N126〜家路・完〜
春の陽射しが暖かく
チャンミンは大きな花束を抱えて
静かに廊下を歩いていた
シウォンがすれ違ったけれど
チャンミンはシウォンの姿を知らなかった
シウォンはすれ違った後に、そっと振り返り微笑んだ
白いドアの前でそのネームプレートを確認する
「チョン・ユンホ」
その名前をチャンミンはそっと指でなぞり
ニッコリと微笑んだ
ノックをすると
「はい」という懐かしい声が聴こえる
ガラッとその引き戸を開けると
キム家が用意てくれた豪華な個室の病室に
ユノがベッドに体を固定された状態で寝ていた
顔だけをドアに向けたユノが
チャンミンをみてひどく驚いた
「チョン・ユンホさん?」
チャンミンはそう言ってイタズラっぽく微笑んだ
ユノは戸惑ってどう返事していいか
わからないようだった
チャンミンは軽くユノを睨んだ
「誤魔化せないよ
ドアにそう書いてあるんだから」
花束を抱えて微笑むチャンミンは
息を呑むほど美しかった
ユノはそれでも、天井に視線を戻し黙った
「どうですか?具合は。
膝に穴が開いてるようです。太ももと腕は弾がかすっただけだって。
出血は多かったけど、大したことないって」
「………」
「膝に何か金属を埋め込んだりの手術が必要みたいで、全治5ヶ月だって。かなり長いですね」
「………」
チャンミンはフラワーベースに花を生けたり、窓を開けたり
御構い無しに勝手にユノの世話を焼いている
ユノはそんなチャンミンの行動を訝しげに目で追う
チャンミンは洗濯されたタオルを畳んだりしながら、
ニコニコしている
見つめるユノの表情が次第に柔らかくなる
ユノは大きくため息をついて
声を出した
「意識が戻った時に…お前いなかった」
「ん?」
チャンミンが手を休めて
ユノのベッドまで行った
至近距離で見るユノは、凛々しくて
セクシーで、チャンミンはなぜか嬉しくなった
「僕が目が見えるようになって、眼帯を外したときにも
ユノはいなかった」
「そっか」
白い歯を見せてユノが笑う
ベッドから裸の肩と包帯がのぞく
それが不謹慎にもやっぱりセクシーだ
「ユノ」
そう甘く呼びかけると
ユノはチラリとその切れ長の瞳でチャンミンを見た
「僕を守ってくれてありがとう」
「…別に…仕事だから」
「僕を守る仕事についたんだね」
「……」
「なぜ?」
「……」
「僕を守りたかったから?」
直球で聞いてくるチャンミンに
ユノが照れくさそうだ
チャンミンはそっと、ユノの頬に触れる
その耳元から顎にかけての美しいラインを
そっと撫でた
「ユノ…苦しんだね…僕のために」
ユノは目を逸らした
「ユノ、僕を…見て」
そう言われてゆっくりとチャンミンの方へ視線を動かすと、
そこにはユノを愛おしそうに見つめるチャンミンがいた。
ユノが恋い焦がれたチャンミン
かつて
ユノはこんな風にチャンミンが自分を見つめてくれることを夢に見ていた
愛してるという言葉は
口から発するだけではないのだ
こうやって瞳で伝えることができる
ユノは胸がいっぱいになった
また甘やかして…構ってやりたい
愛して大事にしたい…
いいのだろうか、チャンミン
俺には…お前を愛する資格なんかあるのだろうか
ユノの微笑みが優しい
「良かったな…目が見えるようになって」
「ユノを苦しませたけどね」
「俺は…なにもしてないよ
俺は、お前を裏切って…」
チャンミンはユノの唇を人差し指で押さえて、それ以上話せないようにした。
「全部、僕を思ってのことでしょう?」
「………」
「でもね、ユノ。
あなたがいなかったら、僕は目が見えてたって暗闇なんだよ」
「チャンミン…」
「スンギュが言ってた。
ユノに勝てないって」
「俺に?」
「僕のために、悪者になったり
身を呈してこうやって守ってくれたり」
「………」
ユノはじっとチャンミンを見つめた
チャンミンも優しくユノを見つめ返す
「銃なんかで撃たれて…痛かったでしょう」
「お前の平手打ちの方が何倍も痛かったよ」
「フフフ…そう?」
ユノに向ける笑顔の可愛さったらない
ユノはチャンミンを愛おしそうに見つめて
動く方の手でその頬に触れる
チャンミンは猫のように気持ち良さそうに
頬をユノに預ける
「ユノ、いつも僕のことそんな風に見つめてくれてたんだね」
「俺は…お前がそんな風に俺を見てくれるのを…夢に見てた…」
「これからはずっと、こうやってあなたを見つめて生きるから」
「お前、キム家から出たって」
「そうだよ、みんなで僕の幸せを勝手に決めて」
「勝手にってさ」
「感謝はしてるよ、だけど」
「ユノが僕を…まだ愛してくれているなら
まずは僕の気持ちを大事にしてほしい」
「……」
「元の通り、僕は何も持っていないただのヒト」
「お前、音楽学校をやりたいって…新聞で読んだ」
「スンギュの名前でやってくれるから
僕はそれでいい。名前なんてどこにも出なくていいんだ」
「チャンミン…」
「キム家とは縁を切ることで、僕はまた
穏やかな生活に戻れる…」
「だってお前、ピアニストの道も…用意されてるんだぞ」
「また、勝手に決める
僕はそんなこと望んでないんだ」
「ほんとうに…それでいいのか?」
チャンミンはユノの目を見つめた
「陽のあたる道を歩かせたいって、思ってくれてるんでしょ?」
「……」
「僕にとっての、陽の当たる道はね
ユノと歩くいつもの帰り道なんだ」
チャンミンの声が涙で震える
「………」
「帰ろう…ね?僕たちの家に」
「チャンミン…お前…ほんとに」
「愛してる…ユノ…」
「………」
愛しい人の目をみつめて
「愛している」と言えることが、こんなにも幸せなことだなんて
「………」
「おいで」
ユノはたまらなくなって、チャンミンの手を引っ張った
チャンミンは覆い被さるように、
ユノの唇にそっとくちづけた
帰ろう
あの車のクラクションと酔いどれの怒鳴り声の中を
薄汚いゴミ溜めの中を
2人で笑いながら
今日あったことを楽しく話しながら帰ろう
そこにあったのは
白杖をつきながら笑うチャンミンと
それを支えて笑うユノ
けれど今は
松葉杖をつくユノと
それを支えるチャンミン
繁華街ではなく
それはリハビリに行って家に帰る道
チャンミンはユノからリュックと松葉杖の片方を奪い取った
「ちょっとチャンミン!」
「だから、僕の肩につかまって歩いてって
言ってるじゃん!」
「それじゃ逆に歩きにくいんだよ
いいから、そっちの松葉杖返してくれ」
「ダメ!ユノは僕につかまって歩くんだから」
チャンミンがユノに抱きつくような格好で揉めている
ユノが諦めたように笑った
「わかったよ、じゃ肩貸して?
そのかわり俺の全体重がかかるからな」
「大丈夫だよ!」
ユノは片手でチャンミンの首根っこを抱えるように
チャンミンに全身を預ける
「おっと」
思わずバランスを崩すチャンミンを
結局はユノが支えた
引き寄せた、その可愛い頬に
ユノはそっとキスをした
「愛してるよ、チャンミン」
「ユノ…」
「家に帰ろう…俺たちの家に」
チャンミンは春風のように微笑み
大きく頷いた
なんてことはないアスファルトの帰り道
そこには笑顔があって
温かい幸せがある
チャンミンは風を感じて空を見上げた
まるで微笑む父と母に
見守られているような…
暖かい風が流れていた
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こんばんは、百海です。
最後まで読んでくださって本当にありがとうございます
コメントをたくさんいただいていたのに
お返事をせず、失礼をして申し訳ありませんでした
今回はユノがチンピラ→ホスト→SPと
ヘアスタイルと衣装を変えての登場でしたw
それについて、萌コメいただいて嬉しかったです
あー目線が一緒なんだなぁ、なんて(^◇^;)
ユノが撃たれてしまった時は
雄叫びコメントが多くて、これはこれで大好物だったりしますw
今は次のお話はまだ考えていませんが
またアップしたときはよろしくお願いいたします
花粉症がますます酷い季節ですが
ご自愛ください
今、通信状態が悪いところにいて
20時にアップできずすみませんでした