかってない僕に何度もキスしましたね」

「だって、お前がしてって言うから…」

「舌いれなかったから、許すけど
僕、嫉妬するって言いましたよね」

「だから毎回ごめんね、ってお前に謝りながら
キスしてた」


「ふぅ〜ん」


「あーあ、幼いチャンミン、可愛かったんだよ
子犬のぬいぐるみを診察してたりさ」


「そういうのがお好みなら
いくらでもやってみせてあげます」

「アハハハ…ほんとに変わったなー」



「ユノさん、あなたはいつも変わらない」



「そうか?」

「変わらないで…ずっとあなたのままでいてください」

「ああ、俺はずっとお前のことが変わらずに好きだ」

嬉しそうに微笑むチャンミンが可愛い


「僕ね、これからは毎日写真撮ろうと思って」

「なんで?」


「やっぱり思い出って、大事ですよ」


「そうか?」


「いつか何かあった時、
思い出が僕たちを助けてくれることがあると
思うんです」


「思い出をなくしたお前だから…わかるのか」


「今日の一枚の写真が歴史になって
いつか僕たちの励みになるんですよ」


「じゃ、今日はチャンミンのご帰還で
写真撮っとくか」


「はい!撮りましょう!」



俺たちはこれから、毎日愛し合って

それを少しずつ積み重ねていくんだ。


チャンミンの手術で
2人一緒にいることは当たり前ではないってことが
よくわかった


いつか、どちらかが先に
この世を去る時がきても

俺たち2人の思い出は消えない


だからきっと寂しくない



俺はチャンミンの笑顔を見て
そんな風に思った

チャンミンも同じようなことを、考えてくれていて
うれしかった


俺のスマホを勝手にポケットから取り出して
俺の頭を自分に引き寄せて写真を撮ろうとするチャンミン

俺はシャッターとともに
すかさずチャンミンにキスをした


驚くチャンミンにキスをする俺


今日の一枚はそんな2人だ

明日はどんな写真が撮れるだろうか









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ひだまりの匂い(66)

〜〜ソヨンside〜〜


ユンホさんが急用だというので
サービスエリアから、私がチャンミンを引き継いで
施設に戻ることにした。


「ユノさんと今、離れたらダメなのに…」

「チャンミン、大丈夫?」

「僕とユノさんて…男同士だけど
あの…恋人だったと思うんです」

「チャンミン…あなた、話し方が…」

「はい?」

「あ、いや…あ、それはユノさんが言ったの?」


さっきユンホさんが、チャンミンの話し方がもとに戻った気がする、と言っていたけど…ほんとだ


「いえ、自分でわかりました」

「え?!ほんと?!」


「今、ユノさんに会いたいです。
一緒に帰ればよかった…
今は離れたらいけない気がして…」


「あ………あの、チャンミン
施設で診察受けましょう、ね?」



チャンミンの診察の後
医師とスタッフとの面談があった

「ソヨンさん、彼は新しいことを覚えたりするのは、もう問題ない?」

「そこは大丈夫ですね」

「すぐ失神したりするのは?」

「ないですね…3日間ないです」

「記憶は?」

「記憶は完全じゃないんですけど
感情はかなり戻ってきたみたいで」

「退行は?」

「話し方が変わりましたね。成人の話し方です」



「かなり良さそうだけどね
うーん、もう少し様子をみましょう」


「そうですね」


ドクターからいくつかの行動範囲を広げる許可がでたけれど

チャンミンは焦ってイライラしていた


次々といろんなことを思い出して
埋まってゆく思い出のパズル


完成にならない最後のピースがなんなのか
私にはわからないけれど


チャンミンがユンホさんを恋しがるのは
以前の保護を求めるものではなくて

明らかに、それは恋愛感情だった


手放しでよろこんでもいいのものか
あまりにもいろんなパターンをみてきたものだから
安心できずにいる。


幼くなってしまったチャンミンを前に
自分の感情を押さえ込んでいたユンホさん


悲しみを隠して、笑顔でチャンミンに接する姿に
とても感動して

私が2人の幸せを願う気持ちは
仕事のそれを超えていた


チャンミンの想いは虚しく…
ユンホさんはなにかトラブルがあって
この施設には何日も来られなくなってしまった



手術で剃ってしまったチャンミンの頭髪は、
その傷口を隠せるほどには伸びてきて

少しクセ毛の茶色の短髪は
チャンミンをヨーロッパの男の子のように見せていた

冬物が必要なチャンミンは
ネットでいくつか洋服を買ったのだけど
丹念に雑誌などで、コーディネートを考えたりしていた。


ある朝、チャンミンはその届いた服を着て
私達スタッフに見せに来た

黒いタートルセーターに
黒い細身のパンツ、黒のローファー

その上に薄いグレーのチェスターコート。


それはもう、雑誌からそのまま飛び出してきたように素敵で

元々、長身でスタイルがよく、モデル並みのルックスを持つチャンミンは

みんながため息をつくほどに、よく似合って素晴らしかった。



「砂浜で散歩してきますね」


「そんなカッコで砂浜?
砂だらけになっちゃうわよ。
約束の時間までには帰ってきてね」

「はい」


そして、チャンミンは帰ってこなかった…



[ ユノさんのところに帰ります。本当にすみません。でも大丈夫ですから ]

との書き置きをみつけたのは、
みんなが、チャンミンを探し始めてすぐのことだった

ユンホさんに連絡をとりたいのに
携帯が全然繋がらない

警察にも連絡しないといけないけれど
きっとユンホさんのところに行ったのだろうから
騒ぎになるのもどうかと…

みんなで悩みつつ、繋がらないユンホさんに
連絡をとり続けていた



〜〜チャンミンside〜〜


僕は頭痛を耐えた

なにかを思い出す度に、起こる頭痛…

でも、思い出したかったのだ

僕とユノさんのすべてを

僕とユノさんの歴史のパズルに
すべてのピースを埋めたかった


2人で映画を見たこと

一緒に暮らし始めた日

はじめて体を繋げた日

ユノさんの誕生日や僕の誕生日

殴られて血だらけだったユノさん

別れの日

追いかけてきてくれたユノさん

抱きしめて、キスをして
「愛してる」と言って見つめあって


そして、僕はあなたの元に、僕として帰ってくると

そう約束したんだ


最後の花火、最後のくちづけ


あなたの唇をなぞりながら
あなたの言葉を読み取っていた日々


手術の恐怖で不安な日々を
僕は濃密にユノさんと過ごした




僕は新調した冬物の服を着て、コートを羽織り
とびきりカッコよくして、あなたに会いに行くんだ


冬の足音が聞こえる砂浜に
両手を挙げて飛び出した


さようなら!この海!



冷たい風にコートの裾が翻る
僕の短い前髪が乱される

ユノさん…

ユノさん


僕は、あなたの名前を呼ぶと
こんなにも幸せだ


僕は目を閉じて
冷たい風を顔に受けながら、波の音を聴いた


約束通り、この海に僕を連れてきてくれたんだね
それなのに…悲しませてごめん


約束を守れてなかった僕を
それでも優しく包み込んでくれた


そんなあなたは
僕の唯一無二の存在、僕の全部、僕の人生



長いこと聞いてなかった
あなたの「愛してる」が聞きたいんだ

あの優しくて低くて、甘い声



砂浜を走る僕は、こんなに笑顔で
この笑顔をあなたにみせたい


愛してるよ、ユノさん


僕のパズルはすべて埋まった
僕の最後のあなたとの記憶は

「いってきます」


だから、ただいま!と言ってあげる


僕はUターンすると、今度は砂浜から丘にあがる
緩やかな坂道を駆け上がった



あなたはどんな思いで、この坂道を
車椅子を押しながら僕と会話してたのか

そんなあなたの心を思うとせつなくて
早く会って、ユノさんを抱きしめたかった


僕は、無人駅から電車に乗った


ソヨンさん、ごめんね

ユノさんにどうしても会いたいんだ



〜〜ユノside〜〜


チャンミンともう少し過ごしたかったけど


店で食中毒の疑いがでた

飲食店として致命的なトラブル…


ヒチョリヒョン1人にまかせることはできなくて
ここ数日、毎日夜中まで対応に追われていた

やっと、その疑いが晴れて
明日から普通に営業ができるようになった

今日は一日閉店したまま、明日からの営業の準備だ。

「ホジン、もうすぐ受験なんだからさ
そろそろ、バイトも辞めないといけないんじゃないか?」

「こんな大変な時に何言ってるんですか!
勉強ならキチンとしてるから大丈夫です」

「失敗したら、俺のせいとか言われんのイヤだぜ?」

「僕は人のせいなんかにしませんよ」


「2浪したらシャレになんないわよ」

結局はウチでバイトしてるナレが捨て台詞を吐く

「僕は浪人はしてませんから」


まあ、とにかく…

これで明日の午後には施設に行けるかな

チャンミンに会いたい…


話し方も戻ったみたいで、この間はもう少し
様子を見たかったのに


そんなことを考えていたら


テミンが俺のスマホを事務所から持ってきた

「ヒョンのスマホ、ずーっと鳴ってますよ
施設からだけど、マズイんじゃない?」


「え?!マジか?!」

「店長!誰か店のガラスドアを叩いてます!来てください!」


今日はいったいなんなんだよ


俺はスマホの着歴をタップしながら
店のフロアに行った



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「ひだまりの匂い」は明日31日が最終回となります

ひだまりの匂い(65)

〜〜チャンミンside〜〜


夜中に目が覚めた


ユノさんに後ろから抱きしめられ
ミィも僕の首で丸くなっていて


僕はこれじゃあ、動けないよね


少し可笑しくなったけど

暑くて水が飲みたいから
ベッドを出た


ミィが起きて僕についてきた



水を飲んでいると
ミィが玄関へ行こうとする


「外はダメだってユノさんが言ってたよ?」


ミィは一度振り向くと
また玄関の方へ行った


僕は心配でついていくと
診察室のドアがぼーっと光っているのが見えた

中に電気がついてるのかな?


そのドアの前で、ミィが開けて欲しそうに
ドアを引っ掻く


「ユノさんがここには入っちゃダメだって
いろんな危ないものがあるからって」

そう言ってるのに…


でも可哀想になって、僕はドアを開けた


すると中から眩しいくらいの光が漏れて
目が痛くなった


この部屋はなんだろう?
ああ、やっぱりここは入っちゃいけないんだ

ユノさんに怒られたらイヤだな…


でもミィは入ってしまった

僕は連れ戻しに、眩しいのを我慢して部屋に入ると


とたんに光は落ち着いて
少し暗い診察室の椅子に誰か座っていた


「じいちゃん!」


会いたかったじいちゃんが
その椅子に座って優しそうに微笑んでいた
その膝にはミィが座っている


いつも僕に優しかったじいちゃん


みんなに「変わり者」と虐められた時は
じいちゃんの膝の上で、よく泣いた


" チャンミナは変わり者なんかじゃないよ
素直でとってもいい子だ。そのままでいいんだよ "


その優しい声を思い出して、涙が出てきた…


僕は思い出のパズルをはじめてから
初めて泣いた


「じいちゃん…会いたかったよ
どこに行ってたの…」


「チャンミナ…ごめんな
じいちゃん、チャンミナをひとりにして」


「ううっ……
違う…違う…そうじゃないんだよ」


「チャンミナ…」


「僕のせいだった…僕が…そうだ、僕が
叔父さんのところに行かないって言ったから

それで…それで、電話に出なかったから
じいちゃんが…僕に会いたがっていたのに」


「チャンミナのせいじゃないよ」


「僕が悪いんだよ…ごめん…じいちゃん」


「チャンミナは、この動物病院を守ってくれたじゃないか…」


「でも…今、僕はこんな状態で、ユノさんにも
迷惑かけてる…」

え?

「えっと…迷惑かけてる…と思う」


なぜそう思うのだろう

僕はなにを…


「チャンミナ…お前は大丈夫だ」


「じいちゃん、僕は大丈夫なんかじゃないんだよ」


「チャンミナ…パズルのピースはたくさん落ちてるよ」

「そう…なの?」



「ユノさんは今、楽しそうか?」


「どうだろう…楽しくないと思う」

「なんでそう思う?」


「ユノさんはいつも悲しそう…
そう、ユノさんは僕を見て笑ってくれるけど
悲しそうなんだ」



「待ってるんだよ
ユノさんはチャンミナ、お前のことを待ってる」


「わかってる…」


そう…ユノさんは僕が…僕が…

僕はわかってる…

でも自分が何をわかってるか、それがわからない


微笑む白衣のじいちゃん

「もう、じいちゃんは帰らないといけないから」


「まって!
あのさ…じいちゃんは
あの時、最期の時、僕になにが言いたかったの?」


「お前のせいじゃないって
それだけ言いたかったんだよ」

「じいちゃん…」


「もう、自由になったらいい」


ごめん…ごめんなさい…


じいちゃん、ごめんなさい…


ほんとうにごめんなさい…


ごめんね、ユノさん…

ユノさん…

僕の愛しい人…



" お前さ、絶対にどっか行くなよ?
ただ、帰ってきたって…ダメなんだぞ…"

あの人の唇はそうやって言葉を紡いだ


" 絶対、また来てくれよ、な?"

これはあの人の声…

声が聞こえる…

はるか昔に聞いた…愛しい声



" 先生に…チャンミンに会いたい!
行っていいか?"


" 今日は俺の誕生日だから、チャンミンといる"


"チャンミンがそばにいてくれるだけで
最高のプレゼントだよ "


" 俺の気持ちに…名前がついてよかった "



その綺麗な顔と、甘く低い声と、僕の想いが

ひとつになったような気がした





「チャンミン?薬の時間だから起きて」

「ん………」

「薬飲まなきゃいけないから、起きて」

「うん…あれ?ミィは?」

「ミィはひなたぼっこだよ」


「そうか…」


ユノさんが不思議そうな顔をしている


僕は立ち上がって、ユノさんの顔をじっと見つめた

「チャンミン?
今日は顔つきが違うね?」


なんだろう

ユノさんの顔を見ていると
なにやら説明のつかない感情が湧き上がってくる


「キス…してくれる?」

「ああ、いいよ、おいで」


ユノさんはいつものように、
僕を抱きしめてキスをしようとした


その時、また別の怒りにも似た感情が湧いてきて
僕はユノさんを突き飛ばしてしまった


頑丈なユノさんは、僕の力なんかで
倒れたりはしなかったけど

「なんだよ…」


その顔が、最近のユノさんじゃなかった
僕を子供のように扱うユノさんじゃない

でも、なぜか懐かしいユノさんの表情


「なにしてるんですか?誰にキスしてるの?」

「チャンミン…お前…」


しばらく僕たちは見つめあった


この気持ちはなんだろう
自分で自分がコントロールできない


「ごめん…なさい」

「いや、いいよ。いいけど…」


僕たちは黙って朝ごはんを食べた


「今日はなにをするの?」

「残念だけど、仕事しないといけなくなって
今日は海の家に戻らなきゃ」

「海の家って施設?」

「え? あ、そう…施設…」



ユノさんが荷物を作って、
僕たちは車に乗り込んだ


夜中に夢を見てから
僕は頭の奥で頭痛がしている

でも、これを言うと僕は薬を飲まされて眠らされてしまう

今、眠るわけにはいかない

なぜかそう思った


ユノさんは誰かと電話している
何か難しそうな顔をしているけど
その話は僕の頭に入ってこなかった


高速道路のサービスエリアについた


「チャンミン、俺、もう戻らなくちゃならなくて
ソヨンさんがここに来てくれるから
ここから、ソヨンさんの車に乗り換えて帰って」


「…うん…でも何か飲んでもいいですか?」


「チャンミン…」


なんでそんなに驚いた顔をするんだろう


「何か飲みますか?
ユノさんの分も買ってきます」

「戻った…のか?」

「はい?なにが?」


「いや、あ…うん…ソヨンさん来るまで時間あるから…でも、買い物はできる?」

「は?できるに決まってるじゃないですか」


「じゃ、…じゃ、これで買ってきて…俺はコーヒーで」

「はい」



僕はコーヒーを2つとって
混んでるレジに並んだ


やっと自分の番がきて
お金を払おうとユノさんの財布を開くと



" ユノさん 愛してる "



財布に挟んだノートの切れ端が、僕の目に
いや、僕の頭に飛び込んできた


それは衝撃的に…

そしてあまりに突然に…



「お客様?お支払いを…」


レジの男の子の声がすごく遠くに聞こえてる


これは…僕の字だ


僕があなたを思ってひとり夜中に書いた
泣きながら書いたんだ


僕は1人で生きていく決意をして
あの夜、いろんな計画をたてた



" 俺を解放してくれ "

あ………僕が…1人でいようとした理由は



「チャンミン、みんなの迷惑になってる」

ユノさんが僕の腕をつかみ
僕をレジの列からひっぱりだした


「どうした?チャンミン…」

「あ………」

「大丈夫か?」


僕のこの想いはなに?


あなたの顔をみてるとひどく懐かしい気持ちで
泣きそうな気分になって
心臓がドキドキしてくる


「ソヨンさんが来たから。
飲み物も買ってきてくれたし
海の家に帰ったら、ちゃんと薬飲むんだぞ?」


今、離れたくないんだけど…


でも、ユノさんは…無情にも急いで
自分の車で帰ってしまった…



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ひだまりの匂い(64)


〜〜ユノside〜〜



「まだちょっと早いような気もするけれど
やってみてもいいかもしれないわね」


チャンミンを家に連れて帰ってみることを
ソヨンさんに相談した


「ええ、辛そうだったらまた連れてきます」

「誰か必ずついていないとダメよ」

「チャンミンがいる数日は休みをもらってますから
大丈夫です」


「奇跡を期待してるわ。いきなり完治する可能性だってないわけじゃないのよ」


奇跡…

そんなに可能性の低い話なんだな…


「はい」



風の穏やかな少し寒さの柔いだ日

俺は青いバッグを持ってチャンミンと施設を出た


「チャンミン、無理にいろいろ思い出そうとしちゃ
ダメよ」
ソヨンさんにコートを着せてもらうチャンミン


「はーい!」

「さ、行こうか」


「ねぇ、僕、やっぱり子犬たちを連れていきたいんだけど」

「ウチにはホンモノの猫がいるんだぞ?」

「一匹だけいい?」


「ああ、ここで待ってるから
連れておいで」


「ユノさん、ありがとう」


ほとんどしゃべらなかったチャンミンが
最近はよく話す…


挨拶もできるようになり
笑顔も少しずつ見られるようになった。


でも、笑顔を見ると…俺はつらい


俺は、チャンミンの笑顔が大好きだったんだ

可愛いあの笑顔を見るとたまらなかった


今、車の助手席でチャンミンは眠っている

このあどけないチャンミンはきっと
小さいころのチャンミンなんだ


神様は俺に
小さい頃のチャンミンを見せてくれているんだ


家に着いた。

チャンミンがどんな反応をするか
俺は緊張した。

「覚えているよ!ここ僕の家でしょう?」


はしゃぐチャンミンは
車から降りると走って引き戸まで行き、止まった


その引き戸に手をかけて、考えている


「前は…これじゃなかったよね?
これって、ユノさんが…作ってくれたんだっけ?」


「俺が…注文したんだよ。
忘れてないんだ」


「今、思い出したの…」


考え込むチャンミン…
頭痛が来ないといいけど


「ここから…覗いてたのは…
ユノさん?」


…覚えてるのか…


「ああ、はじめて会った時にね」


チャンミンは引き戸から離れて後ずさりした


大丈夫かな。


結局俺の元に戻ってきて、背中の後ろに隠れてしまった。


「戻るか?海の家に」

「戻る…」


やっぱり、戻るのは早かったか…


俺はため息をついて、
後ろに隠れたチャンミンに向き直って抱きしめた


「わかった、帰ろう。
でも、ミィにご飯をあげてくるから
車の中で待ってられる?」


「1人になってはダメだって、言われてるから」


「そう…だね。じゃあ、背中に隠れてていいから
ちょっとだけ、この家にはいるよ?」


「わかった」


チャンミンは俺の背中に隠れたまま、
俺のパーカーの裾をギュッと握る


引き戸を開けると、ミィが迎えに出た

チャンミンは俺の背中から顔だけだして
ミィを見ている

ミィはチャンミンの足元に擦り寄り
可愛い声でひとしきり鳴く


「可愛いなぁ」

「だろ?」

ミィのことは…忘れているんだな


「ユノさん、僕、大丈夫みたい。
この家に入ってみる」


「そうか?無理するなよ?」

「大丈夫」


ダイニングに入ると…


「母さん?」


あ…まずいかな…


「あれ?」

今、どの時代のチャンミンなのだろう

「父さんと…あ…」


「亡くなったんだよ?事故で」


「うん…そうだね。」

「わかってる?」


「うん…」

「大丈夫か?」



ミィがチャンミンのそばから離れない


その足元にぴったりくっついて
チャンミンの行くところについてくる

まるでチャンミンを守るように。



家の中をくまなく見ていくチャンミン

いつ頭痛がくるか、気が気ではない



「僕は…僕は本当にいろんなことを忘れているんだ」

「そうだね」


「でも、わかる。ここで生活していたのは本当だね」


「ああ、そうだよ。本当のことだ。」


俺と愛し合い、いろんなことを乗り越え
ここで生活していたんだよ



「お前は俺のことを…たくさん愛してくれた」

思わずそんなことを、ぽつりと口走っていた


「愛してくれた?」


「過去形だな…アハハ」


「どういうこと?」

「なんでもないよ」



「僕…ここで生活していたの、わかる。
ここで暮らしていたのは、たしかに僕だね」

「ああ、そうだよ」


「忘れていることを思い出したい…」


「チャンミン…」



「パズルみたいになってる。
ソヨンさんたちがいつも言ってることが
やっとわかった」


「ああ、思い出がパズルみたいに抜けているって」


「もっと大事なことが…」

「チャンミン」


期待した………


ドラマみたいにここで全部思い出して


俺を愛していたことも
俺に愛されていたことも

ここでたくさん愛し合ったんだ


テーブルには読唇術の本が置かれていて
チャンミンはそれを手にとってパラパラと眺めた


この間まで、字が読めていなかったけど
読めるようになってるみたいだ。


心臓がドキドキしてきた。

チャンミン…


でも、チャンミンはそこでアウトだった


「頭が痛い…」

「ああ、もうそこまでだ。先に薬を飲もう。ベッドに横にならなきゃ」


チャンミンに薬を飲ませ
ベッドに寝かせた


「ユノさん、僕、ユノさんのこと、好き」

「俺もチャンミンが好きだ」


「キスして、覚えたよ、キスだよね?」

「ああ、いいよ。」

そっとチャンミンにキスをした。


「ユノさんにキスしてもらうと
頭痛いのなくなるよ」


「そうか?じゃもう一度してあげるから
それで眠って」


そう言うと、瞳を閉じたチャンミンの
柔らかい瞼にくちづけた


いつもいつも、泣きそうなキスだ…


おやすみ、チャンミン…


このベッドを一緒に買いに行ったことも
思い出すといいのに。


チャンミンがベッドに入ると、すかさず
ミィがチャンミンの首元に収まった


チャンミンが眠るのを見届けて
俺はシャワーを浴びた


少し熱くしたシャワーが、俺の肌を勢いよく叩く
丸くなった水滴が、次々と足元に落ちていく

片手を壁について、
もう片方の手で、前髪をあげると
熱いシャワーがダイレクトに顔にあたる

うつむいたまま

あの日を思い出していた


チャンミンが目覚めなくて
手術から3日ほどした病院


ヘジンさんやらヒチョリヒョンがお見舞いに来てくれて
玄関まで送ると、ちょうどキムドクターがタクシーを待っているところだった。


キムドクターの方から声をかけてきた。

よかったね、みたいなそんな感じの挨拶をされて

俺は思い切り違和感を感じた




「ユンホ君、手術自体は成功だったんだよ。ほとんどの腫瘍をとりきれたんだから」


「は?成功? チャンミン起きませんけど?!」

俺はドクターに掴みかかった


ヒチョリヒョンやテミンに羽交締めにされ

ドクターから引き離された俺。

ドクター は怯えることなく
俺に近寄って、語りかけていた


何を語られたのか、あの時は興奮してわからなかったけど

今はなんとなく、わかる


生きていたんだから、よかったんだ

チャンミンは生きていて
無心にぬいぐるみの診察をしている

食べ物も美味しそうに食べる

海が大好きでよく行きたがる


それ以上、望むことなんてあるのか。



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ひだまりの匂い(63)

〜〜ユノside〜〜




秋が深まり、風はすでに冬の匂いを孕んでいた


波の音は夏のそれとは明らかに変わり
潮風は時として、肌を刺すほどに冷たい


パジャマにカーディガンしか羽織っていない
チャンミンを

そろそろ部屋に戻さなければいけない




「海に入ってみたいのに…」

口を尖らすチャンミン


「車椅子で砂浜には降りれないし
海の水は冷たいよ?」


「入ったら、ユノさんは怒る?」


「今は少し怒るかなぁ」


「海はね、冷たいんじゃなくて塩辛いんだよ」

「そうだね、チャンミン」



俺は車椅子を押して施設へ戻る

ふと見ると、チャンミンはもう眠っている


眠っている時に帰るのはいやだな。
そう思いながら海沿いの道を戻る


チャンミンは歩きたがるけど
こうやってすぐ眠ってしまうから危ない




施設の入り口ではソヨンさんが待っていた


担当のソヨンさんはお母さんみたいな存在で
チャンミンが俺以外に心を許す唯一の人間だ。

「寒いから呼びに行こうかと思って」

「すみません」


「あらあら、寝ちゃったのね」

「ええ、1時間起きているのは無理ですね」


「ユンホさんにお客さんが来てるのよ」


「え?この施設に?」

「チャンミンの叔父様だとおっしゃってるけど」

「あ、叔父さんが…?」


「ご存知?応接にお通ししておいたわよ」

「ありがとうございます」


チャンミンが是非ここに、と手続きしておいたこの施設はさっぱりと清潔で明るい。


ベージュと木目の家具で設えられた応接に入ると
チャンミンの叔父さんがソファから立ち上がった


「あ、あの…ご無沙汰しちゃって」

この人の胸倉を掴みあげて以来の対面だった



「ご挨拶に伺わないといけなかったんですけど
話したいこともたくさんあって…
お礼も言わなきゃいけなかったのに…」


「ユンホくん、いいんだよ、そんなこと」


今までの " チャンミンの叔父 " のイメージを覆す
柔らかい物言いが意外だ。


「どうなんだ、それで。
他の人間は会わせられないと言われてな」


俺は叔父さんに座るよう促して
自分も座った


「手術は…成功でした…
一週間、目覚めなくて…
ま、でも
聴力は戻ったし…麻痺も快方に向かってるし…」


「うん、キム・ボンシクからそこは聞いたけど
あんた、あいつに殴りかかったんだって?」

「あ…」

「チャンミンを返せってさ」

「はい…すみません…」



「目覚めてから、どうだったんだ」


「しばらく頭痛と目眩がひどくて
話ができる状態じゃなくて…」

「今はどうなんだ?」

「薬を変えたりして、だいぶ治まりました」

「ふむ…」

「………」

「ユンホ…」

「はい?」

いきなり呼び捨てにされて驚いた


「成功だったのに、なんでお前はふさぎこんでる?」


「あ…」


「問題が多そうだな」


「あ…ええ…そう…ですね」


「情緒に問題があるか」

「なんなんですかね?情緒なのかな」


「どんな感じだ?」


「いろんな記憶が欠落してますね…こう…
部分的に…」


「ふむ」

「最初は俺の事しかわからなくて…」

「ほう…」

「俺だけなんです…俺にしか心を許さない」


俺の話を聞いてくれる医療関係者以外のはじめての人間だったせいか

話がとまらなかった…



少し幼くなってしまったチャンミン


自分が誰だか、全部はわからず、なぜここにいるのかわからない


俺だけに関心があり、俺だけを頼る…


それはそれで、いいんだけれど…


「だけど、なんだ?」

「なんていうか…」

「あんたが誰だかわかってるんだろ?」

「ええ…ですが…」

「あんたとの事を忘れてるか?」


ズバリ言われた…

そこだ…

チャンミンであって、チャンミンではない
今のチャンミン…


「医者はなんて言ってる?」


「そろそろ本格的にリハビリをしましょうと。
手術からもう一ヶ月以上たってるし」


「ふむ…」

「………」

「わかった、また近々様子を見に来る」


「はい…わざわざすみませんでした。」


玄関まで送った

「タクシー呼びます。
少し先の大きな駅のほうが電車がたくさんあるから」


「いや、すぐそこの無人駅がいい」

「そう…ですか?」


じゃ、と片手をあげて帰っていく叔父さんの背中が小さくみえる、そして哀しくみえる…



「ユンホさん?チャンミン起きたわよ」

「あ、はい」


チャンミンの部屋に入ると
そこにある札をドアノブにかけた


[ 入らないでください ]の文字が書いてある札


チャンミンはベッドに座っていた

手には子犬のぬいぐるみ

棚には所狭しと子犬や子猫のぬいぐるみが置いてある。

俺がチャンミンのために買い集めたものだ。


「今日の患者さん?」


「そう。お腹が痛いっていうからね。
今、診てる」


真剣な顔をして、子犬の診察をするチャンミン

俺はベッドに座り、後ろから子犬ごと抱きしめた



「俺、もう帰らないと」

「いやだって言っても帰るんでしょう」

「ごめんね」

「じゃあ、あれやって、なんだっけ」

新しいことが覚えにくい今のチャンミン


「キス?」

「それそれ!」


「いいよ、おいで」

俺は両手を広げると、チャンミンが飛び込んできた

抱きしめてキスをする

悲しいキス


ごめんな、チャンミン…


うっとりとした表情のチャンミンは
この世のものとは思えないほど美しい

少し子供になっているチャンミンは
さらにその純粋さを増して


俺は何度も角度を変えてキスをする

そして、泣きそうになるのを耐えて
抱きしめた


「お前さ、怒るだろう?
違う僕がユノさんを好きになったら、嫉妬するって言ってたぜ」


「どういうこと?」


「なんでもない…」


「ユノさん」


「なに?」


「ユノさん、猫の匂いがする…」

「そう…か?」

「猫と同じ匂い」


チャンミンはしばらく俺の胸の中で
動かずにいた


チャンミンの記憶は断片的に落っこちていて
少しずつ思い出しては埋めるという

パズル合わせのような作業をしていた

最近のことは、ほとんど落っこちていた



「猫の匂いじゃないね」

「そうか?」

「僕はこの匂いに名前をつけていた?」


俺はハッとして腕を解き、チャンミンをみた


「つけていたよ、言おうか?」


「自分で思い出してみるね、ソヨンさんから
そう言われてるから」

俺の心臓は激しく鼓動した


苦しそうな顔になるチャンミン


「明日にしよう、思い出したら教えて?
頭痛くなるから今日はここまで」


「宿題だね」

「そう、宿題」


俺はため息をついて、もう一度チャンミンを抱きしめ、頭をなでて。

そして部屋を後にした


駐車場に停めたワゴン車に乗り込み
エンジンをかけた


ここに通うためにこの車を買った


海沿いの道を走る


ほんの一ヶ月前…



「僕があなたから離れるわけないでしょう」

「あなたの元に戻るから」


チャンミン…

どこへ行ったんだ…


戻ってきてくれ




家に帰って、ミィにご飯をあげ、
俺はひさしぶりにヒチョリヒョンと飲みにいった


静かに飲める小さなバー


「想定内?」

「医者は…そうだって言うけど…」

「2人の歴史を忘れちまうんじゃ困るよな」

「可哀想でさ…俺と愛し合ったチャンミンが可哀想で」

「今の先生も先生なんだぞ」

「わかってるけど…」


「辛抱だな…」


「手術なんか…しなきゃよかったんだよ」


「ユノ…」

「………」


「まあな…せっかく乗り越えられたのに
その喜びを分かち合いたかったよな」


「1人の体に時系列の違う2人がいて、俺のチャンミンは今、眠ってるらしいよ」

「医者がそう言ったのか?」

「違う…施設の人」

「あーびっくりした。映画かと思った」

「経験者なんだってさ。高次キノウなんとかって」

「ふうん」

「あんまり無理して思い出させると
頭痛で、辛そうなんだよね」


「そうか…1度、家に帰ったらどうだ?」

「ああ、それ勧められてる…」

「いいんじゃないか?」

「でも、またあんな酷い頭痛がはじまったら
可哀想でさ」


「眠ってる先生も、可哀想だろ」

「え?」

「早く、お前に会いたいんじゃないのか?」


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『Ali さんの画像で妄想☆萌え大喜利』

こんにちは、百海です。

いつもお話を読んでくださってありがとうございます。

今日は企画のおしらせです^ ^

この度、楽しそうなイベント企画に参加させていただくことになりました^ ^

⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎⬇︎
『Ali さんの画像で妄想☆萌え大喜利』

いつも素敵なホミンの画像を作っていらっしゃるAli様の画像をお題にして、
みんなでお話を書いたら楽しそう♫
という企画が生まれ、
私の大好きな書き手様から声をかけていただきました♫

そのAli様のお部屋はこちら↓
『ホを愛でるAli の小部屋』

↓そして、これがお題画像です♫

素敵な画像です✨

一番下のランキングバナーの画像もAli様作です。

🌸お話のアップは 4月2日。前後篇になる場合は4月2日~3日の両日です。


↓参加ブログ様↓

苺な彼とビールな僕 紫苑☆様
WITH love ... TVXQ  あゆ様
Coloful   あらた様
TVXQ ~Virtigo~ ゆんちゃすみ様
にらいのブログ Y-Know夢で逢えたら   にらい様
なまらMEN恋   ホランイ様
ホミコネ隠れ部屋   じゅりこ。様
HOTミンな関係   えりんぎ様
(順不同)

そして、私、百海になります。

ご存知の作者様もいらっしゃると思います^ ^

最初は参加できる事がうれしくてテンションだったのですが
名だたる有名ブロガー様の中でこんな新参者の私が参加してよいものかどうか、今はかなりドキドキしております💦

でも、せっかくお声をかけていただいのですから、ここはひとつ楽しんでお話を書いてみようかと思っております。

ただ、短編書いたことがないので💦
ちと不安ですが。。

4月2日にみなさま一気にアップされるかと思いますので、楽しみにしていてくださいね♫

百海


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ひだまりの匂い(62)

〜〜看護師チェヨンside〜〜



どこかの大物が、たっての願いでキム先生に
手術を依頼したってことで


さあ、どんなセレブなのかと思ったら


美人看護師が5人束でかかっても勝てないくらいの

綺麗で可愛い男の人だった。

まだ若い、元獣医。


看護スタッフが色めきたったのは
患者さんの美しさだけじゃなく


どうやら、恋人らしい彼氏さんが
これまた震えるようなイケメンで。


長身の2人が一緒にいるところなんて
絵画みたいに美しい。


儚げで清純な美しさのチャンミンさんと
男らしく爽やかなユンホさん。

ふたりともなんとも言えない色気があって。


チャンミンさんの担当になった私はみんなに羨ましがられ
ナースステーションは一気に活気づいた。



でも、あのアイス事件…


彼氏のユンホさんから電話があって、
患者のチャンミンさんの様子がおかしいと。


とりあえず来てもらうことにして
私は様子を見に行った


手術前の患者さんが不安から
ちょっと不思議な行動にでることは、まあ、ないことではなくて。


「チャンミンさん?」


病室に入ると、チャンミンさんは
爽やかな模様のパジャマを着て、
ベッドに行儀よく座っていた。


「今、ユンホさんがこっちに向かっていますよ」

「僕、なぜか電話しちゃったんです」

「そうなんですね。代わりに電話してあげたのに」


「アイス買ってきてって」


「アイス?食べたかったんですか?」

「なんとなく…」


「きっと買ってきてくれますよ」


しばらくすると、病室のドアが勢いよく開いて
ユンホさんが息を切らして入ってきた


姿勢のいい、見上げるような長身のユンホさん

スッキリとした輪郭の顔が汗ばんでいる


無造作にかきあげた前髪がいくつかの束になって
その綺麗な額に落ち
切れ長の強い瞳に影を落としていた。


まるでお姫様を救いにきた騎士のように凛々しいユンホさん。


ユンホさんを見たときのチャンミンさんの晴れやかな笑顔といったら。


そして、チャンミンさんが愛しくてたまらない、
と言った感じで破顔するユンホさん。


そんな2人のやりとりを見てたら、ナースステーションでどっちのファンだ、なんて言ってた自分たちが恥ずかしくなった。


この2人のあまりにも純粋な想いに
私はその後、ナースステーションでひとり涙した。


チャンミンさんは難しい手術なのだ。


どうか神様、この2人を不幸にしないで…



そして、手術当日。

食事をとれないチャンミンさんに合わせて
なにも食べずにずっと話をしているユンホさん。


もうすぐストレッチャーがきて、
チャンミンさんを処置室に連れていかなければならない…


この2人を引き離したくないな…



そばにいたスタッフみんながそう思っていた


カチャカチャと金属音がして、ストレッチャーが部屋に入った


そんなことには気づかないようにイチャイチャしていた2人。


チャンミンさんはユンホさんのシャツをぎゅっと掴む。


怖いのだろう。


ユンホさんはチャンミンさんの肩をストレッチャーから守るように抱く

ストレッチャーを睨みつけるユンホさん。


ああ、お願い


私たちにユンホさんを取り押さえるような事をさせないで


主任看護師が2人にそっと声をかけた。

「さ、手術を終わらせちゃいましょう。ね?」

さすが主任…


チャンミンさんはユノさんの手を笑顔でそっと押さえた。

その微笑みは大丈夫、と言っている


ああ、よかった…と思ったのも束の間。


本当に突然…


チャンミンさんはベッドから降りるとき
いきなりユノさんに抱きついてキスをした


私たちスタッフ全員の前で…



ユンホさんはそんなチャンミンさんを
しっかりと抱きとめ、

その逞しい腕でより強くチャンミンさんを抱きしめた

くちづけあう2人


一旦、顔を離して見つめあったけど

ユノさんが一瞬苦しそうな表情をして
またチャンミンさんに口づけた


私たちは、そのあまりにも高潔で神聖な2人を前に
まったく動けずにいた…


この世のものとは思えない
美しすぎる2人のキスシーン


私は知らない間に涙を流していた…


まだくちづけているユンホさんを
そっと押しやり、


「すみませんでした」と私たちに笑顔をみせるチャンミンさん…



「いってくるね、ユノさん」


口を真一文字に結んだままのユンホさんは

立ち上がり、ストレッチャーを掴んでしまった



ユンホさんをたしなめようとする男性看護師を
主任が目で制した。


そんなユンホさんをなだめたのは
涙声のチャンミンさんだった。



そっと左手でユンホさんの頬を包み
愛おしそうに見つめる



「僕が…あなたから離れると思いますか?」


「…………」


「離れられるわけ、ないでしょう?」



チャンミンさんは静かにストレッチャーに乗り
ユンホさんに微笑んだ

「ユノさん、ありがとう」

「ありがとうなんて…言うなよ」

「フフフ…そうですね、そんなこと言っちゃダメですね」



「お前さ、絶対にどっか行くなよ?
ただ、帰ってきたって…ダメなんだぞ…」


「僕は、ユノさん、あなたの元に戻るから」


「ああ、帰ってくるのは、俺のところなんだからな!」

「待っててね、絶対に待ってて」


動き出したストレッチャーにユノさんはついてきた


「絶対だからな?!」

「はい、絶対に」

「ミィだって、待ってんだぞ!」


「うん、わかってる…」


「だから…チャンミン…」



「ユノさん、愛してる」

「俺も愛してる…」

ユノさんはもう泣き顔だった…




無情にストレッチャーは処置室に入り

そのドアはユンホさんの前で閉じられた



そして、10時間にも及ぶ手術がはじまった



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百海です
いつもお話を読んでいただきありがとうございます

チャンミンは手術ですが…………
明日はお知らせ記事のアップをさせていただきますので
「ひだまりの匂い」は
3月27日から再開いたします。

お知らせ記事を楽しみにしていてください
よろしくお願いいたします

ひだまりの匂い(61)

〜〜ユノside〜〜



明日はいよいよチャンミンの手術だ

おそらく長時間に及ぶ手術になりそうだということで。

チャンミンにとっても体力勝負らしい。

だから今日はなるべく休ませて、
疲れさせないようにしないといけない。


とにかく最善を尽くしたかった




チャンミンは病室の窓を開け、柵に寄りかかって
外の景色を見ていた。


残暑が厳しかったけど、少しずつ風が秋めいてきている。


「あーあ、もっといろんなところに行っておけばよかったなぁ」


チャンミンはため息をついている。


「やっぱりこの間、どこかへ行けばよかったな」

「ううん、違うんです」

「違う?」

「もっと学生の時とかに、外国とかいろんなところ」

「お前さ、手術の前日に人生振り返るとか勘弁して」

「アハハ…そうなんですけどね」

「縁起でもねぇ」


「だけど、なんか僕、淡々と生きてきちゃって…」


「チャンミン…」

「はい?」


「お前の綺麗さは、毎日を丁寧に生活してきた賜物だと俺は思う」


「綺麗ですか?僕。」

キョトンとしている、まん丸の瞳



何言ってんだ…

そんな透明感あふれて、キラキラなお前なのに…



「自分でそこよくわかってないっていうのも、魅力なんだけどな」



「ユノさんは何かいつも背負って生きてる感じ。」

「なんだそりゃ、苦労人か?」


「いつも何かの責任を負って、それをなんでもないように生きてきたっていうか」


「そんなカッコよくねぇよ」


「男の色気ってそんなところから出てくるんですよ、きっと。」


「へぇ、俺って、色っぽいか。キモチわりぃ」


「そうやって、よくわかってないところが
またいいんですけどね」



「お互いメロメロってことで、な?」

「なにそれ」


ケラケラ笑うチャンミンが可愛い


明日手術が終わったら、またその笑顔をみせてくれ




午後、担当医に声をかけ、俺は話を聞いた


「何度もお話したことですが、難しい手術です」

「…………はい」


「明日はそれなりの覚悟はしていてください」

「…………わかってるつもりです」


「問題は手術自体より、その後です。
後遺症はほぼ、確実に起こると考えてください」


「今考えられるのは、どんな後遺症ですか?」


「身体の機能かもしれないし、行動や記憶、精神面にくるかもしれない。」


「あの…今更ですけど…
手術ってやっぱり必要だったんでしょうか。
精神面や記憶って…
チャンミンがチャンミンでなくなったら
死んだも同然じゃないですか」


「このままでも、いずれそうなります。」


なんども繰り返してきた話だ。


やっぱり手術はどうなのだろうと
つい後ろ向きになってしまう


「後遺症は術後が一番症状が激しいと思われます。
リハビリをどれだけ行うかにかかってきます」


「はい」


「応援してますよ。私は最善を尽くします」

「…ありがとうございます
宜しくお願いします…」




いつものように、夕飯を病室でとり
いつにも増して、たわいない話で盛り上がり

俺たちは努めて明るく振る舞った



そして面会時間も終わり、俺はいつものように
「じゃあな」と手を振り、病室を後にした。


なんだか辛すぎて、
チャンミンがどんな顔をして俺を見送ったのか
よく見ないで出てきてしまった。


明日は早めに来よう。


今日の別れ方はちょっと後悔だな。


家に戻って、ミィのご飯を用意しようとして、
ヒチョリヒョンのところに預けたことを思い出した。


「今夜はマジでひとりなんだな」



しばらくダイニングでぼーっとしていた。


今日までなんだか、走りっぱなしだったような
そんな脱力感がある
うまく言えないけど…



と、その時、電話が鳴った


こういう時間の電話は普通じゃない
イヤな予感がする…

受話器をとった


「もしもし?」


「…………」


「だれ?」


「…………」


何も話さない…

チャンミンなのか?

いや、耳が聞こえないのに電話はないだろ


「…………ユノさん?」


え?!まさか


「もしもし?!チャンミン?!
えっ?聞こえるのか?」


「ユノさん、あのね、ごめんね」


俺の声が聞こえてる様子はなく、
チャンミンは一方的に話している



「眠れなくてね…アイスが食べたくて」


は?アイス?


「アイス買ってきてほしいんだけど」


「チャンミン、あのさ…」

「待ってるね…」



そう言ってチャンミンは電話を切った。


様子がおかしいのは明らかだ。


俺は病院に電話をして、事情を話した。


「そうですか。
来ていただいたほうがいいかもしれませんね。
夜間受付に声かけてください。話しておきます。
私は病室みてきますので」


俺は急いで、病院に向かった

病院の近くのコンビニでアイスを買い、走った。


じっとりと汗で濡れた俺の身体が
誰もいない病院のクーラーで冷やされる


受付に声をかけると、もう話は通っていた。

そのまま病室に向かう。


チャンミンはどうしたのだろう。
いつものチャンミンじゃない


病室のドアを開けると

お気に入りのパジャマを着て
行儀よくベッドに座るチャンミン。

側で看護師さんが話しかけていた。


チャンミンは俺を見ると
ぱぁーっと明るい笑顔になった。


俺はなんだか
保育園に子供を迎えに来た父親の気分になった


「チャンミン!アイス買ってきたぞ?」

「ありがとう…ごめんなさい」

「いいんだよ」


「よかったですね。
今夜はソファで寝てもいいですよ。毛布ありますから」


俺はとてもじゃないけど、こんなチャンミンを置いて帰れる気分ではなく

病室に泊まることにした。



「眠れなかったのか?」


「なんか、僕、子供みたいでした。
呼び出しちゃってごめんなさい」


「いいんだよ、家でさみしかったから
ちょうどよかった」


「明日、手術終わったら帰れますから」

「チャンミン…」


「もう帰りたい…」

「うん、早くよくなってウチへ帰ろ」


うつむくチャンミンが儚くて
可愛くて…

そして哀しかった…


チャンミンが食べれるように片手で持てるアイスにした。


「おいしい…ユノさん、ありがとう」

「2人でアイス食べるなんて、初めてだな」

「冷たくて、甘いね」

「ああ」



「手術の後、味を感じられなくなるかもしれないんだって」


「ああ、そういうこともあるらしいな」


「冷たいのはどうかな?わからなくなるのかな」


「それは大丈夫だろ?」

なにを適当に答えてるんだ、俺は


「どっちでも、いいや」


「困るだろ、熱いもの触ったらヤケドするじゃないか」



「ユノさんのことさえ、わかればいいんだ」


「………」


「自分が誰だかわからなくても…味なんかしなくつても…
ユノさんが誰だかわかれば、それでいいや」


チャンミンは静かに微笑んだ


「なんだよ、今日は弱気だな?」


「最初から、弱気ですよ」



「一緒にいてやるから、もう寝よう。
体力温存しないとな」


「うん…」


ベッドに横になったチャンミンに布団を掛けたら
俺の手をそっと握った


「おやすみ…」

「うん、ゆっくり寝な」


まだ寝苦しさはあったけれど
季節は確実に秋を迎えていた…




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ひだまりの匂い(60)

〜〜ユノside〜〜


チャンミンの手術の日は仕事をいれたくなかった。


今日は病院へ行くのは夜だけにすることにして
日中は仕事に没頭した。


ヒチョリヒョンは俺を共同経営者にしてくれたのに
その割には細かい仕事もいろいろ任せてたから。



「おめぇはそんなこと気にしなくていいんだよ」

「でも、バイトの面接だけサッサとやっちゃうから」



「明後日だろ?手術」

「ああ…今、検査ばっかり」


「心細いだろうが」


「悪いけど、明日と明後日は休ましてくれ」

「ミィもウチに預けてけ」

「ほんと、悪い」


「先生の叔父さん、いるだろ
お前が掴みかかった…叔父さん」

「あーーアハハ!はいはい」


「ちょっと詳しいヤツに聞いてみたけどさ
大物だな?」

「だろうな…」



「泣く子も黙るってやつだぜ?」

「脅すなよ、俺、決裂してんだから。その叔父さんとさ。」

「怖いもの知らずだな、お前。あんな人物」

「だから、ビビらせんなって!」



「ユノヒョン?」

今はこのチキン屋でバイトしているテミンが
ひょっこり顔を出した


「おーどうした?」


「バイトの面接のコ来たよ?すんごい可愛いよ!」


「あーわかった。事務所で待たせて」

俺は向き直って小さな声で

「ヒチョリヒョン、可愛いってよ?面接やるか?」

「興味ねぇ」

「またまたームリしちゃって」

「ビジュアル自慢のオンナなんてロクなのいねぇって」

「まあな。」



俺は事務所へ行った

部屋に入ると、なんとあのナレがいた



「あ?!ナレじゃん」

「ひさしぶりね、オッパ」


「なんだよ、高校生はダメだぜ?」

「もう卒業したのよ。大学生なんだから」

「そうなのか。」


「雇ってくれるよね?ナレのこと」


履歴書を見ても、バイトできる時間を見ても
断る理由は見当たらなかった。

でも…


「あたしがバイトしたら、男の子のお客さん
増えるよ?」


女子の客が減りそうだけどな。


「お前はコミュニケーション能力に問題あんだよ」

「なによ、それ」

「そのすげぇ自信が、さ?」


ふんと横を向くナレ。


「私ね、オッパのこと諦めてないのよ」

「男ならたくさんいるだろ、お前の周りには」

「でも、やっぱりオッパには負けるの。どんなヤツでも」



はぁーやっぱりこの子、ニガテだな

どうにかしてお引き取り願おう


そんな事を考えていたら


「そんなにオトコがいい?」

「あ?」

ふいに聞かれて面食らった

コイツはどこで何を聞きつけてきたんだか。


「オトコってそんなにいいの?」

肘をついて、俺の顔を覗き込むように見つめる

「………」

「知ってるよ、インテリなカレシ」


チャンミンの顔が心に浮かんだ
読唇術をテレビで学ぶ真剣な表情…



「男がいいんじゃないよ
本気になったのが、たまたま男だっただけだ」


「本気なの?ウソでしょ?」

「………」


俺の唇を真剣に読み取ろうとするチャンミンの顔が浮かぶ



「もったいないよ、オッパめちゃめちゃカッコいいのに」

「そりゃどうも」

「いくらでも、いいオンナ抱いて楽しめるのに」


この清純そうなナレのどこから
そんな言葉がでてくるのか不思議だ。



「しかも、カレシ、病気なんでしょ?」

俺は自分の眉間が強張るのを感じた


脳裏に浮かぶのは
この入院の為に買ったパジャマを着て
病院のベッドに座るチャンミン


" 派手だったかな?この、パジャマ"

" パジャマくらい、気に入ったの着ればいいんだよ"

" そうだね"

クスクスと笑うチャンミン…


そんなチャンミンとくらべて
この女はなんだ?



「病気じゃ、ムリさせられないわよね?
オッパ、いろいろガマンしてるんじゃない?」


俺の唇を指でなぞるチャンミン
その目には涙をいっぱいに溜めて…


ナレの言葉で、俺のチャンミンが汚れていくような気がした


「オッパ、いつでもナレが…」
「おい」


俺の声があまりにも低く響いて


ナレは硬直した。



「帰れ」


「オッパ…」


「聞こえたか?俺の気が変わらない内に帰れ」


「き、気が変わらない内って…」


「ハタチにもならないコドモを罵倒したくない」

「え…」



「履歴書持って、帰れ」


ナレはなにも言わなくなった…


俺がため息を、ひとつつくと
スッと席をたち、なにも言わずにドアに向かった


「今度はお客で来るから、大事にしてね?」


そう言い残して出て行った…



チャンミンは検査で痛い思いをしてるっていうのに
俺はこんなバカ女に時間をとられて…


あと1人さっさと面接して早く病院にいこう



と、書類を片付け終わらないうちに

「し、失礼しますっ!」

俺がどうぞ、と言わない内にドアが勢いよく開いた

最初からそれじゃダメじゃん



ドアの開け方は勢いよかったけど
現れたのはメガネをかけた気の弱そうなコドモだった。


「ウチは高校生は…」

「あ、ぼ、僕はパク・ホジンと申します!
高校はこの春卒業しました!」

「あ、そう」


「こ、これは履歴書と、えーと、写真と」

「写真は、採用になってからでいいよ」

「あ、そ、そうですか…」


「ま、そんなに緊張しないで
履歴書みせて?」

「はいっ!」

ほんとだ、高校卒業してるんだ、あれ?


「パク・ホジン?ずいぶんいい高校でてるけど
大学は?」

「ら、来年行こうかと思ってますっ!」

「浪人したか?」

「あ、ウチ、お金なくて!」

「え?」

「一年間勉強しながら学費貯めないと…」

「ここじゃ学費稼ぐほどの給料だせないぞ?」

「でも…あの…」

「?」



「ウチのじいちゃんを病院連れて行くとき
あの、よく公園通って、それで…」

「知ってたんだ、俺の店」

「は、はいっ!あの…カッコいいなって…」

「なにが?」

「あ!あの…く、車がっ!あのワゴン車がっ!」

「あんなバンがカッコよかった?」


「ちがいます!あの…」

「俺がカッコよかった?」

「はいっ!」

「マジか…?冗談で言ったんだよ」

「あ……///////」


こいつ面白いな…


「じいちゃんも、あなたはいいヤツだって…
バイトさせてもらえって…」

「ホジンのお祖父さんは俺を知ってるのか?」


「商店街で八百屋やってて…」

「え?あの八百屋?!マジかよ?」


俺がチンピラの頃、よく取り立てに行ってたあの…


「ジイさんは元気か?」

「血圧高いから医者行ってますけど…」

「ギャンブルのやりすぎだろ」

「あ、アハハ…ええ、たしかに…」


そこから、なぜだか笑いの止まらないホジン

「アハハ…ギャンブルのやりすぎって…アハハ…
でも、ほんとそうかも…」


お前のジイさんの悪口言ってんだけど…

でも、素直そうでいいな、こいつ。



「ま、採用かどうかの連絡は、来週くらいにするんで。」

「あ、は、はい…よろしくお願いします…」


「ジイさんによろしくな。
お大事にって…」

「あ、ユンホさんもお大事に」

「え?俺?」

「あ、こ、恋人さん?」


「なんで知ってんの?」

「あ、あの、公園で医者探してるってみんなが。」

あーなるほどね、だからか。


「うん、ありがとな」



俺はチャンミンの待つ病院へ急いだ。

まだ夕飯に間に合う


俺はまたパンを買って、病室のドアを開けたら

そこには…俺のチャンミンが

俺をみて天使のように微笑む



会いたかった…


俺はベッドの側まで行って
チャンミンを抱きしめた。


ベッドに座り、その頭を胸に抱いた…


「ユノさん…さみしかった?」

「ああ」


しばらくそうしてると
夕飯の配膳の音がして、俺たちは離れた


夕飯を食べながら
チャンミンは今日の検査の話を面白おかしく話した。


俺は今日の面接の話をした。

「え?あの八百屋の?!」

「孫だって…」

「へぇー雇うの?」

「まだわからないけど、面白いヤツだよ」


「そうなんだね…会えるの楽しみ」


「明日も検査か?」

「うん、明後日は手術だからね」

そう言ってにっこりと笑うチャンミン


「じゃあ、早く寝ないとな。」


「ユノさん…」

「なんだ?」


「ワガママきいてくれる?」

「なんでも聞いてやるから、言ってみな?」


「僕、もう寝るからさ、面会時間終わるまで…
僕が眠るまで…手を繋いでて?」


「…いいよ、じゃこうして手を握っててやるから
ぐっすり寝な」


「ありがとう…」


チャンミンは俺の手を握ったまま
思ったより早く、コトンと眠りについた…


眠かったんだな…
薬のせいだろうか。

俺はその可愛い寝顔を面会時間が終わりを告げるまで眺めていた…



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ひだまりの匂い(59)

〜〜ユノside〜〜




病院へ行く朝、


俺はチャンミンから留守中の注意をいろいろと受けていた。


植木に水を欠かさないこと
夜は鍵を閉めること
ミィのトイレの砂をマメに替えること


「わかりましたか?」


まるで先生のような物言いに
はい、と返事をして大きく頷く、生徒のような俺。


「じゃあ、行きましょう」

軽く言って笑うチャンミン。


それでも、俺が注文した引き戸を開けるときに
一瞬、ガラスに触れて

引き戸を閉めた後
振り返り、シム動物病院の看板を見やった。


そんなお前の名残り惜しむ様子を見逃さなかった


俺たちはそういう風に
虚勢を張ってないと、また昨夜のように泣き崩れてしまうから。


だから、俺も大した事ない感じで、チャンミンを病院に連れて行った。



用意された個室に荷物を整えると、

「個室なんて高いのに…」

と口を尖らすしっかり者のチャンミン。


「叔父さんの計らいらしいよ。感謝しような」

「そうなんですか?」

「なんだかんだ言って、お前が可愛くてしかたないんだよ」

「ほんと、感謝しないと…ですね」

「でも、叔父さんから見舞に来たりはしないと思うよ」

「手術が終わって、退院したら挨拶に行きます」

「それがいい。喜ぶぜ、きっと。」

「その時はユノさんも一緒に行ってくださいね」


「あーーーうん。えーっと、そうだなぁ」

「ケンカ…したんだっけ?」



「叔父さんの襟首掴みあげちゃってさ」

こうやって、とその時の様子をジェスチャーした。

「えーーーー!うそぉ!」

「いや、ホント」

「そんなことした人、たぶんユノさんだけですよ。」

「だよな。でも、結局は俺の頼み聞いてくれたんだから、挨拶行かないとな。」


「フフ…でも叔父さん、新鮮だったかも。
意外とユノさん、気に入られたかもしれないです」

「微妙なところだな。」



看護師さんがチャンミンの検温にきた。


「あ、俺、行った方がいいかな」

「行かないで…もう少し…いて?」


体温計を脇に差入れながら、不安そうなチャンミン。


こんな顔されて、置いていけない。


「じゃあ俺、夕飯までいる。面会時間ギリギリまでいていいか?」

「ほんと?いいの?」

「ああ、いいよ」



夕方になってミンスとヘジンさんがお見舞いに来た。

「検査がはじまるとなかなか会えないと思って。
今日来ちゃった」

「ありがとう」

「先生、不安?」

「不安じゃないって言ったら、ウソになるけど
ユノさんがいてくれるから、大丈夫」


「そうね、それにお祖父様も天国からきっとみててくれるから大丈夫よ」

「ああ、そうだよね」

「それにね、私、あの担当の先生、知ってるわ」

「え?!ヘジンさん、知ってるの?」

「ええ、あの方なら、絶対に助けてくれるわ」

「あの先生は誰?」

「内緒」


「えー?へんなの、内緒だなんて」


俺はピンと来たけど、敢えて口にしなかった。



ヘジンさんたちが帰った後、
チャンミンは病院で出された夕飯を食べ、

俺はパンを買ってきて
病室でチャンミンと一緒に夕飯にした。


俺たちは目一杯、面会時間ギリギリまで
会話をしていた。


「…そろそろ俺、帰らないとな」

俺は自分に言い聞かせるように言った。


「そう…ですね。
玄関まで送ります」

「いや、いいよ、ここで、な?」


「はい…」

少し寂しそうに微笑むチャンミン。


「じゃあな、また明日来るよ」

軽く手を振って、わざとあっさりと病室を後にした。


夜の病院の真っ暗な廊下。



俺を玄関まで見送ったら、チャンミンはこんな寂しいところを1人で病室に帰らないといけない


寂しすぎるだろ…
そんなことさせられない



病院を出ると、チャンミンの病室を見上げた

もう電気が消えている


寂しくて、布団被って寝たのかも

おやすみ、チャンミン………




そしてチャンミンのいない家に帰った。

ミィが小さく鳴いて、迎えてくれた。

俺はミィにご飯の用意をしてやり、家の中のことを
いくつか片付けて、シャワーを浴びる。


もうチャンミンの声は聞こえない
シャワーの音しかしないこの家


俺はシャワーを頭から浴びながら
じっとして、シャワーの音だけをしばらく聴いていた。


チャンミンはいないのだ、と
自分に言い聞かせていた。


頭をタオルでふきながら、キッチンでミネラルウォーターを飲む。


静かなダイニングに、グラスをテーブルに置く音がやけに大きく聞こえた。


この部屋はチャンミンの香りで満ちている。
いたるところにチャンミンを感じる。


手入れされた植物に
背表紙の高さをきちんと揃えてある本棚に
留守中の注意を書いたメモに


そんな物たちが、
余計に寂しさを引き寄せて

俺に孤独を痛感させる…


チャンミンはいないと
この家すべてが俺に諭す


「わかってるさ、そんなこと」


誰に言うでもなく、1人声に出してみる


その夜、俺は広いベッドで
チャンミンの枕を抱いて寝た


こんなところチャンミンに見られたら
心配するよなぁ

入院なんかしてらんないだろ?


だから、早く帰ってこいよ

な?




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