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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

繋がれた舟ーーあとがきーー


「繋がれた舟」
最後まで読んでいただいてありがとうございました

以前に書き溜めていたもののひとつで
今回、加筆してみたら1ページ増えてしまいました

この曲はユノさんがファンミで初披露した曲で
「ちょっと情けない男の歌です」と話していたのを聞いて
「情けないユノとチャンミン」を見てみたいと思った事がきっかけでした。

コメントにも書いていただきましたけど
2人も完璧じゃなくて
やる気をなくしたり、自暴自棄になったり
へんに突っ張ってみたり

カッコいい2人のそんな姿もまたいいな、
と思います

今回、特に大きなヤマもなく
事件も起きませんが

想いだけで綴っていくような、
本来はこんな叙情詩タイプのお話が好きだったりします。

お話を書くことをお休みしてしまい
楽しみにしていただいていた読者さまには
残念な想いをさせてしまいました。

それでも「どうしてますか?」と連絡をいただいたり、過去のお話にコメントいただいたり

本当にうれしかったです。
ありがとうございます

今回も変わらずにお話にコメントいただいているのに、なかなかすぐにお返事ができず
ごめんなさい。。。

お返事する時間がないのなら
コメ欄閉じるのが本当なのに
やっぱりコメント読みたくて開いているという
なんという「かまってちゃん」^^;

今回読み直してアップしてみると
自分には短編というのはハードルが高いな
とつくづく思いました^^;

またゆっくりと30話前後のお話を書きたいなと
思います。

お休みする前にお知らせしたお話も
アップできそうなので
どうか気長に待っていただけるとうれしいです。

いよいよ夏本番、といった季節になりました

夏バテや熱中症に気をつけて
毎日をお過ごしください



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繋がれた舟(完)

ーー繋がれていてーーチャンミンside


ユノは矢継ぎ早に喋る

「どこにいるのか教えてくれ
すぐ行くから」

「あー電話もらえるなんて
昼間は追いかけてよかったな」

「ねぇ、それで今どこ?」

「あの…あ、まだだったら、夕飯どうかなって」

「いいよ!チャンミンなにか食べたいものある?」

「あの…」

「あのフレンチの店覚えてるか?
あそこじゃダメか?」

「…………」

「違うのがいいか?」

「実は僕もそこに行こうと思って…」

「それじゃ、決まり。店の前で待ってて」


あの坂の上で、再びユノと会った。

僕のほうが近かったから、店の前で少し待った。
ユノが僕を連れてこようとしてくれたこの店。

車が停まる音がして振り返ると
タクシーからユノが降りてきた。

満面の笑みを浮かべて近づいてくるユノ

力強い上半身にスッキリと締まった脚

首にはまだあの唐草模様が施されている。

黒いVネックのセーターにジーンズ。
なんでもないスタイルがユノの美しさを際立たせていた。

僕は力なく、片手をあげて少し微笑むのが
精一杯で。

ユノはそんな僕に近づくと、
思い切り抱きしめてきた。

「ちょっ…」

「チャンミン…」

「あ、あの…」

「電話くれてよかった」

「忙しくなかった?」

「忙しくたって関係ないよ」

「僕を優先してくれたってこと?」

「当たり前だろ」

「僕なんか…そんな価値ないのに」

ユノは抱きしめた僕を引き離して
まじまじと顔を見つめる

「価値?」

「…………」

「お前、変なこと言うね」

「そう?」

「………ずっと、そんな生活だったのか?」

「?」

「価値があるとかないとか
そんなジャッジばかりされてたんだろ」

「…………」

「違うか?」

「そう!」

僕は思わずユノに抱きついた
ユノは優しく僕の背中を撫でる。

「頑張ってるのに、だれも味方してくれなかったんじゃないのか?」

「そう!」

僕は声が涙で震えてしまい
それを隠そうとわざと大声で返事をした

「お前、泣いてるんだろ、今」

僕はユノの首筋に顔を埋めて、顔を見られないようにした。

「店に入ろうか」

「このまま、こうしていたい、ダメ?」

「ダメじゃないよ、それなら…」

その時、僕のお腹が盛大に鳴った。

「アハハハ…
お前さ、口と腹が別々の事言ってるけど?」

「フフフ…」

「この口はウソついてるだろ」

そう言ってユノは僕の頬を両手で挟み、
チュッと軽く唇にキスをした。

「ユノ…」

「さあ、店にはいろう
何食ってもいいぞ?」

「食う」とかそういう店じゃないのに
ユノってば、有名な人物になっても
そんなところは変わらないんだね

僕は嬉しかった

ユノは変わっていないし
何事もなかったように優しかった

店内はテーブル席が5つほどの小さな店で
客は僕らだけだった

テーブルに着くと
優しそうな店主がやってきた

「今日はありがとうございます
実はこの店、今日が最後で」

「えっ?そうなんですか?」

「たぶん、お2人が最後のお客様です」

「そうなんですか。」

店主は明るく言っていたので
きっと前向きな閉店なのだろう

料理は美味しかった

僕たちは連絡を取り合わなかったこの5年間の話を
たくさんした。

僕の話にユノがツラそうに顔をしかめる場面もあったけれど

僕は正直に全部話した。

「チャンミン…電話くれればよかったのに」

「だって、もうするなって」

「お前が幸せだと思ったからさ
そんなことになってるなら、俺、側にいたのに」

「ありがとう」

「ひとりでさ、こんなに痩せるほど」

「僕が力不足だったんだよ
よく考えたら、僕に傾いた会社を立て直すなんて
好きでもない女とうまく結婚生活するなんて
そんなのできっこないのにさ」

「そんなことないよ
お前は頭もいいし、気持ちだってまっすぐで」

「自分を過信しすぎたね」

「だから、そんなことないって」

「ありがと、ユノ」

「もう…なんかイヤだな」

「ユノはすごいよ」

「それは、たまたま今がそうなだけで
お前と別れる時は悲惨だったよ」

「でも、復活したじゃん」

「お前が励みになってたんだよ
俺、未練がましくいろんなところで
想ってる人がいるって言い回ってた」

「うん」

「やっぱり忘れられなくて
でも、もう結婚してるし。」

「積極的に行けなかった?」

「ああ、もう、子供いると思ってたから自分でブレーキかけた」

「子供はいないよ」

「そうか。いたら変わってたかな」

「できっこないよ、子供」

「なんで?夫婦だったろ?」

「そこ、聞きたい?なんで子供ができなかったか」

「いや、いい。あ、ちょっと聞きたいかな。
やっぱりいいや」

僕たちの笑い声が小さな店内に響く

店主は会計のとき、静かに言った

「お2人が最後のお客様でよかったです」

「とても美味しいのに、閉店なんて残念です」

「ありがとうございます。
一生懸命がんばったんですけどね、5年間。
やっぱりこだわりすぎて、コストさげられなかったからかなぁ」

「頑張ったならいいじゃないですか」

僕は自分に言い聞かせるように
店主に言った

店主は少し驚いたように僕をみて
ふんわりと笑った

「そうですよね」



帰り道…

僕たちはゆっくりと夜の公園を歩いた

街灯が、やわらかく僕たちを照らす


「ユノ、僕ね」

「うん?」

「死んでしまおうと思ってた」

「チャンミン…」

ユノが歩みを止めた

「なんか、僕は生きてても誰も喜ばないと思って」

僕はユノを振り返り微笑んだ

「でも死ななくてよかった」

「当たり前だ」

「今日はね、最後の晩餐なんだって
覚悟して電話したんだ」

「ホールに来たお前をみて、
正直、これはヤバイと思ったよ」

「そう…」

「奥さんがいるのにこんな状態って
だったら俺が…って、そう思った」

「ユノ…」

「実はさっきお前から連絡もらった時
俺も電話しようと思って、スマホの画面睨んでたんだよ」

「そうなんだ…」

「毎朝、起きるとさ
お前から夜中に電話がなかったかどうか
チェックしてた」

「まさか」

「ほんとだよ、もう習慣になってた」

「…………」

「俺、お前に繋がれた舟だからさ」

「…………」

「一緒にいよう、チャンミン
死にたいなんて、絶対に思わせない」


僕は死に物狂いで仕事して
孤独と戦っていたこの5年間

ユノは毎日僕を思っていてくれたなんて

僕は孤独じゃなかったんだ
生きている意味があったね

出会ってからずっと…
そしてこれからもきっと…


「ねぇユノ」

「ん?」

「店に入る前、僕がこのままいたいって言ったら」

「お前の腹が鳴る前?」

「それならって言ったでしょ?
あれなに?どうしようと思ったの?」

「お前を俺んちに連れて帰ろうと思ったんだよ」

「ユノの家?」

「でかいベッドがあるんだぜ
俺たちが大の字で寝ても大丈夫」

ユノが僕の肩を抱いて、ニッコリと笑う
かっこいいね、ほんとに。

「そう、それはいいね。
今、僕はビジネスホテルなんだけど
ベッドが小さくてね
2人でしっかりと抱き合ってないと落ちちゃうよ」

「やっぱり今夜はお前の部屋へ行こう」

「フフフ…そうする?」

「ああ」

「夜景もキレイなんだよ」

「じゃあ尚更だ」

僕らは真っ暗な夜の公園で明るく笑った


どうか、ユノはずっと僕に繋がれていて…
僕もあなたを離さないから

約束しよう

ずっと側にいるって




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繋がれた舟(12)

最後の晩餐〜〜チャンミンside〜〜


ユノを振り切って、ホールを後にした

まだドキドキしている

「好きだ」

ユノの言葉が耳の中でこだましている


こんなうれしい言葉はないのに

僕は惨めな今の自分が恥ずかしくて…
素直になれなかった

バカな僕…

どんな僕だって
ユノは受け入れてくれるだろうに

5年もたって再会するなら
誇らしげに会いたかったと思う。

そんな僕のくだらないプライド。

僕を憐れむように見るあのユノの目が
とても辛かった…

自分はなんて情けなくて、ダメなやつなんだろうか

帰り道、僕はやるせない気持ちになった。

なんでこんなことになってしまったのだろう

あのユノの輝きを思い出すと
自分のダメさ加減に泣きたくなる

まだ行く先の決まってない僕は
今夜はハニとのマンションに戻るしかなかった。

戻ってみると、タイミング悪く
ハニの両親が来ているところだった。

僕をみて、途端に険しい顔になるハニの父

「もう、ここは君が来るところではないだろう」

「はい」

「パパ、チャンミンはまだ住むところが決まってないんだから」

ハニが珍しく僕をかばう。

愛せずに苦しめたハニに助けられるなんて

僕の情けなさは底なしだな。

とことん、地に落ちた僕。

「荷物を…取りに来ただけですから」

僕は寝室から最低限の荷物を取ると
リビングに戻り、無言の責めをみせるキム一家の
視線に晒された。

「義父さん、今回は社員を全員引き取っていただき
感謝しております。」

「あんな優秀な社員ばかり揃っていたのに
こんな事態になるというのは
シム親子がどれだけ力不足だったか、ということだな。」

「そうですね、おっしゃる通りです」

「女ひとり幸せにできない男が
会社の社長なんて、そもそも無理な話だ」

「申し訳ありませんでした」

「あやまらないでよ」

ハニが涙ぐんでいる

「少しは愛してましたとか、反撃はないの?」

疎ましいだけの存在だったハニ。
夫がこんな男でかわいそうだった。

「それではこれで。
本当に無念です。申し訳ありませんでした」

僕は深々と頭をさげると、
5年住んだ豪華なタワーマンションを後にした。

ここでくつろげた記憶はなかったな

そんな風に思いながら、そびえ立つタワーをエントランスから見上げた

しばらくはどこかホテルにでも泊まろうか

安いビジネスホテルを探し、
最上階の小さな部屋に荷物を置いた。

ドアを開けるといきなりベッド、という
信じられない狭さだったけれど

窓からの夜景はとてもキレイだった。

僕はシャワーを浴びて、
窓から夜景をみていた。

ユノは…

この街のどこに今いるのだろうか

この宝石箱をひっくり返したような
ネオンの中でみんなに囲まれ笑っているのだろうか

考えるのはユノのことばかり

たくさんの人を不幸にしてしまった僕なのに
ユノのことを想う資格なんてないよね

夜景の中を車のヘッドホンライトが規則正しく動いていく。

僕が生きていることで、
誰か幸せになれるのだろうか。

みんなが不幸になっているじゃないか。

ユノももう僕を必要とはしていない。

僕は生きている価値があるのだろうか。

だんだんと心は荒んでいき
僕はこの世に必要なし、という結論に達した。

だからと言って、じゃあ死のうかとか
そんな具体的には何も考えられなかった

今は何も考えたくない


僕はスマホのアドレス帳からなんとはなしにユノの電話番号を表示させてみた。

あの頃、酒を飲んではユノに電話をしていた。

深夜だれもが寝静まる頃

その声が聞きたくて

ユノはいつも優しかった

「何かあったのか?」

「今、どこにいる?」

そして…

「チャンミン…戻ってこないか?」

ユノ…

夜景が涙で滲んでいく

真っ暗な部屋のガラス窓に
スマホの画面が明るく照らし

窓には僕の泣き顔が映し出されている

スマホを変えても消せずにいたこの番号

ユノは番号を変えてないと言ってたね

実は僕も変えてないんだ

電話しようと思えば、できる。

そんな状態でいることが
どれだけ僕の励みになったことか。

僕は自分でこれからどうしたらいいのか
何もわからないけど

もしかしたら、死にたくなってしまうのかもしれないけれど

すべて捨てていいと思えるのに
ユノだけが捨てられない。

最後に…最後にといっても何が最後なのかわからないね…

ユノとあのフレンチの店に行きたい

僕は泣きながら笑い、なぜか急にそう思った

僕は自分で認めたくなかいけれど
きっと死のうと思っているのだ

なぜ、そんなことを他人事にとらえてるのか
自分と自分の身体がもう離れてしまっているみたいだ。

僕はユノの番号をタップした


一呼吸置く前に、すぐ通話に切り替わって
思わずむせてしまいそうになった。

「チャンミン⁈」

「あ…」

「今どこにいる?」




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たくさんコメントをいただいているのに
お返事できずすみません。
お返事できないのに、コメント欄閉じずにすみません💦
コメントは実はソッコー読ませてもらっています。
ゆっくりとひとつひとつお返事させてください

繋がれた舟(11)


ーーー再会ーーードンへside


カーテンコールで再びユノが舞台へ上がる

今日も盛況だ。


一時はどうしようもないくらい
やる気をなくしてその輝きを失ったユノ

でも、1人で、たった1人で立ち上がり
その光を取り戻した。

何がヤツをそこまで押し上げたのだろう

もうあのチャンミンもいなかったのに。


劇団を離れて、
それでも芝居や舞台に未練があった俺たちを、
成功したユノは呼び寄せてくれた

芝居に関わる仕事をさせてくれて
そういうところはさすが、ユノだった

人知れず、バレエを習い、誰もいない公園で喉を開き、声を出す訓練などしていたらしい。

だから、この成功は当然なのだ

それでも今夜のユノはより輝いていた。

観客は我を忘れてユノの名前を呼び
その美しさと才能に歓喜した

いつまで続くのかと思われる拍手の中

それなのにユノは早々に舞台袖に戻ってきた
衣装を剥ぎ取りながら、急いで戻ってきた

「どした?ユノ」

「チャンミンがいた」

「は?」

ユノはすべての衣装を脱ぎ捨てると
Tシャツをバッグから取り出そうとしている

いてもたってもいられない様子だ。

「チャンミンが客席にいたっていうのか?」

「ああ、後ろの方の席に1人で座ってた」

ジーンズを履くユノ。

「お前…そんな…アハハ…
後ろの席が舞台からみえるわけないだろ」


着替え終わったユノがきっぱりと顔をあげた

その首すじにはまだタトゥーメイクがされたままだ
黒い唐草模様がその綺麗な首すじを這っている

「俺は間違わない
舞台からいつもアイツを探していたんだ」

「ユノ…」

「カーテンコールの前に出て行ったから
早く行って捕まえないと」

「捕まえるって、ユノ!」

ユノは楽屋出口からあっという間に出て行った

「お前!そっち行ったらファンに囲まれちまう」

俺と何人かのスタッフがユノを追いかけ
その腕を掴む

「頼む、ドンへ、行かせてくれ
見失いたくないんだ」

「行かせないとかじゃなくてさ」

「俺、チャンミンに謝らないと」

「だから!ユノ!」

楽屋からホールに抜ける通路では
突然現れたユノに、ファンが歓声をあげた

瞬く間に取り囲まれてしまうユノ

だから、止めたのに

ユノとファンの間に身体を入れるようにして
ロビーに出た俺の視界にまさかの

まさかの、あのチャンミンが飛び込んできた

スッと立つ細身の長身がこちらを振り返っている
驚いて目を見開き、ユノを凝視している

なんてことだ…

ユノは本当に見つけたんだ


俺は他のスタッフに声をかけて
ファンをユノから離した

「行ってこいよ、謝ってこい」

「わるいな」

ユノはゆっくりとチャンミンに近づいて行った



〜〜ユノside〜〜



俺は間違えたりしない

あの客席の隅にひっそりと座っているのは
絶対にチャンミンだ。

いつもの小さな劇場でも

大きなホールでも

俺はいつも客席を探していた

チャンミンの姿を探していた

いつか、観に来てくれる
俺の舞台を絶対に見に来てくれるはずだ

変な自信のようなものが俺にはあった。

雑誌やテレビでも
想う人がいることをいつも語った

繋がれた舟のように
俺の心がお前から離れられないことを語った

どこかで、この記事を目にするのではないか
このテレビを見ていてくれるのではないか

そんな事を期待した。


元に戻ろうなんて思ってない
もう新しい人生を歩むチャンミンの
生活を邪魔する気はない。

でも、その自由な人生と引き換えに
俺の居場所を守ってくれたのに

俺は…酷いことを言い放って別れてしまった

もう一度会って、謝りたい

そして、チャンミンを想う気持ちが
俺をここまでにしてくれたと、わかってほしかった。

今の俺があるのはチャンミンのおかげなんだ。

人生はそこまで自分の思い通りにはいかないけれど
人を想う気持ちは自由だ。

これからも俺は喜んでお前に繋がれて
この海を漂って生きていきたい


「チャンミン!」


だけど…

振り返ったチャンミンに俺は絶句した

5年前のあの可愛いチャンミンはそこにはいなかった。

あの愛らしい顔は鋭角に尖り
丸い頬は削げ落ち
元々の彫りの深さと相まって
表情のあちこちに暗い影を落としていた

大人っぽく、男っぽくなったといえば
たしかにそうだけれど

なにがあった?

俺の知らないチャンミンの5年間は想像しがたい

隣には美しいハニと可愛い赤ちゃんでもいるのだろうと、そんなふうに思っていた。


「チャンミン…観に来てくれたのか…」

「ええ、あなたが成功していると妻から聞いて
観てみようかな、と」

「妻」と聞いて俺は少しだけ安堵して微笑んだ

「そうか、ありがとう。
奥さんは一緒じゃないのか?」

一瞬の間を置いてチャンミンがぽつりと言う

「…はい」

「…………」

ふとチャンミンがニッコリと微笑んで俺を見た
笑顔にあの頃の面影があった

「良かったよ、さすがユノ」

「少し…話せないか?」

「時間がなくて」

「じゃあ、一言だけ」

「なに?」

「ごめんな、チャンミン。
お前が守ってくれてたなんて知らなくて
ひどいことを言った」

「…………」

「ずっと謝りたかったんだ」

「それ…いつのなんの話?」

スーツのポケットに手をいれたまま
天井を仰ぐチャンミン

「5年くらいたつか…」

「なんのことか、よくわからないけど
謝られるようなことはなにもないよ」

「幸せか?チャンミン、今、幸せなのか?」

「ユノ…」

「ん?」

「話はひとつだけでしょ?」

フッと寂しそうに微笑み、下を向き、
後ろ手にヒラヒラと手を振って去っていこうとするチャンミン

「なぁ、チャンミン」

歩き出すその後ろ姿に俺はついていき
食い下がった

「俺、お前があんまり幸せそうに見えないんだよ」

「…………」

「よければ俺が話聞くから」

「何にもないよ、ほんと」

「でもさ…」

「なんなの?一体」

チャンミンが歩みを止めて振り返った

顔色が真っ白であおざめている

「なんだっていうの?今更どうだっていいでしょう」

「好きなんだよ、チャンミン」

「は?」

「お前は迷惑だろうけど
俺はお前の事がずっと好きで」

「なにを言うの…」

「だから、幸せでいてくれないと困る」

「意味わかんない」

あきれ返ったチャンミンは髪をかきあげ
珍しいものを見るような目で俺を見た。

なんと言われても

次会えるかどうかさえわからないんだ

伝えたいことがたくさんあった

「電話番号変わってないから」

「…………」

「連絡待ってる」



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繋がれた舟(10)


ーーー5年の時を経てーーーチャンミンside


大理石のテーブルを
ハニの赤い爪がコツコツと苛立たしげに叩く


「計画したのは私じゃないわよ。両親だから。」

「そんなことは…もうどうでもいいよ。
サインする書類はこれで全部?」


僕の会社のすべての権利が、ハニの父親に移った。


「あのね、言っとくけど
乗っ取りじゃないから。父はこの会社を救ったの
あなたの社員を引き受けようっていうのよ」

いろいろと言い訳を並べるハニに
ため息がでる

「わかってるよ、そんなこと。
ハニのパパには感謝してるから」

「そう思ってないくせに」

「乗っ取りだとは思わないようにするよ」

「ヒドイ事言うのね。」

「前向きに言ってるつもりだけど」

僕は最後の離婚届にサインをした。

「チャンミン」

「なに?」

「離婚届はね、私が用意したのよ。
父はそこは任せるって言ってくれたけど」

「そうなの?なんで?」

「あなたは結局私を一度も愛さなかった」

「………」

「私も開放されたいの。愛されない苦しみから」

「……そう」

「放り出すみたいに思われるのもイヤだから。
なにか持っていく?父に言ってあげるわよ」

「何もいらないよ」

「じゃ、信託だけあなたの名義にしておくから」

「いらないよ、そんな必要ない。」

「だってあなた無一文じゃないの」

「いいよ、それで」

「そんな」

「今まで…そんなことに縛られてきたんだ」

僕はフフッと力なく笑った

「でも、惨めだね、男としてさ。
社員も守れず、会社も存続させられなかった」

「あなたの最大のミスは私を愛さなかったことよ」

ハニがキッと僕を見据える。

君はどこまで可哀想な人なんだ。

「ミスだなんてさ、ビジネスなの?愛することも」

「は?」

「人なんて、愛そうと思って愛せるものじゃないよ」

「なにそれ?自分の意志でしょう?」

「違うよ、ハニ。
愛しちゃいけないってわかってても
未来なんてなくても
気づくとその人のことばかり考えてる」

「………」

「そこに自分の意志はないよ
コントロールなんてできない」

「ユノさんのこと?」

「………」

「ちゃんと情報追ってる?
幸せそうよね、彼」

「………」

「ひとり芝居であんなに成功して。
あの時一緒だったスヨンさんはどうしてるのかしら」

「…結婚したんじゃないかな」

「それがね、独身なのよユノさん」

「………」

「驚いた?」

「関係ないよ…どっちだって」

「行ってきたらいいじゃないの
離婚しましたって」

「バカな…」

「今のあなたじゃ、会えないわよねぇ
こんなにやつれちゃって…
ユノさんびっくりしちゃうわ」

「………」

「あなたが…少しでも私を愛してくれたら
私、こんな風にならないように図ったわよ」

「悲しいね、ハニ」

「なにが?」

「何かと引き換えに愛されるなんて
そんな条件付きでうれしいの?
だったら僕は、ユノの劇場と引き換えに
あなたを愛したけど?」

「うそ!そんなのフリだけだったじゃない」

「何かと引き換えに愛するなんて、無理だったよ」

「ほんとサイテー」

「ああ、僕は最低だよ」

「早く私の前から消えて」

ハニの真っ赤な爪が怒りで震えている

「じゃあ、元気で…」

僕は席を立った

ハニはそれなりに辛い5年間だったのだろう

僕は甘かった

ユノを忘れて、ハニを愛せるなんて
そんな簡単にいくわけなかった。



ハニが言っていた

ユノは成功してる。。

この5年間は仕事に翻弄されて
ろくに世間の情報を知る時間も余裕もなかった。

特にユノの情報は避けた

ユノの事を気にしだしたら、

きっとまた電話してしまう
その声が聞きたくなってしまう


だからあえてユノの事を知ろうとはしなかった。

でも成功してると聞いて
ユノがどうしてるのか、気になった。

会いたいとは思わない。

今の僕を見られたくない、絶対に。

それでも消せないユノの電話番号

僕とユノを繋ぐ唯一の羅列した数字

いや、もう通じないだろう

僕は自分の情けなさに苦笑した。
まだ夢見てるのか

それでも一度気になりだすと
その思考はアタマの中をグルグルまわって
僕を悩ませた

こんな風になるのはきっと

今日この日、僕は解放されたからだろう
僕のやらなきゃならない事
上手くいかない状況
偽りの愛

それらを手放した

いや、追放されたのだから
僕の方が捨てられたのか

どっちでもいいけど。

そんなこと思ってるくせに
結局はユノのことが気になる

今日は僕の解放記念日だ。

記念にちょっとだけでいい
ユノの姿がみたい。一目でいいから。


恐る恐る劇場に行ってみた

ここに来たのは5年ぶり


劇場は以前のまま、残っていた。

マスクとメガネをつけて、変装したつもりだったけど
今日はここでは何もなさそうだ。

小さなポスターをよく見ると
今夜は大きなホールでやるとのこと。

ほんとに成功したんだね、ユノ。

それでもこの小さな劇場を今でも拠点としてるところが、とてもユノらしい。

僕はこんなに惨めになってしまったけど
ユノが夢を叶えていると思うと

僕は心が温かくなった。

この劇場は僕が守ったんだ。あなたのために。


とりあえずホールに行ってみる。

大きなポスターが何枚も貼られていた

メイクを施したユノの横顔に
漆黒の瞳の力強い視線

アイラインがその切れ上がった目尻を強調している。

1人で舞い、歌い、芝居をする

他の出演者はいない。

このスタイルでここまで成功したんだね。

僕はユノの舞台をどうしても観たくなってしまった。
いきなりで入れるだろうか。

運良く当日券を買うことができ
僕はホールに入り、後ろの席についた

たくさんの観客

大きな舞台

ああ、舞台の匂いっていいな

僕はあの頃、ユノ目当てで劇団に入ったけれど
案外、舞台や芝居自体も結構好きだったのかもしれない。

今更何を言っても遅いけど


題目は「繋がれた舟」

入り口で買ってきたパンフレットをパラパラとめくる

最後にユノのインタビューが載っていた

「恋する人の岸に心が舟のように繋がれていて
苦しむ男の姿がテーマです」

読み進めていくうちに
僕は最後の言葉に固まった

「これはユンホさんの実体験が元ですか?」

「そうです。
実は今でも苦しんでいて(笑)」

「ほほぅ、ファンの方の反応が気になります」

「毎公演この話をするのでみんな知ってますよ(笑)」
「有名なのですね。何かアクションは起こさないのですか?」

「起こしません。
でも些細なことですけどひとつだけ。
ずっと私は電話番号を変えていないのです」

「それは相手からの電話を待っているからですか?」

「そうです。今も、そしてこれからも
その電話を待ち続けることでしょう」

「まさに繋がれた舟ですね」

「そうです。まさにその通り」

「そんなにユンホさんの心を捕らえるのは
どんなに素敵な方なのか知りたいですね」

「純粋で一本気でまじめで
そしてとても可愛い人です。特にその笑顔は
今でも忘れられません」

僕はパタンとパンフレットを閉じて
胸に手を当てた


これは僕のこと?

まさかね…


そんなことないだろう

5年もたっている

あんなに綺麗なユノのことだ。
いろいろあって当然だ。

ザワザワした心とドキドキする鼓動がやっと
落ち着いた頃、

舞台の幕が開いた。



その美しさと流れるような舞に目を奪われた

哀しげな瞳がその苦しい思いを表し、
激しい舞がそのやり切れなさを表現する。

このユノの想いが僕に対するものだったら…
どんなに幸せだろうか。

あの頃のユノの優しい瞳

僕が愛おしくてたまらない、といったあの微笑み

その瞳は僕を欲する時にその色を変える

僕はその視線にとらわれると、心も身体も
動けなくなり甘い幸せに満たされる

あの狭いベッドで落ちないように
しっかりと抱き合って眠る夜

僕に朝食を作ってくれるあの広い背中を
僕は幸せな気持ちでベッドの中から見ていた

懐かしい…

涙がとめどなく僕の頬をいくつも伝い

次第にそれは嗚咽となり
僕の心と身体の奥から、忘れていた激しい感情が
押し出されてきた

どれだけ、あなたの声が聞きたかったか。

ハニとの結婚式の前夜

役員会議で激しい中傷を浴びた夜

どんどん下がる数字をつきつけられ
能力のなさをこれでもかと責められた雨の夜

そんな夜、あなたにどれほど縋りたかったか。

「どうした?チャンミン」

あの低く甘い声で僕をかまってほしくて

愛してる…僕は忘れていない

やっぱりあなたが好きだ

でも僕の記憶の最後のあなたは
怒りに満ちた固い表情

あんなに怒らせてしまった

盛大な拍手とスタンディングオベーションの中
僕は席を立ち、ホールのロビーへ出た。

激しく泣き続けたせいか
喉がカラカラだった

自販機で飲み物を買うと、フラフラとソファまで
歩き、ドサッと座り込んだ。

やたらと甘いフルーツのドリンクを飲み干して
少し落ち着いた気がした。

さてと、これから住まいを見つけて
仕事も探さないといけない

今日はユノの姿を見れてよかった。

ホッとため息をつくと、
ホールから観客が出てきて騒がしい

カーテンコールが終ったのだろう。

でも…

それにしても

入り口の方から黄色く短い悲鳴がいくつか聞こえている

なんだろう?

黒い人だかりが塊となって

ロビーを横切りこちらへやってくる

誰か有名人でも観に来てたのかな?

僕はソファから立ち上がり
ドリンクのペットボトルをゴミ箱に捨て

その黒い塊から逃れるように歩き出した

「チャンミン!」


その時、僕を呼ぶ低く乾いた声

あれほど呼んでほしかった僕の名前

僕の心臓は止まりそうになった
足が床に釘付けになったように動けない

僕はゆっくりと振り向いた



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