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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

湿度(完)



イタリアンの店をユノとチャンミンは2人で出た
どちらからともなく肩を並べて。

そして、お互いの手を探し当て

2人は手をしっかりと繋ぎあった

「残念だったね、ユノの子供じゃなくて」

「正直言って、やっぱりそうかっていうのはある」

「え?そうなの?」

「うん…覚えがないっていうか…」

「もうそれ以上言わなくていい」

ユノはクスクスと笑った

「生まれてくる赤ちゃん、あんなお父さんでちょっと可哀想だね。認知してくれてもさ」

「俺たちみんなで育てるさ」

「そうだね」

「俺、いつ引っ越そうかなぁ」

「え?」

「あのマンションにだよ」

「あ、でも家賃滞納してるから…」

「そんなこと気にすんな」

「他にも僕、変なところで働こうとしてさ…」

言いにくそうなチャンミンの言葉をユノが遮った

「知ってるよ…もう大丈夫だから」

「………」

チャンミンはもう何も言わなくていいんだと
静かにそう思った

この安心感がユノだ。

「あ、そういえばお前、あのホストクラブの店長になにかされた?」


「えっと、酔わされてね、少し服を脱がされた」

「はぁ?」

ユノの怒る顔がカッコいい

「お前、もう電話でるなよ?」

「わかってる」

「やっぱり一度行ってこようかな
ぶっ飛ばさないと気が収まらない」

「もう、心配させないでよ」

苦笑するチャンミン
ユノはそんなチャンミンの頭を撫でた

「チャンミン…」

ユノの顔が真剣になる

チャンミンが優しく微笑みで応える

「なんだかさ、遠回りしたんだか、よくわからないけど」

「僕はまだ…なんだか信じられない」

「俺はスッキリしたよ、なんか
今までが現実じゃないような気がして。」

「……うん…でも」

「俺はソンヒの旦那にもならなかったし、
もうお前のヒョンでもないよ」

「?」

翌朝、チャンミンはユノのベッドの中で目を覚ました
正確には、ユノの腕の中で目を覚ました

裸のユノに後ろから抱きしめられ
身動きがとれない。

かすかに鳴っている電子音の場所を
チャンミンは探りあてようとして手を伸ばすと
後ろからユノの手が伸びて来て、それを制す

「ねぇ、ユノ目覚ましが鳴ってるから」

「自然に止まるよ、大丈夫」

そういって、ユノはきつくチャンミンを抱きしめる

「もう少しベッドにいよ」

掠れた低い声でユノに言われて
チャンミンは微笑んだ

幸せだった

ユノがいる

ここに…ユノがいる

チャンミンは思わず自分を抱きしめるユノの腕を掴んだ

その存在を確かめるように

「なんだよ、足りなかった?
チャンミンすごい体力だなぁ」

ユノがニヤニヤしている。

「ユノがほんとに僕の側にいるのかどうか
確かめたんだよ」


「チャンミン…」

「いるよね?ユノだよね?」

「いるさ、これからずっと離れないんだから覚悟しろよ」

そう言って、ユノはチャンミンが本当に痛いと感じるほど抱きしめた





爽やかな秋風が吹く気持ちの良い日

湿度の低いカラッとした日

仕事とボランティアを兼ねて、熱い地方へよく行くユノはまだ陽焼けが冷めずにいる

みんなが久しぶりに集まる休日

ミナとソンヒが昼食の用意をしている内にユノはヨチヨチ歩きのナヨンを連れ出した

「ナヨンはオッパの刺激的な遊びが好きなんでちゅよねー」

ユノは器用にベビーカーを操り
ナヨンを公園へ連れて行く


家では和やかに昼食の準備が進んでいたけれど
ミナがハッとなにかに気づいた


「ナヨンとユノオッパは?!」

ソンヒがハッと顔をあげる

「やだ、誰か探して!2人にしないで」

「あ、じゃあ僕も」

「チャンミン、お願いね」


ユノは公園でお腹に押さえのついたブランコにナヨンを座らせた

少し揺らしてやると、キャッキャッとナヨンが喜ぶ

「ねぇ、ナヨン?」

押してやって、戻ってくるナヨンに話しかける

「ナヨンはさ、ずいぶんチャンミンのことが好きみたいだけど」

キャキャッ

「あと20年したらね、チャンミンに近付いちゃダメ」

ナヨンは興奮してヨダレをたらしている

「今だけだからね?」


そこへ、ミナとチャンミンが駆け寄る

「ユノオッパ!信じられない!」

「え?」

「どうして、こんな小さな赤ちゃんをブランコなんか乗せるんですか??」

「だって、すごく喜んで…」

「危なくて、普通は乗せませんよ!
ユノオッパいつも危険なことばかり」

「そ、そう?」

ナヨンはチャンミンを見るなり大興奮だ

手足をばたつかせ、大喜びしている

「さあ、ナヨンおいで?」

チャンミンが両手を広げると
ナヨンも両手をあげる

ナヨンの脇に上手に手を入れて抱き上げるチャンミン、ナヨンは抱かれながらその顔をペチペチと触る


ユノが面白くなさそうな顔をする。

「ユノオッパ、まさかヤキモチ妬いてるの?
ナヨンは赤ちゃんなのよ?」

「あと20年もすれば立派なオンナだよっ」

「わーやだやだ、ナヨン行こ」

ミナがナヨンをチャンミンから奪う。

「2人、ご飯だから早く来てね!」


チャンミンがミナとナヨンを見送る

「僕…あの子を恨まなくて本当によかった。」

「お前のこと、大好きすぎだろ
恨むとかそんなの存在しない」

「僕たち、とにかく精一杯だったよね」

「もう、我慢なんかさせないから」

「うん」

「そろそろ戻ろう」

「お昼ご飯ご馳走になったら帰ろ?」

「ああ、でもさ、行きたいところがあるんだよ」

「どこ?」

「観覧車」

「ああ!いいね!行きたい!みんなで?」

「2人きりだよ」

「はい!」

ニッコリとチャンミンが微笑む



何事もなく、ずっとこんな風に生きてきたような気がする

いろんなことはすべて
2人でいるための証みたいなもので

波風が立つ度に
やっぱり2人がいいと思えて

何かが起こるたびに
2人はひとつなんだと、そう思えるだけ

2人は笑った


今日は観覧車に乗って楽しもうな。

そして、帰ろう

あの部屋へ

壁には2人で撮ったボロボロの写真が、1枚貼ってある。

この写真でユノはつらい時を生き延びた


2人で一杯の部屋


玄関には白くて小さな象がちょこんと佇んで
幸せな2人を待っている





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百海です。

湿度、最後まで読んでいただき
ありがとうございました。

コメントもたくさんいただいて
ご無礼をしているのに、体調も気遣っていただき
感謝しております。


湿度というタイトルは特に意味はなくて
ずっとモヤモヤとうっとおしい試練にまとわりつかれている感じ。
そんなのを表してみたかったのです。
いかがだったでしょうか。


そして次回はずっと描いてみたかった設定のお話です。

タイトルは「ブリキの涙」

少し近未来のお話です。
孤高のやり手ビジネスマンのユノが仕事の処理のために手に入れた最新ロボット。
人間と変わらない外見に高度な人工知能を備えたロボットに「チャンミン」と名前をつけたところからお話がはじまります。
高度なはずのAIロボットが名前に反応して
ありえない複雑な感情を表現するようになります。

チャンミンとは生前の本当の名前だったのです。

それは悲しいチャンミンの過去
元は人間だったチャンミンのユノへ芽生えた不思議な感情と
ロボットであるチャンミンを愛してしまった
孤独なユノとの感情のキャッチボール

やがてユノは悲しい決意をします

しばらくしてからアップできると思います。
楽しみにしてくださいね

蒸し暑い日が続きます
風邪も流行っているようでご自愛ください

湿度(33)




部長が驚いている。

「俺がソンヒとユノの仲人?」

「そうよ、それくらいは責任とってほしいわ」

「責任てさ…」

「見届けるくらいいいでしょう?
自分の子供の将来を預ける2人のお祝いよ」

「わかったよ、何時?」

「イタリアンの個室をとったの
6時には来て」


ユノとソンヒのカンタンな結婚式が開かれることになり、

部長、ユノ、ソンヒ、そしてミナとチャンミンが呼ばれた

ユノは覚悟を決め、チャンミンも自分の心に折り合いをつけるため出席することにした。

ユノは難しい顔をしたまま、
まだ自分の部屋でじっとしていた。

責任をとろうとする自分と
逃げ出したい自分と
チャンミンを思う自分と

すべてが、ごちゃごちゃになって
ユノのまわりにじっとりとまとわりついているようだ。

吹っ切れない思い…
いつまでもグズグズと悩んだところで
答えなんて出ないんだ

ユノはやっと腰をあげて
チャンミンを車で迎えに行った

チャンミンが自分の為に借りたマンションを見上げる。


あれからチャンミンは経済的負担がかなり軽くなった。

とりあえず、あのホストクラブの店長から連絡がなくなった。
おそらくユノが少し凄んだせいで
チャンミンの後ろには血の気の多いオトコあり
とみられたのだろう。

チャンミンが逃げ帰ってきた時に着ていたペラペラの紫のスーツ

それを見たユノはひどく怒り、店に送り返した。
請求書についても、今後も送ってくるようであれば
法的手段をとると。そんな書類をつけてまとめて送り返した。

すでに入金してしまった分も取り返そうとしていたユノだったけれど

チャンミンはこれもひとつの学習だったと
ユノをたしなめた。

チャンミンがユノを探しに行った渡航費用は
ソンヒが会社にかけあって業務費で落としてくれることになり全額会社から出してもらえた

それでも

チャンミンはこのマンションの家賃を
ユノに払わせようとはしなかった。


助手席に座る少し痩せたチャンミンが
窓を開けて風にあたっている


「あのまま、住むのか」

「うん、赤ちゃんが生まれるまでね」

「それが何かのケジメ?」

「それまではね…」

「?」

「ユノは赤ちゃんのパパじゃなくて、
僕のヒョンだからね」

チャンミンは薄っすらと笑った

風に靡くフワフワの茶色い髪

ユノは胸が締め付けられるようだった。


「今日からは…」

「……」

「ソンヒさんの旦那さまだね」


ユノは車を路肩に止めた


「じゃあ、今は?」

そのユノの低く甘い声が
チャンミンは大好きだった

「今は…ヒョンと弟…」

「あと何分かでそれももうダメなのか」

「そうだよ」

「……」

「決心して、前を向かなきゃ」

「いつのまにか、こんなに大きくなってさ」

「なにそれ…」

クスッと笑うチャンミンがたまらなく可愛い

「俺がいなきゃダメだったのに」


いまだって…そうだよ?


そんな言葉をチャンミンは飲み込んだ



みんなが席につき、ワインで乾杯となった

ソンヒが自ら音頭をとった。

「私のはノンアルコールよ、ご心配なく」

そう言ってにこやかに乾杯をする姿は
ここ最近見られなかった、ソンヒ本来の姿だった

ソンヒはピンクのドレスを着て
ひとつ深呼吸をした

「挨拶をさせてもらっていいかしら?」

みんなはそれぞれに静かに頷いた


「今日は記念日なんです
私が素敵なママになるための」


みんなが穏やかだ

「素敵なママになるためには
人を陥れたり、騙したり、そんな事はしちゃいけないんだって、ミナに教えてもらったの」


その言葉にユノとチャンミンが不思議そうな顔をした。

「そんなことをして得た幸せなんて
きっとすぐにボロが出て…私自身も不幸にするのよね」

部長は少し怪訝な顔をしている

「当たり前のことなのに、私はわかっていなかった」

ソンヒはユノに向き直って笑顔で明るく言った

「ユノ、ごめんなさいね」

「え?」

「チャンミンも辛い目に合わせたわね」

チャンミンは下を向いてしまった


「私はユノがこの子のお父さんならいいな、と
思ったんだけど、実は違うの」


「えっ!!!」


チャンミンが顔をあげ、目を見開き
ユノが思わず席を立った

部長が席を外そうとした

ミナがその後ろ姿に声をかける

「逃げないでください」

「逃げるって、俺は別に」

「最低な父親にならないで、赤ちゃんのために」

ソンヒが凜とした声で呼び止めた


「……なにを言うんだ、俺は別に」

「逃げるなら、悪いけど全部ぶちまけさせてください」

部長は振り向いて、そして開き直った

「ぶちまけるってなにをだ」

ミナは毅然として立ち上がった

「赤ちゃんの父親だと認めてください」

「それはユノに聞いてくれよ」

「自分ではない自信があるなら、
髪の毛を一本いただけますか?」

「は?」

「赤ちゃんの父親かどうか、それでわかります
自信があるならいいでしょ?」

「………」

「できればそんなことはしたくないの
赤ちゃんは望まれて生まれるべきなのに」


部長は狼狽えた

その様子にユノの顔色が変わった

「そういうことなんですか?」

その声はとても低く部屋に響く


チャンミンが突然席を立った

「ミナ、やめてあげようよ、ソンヒさんがかわいそうだよ」

「……」

「こんな逃げ腰の父親の姿みせられて、ソンヒさんも赤ちゃんも可哀想だよ」

「いいのよ、チャンミン」

ソンヒが言った


「ソンヒさん…」

「これが現実よ、ちゃんと見る覚悟はあるわ」


部長はあきらめたように側にある椅子に腰かけた

「なにが望みだ?」

「認知です」

ソンヒがきっぱり言った

「そんなこと…できるわけないじゃないか
金だって…」

「どうにかしてください
ユノだって、あれだけ責任をとろうとしてくれたのをご存知でしょ?」

「……裁判でもしたら、俺から金なんてとれないぞ」

ソンヒはため息をついた

「こんな母親どうかと思うけど、
あなたを威そうと思えばいくらだってできるのよ」

「どう威そうっていうんだ」

「ユノを誘拐させたわ」

「ふん、それか、証拠なんかないんだぞ」

「ありますよ」

ユノがおもむろに話しかけた

「そんな証拠があるわけない」

「サンドゥから請求書がきてまして
全部私がもっています」

サンドゥの名前に部長は思わず立ち上がった
その顔は青ざめている

ユノは部長を睨みつけた

「私の研修手続きも、部長が手を加えていますね。
データは持っています」

「ごめんなさいね、ユノ。
部長がヤキモチやいて、そんな事したっていうのが
私はやっぱりうれしくてね」

「許せるか」

ユノが吐き捨てるように言った

部長はため息をついた…


「ソンヒの事は本気だったさ」

ソンヒは少し驚いたように部長を見た

「いざとなったら怖くなった。
俺はそんな男だ。これで満足か?」

ソンヒは薄く笑った

「今ので十分。ありがとう」




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百海です。
明日が最終回になります

湿度(32)



チャンミンは点滴を受けて少しウトウトして

人の気配で目が覚めた

ベッドの脇にユノが座っていた

心配そうな顔をしている


「あ、ユノヒョン…」

「チャンミン…具合はどうだ?」

「うん、だいぶいいよ…
僕はなんだったの?貧血?」

「熱中症だってさ」

「家の中にいたのに?」

「なるんだよ、家の中でも
あんなクーラーついてない部屋で寝てたらさ」

「あの部屋…ミナに教えてもらったの?」

「ああ…」

「あの部屋はさ…」

「俺のために探してくれたんだろ?
頼んだもんな、見つけておいてくれって」

「………」

「すごいいい部屋だな、陽当たりよさそうだし」

「でしょ?」

チャンミンが力なく微笑んだ

「高いだろ?家賃」

「……」

「俺の事、探しにきてくれたんだって?」

チャンミンはプイと横を向いた

「過去の…話ね」

「過去?」

「今はもう…僕たちはなんでもないから」

切ないチャンミンにユノの胸がしめつけられる

「ごめんな…」

「だから、謝らないでって」

「うん…」

「ソンヒさんとあの部屋に住む?」

「え?それは…いいよ」

「僕もそれは譲れないな
あの部屋は僕がユノヒョンのために見つけたんだから」

「………」


ユノは自覚せざるを得なかった

やっぱりチャンミンが好きだ

こんなにも愛おしい

もうどうする事もできないとわかっていても

でも…


「チャンミン…やっぱり
俺たち、幼馴染でずっといるのはダメか?」

「ユノ…」

「あ、心配なんだよ…こんな風に具合悪くなったりしたらさ」

「同じ会社にいるのさえ、つらいのに。
元の幼馴染なんて、そんな残酷な事言わないでよ」

「……そうだな…」

「それより、早くソンヒさんと籍いれなきゃ」

「……」

そっぽを向いているチャンミンの目からは一筋涙がこぼれ、それは白い枕に吸い込まれていった



ミナはソンヒと夕涼みをしていた

ソンヒのマンションのベランダで2人で冷たいお茶を飲む。

夕焼けが綺麗に見えるソンヒのマンション


「オンニのマンションってやっぱりいいなぁ」

「フフ…このマンションは私の勲章よ」

「働いてる証って言ってたよね」

「そうね、自分でがんばって、このマンションのローンを払ってるっていうのが、こう励みっていうかね」

「このマンションを買った時のオンニ
すごくかっこよくて憧れたわ」


「……今は…そうは思わないってことかしら」

「今のオンニはカッコよくないわ」

ソンヒがミナから視線を逸らした

「私が黙っていたらいい事なんだけど
やっぱり私、ユノさんに言おうと思うの」

ソンヒがハッとして、ミナを見た

ミナは凛としてソンヒを見つめ返した

「口封じする?そのために私を殺してもいいよ?」

「ミナ……」

「ずっとウソを突き通して、ユノさんを騙して、
オンニは幸せになれると思ってる?」

「………」


「もし、いつか子供にそのことがわかったとしたら、オンニはユノさんと子供になんて言うの?」

「………」

「みんなを不幸にして、オンニだけが幸せになれるの?」

「………」

「私、オンニに悪者になってほしくない」

ソンヒはミナを見た
その瞳は濡れている


「オンニはもしかして、あの時…
わざと私のところへラインを貼ったんじゃないの?」

「ミナ…」

「………」

「チャンミンね、倒れたの」

「え?」

「収入もそんなに無いのに、2度も渡航して」

「渡航?」

「研修から帰ってこないユノさんを探しに行ったのよ」

「まさか…」

「2人で住むマンションも無理して借りて
今もユノさんを思ってそこに住んでるの」

「………」

「それでも…チャンミン…何も言わないのよ」

「………」

「生まれて来る赤ちゃんの為に服買ったりなんかして…バカみたい」

「チャンミン君…」

「ユノさんに責任を押し付けて、
あの2人を引き離してるのよ?オンニと部長さん」

ソンヒの瞳が震えている
そして口角を少しだけあげた。


「苦しかったのよ…あなたの言う通り」

「オンニ…」

「ユノは本当に素敵で、大好きだったの。
でも私には興味がなかった。彼の視線の先には
いつもチャンミン君がいて…」

「……」

「部長があまりに私に熱心で…
なにか私もさみしかったのかな」


「そういう時もあるね…」


「部長に自分の子供なのか?と問われて傷ついたけど。ユノに任せようと言われた時は、正直心が踊ったわ」

「……」


「でも、浅はかだった…
私はそれでもユノの心に住むことはできないの
ユノは責任をとろうと一生懸命だけど」

ソンヒは沈みゆく夕陽をまぶしそうに見つめる

「こんな私はカッコよくないわね」

「オンニ…」

「チャンミン君は全力ね…
勝てないわ」

「チャンミンは…全力よ…誰よりも」

「もう一度、ミナの憧れのオンニになりたいわ」

「オンニ…」

ソンヒの笑顔が夕陽に美しく輝いていた




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湿度(31)




チャンミンの意識がはっきりしてくる

「あ……うそみたい…」

ユノを見るなり、か細い声

掠れた力のない声

「チャンミン!」

「ほんとに…ユノヒョン?」

「そうだよ…」

「あ…」

「大丈夫か?」


「会いたかった…」


「チャンミン…」

そう言ってチャンミンは力なく腕を伸ばす。
そのぼんやりとした瞳に涙が溢れている

「ユノ…ヒョン…」

ゆっくりとユノの首に腕をまわすチャンミン

ユノはたまらなくなってチャンミンを抱き上げて
自分の胸に抱きしめた


「チャンミン…お前…」


会いたかった…なんて
そんな事いきなり言う…

俺だって…


ユノはチャンミンを抱きしめながら
ギュッと目を閉じた

離れられない
離せない

そんな思いが堰を切ったように溢れ出す

チャンミンはぶらさがるようにユノに抱きしめられている。


2人とも…泣いていた


ギリギリだったチャンミンと
そんなチャンミンを救い上げるように抱きしめるユノ


ミナはその様子を見ながら悟った


わたしも…オンニも…

間違ってる


オンニに一生側にいてと言われ、
やっぱり自分はうれしくて…

でも、誰かを傷つけて、嘘をついて、
そんな人生、幸せになれるわけない

オンニ…私たち…間違ってる


「ユノさん、チャンミンは熱中症なんじゃないかと思います。」

「え?」

「唇も乾いているし、ぼんやりとした様子が」

「どうしたらいい…」

「とりあえず、病院に行きましょう」

ユノはチャンミンを抱き上げて
ミナと一緒にマンションを出た

チャンミンを車に乗せたところで
ユノは用務員に挨拶をした。

「あの、身内の方で?」

「はい、まあ、そうです」

「郵便物がかなりたまってまして」

「はい、じゃあ引き取ります」

「お願いします…」


用務員は何か言いたそうだったけれど
そのまま、郵便物の束をユノに渡した


病院へ行くと、やはり熱中症だと言う事で
点滴をうけるために、チャンミンは病室に入った

栄養失調と疲労もかなりありそうだ、との事

これまでチャンミンに何があったのか。
そして、それに気づけなかった自分

しばらくぼーっとしていたユノに

ミナがやってきて、用務員から預かった郵便物を渡した


チャンミンへの郵便物を眺めているそのうちに、ユノの顔色がみるみる変わった

「なんだ…これ…」

家賃の滞納通知、クレジットカードの督促
そして、どこかクラブからの請求書

ミナが申し訳なさそうに話し出す

「相談しようかと思ったんですけど
実は、夜中働いてたみたいで…まさかこんなことになってるとは…」

「どうして?そもそも、なんであんないいところに引っ越したの?」


ミナはため息をついた。

「あのマンションは…チャンミンがユノさんと住むために…」

「……」


ユノは言葉がでなかった…

そんな約束をたしかにしている

自分が研修に行ってる間に
部屋を探してと…

「チャンミンはユノさんに内緒にしているけれど
実は、ユノさんが行方不明みたいになって帰ってこなかった時、探しに行ったんです」


「まさか…」

「……心配でいられなかったみたい」


自分が隔離されて、チャンミンを思い耐え忍んでいた時、探しに来てくれてたというのか。

すぐそばにいたなんて…


「そういうことなのか…
マンションを契約して、2度も渡航したんじゃ
そりゃ金なんてないよな…」

スマホを契約しようとして、思い悩んでいたチャンミンを思い出す。


「ムリ…させたんだな…」

「たぶん、今のマンションを出たくても
次に住むところの契約ができないんじゃないかなって、」

「チャンミン…」

「わたし、なんとなくわかっていたのに…
助けなかった…」

「………」

「いろいろとチャンミンには会いづらくて」


「あいつ、全部1人で抱え込んでたんだ」

なんてことだ…

手元の安っぽい封筒を開けてみた

そこには、衣装代としてかなりの金額が記載されている。

「これはなに?」

ミナはその紙を覗き込んだ

「なにかしら…」

ユノは訝しげにそれをみた後、
スマホで検索をした。

「ホストクラブだな、かなり悪徳の」

「え?」

「いわゆる、ぼったくりバーだ」

「チャンミンが働いていたのかしら」

そういえば、さっきからチャンミンの荷物から
スマホの着信音がしている。

ユノはそれを取り出すと
画面に表示された番号と、検索した番号が同じであることを確認して、電話をかけた。

その途端スマホから聞こえてきた
ガラの悪い男の声


「早くでろよ、チャンミン」

男のその一言で、ユノの頭に一気に血が上った

「請求書届いた?
俺のペットになったら全部破棄してあげるから
早いとこ来るんだね」

ユノの怒りが爆発寸前だ

チャンミンをペット……
腑煮え繰り返るというのはまさにこのこと。

目の前の請求書が最後の理性を保っている


「これが請求書のつもりか?まったく効力がないぜ」

「だれだ、お前」

相手の声が一段低くなった

「チャンミンをペットとは身の程知らずだな」

「お前、チャンミンの男か?」

「だったらなんだ」

「店に顔出しな、てめぇ」

「ああ、言われなくても押しかけてやる
ぶっ殺してやるから覚悟しろよ」

ミナが危険な雰囲気を察知して
ユノの腕を掴んだ

ユノは怒りで目尻がつり上がっている

(ユノさん、ダメ!)

ミナがたしなめた

ユノは一度目を閉じて深呼吸した。

落ち着け

「その前に…この請求書が不備だらけで笑えるぜ
この利率は法律違反なのは知ってるだろうが
バカ丁寧にサインしているところがウケる」

「印刷だっていうのがわかんねーか、バーカ」

「サインの印刷は違法なんだよ」

「………」

掴んだ、とユノは思った

「どこに振り込んだかはすぐに調べられる
つぶしてやるから、覚悟しろよ。」

「衣装を用意した上に、契約違反なんだよ
ちょっとかわいがってやろうかと思ったのによ」

思わずユノは立ち上がった

「てめぇ、チャンミンに何した!」

(ユノさん!)

ミナが必死だ

ミナがペラペラの請求書をユノの前に差し出す

相手を懲らしめる武器は拳ではなくてこれ!

どうかわかってユノさん

ユノは興奮して息が荒い

「とにかくだ、次に請求書を送ってきたら
出るとこ出てやるから覚悟しとけ」

そう吐き捨てるように言うユノから
ミナがスマホを奪ってオフにした。


ミナは微笑んだ

「ユノさん…チャンミンの事になると、もう大変だね」

ユノはバツが悪そうに頭を掻いた


2人はやっぱり一緒にいるべきだ…

オンニをこれ以上悪者にするわけにもいかない

ミナは決心した。




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湿度(30)



チャンミンは今夜も撤収作業を終えて
部屋に戻った

もう熱帯夜で明け方でも気温が高い

クーラーの付いていない部屋で
窓を開けたくらいでは涼めない

ヨロヨロとシャワー室へ行き
何も考えずにシャワーを浴びて

水道の蛇口から水を飲んだ

スマホには、イヤな着信

いい加減にしてほしい…

郵便受けには督促状がたまっているんだろうな。

どうしてこんな事になってしまったのか

もうそんな思考能力もなく
すべてがどうでもよかった

仕事もなにもかも
すべてから逃げ出してしまおうかと何度も思った

今、ビルの屋上に立ってしまったら
飛び降りてしまうかもしれない。

だけど…

この世には未練があって

それは…ユノだった

あなたが生きているこの世界に
僕も住んでいたいんだ

一緒にはいられなくても
同じ空の下に生きていると思えれば

それだけで今日も…少しは頑張れる

ユノヒョン…

小さく呟いてみると

目の前に、幼い頃のユノが現れた


「チャンミン、何寝てんだよ、
ザリガニとりにいくぞ!」

「待って、バケツ持ってくるから!」


僕は…ユノヒョンがいないとザリガニをとることができなかった


ザリガニが見たい…

ユノヒョンと一緒なら
本当はザリガニなんてどうでもいいんだけれど…

それでもユノは僕がザリガ二に喜ぶ姿をみて
とてもうれしそうな顔をするからさ…

そんはユノヒョンが僕もうれしいんだよ…


ヒョン…

ユノヒョン…会いたい




ユノは難しい顔をして、デスクで頭を抱えていた。

ユノの心に引っかかっている
研修の時の事件

結局、会社への報告としては、
自分は暴漢に襲われ、隔離されたけれども釈放され、自分で帰ってきた、というところで話が終わっている。

警察に行く前に、とにかく帰国しろという指示で
自分も早く帰りたかったのもあって、
そのまま帰国してしまったけれど…

あの時、警察に行くべきだった。

どうせ調べてもなにもわからず、で終わったかな。

わからない…でも事件として立件するべきだった

そうした時の部長の反応が見てみたいと思った

部長がなにかしらの関与をしていそうだったけれど
その目的がわからない。

俺の方が出世しそうだったから?
そんなことなら、他にも追いやられそうなヤツはいくらでもいる

考え事をしていると、事務の女性が戸惑っている

「どうした?」

「あ、あの」

「?」

「郵便で料金不足とのことで、サインをいただきたいんです」

「あ、いいよ」

ユノはサインをしようと用紙を受け取った

?

「郵便は海外から?」

「は、はい…」

「ウチは海外のものは直接郵便を使ってないよ?」

「あ、そうなんですけど…これは個人のもので」

「会社宛だけど…部長の」

「個人的なものなんです…」

「………部長の?」

「……」

ユノは用紙にサインをすると
落ち着いて切り出した

「内緒に、と言われているんだね?」

「………」

「これは俺が直接受け取ったことにするから
料金不足ってことで」

「すみません…」

事務の女性はぺこりと頭を下げて急いで部屋を出た

ユノは少し厚めの封書を遠慮なく開けた

宛名は会社なんだ、問題ない

おそらく十数枚にわたる文書はすべて
請求書だった。

日付はユノが隔離されていた日数

食事代や水道費、雇った人間の費用

一文には、これらがまだ支払われていない
という督促も含まれている

明らかだった

自分は会社によって…いや、部長個人によって
あんな目に合わされていたんだ

請求書の額はたいしたことない

あの国の人件費はこんなものなのか
とそれにも驚いた

十分に部長個人で支払える額

この額で人を襲わせて隔離することができるなんて。

いや、その他にもきっと会社としての優遇なども加味されていたのだろう

部長はあの国への研修の責任者だ。

なんども渡航しているはずで、それなりのブレーンも確保しているのかもしれない

サンドゥはこのことを知っていての忠告だったのか。

ユノはその書類をまとめてしまい込むと

気持ちを切り替えて定例会議に出るための
準備をした。

時期を待とう

この件を切り出す時期を。


ユノは資料室へ入ると、真っ暗な部屋の中でスンホがひとり佇んでいるのに出くわして、お互いにひどく驚いた

「あーびっくりした、なんだよスンホ。
こんなところでなにやってんだ?」

「あ、あの…今日は会議なのに、チャンミンが無断欠勤で…連絡してみようかと」

「無断欠勤?」

「はい…このところ遅刻は多かったんですけれど
必ず電話はあったから」

「今朝は電話がないのか?」

「はい…大丈夫なのかなって…」

ユノはなにも言わずに資料室を出た


部長のこと

ソンヒのこと

生まれてくる子供のこと

考えなきゃいけない事が山積みだったけれど


今、考えられるのはチャンミンのことだけだった

湧き上がる思い

そんなチャンミンへの気持ちだけで身体が動いていた。


アパートへ行ってみる

ドアには貸し部屋の表示と
不動産会社の電話番号

誰も住んでいない…

どういうことだ

チャンミンはどこから会社に来ていたんだ

不動産会社に連絡をすると
どこへ引っ越したかはわからないという。

会社の人事に確認しても、この住所が登録されている。

ミナちゃんなら、知っているかもしれない

ソンヒは俺とミナちゃんを会わせたくなさそうだし
チャンミンの事で動いているのはいやだろう

たしかミナちゃんは大きな病院で受け付けをしてると聞いた

ユノはいくつか病院を回った

3軒目の総合病院を訪れると
受け付けにミナがいて、ユノを見てひどく驚いた様子だった。

「ユノ…さん…」

「ミナちゃん、ひさしぶり」

「あ、あの…」

「チャンミンと連絡がとれなくなった」

「えっ?!」

「会社に来てないんだ。
チャンミンさ、引っ越したみたいだけど
知ってる?」

「………」


ミナはそっと視線を逸らした

何か知っているのだ


「具合が悪いんじゃないかって思うんだ。
このところ痩せてさ、調子悪そうで」

心配そうなミナ

「知ってるなら、教えてほしい」

「わたしは…なにも…」

「おそらく、1人で苦しんでるんだ
俺のことで傷ついてるのはわかってる…」

「……」

「そこは俺が出て行く資格はないけどさ
具合が悪いなら話は別かもしれないって」

「……」

「ミナちゃん……」

「…わたしも行きます」

「ありがとう」

ユノはミナを車に乗せて
案内されながら、瀟洒なマンションへ来た

チャンミンはこんな豪華なところに住んでいるのか?

「理由は後で。とりあえず部屋に行って見ましょう」

オートロックのインターフォンをなんども鳴らす

応答がない。

マンションの用務員に話をして
付き添ってもらい、部屋に行って見た

鍵を開けると、ムッとした湿気と熱気

クーラーをつけずにいる?


中に入ると、チャンミンは布団にいた。

「チャンミン!」

ぐったりと疲労の色が濃い顔

「チャンミン!チャンミン!」

ユノが揺り起こすと、チャンミンは薄っすらと目を開けた…






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