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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

花をあげよう 完


〜ユノside〜



温かいコーヒーの香りに
俺はベッドで薄らと目を開けた


香ばしいベーコンの香りと
トーストされたバターの香りがそれに混じる


ベッドに寝たまま、片目で部屋を見回すと


ロングTシャツから、すんなりと伸びた細くて長い脚が
目に入った


ふんふんと楽しそうに鼻歌をハミングしながら
チャンミンが忙しそうにキッチンで何かしている


ベッドの側には
昨日俺が買ってきた花がコップに活けられている


キッチンにも、テーブルにもそれはある


俺はチャンミンを愛していると伝えるために
毎日花を少しずつ買って帰る

チャンミンはとても喜ぶ


その笑顔が見たくて、毎日買ってしまう


ふと、たまに思う


抱かれる方だとか、抱く方だとか

そんな話でオレはチャンミンを傷つけて
もう一生プラトニックでいいと思ったあの出来事は


いったい…なんだったのだろう


昨夜もチャンミンは積極的だった

自分の欲求に忠実で
情熱的に俺を愛してくれる

チャンミンはずるい

そんな妖艶な姿を見せたすぐ後に
恥ずかしそうに微笑んでみたりする

そのギャップに俺は愛おしさがこみあげて

何度も挑んでしまう

これ以上はかわいそうかな、と気を使ってやりたいのに

一瞬、" 待ってました "という表情に見えるチャンミン
それは、俺の都合のいい錯覚だろうか


正直、今朝このまま起きれるのかどうか疑問なほど…
俺の身体は疲弊している


っていうか

負担の大きいはずのチャンミンは
なんであんなに元気なんだ??


この間、そこを確かめたら

「ユノをチャージしたから元気いっぱい」

なんて、また俺を煽ることを言う


まったく…困ったもんだ

と言いながら、俺の頬は緩みっぱなしだけどね



チャンミンがオレを起こす為にこちらへやってくる

オレは急いで目を閉じて寝たフリをした


チャンミンの甘い香りが近づくと

オレの頬に柔らかいくちびるが触れる


そして、そのくちびるは耳元へと移動して


「ユノ、ごはんできたよ?」


甘い声が注がれる


俺は寝ぼけたふりをして
自分の頭を掻きむしる



あーーーーー

もうーーーーーー!


めちゃくちゃ、しーあーわーせーーーーーー!


オレは!


なんて!



しあわせなんだーーーーーーーーーー!



俺は心で叫ぶ

この気持ちを花で伝えるのなら
1つ残らず世界中の花が必要だ


テーブルの上のスマホが鳴る


チャンミンが耳元で囁く

「ユノ、電話だよ」


俺は少し起きたふりをして
薄目を開けた


「うーん…チャンミン
電話でて」


「僕がでていいの?」

「いいよ、いいに決まってる」

そう言うと、チャンミンは喜ぶのだ


俺のホストという仕事柄
チャンミンに嫌な気持ちになってほしくない

俺の電話に出ていいというのは
隠し事がなにもないという証

俺の誠実ってやつだ


チャンミンが誰かと話している

穏やかで甘く、優しい声


あー

俺はそろそろホストという仕事を辞める時が来たかな

金もある程度貯まったし
少し将来のことも考えて何か行動を起こそうかなぁ


「ユノ!」

チャンミンが明るい声で飛んできた

「どうした?」


「ねぇ!ルカに子供が産まれたって!」

「ルカ?だれ?」

「ユノが拾った子犬!」

「え?あー!え?!」

俺は起き上がった


「なんで子犬が子犬を産むんだ?」

「もう、大人になったでしょう」


チャンミンが笑いながら俺にスマホを渡す

「キムさんって、あの飼い主さんから」

「あ、はい」


俺がキムさんと話す様子を
チャンミンが縋るような表情で見つめる

そのくちびるが

" 飼っていいでしょ?"

と形を作る

俺は焦らすようにチャンミンを見つめて
曖昧に返事をする

最後に

「それでは、早速ですが今日でもいいですか?」

俺の言葉に、チャンミンは可愛くガッツポーズをとって
ベッドから飛び降りはしゃいだ

可愛い

俺のチャンミン

また、俺は反応してしまいそうだ


スマホを切って、ベッドから下りた俺に
チャンミンが抱きついた


「いいの?飼っていいの?」

「ああ、いいよ
今日夕方連れてきてくれるって」

「やったー!楽しみ!」


「その前にチャンミン、こっちおいで」

「?」

俺は不思議そうな顔をしているチャンミンを
ベッドに連れ戻す

わかってるくせに、そんな顔をして

ほんとに小悪魔だ!



存分に愛してやって
再びベッドから恥ずかしそうに下りたチャンミンが
少しばかりムッとしている

「トーストもなにもかも冷めちゃったよ」


よく言うよ

あんなに盛り上がっておいて


そういうご機嫌は、すぐに直る

冷めてはいたけれど美味しい朝食の後

俺たちは子犬を迎える準備をはじめた


************



玄関からキムさん親子と現れたのは

カゴに入ったベージュの綿毛

あの時の…子犬そっくりだ
いや、それよりうんと小さい


「わぁ!小さい!」

チャンミンが感嘆した

ベージュの子犬は、少しモゴモゴと動いて
カゴから小さな黒い瞳を覗かせた

「ここが顔だったんだね
丸くてよくわからなかった」

チャンミンの言葉にみんなが笑った

チャンミンは子犬をそっと手のひらに乗せると
そのふわふわの頭をそっと撫でた

「可愛い!」

「男の子なんですよ」

キムさんも笑顔だ

「こちらで育てていただいて
私たちも嬉しいです」


「正直、あのときは寂しかったんで
ウチへ連れてきてくれて嬉しいですよ」

そう答える俺の下で
飼い主の男の子が寂しそうな顔をしている

俺はしゃがんで男の子と視線を合わせた


「いつでも会いに来てくれていいんだよ
よかったらルカも連れておいで」

「いいの?」

「もちろん、ルカの子供なんだし」

男の子の顔がぱーっと明るくなった

「今度、そうだな、この子がもう少し大きくなったら
ルカとみんなで公園に散歩に行こう」

「ほんと?」

「ああ、約束しよう」


男の子は母親を見上げた

「よかったわね」

「うん!」


ベージュの子犬はチャンミンの手のひらの中で
ウトウトとしはじめた

目を閉じると、本当にどこが顔だかわからなくなってしまって可愛い

そして、そんな子犬を抱くチャンミンが
これまた最強に可愛い

チャンミンも腰をかがめて男の子と視線を合わせた

「大事に育てるね、安心してね」

男の子はすっかり笑顔だ

「うん!」


「ユノ、名前つけなきゃね?」

「そうだな」



俺とチャンミン、そして綿毛みたいな子犬

これから3人で賑やかに暮らそう


一緒にいれば、ケンカもするだろうし
悲しいこともあるかもしれない

けれど

そんな時は花を買って

俺はチャンミンに自分の気持ちを伝えるよ

それでチャンミンが幸せになれるなら
俺はなんでもしてあげる


だから、これからもずっと
俺の側にいてくれ


青空は少しずつパープルに変化していく

夕焼けが今日もきれいだ


これから毎日、そんなことが幸せだと思える暮らしをしよう

ずっと、一緒に







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百海です

まずは皆さま、台風の備えは大丈夫でしょうか?
今回の台風は半端ない大きさのようですね

私は前回の台風15号で成田空港難民になってしまったので、今回はずっと家にいて水を買ったりいろいろと準備をしています。

みなさまも十分気をつけてくださいね


そして、今回のお話もたくさんの方に読んでいただき
ポチや拍手、コメントを本当にありがとうございました。

短編でしたが、私にしてはハッピーなお話だったのでは?
と思っておりますwwwいかがでしたか?

長いことお話をアップしない時期があり
不安もあったのですが
コメントではいつものお名前を発見して
とても嬉しかったです!

そして、ハッピーなお話もいいけれど
ダークなのも好き、という方にはぴったりな
また、悲しいお話は苦手、という方にはほんとにごめんなさい(汗)

というのが次回のお話になります。

アップはもう少し先ですが、よろしかったら
また遊びに来てくださいね

ほんとうに台風気をつけてください!

それでは

花をあげよう 13




チャンミンが中庭に行くと

真ん中のベンチに座っていたユノが立ち上がった

スッと背の高いユノ


綺麗に整えられた花壇には
色とりどりの花が植えてあった

「ユノさん…」


ユノの顔が少し緊張しているように見える

「忙しかった?呼び出して大丈夫?」

「はい…大丈夫です」


ユノがベンチに座ったので
チャンミンもその横に少し距離を置いてすわった

その距離が、チャンミンの気持ちを表しているようで
ユノは少し落ち込む

けれど、気を取り直して
ユノは優しく微笑んだ


「今日はオレにつきっきりで…
チャンミン先生を子供たちから奪ったね」

「いえ、そんなことないです」

チャンミンはエプロンの端をずっと握りしめている


少し…沈黙があった


「あーえっと」

「………」

「この間は」

「……」

「ほんとに…ごめん…」

「………」


チャンミンは答えない


そりゃそうだ、仕方ない
一言謝って許されるわけがない

だけど


伝われ!…この気持ち
がんばれ!俺


「あのさ、なんていうか、花ってさ」


唐突なユノの言葉に

チャンミンがびっくりして顔をあげた


「花?」

「うん、花ってもらって喜ばない人はいないって
言ってたよな」

「はい」

「お祝いとか、悲しみとかどんなときも」

「…はい」

「じゃあさ、謝りたい時もいいのかな」


「……ユノ…さん」


ユノが少し照れ臭そうに
オデコを掻く

しばらくモジモジしていたユノだったけれど

少しして、今日仕上げたアレンジを袋から出して
チャンミンに差し出した


「これ」

「………」

「この間は、本当にごめん
謝りたくて頑張って作った。
これをチャンミンにあげます」


ユノがチャンミンの顔を覗き込みながら
花を両手で差し出した

さっきまで、自分がアドバイスをしながら
作り上げた花のアレンジメント

ユノが真剣に花を選び、とても一生懸命にこれを
作っていたのをチャンミンはよく知っている


自分に謝りたいために?


「許してください、とは言いません
とにかくこれは、ごめんっていうオレの気持ち
どうか受け取ってください」

「………」


戸惑いながらも、チャンミンはそっとそれを受け取った

ユノは少しホッとしたように
頬が緩んだ


「チャンミンに似合う花をオレなりに考えて選んだ」

「……」

「チャンミンの笑顔をイメージして作ったつもり」

「………」


チャンミンは柔らかい花びらにそっと触れた

なんとも言えない感情が込み上げて来て
言葉を発することができずにいた

やっとの想いで一言だけ言えた


「…ありがとう…ございます」

「……」


「……」


「もう一言、言っても…いいか?」


「………」


チャンミンはうなずいた



「本気で…好きだよ、チャンミン」


「……!」


チャンミンは固まった


「……」


「言い訳になるとは思うけど」

「……」

「よかったら、聞いてほしい」

「……」

驚きに目を丸くしてるチャンミンは
やがて、ゆっくりとうなずいた

ユノは少し安堵したように深く息をして
真面目な顔になってチャンミンを見つめた


「オレ、あの時、変なこと言ったけど」


「……」


「チャンミンと一緒にいたい」

「……」

「本当は…ただ…それだけ」

「……」


「だけど…その…チャンミンが…その
なんていうか…悩んでるのかと」


「それは…もう…」

「うん…」

「……」

「オレ、それ聞いて…その
舞い上がっちゃって…なんか気持ちが…」

「ユノさんが?」

「うん、あ、オレ、チャンミンと
その…そういう間柄になれるんだなーなんてさ」

ユノの顔が笑いながらも、すぐに緊張で強張る


一生懸命、言葉を選んで話をしているのがわかって

チャンミンは胸が熱くなった


「だから…その…あんな風に」

「……」

「オレとしては…その…
チャンミンが自分の事を後ろめたく思ってたり、悩んでるんじゃないかって」


チャンミンは自分の手元を見つめていた


ユノさんの言う通りだ

チャンミンはそう思った

自分のことを後ろめたく思っているのは事実だ


チャンミンはエプロンの裾を握りしめすぎて
指が白くなっていた


「オレには…安心して…正直になっていいんだって…
伝えたかった…」


「……」


「だけどさ…オレ、あんなんじゃ…」

「……」

「引っ叩かれても、オレ…何も言えない」

ユノは俯いた


チャンミンはそんなユノを見つめた


この人は…不思議な人だ


軽くて無神経だと思えば
小さな男の子みたいに純粋に見える時がある

クールで大人の男の色気に溢れているのに
そんな着ぐるみを着た子供なのだろうか

そう思ったら、チャンミンは可笑しくなってきた



チャンミンはユノに微笑みかけた

「ユノさん、ここに来るの、本当は嫌だったんじゃないですか」

「………」

「マダムはユノさんがここに来たがったって言ってたけれど、違いますよね?」

「……」


ユノの表情は正直だ


「マダムが強引に?」

「いや、そういうわけでもない」


ユノは真っ直ぐにチャンミンを見つめた


「謝りたいと思ったのは…本当だ」

「………」

「チャンミンの好きな花なら…
伝わるのかなと…マダムにも言われて…」


マダム・リンのアドバイスに
がんばってその話に乗ってきてくれた


自分に謝りたくて
子供のアレンジメント教室に1人でやってきて

一生懸命に花を作っていたユノ


自分はそんなユノが愛おしくてたまらないのだ

そうチャンミンは確信した


それなら

自分もこの人に誠実に向かい合わなければ

正直な気持ちを言ってあげなければ


「僕も正直な気持ちを言いますね」


ユノの顔に緊張が走った

「ああ、何言われても覚悟はできてる」


「ショックでした。
僕は本当にユノさんと、兄弟みたいな関係になれたらいいなと思っていたから」

ユノは大きなため息をついた

「ほんとに…ごめん」


「僕はユノさんのことを諦めていたので」


ユノが顔をあげた

「諦める?」


「僕は…ユノさんに恋をしたんです」


ユノが何か言おうと、けれど言葉が見つからないといった
表情をしている


「あなたが大好きなんです」

「………」


ユノが子供のように目を丸くしている


「……ほんと?」

「はい」

チャンミンが微笑んだ

「今でも?」

「はい、ずっと」

ユノが、背筋を伸ばした


「じゃあさ、オレたち」

「お互い、好きだったんですね」

「ってことだよな?
ちょっとオレ自信あったんだよ!そうかなって」

少し調子に乗ったユノが慌てて口を閉じた


「嬉しいです、ユノさんも同じ気持ちだなんて」


ユノは自分を納得させるように
何度もうなずいた

そして緊張が解れたように破顔した


「そっかー!」

「ふふ…」

「いやー!マジでうれしいな、オレ」

「うれしいと思ってくれますか?」

「うん、そりゃうれしいよ」

「僕もこのお花、うれしいです。
1人でここに来てくれて、一生懸命作ってくれて
感激してます」


「うん、そうしたらさ、チャンミン
オレ、ほんと兄としての付き合いでいいから
これからも一緒にいてほしい」


「ユノさん」


「ん?」


さきほどまで温かな陽射しのように微笑んでいたチャンミンだったのに


いつのまにか、少し挑むような
今まで見たことがない表情をしている


「チャンミン?」


チャンミンがベンチに座り直して
距離を縮めてきた


「えっと…」


「僕が兄弟みたいな関係がいいって言ったのは
あなたの気持ちがわからなかったからで」

チャンミンは真っ直ぐにユノを見つめる

その視線の鋭さと熱さに
ユノは魅入られながらも動けなくなってしまった

「あーえっと、チャンミン?どうした?」


チャンミンはゆっくりと瞼を伏せる
長いまつ毛が美しくチャンミンの大きな瞳を縁取り

なんとも言えない色香を醸し出している


きれいだ


ユノは思った



そしてチャンミンはゆっくりと瞼を上げ
上目遣いにユノを見上げた


儚くも壮絶な色香に
ユノは体温が上がるのを感じた


兄弟って…自分はそう宣言したんだ!


その決意がもろとも崩れそうな
チャンミンの視線




「僕の話を少ししていいですか?」


「あ、い、いいよ?なに?」


チャンミンはユノの白いポロシャツの胸に触れた


「!」


中庭の入り口でこっそりと様子を見ていたマダム・リンは
一緒にいた男の子の目を両手で目隠しした


「ちょっとー」

「しっ!静かにしてね
さ、もう私達は帰りましょ」


チャンミンはユノの隆起した
胸の筋肉をポロシャツの上から確かめるように
触れている


あまりの衝撃的なチャンミンの豹変ぶりに
ユノは動けない


「ちゃんとお答えしますね
ユノさん、僕は抱かれるのが好きだと思います」

「へ?!」

動けないユノは、喉の奥から変な声が出た


「けれど、ユノさん」

「……」


「キスは僕からしたい方なんです」


「キ、キス⁈」


ユノの胸に置かれたチャンミンの手が
ゆっくりと上に動き始める


ユノの胸を撫であげるようにして
そして、その手はポロシャツの襟を縁取り

ユノの頬へと到達した


ユノの至近距離にチャンミンの
立ち上るような色気に溢れた瞳



やばい


これは…やばい



チャンミンは瞳を閉じながら
顔を傾け、そっとユノに口づけた


ホストという職業でありながら
擬似的な恋愛を生業としてるにもかかわらず


なにも動けなかった自分をどこかで恥じながらも
ユノはチャンミンのキスに酔いしれた


花壇の花はそよそよと風に吹かれ
まるで2人を祝福して拍手をしているかのように可愛く揺れる


中庭には、ユノとチャンミンと
そして、たくさんの花しかいなかった





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百海です

ここまで読んでいただきましてありがとうございました
明日が最終回となります

花をあげよう 12




その日、チャンミンはスヨンに了解を得て
花屋のバイトを休んだ


アレンジメント教室でイベントがあり、
その準備を手伝う為だった


いろいろと忙しくして
ユノのことを考えないようにしたいと
そんな思いもあって、手伝いを引き受けた


イベントの趣旨も共感できた

敷居が高そうなフラワーアレンジメントが手軽にできることを、みんなに知ってもらうためのイベント。

チャンミンは先週教室でイベントの主催者から声をかけられたのだ

「チャンミンもそろそろ講師をやってみないかしら」

「僕?僕は全然ダメですよ、人に教えるなんて」

「イベントで1日だけ、子供の相手をするの。
それならいいでしょう?」

「子供?」

「小学生にごく簡単なアレンジを教えるの。
一緒に遊ぶ感覚で」

「僕にそんなことできるかな」

「小さい子供たちに、花を愛でる感覚を知って欲しいの。花が部屋にある楽しさも学んでほしいし、雑草を摘んできて飾る楽しさも」

「…なるほど」


幼いころ、よくタンポポなどを摘んできてコップに活けていたチャンミン。

母が他の花や葉を添えて
タンポポを見事に変身させてくれた、
あの楽しさが蘇る


「一緒に遊ぶ感覚なら…
できるかもしれません。やらせてください」


その準備や下調べで忙しく
チャンミンは本当にこの数日、ユノの事を考えないように過ごせた。


それがチャンミンにとって、心地よい生活なのかと言われたら…
それはまた別の話だったけれど


ユノはチャンミンの心の奥底にずっと住んでいて、
ユノがそこに住み続ける限りチャンミンの傷は癒えない


自然に時が解決してくれたら…
チャンミンはそんな風に思っていた


そして

イベントの日がやってきた

マダム・リンもお手伝いをするために
エプロンを持参でやってきた


「マダムもお手伝い?」

「そうよ、チャンミンと一緒に
子供たちと遊ぼうと思って」

「うれしいです
僕、ひとりで不安だったんですよ
考えたら子供相手が得意ってわけでもないんで」

「大丈夫よ、まかせてね」

「よろしくお願いします」

「チャンミン、あなたにはね
少しやっかいな子供をお願いしたいの」

「やっかいな…子供?」

意味深に微笑むマダム・リン


オープンの時間になると
子供たちがアレンジメントの教室にやってきた。

お花を触れる、ということで
期待に溢れた瞳をしている女の子たちもいたけれど、

親が強引に申し込んだのでは?
と思われる腕白な男子も混ざっていた。


そして、子供たちの最後に
部屋に入ってきたのは…

なんと…ユノだった


え…

どうして…


「……ユノ…さん?」

白いエプロンをつけたチャンミンは
まん丸な瞳をさらに丸くして

ポカンと開いた口が
塞がらない

しかも

ユノは珍しい格好をしていた


チノパンにローファー、そして白いコットンのシャツ

爽やかで本当にカッコいい


「ひさしぶり、チャンミン」

気まずそうに、少し照れたように微笑むユノ

「あ…」

チャンミンは何が起こったのか理解できず、
どうしていいのかもわからず

さっとユノに背を向けてしまった


「!」

振り向いたそこにはマダム・リンの笑顔があった

「チャンミン、こちらはユノさん。
私のお友達なの。
たぶん、この子供たちより何もできないと思うからよろしくね」

「友達って…マダム…」

「つきっきりで教えてあげてね。」

そうやってマダムはウィンクをひとつした。


恐る恐る、チャンミンはユノの方へ向き直った


「えっと…」

「今日は…よろしくな、チャンミン」

「あ、はい…」


やがて、アレンジをする花選びから始まった。

子供たちがキャーキャー言いながら花を選ぶ中、
チャンミンはユノの後ろについてゆっくり歩く


「どんなのがいいかな」

「あ、花は…その…ユノさんの好きなのを自由に選べばいいと思います」

「そうはいってもなぁ」

そばにいた女の子がユノを見上げた

「お兄さんがお花を?」

不思議そうに聞く

「そうだよ、花でアレンジメントをするんだ」

「お兄さん、お花作ってどうするの?
部屋に飾るの?」

「うん、好きな人にあげるんだよ」

ユノのその言葉に
チャンミンがハッとして顔をあげた

ユノは小さな女の子に優しく話しかけている


「知ってる?
花をもらって喜ばない人はいないんだよ」

「知ってるわよ。
だから私もお母さんに花束作ってあげようかと思って」

「へぇ、それはいいね。」

「お母さん、誕生日なの」

「そう、お母さんの好きな花を選ぶの?」

「私がお母さんに似合うって思う花を選ぶのよ」

「へぇ、なるほどね」

「お兄さんもそうしたら?」


ユノは、ピンクのガーベラを見つめて
それをひとつ取った

その花をしばらく眺めて
納得したように頷くと、それを水の入ったバケットに入れた

チャンミンは不可思議な表情でユノの後についた


男の子たちがユノのそばにやってくる

「ヒョン、花束なんか作れんのかよ」

「なんだよ、これから勉強するんだよ
おまえらは何しにここに来たんだ」

さっきの女の子に対する態度とは真逆のユノ
それでも楽しそうだ

男の子が面倒臭そうに言う

「親に花束作ってみなさいって言われてさー」

「いつもゲームばっかりしてるからだろ」

「そうでーす!だけどさー俺に花束なんか作れるかよ」


ユノは男の子の頭をこづいた

「いてぇな!」

「いいからたまには花束でも作ってみろ
オレはこれから真剣に作るんだからな」

「へぇーできそうにないけど」

「大人をからかうんじゃないよ
お前も母親に花でも送るんだな
いつも迷惑かけてるんだから」

「めんどくせー」

「面倒だと?生意気なやつだ」


「ユノさん」

チャンミンにたしなめられ
ユノは花選びに戻ろうとした

「兄さん、花よりオレとゲームしない?」

小さな男の子に懐かれるユノに
チャンミンはなぜか胸が温かくなる

「いいから、母さんに花束作ってやれ
お前が作ったら泣いて喜ぶぞ」

「え?泣いて?」

「ああ、花はな、もらって嫌がる人なんていないんだ
みんな喜ぶんだよ」

「へぇ」

男の子も、少しはやろうという気になったのか
花びらを触ったりしはじめた


「ユノさん、さすがですね
僕は、なんか子供の相手もうまくできなくて」

「今日はオレについててくれるんだろ?」

「……」

チャンミンは恥ずかしくなって下を向いた


ユノは考えながら花を選んだ

ひとつひとつじっくり選んで
それからバケットにいれていく


もしかしたら
自分へ贈る花束なのかもしれない

そんな風に思うのは…うぬぼれだろうか


チャンミンは戸惑った

嬉しいようななんとも言えない気持ち

でも、この間のこともあり
簡単に喜んではいけない気がした


「これくらいあれば、いいのができるかな」

「そうですね、葉は後でバランスを見て決めましょう」


みんなが花を選び終わり、教室の席に着いた

小学生の子供たちの中、飛び抜けて大きなユノが
小さな椅子に座っているのが可笑しい


チャンミンは子供たちに向かって
アレンジメントの基本を教えた

ユノは子供たちに混ざって
一生懸命チャンミンの話を聞いた

チャンミンは大まかなことだけ教えて
あとはなるべく自由にできるようにした

いつのまにか、男の子たちはユノの側に集まって
思い思いのアレンジをしている

ユノも四苦八苦しながら、小さな四角い箱の中に
花を刺していく

真剣な表情がとても綺麗だとチャンミンは思った



もう、ユノとどうこうなるつもりはなかった

趣向を取り沙汰されてまで
この気持ちを晒すつもりはなかった

自分の気持ちをわかってもらうことは諦めた

それでいい

チャンミンは小さくため息をついた


やがて、思い思いのアレンジメントが完成し
みんな楽しそうにラッピングをした

子供たちは母親や祖母にプレゼントするという子が多かった
自分の部屋に飾るのだと楽しみにする子もいた


「お花は綺麗でいられる時間は短いけれど
だからこそ、もらった人はそこにその人の思いをみることができるんです」

「………」

しーんとする子供たちにチャンミンは苦笑した

「ちょっと難しいかな」


ユノだけが微笑んでいた

イベントが終わり、それぞれ自分の作った花を
スマホで写真を撮ったりして楽しみ

みんなが幸せそうに帰っていった

「今日はありがとうな」

「あ、はい、こちらこそありがとうございました」


ちょっと不器用にラッピングされたアレンジを持って
ユノも帰っていく

すっかり子供たちに懐かれて
取り囲まれるようにして帰っていった


自分に花をくれるのではないかと
淡い期待をしたチャンミンは少々がっかりしたけれど


ユノがここに来てくれてよかった

今日は自分もユノと楽しく過ごすことができた


また、前のようになんでもない関係になれたらいいのに

チャンミンはそう思った


子供たちを見送って

マダム・リンがチャンミンを労った


「お疲れ様、とてもいいイベントだったわ!」

「マダムも講師をお願いしてしまって
すみませんでした」

「いいのよ、とても楽しかったわ」


「あの…今日ユノさん来てましたけど
マダムは知り合いだったんですか?」

「そうなのよ、この間、お友達とホストクラブに行ってみようって話になってね、そこがユノさんのいたお店だったの」

「そうだったんですか」

「私がチャンミンのお友達だと言ったら
とてもびっくりしてね」

「あの…僕の話なんかは…他にでましたか?」

「ええ、もちろん」

「え?そうなんですか?」

「出たわよ、それで今日ここにお誘いしたの」

「そうですか…マダムが…」

「イベントの話をしただけよ
あなたが講師をやるって話」

「はい?」

「そうしたらユノさん、なにがなんでも行きたいって」

「ユノさんが?意外だな」

「そう、子供向けだからダメって言ったんだけど」

「それでも?」

「どうしても行くって言うの、だから仕方なく
お誘いしたのよ」

「はぁ…そうなんですか」


そこへ、今日来ていた男の子が2人で戻ってきた


「あれ?どうしたの?忘れ物?」

男の子は首を横にふる

「どうしたの?」

「今日いたお兄さんがね」

「うん」

「先生呼んできてってさ」

「僕?」

「そう」


チャンミンは胸がドキドキした


「あ…その…どこに行けばいいの?」

「中庭のとこ」


イベントが開催されたこの公民館には
小さな中庭があったはずだ

「いってらっしゃい、チャンミン」

マダム・リンがうれしそうだ


しばらく戸惑いを見せていたけれど


チャンミンはエプロンをつけたまま
中庭へ行った



マダム・リンは先日のユノとのやりとりを思い出していた


「花の?アレンジメントですか?オレが?」

「そうよ、今度イベントがあるの」

「いやーオレはムリだと思いますよ
花とか触ったこともないし」

「大丈夫、子供向けだから
簡単よ」

「え?子供と一緒にやるんですか?」

「そう」

「いやームリムリ
せっかくですけど、ムリです
たしかにチャンミンと同じ趣味とか持って
共通点があればホントいいですけど
花とかはムリですね」

「そのチャンミンが講師をやるの」

「………」


ユノが固まった


「もちろん、チャンミンはあなた専属で
つきっきりでやってもらうつもりよ」

「やります」

あまりにユノの返事が早くて
マダム・リンは苦笑した

「作ったアレンジをそのままチャンミンにあげるといいわ」

「オレの作ったやつをですか?
やらないうちから悲惨な出来ってわかりますけど」

「チャンミンのために一生懸命作れば
きっとあなたの謝りたい気持ちは伝わるわ
なにしろ、作るところをチャンミンは見ているわけだから」

「なるほど…」

しばらく考えて、ユノは意を決したように
マダム・リンを真剣にみつめた


「オレ、やります、花のアレンジメント」




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花をあげよう 11




ショックで何も考えられない


僕のことを、そういうコトに飢えていると

ユノさんはそう思っていたのだろう

だから、僕はあんな風に言われたんだ


僕が女の人に興味がなくて
ユノさんを好きだと

どうしてだかわからないけど
バレている

しかも

僕はすごく飢えてガッツいてるイメージなのだろう
抱かれたがっているように見えたんだ

直接あんな話をしたら
乗ってくると思われていたのだ


なんてことだ…


チャンミンは深いため息をついた


瞼を閉じると目頭が熱い

これ以上、まだ涙が出るのだろうか


少しずつ…仲良くなって
兄弟みたいな関係に

大事にしていた気持ちは強引に引き出され、
晒しものにされたようで

チャンミンはとても傷ついた…


そして、なにより恥ずかしい思いで
胸が張り裂けそうだった



ミルクティーをスプーンでゆっくりと混ぜながら、
チャンミンは幾度となくため息をついた


こんな風に言うのはどうかとは思うけれど
マダム・リンの前では、心置きなくため息をつける


「すみません。ため息ばかりで
せっかくご馳走していただいているのに」


「いいのよ。リラックスしてもらうために
あなたをお茶に誘ったの」


「………」


「でもね、チャンミン。
よく考えたら、まぁ悪い事でもないと思うのよ」

「え?」

チャンミンは顔を上げた。


「だってね、ユノさんは少なくとも
あなたを受け入れる準備があるってことじゃない?
ま、言い方はちょっと乱暴だったけれども」

「………」


「ユノさんがどうしてあなたの気持ちを知ったのかはわからないけれど、それを知ってイヤではなかったという事よ」

「そうではないです、マダム」

チャンミンは少しキッとした眼差しで
マダム・リンの顔を真正面から見つめた


「ユノさんは、僕がユノさんとそういう関係になりたがってると思ったんです。
決して…僕みたいに…一緒にいると嬉しいとか…そんな…そんな風には…思ってない…」

「そうとは限らないわ」

「僕がそんな風に見えていたなんて…」


チャンミンはとうとう泣き出してしまった。


「そんな…チャンミン…あなた…」

マダム・リンは切なくなってしまった。

こんな風に純粋に相手を思うチャンミン
受け入れてもらえるはずなのに、傷ついてしまった。

「わかってます、僕は…」

「チャンミン…」

「僕は…自意識過剰ってやつです
プライドも高いのだと思います」

「あなたは素直よ?」

「それに僕、めんどくさいんです」

「チャンミン…」

「僕は…ぐすっ…とってもめんどくさいんです」

「そんなことないわ
それ以上自分を悪く言わないでね」

「ほんとにすみません」

「謝ることないわ」


マダム・リンはなす術もなく
チャンミンを悲しそうにみつめた


********



ユノにしては珍しく気分の落ち込みが長引いていた


チャンミンを傷つけてしまった

自分のことを好きだろうと自信過剰になって
有頂天になって、とんでもないことを口走ってしまった

デリカシーの無さで失敗したことは
何度もある


普段、こんなことがあっても
早めに気持ちを切り替えることができたのに

今は毎朝、寝覚めが悪い


時間を戻してやり直したい

そんな自分らしくないことを考えながら
ぼーっとした表情を鏡で見ながら歯を磨くユノ


店に出勤する時に少し顔が見たいものだけれど、
最近は自分も同伴出勤をしてるから、
傍らには客の女連れだ


その姿をチャンミンには見られたくない


自分は一体どうしたのだろう

こんな風に誰かを思って落ち込むなんてことは
今までなかった


とにかく、謝りたい
許してくれるなら、抱くとか抱かれるとか
そんな関係は望まないから


謝る機会がないものだろうか
どうしたら、もう一度話ができるだろうか

早まってバカな態度を取った自分を
どうにか許してもらいたい


そして、またあの笑顔を見せてほしい


今日もクラブサランの店内を見回すと
おそらくチャンミンが作ったであろう
アレンジメントがいくつも目に入る


柔らかな色合いで、品のいい花が
人を癒すように顔を並べている

ユノは思わずその花びらにそっと触れた

きっとチャンミンの耳たぶもこんなピンクで柔らかいのだろう

自分はもう…チャンミンに触れることは
2度とないだろうけれど


「あーオレは重症だな」

思わず口から出た独り言に
店長が反応する

「なにが重症だ」

「いえ、なんでもないっす」

「今日の客はすごいぞユノ」

「そうなんですか?」

「中国のやり手企業家の奥様と
そのご一行だ。しっかり相手をして
常連まで持っていけ」

「あ、はい、それはちょっと張り切らないとですね」

「ああ、最近やつれてるぞお前。
顔洗ってシャンとしろ」

「はい」



そのご一行様がやってきた

いかにも金持ちそうな奥様たちが4人

そのうちの1人
リーダー格のオーラを伴って入店してきたマダム

きっとその中国の企業家の奥様はこれだ

ユノはスッと近づいて
恭しくお辞儀をした

「いらっしゃいませ。
マダム・リン様でございますね」

「ええ、今日はよろしくね。
みんなこういうところが初めてでね
少し羽目を外して遊んでみましょうって
そういう企画なの」

「かしこまりました
楽しい時間を過ごしていただけるように
準備は出来ております」

「私は指名をしたいのだけど
いいのかしら」

「はい、もちろん
ご希望のホストがいますか?」

「ユノさんって方」

「え?」

「今日は出勤なさってる?」

「あ、私がユノです
私をご指名でよろしいですか?」

マダム・リンは少し驚いたようにユノを見た
そしてすぐに破顔した

「あら、そうなのね
あなたが…ユノさん」

「あ、はい
マダムは今日が初めてのご来店と
伺ってますが」

「ええ、初めてよ
ちょっと人に聞いてね、あなたを指名させてもらおうかって」

マダム・リンの顔がなぜかとても嬉しそうに輝いている

「ありがとうございます
こちらへどうぞ」

マダムご一行様はみな、興味深げに店内を見渡しながら特別なソファへと案内された

数人のホストがそれぞれのマダムについた


マダム・リンがコンソールに置かれたアレンジメントを見つめた

「ステキなお花ね」


ユノはそれを見やって
少しだけ切ない気持ちになった


「はい、マダムに合わせて作らせました」

「とても素敵な方がアレンジしたのではないかしら」


「はい…作った人はとても美しく…」

思わず、そんな言葉がユノの口から出た

「………」


花を見つめるユノの横顔が寂しそうだと
マダム・リンは思った


そんなユノの様子を
チャンミンに見せたいとも思った


マダムがユノを見て微笑む


「あっ、すみません
何を召し上がりますか?」


「ユノさんの言う通りだと思うわ
これは作った人がステキなのよね」

「はぁ…」

「私の大切なお友達が作るお花に似てるわ」

「マダムの?」

「この近くのお花屋さんでね
そこにチャンミンってとてもステキな男の子がいるのよ
彼ならこんなアレンジメントをするわ」


「え?ええっ⁈」

ユノは思わず立ち上がった

マダムご一行様はびっくりして
ユノを見上げ

様子を伺っていた店長が焦って飛んできた

「マダム、ユノがなにか失礼を?」

「なにもないのよ。楽しいわ
ありがとう」

「あ、はい、なにかあれば…仰ってください」

「大丈夫よ、さ、ユノさんは座って」

「いいから、お前は座るんだよ」

ユノは店長に耳打ちをされ、肩を押さえつけられるようにして座った

ヨロヨロとへたり込むように
ユノはソファへ腰掛けた


「あの…チャンミンを…ご存知で?」


「アレンジメントのお教室で一緒なの」

「あ、そう…ですか」

「だから、ユノさん、あなたを指名したのよ。
ちょっとお話がしたくてね」


「えっ?」


マダム・リンはまっすぐにユノを見つめた


「あなたのお気持ちが知りたいの」

「気持ち…?」


「あなた、チャンミンを本気で好き?」


「!」


マダムの直球にユノは卒倒しそうになった


「どうなのかしら。
本気でなくても構わないのよ
人の気持ちは誰かに押し付けられて決めるものではないから」


「………」


ユノの瞳は少し憂いを滲ませて
どこか遠くを見つめるような表情になった


「好きですよ、本気です」


「あら、それはよかった」

「いや、よくないんですよ」

「なぜ?」


ユノは寂しげにフッと微笑んだ


「何か聞いていませんか?」

「聞いてないわ」

ユノが少しだけ驚いたような表情をして
そして、すぐに沈んだような瞳になった

「誰かに話したりしてないのかな」

「どうかしら、チャンミンはいつもと変わらないわ」

「そう…ですか」

「ええ」

「もう、チャンミンの中に
オレの存在なんて、ないんだな…」

「あなたの存在?」

「あ、すみません。
いや、私ですね、チャンミンを傷つけてしまったんですよ。」

「そうなの」

アッサリとマダムは答えた


「えーと…かなり傷つけてしまって」

「謝ればいいじゃない?」

「そうなんですけど、
謝って許されるレベルなのかな」

「謝ってみなければわからないわね」

「怖いですよ」

「?」

「謝って…でもチャンミンに怖い顔して拒否られたら…
なんか、立ち直れないな」

「あら…ユノさんたら」

「結構臆病なんです、へへっ」

「ねぇ、ユノさん
あなたがそこまで本気なら、私が力を貸して差し上げるわ」

「?」

「お付き合いしていただきたいことがあるの」

「なんでしょう?」






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花をあげよう 10




チャンミンは、悲しい日々を送っていた

ユノに会えない毎日

バイトの帰りに、そっとクラブサランの重厚なドアの前に立ってみることもあった

ふと、ユノがこのドアを開けて
出てきてはくれないかと

そんな淡い期待を抱いて…

けれども着飾った女の出入りはあっても
ユノが出てくることはなかった

ユノは店長の言う通り売れっ子になって
今日も上客の相手をして稼いでいるのだろう


深くため息をついて、チャンミンは家路に着く


そんなある日

その日もチャンミンは、アレンジメントのレッスンの帰り、バイトへと急いでいた


店に入って、エプロンをつけると
ふと、店の外にユノの姿を見つけた

チャンミンの胸がときめいた

愛しい、恋い焦がれたその姿

ピシッと少し派手めのスーツを着こなし
髪はほどよく整えられている


ユノは笑顔で自分を見ている

軽く片手を上げて微笑む、カッコよすぎるユノ…


「ユノさん…」

思わず涙がこぼれそうになった

スヨンがユノに気づいた


「チャンミン、まだバイトの時間には少し早いから、
ほら、行って来なさい」

「えっと…でも…僕に用事があるのかどうか…」

「なに言ってるの、
そんなこと関係ないわよ!」

スヨンに背中を押されて
チャンミンはユノのそばに歩いて行った

店から少しはずれた路上


「よお、チャンミン、ひさしぶり」

「おひさしぶりです」

「今、時間ある?」

「少しだけ…」

「コーヒー飲む時間はないかな」

「そこまでは…」


せっかくユノが誘ってくれたけど
忙しくなる店をほっておくわけにはいかない。

チャンミンはつらそうな表情になった

それを優しく見つめるユノが微笑んだ


「店が忙しくなるもんな
ごめん」

「あ、いえ…僕のほうこそ…」

自分を思いやってくれたことが
チャンミンは嬉しかった

ユノは花屋の裏口の方にチャンミンを誘った


「立ち話でなんだけどさ」

「はい?」

「率直に聞いていいか?」


キョトンとしたチャンミンの表情かたまらなく可愛い

ユノはチャンミンに一歩詰め寄った


目の前にユノの整った顔が近づいてきて
チャンミンに緊張が走る


「なっ…なんでしょう?」

「あのさ」

「………は、はい」

「話は聞いたよ」

「え?話?」

「ぶっちゃけ、チャンミンはどっち?」

「え?どっちって?」


ユノが妖艶に、そして自信たっぷりな様子で微笑む


「抱かれる方?それとも抱く方?」

「は?!…な、な、なにを…」


チャンミンは思わず後ずさりをした…

ユノはお構いなく、チャンミンに詰め寄る

怯えるチャンミンもたまらなく可愛い


なにも心配することない
そのままのチャンミンでいいんだ


そう言えばよかったのに

そんな気持ちを…なぜあんな言葉で
表してしまったのだろう


ユノはチャンミンの耳に顔を近づけて
そっと呟いた


「抱かれる方が好きだと見たけど
ちがった?もしよかったら…」


言い終わるかどうかという
その絶妙なタイミングで


ユノの頬に強烈な熱が走った


キーーンという音が頭の中でこだまする


自分がチャンミンに平手打ちを喰らったとわかるまで、
ユノは少し時間を要した


「いっ…てぇ…」

ユノがやっと顔を上げると

そこには


眉を八の字に歪ませ
その大きな瞳からポロポロと涙を流す
チャンミンの姿があった

「あ……」

しまった!とユノは一瞬にして後悔したけれど、
時すでに遅く


チャンミンの頬にとめどなく
涙が溢れては顎に向かって流れていく


ユノは慌てた


「あの…さ…えっと…」

「僕は…」

「え?」

チャンミンがギュッと目を瞑ると
涙がブワッと溢れる


「僕は…あなたと…少しずつ」

「………」


そこからは、チャンミンは何も言えなかった


望んでいたのは
こんなことじゃない


チャンミンの閉じた瞼に
子犬を優しく見つめるユノの姿が浮かぶ


頼もしく美しい笑顔

きれいなユノ…


少し分かり合えたことが
少し近づけたことが

チャンミンは嬉しかった

何も望まなかった


このまま、兄弟のような関係で
もし、僕といることで少しでもあなたの
癒しになれたら…それで


それなのに


「僕は…あなたと少しずつ…
仲良くなれたらって…」

「あ……」

「僕のなにを…誰から聞いたのか知りませんけれど…」


大きくて透き通ったなみだが
チャンミンの目からそのまま地面に落ちた


「チャンミン…」

「僕は……そんなつもりじゃ…」

エプロンの裾をギュッと握りしめて
泣いているチャンミン


ユノの心に後悔の念が怒涛のように
押し寄せてきた

そうだった

チャンミンの心の扉を
こんなエゲツない言葉で開けようとした自分がバカだ

少し考えればわかることだったのに


「俺さ…」

けれど言葉が続かない
なんと言っていいのかわからない

なにか言い訳をしたかった

ユノは狼狽えた

そのうち、チャンミンはくるりと後ろを向くと、
裏口から店の中へ入ってしまった


「あ!チャンミン!ちょっと!」

ユノが花屋の裏口ドアを開けようとすると
不意に先にドアが開き

店長のスヨンが怖い顔で出てきた


「ちょっとユノさん」

「は、はい…」

「チャンミンを泣かせたの?」

「えっと…」

「あの子はね、とても真面目で繊細なの
まっすぐで純粋な子よ」


わかっている
チャンミンはまっすぐで純粋で

そして、とても可愛い


「あの子の心を弄ぶようなことしたら
私が許さないわよ」

「いや、そういうわけじや…」

「じゃあ、なんでチャンミンは泣いているの」

「オレもその…オトコは大丈夫ってことを…その…伝えたら安心するかと」

「は?」

スヨンは驚いて目を見開いた
そして、その表情はすぐに軽蔑へと変わった。

「付き合ってるわけ?チャンミンと」

「いや、そうじゃないけど」

「なんでそっちの話が先なのよ」

「は?」

「なんで、そっちの話からするのか?って聞いてるの。
まずチャンミンと心を寄せたら?
なにが大丈夫なんだか知らないけど、それはその後の話でしょう?」

たしかに…
たしかにそうだ


「あーえっと」

「あの子をそれだけの目的で
遊んだりしたら、ほんとに許さないから」

「ちょっ!そんなわけない!」

言い訳をしようとするユノに構わず
スヨンは花屋の勝手口をピシャリと閉めた


ユノは勝手口の前で呆然と立ち尽くした


すべて…台無しにしてしまった


ユノは頭を抱えた


なにも心配することないんだと

そのままオレの胸に飛び込んできてくれていいんだと

そう言ってやりたかったんだ


ただ、どっちのタイプなのか…それは、その
これから大事なことだから…

だけど

まずはチャンミンの気持ちだ

自分がチャンミンを好きなことを
まずは伝えるべきだった

身体を繋げる話はそれからだ
いや、しなくていい話だ


自分はちょっと売れっ子になって
勘違いをしてるのかもしれない

自分の考えることは
すべて成功するのだと勘違いをしていたのかも


もう取り返しがつかない


ただでさえ、繊細なチャンミンを
傷つけてしまった


ユノはゆっくりと名残惜しそうに花屋を離れた


少し歩くと、あの子犬の張り紙があった
元居酒屋の前を通った

張り紙はとうに剥がされて
その跡だけが残っている

あの日


子犬を手離したオレを優しく抱きしめてくれたチャンミン

大胆だなんだと、オレはなんてエゲツないことを
思ったんだろう


あのときチャンミンは
寂しいのを我慢するオレを
思いやって抱きしめてくれたのに

あんなに泣かせたオレは
世界一のバカ男だ


自分にいろいろ問いかけてみれば

抱く、抱かないなんて
そんなに大事なことじゃない

チャンミンはそんな風に思ってなかったのかもしれない

オレに対して、ほんとうにヒョンとしての感情で
慕っていてくれたのかもしれない

それをオレは…

チャンミンが人に見せたくないものを
無理やり引きずり出して

傷つけた


ユノの全身を、後悔という名のオーラが包み込む


それはユノの心の奥にまで入り込み
蒸気されることはなかった








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