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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

宴のあと



壁一面がガラス張りの店内

漆黒の夜空の下には、きらびやかなソウルの夜景が広がっている

まるで一枚の大きな絵画のようなその景色を
ユノは革張のソファにゆったりと腰掛けて眺めていた

友人が貸し切りで借りてくれた、店の大きなパーティスペース

つい30分ほど前まで、この部屋には100人を超える客が
騒めき、飲み食いをし、歌を歌っていた

仲間たちがユノの誕生日を祝って
催してくれたパーティだった

さっきまでは室内が明る過ぎて
この素晴らしい夜景には気づかなかった

あえて、照明を全て落とし
ユノはその夜景をひとりで堪能していた


しばらくすると

スチールのドアをノックする音がした

ユノは少しも期待せず返事をする

「はい」

そっとドアが開くと
2人のツナギを着た男が顔を出した

ほら、やっぱり

「あ、荷物を取りに来たのですが」

「ご苦労様です、そこに出てないかな」

「はい、これ全部でいいんですね」

「よろしくお願いします」


みんなからのプレゼントを事務所に運んでもらう為に
配送業者を呼んでいたのだ

ドアが閉まると、室内にはまた静けさが訪れる

ユノは腕時計をチラリと見て、ため息をつく


大きなガラス窓に

自分の姿が微かに映る

長い脚を投げ出して、ソファにだらしなく座る姿でさえ
雑誌のグラビアのようだった


そんなユノは

自分が寂しがり屋であることを自覚している

だから、みんなが去った部屋にひとりでいるなんて
本来とても苦手なことだ


けれど、今夜は
みんなといるその時間が寂しくてたまらなかった

なぜなら…いちばん祝ってほしい、あの愛おしい存在がいなかったから


そのとき

大きな窓に、スッと一筋の光が見えて
ユノは窓越しにその光を見た


チャンミンだ


姿なんか見えなくても、空気でわかる

それが俺たちの関係だ


大きな背を折り曲げるようにして、そっと部屋の様子を覗く

ユノがソファにいることに気づかない

あたりを見回して、誰もいないことがわかると
チャンミンはやっと背筋を伸ばした

スッとした長身に長めのチェスターコート

フワフワとしたヘアスタイルが漆黒の窓にシルエットとして浮かび上がる


ユノがソファから半身を起こすと
チャンミンがビクッとして、立ち止まった


「ユノ?そこにいるの?」

「ああ」

ユノの低い声を聞くと
強張ったチャンミンの顔は一気に破顔して

可愛い笑顔がふぁーっと広がった

「びっくりしたぁ」

チャンミンはスタスタとユノのソファに近づいてきた

誰もいないことは確認済みだった


遠慮なく、チャンミンはソファに倒れ込み
背中からユノの腰に抱きついた


遅かったな、なんてそんな言葉は言わなかった
チャンミンがこの時間を狙って来た理由はユノがよくわかっている

「コート脱がないとシワになるよ」

「カシミヤ100パーセント!」

チャンミンが子供のようにふざけている

「だから掛けておきなよ、ハンガーあるから」

「いいのいいの」

チャンミンは今度はユノの背中にしがみついた


「元気にしてたのか?」

ユノの声がその厚い胸を通して
チャンミンの耳に優しく響く

「ん…」

「ずっと…こもってたの?」

「うん…」

チャンミンはユノの腰にもう一度しっかりと手をまわした


「今夜はたくさん来た?」

「ああ」

「よかったね
またみんなの前でダンスしたの?」

「したさ」

「そう」


しばし、沈黙が流れた


ユノに後ろから抱きついているチャンミンの瞳は
漆黒の窓ガラスを見つめていた

大きなソファの上で、甘える自分と
それを好きなようにさせているユノが

まるでお伽話の彫刻のように映る


ユノがぽつりと話しはじめた


「みんな心配してた…お前のこと」

「……」

「こんなことになって…大丈夫なのかって」

「大丈夫って、それは僕たちの関係?
それとも僕の気持ち?」

「あと、俺の気持ちも」

「全部だね」

「ああ」

「みんな知ってるの?
本当のこと」

「半分半分ってとこかな」

「ふぅん、じゃやっぱりこの時間に来てよかった」

「そうだね」


「はぁ……」

チャンミンは大袈裟にため息をついて
後ろからユノの肩に顎を乗せた

そして、ユノの耳元で甘くささやく


「おめでとう、ユノ」

「ん」

「35歳?」

「そうだよ」

「ますますいい男になるね」

「お前もね」

「僕なんか」

「彼女ができたら、色気がでててきたなんて
言われてたぞ」

ぷっ

と、チャンミンは吹き出した


「へぇ」

ユノもフフッと笑った


ユノは自分が発した言葉が
チャンミンの傷を刺激することのないように
気を使った

だから、わざと直球を投げてやった
その方がチャンミンが本音を出しやすい


案の定


しん…と静かになった


「ユノ…」

「ん」

「ごめん、ほんとうに」

「なんで謝るの…」

ユノは自分の腰に回ったチャンミンの手を優しく撫でた

「だって…」


*********


それは

2ヶ月前の夜のことだった


事務所のスタッフの送別会で
珍しくチャンミンが酔ってしまった

体調も良くなかったのだと思う

後輩たちも、チャンミンを置いて帰るわけにはいかず
なんとなくユノに助けを求めるような雰囲気になった

「いつも顔色がまったく変わらないヒョンが」

「体調が良くないんだと思うよ」


仕方なくユノが家に連れて帰ることになった

タクシーを呼んでもらい
ユノが抱えるようにしてチャンミンをタクシーに引きずりこんだ

みんなに見送られて、笑顔で手を振るユノに
いつもの注意力が抜けていた

いくつかのシャッター音
タクシーと同時に発車するエンジンの音

過激なはずのない自分たちのファン

けれどその送別会の影でシャッターの音をさせていたのは
ファンではなく、ゴシップ雑誌に関わる者だった


タクシーの中で
チャンミンは酔ってユノに甘えていた

なんどもキスをせがみ
自分からユノの頭を抱えて口づけたりしていた。

ユノはある程度、チャンミンの好きにさせながら
タクシーに自分のマンションの位置を伝えていた

そんな様子が後ろのリアウィンドウ越しに撮られていた

さすが、プロ

ぼやけた画像の中でも、誰がみてもユノとチャンミンのシルエットだ


会議室に呼ばれた2人の前に
何枚かの写真が並べられた

チャンミンは絶句した

ユノはその写真を一瞥すると
まっすぐに管理者を見つめて、二度と写真を見ることはなかった

明らかに機嫌の悪い管理者が
その重い口を静かに開いた

「どう説明する」

「………」

「チャンミンが自分の額でユノの熱を測っていたとか?」

管理者は自分で言った言葉に自分で苦笑した


「誰がみても、チャンミンがユノの頭を抱えてキスしてる、としか…見えないと思う」

「……」

「敵ながらやるよな、上手く撮ってる」


「…すみません」

チャンミンがぽつりと言って頭を下げた

管理者はユノの顔をみた

「ユノヤ、お前はあれか?
また、自分たちは悪いことしてないとか…」

「俺の意思はかわりません」

「それがまわりをどれだけ混乱させるか
わかってはいるんだよな」

「……」


何も言えなくなっている2人に

管理者はもう一度ため息をつくと

机の上の写真をまとめて袋に入れた


「先手を打った」

ユノとチャンミンが顔を上げた


「先手というと?」

ユノが訝しげな表情をしている


「こんな写真が出回る前に
衝撃弾をブチ込むさ」

「………」

「この写真が出回ったって
きっと何かの偶然にこういう風に撮れたのだろうって
そう思わせるような衝撃弾だ」



チャンミンがユノにキスをせがむ写真は
チャンミンの「公開恋愛」という衝撃弾に色あせていく


雑誌記者たちはため息をついて
その写真のデータをすべて捨てた

あの時にはっきりと目撃した
お互いを貪り合うような2人の動きを
もっとカメラに収められたらよかったのに。。

雑誌記者は苛立ちのため息を、もう一度吐いた


*********



チャンミンはユノにもたれて
ぼーっと窓の外の夜景を見ていた


ユノはそんなチャンミンを自分の胸に抱き込んでいる


「動画ならねぇ、説得力あったものを
パパラッチも悔しいだろうね」

ユノは茶化してそんな風に言った


「ユノにも迷惑かけて…」

「俺?俺はなにも…お前のファンほど迷惑かけられてないよ」

「………」

それを言われると…チャンミンはつらかった

苦しい時も嬉しい時も

ファンというものは本当にありがたい存在で

どれだけ自分の力になってくれたかしれない


ステージでユノと2人で感じるファンの手応え

何にも替えがたいあの光


いつしか愛し合うようになった僕たちを
その光が更に輝かせる


「ユノ…本当にこれでよかったのかな」

「なにが」

「もしかしたら」

「………」

「もしかしたら、ファンも…僕の愛する人が誰だかわかったら、祝福してくれるかもなんて…甘いかな」

「スポンサーもファンもアジアの中ではまだ
そういうのを受け入れられないこともあるから」

「ん…」

「本当のことを言えないのは
仕方ないさ」

「うん…」

チャンミンはユノの鎖骨あたりを唇で探し当て
そこにキスをした


「もう一度、ユノと一緒に住みたいな」

甘く可愛い声


ユノは優しく微笑んで
自分の胸に押し付けられているフワフワの髪を撫でた

「彼女を作ろうと思って、引っ越したのにな
結局このありさまだ」

ユノは笑った

チャンミンは起き上がって
ユノを可愛く睨んだ

「当たり前です
彼女を作って僕から逃げようなんて
甘いんですよ、ユノは」

「アハハハ」

ユノの独特の笑い声に
チャンミンは可笑しさを禁じ得ない

「だってさ、あんなただれた関係で」

「いいのに、別に
僕はちゃんと跡をつける場所だって仕事に影響ないように
してましたよ」

「そうなの?」

「そうですよ
それなのに引っ越したいなんて言うから」

「………お前を好きになりすぎたんだよ、俺」

チャンミンは少し得意そうな顔をした

「いいんですよ、それで」


*********


あの頃、このままではマズいと思っていたユノ

ひょんなことから、そういう関係になってしまった2人

けれど、元々あった強い絆がそんな関係に拍車をかけた

知らない間に、ユノはチャンミンのことになると
狂いそうに心が乱されるようになって

自分でも、心がコントロールできないようになってしまった

それが仕事に影響しはじめた


ふとした撮影の合間

自分を制することができるチャンミンと違って
ユノはどうしても行動に思いが出てしまう

チャンミンの髪を触り
その頬を撫でる

オフショットを撮ろうとするカメラマンが
何度となくレンズを下ろす

ここは撮ってはいけないシーンだと

そんな風に気を使わせていた

たまにユノに触れられた後の
チャンミンの恥ずかしそうな姿が、オフショットに収められているのはカメラマンの好意だろうか

ある時、カメラに向かうチャンミンのブラウスを
必要以上に手直しする男のスタイリストから
ユノは目が離せなくなった

明らかに、チャンミンに魅入られているスタイリスト

ユノは嫉妬と怒りに狂う自分の気持ちを
どうにか抑え込もうとして

けれど、そんな心模様ははっきりと写真に現れてしまっていた

まわりは特に気にしなかった

ユノの獰猛で挑戦的な表情がセクシーだと話題になった

けれど、そういうコンセプトではない仕事だった

ユノはそれをよくわかっていた


2人で築き上げてきたこの名前は
なんとしても守り、輝かせて、未来へと繋げたい

自分のプロ意識の無さを反省し
有り余るチャンミンへの思いを少し冷まさないといけない

そう思ったユノは、2人で住むことを解消するよう
事務所とチャンミンに伝えた

チャンミンはそんなユノの気持ちがわかっていたから
寂しそうな中にも、理解を示してくれた


けれど、ユノがチャンミンへの思いを落ち着かせるために彼女を作ろうとまでしていることを知って

チャンミンは戸惑った

ユノは考えすぎるところがあるのは知っている
そして考えすぎて焦って、突拍子もないことをすることもよくわかっている

ユノはドがつくほど真面目なのだ

けれど

やたら夜出かけては女性と飲み歩くユノの姿に耐えられず
チャンミンはすべてを終わりにしようと決心した

ユノの彼女になりたい女性は山のようにいる
きっと自分にとって代わる女性がすぐに現れる

ユノから別れを告げられるのは耐えられない
そんな風に思うのもチャンミンらしかった

チャンミンから別れを告げられたユノは

クールにふるまってはみたものの
結局のところ、最後は泣いてしまった

もう、チャンミンが驚くほどユノは泣いて
床に膝から崩れ落ち、頭を抱えてユノは泣いた

そんなユノを見ていたチャンミンは
何か大きな喜びと幸せに包まれて、苦笑した

何人もの女たちが、自分がユノと付き合うことになりそうだと、チャンミンにマウントしてきていた。

その度にひどく落ち込んでいたけれど

その女たちの誰一人として
ユノの彼女になることはなかった

ユノは結局のところ、チャンミンへの思いを断ち切れなかったのだ

それに気づいたチャンミンは
大泣きするユノを見て、幸せそうに微笑んだ

そして、ユノを助け起こすと
ギュッとその大きな身体を抱きしめた

「なにやってるんですか…ほんとうにあなたってひとは」



*********




「あの時、ユノはすごく泣いたね」

「あーもう、そのことは言うなよ」

ユノはチャンミンの髪をクシャクシャとかき乱した

「だって嬉しかった」

チャンミンはソファに仰向けになって
ユノに膝枕をしてもらう格好になった

チャンミンの大きな可愛い瞳が
ユノを見上げる

ユノは愛おしそうな表情で
チャンミンを見守った


「俺さ…」

「ん」

「子供だったんだよ」

「だった?今もでしょ?」

「なんだよ、それ」

ユノは鼻にシワを寄せて笑った

「お前が誰かにとられるのが怖くて辛くて
だったらいっそのこと、もう離れたほうがいいって
そんな風に思ったんだ」

「ほんとに別れてみたら、悲しかった?」

「だから、めちゃくちゃ泣いただろうが」

チャンミンが嬉しそうに笑った

「なぁ、チャンミン」

「ん?」

「こっそりさ」

「こっそり?」

「また一緒に暮らそうか」

チャンミンがユノの膝で体をくねらせた

恥ずかしそうに満面の笑みで


「こんなメジャーになって
一緒に暮らすアイドルなんていないよ、ユノ」

「うん、まぁ、そうだな」


「でも、僕は一緒に暮らしたい」

チャンミンの瞳は真剣だった

「だよな、一緒に暮らしたいよな」

「うん」


チャンミンは、半身を起こして
ユノの首に緩やかに、その長い腕を巻き付けた

そして、ゆっくりとユノの端正な顔立ちを眺めると
優しくキスをした

何度も角度を変えてキスをするうちに
やがて、ユノの大きな手がチャンミンの腰を抱えるように
伸ばされる

いつもそうだった

最初は甘えるようにチャンミンがユノにキスをする
じゃれついてくる子猫をあやすようにしているユノだったけれど

次第にユノの方がチャンミンのキスに夢中になる

ユノの切れ長の瞳が薄らと開かれ
チャンミンを見つめる黒い瞳が妖艶な光を放つ

やたらと角度を変えようとするチャンミンの頬を
ユノはその大きな手で固定してしまう

チャンミンの唇を丹念に味わい
やがてその唇はチャンミンのこめかみへと移動する

うっとりと夢見るようなチャンミンは
勝ち誇ったように微笑む

クールに振る舞いたいユノを
少しずつ陥落させて、やがて自分に夢中にさせる

それがチャンミンのやり方だ


いつも…2人の矢面に立ち
何かあるとチャンミンを守ろうとするユノ

強くいなければと気負うユノのその弱さを
一番知っているのは自分だと

チャンミンは自負している

だからこそ

その鎧を少しずつ剥がしてやって
その突っ張る気持ちを優しくほぐして
ユノが心から裸になれるように
その努力をチャンミンは惜しまない

そんな自分達を
今回はチャンミンが守ろうとした

それがまたユノの心を疲弊させてしまったのだけれど


2人の息遣いが荒く激しくなってくる

これ以上進むと、途中で止めることが難しい

大きく息を吐いて、チャンミンが一旦ユノを制した

「ねぇ」

唇を人差し指で押さえられたユノは
少しムッとした表情になった

「なに…」


チャンミンはユノの濡れた唇を優しくなぞった

「この部屋って何時まで借りてるの…」

うっとりしたチャンミンの瞳に
ユノが破顔して微笑む

「明日の朝まで」

「そう?」

チャンミンがふんわりと笑った

さらに強く抱き合う2人の姿が
煌く夜景に重なるようにガラスに映る


宴のあと

優しい夜が更けていく


漆黒の空を映すガラスには
2つの影がひとつになっていく様が描かれていく









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おひさしぶりです、百海です。
またリアルホミンの読み切りを描いてみました

ユノさんの誕生日の翌日に描いたのですが
書き直しを繰り返して、本日のアップとなってしまいました。

内容的には…
百海さん、そうやって折り合いつけたのね?
と言われそうな感じですがw

妄想をそのままに描いてみました

また、しばらくしたら新しいお話がはじまりますので
アップしましたら遊びにきてくださいね

みなさま、お互いにマスクと手洗いしっかりと

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