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プロフィール

百海

Author:百海
百海(ももみ)と申します。ホミンペンです

はじめまして

はじめまして。

ここに書かれているお話しはすべて百海のアタマの中の空想・妄想からなるお話です。

主人公はアジアのスター、韓国の人気男性デュオのお2人ですが

名前とイメージのみで実在の人物とはまったく関係ございません。

そんな2人が愛し合うという、BL小説です。

お2人のイメージが崩れる、BLがわからない、嫌い、許せないと嫌悪される方、
または18歳以下の方は閲覧されないようお願いします。

他にも同事務所のアーティスト様や韓国の俳優さん、女優さんのお名前が出てきますが
同じくご本人とはまったく関係ない空想・妄想の人物になります。

キャラ設定もお話しによってさまざまです。

ご自身が傷つきそうであれば、閲覧されないようお願いいたします。


世知辛い世の中、辛い現実、刺激のない毎日、
そんな日々をこの美しいお2人で癒されたい、と私と同じようにお考えの皆さま、
私、百海の妄想にお付き合いいただければ幸いです。

しつこいようですが、百海固有の空想・妄想のお話しです。
お話しの内容にクレームをつける、誹謗・中傷はご遠慮願います。

性描写が描かれる場合はパスワードによる閲覧となります.
パスワードに関するお問い合わせもご遠慮ください。





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あなたのとなり完〜続・夜香花




快晴の日


Changmin's Cafeのドアには可憐な花のリースが掲げられていた。

店の中も色とりどりの花で埋め尽くされている


クラブイーストのホスト、上客の女性たち
テミン、ミノ、シウォン、ヒチョル
カフェのバイトたち、そしてパティシエ


華やかに正装した面々が、楽しそうにカフェに入っていく

中で出迎えたのは  
お揃いのタキシードを着たユノとチャンミンだった


艶めくシルバーのシルク
襟元にはしっとりとした黒いビロード

シンプルなデザインは2人のスタイルの良さを引き立てる

行きつけの老舗テーラーは
2人の魅力を熟知していて

お揃いに見えても、襟幅や素材などを
微妙に変えていた


スピーチや余興などは何もなく
ただ、みんなで幸せに飲んで食べて喋る

2人は客との時間をたっぷりとることにして
心ゆくまで会話を楽しんだ

客の大半はこの国での
2人の結婚、ということに興味を示した

おそらく、それが可能なら自分も…
という客もいたのかもしれない


そして、女性客が最も気になるのは
ユノからのプロポーズ

チャンミンはユノの隣、という自分の立ち位置を不安なく確保したせいか

少し落ち着いて大人びて見えた


「ユノが僕をもっと束縛すると言ったんです」

チャンミンを取り囲む女性客は
興味深々だ

「それが結婚ってことです」

うっとりとしたため息と
ユノをよく知る客の堪える笑いが入り混じる


「束縛って、ユノらしいね」

そんな声も聞こえる


「だけど、チャンミン
結婚って、何をもって結婚なの?
法律的に」

「この店です」

「ここ?」

「この店はユノがオーナーで
僕が店長だったんですけど、共同経営者になりました」

まわりから感嘆の声とグラスを掲げる手が見える

「いろいろと手続きは大変だったんで
別れるとなったら、裁判が必要です。
簡単には別れられないんですよ」

チャンミンは嬉しそうに笑った

冷やかしと笑いと

それはこの店内をさらに幸せで満たす

「ちょっと失礼」

チャンミンが店内の隅に歩いていく

ヒチョルとシウォン、そして上客と歓談してるユノへと向かってチャンミンはまっすぐに歩いていった

そして、ユノの手をそっと押さえた

「ユノ、ブレッド、もう3個目だよ、それ」

ユノがびくっとして、3個目のパンを取ろうとした手を引っ込めた

ヒチョルがたしなめた

「おいおい、今日は祝いなんだから
いいじゃねぇか」

「ヒチョリヒョン、ユノはこのところの宴席続きで
2kg増えているんです。これ以上は後で取り返しが難しいです。売り上げに影響しますよ」

「おっと、それはダメだな
ユノ、もうパンはやめとけ」

ヒチョルは爆笑しそうなのをこらえながら
苦しそうに言った

バツの悪そうなユノが手持ち無沙汰で
まるで叱られた子供のような様子だった

チャンミンがユノに耳打ちした

「食欲が満たされない分は
僕が穴埋めしますから」

ユノがにやっと微笑んだ

「じゃ、もうパンは食べない」

「はい」

ニッコリと笑って、チャンミンは次のテーブルへ挨拶に行った

ヒチョルが面白くて仕方ないという顔で
ユノをからかう

「立場が逆転してるな
完全に飼われてるのはお前だ、ユノ」

ユノも可笑しそうに笑った

「俺の可愛いペットだったはずなのにな
最近手に負えない」

「お前が事務所でカフェのモニターチェックしてるの
チャンミンは知ってるのか」

ユノが真顔になった

「ヒチョル、まてよ」

「チャンミンがパティシエと仲良くしてないかどうか
ユノがすごい形相でチェックしてること」

「それ言ったら、お前、命ないからな」

ユノは右手をピストルの形にして
ヒチョルの脇腹をつついた

「あー可笑しい」


またユノの元にチャンミンがやってきた

「ユノ、そろそろ最後の挨拶を」

「わかった」


ユノはチャンミンの手を握って
小さくしつらえられた台に乗った

チャンミンは恥ずかしそうに
ユノの後ろに隠れた


「おきまりの挨拶ってやつをします」


ユノがマイク無しで話す

客たちの会話が自然と静かになった


「このパーティはみんなでひたすら
飲んで食べてしゃべる、がテーマなので
挨拶はシンプルにいきます」

おー!という歓声が聞こえる


「今日はほんとうにありがとうございます
これからもオレたちをよろしくお願いします」

店全体からわーっと歓声があがった

そしてみんなにシャンパンのグラスが配られた

ここにいる全員で乾杯の準備が整った


ユノはチャンミンの肩を抱き
片方の手でグラスを高く掲げた


「オレは、もうチャンミンにメロメロです!
骨抜きにされてます!こいつがいなくなったら
オレはなにするかわかりません!
だから、だれもチャンミンにチョッカイだすなよ!」

さらにすごい歓声だった


「乾杯!」


クールなユノ、すべてに完璧で冷静
そんなクラブイーストのユノが
大声で叫んだ


しっとりと花咲く夜香花のユノは
今日だけはどこにでもいる1人の青年だった

女たちをクールな言葉で翻弄し惑わせる
夜香花のユノは、今日はストレートに愛を叫んだ

無様に、大声で、気持ちそのままの言葉で


チャンミンは愛おしそうに
満面の笑みのユノを見つめる


美しく咲く夜香花の花弁の中には
素朴で真っ直ぐなユノがいた

ユノは爽やかに笑っていた


「一生オレのそばにいてくれ」


みんなの前で
ユノはチャンミンにくちづけた

チャンミンはびっくりしてユノを見つめて
そして、涙と共に顔を歪めた

両手で顔を覆って泣き出したチャンミンを
ユノが抱きしめた

みんなの前で


2人の仲睦まじい姿は
Changmin's Cafeにいるみんなを幸せにした


オレのとなりはチャンミン
僕のとなりはユノ

なにがあっても
一緒にいよう

この人生はお前のもの
僕の人生はあなたに捧げる


あなたのとなり


変わることのないこの居場所があるかぎり
なにがあっても幸せだと

そう思える




*****



とてもいい天気で
まるであの結婚式の日のようだ


チャンミンはレースのカーテンをそっと開けた

柔らかい陽の光が、模様の入ったガラス窓をキラキラと輝かせる

チャンミンは振り向いて
ベッドにいるユノに微笑みかけた


「今日はいい天気だよ
外に散歩に行く?」

ユノはゆっくりとベッドに起き上がって
優しくチャンミンを見ていた


陽の光を背に微笑むチャンミンは
とても綺麗だと思った

「チャンミン、きれいだ」


チャンミンはフフフと笑って
ゆっくりとユノのベッドへ歩いてきた

「こんな年寄りに何言ってるの」

「だって、本当にお前はきれいだから」

「ユノだっていつもカッコいいよ」

ユノは笑った

「オレはもう…」

その先をチャンミンが笑顔で遮った

「お医者様がね、言ってたよ
若い看護師たちがユノさんステキだって
ちょっとした騒ぎになってるんだって」

「それはありがたいね」

「ソウルで有名なホストだったんですって言ったら
なんか納得してた」

ユノは微笑んだ


「外はそんなに天気がいいのか」

「うん」

「よかったな
今日が天気がいいのはいいことだ」

「どうして」

「どうもこうもないけど」

「変なユノ
そろそろ薬を飲まないとだよ」

「ああ、そうだな」

チャンミンは薬と水を小さなトレイに乗せて
またベッドへ戻ってきた

「ユノ、ここへ引っ越してきてよかった」

「そうか?」

「緑が多くて、すごくいいよ」

「それはよかった
この別荘はチャンミンの物になるように
手続きしておいたから」

チャンミンは平静を装って
なんでもないように微笑んだ

「このままで全然いいのに」

ユノはそれに答えずに話を続けた

「腕時計は全部、教会に寄付したんだ
お前に譲れなくて悪いな」

「施設に?」

「神父さんに話したらさ
独り立ちする子供たちに、1本ずつ渡すってさ。
金にしてくれてよかったんだけど
ま、それもいいかなと思って」

「…そう」

チャンミンの顔が少しだけ曇る

「神父さん…ここに来たの?」

「ああ、お祈りもしてくれた」

「……」


チャンミンは吹っ切るようにして
トレイを片付けながらキッチンへ立った

「腕時計をあげるのは賛成だな
いい時計は何かの時に役に立つし
ステイタスにもなるしね
なにしろ限定のすごいやつばっかりだし」


「アハハハ、働いたからな」

「そうだね」

チャンミンはキッチンから
ベッドに座るユノの横顔を見つめた

その横顔の美しさは
夜の街でみんなを虜にした頃と
まったく変わっていない

「ユノは夜香花だったね、夜になるといい香りを放つ花」

「そういう仕事だったってだけだ」

「天性のものだよ」

「そうか?」

「うん」


ユノはひとつため息をついた

その表情がいつもより青いような…


「ユノ?」

「ん?」

「苦しいの?」

「大丈夫」

ユノは優しく微笑んだ

チャンミンが心配そうな顔をする


「チャンミン」

「なあに?」

「ここへおいで」


チャンミンはグラスやトレイをキッチンにそのままに
嬉しそうにユノのベッドへ行く


昔から
ユノに「おいで」と言われるのが大好きだ


チャンミンはニコニコして
ユノのベッドに腰掛けた


「オレを抱きしめてくれないか」

「……」

チャンミンがユノを見つめた


「お前に抱きしめてもらいたい」


「いいよ」


チャンミンはユノを優しく引き寄せて
その細くなった肩をそっと抱きしめた

痩せても、骨格がしっかりしてることには
変わりない

そんな広い肩


こうやって、ユノを抱きしめると
その温かさに泣きそうな気持ちになる


遠いあの日

物置で泣いていた自分を

引っ張り上げてくれたユノ


これからのことも
すべて手筈を整えてくれている

チャンミンはそれを知っていた


チャンミンの事は全部自分が面倒をみようとする
そんなユノはあの頃となんにも変わっていない


あなたはいつも僕のことを心配してくれているんだね


チャンミンは優しくユノの背中を撫でた

「ありがとう、チャンミン」

「いつだってこうやって抱きしめるよ」

「ありがとうな」


ユノを抱きしめながら
チャンミンは白い天井を仰いだ


お別れの時が近づいていることは
わかっている


涙は枯れ果てたはずだったのに
僕のからだには、まだ涙が残っていたのか


チャンミンは涙が溢れないように
天井を仰いだ


ユノはチャンミンの肩に顎をのせて
ボソリとつぶやく


「お前は強い子だ」

「何言ってるの」

「だから」

「……」

「オレは…もう、なにも心配してない」

「……」

「だけど…」

「……」

「ごめんな、チャンミン」

「謝るのは、無し…ね?」

「わかった、じゃあ…そうだな」


チャンミンがユノの背中を優しく撫でた


「ありがとう、チャンミン
オレのとなりにいてくれて…」


「僕は…まだまだずっと
あなたのとなりにいるからね」


「そうか…ありがとうな…」


いかないで


僕を…置いていかないで


チャンミンはぎゅっと瞳を閉じて
そんな言葉を心の奥底にしまった


そのかわり

チャンミンはユノの耳元でそっとささやいた


「ユノ、大好き」


そして、ユノを優しく抱きしめた


ゆっくりとユノがチャンミンへ身体を預けてくる


「オレが今…どんなに幸せか
お前に伝わるといいな…」


ゆっくりと瞳を閉じるユノは
幸せそうに微笑んでいた


その日は
まるでユノの笑顔のように爽やかな日だった








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こんばんは、百海です。

最後までお話を読んでいただいて
本当にありがとうございました。

今回は完全に
現実逃避型妄想劇場だったのですが
お付き合いいただき感謝しています。

現実のお2人の幸せを
心から願ってはいるのですが

こっちのほうが幸せでしょう?
という私の思いの表れです。

「夜香花」は私がはじめてネットにアップしたお話で
2人の究極のキャラ設定をしている思い入れのあるものです。

2人のお別れの時まで
どうしても描きたかったのです

「2人はその後幸せに暮らしました」で
お伽話として終わってよかったのですが

2人でいることが
どれだけ幸せなことだったのか描かせていただきました


世の中は
今まで経験したことのない様子を呈していますね

わたしたちを取り巻くいろいろな事が
大きく変わってしまいました

止まない雨はないと信じています

でも

辛い時は現実から思い切り逃げて、すべてを放り出して
違う世界に少し身を置くのもいいのだと思っています

私のお話がそんなお手伝いを少しでもできれば
こんなに嬉しいことはありません


どうか皆様、十分にご自愛いただいて
温かな冬をお過ごしください


百海

あなたのとなり19〜続・夜香花



「ほんとうに僕は…
なんて言ったらいいのか」

Changmin's Cafeが開店する前の
誰もいない店内

ソユルが店の入り口で項垂れて立ちすくんでいる

向かいに立つチャンミンが優しく微笑んでいる


「その時のこと、あんまり覚えてないから、僕」

「そんな…」


優しさで覚えてないなんて言ってくれるのだろうか

ソユルは思った


どうかしてた
あの夜はほんとうにどうかしてた

許される出来事ではなかったはずなのに

目の前のチャンミンは笑っている


「僕のしたことは…犯罪です」

「なにごともなかったんだから
もう気にしないで。だれも傷つかなかったし」

「だけど…」

うつむくソユルの足元には
小さなキャリーケース

チャンミンは優しくソユルを見つめた


「この街を…出るの?」

「え?あ、はい…」

「お金は…貯まったの?」

「弟を入学させるくらいは貯まりました
ユノさんのお客様が家を手配してくれて
母を引越しさせることもできました」

「そう、よかった
で、ソユルはどこへ行くの?」

「そこで母と弟と暮らします」

「仕事は?」

「はい、小さな商社に…
指名してくれたお客様に紹介されて」

チャンミンの顔が輝いた

「それはいいね!
僕たちが昼間の仕事を紹介されるなんて、なかなかないよ。ソユルの真面目さが買われたんだね」

「でも、ホストをしてたことは
内緒にするよう言われてます」

「アハハハ」

チャンミンは笑った


「僕、この間の事は咄嗟のことでよく覚えてないけど
ソユルの言葉は覚えてる」

「僕の?」

「うん、僕はなにもわかってないって
どんなに幸せなのかわかってないって」

「あ…
ほんとに…すみません」

「僕はそれで気付かされたよ
後になって、ずっとソユルのあの言葉が胸にある」

「僕も…チャンミンさんに気付かされました」

「ん?僕に?」

「チャンミンさん…甘えて頼ってるだけの…
そんなユノさんの恋人なんだって思ってたけど」

「ほとんど合ってるけどね」

チャンミンは照れた


「チャンミンさん、ユノさんを
命がけで、守ろうとした」


ソユルは真剣な瞳でチャンミンをまっすぐに見た

「チャンミンさん
あなたは強いです」


「いや、強くはないけど…」


「僕は…あなたに勝てない…
そうはっきりとわかりました」

「勝ち負けとか…そんな」

フフフとチャンミンは笑った


嬉しそうにソユルも微笑んだ


「僕は…ユノさんに…」

「ん?」

「恋をしていたと思っていましたけど…
きっとそれは尊敬だったんだと思います」

「あこがれ…みたいなもの?」

「はい」

「かっこいいもんね…ユノ」

うっとりとするチャンミンに
ソユルは微笑んだ

「最高にカッコいいですよね」

「へへへ」

なぜか自分が褒められたかのように
チャンミンは笑った

「ユノさんと幸せに過ごしてください」

「ありがとう」

「じゃあ、僕はこれで」

「うん、新しい仕事でも頑張ってね」

「はい」

ソユルはペコリと頭を下げた


Changmin's Cafeのドアを出ると

そこにはユノが立っていた


「ユノ…さん…」


いつものスーツではない
Tシャツにジーンズ、チェックのシャツというスタイル

優しい笑顔でソユルを見つめている


「あの…僕…」

「ソユル」

「はい」

「なにもなかったんだよ
なんでもない」

「ユノさん…」

ソユルの瞳に涙が滲んだ

「だけど…僕」

「罪の意識にやられそうか?」

「はい…」


とうとうソユルは泣き出した

「じゃあ、言い換える」

「はい?」

ソユルは顔を上げた


「罪の意識があるなら
オレの言う通りにしろ
それで今回のことは許す」

ソユルの目が見開かれる

「は、はい!
なんでもします!」

ソユルはまっすぐに背筋を伸ばした


「これからの人生を存分に楽しめ」


「は?」


「オレに悪いと思うなら
人生を楽しんで罪をつぐなえ」

「えっと…」

「もう、お前は十分によくやった
家族のために、よくやった」


「……」


ソユルの目尻から
綺麗な涙が一筋流れた


「これからは、お前が自分の人生を
自由に生きるんだ」


「いいんでしょうか…僕」

「また、他人のために
人生を我慢するような気持ちになったら
オレは許さないから」

「……」


「な?」


「はい!」


ユノは笑顔でソユルの肩を軽く叩くと
ソユルはもう一度深くお辞儀をしてから

ユノの元から去った


しばらくその後姿を見送って
今度はガラス越しに店内を見た


チャンミンが一生懸命にテーブルを拭いている
ひとつひとつ丁寧に

ユノはそんなチャンミンの姿をしばらく見つめていた


ユノの中にかすかに生まれていた夢を
どうしても形にしたくなってきた


チャンミンがユノに気付いて微笑んだ


ユノも微笑んで
店内へ入った



*****



2人とも休日という珍しい夜


金色に泡立つ液体を
ユノが上手にチャンミンのグラスに注ぐ

その手際はさすがだった

「きれいだね」

「最高級のシャンパンだよ」

「そうなの?なにかのお祝い?」

「ボジョレーのお詫び」

「あーいいのに」

「良くないさ、お前、かわいそうに」

「えーっと、じゃあ遠慮なくもらおうかな」

「どうぞ、好きなだけ飲んで」

チャンミンはきれいな黄金のシャンパンを
天井の照明に透かして眺めた

「きれいだねー」


そんなチャンミンを
ユノが眩しそうに眺める

「お前の方がうんときれいだ」

「え?」

「なんでもない」

「僕のほうがきれいだって?」

「なんだよ、聞いてたのか」

「フフフ…」


ユノが自分のグラスをサイドテーブルに置いた


「チャンミン」

「なに?」

ユノの顔が少し真剣だった


「今まで、いろいろと束縛してきたけれど」

「ん?」

「でもな、これがオレの愛し方なんだ」

チャンミンがうれしくなって微笑んだ

「うん、わかってるよ」


「だから、もっと束縛させてほしい」


「え?!」

「もっと束縛したいんだ。今以上に」

「なに?もっと束縛って?」

チャンミンは少し怯えた表情になった


そして

それは

唐突にユノの唇から発せられた



「結婚しよう」


「……」



チャンミンの瞳が
これ以上は丸くならないほどに
大きく丸く見開かれた


「……へ?」


あまりに突然なユノの言葉

驚いて何も言えないチャンミンに


ユノが片膝を立ててひざまずいた


そして真摯な瞳でチャンミンを見上げて
その手を取った


「オレと結婚してください
一生愛して、ずっと守るから」


「………」


「オレの隣に…ずっといてください」



まるで騎士のようで
今日のユノはメチャクチャかっこいいのに


もっとずっとその顔を見ていたいのに


涙で、だんだん滲んで見えなくなっちゃった



「プロポーズの…シャンパンだったの?」


ユノは何も答えずに
跪いてチャンミンの手を取ったまま
プロポーズの答えを待った


「えっと…結婚ってどうするのか
わからないけど…」

しばらく戸惑っていたチャンミンは
決心したように微笑んだ


ユノについていけば
いいのだ


チャンミンはユノの手をぎゅっと握りしめた


「ユノのプロポーズ
お受けします」


グズグズと涙の混じった声だった


「僕をずっと
ユノのとなりに置いてください」


「チャンミン…」


「なにもできないし
するつもりもないけど
ご飯はきちんと作ります」


「?」


「そして、そしてもしユノが危険な目にあったら
その時は僕は…命をかけてあなたを守ります」


その涙声をユノが優しくキスで塞いだ






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こんばんは、百海です。
明日は最終回となります。

あなたのとなり18〜続・夜香花



ユノとチャンミンとソユル

3人の身体が交差して
そのタイミングを見逃さなかったユノが
瞬時にソユルと向き合う形になった

ユノはソユルの耳元でささやいた

「お前に罪を犯させたくない」

何かに取り憑かれていたようなソユルの表情が
目覚めたようにハッとして、泣きそうなそれに変わった


「あ…」

「わかるよな、オレの言ってることが」


「…ユノ…さん…」



震えるソユルの手からカシャリと音がして
キラリと光るナイフが落ちた

ソユルの手首はユノにしっかりと押さえられていた


「あ…僕…」


まるで憑き物がとれたように
ソユルの瞳からポロポロと涙が落ちた


ユノは落ちたナイフを側溝に向けて思い切り蹴った

それは冷たい金属音と共に
側溝の中へ落ちた

ユノはソユルの手を押さえたまま振り返ると
チャンミンが倒れていた

倒れた拍子に気絶したのだろう

けれど頭を打っているといけない


「まったくもう…」

ユノは片手でスマホを取り出して
器用に電話をかけた


「テミン?イテウォンにいるか?
悪いけど、誰か呼んでほしいんだ」



ユノ…


チャンミンはまだ
この世とあの世の間をウロウロとしているような気分だった

ふわふわと身体が宙に浮く

もし

僕が

死なずに済んだとしたら

ユノと同じ傷痕が残るのかな

ユノとお揃いの傷痕…



「残らないよ」


その声はいきなり
耳にダイレクトに響いた


え?

ユノ?


深い湖の底から身体が浮き上がるように
チャンミンはゆっくりと現実の世界に戻ってきた


「…ユノ?…」

「……」

「僕、傷ないの?…なんで?…ん…」

「刺されてないからだ」

「へ?」

ぱちっと目が開いた

チャンミンの目の前に
優しいユノの顔があった

目覚めた場所は
2人で暮らすいつものマンションのベッドだった

「刺されて…ない?」


チャンミンはキョトンとした顔で
ユノを見つめた

その表情があまりに可愛くて

ユノは心で苦笑した


「大丈夫、気を失っただけだ」

「そんなはずないでしょう」

「じゃ、自分の腹をみてみろ」

チャンミンはシャツをめくって
自分の腹部を見たけれど

傷ひとつない綺麗な腹だった

「あ…」

「な?」

「そうだったんだ…
え?じゃあソユルは?」

「うん…テミンやミノがついてやってる
ちょっと気持ちがやられてるから」

「…そう」

「落ち着いたら、オレたちに会いに来るんじゃないか」

「謝りに?」

「ああ、罪悪感と後悔でいっぱいみたいだ」

「いいのにね」

「…そうだな」

フフとチャンミンは笑った


微笑むチャンミンを
ユノが愛おしそうに見つめた

「ユノ」

「ん?」

「僕、きちんと謝ってない」

「なんども、ごめんなさいって言ってたぞ」


チャンミンはバツの悪そうな顔になって
ベッドの上に正座をした

「ごめんなさい…
心配かけて…」

「うん」

「あんな店だなんて知らなくて」

「わかってる」

「本当はユノに謝らなきゃと思って
僕…昼間、カフェに行ったら…ユノがソユルといて」

「?」

ユノは少し考えているようだった

「ああ、工事の話ね」

「そうなの?わからないけど」

「ソユルが店に入る時、工事業者から声かけられたんだよ
トラブルあってさ、お前と連絡とれないって」

「あ…」

「オレが駆けつけたってわけ」

「そっか…僕のせいだったね」

「チャンミン」

「ん?」

「オレもお前に謝らないといけない」

「ユノが?」

「お前さ、ボジョレー
オレと2人で飲みたかったんだろ」

「え…あ…」

「ごめんな、せっかく楽しみにしてくれたのに」

「うん…いいよ、もう」

「そう?」

「世紀の大告白してくれたから」

チャンミンは少し意地悪そうに
ユノを睨んだ

「あ…」

ユノが慌てて視線を逸らした


「ねぇ、もう一回言って?」

「あの時、聞いてた?お前」

「え?」

「オレは2度と言わないって言ったんだぜ」

「……」

「だからよく聞けって言ったんだ
きちんと聞いてないお前が悪い」

「聞いてたよ」

「じゃわかるだろ
もう二度と言わないんだよ」

「なんだ、つまんない」

ふくれるチャンミンを
ユノが優しく見つめる


「帰ってきてくれて…よかったよ」

「ユノ…」

「オレのもとに帰ってきてくれて…よかった」

「うん」

「オレは…お前を束縛してる
自分でわかってた」

「そんな…」

「飼われてるだとか
そんな風に思われても仕方ない…」

「……」

「オレの気持ちはお前を縛ってるよな
しつこくて、束縛してて嫌がられても仕方ない」

チャンミンの大きな瞳に
涙が滲む

「これからは…少し考えるよ、オレ」

ユノは申し訳なさそうに
ため息をついた

「だけどさ、お前のことが
心配で…可愛くて仕方ないんだ
オレの腕の中で幸せそうにしてくれてるお前が
オレは…」


どこか遠くを見つめるように
ユノはポツリと語り、そして吹っ切ったように
顔をあげた

「こんなこと言うと
また飼うのなんのって言われるな」

「ユノ」

「ん?」

「束縛してほしいって言ったら?」

「え?なに言ってんの?」

ユノは笑った

「束縛されて、ユノの手のひらの上で幸せに過ごしたいって言ったらダメ?」

「だって…お前…」

「僕は、自分の幸せに気づかなかった」

「チャンミン…」

チャンミンは俯いて
恥ずかしそうに微笑んだ


「ソユルの…言う通り」

「……」

「僕はユノに束縛されて、飼われるのがいいな
それが僕の幸せなら、それでいいでしょう」

「……」

「ね?」

「変わってんな、お前
Mだったか…」

「Mだと思う?」

「おいおい、待てよチャンミン」

「フフフ…」

「だけど…チャンミン」

「ん?」

「オレを身を挺して守ってくれたな」

「あ…」


実は、チャンミンがちょっと足手纏いで、
もう少しで、ユノに刃物が刺さったかもしれなかったことは、黙っておいた


「命をかけて、オレを守ろうとしてくれて
ほんとうにありがとうな」

「うん…」

チャンミンの瞳から涙がこぼれた

「だって
もう、ユノが刺されたりするの、イヤだったんだもん」

「そっか」

ユノはチャンミンを抱き寄せて
優しくキスをした

やがてキスは深くなり
ユノの息が少し荒くなってきた

「なぁ、いいだろこのまま」

「僕は…今目覚めたばかりなのに…」

「気を失ってただけじゃないか」

「どうしようかな…」

「オレを焦らすなんて
お前も一人前だな」

ゆっくりと落ちてくるユノを受け止めながら
チャンミンは可笑しくなった

束縛とかなんとかいいながら

いつもユノは優しい

そのまま襲ってきてくれていいのに

必ず僕にお伺いをたてるユノ

大好きだよ





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あなたのとなり17〜続・夜香花



2人は裏の空き地に出た

チャンミンはずっと泣いている

怖かった思いとユノに会いたかった思いと
そして安心して一気に解けた緊張と


「ごめんなさい…
ごめんなさい…僕…」

「怖かっただろ
もう大丈夫だ」


「僕は…ほんとに…うう…」

泣いてよろけそうになるチャンミンを
ユノが支えた


「とりあえず泣くだけ泣け」

ユノは優しく笑った


チャンミンはしゃくりあげている

「ユノ、怒ってるでしょう?」

「……」


ユノはため息をついた
優しい表情が真剣なそれに変わる

「チャンミン」

「はい…」

チャンミンは怒られるのだと覚悟して
とりあえず泣くのをやめて
唇を引き結んだ



「もうオレ…二度と言わないから
よく聞いて」

「はい」


「オレさ…」

「……」


「お前がいないと生きていけない」


「……へ?」


チャンミンは
驚きすぎて変な声がでた

「今…なんて…」


「オレは…お前が側にいないと淋しくてダメだ」


チャンミンは大きく目を見開いてユノをみた

「う…そ…」

「うそじゃない
全部ほんとうの気持ちだ」


ユノは真剣な瞳でチャンミンを見つめている


「大好きでたまらないんだ…
俺から離れて欲しくない」

「ユノ…」


「情けないほど…俺はお前を愛してる」

「あ…」

「だから、ずっとオレといてくれ
オレを捨てて、どこかへ行ったりしないでくれ
頼むから」


チャンミンは両手で顔を覆って泣き出した

「ユノ…うう…」


なにか言いたいのに
まったく言葉にならないチャンミンだった


そして、ヨロヨロとユノに近づいた

そんなチャンミンの腕を引き寄せて
ユノはチャンミンを抱きしめた

この温かいユノの胸が
自分の居場所なのだと


チャンミンは気づいた


「ごめんなさい!
ごめんなさい!
ごめんなさい!」

また泣き始めたチャンミンを
ユノが宥めた

「もうそんなに泣かないで
オレも悪かったから」


「さっきね…」

眉を八の字に下げた泣き顔で
チャンミンはユノを見つめた

「すごく怖かった」

「うん」

「ずっとユノのこと、心で呼んでた」

ユノはふんわりと笑った

「オレを?」

「僕…偉そうなこと言って
結局…こういうとき…ユノの名前よんじゃってる」

「いいんだよ、それで」

「これからもきっと
怖い時はユノを呼ぶと思う…」

「ひとりにしないから、大丈夫
いつもそばにいるから」

「ほんと?」

「だから、危ないところへ
1人で行かないで」

「うん」



その時だった


「ユノさん…」


その声に
ユノが振り返った


「ソユル?」


路地の入り口に
繁華街のネオンを背に立っているのはソユル?

暗くてよくは見えないけれど


ソユルの手に

銀色に光るものが見えた


チャンミンは息をのんだ

「!」


悪夢が蘇る

あのクリスマスの日


あの時のユノの笑顔は青白く
そして引き攣っていた

あの時、ゆっくりと倒れたユノ

床に広がったユノの血


チャンミンはあの日の感覚が
一気に蘇ってきて震えた



ユノは落ち着いていた


「どうした、ソユル」

ソユルの視線は泳ぎながらチャンミンに定まった

ユノはゆっくりとさりげなく
チャンミンとソユルの間に移動して、
チャンミンを庇う形をとった


「チャンミンさん…あなた…
自分がどれだけ…いい思いをしてるか…知ってますか」


ソユルの声が震えている

「あなた…なんにもわかってない
すべてを手にしているのに…ワガママばっかり…」

ユノが眉間にシワを寄せる
ソユルの動きを一瞬でも見逃すまいと緊張が走る


「あなたは…ユノさんの隣にいて…そんな特等席の
なにが不満なんですか…」


ソユルはハラハラと涙をこぼして
そして微笑んだ


「チャンミンさん、あなたは…
ユノさんから愛されて…すべてを委ねて」


ユノがチャンミンを背に守りながら
少し後退りをした


「そんな幸せに…不満を抱くなんて…」

ソユルの顔が歪む


暗闇に目が慣れて
ユノはソユルの姿を把握してため息をついた


刃物なんて、初めて持つのだろう

そんな持ち方では
襲いかかってきたところで
怪我をするのはソユルだ


「僕のほうが…あなたなんかより…」

「ソユル」

ユノが静かに諭す


「チャンミンを傷つけたら
オレはお前を許さない」


挑発するようなユノのその言葉に
ソユルの顔がさらに歪んだ


「あなたはそんなふうに
こんなワガママな自分勝手な…」

「それでも、オレはチャンミンを守る」


ユノは微笑んだ

「命をかけてね」


ソユルは悔しそうな表情で
今度は刃物をユノに向けた

ユノは心で念じた


そのまま、オレに向かってこい、ソユル


その手首を簡単に押さえる自信が
ユノにはあった


人を刺すには
ソユルはあまりに素人だった


けれど、チャンミンはそれには気づかなかった

固唾を飲んで
ユノの背中で様子を見守っていたけれど

あの悪夢だけは
もう見たくない

その思いに囚われていた


血だらけのユノは
もう見たくない

強くそう思った


ユノが自分の側からいなくなってしまう…
あのトラウマが甦る

ユノが死んじゃったら…

そう震えたあの恐怖

チャンミンの身体がカタカタと震えだす


「ダメだ…」

小さな声をチャンミンは出した

「そんなの…ダメだ」


ソユルはギュッと目を瞑った
涙が頬をつたう

「あなたは…そうやって
やっぱりチャンミンさんを…庇うんだ…」

「……」


「僕じゃ…どうしてダメなんですかっ!」


ユノに向かって突進してきたソユル

冷静だったはずのユノは

脇から突然飛び出してきたチャンミンに
ふいをつかれて体勢を崩された

「だめっ!!!!」

チャンミンがソユルの前に躍り出た


「チャンミン!!!!」

ユノが叫んだ



*****


チャンミンはふんわりと
温かい風に乗って空を飛んでいるような気分だった


ユノ…

僕…

死んじゃうのかな


ユノは刺された時痛くないって言ってたけど
ほんとうだね

僕も痛くないよ

それより、あなたが助かって…よかった

僕は

あなたの側にいても
なにもできない役立たずだったけど

最後は…
ユノを守れたよね


褒めてくれる?

このまま
僕は死んじゃうかもしれないけれど

最後にあなたの言葉を聞けてよかった


情けないほど…愛してる

僕も…あなたを…心から…愛してるよ

情けないほどにね


このまま会えなかったら

すごく悲しいけれど


ユノ…

愛してる


ほんとうにごめんね

そして、ありがとう

ユノの役に立てて…僕はうれしい







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