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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

素直になって 完




「チャンミン、今夜あたしたちと飲みに行かない?」

金曜の夕方
仕事の目処もつき始めた時間

同期の女子たちが僕のデスクにやってきた

「あ、せっかく誘ってもらったのに悪いけど、
用事があるんだ」

「今週も?」

「うん、ごめんね」

「彼女いないって聞いたけど」

女子たちが半分ムッとしながら
口を尖らせる

「うん、いないけど…」

「だったら、たまにはいいじゃないのー」

「うーん、ほんとにごめん」

僕は手を合わせて、片目を瞑ってみせる

こうすると、女子たちは「仕方ない」という顔になることを最近学んだ


「今度一度でいいから、行こうね?」

「うんうん」


そこへ、システム部のリーダーが来た

ユノ先輩の同僚で、結局は僕がファイルを隠した件を
もみ消してくれた人だ


「お疲れ様です」

「うん、お疲れ」

リーダーはなかなか僕の席から立ち去らず
何か言いたそうだ

「?」

「なあ、シム・チャンミン、飲みに行かないのか?
あんなに女子たちが熱くお願いしてるのに」

「…ええ、用事があって」

「最近、シム・チャンミンがカッコいいって
話題なんだよ。親しみやすくなったってね」

「それは有難いですね」

この人は、僕とユノ先輩のことを
絶対に感づいてる


「あのさ」

リーダーが僕に顔を近づけてそっとささやく


「ユノがうるさいのか?」

「え?えーと、そういうワケでもないんですけど」

「あいつメンドくさいだろ」

「どうですかねぇ」

「だけどね、チャンミン」

「はい」

「ユノがヤキモチやくとか、束縛とか
そういうのは今まで無かったことだからな」

「えっ?!」

僕は思わず、仕事の手を止めた

「そんなに驚くところを見ると
とんでもなさそうだな、ユノは」

「え、いや、えっと」

「束縛とかしてくれないから、オンナが去るっていうのが、今までのパターンだった」

「あーそうなんですか…」

「チャンミン、あいつ鈍感でメンドくさいけど
頼むな?」

「頼むって…僕は…」

「なんだかんだ言っても
メチャクチャいいヤツだから」

「あ……」

「な?」

「はい」

僕は微笑まずにはいられなかった


リーダーが立ち去ると


背中に刺さるような視線を感じて
血が出ているんじゃないかと思うほどだ


そっと振り向くと

ユノ先輩が鬼の形相で僕を睨んでいる

わかりやすすぎる

まわりの同僚や先輩たちにも
その分かりやすさで少しずつバレはじめているというのに

ユノ先輩は、怒ったように席を立ち
オフィスを出て行く

僕は慌ててそれを追いかけた
きっと、追いかけてこい、という合図なのだと思う

ユノ先輩は長いストライドで廊下をどんどん歩いて行き

社員が使用する食堂へ入っていった

時間的にもガラガラの食堂で
先輩はセルフのコーヒーコーナーへ歩いて行く

ポケットから小銭を出すと
紙コップを取り、マシンの中に置いて
コーヒーのボタンを押す

やっと追いついた僕は
マシンの横にたって、少し息を整えた

「先輩、歩くの速いよ」

「脚が長いんだから、仕方ないだろ」

「そうは言ってもさ」

先輩はコーヒーで満たされた紙コップをそっと取り出して、台に置いた

「お前も…飲むか」

「いただきます!」

「……」

先輩はもうひとつ紙コップをとって
小銭をマシンに入れた

「なに、お前、今夜飲みに行くの」

「行きません」

「たまには行ったらいいのに
毎週ああやって誘いに来るんだから」

「だって、僕には大事な用事があるから」

そう言って、とりあえず満面の笑みをみせる


「ふん」

「先輩、やきもち?」

「そんなわけない」

「素直になってください」

「だから、そんなわけないって」

僕は先輩の顔を真剣に見つめる

「………」


「やきもち焼いてくれたら
僕、うれしいのに」

「…なんだ、それ」

先輩はコーヒーを一気に飲み干した

熱いだろうに

「ヤケドしますよ、そんな」

「するかよ」

「先輩」

「………」

「素直になってください」

「………」


先輩はフーッとため息をついた

そして、僕を優しく見つめた


「はい、ヤキモチ妬いてます
盛大に妬いてます」


その言い方に僕は思わず吹き出した

「なんだよ、素直に言ったよ」

「はい、僕も素直に言いますね
先輩がヤキモチ妬いてくれて、盛大にうれしいです」

「もっと素直に言えば
お前が少しでも他の誰かと口をきくだけで
ヤキモチやいてます」

「それは、もっと嬉しいです」


先輩が優しく微笑む


「誰とも話したりしないお前を
先輩として少しは心配していたのに」

「それはね、今は先輩としてじゃないからでしょう?」

「そうだ、わかるか?」

「フフフ…わかります」

「お前はヤキモチ妬かないじゃないか」

「そんなことないですけど…」

「けど、なんだ?」

僕は笑みがこらえきれない

「僕は、先輩が僕に向いてくれただけで
今はお腹がいっぱいなんです」

「チャンミン…」

「なんかもうそれだけで…幸せすぎて」

「………」

ニヤニヤと笑みが止まらない

僕は本当に幸せで


「俺は…今、もうすこし素直になろうかと思う」

「?」

先輩は僕の頬に軽く触れると
そっと唇を寄せてきた


会社では絶対にキスしたり
身体にはふれないと

自分で自戒していた先輩なのに

けれど、僕も素直になって
その唇を受け止めた



今まで張り巡らしていた僕の城壁は
僕の何を守ってくれたのだろう


まるで孤高の塀の中いた僕を

あなたがその城壁を壊して救いに来てくれたような気がする

だけど、よく考えたら
それは少し違って

あなたに惹かれて

僕が自分で城壁を壊して出てきたのかもしれない

大好きなあなたと触れ合いたくて
恐る恐る出てきたんです

自分の気持ちを伝えるには
カッコなんかつけてたら全然ダメで

今までの自分を覆さなきゃならなかった


でも

こうやって、大好きなあなたに体当たりすることで

今、こんな風に唇を合わせているなんて


僕は幸せです


食堂を掃除をするために
大きなカートを押して、清掃業者のおばさんが入ってきた

慌てて唇を離した僕たちはお互いにニヤリと笑った


そして、先輩はその場を離れると
厨房の裏から、電源コードを巻いたローラーを持ってきて、おばさんのカートのところに持ってきた

「あら、いつも済まないわねぇ」

「いいんだよ、これ重いから」


そして、なんでもないように僕のところへ戻ってくるあなた

「さ、オフィスに戻るか」

「はいっ!」


キスの続きは、また今夜…


転職はどうなったかって?

もちろん破棄しましたよ


ユノ先輩って、こうやって誰にでも優しいじゃないですか?

優しくされた人が勘違いしないかどうか
監視していないとです

まだ先輩は気づいてないだろうけど

ヤキモチ妬きは…僕も相当なものです



金曜の夜はみんなが少しだけ浮かれて仕事を終える

僕は今週も

会社のエントランスで先輩を待ちます

仕事を終えてエレベーターから降りてくるあなたは

僕を見つけてとても嬉しそうな顔をしてくれる

僕も精一杯の笑顔であなたを迎える


これからも、一緒に歩いて行こうね


僕はあなたにだけは、素直になるからね


「どこ行く?」

「あの居酒屋がいい。もちろん個室」


優しいあなたの笑顔がほんとに大好き

これからもずっと…一緒にいてください





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こんばんは、百海です。
今夜、いろいろとありまして
最終回だというのに、定時にアップできず
本当に申し訳ありませんでした

今回は短編で、特に大きな事件も起こらず
シャイで捻くれ者のチャンミンと
カッコいいけど鈍感なユノ先輩

そんな2人が結ばれるまでの
ちょっとしたエピソード、というお話でした

いつもと違う感じだと感想もいただきました
私もそう思いました笑笑

でも、描いている時はとてもハッピーで
こういう可愛いお話もいいな、と思いました

またお話を書き上げたら、アップしますので
お暇なときに遊びにきてくださいね

いつも拙いお話を読んでくださって
ありがとうございます

気温の上下が激しい季節ですね
風邪も流行ってるようですので
みなさま、ご自愛くださいね


素直になって 13



***チャンミンside***


ユノ先輩が

いわゆるノンケであるユノ先輩が

僕をそういう対象として考えにくいことは
今までの経験でよくわかっていた

それでも、先輩はどうにか僕を受け入れようと
悩んでいるのが手に取るようにわかって

僕はそんなあなたが、ますます大好きになってしまうんです

そして、とても悲しくなってしまうんです

僕は遠くであなたを見ているだけでいいとか
先輩と後輩ということで、少しは楽しく付き合いたいとか

かつて望んだそんな関係では我慢できなくなり
ついには抱いて欲しいなんて言ってしまい

今までカッコつけて、意地を張ってた反動なのか

もう貪欲でこれでもかこれでもかと
あなたをあからさまに欲してしまった

素直になるということは
時に相手を困らせることもあるけれど

自分自身も傷ついてしまう

それをよくわかっていたはずなのに

もう止まらなかった

だけど、軽く玉砕ムードになってしまい
僕は退散するしかなかった

やはり、あなたを諦めなくてはならないと
自分に言い聞かせ

ひとりで流せるだけの涙を流そうと
それこそ子供のように泣いた

なのに、あなたは
そんな僕を救いに来た

どこまであなたは優しいのだろう

こんな僕、無理ならほおっておけばいいのに
結局は見捨てられずに救おうとする


それならば

それに報いるため、僕は決心した

僕と今後どうなろうとも
少なくとも今夜は絶対にイかせてあげる

僕はできる限りのコトをしてあげて
精一杯の愛をあなたに

会社を辞める手筈になっていることが
僕を後押ししたとも言えた

僕にとっては忘れられない思い出に
あなたにとっても、こういうこともあったな、
と、それくらいには思い出してもらえるように


それでも、裸になったあなたがあまりに素敵で
僕はまた泣いてしまった

しっかりと筋肉のついた身体
厚い肩と胸
首筋から鎖骨にかけてのため息がでるようなライン

柔らかく強い筋肉のついた太い腕

思わずその肩に触れるととても温かくて
そのまま隆起した胸へと指を滑らすと

あなたは強く僕を抱きしめてくれた


大好き

ユノ先輩…大好き

僕のそんな気持ちを
あなたに伝えようとあらゆる手段を使った

僕の唇と舌と指は、そんな気持ちを雄弁に語ってくれているだろうか

もう夢中で、こんな風にあなたに触れられることがうれしすぎて、自分にばかり集中してしまった

ふと気づくと、あなたは荒い息遣いに肩を上下させていた

まさか、ユノ先輩…

もしかして悦んでくれていますか?


「……チャンミン…オレ…もうダメ…」

え?

「お前を抱きたい…頼む…」

先輩…そんな…嬉しい…


先輩のその綺麗な手が
僕の後頭部に触れて引き寄せられる

その時、僕の太ももにあなたのソレが触れた

あ…

すっかりと臨戦態勢になっているそれ…

僕は涙で滲んでそれが霞んで見えなくなりそうだった


「お前…ずっと俺のこと…こんなに好きでいてくれて
俺、たまらないよ…」

「好きです…ずっと」

「恥ずかしかったんだろ…可愛いよ…ほんとに」

もう…

僕はあなたの事が好き過ぎて
どうしたらいいんですか

「抱かせて…抱きたい…」

先輩は僕を引き寄せようとして
それでもどうしていいかわからないようだった

「そのまま、じっとしていてください」


僕はあなたを僕へと導いた

先輩がアゴをあげて快感を堪えるように
苦しそうな表情をする

なんて綺麗な人なんだろう

僕の中に、想像以上に強さを持ったあなたが…
僕は…悦びに奥歯を食いしばって耐えた

死んでもいい

僕の人生が必ずいつか終わるなら
今この時がいい

ユノ先輩…

愛してます




***ユノside***


チャンミンは一生懸命だった

あまりに一生懸命でその姿がいじらしくて

なんだか切なくなってきた


今まで…照れ臭くて恥ずかしくて
俺にシラケた態度をとっていたなんて

あのつまらなそうな顔で俺の側に来るチャンミンを
思い出すと、可愛くてたまらない

なんてピュアなんだ

こんな存在…愛さずにはいられない


それに…

少し恐れていたその行為が

あまりに良すぎて…俺は…まさに失神してしまいそうだった

的確なリズムを持って襲ってくる快感と
チャンミンの息遣い

その大きな瞳が快感に蕩けそうになる姿は
視覚的にも俺の腰にダイレクトにきた

甘い声が俺の耳をくすぐる

男の身体だからといってなんの支障もない
萎えるどころか…煽られる一方だ
もう…たまらない

チャンミンがきちんと快感を感じているのが見てとれて
俺は嬉しくさえあった

ひとつになりたい

こんなに可愛いチャンミンと
ひとつになりたい

自然に…そう思えた


もう…離さない…

愛してるよ…チャンミン…


********


俺の目の前に

スースーと寝息をたてて眠るチャンミンがいる

半開きになった少し厚い唇を見ていると
またムラムラとしてきそうだ

どうしていいかわからないなんて言っていた俺を
どうか笑ってやってくれ

結局何回シてしまったんだろう

チャンミンにかなりの負担を強いてしまったのではないだろうか

もう、グッタリしてるじゃないか

俺はチャンミンの瞼にかかる前髪を
そっと指で払ってやる

こんなことしていると

また抱いてしまいそうで
今、そんな欲望をなんとか押さえている

今まで女にここまでの気持ちを抱いたことがない

目の前にいるこの可愛い存在は
服で着飾ることもしなければ、メイクで自分を良く見せようなんて気もない

素のままで…
ありのままで可愛い存在なのだ

良く見せようとするどころか
つっけんどんにしてしまうなんて

ピュアすぎて泣きそうだ

チャンミン…


ふと、チャンミンの長い睫毛がピクっと動いたかと思うと、微かにその大きな瞳が薄っすらと開いた

俺の心が幸せで満たされる


「起きたか?」

「ん…」

チャンミンがぼんやりと俺を見る

そして、柔らかく微笑んだ

幸せか?
俺も…メチャクチャ幸せだ


なんて…可愛いんだろう
ほかにチャンミンを表現するうまい言葉がないだろうか

「先輩、起きてた?」

「うん」

伸びをするようにして、
チャンミンが俺の首に腕を巻きつけてきた

「も1回する?」

「えっ?」

俺は半身を起こした

「いいのか?」

チャンミンがニヤーっと笑う

「いいですよ」


俺はすごい勢いで布団をかぶり直した


今日が休みでよかった




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こんばんは、百海です
鍵かけなくてすみません(^◇^;)

明日が最終回になります

素直になって 12


***ユノside***


暗闇の公園のベンチで

子供のようにしゃくりあげて泣いているのは
紛れもなくチャンミンだった


ああ…

チャンミン


その姿を見たとき

俺は会社を出てから、今この時までを
猛烈に後悔した


こんなに傷つけてしまった…
さっきは平気そうにしていたのに

我慢してたのか…

ごめん…俺…


俺はたまらなくなって感情のままに駆け寄り
ベンチのチャンミンを抱きすくめた

俺に引っ張り上げられて、抱き込まれて驚いたのか
ピタッと泣き声は止み

俺の腕の中でチャンミンは固まっていた


「ごめん、ほんとにごめん!」

俺はチャンミンを搔き抱いた

なんの解決にもならないけれど
とにかくチャンミンを悲しませたくない
離れたくない

「離れたくないんだ、それは本当なんだよ」

「………」

「泣かないで…な?」

「すみませんけど…」

チャンミンが小さな声でつぶやいた

「ん?なに?」

「すみませんけど…ひとりにしてください
もう、帰って」

「だって…」

こんなに泣きじゃくって
ひとりになんかさせられるか

チャンミンはグスンと鼻を鳴らすと

俺の腕から出ようともがきだした
俺は離すまいと余計に抱きすくめた

暴れるチャンミンの涙が俺の頬に飛ぶ

いじらしくて
愛おしくて

俺はかなりの力で抱きしめた

そのうち諦めたのか

俺の胸でチャンミンがおとなしくなった

そしてまたクスンクスンと泣き出した

ああ

「ごめんな…」

「うっ…えっ…」

「やり直そうって言ったのにな」

「いいんです…わかってましたから」

「………」

「僕が…望みすぎたんです…うっ…」

「………」

「もうすこし…うっ…こうしていて…いいですか」

「チャンミン…」

俺はチャンミンを強く抱きしめた

そして

俺は決心をした


「うっ…えっ…」

「あのさ…」

「うっ…ひっく…」

「俺さ」

「……うっ…え?」

「お前を抱くから」

「……?」

俺はチャンミンの肩を掴んで
真正面からその泣き顔を見つめた


「抱いてやるから、もう泣くな」


チャンミンの目が大きく見開かれた

「なに…言ってるんで…す?」

「ダメか?」

チャンミンが俺から離れた

「いや、ダメとかそういうんじゃなくて…
あの…無理しないでください…」

「だってさ…」

「あの…自分に素直になってください
心のどこかで僕を無理だと思っているのに
そういうシチュエーションになるのは
ある意味…残酷です…」

「…抱いてみたい…そうしないと俺もどうしていいかわからないんだよ」

「ユノ先輩…」

「頼む…俺にチャンスをくれ…」

「………」


チャンミンが大きな瞳で
俺を見つめている

涙の跡を頬に残して
本当に可愛くて、これなら絶対に抱けるなどと
思ってしまう

やがて、チャンミンが真顔になった


「わかりました」

「…チャンミン」

「僕の部屋で…いいですか?」

「あ、ああ、うん」

「……」


チャンミンは俺の手に自分の手を絡ませて
スタスタと公園を出て行く

俺はチャンミンの手をギュッと握り返して
後について歩いた


ずっと無言のチャンミン

なにか…話してくれ…


チャンミンは
大通りに出てタクシーを拾った


車内でも、チャンミンは無言だった

ああ、俺、どうなるんだろう

なんだか緊張してきた


15分ほどして、こぎれいなアパートについた

1階の奥の部屋がチャンミンの住まいのようだ


「どうぞ」

そう案内されて、部屋に入ると
その綺麗な状態に驚いた

こじんまりとした、決して広くはない1LDK

整理整頓がきちんとされて
無駄なものが何も出ていない

「人を呼ばなくてもいつもこんな綺麗なのか」

チャンミンは手洗いうがいをしに
洗面所にいるようだ

「掃除は週末しかできませんけど
まだ就職で越してきたばかりなので、物が少ないんです」

「それにしたって…
俺の部屋とは大違いだ…」

俺は服やコンビニ弁当の容器でカオスになっている
自分の部屋を思い出した


「なにか…飲みますか?」

「え?うーん…」

「コーヒー淹れます」

「あ、じゃ頂こうかな…」

「そのソファに座っててください」

「うん」

「スーツの上着はハンガーに」

「あー、あ、うん」

チャンミンはベッドのある奥の部屋に入ると
ジャージに着替えてきた

やがてコーヒーのいい香りがしてきて
ソファのテーブルにふたつのマグカップが置かれた

「ありがとな」

俺たちのコーヒーをすする音だけが
室内に響く

だんだん緊張が蘇ってきた

コーヒーも飲み終わり
チャンミンが小さくため息をついた

そして、顔を上げた


「先輩」

「…は、はい」

「夢中にさせます、とは言えないけど」

「え?」

「そこまでは自信ないけど…あの…
後悔はさせないようにします」

「あ、あーはい」


なんだか、マヌケ過ぎる俺!


「あの…いろいろと準備が必要なんで」

「そ、そうなの?」

「はい、先にシャワー浴びてもらっていいですか?」

「俺が?」

「…あ、僕が後からシャワーで準備をしないといけないんで」

「なんの?」

「えっと…あの…まあ、そこは聞かないでもらえます?」

「あ、うん…わかった」

よくワケがわからないまま、俺はタオルと着替えを渡されて、シャワー室に放り込まれた

とりあえず、身体を洗おう
念入りにしたほうがいいよな

シャワーから出てくると、
すかさずチャンミンが洗面所に入ってきた

「あ、一緒にシャワーする感じ?」

「そんなワケないでしょ?」

「???」

俺は洗面所からも追い出され
とりあえず、ソファに戻った


チャンミンのシャワーは長かった

それでも俺は緊張から眠くなることはなく
じっとソファに座っていた


貸してくれた着替えのジャージとTシャツは
俺でも少し大きいサイズで

チャンミンが普段着ているものではないことは
明らかだ

元カレとかの服かな…

そう思うと何か嫉妬心が沸き起こる
ワケのわからない俺だった

やがて、チャンミンがシャワーから出てきた

Tシャツにジャージ姿の俺たち

まるで色気もなにもない感じだけれど

チャンミンは少し恥ずかしそうに俯いた

いよいよ…はじまるのか…

緊張が走る俺


「先輩…ベッドへ…いいですか?」

「あ、うん」

チャンミンは俺の手をとると
奥の寝室に入った

ベッドと小さなサイドテーブルしかない
シンプルな落ち着いた部屋

チャンミンは俺をベッドへ座らせると
サイドテーブルの灯りだけを付けにいく

そして、俺の隣に腰かけた


ぼんやりとした灯りに
チャンミンがとても綺麗だ

少し俯いて、少し微笑んでいる


「僕…まさか、こんな日が来るとは思いませんでした」

「………俺も」

「フフ…そうですよね、すみません」

「謝ることない…」

「ほんとに…ありがとうございます」

「俺のこと…いつから好きでいてくれたんだ?」

仄かな灯りに、俺を見つめるチャンミンの瞳が
キラキラと光る


「研修の挨拶のときに
もう先輩の事が好きになっていました」

あんなに早い時期に…

「あなたは明るくて、ほんとに爽やかで」

「………」


あの頃

お前はみんなの輪から離れて
いつも面白くなさそうな顔をしていたな…


「先輩のまわりにはいつも人がたくさんいて
全然近づけなかった…」

「そうだったのか…俺…」

「先輩は僕に気をつかってくれましたよ」

「そうかな…」

「もっと気をつかってもらいたくて
トレッキングなんかに…僕…」


ああ、みんなが驚いていた

お前がトレッキングに参加したから

それって俺に構ってほしくて?


あの時の、唇をへの字に曲げて
つまらなそうに参加していた姿を思い出す

いじらしい…


「ユノ先輩が思っているより
僕はずっと、先輩の事が大好きなんです」

少し思いつめたように
チャンミンは唇を噛み締めた


チャンミンをいい加減に扱ってはいけない

俺はそう思った

やがて

チャンミンは自分のTシャツを脱いだ

白い肌が柔らかい灯りに照らされて
俺は息を飲んだ

肩には丸く筋肉がつき
腕だってきちんと男のそれなのに

可愛い顔から細く長い首を通るうなじの線が

あまりに色っぽかった

俺はそのうなじにそっと触れると
チャンミンはビクッとしてまた俯いた

俺は、自分でTシャツを脱いだ

チャンミンが俺の上半身を見て、なぜか泣きそうな顔をしている

チャンミンの手が震えながら俺の肩に触れて
そっとその指が俺の胸へ降りてくる

そうして、チャンミンは本当に泣いていた


そのまま、俺たちは抱き合った





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素直になって 11


***ユノside***


チャンミンとまたあの店に行くことになった

やり直そう、と思った

あの時、チャンミンは俺を好きで
それをうまく表せずあんな態度だったのだ

可愛い弟分だと思っていたけれど

今はそうは思えない

女に対する気持ちとも違うけれど
可愛い弟ではない

その笑顔にドキドキしたり

抱きしめたり、くちづけしたり
今や、そんなことをしたい対象だ

俺はいつから男にそんな感情を抱くようになったのか

いや、チャンミンが初めてだ
それだけは言える


仕事が終わって、エントランスに行くと

チャンミンがスーツにリュックを背負った姿で
柱のところで立っていた

真面目にお行儀よく待っている姿が
とてもいじらしくて、また抱きしめたりしたくなる

近づく俺を少し恥ずかしそうにして見つめる

そして、ペコリと軽く頭を下げた


自分がどれだけ可愛いか
わかっているのだろうか…


「行くか?」

ぶっきら棒に声をかける俺

「あ、はい」


なんだか、上手く話せない

チャンミンを可愛いと思う自分を
どうにも認められなくて、照れ臭くて

俺は笑顔になれずにいた


店に着くと、女将がいつものように迎えてくれていた

「なぁ、個室いいかな」

「個室?いいわよ、ユノさんから言うなんて珍しいわね」

女将は俺とチャンミンの顔を見比べながら言う

バレてるだろうか、俺の気持ち
俺たちの関係…

え?俺たちの関係ってなんだ?


女将は深く詮索せずに
さっさと個室に案内してくれた

殺風景な場所だけれど
妙に落ち着く部屋なのだ

どちらからともなく、向かいの席に座って
手持ち無沙汰で少し困った

チャンミンはもじもじと恥ずかしそうで
その緊張感が伝わってくる

恥ずかしそうだけれど、どこか嬉しそうだ


新入社員の研修の頃とは大違いで
まるで別人だ


そんなチャンミンにどんどん惹かれている

けれど、正直そんな自分が少し怖かった


チャンミンとは女と付き合うのと同じように付き合うのだろうか


正直自信がなかった
というか、どうしていいかわからなかった


「あの…何飲む?」

やっと言葉を発した俺

「ビールがいいです」

「うん」

俺は、小さな手元のブザーを押して女将を呼んだ

「ビールふたつね、あと適当におつまみ頼む」

「はーい」

女将は俺たちの顔を交互に見ながら
部屋を出ていった

バレただろうか

だから、バレるって何を?


チャンミンを前に自問自答を続ける俺


俺たちは何も会話をしないまま、ビールが運ばれてきた


「とりあえず、乾杯しよう」

「何に…ですか?」

「え?」

「何に乾杯ですか?」

期待に満ちたバンビアイがキラキラしている


可愛い…改めて思う

それなのに

「何にって、特に乾杯に何ってことないよ」

俺のその一言に
チャンミンの顔が一気に翳った

ヤバイ

その表情からは期待の色が消えて
驚きとそして絶望に青ざめた表情に変わった


まずい…


「わかりました、それじゃお疲れ様です」

笑顔の消えたチャンミンは
俺のジョッキに自分のジョッキをカツンとあてて
一気にビールを飲み干した

「あ…チャンミン…」


飲み干したチャンミンは
はぁーっと大きくため息をついた

すごいな…これを一気飲みするなんて

チャンミンはガチンと大きな音を立てて
ジョッキをテーブルに置いた


「言わせてもらっていいですか?ユノ先輩」

「は、はい」

心なしか、チャンミンの顔が怖い


「キスしたことを謝らないとか」

「あ…」

「あんなこと言われた後に、こういう雰囲気は
残酷です」

「残酷?」

「僕の気持ちはご存知でしょう?」

「あ、う、うん…」

「ユノ先輩は…僕を好きですか?」

直球だ…

「す、好きだよ、うん、
だから俺はキスしたんだ」

「僕とこれからどうしたいですか?」

「………」

気まずい沈黙が流れる

「………」

チャンミンは下を向いたまま、俺の顔を見ようとはしない

「あ、あのさ…」

「………」

「その…俺…男を好きになるとか初めてで」

「………」

「だけど…なんていうか…
女を好きになるのとは違うっていうか…」

「………」

「正直、俺、どうしていいかわからないんだ」

「………」

「俺…どうすりゃいい?」

「僕に…それを聞くんですか」

「だってさ…」


このまま、何をしていいかわからないまま怒ったような態度をとるより
正直な気持ちを言ったほうがいいと思った


しばらく考えていたチャンミンは口を開いた


「僕の気持ちを言わせて貰えば」

「うん…」

「僕はユノ先輩とつきあいたいです。」

「それって…デートとか?」

「はい、ご飯食べに行ったり、そうですね
映画を観たりとか…旅行なんかも行けたらいいです」

「うん、俺もそういうこと、お前としたいな」

「だけど…」

「だけど?」

「僕は…」

「……」

「そのうち、キスじゃ物足りなくなります
絶対に物足りない」

「え…」

「先輩に…抱いて欲しくなります」

「だっ…え?」

「今もそう思っています」

「………」

「先輩、あなたと同じ体の僕を…
抱くことができますか?」

「………」

俺は…焦った

抱けるかと言われたら、自信がない

だって

俺と同じ男の身体…

あ、抱けるかな?
わからない!

けれど、抱けないと言ったら
ここで終わりだ

それは…いやだ


「えっと…」

言葉を選ばなきゃ

えっと…


俺の頭の中をいろんな言葉がぐるぐる巡る
言い訳やら、チャンミンを可愛いと思う気持ちやら

そのうち、チャンミンのクスクス笑う声が聞こえてきた

なんだよ


「……なんで…笑う?」

「フフフ…すみません…」

「………」


笑われて悔しいけれど
今の俺にはそれを咎める権利などない


「先輩」

「なんだ」

「意地悪な質問してごめんなさい」

「意地悪?」

「わかってますよ、大丈夫」

「なにが?」

「ユノ先輩」

チャンミンが晴れ晴れしい顔で
俺を真っ直ぐに見つめた

その表情はなぜか吹っ切れたように明るい


「僕たち、これからつきあいましょう」

「あ…うん…」

「良き先輩と後輩として」

「え?」

チャンミンがニッコリと微笑む

「ユノ先輩…無理しないで」

「無理って…」

「男と付き合うなんて、そんな簡単なことじゃないです。
僕を少しでもいいと思ってくれて、キスしたいと思ってくれて、それだけでうれしいです」

チャンミンは微笑みながら、俯いた

チャンミン…


「僕は…」

「……」

「ユノ先輩のおかげで…
はじめて自分をさらけ出せた気がします」

「……俺のおかげ、なんてことない
お前は元々、純粋で素直なヤツなんだよ」

「感謝してます…」

「あ、お前…まさか、まだ転職なんてこと」

「来週、最終面接です。
もうカタチだけで、意思確認って感じです」

「まだ、辞めるつもりなのか?」

「そのほうが…いいと思います…お互いに」

「なんでだよ…」

ああ、俺は何を言ってるんだ


チャンミンの期待に応えられないクセに
俺から離れようとすると引き留めたり
自分勝手なことばかり言ってる

だけど…

俺は、小さな個室の古びた木のテーブルに
両肘をついて頭を抱えた

「チャンミン…俺…お前と離れるのはイヤなんだ」

「………」

チャンミンの小さなため息が聞こえた

「僕は…先輩の側にいるのは…つらいです」

そりゃ…そうだよな

「先輩、自分を責めないで
先輩はなにも悪くない…僕が…ワガママなんです」

「ワガママはどう考えても俺だろ」

「悩ませてごめんなさい。
先輩の反応は…いたって普通です。
みんな…そうです」

「みんなって?」

「あ…」

「みんなって誰のこと?」

「えと…僕が好きになった人…ほとんど」

あまりに勝手な自分を殴りたいけど
正直、見知らぬそいつらに…嫉妬している自分がいる

ほとんどって…

「少しは…お前の期待に応えてくれたヤツがいたってこと?」

「そりゃ…少しは…」

「抱いたの?お前を」

「……まあ、そう…です」

「……」

「僕を…抱けないからって…自分を責めないでください
ほんとうにごめんなさい」

チャンミンが席を立った

「今日は僕に会計させてくださいね」

「…バカ言え、いいよそんなの」

「……いい夢見させてもらったんで」

「支払ったら殺す」

「………」

「………」

「じゃあ…ごちそうさまでした…」

チャンミンはぺこりと頭を下げて
個室を出て行った

俺はしばらく、座ったままじっとしていた

今日、会社のエントランスで
俺を待っていたチャンミンを思い出していた

リュックの肩紐をしっかり掴んで
きちんと立っていた

俺を見つけた時の、恥ずかしそうな可愛い笑顔

俺を待っていてくれたんだ

この店からやり直そうって

俺が言ったから

お前は期待したんだよな
何かいいつきあいがはじまるって

そりゃそうだ
俺からキスしたんだから

それなのに…

こんなのよくない…


俺は急いで会計を済ませて
外へ出た

もうチャンミンは電車に乗ってしまっただろうか
駅で待ち受けるか

俺は駅に向かう道を走った

住宅街を抜けたほうが早い

そう思って、子供が遊ぶ公園を抜けていこうとした

その時

暗闇の公園のベンチに人影が見えた

もしかしてチャンミン?

そっと近づいてみた


真っ暗闇のベンチで
チャンミンが1人座って

しゃくりあげて大泣きしていた





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素直になって 10




もういい加減に
歪んだこの僕の気持ちを解放したかった

どうせ仮面は剥がされてしまったんだ

どう取り繕ったって
もうどうにもならない

だから

いっそのこと、思い切り笑ってみることにした

バカみたいに…


そして小学生の初恋みたいに

好きです、なんて告白してしまった


たぶん、生まれてはじめての「捨て身」というやつだ

プライドばかり高い僕と
少しだけさよなら

だけど

まさかの展開だった


突然、腕を引っ張られ
気がつけば、僕はユノ先輩の胸の中にいた

まさか…

まさか!

僕は思わずギュッと目をつぶった

夢だろうか…

身体全体に感じるこの体温は
たしかにユノ先輩のそれだろうか

僕をしっかりと抱き込むその力は
ただの先輩としてのそれだろうか

夢なら覚めないで

今、目を開いたら
あなたはいないかもしれない

そんなの…いやだ

僕は怖くて目を開けることができない


頭の中をいろいろなユノ先輩が次から次へと現れては消える

眩しい自然の中の先輩

オフィスでの優しい笑顔

僕を勇気付ける、その真っ直ぐな瞳


どれも大好きで…恋い焦がれて
その先輩が今、僕を抱きしめてるのは事実?

また、涙が出てきそうだ


ふと

ユノ先輩の腕の力が弱まったような気がして

僕は…恐る恐る、目を開けてみた


そこには、やはり戸惑いを隠せない
けれど思ったよりも強い瞳が僕を熱く見つめていた

「………」

先輩の視線が少し泳ぎだす

「………」

僕は何も話す事ができない
けれど、あなたから視線を外すこともできない

捕らわれた獲物のように
僕はどうすることもできず、固まっていた

ユノ先輩の視線が再び僕に定まる

そして、その手が、そっと僕の頬に触れる

え…

先輩…それって…

「………」


いいの?

このまま…キスしてしまう感じだよ?


僕はそっと瞳を閉じた

心なしか、唇を少し突き出してみたかもしれない

なぜ、こんなことになっているのか

まったくわからない

なぜ

ユノ先輩が…僕の頬に…

そして…

あ…

僕の唇に…ユノ先輩がくちづけている

そっと…

優しく

触れるか触れないかくらいのキスだったけれど

僕が我慢しきれなくて
自分から少しだけユノ先輩の唇を食むってしまった

ビクッとしたユノ先輩の唇が
少し引いてしまって

僕はしまった!と思った

けれど、今度はユノ先輩が食らいつくように僕の唇を塞いできた

ああ…

神さま…


僕はユノ先輩の襟をギュッと掴んだ

時間の感覚もなにもなくて

それがどれくらい続いたのかさえ、わからない

ユノ先輩の唇がそっと離れた時
僕の意識も戻った気がする


怖かったけれど
僕は少しずつ目を開けてみた


何かムッとしたようなユノ先輩の瞳が
目の前にあった



「お前だって…俺にキスしたじゃないか」

「…すみません…」

なぜか謝ってしまった


先輩が僕を真剣な瞳で見つめている


「俺は、そんな風に謝らないから」

「………」




それは…どういう?


先輩はプイと怒ったように向こうを向いて
ボトムスのポケットに手を入れたまま、部屋を出て行った


「あ!ちょっと」

「………」

「あの!」

僕は追いかけた


「先輩!このままだったら
僕…次に会った時、どういう顔したらいいのか」

がっしりとしたその背中に
僕は問いかけた


先輩の後ろ姿がピタリと止まった


「僕…あの…辞めるので…この会社
だから、このままだと…」

「………」

「あ…」


僕は

ふと気付いた

こんなこと言って

僕たちの関係をはっきりさせよう、みたいに受け取られたかも

勘違いさせちゃったかもしれない


先輩の本意は…きっと、こうだ

僕が辞めるからこそ

先輩は、きっといろいろ冗談っぽく
締めくくろうとしたのだろう

そのためのキスだったんだ
まるであの時のお返しだと言わんばかりの

僕が気まずく去る事がないように
気を使ってくれたんだろう

それなのに


「………」

突然、先輩が振り向いた


端正なその顔立ちが少しばかりのイラつきを含んで

ため息が出るほどカッコいい


「お前…また、メンドくさく考えてるんだろ」

「え?」

「お前にはそういう、なんでもメンドくさく考えるクセがあるんだ」


少し言いあてられて

僕は下を向いた

あなたと仲良くなりたいと
そんな気持ちが、あんな風に歪んだ行動をするしかなかった僕

ほんとにメンドくさい…


「次に俺に会った時、何て言えばいいか
教えてやる」

「はい?」

ユノ先輩は少しモジモジとしながら
しきりにこめかみを掻く


「今夜、またあの店に連れて行ってくれませんか?って」

「え?」

「そういえばいいんだよっ!
そうしたら、またあの店からやり直しなんだから!」

あ…

やり直し?

えっと…

「わかんないかな、チャンミン
意外と鈍感だな!」

あなたに鈍感って言われるって…

だけど

心が…とてもふんわりと暖かくなった


ユノ先輩…


あなたも

結構メンドくさいですね…フフ


それでも、僕はニッコリと微笑んでみた

僕の方から素直になってみよう

少しムッとした態度のあなたの気持ちは
とてもよくわかります


「ユノ先輩」

「ん?なんだ」


「あの…今夜また、あの店に連れていってくれませんか?」


先輩は照れ臭そうに
それでもなぜかムッとして

また歩いて行ってしまった


あれ…


しばらくして、先輩が振り向いた


「いいよ!今夜エントランスで待ってろ!」

「………あ」

「残業すんなよ!」

「…はいっ!」



大好きです

ユノ先輩…

僕は盛大に勘違いするけど、いいですか?




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